円形脱毛症は、ある日突然、髪が円形や楕円形に抜け落ちる症状で、多くの女性にとって深刻な悩みとなります。
症状が広範囲に及ぶ重症なケースや、治療してもなかなか改善しない難治性の円形脱毛症は、精神的な負担も大きくなりがちです。
この記事では、女性の円形脱毛症における重症度の判断基準や、治療の難易度に影響を与えるさまざまな要因について詳しく解説します。
円形脱毛症とは何か 女性特有の要因も解説
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛が、境界明瞭な円形または楕円形に抜け落ちる疾患です。
年齢や性別を問わず誰にでも発症する可能性がありますが、特に女性にとっては外見への影響が大きく、心理的なストレスも伴いやすい傾向があります。
円形脱毛症の基本的な定義
医学的に見ると、円形脱毛症は自己免疫疾患の一つとして捉えられています。
通常、免疫システムは外部からの細菌やウイルスを攻撃して体を守る働きをしますが、何らかの原因でこのシステムに異常が生じると、自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまうことがあります。
円形脱毛症の場合、毛包(毛を作り出す器官)が免疫細胞によって誤って攻撃されることで毛が抜け落ちると考えられています。
脱毛斑は、コイン程度の大きさから、頭部全体に広がるものまで様々です。
女性ホルモンと円形脱毛症の関係
女性の体は、月経周期、妊娠、出産、更年期といったライフステージを通じて、女性ホルモンのバランスが大きく変動します。
ホルモン変動が円形脱毛症の発症や悪化に直接的に関与するという明確な科学的証拠はまだ限定的ですが、間接的な影響は否定できません。
妊娠中はエストロゲンという女性ホルモンのレベルが高まり、毛髪の成長期が延長されるため、抜け毛が減ることが一般的です。
しかし、出産後にはホルモンバランスが急激に変化し、一時的に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」が起こることがあります。
円形脱毛症とは異なる病態ですが、ホルモンバランスの変化が毛髪に影響を与える一例です。
また、更年期にはエストロゲンの分泌が減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強まることで、髪全体のボリュームが減ったり、薄毛が気になったりする女性もいます。
甲状腺ホルモンの異常も、円形脱毛症を含む脱毛症全般と関連することがあるため、注意が必要です。
ストレスと自己免疫疾患の可能性
円形脱毛症の発症には、精神的なストレスが引き金の一つになることがあると考えられています。過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、免疫機能にも影響を与える可能性があります。
実際に、大きな精神的ショックや長期間にわたるストレスを経験した後に円形脱毛症を発症するケースは少なくありません。
しかし、ストレスが直接的な原因であると断定することは難しく、あくまで発症や悪化に関わる誘因の一つです。
自己免疫疾患としての側面から見ると、円形脱毛症は他の自己免疫疾患(橋本病などの甲状腺疾患、関節リウマチ、1型糖尿病、尋常性白斑など)を合併することが一般の人よりも多いことが知られています。
円形脱毛症の多様な症状と現れ方
円形脱毛症は、その症状の現れ方によっていくつかのタイプに分類されます。脱毛斑の数や範囲、部位によって、治療法や予後(病状の見通し)も変わってくるため、タイプを正確に把握することは非常に重要です。
単発型円形脱毛症の特徴
単発型円形脱毛症は、頭部に円形または楕円形の脱毛斑が1つだけ現れるタイプで、円形脱毛症の中で最も一般的なタイプであり、比較的軽症とされます。
脱毛斑の大きさは、1円玉程度の小さなものから、500円玉を超えるものまで様々です。
多くの場合、数ヶ月から1年程度で自然に治癒することもありますが、中には拡大したり、多発型へ移行したりするケースも見られます。
多発型円形脱毛症の広がり方
多発型円形脱毛症は、脱毛斑が頭部に2つ以上現れるタイプで、脱毛斑が融合して大きな不規則な形の脱毛斑になることもあります。単発型に比べて症状が広範囲に及ぶため、治療が長引く傾向があります。
