この記事では、女性の円形脱毛症について、その基本的な情報から、多くの方が気にされる爪の症状との関連性、そして一般的な治療法に至るまで、幅広く解説します。

突然の脱毛にお悩みの方、爪の変化に気づかれた方が、正しい知識を得て、前向きな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

目次

円形脱毛症とは何か 理解を深める

円形脱毛症は、ある日突然、頭髪などが円形や楕円形に抜け落ちる疾患です。

性別や年齢に関わらず誰にでも発症する可能性がありますが、特に女性にとっては外見上の変化が大きく、深い悩みを抱える方が少なくありません。

円形脱毛症の基本的な定義

円形脱毛症は、毛髪がコインのような形に抜ける症状を特徴とする後天性の脱毛症です。一般的には頭部に発症することが多いですが、眉毛、まつ毛、体毛など、毛が生えているあらゆる部位に起こり得ます。

脱毛斑は一つだけの場合もあれば、複数現れることもあり、その大きさや形状も様々で、多くの場合、自覚症状としてはかゆみや軽い痛みを感じる程度で、全く症状がないこともあります。

この疾患は、毛包組織に対する自己免疫反応が関与していると考えられています。

発症の引き金となり得る要因

円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が発症に関与していると考えられています。

最も有力なのは自己免疫疾患としての側面ですが、その他にも精神的ストレス、遺伝的素因、アトピー素因なども要因です。

過度なストレスや疲労が引き金となるケースも報告されており、生活習慣の乱れも間接的に影響する可能性があります。

ただし、必ずしも全ての人に当てはまるわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

円形脱毛症発症に関わる可能性のある要因

  • 自己免疫機能の異常
  • 精神的ストレス
  • 遺伝的素因
  • アトピー素因(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎など)

自己免疫疾患としての側面

現在の医学では、円形脱毛症は自己免疫疾患の一つとして捉えられています。

自己免疫疾患とは、本来ならば体外からの異物(細菌やウイルスなど)を攻撃するはずの免疫系が、何らかの原因で自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。

円形脱毛症の場合、免疫細胞であるTリンパ球が毛根を異物と誤認し攻撃することで、毛髪の成長が阻害され脱毛が起こります。

このため、甲状腺疾患や尋常性白斑など、他の自己免疫疾患を合併することもあります。

円形脱毛症の主な症状と進行パターン

円形脱毛症の症状は、脱毛斑の現れ方や進行の仕方に個人差が大きく、初期の小さな脱毛から、広範囲に広がる重症例まで様々です。

頭皮に現れる典型的な症状

最も一般的な症状は、頭皮に境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が突然出現することで、脱毛斑の表面は滑らかで、周囲の毛髪は正常に見えることが多いです。

初期には自覚症状がないか、あっても軽微なむずむず感やかゆみ程度で、脱毛斑の大きさは1円玉程度から、手のひら大になることもあります。

脱毛部の毛穴は残っているため、毛髪が再生する可能性は十分にあります。

また、脱毛部の毛髪を引っ張ると容易に抜ける「感嘆符毛(!毛)」と呼ばれる、毛根部が細くなっている特徴的な毛が見られることもあります。

脱毛斑の数や大きさの変化

円形脱毛症は、脱毛斑が一つだけ生じる「単発型」から、複数生じる「多発型」までいろいろで、最初は小さな脱毛斑でも、時間とともに拡大したり、新たな脱毛斑が現れて融合することがあります。

また、自然に治癒して縮小、消失することも珍しくありません。症状の経過は予測が難しく、数ヶ月で治る軽症例もあれば、数年以上にわたり症状が続いたり、再発を繰り返したりするケースもあります。

円形脱毛症の主なタイプ

タイプ主な特徴脱毛範囲
単発型頭部に円形・楕円形の脱毛斑が1つできる限局的
多発型頭部に脱毛斑が2つ以上できる。融合して大きな脱毛斑になることも。広範囲に及ぶことも
全頭型頭部全体の毛髪がほぼ全て抜け落ちる頭部全体
汎発型頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちる全身
蛇行型(Ophiasis pattern)後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛する頭部生え際

