円形脱毛症は、ある日突然、髪の毛が円形や楕円形に抜けてしまう症状で、多くの女性にとって大きな悩みの一つです。

原因は一つではなく、自己免疫疾患やストレス、遺伝的要因などが複雑に関与していると考えられています。

この記事では、特に女性の円形脱毛症の診断や原因究明の一助となる血液検査に焦点を当て、どのような検査項目があり、それぞれの基準値が何を意味するのかを詳しく解説します。

目次

円形脱毛症とは何か 理解を深める

円形脱毛症は、頭部やその他の体毛が、境界明瞭な円形または楕円形に抜け落ちる疾患です。性別や年齢を問わず発症する可能性がありますが、特に若い世代に見られることが多い傾向があります。

円形脱毛症の基本的な特徴

円形脱毛症の最も顕著な特徴は、コインのような形に毛髪が抜け落ちる点です。脱毛斑は単発のこともあれば、複数箇所に同時に、あるいは次々と発生することもあります。

脱毛の範囲も、小さなものから頭部全体に広がるものまで様々で、多くの場合、脱毛した部分の皮膚は正常に見えますが、時に軽度の赤みやむくみを伴うことがあります。

毛髪の再生は自然に起こることも多いですが、症状が進行したり、広範囲に及んだりすると、回復までに時間がかかることや、再発を繰り返すケースも見られます。

脱毛斑の辺縁部では、毛髪が切れやすくなっていたり、感嘆符のような形(毛根部が細く、毛先が太い)の毛が見られたりすることがあり、活動性の高い時期に見られる特徴的な所見の一つです。

また、爪にも点状のへこみや横溝などの変化が現れることがあり、円形脱毛症の一つのサインとなることがあります。

女性に多い円形脱毛症のタイプ

女性に見られる円形脱毛症のタイプとしては、頭頂部や側頭部に単発または多発する一般的な円形脱毛症のほか、後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛する蛇行状脱毛症(Sisaipho型)なども見られます。

また、女性ホルモンの変動が影響する可能性も指摘されており、妊娠・出産後や更年期などに円形脱毛症を発症したり、症状が変化したりするケースもあります。

ストレスを感じやすい生活環境や、過度なダイエットによる栄養不足なども、女性の円形脱毛症の誘因や増悪因子です。

円形脱毛症の原因として考えられること

円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、現在最も有力視されているのは「自己免疫疾患説」です。

何らかの理由で免疫系が自身の毛包組織を異物と誤認し、攻撃してしまうことで毛髪の成長が阻害され、脱毛が起きるという考え方で、毛包を標的とするTリンパ球の異常な活動が関与していると考えられています。

その他、遺伝的素因も関与しているとされ、家族内に円形脱毛症の方がいる場合、発症リスクがやや高いです。

また、精神的ストレス、肉体的疲労、感染症、アトピー素因(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などを持つ体質)なども、発症の引き金になったり、症状を悪化させたりする要因になります。

なぜ血液検査が円形脱毛症の診断に役立つのか

円形脱毛症の診断は、主に視診や問診によって行われますが、血液検査は、背景にある可能性のある全身性の疾患や体質的な要因を探る上で重要な役割を果たします。

特に、自己免疫疾患の合併や、甲状腺機能の異常、栄養状態の偏りなどが疑われる場合に、血液検査の結果は有用な情報です。

血液検査でわかることの概要

血液検査では、血液中の様々な成分を分析することで、体の健康状態に関する多くの情報を得ることができます。

血液検査の評価項目

  • 甲状腺機能の異常の有無
  • 自己免疫疾患の合併の可能性
  • 鉄欠乏や亜鉛欠乏などの栄養状態
  • 炎症反応の有無や程度
  • その他、全身的な健康状態の把握

円形脱毛症と関連する可能性のある体の状態

円形脱毛症の患者さんの中には、他の自己免疫疾患を合併しているケースが多く、甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病など)、尋常性白斑、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、1型糖尿病などが挙げられます。

疾患が背景にある場合、円形脱毛症の症状に影響を与えたり、治療法に配慮が必要です。

また、鉄欠乏性貧血や亜鉛欠乏症といった栄養障害も、毛髪の健康に影響を与えるため、円形脱毛症の誘因や増悪因子となる可能性があります。特に女性は月経により鉄分を失いやすいため、注意してください。