脱毛斑の数や大きさ、出現する場所は個人差が大きく、頭部全体に点在することもあれば、特定の領域に集中することもあります。
活動性が高い場合は、次々と新しい脱毛斑が出現したり、既存の脱毛斑が拡大したりするため、注意深い経過観察と積極的な治療が必要です。
全頭型・汎発型脱毛症への進行
円形脱毛症が進行し、頭部全体の毛髪がほぼ全て抜け落ちてしまう状態を全頭型脱毛症(全頭脱毛症)といいます。
さらに、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、腋毛、陰毛など、全身の体毛が抜け落ちてしまう状態を汎発型脱毛症(全身脱毛症)と呼びます。
円形脱毛症の中でも最も重症なタイプであり、治療も非常に難しくなることが多いです。
蛇行状脱毛症とその特殊性
蛇行状脱毛症は、主に後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛が起こる特殊なタイプです。脱毛の形が蛇が這ったように見えることからこの名前がついています。
このタイプは、他のタイプの円形脱毛症と比べて治療に対する反応が乏しく、難治性となることが多く、特に小児に発症した場合、予後が不良である傾向が指摘されています。
円形脱毛症の主な種類と特徴
種類 | 脱毛斑の数・範囲 | 主な特徴 |
---|---|---|
単発型 | 1箇所 | 最も一般的。自然治癒の可能性もあるが、進行も。 |
多発型 | 2箇所以上 | 脱毛斑が融合・拡大することがある。治療が長引く傾向。 |
全頭型 | 頭部全体 | 頭髪がほぼ全て抜ける。重症型。 |
汎発型 | 全身 | 頭髪に加え、眉毛、まつ毛など全身の体毛が抜ける。最重症型。 |
蛇行状 | 後頭部~側頭部の生え際 | 帯状に脱毛。難治性のことが多い特殊型。 |
円形脱毛症の重症度を判断する基準
円形脱毛症の重症度は、主に脱毛している範囲の広さに基づいて評価します。
脱毛範囲による分類(S0~S2)
脱毛面積が頭部全体の25%未満の場合をS0(軽症)、25%以上50%未満の場合をS1(中等症)、50%以上の場合をS2(重症)と大まかに分類することがあります。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の臨床現場では、脱毛斑の数、大きさ、活動性、罹患期間、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮して重症度を判断し、治療方針を決定します。
脱毛面積が25%未満であっても、多発しており活動性が高い場合や、蛇行状脱毛症のように難治性が予測される場合は、より慎重な対応が必要です。
円形脱毛症の重症度評価スケール(S分類の目安)
分類 | 頭部脱毛面積の割合 | 一般的な状態 |
---|---|---|
S0(軽症) | 25%未満 | 単発型や比較的小さな多発型。 |
S1(中等症) | 25%以上50%未満 | 広範囲の多発型や、脱毛斑が融合している状態。 |
S2(重症) | 50%以上 | 全頭型に近い状態、または全頭型・汎発型。 |
脱毛斑の数と大きさの評価
重症度を判断する際には、脱毛面積の総和だけでなく、個々の脱毛斑の数と大きさも重要な情報です。脱毛斑が1つだけであっても、非常に大きい場合は中等症以上と判断されることがあります。
逆に、脱毛斑が複数あっても、それぞれが非常に小さく、合計の脱毛面積も少なければ軽症と判断されることもあります。
活動性の指標(毛髪の抜けやすさ)
円形脱毛症の活動性、つまり症状が進行しているかどうかを判断することも重症度評価には欠かせません。
活動性が高い状態とは、脱毛が現在も進行中であり、脱毛斑が拡大したり、新しい脱毛斑が出現したりしやすい状態です。
脱毛の進行度合いを見るポイント
脱毛斑の辺縁部(脱毛している部分と毛が残っている部分の境界)の毛を軽く引っ張ってみる「pull test(牽引試験)」は、活動性を簡便に評価する方法の一つです。
テストで容易に数本以上の毛が抜ける場合(陽性)、脱毛の活動性が高いと考えられます。
また、ダーモスコピーで脱毛斑の辺縁部を観察すると、「黒点(black dots)」、「感嘆符毛(exclamation mark hairs)」、「切断毛(broken hairs)」が見られることがあります。
