円形脱毛症は、ある日突然、髪の毛が円形や楕円形に抜けてしまう症状で、多くの方が悩みを抱えています。女性にとっては、外見への影響も大きく、精神的な負担を感じることも少なくありません。
この症状は、ストレスやホルモンバランスの乱れなど、様々な要因が関与していると考えられていますが、中には内臓の健康状態が影響しているケースもあります。
この記事では、女性の円形脱毛症と内臓疾患との関連性について、考えられる原因や注意すべき点、そして日々の生活で心がけたいことなどを詳しく解説します。
円形脱毛症とは何か 理解を深める
円形脱毛症は、頭皮にコインのような形の脱毛斑が突然現れる疾患です。一つだけできる場合もあれば、複数できる場合、あるいは頭全体の毛髪が失われる場合や、眉毛、まつ毛、体毛にまで及ぶ場合もあります。
円形脱毛症の基本的な特徴
円形脱毛症の最も顕著な特徴は、境界が比較的はっきりとした脱毛斑ができることです。初期には自覚症状がないことも多く、美容院で指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。
脱毛斑の表面は、炎症やフケなどを伴わないことが一般的ですが、軽いかゆみや違和感を覚える人もいます。
多くの場合、脱毛した部分の毛穴は残っており、毛髪が再生する可能性は十分にありますが、症状が進行したり、広範囲に及んだりすると、回復までに時間がかかることもあります。
女性における円形脱毛症の現れ方
女性の場合、円形脱毛症は男性と同様に頭部のどの部分にも発生しえますが、びまん性の脱毛(全体的に薄くなる)と区別がつきにくいこともあります。
長髪の女性では、初期の小さな脱毛斑が見過ごされやすい傾向があります。
また、ホルモンバランスの変動が影響しやすい女性特有のライフステージ(妊娠・出産後、更年期など)において、円形脱毛症を発症したり、症状が変化したりすることもあります。
精神的なストレスが引き金になることも多いです。
円形脱毛症の種類と進行パターン
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲、部位によっていくつかの種類に分類されます。
進行パターンも様々で、数ヶ月で自然に治癒することもあれば、再発を繰り返したり、脱毛範囲が徐々に拡大したりすることもあります。
円形脱毛症の主な種類
種類 | 特徴 | 脱毛範囲 |
---|---|---|
単発型 | コイン大の脱毛斑が1箇所にできる最も一般的なタイプです。 | 限定的 |
多発型 | 脱毛斑が複数箇所にできます。時に融合して大きな脱毛斑になることもあります。 | 広範囲に及ぶことも |
全頭型 | 頭部全体の毛髪がほぼ完全に失われるタイプです。 | 頭部全体 |
汎発型(ばんぱつがた) | 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、腋毛、陰毛など全身の毛が失われます。 | 全身 |
蛇行型(だこうがた) | 後頭部から側頭部の髪の生え際に沿って、帯状に脱毛が広がります。 | 帯状(主に生え際) |
女性の健康と円形脱毛症 全体像の把握
女性の身体は非常にデリケートで、ホルモンバランスの変化や自己免疫機能、ストレスなど、様々な要因が複雑に絡み合って健康状態を維持しています。
バランスが崩れると、円形脱毛症のような症状として現れることがあります。
ホルモンバランスの変動と円形脱毛症
女性の生涯において、ホルモンバランスは周期的に、またライフステージごとに大きく変動し、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、毛髪の成長や維持に深く関わっています。
妊娠中はエストロゲンの分泌量が増加し、毛髪が抜けにくくなる傾向がありますが、出産後にはホルモンバランスが急激に変化し、一時的に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」が起こることがあります。
これは円形脱毛症とは異なりますが、ホルモンバランスが毛髪に影響を与える一例です。
更年期には女性ホルモンが減少し、毛髪が細くなったり、全体的に薄くなったりすることがあり、このような時期に円形脱毛症を発症する方もいます。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、ホルモンバランスの乱れを伴う婦人科系の疾患が、間接的に円形脱毛症のリスクを高めます。
自己免疫機能と円形脱毛症のつながり