合併しやすい自己免疫疾患

疾患名簡単な説明円形脱毛症との関連
甲状腺疾患(橋本病など)甲状腺ホルモンの分泌異常合併頻度が比較的高い
尋常性白斑皮膚の色素細胞が減少・消失する疾患自己免疫的な機序の共通性
関節リウマチ関節に炎症が起こる疾患免疫系の異常が関与

血液検査を行うタイミングと準備

血液検査を行うタイミングは、医師が患者さんの症状や問診内容から必要と判断した場合です。初診時に行われることもあれば、治療経過中に追加で行われることもあります。

脱毛の範囲が広い、急速に進行している、再発を繰り返している、他の自己免疫疾患の症状が見られる、といった場合には、血液検査が推奨されることが多いです。

女性の円形脱毛症で特に注目したい血液検査項目

女性の円形脱毛症の診療において、原因の探索や合併症の確認のために行われる血液検査には、いくつかの重要な項目があります。

甲状腺機能に関連する項目

甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌していて、甲状腺機能の異常は、円形脱毛症を含む様々な脱毛症の原因となることが知られています。

女性は甲状腺疾患にかかりやすいため、注意が必要です。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)

TSHは、脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺に甲状腺ホルモンを作るよう指令を出す役割を担っています。

甲状腺の機能が低下すると、TSHの値は上昇し、逆に甲状腺機能が亢進するとTSHの値は低下する傾向があり、甲状腺機能のスクリーニング検査として重要です。

FT3(遊離トリヨードサイロニン)

FT3は、甲状腺ホルモンの一種で、実際に細胞に作用する活性型のホルモンです。

血液中のタンパク質と結合していない遊離型(フリー)のT3を測定し、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では高値に、甲状腺機能低下症(橋本病など)では低値になります。

FT4(遊離サイロキシン)

FT4も甲状腺ホルモンの一種で、FT3と同様に活性型のホルモンで。血液中の遊離型のT4を測定します。甲状腺機能の状態を評価するために、TSHやFT3と合わせて測定されることが多い項目です。

甲状腺機能亢進症で高値、甲状腺機能低下症で低値を示す傾向があります。

甲状腺自己抗体

橋本病(慢性甲状腺炎)やバセドウ病といった自己免疫性の甲状腺疾患が疑われる場合には、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体、TSH受容体抗体など)の検査が行われることもあります。

抗体が陽性の場合、自己免疫による甲状腺機能異常の可能性が高いです。

自己免疫疾患に関連する項目

円形脱毛症自体が自己免疫的な機序が関与していると考えられていますが、他の自己免疫疾患を合併していることもあります。そのため、関連する自己免疫マーカーを調べます。

抗核抗体(ANA)

抗核抗体は、自己の細胞核の成分に対する抗体の総称で、全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症、シェーグレン症候群といった膠原病(自己免疫疾患の一群)で陽性になることが多い検査項目です。

ただし、健康な人でも低い値で陽性になることがあるため、結果の解釈には専門的な判断が必要です。円形脱毛症の患者さんで陽性率がやや高いという報告もあります。

リウマトイド因子(RF)

リウマトイド因子は、関節リウマチの診断に用いられる自己抗体の一つで、関節リウマチ患者さんの約70~80%で陽性になると言われています。

円形脱毛症と関節リウマチの直接的な関連は強くありませんが、自己免疫疾患のスクリーニングの一環です。

栄養状態に関連する項目

毛髪の成長には、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、様々な栄養素が必要で、栄養素が不足すると、毛髪の質が悪くなったり、抜け毛が増えたりする可能性があります。

特に女性は、月経やダイエット、妊娠・出産などで特定の栄養素が不足しやすいため、注意が必要です。

フェリチン(貯蔵鉄)