これらは毛包が攻撃を受けて毛幹が途中で折れたり、毛根部が萎縮したりしている状態を示し、活動性の高い円形脱毛症に特徴的なサインです。
炎症の有無と毛包の状態
脱毛斑の皮膚に赤みやかゆみ、軽い腫れなどの炎症所見が見られる場合も、活動性が高いことを示唆します。炎症が強いと、毛包周囲のリンパ球浸潤が活発であると考えられ、脱毛が進行しやすい状態です。
ダーモスコピーでは、毛包周囲の炎症や血管拡張のパターンなども観察できます。
治療難易度に影響を与える要因
円形脱毛症の治療効果や治癒までの期間は、個人差が非常に大きいです。同じ治療法を選択しても、すぐに効果が現れる人もいれば、なかなか改善が見られない人もいます。
発症年齢と罹患期間
一般的に、円形脱毛症の発症年齢が低いほど(特に小児期に発症した場合)、症状が重症化しやすく、治療が難しくなる傾向があると言われています。
また、罹患期間が長いほど、つまり脱毛している状態が長期間続いているほど、治療への反応が乏しくなることがあります。
これは、長期間にわたる炎症により毛包の機能が低下したり、毛包周囲の線維化が進んだりすることが一因です。
自己免疫疾患の合併
円形脱毛症は自己免疫疾患の一つであり、他の自己免疫疾患を合併することがあります。
甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病など)、尋常性白斑、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、1型糖尿病などが代表的です。
自己免疫疾患を合併している場合、円形脱毛症の症状が重症化しやすく、治療が難しくなる傾向が報告されています。
アトピー素因の有無
円形脱毛症の患者さんでは、アトピー素因を持つ人の割合が一般よりも高いことが知られています。
アトピー素因を持つ場合、円形脱毛症が重症化しやすく、広範囲に及んだり、全頭型や汎発型に進行したりするリスクが高いです。
また、治療への反応も乏しい傾向があり、難治性円形脱毛症となりやすい要因の一つと考えられています。
アトピー性皮膚炎と円形脱毛症
特にアトピー性皮膚炎を合併している円形脱毛症は、治療が難しいケースが多いです。
アトピー性皮膚炎自体が皮膚のバリア機能の低下や免疫系の過剰反応を特徴とするため、円形脱毛症の病態とも複雑に関連しあっている可能性があります。
その他のアレルギー疾患との関連
気管支喘息やアレルギー性鼻炎といった他のアレルギー疾患を持つ場合も、円形脱毛症の治療難易度が上がる可能性が指摘されています。
アレルギー反応に関わる免疫細胞やサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)のバランスの乱れが、円形脱毛症の病態にも影響を及ぼしていると考えられます。
治療への反応性と再発率
円形脱毛症は、一度治癒しても再発することが少なくない疾患です。再発を繰り返す場合や、様々な治療法を試しても十分な効果が得られない場合は、難治性と判断されます。
再発率が高い背景には、個人の免疫応答の特性や、生活環境、ストレスなどが関与していると考えられます。
特に広範囲型や全頭型・汎発型、蛇行状脱毛症では、再発率が高く、長期的なフォローアップが必要です。
治療効果に影響を及ぼす可能性のある因子
因子 | 治療難易度への影響 | 備考 |
---|---|---|
発症年齢が低い | 高くなる傾向 | 特に思春期前発症の場合 |
罹患期間が長い | 高くなる傾向 | 数年以上続いている場合など |
自己免疫疾患の合併 | 高くなる傾向 | 甲状腺疾患、白斑など |
アトピー素因 | 高くなる傾向 | アトピー性皮膚炎、喘息など |
家族歴 | 影響する可能性あり | 遺伝的要因も示唆される |
重症型(全頭型・汎発型・蛇行状) | 非常に高くなる | 治療抵抗性が多い |
重症度に応じた一般的な治療法
円形脱毛症の治療は、その重症度、活動性、患者さんの年齢、合併症の有無、そして患者さんの希望などを総合的に考慮して決定します。
軽症例(S0、S1初期)の治療選択肢
脱毛範囲が比較的小さく、進行も緩やかな軽症例では、まず外用薬による治療が中心です。