円形脱毛症の最も有力な原因の一つとして考えられているのが、自己免疫反応です。
自己免疫とは、本来なら細菌やウイルスなどの外敵から身体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう現象を指します。
円形脱毛症の場合、免疫細胞であるTリンパ球などが、毛包を異物と認識して攻撃し、毛髪が抜け落ちてしまうのです。
なぜこのような自己免疫反応が起こるのか、その詳細な理由はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な素因や、後述する内臓疾患、ストレスなどが関与していると考えられています。
ストレスが心身に与える影響と脱毛
精神的なストレスは、自律神経系やホルモン系、免疫系のバランスを乱し、身体の様々な部分に影響を及ぼします。
過度なストレスや慢性的なストレスは、血管を収縮させて頭皮への血流を悪化させたり、免疫機能を低下させたり、あるいは逆に過剰に反応させたりすることで、円形脱毛症の引き金になったり、症状を悪化させます。
仕事や家庭環境の変化、人間関係の悩み、大きなショックを受ける出来事などがきっかけとなることもあります。
ストレスは目に見えないため軽視されがちですが、心身の健康、そして毛髪の健康を維持するためには、適切に管理することが重要です。
ストレスが起こす可能性のあるその他の身体症状
- 不眠や過眠などの睡眠障害
- 食欲不振や過食、胃痛、便秘、下痢などの消化器系の不調
- 頭痛、肩こり、めまい、動悸
- 気分の落ち込み、不安感、イライラ
遺伝的要因は関係するのか
円形脱毛症の発症には、遺伝的な要因も関与していると考えられていて、家族や親族に円形脱毛症の方がいる場合、そうでない場合に比べて発症しやすいという報告があります。
ただし、遺伝的素因があれば必ず発症するというわけではなく、あくまで「なりやすさ」に関わる一つの要素です。
円形脱毛症と関連が指摘される内臓疾患
円形脱毛症は、単独で発症することも多いですが、時に内臓の疾患が背景に隠れていることがあり、特に自己免疫疾患や内分泌系の疾患は、円形脱毛症との関連が深いとされています。
甲状腺疾患と円形脱毛症
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、身体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌しています。
甲状腺の機能に異常が生じる甲状腺疾患は、円形脱毛症を合併しやすい疾患の一つです。
甲状腺疾患も自己免疫反応が原因で起こることが多く、円形脱毛症と同じく免疫システムの異常が共通の背景にあると考えられています。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態で、代表的なものにバセドウ病があり、バセドウ病は自己免疫疾患の一つで、甲状腺を刺激する自己抗体が作られることで発症します。
症状は、動悸、息切れ、体重減少、多汗、手の震え、眼球突出などです。
代謝が異常に高まるため、エネルギー消費が激しくなり、疲労感も強くなり、毛髪に関しては、全体的に細くなったり、抜けやすくなったりすることがあり、円形脱毛症を併発することも少なくありません。
甲状腺機能低下症(橋本病など)
甲状腺ホルモンの分泌が低下する状態で、代表的なものに橋本病(慢性甲状腺炎)があり、橋本病も自己免疫疾患であり、甲状腺組織が免疫細胞によって破壊されることで機能が低下します。
症状としては、無気力、倦怠感、むくみ、体重増加、皮膚の乾燥、便秘、寒がりなどが見られます。代謝が低下するため、身体全体の活動性が鈍ります。
毛髪も乾燥しやすく、抜け毛が増えたり、眉毛の外側が薄くなったりすることがあり、円形脱毛症を合併する頻度も比較的高いです。
甲状腺疾患の症状と円形脱毛症の関連
疾患 | 主な症状の例 | 円形脱毛症との関連性 |
---|---|---|
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など) | 動悸、体重減少、発汗過多、手の震え、イライラ感、眼球突出 | 自己免疫系の異常が共通の要因として考えられます。代謝の亢進が毛髪サイクルに影響を与える可能性もあります。 |
甲状腺機能低下症(橋本病など) | 倦怠感、むくみ、体重増加、皮膚乾燥、便秘、寒がり、うつ傾向 | 自己免疫系の異常に加え、代謝の低下による毛母細胞の活動低下などが影響する可能性があります。 |
膠原病(こうげんびょう)と円形脱毛症