フェリチンは、体内に貯蔵されている鉄の量を反映するタンパク質です。

鉄は赤血球のヘモグロビンの材料となるだけでなく、細胞のエネルギー産生やコラーゲンの合成などにも関与しており、毛髪の成長にも重要なミネラルです。

フェリチンの値が低い場合は、潜在的な鉄欠乏状態(かくれ貧血)を示唆し、これが抜け毛の原因の一つとなることがあります。

亜鉛

亜鉛は、タンパク質の合成や細胞分裂、免疫機能の維持などに不可欠なミネラルです。

毛髪の主成分であるケラチンタンパク質の合成にも関与しており、亜鉛が不足すると毛髪の成長が妨げられ、脱毛を起こすことがあります。

味覚障害や皮膚炎なども亜鉛欠乏のサインとなることがあり、偏った食生活や過度なダイエット、一部の薬剤の服用などが亜鉛欠乏の原因になります。

ビタミンD

ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けることで骨の健康を維持するだけでなく、免疫機能の調節にも関与しているビタミンです。

ビタミンD受容体は毛包にも存在し、毛周期(毛の生え変わりのサイクル)に関与している可能性が示唆されています。

ビタミンDの不足が円形脱毛症の発症や重症度に関連するという研究報告もあり、血中ビタミンD濃度を測定することがあります。

その他の重要な検査項目

上記以外にも、全身状態や炎症の有無などを把握するために、いくつかの検査項目が参考にされます。

CRP(C反応性タンパク)

CRPは、体内で炎症や組織の破壊が起こると肝臓で産生され、血液中に増加するタンパク質です。炎症の程度を示す指標として広く用いられています。

円形脱毛症自体でCRPが著しく上昇することは稀ですが、感染症や他の炎症性疾患の合併がないかを確認する目的で測定されることがあります。

白血球数・分画

白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどから体を守る免疫細胞です。

白血球数やその種類別の割合(白血球分画)を調べることで、感染症の有無やアレルギー体質の傾向、免疫状態などを評価する手がかりとなります。

円形脱毛症では、リンパ球の割合に変化が見られることがあります。

血糖値・HbA1c

血糖値やHbA1c(過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する指標)は、糖尿病の診断やコントロール状態の評価に用いられます。

糖尿病は免疫機能の低下や血流障害を起こす可能性があり、間接的に毛髪の健康に影響を与えることがあります。

また、円形脱毛症の治療でステロイドを使用する場合、血糖値が上昇することがあるため、事前に確認しておくことが重要です。

主要な血液検査項目の基準値と見方(女性向け)

血液検査の結果を理解するためには、各検査項目の基準値を知っておくことが大切です。

ただし、基準値は検査機関や測定方法によって若干異なる場合があるため、必ずご自身の検査結果に記載されている基準値を確認してください。

甲状腺ホルモン関連の基準値

甲状腺機能は毛髪の健康に密接に関わっており、特に女性は甲状腺疾患を発症しやすいため、重要な検査項目です。

TSHの基準値と異常値が示すこと

TSH(甲状腺刺激ホルモン)の一般的な基準値は、おおよそ 0.5~5.0 μIU/mL 程度です。

基準値よりも高い場合は甲状腺機能低下症(橋本病など)が、低い場合は甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)が疑われます。ただし、妊娠中や特定の薬剤の影響で変動することもあります。

FT3・FT4の基準値と異常値が示すこと

FT3(遊離トリヨードサイロニン)の基準値は、おおよそ 2.3~4.3 pg/mL 程度、FT4(遊離サイロキシン)の基準値は、おおよそ 0.9~1.7 ng/dL 程度です。

TSHが高くFT3・FT4が低い場合は甲状腺機能低下症、TSHが低くFT3・FT4が高い場合は甲状腺機能亢進症が強く疑われます。

甲状腺関連検査の基準値

検査項目一般的な基準値(目安)単位
TSH0.5 ~ 5.0μIU/mL
FT32.3 ~ 4.3pg/mL
FT40.9 ~ 1.7ng/dL

※基準値は検査機関により異なる場合があります。必ずご自身の検査結果に記載されている基準値をご確認ください。

自己免疫関連の基準値

円形脱毛症は自己免疫的な側面を持つため、他の自己免疫疾患の合併がないかを確認することがあります。

抗核抗体(ANA)の基準値と陽性の場合

抗核抗体(ANA)は、通常は陰性または40倍未満が基準です。40倍以上で陽性となり、数値が高いほど自己免疫疾患の可能性が高まりますが、健康な人でも陽性になることがあります。

