円形脱毛症は、ある日突然、髪の毛が円形や楕円形に抜け落ちる症状で、多くの方が悩んでいます。特に女性にとっては、外見の変化だけでなく、精神的な負担も大きいものです。
この症状に伴い、頭痛や頭皮に痛みを感じる方も少なくありません。
この記事では、女性の円形脱毛症と、それに伴う頭痛や頭皮の痛み、その他の頭皮症状について、原因や対処法、医療機関での対応などを詳しく解説します。
円形脱毛症とは何か?女性特有の要因も解説
円形脱毛症は、多くの方がその名を知る脱毛症の一つですが、その実態や原因については誤解も少なくありません。
円形脱毛症の基本的な定義と特徴
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛に、境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が突然生じる疾患です。
多くの場合、自覚症状がないまま進行しますが、中には軽度のかゆみや違和感、そして本記事のテーマである頭皮の痛みを感じることもあります。
脱毛斑は一つだけの場合もあれば、複数出現することもあり、大きさも様々です。進行すると脱毛斑が拡大したり、融合したりすることもあります。
女性における円形脱毛症の一般的な原因
女性の円形脱毛症の原因は一つに特定できないことが多いですが、いくつかの要因が複雑に関与していると考えられていますが、最も有力な説は、自己免疫疾患の一つであるというものです。
これは、免疫系が誤って自身の毛包(毛根を包む組織)を攻撃してしまうことで、毛髪の成長が阻害され脱毛が起こるという考え方です。
その他、精神的なストレス、アトピー素因(アレルギー体質)、遺伝的要因、ホルモンバランスの変動などが関与している可能性が指摘されています。
特に女性の場合、妊娠・出産や更年期など、ホルモンバランスが大きく変動する時期に発症したり、症状が変化したりすることがあります。
男性と女性の円形脱毛症の違い
円形脱毛症の基本的な発症の仕組みに男女差は大きくないと考えられていますが、発症のきっかけや併発しやすい疾患、心理的な影響などに違いが見られることがあります。
女性の場合、甲状腺疾患や膠原病といった自己免疫疾患を合併する割合が男性よりもやや高いという報告もあります。
円形脱毛症の種類と進行パターン
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲によっていくつかのタイプに分類され、それぞれのタイプで進行パターンや治療への反応も異なることがあります。
ご自身の状態を把握するためにも、どのような種類があるのかを知っておくことは大切です。
円形脱毛症の主な種類
種類 | 特徴 | 脱毛範囲 |
---|---|---|
単発型 | 1ヶ所に円形または楕円形の脱毛斑ができる、最も一般的なタイプです。 | 限局的 |
多発型 | 複数の脱毛斑が同時に、あるいは次々と出現します。脱毛斑が融合することもあります。 | 広範囲に及ぶ可能性 |
全頭型 | 頭部全体の毛髪がほぼ完全に失われる状態です。進行が早い場合に見られます。 | 頭部全体 |
汎発型(ばんぱつがた) | 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が失われる最も重症なタイプです。 | 全身 |
蛇行型(だこうがた) | 後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛が広がるタイプです。治療に時間がかかることがあります。 | 生え際 |
円形脱毛症と頭痛・頭皮の痛みの関連性
円形脱毛症を発症した方の中には、脱毛症状だけでなく、頭痛や頭皮の痛みに悩まされるケースがあり、痛みは、脱毛そのものとは異なる苦痛をもたらすことがあります。
なぜ円形脱毛症で頭痛や頭皮の痛みが起こるのか
円形脱毛症で頭痛や頭皮の痛みが起こる正確な理由は完全には解明されていませんが、一つは、毛包周囲で起きている炎症反応が、知覚神経を刺激するためです。
免疫細胞が毛包を攻撃する際に放出される物質が、痛みや違和感を起こすことがあります。
