円形脱毛症は、ある日突然、コインのような形の脱毛斑が現れる症状で、多くの女性にとって大きな悩みの一つです。
「円形脱毛症は一生治らないのではないか」「この先の髪はどうなってしまうのだろう」といった不安を抱える方も少なくありません。
この記事では、女性の円形脱毛症に関する医学的な情報に基づき、原因、症状の進行、治療法、そして心のケアに至るまで、詳しく、そして分かりやすく解説します。
円形脱毛症とは何か 正しい理解が第一歩
円形脱毛症について正確に知ることは、不安を軽減し、適切な対処法を見つけるための最初のステップです。多くの方がその名前を聞いたことはあっても、詳しい内容については誤解していることもあります。
円形脱毛症の基本的な定義
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛のある部分に、境界がはっきりとした円形または楕円形の脱毛斑が突然生じる疾患です。
多くの場合、自覚症状がないまま進行しますが、時に軽いかゆみや違和感を伴うこともあり、脱毛斑の大きさや数は様々で、一つだけの場合もあれば、複数個できることもあります。
突然始まる脱毛症状
円形脱毛症の最も特徴的な点は、前触れなく脱毛が始まることで、昨日まで何もなかった場所に、ある日突然、髪の毛が抜け落ちた部分が見つかるという経験をする方が多いです。
この予測不能性が、患者さんの不安を増大させる一因ともなっています。
脱毛斑の形状と特徴
脱毛斑は、その名の通り円形や楕円形を呈することが一般的で、脱毛部分の皮膚は、炎症などがない限り、基本的には正常に見えます。
脱毛斑の辺縁では、毛髪が切れやすくなっていたり、「感嘆符毛」と呼ばれる、毛根側が細く、毛先側が太くなっている特徴的な毛が見られることがあります。
これは活動性の高い円形脱毛症のサインの一つです。
女性における円形脱毛症の有病率と特徴
円形脱毛症は、性別や年齢に関わらず誰にでも起こりうる疾患で、女性においても決して珍しいものではありません。生涯のうちに円形脱毛症を経験する人は、人口の1~2%程度と推計されています。
年齢層別の傾向
女性の場合、特に20代から40代といった比較的若い世代での発症も多く見られますが、小児期や高齢期を含め、どの年齢層でも発症する可能性があります。
特定の年齢に集中するというよりは、幅広い年代にわたって見られる疾患です。
円形脱毛症の種類と進行パターン
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲によっていくつかのタイプに分類され、進行パターンも様々で、軽快と増悪を繰り返すこともあります。
単発型と多発型
脱毛斑が1箇所のみに限局している場合を「単発型」、2箇所以上に複数個ある場合を「多発型」と呼びます。単発型は比較的予後が良いことが多いとされていますが、多発型に移行することもあります。
全頭型と汎発型
脱毛が頭部全体に及ぶ場合を「全頭型脱毛症(円形脱毛症全頭型)」、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など、全身の毛が失われる場合を「汎発型脱毛症(円形脱毛症汎発型)」と呼びます。
これらは円形脱毛症の中でも重症なタイプです。
蛇行状脱毛症
後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛が広がるタイプを「蛇行状脱毛症」と呼び、治療に反応しにくい場合があります。
円形脱毛症の主なタイプ
タイプ | 特徴 | 主な症状 |
---|---|---|
単発型 | 脱毛斑が1箇所 | 円形・楕円形の脱毛 |
多発型 | 脱毛斑が複数箇所 | 複数の円形・楕円形の脱毛 |
全頭型 | 頭髪全体が脱毛 | 頭全体の毛髪消失 |
汎発型 | 全身の毛が脱毛 | 頭髪、眉毛、まつ毛、体毛の消失 |
蛇行状 | 生え際に沿って帯状に脱毛 | 後頭部や側頭部の帯状脱毛 |
誤解されやすい他の脱毛症との違い
女性の薄毛や抜け毛の原因は円形脱毛症だけではありません。他の脱毛症と症状が似ている場合もあり、正確な診断が重要です。
女性型脱毛症(FAGA)との比較
女性型脱毛症(FAGA: Female Androgenetic Alopecia)は、主に頭頂部の分け目を中心にびまん性(広範囲)に毛髪が薄くなるのが特徴です。
円形脱毛症のような境界明瞭な脱毛斑は通常見られず進行は緩やかで、男性型脱毛症(AGA)とは異なり、生え際の後退は少ない傾向があります。