自然治癒も期待できるケースがありますが、早期に治療を開始することで、症状の拡大を防いだり、回復を早めたりする効果が期待できます。
外用薬(ステロイド、ミノキシジルなど)
ステロイド外用薬は、毛包周囲の炎症を抑えることで脱毛の進行を抑制し、発毛を促す効果があります。強さの異なる様々な種類のステロイド外用薬があり、症状の程度や部位に応じて使い分けます。
副作用としては、長期使用による皮膚の菲薄化や毛細血管拡張などがありますが、医師の指示通り適切に使用すれば、比較的安全性の高い治療法です。
ミノキシジル外用薬は、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、発毛効果があることが分かり、脱毛症治療に用いられていて、毛母細胞の活性化や血流改善効果などが期待されます。
円形脱毛症に対する保険適用はありませんが、補助的な治療として用いられることがあり、効果の発現には数ヶ月以上の継続使用が必要です。
その他、カルプロニウム塩化物外用薬(フロジン液など)も血行促進作用があり、補助的に用いられることがあります。
局所注射療法の概要
ステロイド局所注射は、脱毛斑に直接ステロイド薬を注射する方法です。外用薬よりも薬剤が直接的かつ高濃度に作用するため、より強い効果が期待でき、通常、月に1回程度の頻度で行います。
脱毛範囲が限局している場合や、外用薬で効果が不十分な場合に選択されることがあります。副作用としては、注射部位の皮膚の陥凹(へこみ)や萎縮、痛みなどがありますが、多くは一時的なものです。
広範囲の脱毛には向きません。
軽症の円形脱毛症に対する治療アプローチ
治療法 | 主な作用 | 備考 |
---|---|---|
ステロイド外用薬 | 抗炎症作用、免疫抑制作用 | 第一選択とされることが多い。 |
ミノキシジル外用薬 | 毛母細胞活性化、血流促進 | 保険適用外。補助的に使用。 |
ステロイド局所注射 | 強力な抗炎症作用 | 限局した脱毛斑に有効。 |
中等症例(S1後期、S2初期)の治療法
脱毛範囲が中程度に広がり、活動性も見られるような場合は、外用療法に加えて、より積極的な治療法を検討します。局所免疫療法や、場合によってはステロイドの内服が選択肢に入ってきます。
ステロイド内服療法の考え方
ステロイド内服薬は、全身的に免疫反応を抑制する強力な作用があり、急速に進行する重症な円形脱毛症や、他の治療で効果が見られない場合に用いられることがあります。
通常、短期間(数週間から数ヶ月)に限定して使用し、効果を見ながら徐々に減量していきます。
効果は比較的高いものの、全身性の副作用(易感染性、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、満月様顔貌など)のリスクがあるため、適応は慎重に判断し、定期的な検査を行いながら使用します。
特に女性の場合、体重増加やむくみ、にきびなどの美容的な副作用も気になる点で、小児への使用は成長への影響も考慮し、より慎重な判断が必要です。
局所免疫療法の導入
局所免疫療法は、SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)といった化学物質を脱毛斑に塗布し、人工的にかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせることで、毛包への免疫攻撃の方向性を変え、発毛を促す治療法です。
脱毛範囲が広い多発型や全頭型に対して有効性が示されています。
治療開始時には、まず感作(アレルギー反応を起こせるようにする)を行い、その後、週に1回から2週間に1回程度の頻度で、軽いかゆみや赤みが出る程度の濃度の試薬を塗布します。
効果が出るまでには数ヶ月以上かかることが多く、根気強い継続が必要です。
副作用としては、強いかゆみ、腫れ、色素沈着、自家感作性皮膚炎(全身にかぶれが広がる)、リンパ節腫脹などがあります。保険適用外の治療法です。
中等症の円形脱毛症に対する治療アプローチ
治療法 | 主な作用 | 備考 |
---|---|---|
ステロイド外用薬・局所注射 | 抗炎症作用 | 継続または併用。 |
局所免疫療法 (SADBE/DPCP) | 免疫変調作用 | 広範囲の脱毛に有効。保険適用外。 |