また、脱毛という状況自体が精神的なストレスとなり、それが頭痛(特に緊張型頭痛)や頭皮の知覚過敏を引き起こすことも考えられ、さらに、血行不良が関連しているという見方もあります。
頭皮の炎症と痛みの関係
円形脱毛症の活動期には、脱毛斑やその周辺の頭皮に炎症が見られることがあり、炎症は、赤み、軽度の腫れ、そして「頭皮の痛み」として感じられることがあります。
炎症が強い場合、ピリピリとしたり、ズキズキとしたりするような痛みが生じることがあります。
この痛みは、免疫反応が活発であることのサインの一つとも考えられ、脱毛が進行している時期に感じやすいです。
神経性の痛みと円形脱毛症
頭皮には多くの知覚神経が分布していて、円形脱毛症における免疫反応や炎症が神経を直接的または間接的に刺激することで、神経性の痛みが生じることがあります。
これは、触れただけでも痛い、何もしなくてもジンジンする、といったような多様な感覚として現れることがあります。
特に脱毛が急速に進行する場合や、広範囲に及ぶ場合に、このような神経性の痛みを訴える方がいます。
痛みの種類と特徴
円形脱毛症に伴う頭皮の痛みは、人によって感じ方が異なります。
頭皮の痛みの表現例
痛みの種類 | 感じ方・表現の例 | 主な原因の可能性 |
---|---|---|
ピリピリする痛み | 針で軽く刺されるような、電気が走るような感覚。表面的な痛み。 | 神経の刺激、炎症初期 |
ズキズキする痛み | 脈打つような、疼くようなやや強い痛み。深部からの痛み。 | 炎症、血行不良 |
ヒリヒリする痛み | 日焼け後のような、表面が擦り切れたような痛み。持続的な痛み。 | 炎症、乾燥、外部刺激 |
圧痛(あっつう) | 押すと痛む、触れると痛む。特定の部位に限局することが多い。 | 炎症、むくみ |
ジンジンする痛み | しびれるような、鈍く持続する痛み。違和感を伴うことが多い。 | 神経の刺激、血行不良 |
頭皮の痛みや頭痛を伴う円形脱毛症の症状
円形脱毛症は脱毛が主な症状ですが、それに付随して頭皮の痛みや頭痛といった「頭皮症状」が現れることがあり、症状は、脱毛のサインであったり、脱毛の活動性を示唆したりすることがあります。
初期症状としての頭皮の違和感
脱毛が始まる前に、頭皮に何らかの違和感を覚えることがあり、円形脱毛症の初期症状の一つと考えられます。はっきりとした痛みではなくても、以下のような感覚がある場合は注意が必要です。
頭皮の初期症状
- 脱毛が始まる前の頭皮のピリピリ感やチクチク感
- 特定の部位の軽いかゆみやむずむずするような違和感
- 触れると軽い痛みを感じる部分がある、または何となく敏感になっている
- 頭皮の一部がわずかに赤みを帯びたり、熱っぽく感じたりする
症状は必ずしも円形脱毛症に直結するわけではありませんが、普段と異なる感覚が続く場合は、頭皮の状態を注意深く観察することが大切です。
脱毛斑周辺の痛みや赤み
円形脱毛症が活動期に入り、実際に脱毛が始まると、脱毛斑やその周辺に明らかな痛みや赤みが出現することがあり、これは、毛包周囲で炎症が起きている兆候です。
痛みは、ジンジンとしたり、触れると痛い(圧痛)といった形で感じられることが多く、赤みは、炎症によって血管が拡張しているために起こります。
このような症状は、免疫細胞が活発に毛包を攻撃しているサインであり、脱毛がさらに進行する可能性を示唆しています。
頭痛の具体的な症状と持続時間
円形脱毛症に伴う頭痛は、主に緊張型頭痛の様相を呈することが多く、後頭部から首筋にかけて重苦しい感じがしたり、頭全体が締め付けられるような鈍い痛みが特徴です。
精神的なストレスや不安が誘因となることが多く、円形脱毛症の悩みそのものが頭痛を起こす悪循環に陥ることもあります。
頭痛の持続時間は数時間から数日に及ぶこともあり、日常生活に支障をきたす場合もあり、痛みの強さや頻度には個人差が大きいです。
円形脱毛症における頭皮の痛みの原因と対策
円形脱毛症に伴う頭皮の痛みは、多くの方にとってつらい症状です。この痛みがなぜ起こるのか、その原因を理解することは、適切な対策を講じるための第一歩となります。
自己免疫反応と炎症