膠原病は、全身の結合組織(皮膚、血管、関節、内臓など)に炎症や変性が起こる疾患の総称で、多くは自己免疫の異常が原因です。
膠原病には、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、シェーグレン症候群、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎などがあり、免疫システムが自身の組織を攻撃することで発症するため、円形脱毛症を合併することがあります。
全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性エリテマトーデスは、発熱、倦怠感、関節痛、皮膚症状(顔面の蝶形紅斑など)、腎臓や神経系など全身の様々な臓器に炎症が起こる自己免疫疾患です。
若い女性に好発する傾向があり、SLEの患者さんでは、びまん性の脱毛や円形脱毛症が見られることがあります。
関節リウマチ
関節リウマチは、主に関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、変形などを起こす自己免疫疾患です。進行すると関節機能が損なわれ、日常生活に支障をきたすこともあります。
関節リウマチの患者さんでも、円形脱毛症を合併することが報告されています。
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は、主に涙腺や唾液腺などの外分泌腺が免疫細胞によって攻撃され、乾燥症状(ドライアイ、ドライマウス)を起こす自己免疫疾患です。
関節痛や皮疹、疲労感などを伴うこともあり、シェーグレン症候群の患者さんにおいても、円形脱毛症の合併が見られることがあります。
膠原病と毛髪への影響の概要
膠原病の例 | 主な症状 | 毛髪への影響の可能性 |
---|---|---|
全身性エリテマトーデス(SLE) | 蝶形紅斑、関節痛、発熱、腎障害 | びまん性脱毛、円形脱毛症、毛髪の脆弱化 |
関節リウマチ | 関節の腫れ・痛み・こわばり、微熱 | 円形脱毛症の合併、治療薬による脱毛 |
シェーグレン症候群 | ドライアイ、ドライマウス、関節痛 | 円形脱毛症の合併、乾燥による毛髪の質の低下 |
糖尿病と円形脱毛症
糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンの作用不足や分泌低下により、血糖値が高い状態が続く生活習慣病です。
高血糖の状態が長く続くと、血管や神経にダメージを与え、様々な合併症を起こします。糖尿病と円形脱毛症の直接的な因果関係はまだ明確にはなっていませんが、いくつかの関連性が指摘されています。
高血糖による血流障害は、頭皮の毛細血管にも影響を及ぼし、毛母細胞への栄養供給を滞らせる要因です。
また、糖尿病は免疫機能の低下を招くこともあり、感染症にかかりやすくなったり、自己免疫反応に影響を与えたりすることも考えられます。
さらに、一部の糖尿病患者さんでは、自己免疫性の1型糖尿病と円形脱毛症が合併するケースも報告されています。
糖尿病における注意すべき合併症と毛髪への間接的影響
合併症の種類 | 主な症状・影響 | 毛髪への間接的影響 |
---|---|---|
神経障害 | 手足のしびれ、感覚鈍麻、自律神経障害 | 頭皮の血行不良や発汗異常を招き、毛髪の生育環境を悪化させる可能性。 |
網膜症 | 視力低下、かすみ目、最悪の場合失明のリスク。 | 直接的な関連は低いものの、全身の血管障害の一環として毛髪への影響も否定できません。 |
腎症 | むくみ、タンパク尿、進行すると腎不全に至り透析が必要になることも。 | 栄養状態の悪化や老廃物の蓄積が、毛髪の健康を損なう可能性があります。 |
内臓疾患が円形脱毛症を引き起こす背景
内臓疾患が円形脱毛症の発症や悪化に関与する背景には、いくつかの共通した体の変化が考えられます。
免疫システムの異常と毛包への攻撃
円形脱毛症の主な原因は自己免疫反応と考えられています。
甲状腺疾患や膠原病といった自己免疫性の内臓疾患がある場合、免疫システム全体が不安定な状態にあり、毛包を攻撃する自己抗体やリンパ球が活性化されやすい環境です。
内臓疾患そのものが免疫系のバランスを崩し、その結果として毛包が標的となってしまうのです。
特定のHLA型(ヒト白血球抗原:免疫に関わる遺伝子マーカー)を持つ人は、自己免疫疾患にかかりやすく、円形脱毛症も発症しやすい傾向があることが知られています。
炎症性サイトカインの影響
