ある日突然、髪にぽっかりと穴が開いたように毛が抜けてしまう円形脱毛症。鏡を見るたびに気になり、人目が気になって外出も億劫になるかもしれません。
しかし、円形脱毛症は決して珍しいものではなく、適切な対処を行うことで改善が期待できます。
この記事では、女性が円形脱毛症になった場合に知っておくべき初期対応や注意点、考えられる原因、そして医療機関での一般的な治療法について、分かりやすく解説します。
円形脱毛症とは何かを正しく理解する
円形脱毛症という言葉は聞いたことがあっても、実態について詳しく知る方は少ないかもしれません。まずは、円形脱毛症がどのような状態なのか、基本的な知識を身につけましょう。
円形脱毛症の基本的な特徴
円形脱毛症は、頭髪や体毛が円形または楕円形に抜ける症状を指します。
多くの場合、自覚症状がないまま突然発症し、コインほどの大きさの脱毛斑(毛が抜けた部分)が一つ、あるいは複数できるのが典型的な現れ方です。
脱毛斑の境界は比較的はっきりしており、周囲の毛は正常に見えることが多いです。かゆみや軽い痛みを感じることもありますが、無症状のケースも少なくありません。
年齢や性別を問わず誰にでも起こりうるもので、特に女性の場合、美容的な観点から大きな悩みとなることがあります。
女性に起こりやすい円形脱毛症のタイプ
円形脱毛症にはいくつかのタイプがあり、女性に見られる傾向としては、頭部全体に脱毛が広がる「全頭型」や、頭髪だけでなく眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける「汎発型」に進行するケースもあります。
最も一般的なのは、脱毛斑が1つできる「単発型」や複数できる「多発型」です。女性の場合、ホルモンバランスの変動や自己免疫疾患との関連も指摘されており、男性とは異なる配慮が必要になることもあります。
円形脱毛症の主な種類
種類 | 主な特徴 | 脱毛の範囲 |
---|---|---|
単発型 | 円形・楕円形の脱毛斑が1つできる | 頭部の一部 |
多発型 | 脱毛斑が2つ以上できる | 頭部の広範囲 |
蛇行状脱毛症 | 後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛する | 頭部の生え際 |
全頭型 | 頭部全体の毛がほぼ全て抜ける | 頭部全体 |
汎発型 | 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける | 全身 |
円形脱毛症と他の脱毛症との違い
女性の薄毛や抜け毛の原因は円形脱毛症だけではありません。女性型脱毛症(FAGA)は、主に頭頂部の分け目あたりから全体的に髪が薄くなるのが特徴で、進行が緩やかです。
また、牽引性脱毛症は、ポニーテールなど特定の髪型を長期間続けることで、毛根に負担がかかり生じる脱毛です。このような脱毛症と円形脱毛症は、原因や症状の現れ方、対処法が異なります。
円形脱毛症は、比較的境界がはっきりした脱毛斑が突然現れる点が、他の脱毛症との大きな違いです。
脱毛症の種類の簡単な比較
脱毛症の種類 | 主な原因(考えられるもの) | 脱毛の仕方 |
---|---|---|
円形脱毛症 | 自己免疫、ストレス、遺伝など | 円形・楕円形の脱毛斑が突然出現 |
女性型脱毛症(FAGA) | ホルモンバランス、加齢、遺伝など | 頭頂部を中心に全体的に薄くなる |
牽引性脱毛症 | 髪を強く引っ張る髪型など | 生え際や分け目などが薄くなる |
円形脱毛症の主な原因と考えられる要因
円形脱毛症がなぜ起こるのか、はっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複雑に関与していると考えられています。
自己免疫疾患としての側面
現在、円形脱毛症の最も有力な原因として考えられているのが「自己免疫疾患」です。私たちの体には、外部から侵入してきた細菌やウイルスなどを攻撃して体を守る「免疫」という仕組みがあります。
しかし、何らかの理由でこの免疫システムに異常が生じると、自分自身の正常な細胞や組織を異物とみなして攻撃してしまうことがあり、これが自己免疫疾患です。
円形脱毛症の場合、免疫細胞であるTリンパ球が、成長期の毛根を誤って攻撃してしまうことで、毛が抜け落ちると考えられています。
ストレスとの関連性
「ストレスで髪が抜ける」という話をよく耳にするように、精神的なストレスも円形脱毛症の発症や悪化に関与する要因の一つです。
過度なストレスは、自律神経のバランスを乱し、免疫系や内分泌系(ホルモンなど)の働きにも影響を与える可能性があり、自己免疫反応が起こされたり、増強されたりするのではないかと言われています。
ただし、ストレスが直接的な原因となるわけではなく、あくまで誘因の一つ、あるいは症状を悪化させる因子として捉えるのが適切です。
ストレスが体に与える影響の例
