この記事では、女性の円形脱毛症について、その症状が現れてから髪が抜ける期間、そして回復に至るまでの一般的な流れを詳しく解説します。

円形脱毛症は、ある日突然、コインほどの大きさの脱毛斑ができる病気で、多くの方が不安を感じます。

原因や症状の進行には個人差がありますが、正しい知識を持つことで、対処するための一助となるでしょう。

目次

円形脱毛症とは何か 女性特有の要因も解説

円形脱毛症は、頭部やその他の体毛に円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。

年齢や性別を問わず発症する可能性がありますが、特に女性の場合、美容的な側面から大きな精神的負担となることがあります。

円形脱毛症の基本的な定義

円形脱毛症は、自己免疫反応が関与していると考えられていて、何らの原因で免疫系が毛包を異物と誤認し攻撃することで、毛髪の成長が阻害され、脱毛が起こります。

通常、痛みやかゆみといった自覚症状は少ないか、あっても軽微な場合が多いです。

女性に見られる円形脱毛症の特徴

女性の場合、男性と比較して甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患を合併しやすい傾向が指摘されています。

また、妊娠・出産、更年期など、ライフステージにおけるホルモンバランスの大きな変動が、発症や症状の悪化に関与する可能性も考えられます。

円形脱毛症と他の脱毛症との違い

女性の薄毛や脱毛には様々な種類があり、円形脱毛症とは原因や症状が異なり、正確な診断のためには、違いを理解することが大切です。

びまん性脱毛症との比較

びまん性脱毛症は、頭部全体の毛髪が均等に薄くなる状態を指し、特定の部位に境界明瞭な脱毛斑ができる円形脱毛症とは異なり、全体的にボリュームが失われるのが特徴です。

加齢やホルモンバランスの乱れ、栄養不足などが原因として考えられます。

牽引性脱毛症との比較

牽引性脱毛症は、ポニーテールや編み込みなど、髪を強く引っ張る髪型を長期間続けることで、毛根に負担がかかり脱毛する状態です。主に生え際や分け目など、物理的な力がかかりやすい部位に起こります。

円形脱毛症とは異なり、原因が明確で、原因を取り除くことで改善が期待できます。

脱毛症の主な種類と特徴

脱毛症の種類主な特徴考えられる原因
円形脱毛症円形・楕円形の脱毛斑が突然出現自己免疫反応、ストレス、遺伝など
びまん性脱毛症頭部全体の毛髪が均等に薄くなる加齢、ホルモンバランス、栄養不足など
牽引性脱毛症髪を強く引っ張ることで特定部位が脱毛物理的な牽引

女性ホルモンと円形脱毛症の関係性

女性ホルモンであるエストロゲンは、毛髪の成長を促進し、成長期を維持する働きがあり、妊娠中はエストロゲンの分泌量が増加するため、毛髪は豊かになる傾向があります。

しかし、出産後はエストロゲンが急激に減少するため、一時的に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」が起こることがあります。

ホルモンバランスの急激な変化が、円形脱毛症の発症や悪化の引き金になる可能性も指摘されています。また、更年期における女性ホルモンの減少も、毛髪の健康に影響を与える要因の一つです。

円形脱毛症の主な原因と考えられる要因

円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複雑に関与しています。

自己免疫疾患としての側面

円形脱毛症の最も有力な原因として考えられているのが、自己免疫反応です。

通常、免疫システムは体外からの異物(細菌やウイルスなど)を攻撃し、体を守る働きをしますが、何らかの異常により、免疫システムが自身の体の正常な組織である毛包を攻撃してしまうことがあります。

これが自己免疫疾患と呼ばれる状態です。

免疫システムの誤作動

円形脱毛症では、毛包組織に対して免疫細胞が過剰に反応し、炎症を起こし、炎症が毛髪の成長サイクルを乱し、毛が抜け落ちてしまいます。。特に、成長期にある毛包が攻撃の対象となりやすいです。

Tリンパ球の役割

免疫細胞の中でも、Tリンパ球と呼ばれる細胞が毛包攻撃に深く関与していることが研究で示唆されています。

Tリンパ球が毛包周囲に集まり、毛包を構成する細胞を傷つけることで脱毛が起こると考えられています。

ストレスと円形脱毛症の関連性

精神的、肉体的なストレスが円形脱毛症の発症や悪化の誘因となることは、多くの患者さんの経験からも知られています。

ストレスがどのように免疫系や毛髪に影響を与えるのか、詳細な関係はまだ研究段階ですが、無視できない要因です。

精神的ストレスの影響

強い精神的ショックや慢性的なストレスは、自律神経系やホルモンバランスを乱し、免疫機能に影響を与えることがあり、自己免疫反応が起きやすくなります。

仕事や家庭環境、人間関係など、さまざまな精神的ストレスが関与する可能性があります。

肉体的ストレスの影響

過労、睡眠不足、不規則な生活、大きな手術や病気なども肉体的ストレスとなり得ます。

ストレスが体の防御機能を低下させたり、免疫系に異常を起こすことで、円形脱毛症の発症につながることがあります。

ストレスの種類と具体

ストレスの種類具体例体への影響(可能性)
精神的ストレス職場環境の変化、人間関係の悩み、大きなライフイベント(結婚、離婚、死別など)自律神経の乱れ、ホルモンバランスの変動、免疫機能の低下
肉体的ストレス過労、睡眠不足、不規則な食生活、大きな怪我や手術、感染症免疫機能の低下、炎症反応の亢進