蛇行状脱毛症など特殊なタイプ

円形脱毛症には、典型的な円形脱毛以外にもいくつかの特殊なタイプがあり、その一つが「蛇行状脱毛症(Ophiasis pattern)」です。

これは、後頭部から側頭部、あるいは前頭部の生え際に沿って、蛇が這うように帯状に脱毛が広がるタイプで、治療に時間がかかる傾向があります。

他にも、頭部全体の毛髪が抜けてしまう「全頭型脱毛症」や、頭髪だけでなく眉毛、まつ毛、さらには全身の体毛まで失われる「汎発型脱毛症」といった重症なタイプもあります。

症状の進行と寛解のサイクル

円形脱毛症の経過は一様ではなく、症状が進行する活動期と、症状が落ち着いて改善に向かう寛解期を繰り返すことがあり、活動期には脱毛が急速に進み、脱毛斑が拡大したり数が増えたりします。

この時期には、脱毛斑の辺縁部の毛が抜けやすくなっていることが多いです。

寛解期に入ると脱毛の勢いが収まり、脱毛斑の中に細くて色の薄い産毛が生え始め、徐々に太くしっかりとした毛髪に置き換わっていきますが、一度寛解しても再発する可能性があるため、油断はできません。

円形脱毛症と爪の異常 初期症状としての関連性

円形脱毛症の患者さんの中には、髪の毛だけでなく爪にも変化が現れることがあり、「円形脱毛症 初期 爪」の症状は、脱毛症の診断や重症度を把握する上で重要な手がかりとなる場合があります。

爪に現れる変化とは

円形脱毛症に伴って爪に現れる変化は多岐にわたり、変化は、手の爪にも足の爪にも起こり得ますが、一般的には手の爪の方が多いです。

爪の変化は、脱毛症状と同時に現れることもあれば、脱毛に先行して、あるいは脱毛が治まった後に現れることもあります。

点状陥凹(爪の表面の小さなくぼみ)

爪の表面に、針でついたような小さな点状のくぼみが多数現れる症状で、これは爪甲点状陥凹(そうこうてんじょうかんおう)とも呼ばれ、円形脱毛症の患者さんによく見られる爪の変化の一つです。

くぼみの大きさや深さ、数は様々で、爪の表面がザラザラとした感触になることもあり、爪母(爪を作る部分)の異常な角化によって生じると考えられています。

横溝(爪を横切る溝)

爪の表面に、爪の成長方向に直角な横方向の溝が現れることがあり、ボー線(Beau’s lines)とも呼ばれ、爪の成長が一時的に障害されたことを示しています。

円形脱毛症による体へのストレスや、免疫系の変動が爪母に影響を与え、爪の正常な成長を妨げることで生じると考えられます。溝の深さや幅は、爪母が受けたダメージの程度や期間によって異なります。

爪甲縦裂症(爪が縦に割れる)

爪甲縦裂症(そうこうじゅうれつしょう)は、爪が先端から根元に向かって縦に割れたり、亀裂が入ったりする状態です。

爪がもろくなり、層状に剥がれることもあり、爪の乾燥や栄養状態の不良、あるいは円形脱毛症に関連する免疫異常が爪の構造に影響を与えることで起こります。

その他の爪の変化

上記以外にも、爪全体が白く濁る爪甲白斑(そうこうはくはん)、爪が厚く濁って脆くなる爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう)様の変化、爪がスプーン状に反り返る匙状爪(さじじょうつめ)、爪の表面がヤスリでこすったようにザラザラになる粗面爪(そめんつめ)、爪が根本から剥がれて脱落する爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう)などが報告されています。