- 自律神経の乱れ
- 免疫機能の低下または過剰反応
- ホルモンバランスの変動
- 睡眠の質の低下
遺伝的要因の可能性
円形脱毛症の発症には、遺伝的な素因も関わっていると考えられていて、家族(親子や兄弟姉妹)に円形脱毛症の経験者がいる場合、本人も発症しやすい傾向があるという報告があります。
これは、特定の遺伝子が円形脱毛症の発症しやすさに関連している可能性を示唆しています。
ただし、遺伝的素因があるからといって必ず発症するわけではなく、あくまで「なりやすさ」に関わるものであり、他の要因(自己免疫の異常や環境因子など)が複合的に作用して発症に至ると考えられています。
その他の誘因となりうるもの
上記の他に、円形脱毛症の誘因となりうるものとして、以下のようなものが挙げられます。
円形脱毛症の誘因となりうるその他の要因
要因 | 関連性(考えられること) | 注意点 |
---|---|---|
アトピー素因 | アトピー性皮膚炎や気管支喘息などを持つ人は発症しやすい傾向 | アレルギー体質との関連が指摘される |
感染症 | 特定のウイルス感染などが免疫系に影響を与える可能性 | 因果関係は明確ではない |
疲労・睡眠不足 | 体の抵抗力を弱め、免疫バランスを崩す可能性 | 生活習慣の乱れは避けるべき |
出産・ホルモンバランスの変化 | 産後のホルモン変動が影響するケースも | 一時的な場合もあるが注意が必要 |
要因が単独で、あるいは複数組み合わさって円形脱毛症の発症に関与すると考えられていますが、個人差が大きく、同じ状況下でも発症する人としない人がいます。
円形脱毛症の初期症状と進行の仕方
円形脱毛症は、ある日突然、自覚症状なく始まることが多い疾患ですが、注意深く観察すると、いくつかの初期サインに気づくことができるかもしれません。
気づきやすい初期サイン
多くの場合、円形脱毛症の最も一般的な初期サインは、コイン大(10円玉から500円玉程度)の脱毛斑が頭部に突然現れることです。美容院で指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。
脱毛斑の皮膚は、炎症がなければ正常に見えることが多いですが、時に軽度の赤みや、むくみのような感じを伴うこともあります。
また、脱毛が始まる前に、その部分にかゆみやピリピリとした違和感、軽い痛みを感じる人もいて、シャンプー時やブラッシング時の抜け毛が急に増えたと感じることも、初期のサインである可能性があります。
円形脱毛症の初期に見られる可能性のあるサイン
- 突然の円形・楕円形の脱毛斑の出現
- 脱毛部分の軽いかゆみや違和感
- シャンプーやブラッシング時の抜け毛の増加
- 脱毛斑の周囲の毛が切れやすい、または抜けやすい
脱毛斑の形状と大きさの変化
初期にできた脱毛斑は、時間の経過とともに大きくなったり、数が増えたりすることがあります。
脱毛斑の形は、きれいな円形や楕円形をしていることが多いですが、複数の脱毛斑が融合して不規則な形になることも。
進行のスピードには個人差があり、数週間から数ヶ月かけてゆっくりと拡大する場合もあれば、急速に広がる場合もあります。
脱毛斑の辺縁部(境界部分)の毛を軽く引っ張ると簡単に抜ける場合は、まだ活動性が高く、脱毛が進行している可能性があります。
進行パターンと個人差
円形脱毛症の進行パターンは非常に多様で、単発型で自然に治癒する軽症例もあれば、多発型から全頭型、さらには汎発型へと進行し、治療が長期にわたる重症例もあります。
一度治癒しても、しばらくして再発を繰り返すことも珍しくありません。
一般的に、発症年齢が低い場合、脱毛範囲が広い場合、アトピー素因がある場合などは、治りにくかったり、再発しやすかったりする傾向があると言われています。
爪の異常など、その他の症状
円形脱毛症の患者さんの中には、爪に変化が現れることがあります。
爪の表面に小さな点状のへこみ(点状陥凹)ができたり、爪がもろくなったり、横方向に溝ができたり、爪が薄くなったり厚くなったりするなどの症状です。
爪の変化は、円形脱毛症の活動性や重症度と関連があるとも言われていますが、必ずしも全ての人に見られるわけではありません。
爪に見られる可能性のある変化
爪の変化 | どのような状態か |
---|---|
点状陥凹 | 爪の表面に針で刺したような小さなへこみができる |
爪甲横溝 | 爪に横方向の溝ができる |
爪甲の粗造 | 爪の表面がザラザラしたり、もろくなったりする |
円形脱毛症になった場合の初期対応
もし円形脱毛症と思われる症状に気づいたら、どのように対応すればよいのでしょうか。
まず冷静に状況を把握する
突然の脱毛に気づくと、誰でも驚き、不安になるものです。まず脱毛斑の大きさ、数、場所、他に症状(かゆみ、痛みなど)がないかなどを観察します。
スマートフォンなどで写真を撮っておくと、後で医師に説明する際や、経過を比較する際に役立ちます。