牽引性脱毛症や抜毛症との区別
牽引性脱毛症は、ポニーテールなど特定の髪型を長期間続けることで、毛根に持続的な張力がかかり、生え際や分け目を中心に毛が薄くなる状態です。
抜毛症(トリコチロマニア)は、自分で自分の毛髪を繰り返し引き抜いてしまう精神的な要因が関与する疾患で、不規則な形の脱毛斑が見られます。
主な脱毛症の比較
脱毛症の種類 | 主な原因と考えられているもの | 特徴的な症状 |
---|---|---|
円形脱毛症 | 自己免疫異常、ストレス、遺伝的要因など | 境界明瞭な円形・楕円形の脱毛斑 |
女性型脱毛症(FAGA) | ホルモンバランスの変化、遺伝的要因など | 頭頂部中心のびまん性の薄毛 |
牽引性脱毛症 | 毛髪への持続的な物理的張力 | 特定の髪型による生え際などの薄毛 |
抜毛症 | 精神的要因による抜毛行為 | 不規則な形の脱毛斑、断毛 |
なぜ起こる?女性の円形脱毛症の主な原因
円形脱毛症がなぜ起こるのか、その正確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、いくつかの要因が複雑に関与していると考えられています。
特に「自己免疫疾患」「ストレス」「遺伝的要因」が主要な原因として注目されています。
自己免疫疾患としての側面
現在、円形脱毛症の最も有力な原因と考えられているのが、自己免疫反応の異常です。私たちの体には、外部から侵入する細菌やウイルスなどから身を守るための免疫システムが備わっています。
しかし、この免疫システムが何らかの理由で誤作動を起こし、自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまうことがあり、これが自己免疫疾患です。
免疫システムの誤作動
円形脱毛症の場合、免疫細胞の一種であるTリンパ球が、成長期にある毛包(毛根を包む組織)を異物と誤認し、攻撃してしまうと考えられています。
毛包が攻撃されると、毛髪の成長が妨げられ、脱毛が起こされます。
毛包への攻撃
重要なのは、毛包そのものが破壊されるわけではないという点です。毛包の機能が一時的に停止している状態であり、免疫システムの攻撃が収まれば、再び毛髪が成長し始める可能性があります。
これが、円形脱毛症が「治る可能性がある」と言われる理由の一つです。
- 免疫細胞の異常活性
- 毛包組織への誤認攻撃
- 毛髪成長サイクルの阻害
ストレスとの関連性 心身のバランスの重要性
円形脱毛症の発症や悪化には、精神的・肉体的なストレスが深く関与していると考えられています。
ストレスが直接的な原因となるわけではありませんが、免疫システムのバランスを崩す引き金になる可能性があります。
精神的ストレスの影響
仕事や家庭環境、人間関係などにおける強い精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスの乱れを起こし、免疫機能に影響を与える可能性があります。
円形脱毛症を発症した方の中には、発症前に大きなストレスを経験したと話すケースも少なくありません。
肉体的ストレスの影響
過労、睡眠不足、不規則な生活、大きな手術や病気、急激なダイエットなども肉体的ストレスとなり、円形脱毛症の誘因となることがあります。
心身ともに健康な状態を保つことが、円形脱毛症の予防や改善には重要です。
遺伝的要因の可能性
円形脱毛症は遺伝的素因も関与していると考えられていて、家族内に円形脱毛症の患者さんがいる場合、発症リスクがやや高まるという報告があります。
家族内発生の報告
円形脱毛症患者さんの約10~40%に家族歴があるとのデータもあり、遺伝的な背景が示唆されます。ただし、遺伝したからといって必ず発症するわけではなく、他の要因と複合的に作用します。
関連遺伝子の研究
いくつかのHLA(ヒト白血球抗原)の型や、免疫機能に関連する遺伝子が、円形脱毛症の発症しやすさに関わっている可能性が指摘されていますが、まだ研究段階です。
その他の誘因となりうる要素
自己免疫、ストレス、遺伝以外にも、円形脱毛症の発症や悪化に関与する可能性のある要素がいくつか挙げられます。
アトピー素因
アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすい傾向があると言われています。
これは、アトピー素因を持つ人が免疫系のバランスが崩れやすいことと関連している可能性があります。
