円形脱毛症は、ある日突然、髪の一部が抜けてしまう症状で、多くの女性が悩んでいます。
特に、髪が生え始める「回復初期」は、喜びと共にさまざまな疑問や不安を感じやすい時期です。
この記事では、女性の円形脱毛症で髪が生え始める時期の特徴や、その際にどのような対策を行うと良いか、詳しく解説します。
円形脱毛症とは何か?女性特有の原因と初期症状
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛に円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。男女問わず発症しますが、女性の場合、特有の原因が関わっていることもあります。
円形脱毛症の基本的な定義
円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられ、何らかの原因で免疫系が毛包(毛を作り出す器官)を異物と誤認し攻撃してしまうことで、毛髪が成長途中で抜け落ちてしまいます。
通常、痛みやかゆみなどの自覚症状は少ないか、あっても軽微なことが多いですが、脱毛範囲や進行度合いには個人差があります。
一つの小さな脱毛斑で自然に治癒することもあれば、複数箇所に広がったり、全頭に及んだりすることもあります。
毛包自体が破壊されるわけではないため、多くの場合、毛髪は再び生えてくる可能性がありますが、回復までには時間がかかることもあり、精神的な負担を感じる方も少なくありません。
女性に円形脱毛症が起こりやすい背景
女性が円形脱毛症を発症する背景には、男性とは異なるいくつかの要因が考えられます。
ホルモンバランスの影響
女性の体は、月経周期、妊娠、出産、更年期といったライフステージを通じて、ホルモンバランスが大きく変動します。
エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、毛髪の成長サイクルにも影響を与えます。
ホルモンバランスの乱れが、免疫系の変調を引き起こし、円形脱毛症の発症や悪化に関与する可能性が指摘されています。
例えば、産後の抜け毛(分娩後脱毛症)とは別に、産後に円形脱毛症を発症するケースも見られます。
ストレスと生活習慣
仕事や家庭、育児などで多くの精神的ストレスにさらされていて、過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、免疫機能の低下や異常を起こすことがあり、円形脱毛症の引き金となることも少なくありません。
また、不規則な生活習慣、睡眠不足、偏った食生活、過度なダイエットなども、体の免疫システムやホルモンバランスに影響を与え、円形脱毛症のリスクを高める要因です。
アトピー素因
アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすい傾向があることが知られています。
アトピー素因のある人は、免疫系が過敏に反応しやすい体質であるため、毛包に対する自己免疫反応も起こりやすいのではないかと考えられています。
女性はアトピー性皮膚炎の有病率が男性より高いという報告もあり、この点も女性の円形脱毛症の一因です。
女性の円形脱毛症に関連する要因
要因 | 具体的な内容 | 考えられる影響 |
---|---|---|
ホルモンバランスの変動 | 妊娠、出産、更年期、月経不順など | 免疫系の変調、毛髪サイクルへの影響 |
精神的ストレス | 仕事、家庭環境、人間関係の悩みなど | 自律神経の乱れ、免疫機能の低下 |
生活習慣の乱れ | 睡眠不足、不規則な食事、過度なダイエット | 体の抵抗力低下、ホルモンバランスへの影響 |
見逃しやすい初期症状のサイン
円形脱毛症は、ある日突然、コイン大の脱毛に気づくことが多いですが、その前にいくつかの初期サインが現れていることもあります。
初期症状のポイント
- 頭皮の軽いかゆみや赤み
- 特定の場所の抜け毛の増加
- 切れ毛や短い毛が目立つ
- 爪の小さなへこみや横筋(まれに)
変化を感じたら、注意深く頭皮の状態を観察することが大切です。
頭皮の違和感
脱毛が始まる前に、脱毛部位にかゆみ、ピリピリとした刺激感、軽い痛み、あるいは赤みといった頭皮の違和感を覚えることがあります。
症状は必ずしも現れるわけではありませんが、普段と違う感覚があれば注意が必要です。特に、特定の箇所にだけ症状が出る場合は、円形脱毛症の初期サインかもしれません。
抜け毛の質の変化
シャンプー時やブラッシング時に、抜け毛の量が増えたと感じるだけでなく、抜け毛の質にも変化が見られることがあります。
例えば、毛根部分が細く尖っていたり、途中で切れたような短い毛が増えたりする場合です。これは、毛包が攻撃を受けて正常な毛髪の成長が妨げられている兆候である可能性があります。