専門医(皮膚科)の受診を検討する
円形脱毛症の診断と治療は、皮膚科の専門医が行うので、症状に気づいたら、できるだけ早めに皮膚科を受診してください。
医師は、脱毛の状態を詳しく診察し、必要に応じて検査を行い、円形脱毛症かどうか、またそのタイプや重症度を診断し、個々の状態に合わせた治療法や日常生活でのアドバイスを提案してくれます。
受診の際は、いつから症状に気づいたか、他に気になる症状はないか、既往歴や服用中の薬などを正確に伝えることが大切です。
医療機関を受診するメリット
- 正確な診断を受けられる
- 個々の状態に合った治療法を提案してもらえる
- 専門的なアドバイスを受けられる
- 精神的な不安を軽減できる
日常生活での注意点
医療機関を受診するまでの間や、治療中にも心がけたい日常生活での注意点があり、まず、脱毛部分をできるだけ刺激しないようにしましょう。強くこすったり、頻繁に触ったりするのは避けます。
シャンプーは低刺激性のものを選び、優しく洗髪することを心がけてください。また、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動など、規則正しい生活を送ることは、免疫機能を正常に保つ上で重要です。
ストレスを溜め込まないように、自分なりのリフレッシュ方法を見つけることも大切です。
日常生活で心がけたいこと
項目 | 具体的な内容 | 理由 |
---|---|---|
頭皮ケア | 低刺激シャンプー、優しく洗髪、患部を強くこすらない | 頭皮への刺激を最小限にするため |
生活習慣 | バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動 | 免疫機能の正常化、体調管理のため |
ストレス管理 | 趣味、リラックスできる時間を持つ、相談できる相手を見つける | 精神的な安定を保つため |
医療機関で行う検査と診断
円形脱毛症の疑いで皮膚科を受診すると、医師はまず詳しい問診と視診を行い、診断を確定したり、他の病気との鑑別をしたりするために、いくつかの検査を行います。
問診で伝えるべきこと
正確な診断のためには、医師にできるだけ詳しい情報を提供することが大切で、問診では、以下のようなことを尋ねられるのが一般的です。
問診で医師に伝えるべき主な情報
情報カテゴリ | 具体的な内容例 |
---|---|
症状について | いつから脱毛に気づいたか、最初の脱毛斑の場所や大きさ、その後の変化、かゆみや痛みなどの自覚症状の有無 |
既往歴・家族歴 | これまでに罹ったことのある病気、アレルギーの有無、家族に円形脱毛症や自己免疫疾患の人がいるか |
生活習慣・ストレス | 最近の生活状況の変化、睡眠時間、食事内容、ストレスを感じる出来事の有無 |
使用中の薬剤など | 服用中の薬、使用中の育毛剤やサプリメントなど |
情報は、医師が診断を下し、治療方針を決定する上で重要な手がかりとなります。
視診とダーモスコピー検査
問診に続いて、医師は脱毛部分の状態を直接目で見て確認する「視診」を行い、脱毛斑の数、大きさ、形状、分布、頭皮の色や状態、毛髪の太さや密度などを詳細に観察します。
この際、「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を用いた検査を行うこともあります。
ダーモスコピー検査では、脱毛斑の毛穴の状態や、残っている毛髪の形状(例えば、感嘆符毛と呼ばれる、毛根側が細くなっている特徴的な毛の有無など)、新生毛の有無などをより詳しく観察できます。
血液検査で調べる項目
円形脱毛症は自己免疫疾患との関連が深いため、また、他の病気が隠れていないかを確認するために、血液検査を行うことがあります。
甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患を合併している場合があるため、スクリーニング検査が含まれることがあり、また、貧血や栄養状態なども毛髪の健康に影響を与えるため、チェックすることがあります。
血液検査で確認することがある主な項目
検査項目群 | 具体的な項目例 | 調べる目的 |
---|---|---|
一般的な項目 | 赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビンなど | 貧血の有無、全身状態の把握 |
自己抗体 | 抗核抗体、リウマトイド因子など | 膠原病などの自己免疫疾患のスクリーニング |
甲状腺機能 | TSH、FT3、FT4、抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体など | 甲状腺機能亢進症や低下症、橋本病などのスクリーニング |
栄養状態など | 鉄、亜鉛、ビタミン類など | 毛髪の成長に必要な栄養素の不足がないか |