陽性の場合は、染色パターン(均等型、辺縁型など)も参考に、膠原病などの可能性を考慮します。

円形脱毛症の患者さんでは、他の自己免疫疾患を合併していなくても、低力価で陽性を示すことがあります。

リウマトイド因子(RF)の基準値と陽性の場合

リウマトイド因子(RF)の基準値は、通常 15 IU/mL 未満で、これを超える場合に陽性と判断され、関節リウマチなどが疑われます。ただし、関節リウマチ以外の疾患や、健康な高齢者でも陽性になることがあります。

栄養状態関連の基準値

毛髪の成長に必要な栄養素の不足は、脱毛の一因となる可能性があります。特に女性は鉄欠乏に注意が必要です。

フェリチンの基準値と鉄欠乏のサイン

フェリチン(貯蔵鉄)の女性における基準値は、検査機関によって幅がありますが、一般的に 10~150 ng/mL 程度とされることが多いです。

しかし、毛髪の健康のためには、少なくとも 40~50 ng/mL 以上が望ましいという意見もあります。

フェリチン値が低い場合は、明らかな貧血症状がなくても鉄欠乏状態(かくれ貧血)である可能性があり、抜け毛や毛髪の質の低下につながることがあります。

疲れやすい、顔色が悪い、動悸・息切れ、爪がもろいなどの症状も鉄欠乏のサインかもしれません。

亜鉛の基準値と欠乏の影響

血清亜鉛の基準値は、おおよそ 70~110 μg/dL 程度です。これを下回る場合は亜鉛欠乏の可能性があります。

亜鉛が不足すると、毛髪の成長障害、脱毛、皮膚炎、味覚障害、免疫力低下などが起こることがあります。

加工食品の摂取が多い、菜食中心、あるいは消化吸収能力が低下している場合に不足しやすいです。

ビタミンDの基準値と不足時の注意点

血中25(OH)ビタミンD濃度で評価され、一般的に 30 ng/mL 以上が望ましく、20 ng/mL 未満は欠乏状態、20~29 ng/mL は不足状態と判断されることが多いです。

ビタミンDが不足すると、免疫機能のバランスが崩れたり、毛包の機能に影響が出たりする可能性が指摘されています。日光を浴びる機会が少ない人や、食事からの摂取が不十分な場合に不足しやすいです。

栄養関連検査の基準値例(女性)

検査項目一般的な基準値(目安)単位
フェリチン10 ~ 150 (毛髪には40~50以上が望ましいとの意見も)ng/mL
亜鉛70 ~ 110μg/dL
25(OH)ビタミンD30以上 (望ましいとされる値)ng/mL

※基準値は検査機関により異なる場合があります。必ずご自身の検査結果に記載されている基準値をご確認ください。

炎症反応関連の基準値

体内の炎症の有無を確認することも、全身状態の把握に役立ちます。

CRPの基準値と炎症の指標

CRP(C反応性タンパク)の基準値は、通常 0.3 mg/dL 以下です。この値が高い場合は、体内のどこかに炎症や組織の損傷が起きていることを示唆します。感染症や膠原病、悪性腫瘍など様々な原因で上昇します。

円形脱毛症自体でCRPが著しく上昇することは少ないですが、合併症のスクリーニングとして有用です。

血液検査の結果を踏まえた次のステップ

血液検査の結果が出たら、医師から詳しい説明があります。検査結果に何らかの異常が見つかった場合、あるいは特に異常が見つからなかった場合でも、その後の対応は個々の状況によって異なります。

検査結果に異常が見られた場合の一般的な対応

血液検査で基準値から外れる項目があった場合、その原因を特定するための追加検査や、専門的な治療が必要になることがあります。

甲状腺機能に異常が見つかれば、内分泌内科への紹介や甲状腺ホルモン剤の投与などが検討され、鉄欠乏が確認されれば、鉄剤の処方や食事指導が行われます。

自己免疫疾患のマーカーが陽性であった場合は、膠原病内科など専門医との連携が必要です。

生活習慣の見直しで改善が期待できること

血液検査の結果、栄養状態の偏りや軽度の炎症反応などが見られた場合、あるいは異常がなくても、生活習慣の見直しは円形脱毛症のケアにおいて基本的ながら重要な要素です。

食事内容の改善ポイント

毛髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)、鉄分(レバー、赤身肉、ほうれん草など)、亜鉛(牡蠣、牛肉、ナッツ類など)、ビタミン類(特にビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ビオチンなど)をバランス良く摂取することが大切です。