回復期に入る前の円形脱毛症の進行パターン
円形脱毛症は、発症後の進行パターンに個人差があり、一つの脱毛斑が自然に治ることもあれば、数が増えたり、範囲が拡大したりすることもあります。
脱毛範囲の拡大と形状の変化
円形脱毛症の脱毛斑は、時間の経過とともに範囲や形状が変化するので、初期の小さな脱毛斑が、どのように進行していくのかを知っておきましょう。
単発型から多発型へ
最初に1箇所だけ脱毛斑が現れる「単発型」から始まることが多いですが、数週間から数ヶ月の間に、別の場所に新たな脱毛斑が出現し、「多発型」へと進行することがあります。
新しい脱毛斑は、最初のものと近い場所にできることもあれば、離れた場所にできることもあります。
この時期は、症状が広がっているように感じ、不安が増すかもしれませんが、多発型でも治療で回復するケースは多いです。
脱毛斑の融合
複数の脱毛斑が近くに存在する場合、徐々に拡大し、やがて融合して大きな不規則な形の脱毛斑になることがあります。
脱毛面積が急速に広がったように見えるため、心配になるかもしれませんが、これも円形脱毛症の進行パターンの一つです。
蛇行型などの特殊なケース
まれに、脱毛斑が後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に広がる「蛇行性脱毛症」というタイプもあり、治療に時間がかかる傾向があると言われています。
さらに進行すると、頭髪全体が抜け落ちる「全頭型」や、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける「汎発型」に至ることもありますが、円形脱毛症全体の数パーセント程度です。
円形脱毛症の進行タイプ
タイプ | 特徴 | 一般的な経過 |
---|---|---|
単発型 | 脱毛斑が1箇所のみ | 自然治癒することも多いが、多発型へ移行も |
多発型 | 脱毛斑が複数箇所に存在 | 脱毛斑が融合し拡大することがある |
蛇行型 | 生え際に沿って帯状に脱毛 | 治療に時間を要することがある |
脱毛部位の頭皮状態
脱毛斑の頭皮は、健康な部分とは異なる状態を示します。
色の変化
活動期の脱毛斑は、軽い炎症を伴ってわずかに赤みを帯びることがあり、炎症が治まると、頭皮は通常の肌色に戻るか、やや白っぽく見えることがあります。
慢性期には、頭皮が少し光沢を帯びて見えることもあります。
頭皮の硬さ
炎症が起きている時期には、脱毛斑の皮膚が少し腫れぼったく感じられることがありますが、炎症が治まり、回復期に近づくと、頭皮の硬さも正常に戻ってきます。
長期間脱毛が続いている部位では、皮膚がやや薄く、硬く感じられます。
毛穴の状態
円形脱毛症では、毛包自体が破壊されるわけではないため、脱毛斑の毛穴は通常、はっきりと確認でき、毛穴がふさがっていたり、瘢痕化したりすることは稀です。
回復期には、毛穴から新しい髪の毛が生え始めます。
全身症状との関連性
円形脱毛症は、頭皮だけの問題ではなく、全身の健康状態と関連していることがあり、特に自己免疫疾患との関連が指摘されています。
自己免疫疾患の併発
円形脱毛症の患者さんの中には、他の自己免疫疾患を併発している場合があります。
代表的なものは、甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病)、尋常性白斑、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)などです。
アレルギー疾患
前述の通り、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患を持つ人に円形脱毛症が発症しやすい傾向があります。
精神的影響
円形脱毛症は外見に影響を与えるため、患者さんにとって大きな精神的ストレスとなることがあります。不安感、気分の落ち込み、自信の喪失などを感じる方も少なくありません。
精神的な負担が、さらに症状を悪化させるという悪循環に陥ることもあり、心理的なサポートを受けることも大切です。
円形脱毛症の「生え始め」とは?回復初期のサインを見極める
円形脱毛症の治療やケアを続ける中で、最も待ち遠しいのが髪が生え始める兆候で、この生え始めは、回復が始まったことを示す大切なサインです。
回復が始まる時の頭皮の変化
髪の毛が生え始める前触れとして、まず頭皮に変化が現れることがあり、日々の観察で変化に気づければ、回復への期待も高まります。
うぶ毛の出現
最も分かりやすい回復のサインは、脱毛斑に細くて短いうぶ毛が生え始めることです。
うぶ毛は、脱毛斑の中心部から生え始めることもあれば、脱毛斑の縁から徐々に内側に向かって生えてくることもあります。