内分泌系の異常(甲状腺疾患など)
甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症といった甲状腺疾患も、円形脱毛症との関連が指摘されています。甲状腺ホルモンは全身の代謝に関わるため、その異常が免疫系に影響を与える可能性があります。
感染症や薬剤の影響
一部のウイルス感染症や、特定の薬剤の使用が円形脱毛症の引き金になる可能性も稀に報告されていますが、明確な因果関係は確立されていません。
円形脱毛症の誘因となりうる要素とその関連性
要素 | 関連性 | 補足 |
---|---|---|
アトピー素因 | 発症リスク上昇の可能性 | 免疫系のバランス異常が関与か |
甲状腺疾患 | 関連性が指摘される | ホルモンバランスの乱れが影響か |
特定の感染症 | 稀に誘因となる可能性 | 免疫反応の引き金となる場合 |
一部の薬剤 | 稀に誘因となる可能性 | 薬剤性の脱毛とは区別が必要 |
「一生治らない」は誤解 円形脱毛症の予後について
円形脱毛症と診断されると、「このまま髪が生えてこないのではないか」「一生この状態が続くのだろうか」と大きな不安を感じる方が多くいらっしゃいます。
しかし、「円形脱毛症は一生治らない」というのは多くの場合、誤解です。
自然治癒の可能性と期間
円形脱毛症は、特に症状が軽い場合、特別な治療をしなくても自然に治癒することがあります。
これは、免疫システムの異常が一時的なものであったり、原因となったストレスが解消されたりすることで、毛包への攻撃が自然に収まるためです。
軽症例の場合
脱毛斑が1つか2つ程度の単発型や多発型の初期で、範囲が小さい場合は、数ヶ月から1年程度で自然に毛髪が再生してくるケースも少なくありません。特に小児の軽症例では自然治癒率が高いと言われています。
治癒までの一般的な目安
自然治癒する場合でも、毛髪が再生し始めるまでには数ヶ月単位の時間がかかります。
完全に元の状態に戻るまでには、半年から1年以上を要することもあります。焦らずに経過を見守ることが大切です。
予後を左右する要因
円形脱毛症の予後は、いくつかの要因によって左右されることがあり、要因を理解しておくことは、ご自身の状態を把握し、治療方針を考える上で役立ちます。
発症年齢と範囲
一般的に、発症年齢が低いほど(特に小児期)、また脱毛範囲が広いほど(全頭型や汎発型)、治療が難しく、予後が不良となる傾向があります。
しかし、これはあくまで傾向であり、若年発症や広範囲の脱毛でも改善するケースはあります。
基礎疾患の有無
アトピー素因や甲状腺疾患などの自己免疫疾患を合併している場合、円形脱毛症が難治化したり、再発しやすくなったりすることがあります。
基礎疾患のコントロールも、円形脱毛症の治療において重要です。
治療への反応性
ある治療法が効果的な人もいれば、別の治療法の方が合う人もいるので、治療効果を見ながら、医師と相談して治療法を調整していくことが必要です。
円形脱毛症の予後に影響する可能性のある要素
要因 | 予後が比較的良好な傾向 | 注意が必要な傾向 |
---|---|---|
発症年齢 | 成人発症 | 小児期発症 |
脱毛範囲 | 単発型、範囲が狭い | 全頭型、汎発型、範囲が広い |
アトピー素因の有無 | なし | あり |
家族歴 | なし | あり(特に重症例) |
爪の異常 | なし | あり(点状陥凹など) |
再発のリスクと向き合い方
円形脱毛症は、一度治癒しても再発することがある疾患です。再発の可能性を完全にゼロにすることは難しいですが、再発のリスクを理解し、適切に向き合うことで、過度な不安を軽減することができます。
再発率のデータ
円形脱毛症の再発率は、報告によって幅がありますが、数年以内に約30~50%の人が再発を経験するとも言われています。再発する場合も、初発時と同じ場所に起こるとは限らず、脱毛の範囲や程度も様々です。
医療機関で行われる円形脱毛症の検査と診断
円形脱毛症の診断は、主に皮膚科専門医によって行われ、正確な診断のためには、詳細な問診、視診、そして必要に応じた検査が重要です。
問診で確認する項目
問診は、診断の手がかりを得るための非常に重要な情報源です。医師は以下のような点を詳しく尋ねます。
発症時期と経過
いつ頃から脱毛に気づいたか、最初の脱毛斑はどこにできたか、その後どのように変化してきたか(拡大、縮小、新たな発生など)といった情報は、病状の把握に役立ちます。