炎症性サイトカインは、免疫細胞から分泌されるタンパク質で、炎症反応を促進したり調節したりする役割を担います。
内臓疾患、特に自己免疫疾患や慢性的な炎症を伴う疾患では、炎症性サイトカインが過剰に産生される状態です。
一部の炎症性サイトカイン(例:TNF-α、IL-1βなど)は、毛包の成長を抑制したり、毛包周囲に炎症を起こしたりすることで、脱毛を誘発する可能性が指摘されています。
サイトカインが血流に乗って全身を巡り、頭皮の毛包にも影響を与えることが考えられます。
血流障害や栄養不足の可能性
毛髪の成長には、十分な酸素と栄養素が毛母細胞に供給されることが必要です。
糖尿病や動脈硬化など、血流が悪化するような内臓疾患がある場合、頭皮の毛細血管の血流も低下し、毛母細胞が栄養不足に陥る可能性があります。
毛髪の成長サイクルが乱れたり、毛髪が細くなったり、抜けやすくなったりすることが考えられます。
また、消化器系の疾患によって、食事から摂取した栄養素が十分に吸収されない場合も、毛髪の材料となるタンパク質や、成長を助けるビタミン、ミネラルなどが不足し、脱毛の一因です。
毛髪の健康を支える主な栄養素
- タンパク質(特にケラチンを構成するアミノ酸)
- 亜鉛(細胞分裂やタンパク質の合成に重要)
- 鉄分(酸素運搬に関与し、不足すると毛髪に影響)
- ビタミンB群(B2, B6, ビオチンなどが皮膚や毛髪の健康維持に関与)
- ビタミンC(コラーゲン生成を助け、鉄分の吸収を促進)
内分泌系の乱れによる影響
ホルモンは、身体の様々な機能を調節する重要な物質です。甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、性ホルモンなどのバランスが崩れると、毛髪の成長サイクルにも影響が出ることがあります。
甲状腺ホルモンの異常は前述の通り脱毛と深く関連します。副腎皮質ホルモン(コルチゾールなど)はストレスによって分泌が増加し、過剰になると免疫機能を抑制したり、毛髪の成長期を短縮させたりする可能性があります。
また、女性ホルモンであるエストロゲンは毛髪の成長を促進する働きがありますが、バランスが崩れると脱毛につながるのです。
内分泌系の乱れで見られることのある症状と毛髪への影響
ホルモンの種類(例) | 乱れた場合の影響例(全身) | 毛髪への影響の可能性 |
---|---|---|
甲状腺ホルモン | 代謝異常(亢進または低下)、気分の変動、体重変化、心拍数の変化 | 脱毛(びまん性、円形)、毛質の変化(乾燥、脆弱化) |
副腎皮質ホルモン(コルチゾール) | 免疫抑制、血糖値上昇、高血圧、中心性肥満、気分の変動 | ストレス性の脱毛、休止期脱毛、毛髪の成長抑制 |
女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン) | 月経不順、更年期症状(ほてり、発汗)、気分の落ち込み、骨粗しょう症リスク | 分娩後脱毛症、加齢に伴うびまん性脱毛、毛髪の菲薄化 |
円形脱毛症のサインと内臓疾患の検査
円形脱毛症に気づいたとき、それが単なる髪の問題なのか、あるいは何らかの内臓疾患のサインなのかを見極めることは容易ではありません。
円形脱毛症以外の症状に注意
円形脱毛症と同時に、あるいはその前後に以下のような症状が見られる場合は、内臓疾患が関わっている可能性があります。
皮膚症状(爪の異常、白斑など)
皮膚は内臓の鏡とも言われるように、内臓の健康状態が皮膚に現れることがあり、円形脱毛症の患者さんの中には、爪に点状のへこみや横溝、もろさなどが見られることがあります。
これは、毛髪と同様に爪もケラチンというタンパク質からできており、毛包と同じように免疫系の影響を受けることがあるためです。
また、尋常性白斑(皮膚の色素が部分的に抜けて白くなる疾患)も自己免疫的な機序が考えられており、円形脱毛症と合併することがあります。
その他、原因不明の発疹、持続するかゆみ、皮膚の乾燥や硬化なども注意が必要です。
全身症状(倦怠感、体重変化、関節痛など)
原因不明の持続的な倦怠感、急激な体重の増減(数ヶ月で数キロ以上)、微熱が続く、関節の痛みや腫れ、筋肉痛、リンパ節の腫れ、口内炎が頻繁にできる、動悸や息切れ、むくみなども、内臓疾患のサインである可能性があります。
症状が円形脱毛症と同時期に見られる場合は、特に注意が必要です。
甲状腺機能亢進症では体重減少や動悸、甲状腺機能低下症では体重増加や倦怠感、膠原病では関節痛や発熱などが特徴的な症状として挙げられます。
自己免疫疾患で見られることのある皮膚・爪の症状