全ての患者さんに検査を行うわけではなく、医師が症状や問診内容から必要と判断した場合に行います。
皮膚生検が必要な場合
多くの場合、円形脱毛症の診断は問診、視診、ダーモスコピー検査で可能ですが、診断が難しい場合や、他の皮膚疾患との鑑別が困難な場合には、皮膚生検を行うことがあります。
皮膚生検は、局所麻酔をした上で、脱毛部分の皮膚を数ミリ程度の小さな円筒状の器具で採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。
皮膚生検は多少の痛みを伴い、小さな傷跡が残る可能性がありますが、診断確定のために重要な検査ですが、実施するかどうかは、医師が慎重に判断します。
円形脱毛症の一般的な治療法
円形脱毛症の治療は、症状の範囲や重症度、年齢、合併症の有無などを考慮して、医師が個々の患者さんに合った方法を選択します。
残念ながら、確実に誰にでも効く特効薬というものはまだありませんが、様々な治療法が試みられており、多くの場合で改善が期待できます。
治療法の選択肢と医師との相談
円形脱毛症の治療法には、外用薬(塗り薬)、局所注射、内服薬(飲み薬)、紫外線療法、局所免疫療法など、いくつかの選択肢があります。
どの治療法を選択するかは、脱毛の範囲(単発型か多発型か、全頭型かなど)、脱毛の勢い(急速に進行しているか、落ち着いているか)、患者さんの年齢、基礎疾患の有無、そして患者さん自身の希望などを総合的に考慮して決定します。
治療を開始する前に、医師からそれぞれの治療法の効果や期待できること、副作用の可能性、治療期間の目安などについて十分に説明を受け、よく理解した上で治療に臨むことが大切です。
ステロイド外用薬・局所注射
ステロイドには、免疫反応を抑えたり、炎症を鎮めたりする作用があります。円形脱毛症の原因の一つである自己免疫反応を抑制する目的で、ステロイドの外用薬(塗り薬)や局所注射が用いられます。
ステロイド外用薬
比較的軽症の単発型や多発型の円形脱毛症に対して、まず試みられることが多い治療法です。ステロイドの塗り薬を脱毛斑に直接塗布します。
副作用としては、長期に使用した場合に皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張したり、ニキビのようなものができたりすることがありますが、医師の指示通り用すれば、リスクは最小限に抑えられます。
ステロイド局所注射
脱毛斑が限局している場合や、外用薬だけでは効果が不十分な場合に検討される治療法です。
ステロイド薬を脱毛斑の皮内に直接注射し、外用薬よりも薬剤が直接毛根周囲に届くため、より高い効果が期待できることがあります。数週間から1ヶ月程度の間隔で、数回行うのが一般的です。
副作用としては、注射部位の痛みや、皮膚の萎縮(へこみ)、色素沈着などが起こることがありますが、一時的なものがほとんどです。広範囲の脱毛には向きません。
局所免疫療法
局所免疫療法は、比較的広範囲な脱毛や、他の治療法で効果が見られなかった場合に検討される治療法の一つです。
SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)といった特殊な化学物質を脱毛斑に塗布し、人為的に軽いかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせることで、毛根を攻撃している免疫細胞の働きを別の方向へ向けさせ、発毛を促すと考えられています。
治療の初期には、まず感作(体がその化学物質に反応するようにする)を行い、その後、薄い濃度から徐々に濃度を上げて、軽い赤みやかゆみが出る程度の反応を維持するように調整しながら塗布を続けます。
効果が現れるまでに数ヶ月以上かかることが多く、根気強い治療が必要です。副作用としては、強いかゆみや湿疹、リンパ節の腫れなどが起こることがあります。
その他の治療法(紫外線療法など)
上記の治療法の他に、以下のような治療法が選択されることもあります。
その他の治療法
治療法 | 概要 | 対象となる場合(例) |
---|---|---|
紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法) | 特定の波長の紫外線を脱毛部に照射し、免疫反応を調整する | 広範囲の脱毛、他の治療で効果が乏しい場合 |
内服薬(ステロイド、免疫抑制剤など) | 急速に進行する重症例や、全身性の自己免疫疾患を伴う場合など | 医師が慎重に判断し、副作用に注意しながら使用 |
冷却療法(液体窒素) | 液体窒素を脱毛部に軽く接触させ、刺激を与える | 軽症例や小範囲の脱毛 |
円形脱毛症との向き合い方と日常生活の工夫
円形脱毛症の治療には時間がかかることもあり、その間、脱毛斑を抱えながら生活していくことになり、特に女性にとって、髪の悩みは精神的な負担も大きいため、上手に付き合っていくための工夫が大切です。