ステロイド内服療法 | 全身的な免疫抑制作用 | 急速進行例や重症例に短期間使用。副作用に注意。 |
重症例(S2進行期、全頭型、汎発型)の治療戦略
脱毛範囲が頭部の50%を超える重症例や、全頭型、汎発型、蛇行状脱毛症といった難治性のタイプでは、より強力な治療法や新しい治療法の導入を検討します。
単一の治療法で効果を得ることが難しい場合も多く、複数の治療法を組み合わせたり、長期的な視点での治療計画が必要になったりします。
JAK阻害薬の登場と期待
JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、免疫細胞の活性化に関わるJAKという酵素の働きを阻害することで、過剰な免疫反応を抑える新しいタイプの薬剤です。
もともとは関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬として開発されましたが、円形脱毛症に対しても高い有効性が示され、近年、一部のJAK阻害薬が成人の円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ場合に限る)に対して保険適用となりました。
内服薬であり、比較的早期から効果が期待できる一方、易感染性、帯状疱疹、血球減少、脂質異常症などの副作用のリスクもあるため、使用には厳格な基準があり、専門医による慎重な判断と定期的なモニタリングが必要です。
治療費が高額になる場合もあり、女性の場合、妊娠中や授乳中の使用はできません。
紫外線療法の位置づけ
紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法など)は、特定の波長の紫外線を脱毛斑に照射することで、免疫反応を調節し、発毛を促す治療法です。広範囲の脱毛に対して用いられることがあります。
PUVA療法では、ソラレンという光感受性を高める薬剤を内服または外用した後に長波長紫外線を照射します。ナローバンドUVB療法は、特定の狭い波長の紫外線を照射する方法で、薬剤は不要です。
週に1~3回程度の通院が必要で、効果が出るまでには数ヶ月以上かかることがあります。
副作用としては、日焼け様の紅斑、色素沈着、長期的な使用による皮膚がんのリスク(特にPUVA療法)などが挙げられますが、保険適用があります。
重症・難治性の円形脱毛症に対する治療アプローチ
治療法 | 主な作用 | 備考 |
---|---|---|
局所免疫療法 (SADBE/DPCP) | 免疫変調作用 | 第一選択の一つ。保険適用外。 |
ステロイド内服療法 | 全身的な免疫抑制作用 | 急性期やJAK阻害薬導入前の選択肢。 |
JAK阻害薬(内服) | 免疫細胞の活性化抑制 | 広範囲の重症例に保険適用。副作用・費用に注意。 |
紫外線療法 (PUVA, UVB) | 免疫調節作用 | 広範囲の脱毛に。通院が必要。 |
生活習慣で見直せること 日常的なケア
円形脱毛症の直接的な原因は自己免疫反応の異常ですが、日々の生活習慣が免疫バランスや頭皮環境に影響を与え、症状の悪化や回復の遅れに関与する可能性は否定できません。
薬物治療と並行して、生活習慣を見直し、心身ともに健康な状態を保つことは、円形脱毛症の改善や再発予防にとって有益です。
バランスの取れた食事と栄養
健康な髪を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。
特定の食品が円形脱毛症を治すわけではありませんが、髪の主成分であるタンパク質(特にケラチン)、毛母細胞の分裂を促す亜鉛、頭皮の血行を良くするビタミンE、抗酸化作用のあるビタミンCやポリフェノールなどを意識して摂取することは、頭皮環境を整え、健康な毛髪の成長をサポートする上で役立ちます。
健康な髪を育むための栄養素と食品
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品 |
亜鉛 | ケラチンの合成、細胞分裂促進 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類、チーズ |
ビタミンE | 血行促進、抗酸化作用 | ナッツ類、植物油、アボカド、緑黄色野菜 |
ビタミンC | コラーゲン生成補助、抗酸化作用 | 果物(柑橘類、イチゴ)、野菜(パプリカ、ブロッコリー) |