既往歴や家族歴
これまでに円形脱毛症になったことがあるか、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患などの自己免疫疾患の既往があるか、家族に円形脱毛症や自己免疫疾患の人がいるかなどを確認します。
情報は、円形脱毛症の背景にある可能性のある要因を探るために重要です。
生活習慣やストレス状況
最近の生活習慣の変化(睡眠、食事、仕事など)、大きな精神的ストレスの有無、服用中の薬剤などについてもお聞きします。これらは円形脱毛症の誘因や悪化因子となる可能性があるためです。
視診とダーモスコピー検査
医師は、脱毛斑の状態を直接観察し、脱毛の範囲、形状、脱毛斑内の皮膚の状態、毛髪の状態などを詳細に確認します。
脱毛斑の状態観察
脱毛斑の境界が明瞭であるか、皮膚に赤みやフケ、湿疹などがないかなどを観察し、他の皮膚疾患との鑑別を行います。
毛髪の異常所見(感嘆符毛など)
ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いて、毛髪や毛穴の状態をより詳しく観察します。
円形脱毛症に特徴的な所見は、毛根部が細く毛先に向かって太くなる「感嘆符毛(!マークのような毛)」、毛が途中で折れた「切れ毛」、毛穴の中に黒い点として残る「黒点(ブラックドット)」などです。
血液検査で調べること
円形脱毛症の診断自体は主に視診で行われますが、背景にある可能性のある全身性の疾患や、治療方針の決定、予後の予測のために血液検査を行うことがあります。
自己抗体の有無
抗核抗体など、自己免疫疾患に関連する自己抗体の有無を調べることがありますが、抗体が陽性であっても、必ずしも重症化するわけではありません。
甲状腺機能や鉄欠乏の確認
甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4)や甲状腺自己抗体(抗TPO抗体、抗Tg抗体など)を測定し、甲状腺機能異常の合併がないかを確認します。
また、女性の場合、鉄欠乏性貧血が抜け毛の原因となることもあるため、フェリチン(貯蔵鉄)の値などを調べることもあります。
血液検査で確認することがある主な項目
検査項目例 | 目的 | 一般的な解釈のポイント |
---|---|---|
血算(白血球、赤血球、血小板など) | 全身状態の把握、貧血の有無など | 炎症や貧血の指標 |
自己抗体(抗核抗体など) | 自己免疫疾患のスクリーニング | 陽性の場合、他の自己免疫疾患の合併を考慮 |
甲状腺ホルモン・自己抗体 | 甲状腺機能異常の有無 | 甲状腺疾患の合併の可能性 |
血清鉄、フェリチン | 鉄欠乏の有無 | 鉄欠乏性貧血による脱毛との鑑別 |
必要に応じて行われるその他の検査
診断が困難な場合や、他の疾患との鑑別が難しい場合には、さらに詳細な検査を行うことがあります。
皮膚生検の適応
非常に稀ですが、診断が確定できない場合や、他の脱毛症との区別が難しい場合に、脱毛部の皮膚を一部採取して病理組織学的に調べる皮膚生検を行うことがあります。
アレルギー検査
アトピー素因が疑われる場合には、アレルギーの原因物質を特定するための検査(IgE RASTなど)を行うこともあります。
女性の円形脱毛症に対する主な治療法
女性の円形脱毛症の治療は、症状の範囲や程度、進行度、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮して、個々の患者さんに適した方法を選択します。
ステロイド治療の種類と使い方
ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持ち、円形脱毛症の治療において中心的な役割を果たします。
外用薬(塗り薬)
脱毛斑に直接ステロイドの塗り薬を塗布する方法で、比較的軽症の円形脱毛症や、小範囲の脱毛斑に対して用いられることが多いです。
効果が現れるまでには数ヶ月かかることが一般的で、根気強く続ける必要があります。医師の指示に従い、適切な量と回数を守って使用することが大切です。
局所注射
脱毛斑に直接ステロイドを注射する方法です。外用薬よりも薬剤が直接毛包周囲に届くため、より高い効果が期待でき、通常、数週間から1ヶ月に1回の間隔で行います。
注射時の痛みを伴うことがありますが、比較的効果が早く現れることもあります。ただし、広範囲の脱毛には向きません。