円形脱毛症の最も有力な原因は自己免疫反応です。リンパ球などの免疫細胞が、自身の毛包を異物と誤認して攻撃し、この過程で、毛包周囲に炎症が起きます。
炎症が起こると、サイトカインなどの化学物質が放出され、これらが知覚神経を刺激して痛みを発生させます。
特に脱毛が活発な時期には、この炎症反応が強く現れ、頭皮の痛みや赤み、腫れといった「頭皮症状」として自覚されることがあります。
ストレスや生活習慣の影響
精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、免疫機能にも影響を与えることが知られています。
過度なストレスは、円形脱毛症の発症や悪化の誘因となる可能性があり、同時に頭皮の知覚過敏や痛みを増強させることもあります。
また、睡眠不足、不規則な食生活、喫煙といった生活習慣の乱れも、体の免疫バランスを崩し、頭皮環境を悪化させることで、間接的に痛みを引き起こす要因です。
頭皮環境の悪化と痛み
円形脱毛症自体が頭皮環境に影響を与えることもありますが、不適切なヘアケアや外部からの刺激も頭皮環境を悪化させ、痛みを誘発する原因となります。
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、頻繁なパーマやカラーリング、頭皮の乾燥や過剰な皮脂分泌などは、頭皮のバリア機能を低下させ、炎症やかゆみ、痛みを起こしやすくします。
また、毛穴の詰まりや雑菌の繁殖も、痛みの原因です。
頭皮の痛みの主な原因要素
原因カテゴリー | 具体的な要因例 | 痛みへの影響 |
---|---|---|
自己免疫反応 | 毛包へのリンパ球浸潤、炎症性サイトカインの放出 | 脱毛斑周辺の赤み、腫れ、ピリピリ・ズキズキする痛みを引き起こす |
ストレス・生活習慣 | 自律神経の乱れ、血行不良、免疫機能の低下、睡眠不足 | 頭皮の緊張、知覚過敏、炎症の悪化、痛みの増強を招く |
頭皮環境の悪化 | 乾燥、過剰な皮脂、毛穴の詰まり、不適切なヘアケア、雑菌の繁殖 | かゆみ、フケ、炎症を伴うヒリヒリする痛みや圧痛を誘発する |
日常でできる頭皮ケアと痛みの軽減策
頭皮の痛みを軽減するためには、まず頭皮を清潔に保ち、刺激を避けることが基本です。シャンプーは低刺激性のものを選び、爪を立てずに指の腹で優しく洗い、すすぎ残しがないように注意しましょう。
ドライヤーは頭皮から離して使用し、過度に乾燥させないようにします。また、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、ストレスを溜め込まないようにすることも大切です。
円形脱毛症に伴う頭痛の原因と対処法
円形脱毛症に悩む方の中には、頭痛も併発している場合があります。脱毛の悩みと頭痛が重なると、心身ともに大きな負担となります。
精神的ストレスと緊張型頭痛
円形脱毛症を発症すると、外見の変化や周囲の視線に対する不安、将来への心配などから、大きな精神的ストレスを感じることが少なくありません。
持続的なストレスは、首や肩、頭部の筋肉を緊張させ、「緊張型頭痛」を起こす主な原因です。
緊張型頭痛は、頭全体が締め付けられるような、あるいは圧迫されるような鈍い痛みが特徴で、数時間から数日間続くことがあり、円形脱毛症の症状と頭痛が相互に影響し合い、悪循環に陥ることもあります。
血行不良と頭痛の関係
ストレスや長時間の同じ姿勢、運動不足などは、頭部や首周りの血行不良を起こします。血行が悪くなると、筋肉内に疲労物質が蓄積しやすくなり、これが神経を刺激して頭痛を誘発することがあります。
また、円形脱毛症の病態として、毛包周囲の血流低下が指摘されることもあり、これが間接的に頭痛に関与している可能性も考えられます。
頭皮マッサージなどで血行を促すことも一つの方法ですが、炎症や痛みがある場合は慎重に行うことが必要です。
睡眠不足や生活リズムの乱れ
睡眠不足や不規則な生活リズムは、自律神経のバランスを崩し、頭痛を起こしやすくします。円形脱毛症による悩みや不安が不眠につながり、頭痛が悪化するというケースも見られます。
質の高い睡眠を確保し、規則正しい生活を送ることは、頭痛の予防・改善だけでなく、体全体の免疫機能を整え、円形脱毛症の治療にとっても良い影響を与える可能性があります。