爪の変化は、単独で現れることもあれば、複数組み合わさって現れることもあります。

円形脱毛症に伴う主な爪の症状

爪の症状概要考えられる原因
点状陥凹爪表面の針で刺したような小さなくぼみ爪母の角化異常
横溝(ボー線)爪を横切る溝爪母の一時的な成長障害
爪甲縦裂症爪が縦に割れる、裂ける爪の脆弱化、構造異常
粗面爪(トラキオニキア)爪表面がヤスリ状にザラザラになる爪全体の炎症や角化異常

なぜ爪に症状が現れるのか

髪の毛と爪は、発生学的に同じ外胚葉という組織から作られるため、毛包を攻撃する免疫反応が、同様に爪母(爪を作る工場)にも影響を及ぼすことがあると考えられています。

つまり、円形脱毛症の原因となる自己免疫反応が、爪の成長にも異常を起こす可能性があるのです。

特に、免疫細胞であるTリンパ球が爪母の細胞を攻撃することで、正常な爪の形成が妨げられ、様々な爪の変形が生じると推測されています。

爪の症状と脱毛の重症度の関係

一般的に、爪に症状が現れている円形脱毛症の患者さんは、脱毛範囲が広かったり、治療に時間がかかったりする傾向があります。

爪の点状陥凹が多数見られる場合や、粗面爪などの著しい変化がある場合は、脱毛症が重症化しやすい、あるいは広範囲に及ぶ可能性を示唆するサインとされることがあります。

しかし、必ずしも全てのケースでこの関係が当てはまるわけではなく、爪に症状がなくても重症化する人もいれば、爪に変化があっても軽症で済む人もいます。

爪の症状はあくまで一つの指標であり、総合的な判断が必要です。

女性の円形脱毛症における検査と診断

円形脱毛症の診断は、主に問診と視診によって行われますが、必要に応じていくつかの検査を追加することもあります。

専門医による視診と問診の重要性

円形脱毛症の診断において、まず基本となるのが専門医による問診と視診です。

問診では、いつから脱毛が始まったか、脱毛の範囲や進行の速さ、かゆみなどの自覚症状の有無、過去の病歴や治療歴、家族歴、ストレスの状況、生活習慣などを詳しく聞き取ります。

視診では、脱毛斑の形状、大きさ、数、分布、頭皮の状態(炎症の有無など)、脱毛部の毛髪の状態(感嘆符毛の有無など)、そして爪の変化などを観察します。

ダーモスコピー検査とは

ダーモスコピー検査は、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、頭皮や毛髪、毛穴の状態を詳細に観察する検査です。検査により、肉眼では捉えにくい微細な変化を確認できます。

円形脱毛症に特徴的な所見としては、黄色い点(イエロードット:毛穴に皮脂や角質が詰まったもの)、黒い点(ブラックドット:毛穴に残った断毛)、感嘆符毛、毛髪の太さの不均一性などがあります。

所見は、円形脱毛症の活動性や重症度を評価する上で役立ち、また他の脱毛症(例えば、男性型・女性型脱毛症やトリコチロマニアなど)との鑑別にも有用です。

ダーモスコピーで観察される主な所見

所見説明示唆すること
イエロードット毛穴に詰まった皮脂や角栓が黄色く見える毛包の活動低下、慢性化
ブラックドット毛穴の中で毛が折れて黒い点として見える疾患の活動性
感嘆符毛毛幹の根元が細く、先端が太くなっている毛疾患の活動性、円形脱毛症に特徴的
毛髪の菲薄化毛髪が細く弱々しくなっている毛包の機能低下

血液検査で確認する項目

円形脱毛症は自己免疫疾患としての側面があるため、他の自己免疫疾患(特に甲状腺疾患など)を合併していないか、また全身状態を把握するために血液検査を行うことがあります。

甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4)や自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体など)、炎症反応(CRP)、鉄欠乏の有無(フェリチン)、亜鉛などの微量元素、膠原病関連の抗体などを調べることがあります。