鉄分 | 酸素運搬、毛母細胞への栄養供給 | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき |
過度なダイエットや偏った食事は、栄養不足を招き、髪の健康にも悪影響を与えます。インスタント食品や加工食品の摂りすぎにも注意し、多様な食材からバランス良く栄養を摂ることを心がけましょう。
特に女性は鉄分が不足しやすいため、意識的な摂取が大切です。
質の高い睡眠の確保
睡眠中には成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や再生が活発に行われ、毛母細胞の活動も睡眠中に高まると考えられており、質の高い十分な睡眠は、健康な髪の育成に必要です。
睡眠不足や不規則な睡眠は、自律神経の乱れやホルモンバランスの崩れを起こし、免疫機能にも悪影響を与える可能性があります。
ストレスマネジメントの方法
過度なストレスは円形脱毛症の誘因や悪化因子の一つと考えられています。
現代社会でストレスを完全になくすことは難しいですが、自分に合った方法で上手にストレスをコントロールし、溜め込まないようにすることが重要です。
適度な運動、趣味や好きなことに没頭する時間を作る、友人や家族と話す、瞑想やヨガ、深呼吸などでリラックスする、自然の中で過ごすなどが挙げられます。
日常で試せるストレス対処法
- 軽い運動(ウォーキング、ストレッチ)
- 趣味の時間(読書、音楽鑑賞、手芸など)
- アロマテラピーや入浴
- 十分な休息とリラックス
頭皮への刺激を避ける工夫
円形脱毛症の部位は、皮膚が敏感になっていることがあり、頭皮への過度な刺激は、症状を悪化させる可能性があるため、できるだけ避けるように心がけましょう。
洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流します。
シャンプーやコンディショナーは、低刺激性のものやアミノ酸系など、自分の頭皮に合ったものを選び、ドライヤーは、頭皮から離して低温で乾かし、完全に乾かすことが大切です。
パーマやヘアカラーは、頭皮への刺激が強いため、症状が活動的な時期は避けましょう。
頭皮と髪に優しいケア用品選びのヒント
- 低刺激性、無香料、無着色の製品
- アミノ酸系洗浄成分のシャンプー
- 自分の肌質(乾燥肌、敏感肌など)に合ったもの
- アルコールフリーやパラベンフリーの製品
また、紫外線も頭皮への刺激となるため、外出時には帽子や日傘などで頭皮を保護することも大切です。
よくある質問
円形脱毛症について、患者さんからよく寄せられる質問とその一般的な回答をまとめました。ただし、個々の症状や状況によって異なる場合があるため、詳しいことは必ず主治医にご相談ください。
- Q円形脱毛症は遺伝しますか
- A
円形脱毛症の発症には遺伝的な要因が関与していると考えられています。
家族(親子や兄弟姉妹)に円形脱毛症の方がいる場合、そうでない場合に比べて発症リスクがやや高いです。
円形脱毛症患者さんの約10~40%に家族内発症が見られるとされていますが、遺伝的要因だけで発症するわけではなく、自己免疫の異常や環境因子が複雑に絡み合って発症します。
- Q治療期間はどのくらいかかりますか
- A
軽症の単発型であれば、数ヶ月から1年程度で自然に治癒することもありますし、治療によって早期に改善することも期待できます。
しかし、多発型や全頭型、汎発型、蛇行状脱毛症などの重症例や難治例では、治療が年単位で長期に及ぶことも少なくありません。
また、一度治癒しても再発する可能性もあるため、症状が改善した後も、しばらくは定期的な経過観察が必要な場合があります。
- Q治療中に気をつけることは何ですか
- A
治療中は、まず医師の指示通りに治療を継続することが最も重要です。自己判断で薬を中断したり、量を変更したりしないようにしましょう。
また、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレスを溜めない生活を心がけることも、治療効果を高める上で役立ちます。頭皮への刺激を避け、清潔に保つことも大切です。
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