最初はまばらで頼りない感じがするかもしれませんが、これが力強い髪へと成長していく第一歩です。
頭皮の色の正常化
円形脱毛症の活動期には、脱毛斑が赤みを帯びたり炎症を起こしたりすることがありますが、回復期に入ると、炎症が治まり、頭皮の色が健康な状態に戻ってきます。
赤みが引き、通常の肌色に近づいてきたら、それは毛包の活動が再開しやすい環境が整ってきたサインかもしれません。
かゆみや刺激感の軽減
脱毛斑に見られたかゆみやピリピリとした刺激感が和らいでくるのも、回復初期の兆候の一つです。炎症が鎮静化し、頭皮の状態が安定してくると、これらの不快な症状も軽減していきます。
ただし、新しい毛が生え始める際に、一時的に軽いかゆみを感じることもあります。
生え始めの毛髪の特徴
回復初期に生えてくる髪の毛には、いくつかの特徴があるものの、一時的なものであることが多いので、心配しすぎないようにしましょう。
細く柔らかい毛
最初に生えてくる毛は、多くの場合、産毛のように細く、柔らかいのが特徴です。
コシがなく、頼りない感じがするかもしれませんが、毛包の機能が回復するにつれて、徐々に太く、しっかりとした毛髪へと成長していきます。
色素の薄い毛
生え始めの毛は、色が薄く、白髪や金髪のように見えることがあり、毛髪の色素を産生するメラノサイトの機能がまだ十分に回復していないために起こります。
しかし、これも一時的な現象で、時間が経つにつれて徐々に本来の髪色に戻っていくことが一般的です。
縮れた毛が生えることも
円形脱毛症の回復期に、一時的にくせ毛や縮れた毛が生えてくることがあり、これは毛包の形状が一時的に変化したり、毛髪の成長が不均一になったりするために起こると考えられています。
多くの場合、髪が伸びるにつれて、元の毛質に戻っていきます。
回復初期の毛髪の状態
特徴 | 詳細 | その後の変化 |
---|---|---|
細さ・柔らかさ | 産毛のように細く、コシがない | 徐々に太く、しっかりとした毛に成長 |
色 | 白髪や金髪のように色素が薄い | 時間と共に本来の髪色に戻ることが多い |
形状 | 一時的に縮れたり、くせ毛になったりすることがある | 伸びるにつれて元の毛質に戻ることが多い |
感嘆符毛の減少
円形脱毛症の活動期には、毛根部が細く、毛先に向かって太くなる「感嘆符毛(!マークのような毛)」が見られることがあります。
これは、毛包への攻撃により毛髪の成長が途中で止まり、抜け落ちる寸前の毛髪です。回復期に入ると、これらの感嘆符毛が減少し、健康な毛髪が増えてきます。
回復初期に見られるその他の兆候
毛髪や頭皮の変化以外にも、回復初期を示すサインがあります。
脱毛範囲の縮小
新しい脱毛斑の出現が止まり、既存の脱毛斑の範囲が徐々に小さくなっていくのは、明確な回復のサインです。脱毛斑の縁からうぶ毛が生え始め、中心部に向かって徐々に毛髪で覆われていく様子が観察できます。
抜け毛の量の減少
シャンプー時やブラッシング時の抜け毛の量が明らかに減ってくるのも、重要な回復の兆候です。毛包への攻撃が弱まり、毛髪がしっかりと毛根に留まるようになると、抜け毛は次第に通常の範囲に戻っていきます。
回復初期に心がけたい生活習慣とセルフケア
円形脱毛症の髪が生え始める回復初期は、非常にデリケートな時期で、この時期に適切な生活習慣を送り、正しいセルフケアを行うことは、健康な髪の成長を促し、再発を防ぐためにも重要です。
バランスの取れた食事の重要性
健康な髪を育むためには、体の中から必要な栄養素を補給することが基本です。特に回復初期は、新しい髪の毛が作られる大切な時期なので、バランスの取れた食事を意識しましょう。
髪の成長に必要な栄養素
髪の主成分はケラチンというタンパク質です。そのため、良質なタンパク質の摂取は欠かせません。
また、タンパク質の合成を助ける亜鉛、頭皮の血行を促進するビタミンE、細胞の代謝を活発にするビタミンB群、コラーゲンの生成に関わるビタミンC、酸素を運搬する鉄分なども、髪の成長にとって重要な栄養素です。
摂取を心がけたい食品群
これらの栄養素を効率よく摂取するためには、特定の食品に偏るのではなく、多様な食品をバランス良く食べることが大切です。
肉類、魚介類、卵、大豆製品(タンパク質、亜鉛)、緑黄色野菜(ビタミン類)、ナッツ類(ビタミンE、亜鉛)、海藻類(ミネラル)などを積極的に取り入れましょう。
髪の成長をサポートする栄養素と食品
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分であるケラチンの材料 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成、細胞分裂の促進 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