検査結果は、円形脱毛症の直接的な原因を示すものではありませんが、合併症の有無や治療方針を決定する上での参考情報です。

鑑別診断 他の脱毛症との違い

女性の脱毛症には、円形脱毛症以外にも様々な種類があります。

頭頂部を中心にびまん性に毛髪が薄くなる「女性型脱毛症(FAGA)」、出産後に一時的に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」、特定の薬剤の副作用による「薬剤性脱毛症」、精神的な要因で自ら毛髪を引き抜いてしまう「抜毛症(トリコチロマニア)」、頭皮の感染症による「白癬菌感染症(頭部白癬)」などです。

円形脱毛症の診断では、これらの他の脱毛症の可能性を慎重に除外(鑑別)することが重要で、視診やダーモスコピー検査、必要に応じて皮膚生検(皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)などを行い判断します。

主な脱毛症との比較

脱毛症の種類主な特徴脱毛パターン
円形脱毛症境界明瞭な円形・楕円形の脱毛斑、爪の異常を伴うことあり単発、多発、全頭、汎発、蛇行型など多彩
女性型脱毛症(FAGA)頭頂部を中心にびまん性に薄毛が進行、前頭部の生え際は保たれることが多いびまん性、クリスマスツリーパターンなど
分娩後脱毛症出産後2~3ヶ月頃から抜け毛が増加、半年~1年程度で自然軽快することが多いびまん性
抜毛症不自然な形の脱毛斑、毛髪の太さや長さが不揃い、断毛が多い不規則、本人が毛を抜く部位

女性の円形脱毛症の治療法

円形脱毛症の治療は、脱毛の範囲、重症度、活動性、患者さんの年齢や全身状態、希望などを総合的に考慮して決定します。

残念ながら、現時点では確実に完治させる特効薬はありませんが、症状を改善させたり、毛髪の再生を促したりするための様々な治療法があります。

治療の目的と基本的な考え方

円形脱毛症の治療の主な目的は、毛包に対する免疫系の攻撃を抑制し、毛髪の再生を促すことで、また、脱毛による精神的な苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を維持することも重要な目標です。

治療法は、脱毛範囲が狭く軽症の場合は自然治癒を期待して経過観察をすることもありますが、進行が速い場合や範囲が広い場合には積極的な治療を検討します。

ステロイド外用薬と局所注射

ステロイドは、免疫反応を抑制し炎症を抑える作用があるため、円形脱毛症の治療に広く用いられます。脱毛範囲が限られている場合や軽症例では、まずステロイド外用薬(塗り薬)が選択されることが多いです。

脱毛斑に直接塗布することで、毛包周囲の炎症を抑え、発毛を促す効果が期待できます。

外用薬の種類と使い方

ステロイド外用薬には、作用の強さによっていくつかのランクがあり、円形脱毛症の治療では、中程度以上の強さのものが用いられることが一般的です。

ただし、長期間にわたる漫然とした使用は、皮膚の菲薄化や血管拡張などの副作用を起こす可能性があるため、定期的な診察のもとで使用します。

ステロイド外用薬の強さの目安

強さのランク代表的な薬剤(一般名)の例主な用途
Strongest (最も強い)クロベタゾールプロピオン酸エステル重度の皮膚疾患(円形脱毛症では限定的)
Very Strong (非常に強い)モメタゾンフランカルボン酸エステル(高濃度)難治性の皮膚疾患、円形脱毛症の一部
Strong (強い)ベタメタゾン吉草酸エステル円形脱毛症で比較的よく用いられる
Medium (中間)トリアムシノロンアセトニド軽度~中等度の円形脱毛症
Weak (弱い)プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル顔面などデリケートな部位(円形脱毛症ではあまり用いない)

注意:上記はあくまで一般的な目安であり、実際の薬剤選択や使用方法は医師の指示に従ってください。

局所注射の効果と注意点

脱毛斑が限局している場合や、外用薬の効果が不十分な場合には、ステロイドの局所注射(脱毛斑に直接注射する方法)を行うことがあり、薬剤を直接毛包周囲に届けることで、より高い効果を期待する治療法です。