鉄欠乏が指摘された場合は、鉄分の吸収を高めるビタミンCを多く含む食品(果物や野菜)と一緒に摂るなどの工夫も重要になります。

毛髪の健康に役立つ栄養素と食品

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質毛髪の主成分肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
鉄分毛母細胞への酸素供給レバー、赤身肉、あさり、ほうれん草
亜鉛ケラチン合成、細胞分裂牡蠣、牛肉、豚レバー、ナッツ類

睡眠とストレス管理

質の高い睡眠は、成長ホルモンの分泌を促し、細胞の修復や再生を助けます。毛髪の成長にも睡眠は深く関わっています。毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠習慣を心がけましょう。

また、過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、免疫機能にも影響を与えるため、円形脱毛症の誘因や増悪因子となることがあります。

血液検査に関する費用と保険適用について

円形脱毛症の診療で血液検査を受ける際、費用がどのくらいかかるのか、保険は適用されるのかといった点は、多くの方が気になるところでしょう。

血液検査にかかる費用の目安

血液検査の費用は、検査する項目の種類と数によって大きく変動します。

円形脱毛症の診療で一般的に行われる項目(甲状腺機能、自己抗体、鉄、亜鉛など)をいくつか組み合わせた場合、保険診療(3割負担)であれば、数千円から1万円程度になることが多いようです。

ただし、特殊な検査項目が含まれる場合や、検査項目数が多い場合は、これよりも高くなることがあります。

自由診療で血液検査を受ける場合は、全額自己負担となるため、費用はさらに高額です。

保険診療と自由診療の違い

日本の医療制度では、保険診療と自由診療という二つの枠組みがあり、保険診療は、国が定めた病気やケガの治療に対して、健康保険が適用される診療です。

円形脱毛症の診断や治療のための血液検査は、医師が必要と判断した場合には基本的に保険診療の対象となります。

一方、自由診療は、健康保険が適用されない診療で、医療費は全額自己負担です。美容目的の治療や、まだ保険適用が認められていない先進的な検査・治療などが該当します。

円形脱毛症の診療においても、医師の判断によらず患者さんの希望で特定の検査を行う場合や、保険適用外の治療法を選択する場合には、自由診療となることがあります。

高額療養費制度の利用可能性

高額療養費制度は、1ヶ月(月の初めから終わりまで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合に、一定の限度額を超えた分が後から払い戻される制度です。

自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。円形脱毛症の治療が長期間にわたったり、高額な薬剤を使用したりする場合(例えば、JAK阻害薬など)、この制度の対象となる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

ここでは、女性の円形脱毛症と血液検査に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安を解消する一助となれば幸いです。

Q
血液検査は必ず受けなければなりませんか?
A

脱毛の範囲がごく小さく、症状が軽い場合や、典型的な円形脱毛症で他の合併症が疑われない場合は、医師の判断により血液検査を行わずに治療を開始することもあります。

しかし、脱毛の範囲が広い、急速に進行している、再発を繰り返している、甲状腺疾患や自己免疫疾患などの合併が疑われる症状がある場合は、血液検査が推奨されることが多いです。

Q
検査結果はどのくらいでわかりますか?
A

一般的な項目であれば、数日から1週間程度で結果が出ることが多く、特殊な検査項目や、外部の専門機関に依頼する必要がある検査の場合は、2週間以上かかることもあります。

Q
血液検査で円形脱毛症の原因が全てわかりますか?
A

残念ながら、血液検査だけで円形脱毛症の全ての原因が明らかになるわけではありません。

円形脱毛症は、自己免疫、遺伝的要因、ストレスなど、複数の因子が複雑に関与して発症すると考えられています。

血液検査は、因子の一部、特に自己免疫疾患の合併や甲状腺機能異常、栄養状態の偏りなどを調べるのに役立ちますが、直接的な原因であると断定できないこともあります。

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