ビタミンB群 | 頭皮の代謝促進、皮脂バランス調整 | 豚肉、レバー、魚介類、豆類、緑黄色野菜 |
避けた方が良い食習慣
一方で、脂質の多い食事や糖分の過剰摂取、インスタント食品や加工食品に偏った食事は、頭皮環境を悪化させたり、体の栄養バランスを崩したりする可能性があるため、控えましょう。
また、過度なダイエットは栄養不足を招き、髪の成長を妨げる原因となります。
質の高い睡眠を確保する工夫
睡眠中には成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や再生が活発に行われ、健康な髪の成長のためにも、質の高い睡眠を十分に確保することが重要です。
睡眠時間の確保
一般的に、成人には6時間から8時間の睡眠が必要とされています。
成長ホルモンが多く分泌されると言われる午後10時から午前2時の間に眠りについていることが理想的ですが、難しい場合でも、毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠リズムを整えることを目指しましょう。
質の高い睡眠のためのポイント
- 寝る前にカフェインやアルコールの摂取を避ける
- 就寝1〜2時間前に入浴し、リラックスする
- 寝室は暗く静かで、快適な温度・湿度に保つ
- スマートフォンやパソコンの使用は就寝前には控える
睡眠環境の整備
快適な睡眠環境を整えることも大切です。寝室は暗く、静かで、適度な温度と湿度に保ち、自分に合った寝具(枕やマットレス)を選ぶことも、睡眠の質を高めるのに役立ちます。
ストレスマネジメントと心身のケア
ストレスは円形脱毛症の大きな誘因の一つであり、回復を遅らせる可能性もあります。回復初期には、心身のストレスを上手にコントロールし、穏やかに過ごすことが大切です。
自分に合ったストレス解消法
ストレスを完全に避けることは難しいかもしれませんが、自分に合った方法でこまめに解消することが重要です。
趣味に没頭する時間を作る、適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)を行う、自然の中で過ごす、親しい友人と話すなど、心が安らぐことや楽しめることを見つけましょう。
頭皮への優しいケア方法
回復初期の頭皮や生え始めの髪は非常にデリケートで、刺激を与えないよう、優しくケアすることが大切です。
シャンプーの選び方と洗い方
シャンプーは、洗浄力が強すぎない低刺激性のもの(アミノ酸系など)を選びましょう。洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、シャンプー剤が残らないよう十分にすすぎます。
熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させる原因になるため、ぬるま湯を使用するのがおすすめです。
頭皮マッサージの注意点
頭皮マッサージは血行を促進し、髪の成長を助ける効果が期待できますが、やりすぎや力の入れすぎは禁物です。指の腹を使って、優しく揉みほぐすように行ってください。
特に生え始めの時期は、強い刺激を与えないように注意が必要です。
紫外線対策
紫外線は頭皮にダメージを与え、乾燥や炎症を起こす可能性があります。外出時には、帽子や日傘を利用して、頭皮を紫外線から守りましょう。
円形脱毛症の回復をサポートする医療機関での対策
円形脱毛症の「生え始め」が見られたとしても、自己判断で治療を中断せず、医療機関(主に皮膚科)での適切な診断と治療を継続することが、確実な回復と再発予防のために重要です。
皮膚科専門医による正確な診断
円形脱毛症の症状や進行度合いは個人差が大きいため、まずは皮膚科専門医による正確な診断を受けることが治療の第一歩です。医師は、症状を詳しく観察し、適切な治療方針を立てます。
視診と問診
医師はまず、脱毛斑の数、大きさ、形状、分布、頭皮の状態(色、炎症の有無など)、毛髪の状態(うぶ毛の有無、切れ毛、感嘆符毛など)を詳しく観察します。
また、いつから症状が始まったか、過去の病歴、家族歴、生活習慣、ストレスの状況などについて問診を行います。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは、皮膚や毛髪を拡大して観察する特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を用いた検査です。
肉眼では分かりにくい毛穴の状態、毛髪の太さや形状、頭皮の微細な血管のパターンなどを詳細に確認でき、円形脱毛症の活動性の評価や、他の脱毛症との鑑別に役立ちます。
血液検査の必要性