疾患名(例) | 主な皮膚症状の例 | 爪の異常の例 |
---|---|---|
尋常性白斑 | 皮膚の色素が部分的に脱失し、白い斑点が現れる。 | 直接的な関連は低いが、円形脱毛症との合併が見られる。 |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 顔面の蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔内潰瘍。 | 爪囲紅斑(爪の根元の赤み)、爪の菲薄化、爪甲剥離。 |
アトピー性皮膚炎 | 強いかゆみを伴う湿疹、皮膚の乾燥、苔癬化(皮膚が厚くなる)。 | 爪の点状陥凹、爪の光沢消失、爪の横溝。円形脱毛症の合併も多い。 |
医療機関で行う検査の種類
円形脱毛症の診断や、背景にある内臓疾患の有無を調べるためには、医療機関でいくつかの検査を行います。問診や視診に加えて、血液検査が中心となりますが、必要に応じて画像検査なども行われます。
血液検査
血液検査では、全身状態を把握するための一般的な項目(血球計算、肝機能、腎機能、血糖値など)に加えて、円形脱毛症や内臓疾患と関連の深い項目を調べます。
自己抗体(抗核抗体、リウマトイド因子、抗甲状腺抗体など)、甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4)、炎症反応(CRP、血沈)、鉄分や亜鉛などの微量元素などを測定することがあります。
画像検査(必要な場合)
特定の臓器の異常が疑われる場合には、超音波検査(エコー検査)、X線検査、CT検査、MRI検査などの画像検査を行うことがあります。
甲状腺疾患が疑われる場合には甲状腺エコー、関節リウマチが疑われる場合には関節のX線検査などが実施されます。
円形脱毛症と内臓疾患への対処法と生活習慣
円形脱毛症や、その背景にある可能性のある内臓疾患への対応は、専門医による正確な診断と、それに基づいた治療計画が基本です。
加えて、日々の生活習慣を見直し、心身のバランスを整えることも、症状の改善や再発予防のために大切になります。
専門医による診断と治療計画
円形脱毛症の治療は、皮膚科が専門で、脱毛の範囲や進行度、年齢、合併症の有無などを考慮して、個々の状態に合わせた治療法を選択します。
一般的な治療法は、ステロイド外用薬や内服薬、局所免疫療法(SADBE、DPCPなど)、紫外線療法などです。
内臓疾患が疑われる場合は、内科や内分泌科、膠原病科など、関連する診療科と連携して治療を進めることもあります。
内臓疾患の治療と円形脱毛症の改善
もし円形脱毛症の背景に甲状腺疾患や膠原病、糖尿病などの内臓疾患がある場合、内臓疾患自体の治療を行うことが、円形脱毛症の改善にもつながる可能性があります。
例えば、甲状腺機能の異常が是正されたり、膠原病の活動性がコントロールされたりすることで、免疫系のバランスが整い、毛包への攻撃が収まることが期待されます。
ただし、内臓疾患が改善しても、円形脱毛症がすぐに治るとは限らず、脱毛症に対する直接的な治療も並行して行うことが一般的です。
健やかな髪と体のための生活習慣
項目 | 具体的な内容の例 | 期待される効果 |
---|---|---|
バランスの取れた食事 | タンパク質(肉、魚、大豆製品)、ビタミン(緑黄色野菜、果物)、ミネラル(海藻類、ナッツ類)を偏りなく摂取する。亜鉛や鉄分も意識する。 | 毛髪の成長に必要な栄養素の補給、免疫機能の維持・向上、全身の健康増進。 |
質の高い睡眠 | 毎日同じ時間に寝起きする、寝る前のカフェインやアルコールを控える、スマートフォンやパソコンの使用を就寝直前まで行わない。 | 成長ホルモンの分泌促進、自律神経のバランス調整、疲労回復、ストレス軽減。 |
適度な運動 | ウォーキング、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど、無理のない範囲で継続できる運動を習慣にする。 | 血行促進(頭皮への血流改善)、ストレス発散、基礎代謝の向上、睡眠の質の向上。 |
ストレスマネジメントの方法
ストレスは円形脱毛症の誘因や悪化因子となるため、上手にコントロールすることが大切です。自分に合ったストレス解消法を見つけ、日常生活に取り入れましょう。
趣味に没頭する時間を作る、リラックスできる音楽を聴く、アロマテラピーを試す、親しい友人や家族と話す、自然の中で過ごすなどが挙げられます。深呼吸や瞑想も、手軽にできるストレス対処法として有効です。