通常、数週間から1ヶ月に1回の間隔で治療を行い、効果が現れるまでには数回の注射が必要な場合があります。

内服薬による治療の選択肢

脱毛範囲が広い、進行が速い、あるいは他の治療法で効果が見られない重症例では、内服薬による治療が検討されることがあります。

代表的な内服薬は、ステロイド内服薬、免疫抑制剤(シクロスポリンなど)、抗ヒスタミン薬などです。

ステロイド内服薬は、全身の免疫反応を強力に抑制するため、比較的早期に発毛効果が見られることがありますが、長期間の使用は様々な副作用(易感染性、糖尿病、骨粗鬆症、満月様顔貌など)のリスクを伴うため、医師の厳重な管理のもとで、短期間の使用や漸減療法が基本となります。

免疫抑制剤も効果が期待できる一方で、腎機能障害や高血圧などの副作用に注意が必要です。

円形脱毛症治療に用いられる主な薬剤

  • ステロイド外用薬
  • ステロイド局所注射
  • ステロイド内服薬(重症例)
  • 免疫抑制剤(重症例)
  • 抗ヒスタミン薬(かゆみなどに対して補助的)

その他の治療法(冷却療法、紫外線療法など)

局所免疫療法(SADBEやDPCPといった化学物質を脱毛部に塗布し、人工的にかぶれを起こさせて発毛を促す治療法)は、広範囲な脱毛症に対して有効な場合がありますが、かゆみや接触皮膚炎などの副作用が起こり得ます。

また、液体窒素を脱毛部に当てる冷却療法や、特定の波長の紫外線を照射する紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法など)も、一部の患者さんには効果が見られることがあります。

最近では、JAK阻害薬という新しいタイプの薬剤が、難治性の円形脱毛症に対する治療薬として注目されていますが、まだ新しい治療法であり、実施できる医療機関は限られています。

治療中の生活上の注意点とセルフケア

円形脱毛症の治療効果を高め、再発を予防するためには、医療機関での治療と並行して、日常生活におけるセルフケアも大切です。

ストレス管理の重要性

精神的ストレスは、円形脱毛症の発症や悪化の誘因の一つと考えられているため、治療中はできるだけストレスを溜め込まないように工夫することが重要です。

自分に合ったリラックス方法(趣味、運動、瞑想、ヨガなど)を見つけて実践したり、信頼できる人に悩みを相談したりするのも良いでしょう。

十分な休息を取り、心身のバランスを整えることを心がけてください。脱毛という症状自体が大きなストレス源となることもありますが、過度に気にしすぎず、治療に前向きに取り組む姿勢も大切です。

バランスの取れた食事と睡眠

健康な毛髪を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。

毛髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など)をはじめ、ビタミン類(特にビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなど)、ミネラル(特に亜鉛、鉄など)を積極的に摂取しましょう。

特定の食品だけを過剰に摂取するのではなく、多様な食材をバランス良く摂ることが大切で、また、質の高い睡眠も毛髪の成長には欠かせません。

睡眠中に分泌される成長ホルモンは、細胞の修復や再生を促し、毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠習慣を心がけ、十分な睡眠時間を確保してください。

毛髪の健康に役立つ栄養素と主な食品

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質毛髪の主成分肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛毛髪の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類
鉄分頭皮への酸素供給レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき
ビタミンB群頭皮環境を整える、代謝を助ける豚肉、レバー、魚介類、穀類、豆類
ビタミンCコラーゲン生成、鉄分吸収促進果物(柑橘類、イチゴ)、野菜(パプリカ、ブロッコリー)
ビタミンE血行促進、抗酸化作用ナッツ類、植物油、アボカド