円形脱毛症は、甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患を合併している場合があるため、血液検査を行うことがあり、全身的な健康状態や、他の疾患の有無、栄養状態(鉄欠乏など)などを調べられます。
一般的な治療法の選択肢
円形脱毛症の治療法は、症状の範囲や重症度、年齢、合併症の有無などに応じて選択されます。医師とよく相談し、自分に合った治療法を選びましょう。
ステロイド外用薬
軽症から中等症の円形脱毛症に対して、まず検討される治療法の一つです。ステロイドには免疫反応を抑え、炎症を鎮める作用があります。
ローションタイプやクリームタイプ、軟膏タイプなどがあり、脱毛斑に直接塗布します。
副作用としては、長期使用による皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること)や毛細血管拡張などがありますが、医師の指示通りに使用すれば、比較的安全性の高い治療法です。
ステロイド局所注射
脱毛斑に直接ステロイド薬を注射する治療法です。外用薬よりも薬剤が深部に浸透しやすいため、より高い効果が期待でき、通常、数週間から1ヶ月に1回の間隔で行います。
効果は比較的早く現れることが多いですが、注射時の痛みや、まれに注射部位が一時的にへこむ(皮膚萎縮)といった副作用が起こることがあります。
局所免疫療法(SADBE、DPCP)
広範囲に及ぶ難治性の円形脱毛症に対して行われる治療法です。
SADBE(スクアレン酸ジブチルエステル)やDPCP(ジフェニルシクロプロペノン)といった化学物質を脱毛斑に塗布し、人工的に軽いかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせることで、毛包への免疫反応を別の方向へ向けさせ、発毛を促します。
治療には数ヶ月以上かかり、かゆみや湿疹などの副作用が出ることがあります。
円形脱毛症の主な治療法
治療法 | 対象となる症状の目安 | 期待される効果・特徴 |
---|---|---|
ステロイド外用薬 | 軽症~中等症、脱毛範囲が限定的 | 脱毛斑の炎症を抑え、発毛を促す。比較的副作用が少ない。 |
ステロイド局所注射 | 単発型~多発型、外用薬で効果不十分な場合 | 薬剤が直接作用し、比較的早期の効果が期待できる。 |
局所免疫療法 | 広範囲、難治性の場合 | 免疫反応を変化させ発毛を促す。治療期間が長くなることがある。 |
その他の治療法
かゆみが強い場合には抗ヒスタミン薬の内服、血行促進やアレルギー反応を抑える目的でセファランチンやグリチルリチン製剤の内服、発毛効果が期待されるミノキシジルの外用などが補助的に用いられることがあります。
重症例では、ステロイドの内服や紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法など)が検討されることもありますが、副作用のリスクも考慮し、慎重に判断されます。
治療期間と回復の見通し
円形脱毛症の治療期間や回復の見通しは、個人差が非常に大きいので、焦らず、根気強く治療を続けることが大切です。
個人差が大きい回復期間
軽症の単発型であれば、数ヶ月で自然に治癒することもありますが、多発型や広範囲に及ぶ場合は、治療に1年以上かかることも珍しくありません。
年齢、脱毛の範囲や期間、基礎疾患の有無、ストレスの状況なども回復期間に影響します。
根気強い治療の継続
治療効果がすぐに現れなくても、自己判断で治療を中断したり、頻繁に医療機関を変えたりすることは避けましょう。医師の指示に従い、定期的に通院し、根気強く治療を続けることが、回復への近道です。
回復期の髪を育むための注意点と工夫
円形脱毛症の「生え始め」が見られ、回復期に入った髪はまだデリケートで、この時期の髪と頭皮を健やかに育むためには、日々の扱いやスタイリングにも注意が必要です。
生え始めのデリケートな髪の扱い方
ようやく生えてきた新しい髪は、まだ細く弱いため、特に優しく扱う必要があり、無理な力を加えたり、刺激を与えたりしないように注意しましょう。
ブラッシングの注意
ブラッシングは、髪のもつれを解き、頭皮の血行を促進する効果がありますが、やり方には注意が必要です。
目の粗い、先端が丸いブラシを選び、まずは毛先のもつれを優しく解きほぐしてから、根元からゆっくりととかしましょう。濡れた髪は特に切れやすいので、無理に引っ張らないようにします。
ヘアドライヤーの使い方
洗髪後は、タオルで優しく水分を吸い取り、ヘアドライヤーで乾かします。この時、ドライヤーの熱風を頭皮や髪に近づけすぎると、乾燥やダメージの原因になります。
頭皮から20cm以上離し、低温または冷風で、一箇所に集中して当てすぎないように、全体を均一に乾かすのがポイントです。
パーマやカラーリングはいつから?