髪型やウィッグの活用
脱毛斑が小さい場合や数が少ない場合は、髪型を工夫することである程度カバーできることがあります。
分け目を変えたり、ボリュームが出るようにスタイリングしたり、ヘアアクセサリーを使ったりするのも一つの方法です。
しかし、脱毛範囲が広い場合や、髪型だけでは隠しきれない場合は、医療用ウィッグや部分ウィッグの活用も有効な選択肢です。
バランスの取れた食事と生活習慣
髪の健康を保つためには、バランスの取れた食事が基本で、特定の食品だけを摂取すれば円形脱毛症が治るというわけではありませんが、髪の成長に必要な栄養素をしっかりと摂ることは大切です。
タンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など)、ビタミン類(特にビタミンB群、C、E)、ミネラル(特に亜鉛、鉄分)などを意識して摂取しましょう。
髪の健康に役立つ栄養素と主な食品
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)を作る | 肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける、免疫機能の維持 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
鉄分 | 酸素を全身に運ぶ、不足すると抜け毛の原因にも | レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじき |
ビタミンB群 | 頭皮環境を整える、代謝を助ける | 豚肉、レバー、魚介類、穀類、豆類 |
また、十分な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠をとることも重要で、睡眠中に成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や再生が促されます。適度な運動は血行を促進し、ストレス解消にもつながります。
喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を悪くする可能性があるため、控えることが望ましいです。
ストレスマネジメントの継続
ストレスは円形脱毛症の誘因や悪化因子の一つと考えられています。日常生活の中でストレスを完全になくすことは難しいかもしれませんが、上手にコントロールする方法を見つけることは非常に大切です。
ストレスマネジメントの方法
- 趣味や好きなことに没頭する時間を作る(読書、音楽鑑賞、映画、手芸など)
- 適度な運動(ウォーキング、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど)
- リラクゼーション(深呼吸、瞑想、アロマテラピー、入浴など)
- 自然に触れる(散歩、森林浴、ガーデニングなど)
- 親しい友人や家族と話す
何がストレスの原因になっているかを把握し、可能であればその原因から距離を置いたり、解決策を考えたりすることも必要です。
よくある質問
円形脱毛症に関して、多くの方が抱く疑問や不安について、Q&A形式でお答えします。ただし、具体的なことについては、必ず専門の医師にご相談ください。
- Q円形脱毛症は治りますか?
- A
多くの場合、円形脱毛症は治療によって改善が期待でき、特に脱毛斑が1つか2つ程度の軽症(単発型や数個の多発型)であれば、自然に治癒することも少なくありません。
治療期間や治り方には個人差が大きく、数ヶ月で治る人もいれば、1年以上かかる人、あるいは再発を繰り返す人もいます。
重症度や発症年齢、アトピー素因の有無などが経過に影響すると言われています。
- Q治療期間はどのくらいですか?
- A
治療期間は、円形脱毛症のタイプ、重症度、治療法、そして個人の反応によって大きく異なります。
軽症の場合は数ヶ月程度で改善が見られることもありますが、広範囲に及ぶ場合や重症例では、治療が1年以上に及ぶこともあります。
- Q治療費はどのくらいかかりますか?
- A
円形脱毛症の治療は、基本的に健康保険が適用され、自己負担額は通常、医療費全体の1割から3割(年齢や所得によって異なります)となります。
治療費は、行う検査の種類、処方される薬剤、治療法(例えば局所免疫療法や紫外線療法など特殊な治療を行うか)、通院頻度などによって変わってきます。
- Q再発の可能性はありますか?
- A
残念ながら、円形脱毛症は再発することがある疾患です。一度治癒しても、数ヶ月後あるいは数年後に再び脱毛が始まることがあります。
再発率は正確には分かっていませんが、約半数の人が再発を経験するという報告もあります。
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