頭皮への刺激を避ける工夫

円形脱毛症の治療中は、頭皮が敏感になっていることがあるため、シャンプーやヘアケア製品は、できるだけ低刺激性のものを選びましょう。

洗髪の際は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように注意します。

ドライヤーは、頭皮から離して低温で使用し、過度に乾燥させないようにし、また、パーマやヘアカラーは頭皮への刺激が強いため、症状が落ち着くまでは控えるのが賢明です。

ブラッシングも、頭皮を傷つけないように優しく行うことを心がけてください。

円形脱毛症の治療経過と予後

円形脱毛症の治療を開始してから効果が現れるまでの期間や、その後の経過(予後)は、患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なります。

治療効果が現れるまでの期間

軽症の単発型であれば数ヶ月から半年程度で発毛が見られることが多いですが、多発型や全頭型、汎発型などの重症例では、治療に1年以上を要することや、なかなか効果が得られない場合もあります。

ステロイド外用薬や局所注射の場合、早ければ1~2ヶ月で産毛が生え始めることもあるものの、しっかりとした毛髪に成長するにはさらに時間が必要です。

治療法別の効果発現の目安

治療法効果が現れ始める目安備考
ステロイド外用薬2~3ヶ月程度軽症~中等症の場合
ステロイド局所注射1~2ヶ月程度(数回の注射後)限局性の脱毛斑の場合
ステロイド内服薬数週間~1ヶ月程度重症例、効果は早いが副作用に注意
局所免疫療法3~6ヶ月程度広範囲な脱毛症の場合

注意:上記はあくまで目安であり、個人差が大きいため、必ずしもこの通りに経過するわけではありません。

再発の可能性と対策

円形脱毛症は、一度治癒しても再発する可能性がある疾患です。再発率は正確には分かっていませんが、約半数以上の患者さんが再発を経験するという報告もあります。

再発の時期や頻度も個人差が大きく、数ヶ月後に再発することもあれば、数年あるいは数十年後に再発することもあります。

再発を完全に予防することは難しいのが現状ですが、日頃からストレスを溜めないように心がけ、バランスの取れた食事や十分な睡眠を確保するなど、健康的な生活習慣を維持することが、再発リスクを低減させる上で役立ちます。

再発予防のために心がけたいこと

  • ストレスを上手に解消する
  • バランスの取れた食事を摂る
  • 質の高い睡眠を確保する
  • 頭皮を清潔に保ち、過度な刺激を避ける
  • 定期的な検診を受ける(医師の指示による)

よくある質問

円形脱毛症に関して、患者さんから寄せられることの多いご質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安を解消するための一助としてください。

Q
円形脱毛症は遺伝しますか
A

円形脱毛症の発症には遺伝的素因が関与していると考えられています。

家族(親子や兄弟姉妹)に円形脱毛症の方がいる場合、そうでない方と比較して発症しやすい傾向があるという報告があります。

しかし、遺伝的素因を持つ人が必ずしも発症するわけではありません。環境要因(ストレス、感染症、他の自己免疫疾患など)も複雑に関与していると考えられています。

Q
治療期間はどのくらいですか
A

軽症の単発型であれば、数ヶ月から1年程度で改善することが多いですが、多発型や全頭型、汎発型などの重症例では、治療が数年に及ぶこともあります。

また、一度治癒しても再発する可能性があるため、症状が改善した後も、医師の指示に従って定期的な経過観察が必要な場合があります。

Q
爪の症状は治りますか
A

円形脱毛症に伴う爪の症状は、脱毛症本体の症状が改善するにつれて、自然に軽快していくことが多いです。

毛髪の再生と同様に、爪も新しく健康な部分が根元から伸びてくることで、徐々に正常な状態に戻っていきます。

ただし、爪が完全に生え変わるには数ヶ月(手の爪で約半年、足の爪で約1年~1年半)かかるため、改善には時間がかかります。

Q
食生活で気をつけることはありますか
A

特定の食品が円形脱毛症を直接治したり、悪化させたりするという科学的根拠は現在のところ明確ではありませんが、健康な毛髪や爪を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。

特に、毛髪の主成分である良質なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)、毛髪の成長に必要なビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなど)、ミネラル(特に亜鉛、鉄など)を意識して摂取することが推奨されます。

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