頭痛のタイプと円形脱毛症との関連
頭痛のタイプ | 円形脱毛症との関連性・特徴 | 主な症状 |
---|---|---|
緊張型頭痛 | 円形脱毛症による精神的ストレス、不安、うつ状態が誘因となりやすい。首や肩こりを伴うことも多い。 | 頭全体が締め付けられるような鈍い痛み、圧迫感、重苦しさ。 |
片頭痛 | 円形脱毛症との直接的な関連は低いとされるが、ストレスが共通の誘因となる場合がある。女性に多い。 | ズキンズキンと脈打つような強い痛み。吐き気、光や音に過敏になることも。 |
後頭神経痛 | 後頭部の神経(大後頭神経など)が刺激されることで起こる。頭皮の炎症が関連することも稀にある。 | 後頭部から頭頂部、側頭部にかけての鋭い、電気が走るような痛み。短時間で繰り返す。 |
頭痛を和らげるためのセルフケア
円形脱毛症に伴う頭痛、特に緊張型頭痛に対しては、セルフケアで症状を和らげることが期待できます。以下にいくつかのポイントを挙げます。
頭痛緩和のためのセルフケアのポイント
- 十分な睡眠時間を確保し、毎日同じ時間に寝起きするなど規則正しい生活を送る。
- 首や肩周りの筋肉をほぐすストレッチや適度な運動(ウォーキングなど)を習慣にする。
- ぬるめのお風呂にゆっくり浸かるなどしてリラックスする時間を作る。
- ストレスの原因と向き合い、自分なりのストレス解消法を見つける(趣味、瞑想など)。
ただし、頭痛が頻繁に起こる、市販薬が効かない、痛みが非常に強いといった場合は、他の疾患の可能性も考慮し、医療機関を受診することが大切です。
医療機関での診断と治療の選択肢
円形脱毛症やそれに伴う頭皮の痛み、頭痛といった症状が現れた場合、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。
専門医による正確な診断の重要性
円形脱毛症は特徴的な脱毛斑から比較的診断が容易な場合もありますが、他の脱毛症(例えば、女性型脱毛症や抜毛症など)や皮膚疾患との鑑別が必要なケースもあります。
特に頭皮の痛みや強いかゆみ、広範囲な脱毛がある場合は、その原因を正確に特定することが治療方針を決定する上で非常に重要です。
皮膚科専門医は、視診や問診に加え、必要に応じてダーモスコピー検査(頭皮や毛髪を拡大して観察する検査)などを行い、総合的に診断します。
皮膚科での一般的な検査方法
皮膚科では、円形脱毛症の診断や重症度の評価、他の疾患との鑑別のために、いくつかの検査を行うことがあります。
円形脱毛症の診断に関連する検査
検査の種類 | 目的 | 方法の概要 |
---|---|---|
問診 | 症状(脱毛の時期、範囲、頭皮の痛みやかゆみの有無など)、既往歴、家族歴、生活習慣、ストレスの状況などを詳細に把握します。 | 医師による丁寧な聞き取り。治療方針を立てる上での重要な情報源となります。 |
視診・触診 | 脱毛斑の形状、大きさ、数、分布、活動性(切れ毛の有無など)を確認します。頭皮の赤み、フケ、湿疹、痛みの部位なども観察します。 | 医師が直接、脱毛部および頭皮全体の状態を観察し、触れて確認します。 |
ダーモスコピー検査 | 毛穴の状態、毛髪の太さや形状、頭皮の微細な変化(炎症、血管拡張など)を拡大して観察します。 | 特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を用いて頭皮を詳細に調べ、診断の精度を高めます。 |
血液検査 | 甲状腺機能異常や膠原病などの自己免疫疾患、貧血、亜鉛欠乏などが疑われる場合に実施します。 | 必要に応じて、全身状態の評価や合併症のスクリーニングのために行われます。 |
皮膚生検 | 診断が困難な場合や、他のまれな脱毛症との鑑別のために、局所麻酔下に頭皮の一部を採取して病理組織学的に検査します。 | 通常は行われませんが、確定診断のために必要な場合があります。 |
円形脱毛症の治療法
円形脱毛症の治療法は、脱毛の範囲や進行度、年齢、合併症の有無などを考慮して選択されます。一つの治療法で効果がない場合、他の治療法を試みたり、複数の治療法を組み合わせたりすることもあります。