内服薬(重症例)
脱毛が急速に進行している場合や、脱毛範囲が広い重症例(全頭型、汎発型など)に対して、ステロイドの内服薬が用いられることがあります。
高い治療効果が期待できる一方で、全身的な副作用(免疫力低下、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、ムーンフェイスなど)のリスクもあるため、医師の厳重な管理のもとで、短期間の使用に留めることが原則です。
急に中止すると症状が悪化することもあるため、医師の指示通りに徐々に減量していく必要があります。
- 医師の指示通りの用法・用量を守る
- 副作用の出現に注意する
- 自己判断で中止・変更しない
局所免疫療法とは
局所免疫療法は、かぶれを起こす特殊な化学物質(SADBEやDPCPなど)を脱毛斑に塗布し、人為的に軽い接触皮膚炎(かぶれ)を起こさせることで、毛包への免疫反応を変化させ、発毛を促す治療法です。
広範囲の脱毛症や、他の治療法で効果が得られにくい場合に選択されることがあります。
SADBEやDPCPを用いた治療
まず、感作といって、ごく少量の化学物質を腕などに塗布し、体にその物質を覚えさせ、その後、1~2週間ごとに、脱毛斑に低濃度の化学物質を塗布し、軽い赤みやかゆみが出る程度の反応を維持します。
効果判定には数ヶ月から半年程度かかることが多いです。
治療の仕組みと効果
塗布部位にかぶれを起こすことで、毛包を攻撃していたリンパ球の働きを抑制したり、別の種類のリンパ球を呼び寄せたりすることで、毛包への攻撃が弱まると考えられています。
この治療法は、保険適用外となることが一般的です。
その他の治療選択肢
ステロイド治療や局所免疫療法の他にも、症状や状況に応じて様々な治療法が検討されます。
冷却療法
液体窒素などを脱毛部に接触させて冷却刺激を与える治療法です。軽症の単発型などに試みられることがあります。簡便な方法ですが、効果は限定的とされています。
紫外線療法(PUVA、ナローバンドUVB)
特定の波長の紫外線を脱毛部に照射する治療法です。PUVA療法はソラレンという薬剤を内服または外用した後に長波長紫外線を照射し、ナローバンドUVB療法は中波長紫外線の一部を照射します。
免疫反応を調整する効果が期待されますが、週に数回の通院が必要となることや、長期的な紫外線暴露による皮膚への影響も考慮することが必要です。
抗ヒスタミン薬やセファランチン
アトピー素因を合併している場合や、かゆみが強い場合に抗ヒスタミン薬が併用されることがあります。
また、セファランチンという薬剤は、血流改善作用やアレルギー反応抑制作用などが期待され、円形脱毛症の補助的な治療として用いられることがあります。
主な治療法の概要
治療法 | 主な対象 | 期待される効果・作用 |
---|---|---|
ステロイド外用 | 軽症~中等症、小範囲 | 抗炎症作用、免疫抑制作用 |
ステロイド局所注射 | 中等症、小~中範囲 | 局所への強力な免疫抑制 |
ステロイド内服 | 重症、急速進行例 | 全身的な強力な免疫抑制 |
局所免疫療法 | 広範囲、難治例 | 免疫変調作用 |
紫外線療法 | 広範囲、難治例 | 免疫変調作用 |
日常生活で心がけたいケアと対策
円形脱毛症の治療と並行して、日常生活でのセルフケアも症状の改善や再発予防のために重要です。
頭皮環境を整えること、バランスの取れた食事、質の高い睡眠、そしてストレスマネジメントは、心身の健康を保ち、免疫システムの安定にもつながります。
頭皮環境を整えるヘアケア
健康な髪を育むためには、その土壌である頭皮環境を良好に保つことが基本です。過度な刺激を避け、清潔を心がけましょう。
優しいシャンプー選び
洗浄力の強すぎるシャンプーや、刺激の強い成分が含まれているシャンプーは避け、アミノ酸系などのマイルドな洗浄成分で、頭皮への刺激が少ないものを選んでください。
洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流します。脱毛部分は特にデリケートなので、ゴシゴシこすらないように注意が必要です。
頭皮マッサージの是非
適度な頭皮マッサージは血行を促進し、毛根に栄養を届けやすくする効果が期待できます。
ただし、炎症が強い時期や、脱毛が活発な時期に強いマッサージを行うと、かえって刺激となり症状を悪化させる可能性もあるため、行う場合は優しく、医師に相談の上で行うのが良いでしょう。