頭皮ケアと毛髪に良い生活習慣
直接的な治療ではありませんが、頭皮環境を健やかに保つことも大切です。シャンプーは、洗浄力が強すぎない、自分の肌質に合ったものを選び、爪を立てずに指の腹で優しく洗いましょう。
すすぎ残しがないように丁寧に洗い流すことも重要です。ドライヤーで乾かす際は、頭皮に熱風を当てすぎないように注意し、ある程度距離を離して使用します。
また、頭皮マッサージは血行を促進し、リラックス効果も期待できますが、強くこすりすぎないように注意が必要です。喫煙は血管を収縮させ、頭皮の血流を悪化させるため、禁煙を心がけましょう。
過度な飲酒も避け、規則正しい生活を送ることが、毛髪だけでなく全身の健康維持につながります。
日常でできる頭皮ケアのポイント
- 刺激の少ないシャンプーを選び、優しく洗髪する。
- 頭皮マッサージを適度に行い、血行を促進する。
- 紫外線対策(帽子や日傘の使用)を心がける。
- 十分な睡眠とバランスの取れた食事を意識する。
よくある質問
- Q円形脱毛症は若い女性でもなりますか?
- A
円形脱毛症は年齢や性別を問わず発症する可能性があり、若い女性でも、ストレスやホルモンバランスの乱れ、自己免疫疾患などを背景に発症することがあります。
特に20代から30代の女性に多いという報告もあります。
- Q内臓の病気が治れば、円形脱毛症も必ず治りますか?
- A
内臓の病気が円形脱毛症の原因の一つとなっている場合、病気を治療することで円形脱毛症が改善に向かうことは期待できますが、必ずしも完全に治るとは限りません。
円形脱毛症の発症には複数の要因が関わっていることが多く、内臓疾患の治療と並行して、円形脱毛症自体の治療も必要となる場合があります。
- Qどのような食事が円形脱毛症の予防や改善に役立ちますか?
- A
特定の食品を食べれば円形脱毛症が治る、あるいは予防できるというものはないものの、毛髪の健康を維持するためには、バランスの取れた食事が基本です。
毛髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)、細胞の再生を助ける亜鉛(牡蠣、レバー、ナッツ類など)、血行促進や抗酸化作用のあるビタミンE(アーモンド、植物油など)、皮膚や粘膜の健康を保つビタミンB群(緑黄色野菜、魚介類など)などを意識して摂取すると良いでしょう。
参考文献
Camacho-Martinez FM. Hair loss in women. InSeminars in cutaneous medicine and surgery 2009 Mar 31 (Vol. 28, No. 1, pp. 19-32).
Herskovitz I, Tosti A. Female pattern hair loss. International Journal of Endocrinology and Metabolism. 2013 Oct 21;11(4):e9860.
Sadick N, Arruda S. Understanding causes of hair loss in women. Dermatologic clinics. 2021 Jul 1;39(3):371-4.
Moghadam-Kia S, Franks AG. Autoimmune disease and hair loss. Dermatologic clinics. 2013 Jan 1;31(1):75-91.
Springer K, Brown M, Stulberg DL. Common hair loss disorders. American family physician. 2003 Jul 1;68(1):93-102.
Shrivastava SB. Diffuse hair loss in an adult female: approach to diagnosis and management. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology. 2009 Jan 1;75:20.
Katharina W, Wolf‐Bernhard S, Christoph L. Diseases on hair follicles leading to hair loss part I: nonscarring alopecias. SKINmed: Dermatology for the Clinician. 2004 Jul;3(4):209-14.