円形脱毛症の主な治療法と概要
治療法カテゴリ | 具体的な治療法の例 | 期待される効果・目的 |
---|---|---|
外用薬 | ステロイド外用薬、ミノキシジル外用薬、塩化カルプロニウム外用薬 | 毛包周囲の炎症抑制、血行促進による発毛促進。比較的軽症例や広範囲の補助療法として用います。 |
内服薬 | ステロイド内服薬、抗ヒスタミン薬、セファランチン、グリチルリチン製剤、免疫抑制薬(重症例) | 炎症抑制、かゆみ軽減、免疫反応の調整。脱毛が急速に進行している場合や広範囲な場合に検討されます。 |
局所注射 | ステロイド局所注射(ケナコルト注射など) | 脱毛斑に直接ステロイドを注射し、炎症を強力に抑え発毛を促します。単発型や多発型で効果が期待できます。 |
局所免疫療法 | SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)といった化学物質を頭皮に塗布し、人工的にかぶれを起こさせる治療法。 | 免疫反応の変調を促し、毛包への攻撃を抑制することで発毛を期待します。広範囲な場合に選択肢となります。 |
紫外線療法 | PUVA療法、ナローバンドUVB療法、エキシマライト療法 | 特定の波長の紫外線を脱毛部に照射し、免疫反応を抑制します。広範囲な場合や他の治療で効果が乏しい場合に検討されます。 |
痛みを伴う場合の治療アプローチ
円形脱毛症に伴う頭皮の痛みがある場合、痛みの原因となっている炎症を抑える治療が優先されます。
ステロイド外用薬や局所注射は、炎症と痛みの軽減に効果が期待でき、また、かゆみやピリピリとした神経性の痛みが強い場合には、抗ヒスタミン薬やビタミンB12製剤などが処方されることもあります。
痛みの程度や種類に応じて、鎮痛薬の使用も検討されますが、根本的な解決には円形脱毛症自体の治療を進めることが重要です。
頭皮の痛みや頭痛がある場合の日常生活での注意点
円形脱毛症に伴い頭皮の痛みや頭痛がある場合、日常生活での些細なことが症状を悪化させる可能性があります。ここでは、少しでも快適に過ごすための注意点や工夫について解説します。
刺激の少ないシャンプー選び
頭皮が敏感になっている時期は、シャンプー選びが特に重要です。洗浄力が強すぎるものや、香料・着色料が多く含まれるものは、頭皮への刺激となり、痛みやかゆみを増強させる可能性があります。
アミノ酸系やベタイン系といったマイルドな洗浄成分を主体とした、低刺激性のシャンプーを選ぶようにしましょう。
刺激の少ないシャンプー選びのポイント
- アミノ酸系洗浄成分(例:ココイルグルタミン酸、ラウロイルメチルアラニンNaなど)やベタイン系洗浄成分(例:コカミドプロピルベタインなど)が主体のもの。
- 無香料・無着色・パラベンフリー・アルコール(エタノール)フリーなど、低刺激性を謳っている製品を選ぶ。
- 自分の肌質(乾燥肌、脂性肌、敏感肌)に合ったものを選ぶ。試供品などで試してみるのも良いでしょう。
洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流すことが大切です。熱すぎるお湯も頭皮の乾燥を招くため、ぬるま湯を使用してください。
頭皮マッサージの可否と正しい方法
頭皮マッサージは血行を促進し、頭皮環境を整える効果が期待できますが、円形脱毛症で炎症や痛みがある場合は注意が必要です。
炎症が強い時期にマッサージを行うと、かえって症状を悪化させる可能性があります。
基本的には、痛みや赤み、強いかゆみがある場合はマッサージを避け、症状が落ち着いてから、医師に相談の上で行いましょう。
指の腹を使い、頭皮を優しく揉みほぐすように、決して強く擦ったり叩いたりしないようにします。リラックス効果も期待できるため、心地よいと感じる程度の力加減で行うことがポイントです。
バランスの取れた食事と栄養
健康な髪と頭皮を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。
特定の食品だけを摂取すれば円形脱毛症が治るわけではありませんが、髪の主成分であるタンパク質、新陳代謝を助けるビタミンB群、抗酸化作用のあるビタミンC・E、そして毛髪の成長に必要なミネラル(特に亜鉛や鉄分)などを意識して摂取することが大切です。