パーマやカラーリング剤は、頭皮や髪に大きな負担をかける可能性があります。回復期のデリケートな時期には避けるのが賢明です。
行う場合は、髪と頭皮が十分に回復し、しっかりとした毛が生え揃ってから、少なくとも数ヶ月は様子を見て、医師に相談した上で検討しましょう。
再発予防のためにできること
円形脱毛症は、一度治っても再発することがある疾患です。完全に再発を防ぐことは難しいかもしれませんが、日々の生活で気をつけることで、そのリスクを減らす努力はできます。
再発予防のための心がけ
- バランスの取れた食事を継続する
- 質の高い睡眠を十分に取る
- ストレスを溜め込まない工夫をする
- 定期的に頭皮の状態をチェックする
生活習慣の見直し継続
回復期に心がけてきたバランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレスマネジメントといった健康的な生活習慣は、再発予防のためにも引き続き重要です。
免疫力を正常に保ち、心身ともに健やかな状態を維持することが、円形脱毛症の再発リスクを低減することにつながります。
定期的な頭皮チェック
自分で鏡を使って頭皮全体をチェックしたり、家族に協力してもらったりして、定期的に頭皮の状態を確認する習慣をつけましょう。
小さな脱毛斑や抜け毛の増加など、再発の初期サインに早く気づくことができれば、早期に適切な対応を取ることができます。
女性の円形脱毛症に関するよくある質問(Q&A)
ここでは、女性の円形脱毛症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安の解消にお役立てください。
- Q円形脱毛症は遺伝しますか?
- A
円形脱毛症の発症には、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
家族(親子や兄弟姉妹)に円形脱毛症の方がいる場合、そうでない人に比べて発症するリスクがやや高くなるという報告があります。
ただし、必ず遺伝するというわけではなく、遺伝的素因に加えて、ストレス、自己免疫の異常、アトピー素因、感染症など、さまざまな環境要因が複雑に絡み合って発症します。
- Q回復までどのくらいの期間がかかりますか?
- A
脱毛斑が1つか2つ程度の軽症の場合は、数ヶ月から1年以内に自然に治癒することも少なくありません。
しかし、脱毛斑が多発している場合や、全頭型、汎発型といった重症型の場合は、治療に1年以上、時には数年単位の時間がかかることもあります。
- Q食事だけで改善しますか?
- A
バランスの取れた食事は、髪の毛の主成分であるタンパク質や、髪の成長に必要なビタミン、ミネラルを供給し、健康な髪を育む上で大切です。
医療機関での診断と治療と並行して、補助的な役割として食生活を見直し、栄養バランスを整えることが、回復を助けると考えられます。
- Q完治後、再発することはありますか?
- A
残念ながら、円形脱毛症は一度治癒しても再発することがある疾患です。再発率は正確には分かっていませんが、約30~50%程度の方が再発を経験するという報告もあります。
完治後も、ストレスを避け、規則正しい生活習慣を維持し、免疫バランスを整えるよう心がけることが、再発リスクを低減するためには重要です。
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