バランスの取れた食事と栄養
髪の毛は、私たちが摂取する栄養素から作られていて、特定の食品だけを摂取すれば良いというわけではなく、バランスの取れた食事が基本です。
髪の成長に必要な栄養素
髪の主成分であるタンパク質(特にケラチン)、亜鉛、鉄分、ビタミン類(特にビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE)などは、健康な髪の成長に必要です。
栄養素を日々の食事からバランス良く摂取することを心がけましょう。
髪の健康維持に役立つ主な栄養素と食品
栄養素 | 多く含む食品例 | 期待される役割 |
---|---|---|
タンパク質 | 肉、魚、卵、大豆製品 | 髪の主成分、組織の構築 |
亜鉛 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 | ケラチンの合成補助、細胞分裂促進 |
鉄分 | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき | 酸素運搬、毛母細胞への栄養供給 |
ビタミンB群 | 豚肉、レバー、魚介類、穀類 | 代謝促進、頭皮環境改善 |
ビタミンC | 果物、野菜、いも類 | コラーゲン生成補助、抗酸化作用 |
ビタミンE | ナッツ類、植物油、アボカド | 血行促進、抗酸化作用 |
避けるべき食習慣
脂質の多い食事やインスタント食品、スナック菓子などの偏った食事は、頭皮環境を悪化させたり、血行不良を招いたりする可能性があります。
また、過度なダイエットによる栄養不足も髪の成長に悪影響を与えます。バランスを意識し、規則正しい食生活を送ることが大切です。
質の高い睡眠の確保
睡眠は、体の修復や成長ホルモンの分泌に重要な役割を果たし、質の高い睡眠は、髪の健康維持にもつながります。
睡眠不足の影響
睡眠不足が続くと、自律神経のバランスが乱れ、血行が悪くなったり、免疫機能が低下したりする可能性があり、円形脱毛症の悪化要因となることも考えられます。
睡眠環境の整備
毎日同じ時間に寝起きする、寝る前にスマートフォンやパソコンの使用を控える、寝室の温度や湿度を快適に保つなど、質の高い睡眠を得るための環境を整えましょう。
ストレスマネジメントの方法
ストレスは円形脱毛症の大きな誘因の一つと考えられています。日常生活でストレスを完全に避けることは難しいかもしれませんが、上手にコントロールする方法を見つけることが重要です。
リラックス方法の見つけ方
自分に合ったリラックス方法を見つけ、日常生活に取り入れてください。
例えば、趣味に没頭する時間を作る、適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)をする、音楽を聴く、アロマテラピーを試す、親しい友人と話すなど、心身をリフレッシュできる活動が効果的です。
- 趣味の時間を持つ
- 適度な運動
- 友人との会話
- 瞑想や深呼吸
円形脱毛症に関するよくある質問 (FAQ)
円形脱毛症と診断されたり、その疑いがあったりすると、様々な疑問や不安が湧いてくることでしょう。ここでは、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Q治療中に髪を染めたりパーマをかけたりしても大丈夫ですか?
- A
脱毛症状が活発な時期や、頭皮に炎症がある場合は、ヘアカラーやパーマ液の刺激が症状を悪化させる可能性があるため、避けた方が賢明です。
症状が落ち着いていれば可能な場合もありますが、事前に必ず主治医に相談し、許可を得てから行ってください。
- Qウィッグや帽子を使用する際の注意点はありますか?
- A
ウィッグや帽子は、脱毛部をカバーし、精神的な負担を軽減するのに役立ちます。
選ぶ際には、通気性の良い素材のものを選び、長時間着用する場合は時々外して頭皮を休ませましょう。また、清潔に保つことも重要です。
- Q治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
- A
数ヶ月で改善が見られる場合もあれば、1年以上、あるいはそれ以上の期間を要する場合もあります。
軽症の単発型であれば比較的短期間で治癒することも多いですが、全頭型や汎発型の場合は長期的な治療が必要になる傾向があります。
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