インスタント食品や偏った食事は避け、多様な食材から栄養を摂るように心がけましょう。
頭皮と毛髪の健康に役立つ栄養素
栄養素 | 期待される役割 | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分であるケラチンの材料となる。不足すると髪が細くなったり、成長が遅れたりする。 | 肉類(鶏むね肉、豚ヒレ肉など)、魚介類(アジ、サケなど)、卵、大豆製品(豆腐、納豆)、乳製品 |
亜鉛 | 細胞分裂やタンパク質の合成に不可欠で、毛髪の成長を助ける。免疫機能の維持にも関与。 | 牡蠣、レバー(豚・鶏)、牛肉(赤身)、うなぎ、ナッツ類(アーモンド、カシューナッツ)、種実類(かぼちゃの種) |
ビタミンB群 | B2は皮脂のコントロール、B6はタンパク質の代謝を助け、B12は血行促進に関与。頭皮の新陳代謝を促し、健康な頭皮環境を保つ。 | レバー、魚介類(マグロ、カツオ)、肉類、卵、乳製品、穀類(玄米)、豆類、緑黄色野菜 |
ビタミンC | コラーゲンの生成を助け、頭皮の弾力や健康を維持する。抗酸化作用により、ストレスによるダメージから守る。 | 果物(柑橘類、イチゴ、キウイなど)、野菜(パプリカ、ブロッコリー、じゃがいも、さつまいも) |
ビタミンE | 強力な抗酸化作用を持ち、血行を促進することで頭皮に栄養を届けやすくする。「若返りのビタミン」とも呼ばれる。 | ナッツ類(アーモンド、ヘーゼルナッツ)、植物油(ひまわり油、オリーブ油)、アボカド、うなぎ、緑黄色野菜 |
精神的なケアとリラックス方法
円形脱毛症、特にそれに伴う頭皮の痛みや頭痛は、精神的なストレスを増大させることがあります。ストレスは症状を悪化させる要因にもなるため、意識的にリラックスする時間を持つことが重要です。
深呼吸や瞑想、ヨガ、軽い運動、趣味に没頭する時間などは、心身の緊張を和らげるのに役立ちます。また、信頼できる家族や友人に悩みを話すことも、精神的な負担を軽減する一つの方法です。
よくある質問 (FAQ)
円形脱毛症やそれに伴う頭皮の痛み、頭痛に関して、多くの方が疑問に思うことや不安に感じる点をまとめました。ご自身の状況と照らし合わせながら、参考にしてください。
- Q円形脱毛症の痛みはいつまで続きますか?
- A
一般的には、脱毛が活発で炎症が起きている時期に痛みを感じやすく、治療によって炎症が治まれば痛みも軽減していく傾向があります。
単発型で軽症の場合は数週間から数ヶ月で痛みがなくなることもありますが、多発型や全頭型など重症度が高い場合や、炎症が持続する場合は、痛みが長引くこともあります。
- Q頭皮の痛みが強い場合、市販の痛み止めは効果がありますか?
- A
頭皮の痛みが強い場合、市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬が一時的に痛みを和らげる効果を示すことはあります。
しかし、これらは対症療法であり、円形脱毛症そのものや根本的な炎症を治療するものではありません。また、市販薬の長期連用は副作用のリスクも伴います。
痛みの原因が円形脱毛症による炎症なのか、あるいは他の要因なのかを正確に把握するためにも、まずは皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
- Q治療中に気をつけることはありますか?
- A
円形脱毛症の治療中は、医師の指示に従い、処方された薬を正しく使用することが最も重要です。自己判断で薬の量を変更したり、中断したりしないようにしましょう。
また、頭皮への刺激を避けるため、パーマやカラーリングは治療が一段落し、医師の許可が出るまでは控えるのが賢明です。
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、ストレスを溜めない生活を送ることも、治療効果を高める上で役立ちます。
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