遺伝的要因の可能性について

円形脱毛症は家族内で発症することがあり、遺伝的な素因も関与していると考えられていて、患者さんの約10~40%に家族歴があるという報告もあります。

特定の遺伝子が直接的な原因となるわけではありませんが、円形脱毛症になりやすい体質が遺伝する可能性が指摘されています。

ただし、遺伝的素因があっても必ず発症するわけではなく、他の要因と複合的に作用します。

その他の考えられる誘因

自己免疫、ストレス、遺伝以外にも、いくつかの要因が円形脱毛症の発症に関わっている可能性があります。

アトピー素因

アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすいです。

アトピー素因を持つ人は、免疫系が過敏に反応しやすい体質であるため、毛包に対する自己免疫反応も起こりやすいのではないかと考えられています。

睡眠不足や生活習慣の乱れ

睡眠不足や不規則な生活、栄養バランスの偏った食事などは、体の免疫機能やホルモンバランスを乱す原因です。生活習慣の乱れが、円形脱毛症の発症や悪化の間接的な誘因となる可能性があります。

出産後のホルモンバランスの変化

出産後は女性ホルモンのバランスが大きく変動し、急激な変化が免疫系に影響を与え、円形脱毛症の引き金となることがあります。産後の抜け毛とは異なるメカニズムで発症すると考えられています。

円形脱毛症の症状と進行パターン

円形脱毛症はある日突然、自覚症状なく脱毛斑が現れることが多い疾患ですが、初期症状や進行の仕方には個人差があります。

初期症状の見分け方

円形脱毛症の初期症状は多くの場合、自覚しにくいものです。美容院で指摘されたり、家族に発見されたりして初めて気づくケースも少なくありません。

突然の脱毛斑の出現

最も典型的な初期症状は、頭部にコイン大(10円玉~500円玉程度)の円形または楕円形の脱毛斑が1つ、あるいは複数出現することです。脱毛斑の境界は比較的はっきりしています。

脱毛斑の形状と大きさ

脱毛斑は、きれいな円形をしていることが多いですが、楕円形や不整形な場合もあります。大きさも様々で、小さいものから徐々に拡大することもあれば、最初からある程度の大きさで現れることもあります。

痒みや違和感の有無

通常、円形脱毛症では強い痒みや痛みといった自覚症状はありません。ただし、一部の患者さんでは、脱毛前に軽い痒み、ピリピリとした違和感、赤みなどを感じることがあります。

症状は一時的なもので、脱毛が始まると消失することが多いです。

脱毛が進行する期間の目安

円形脱毛症の脱毛がどのくらいの期間続くかは、症状のタイプや重症度、個人の体質などによって大きく異なります。脱毛が活発な時期は数週間から数ヶ月です。

単発型の場合の脱毛期間

脱毛斑が1つだけできる単発型の場合、脱毛が始まってから数週間で脱毛の範囲が定まり、その後は進行が止まることが多いです。しかし、中には脱毛斑が徐々に拡大するケースもあります。

多発型の場合の脱毛期間

脱毛斑が複数できる多発型の場合、最初にできた脱毛斑の進行が止まっても、別の場所に新たな脱毛斑が現れたり、既存の脱毛斑が融合して大きくなったりすることがあります。

全頭型・汎発型へ移行する場合

まれに、脱毛が急速に進行し、頭部全体の毛髪が抜け落ちる全頭型や、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちる汎発型に移行することがあり、この場合、脱毛期間はさらに長期化する可能性があります。

脱毛の進行と期間に関する一般的な傾向

症状のタイプ脱毛の進行の特徴脱毛が活発な期間の目安
単発型1つの脱毛斑、拡大は限定的数週間~2ヶ月程度
多発型複数の脱毛斑、新たな出現や融合あり数週間~数ヶ月以上
全頭型・汎発型急速かつ広範囲な脱毛数ヶ月~年単位

上記の期間はあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいため、参考程度にとどめてください。

脱毛の範囲と重症度の分類

円形脱毛症は、脱毛の範囲や数によっていくつかのタイプに分類され、重症度が評価されます。

脱毛範囲による分類

  • 単発型: 脱毛斑が1つだけ。
  • 多発型: 脱毛斑が2つ以上。
  • 蛇行型: 頭髪の生え際に沿って帯状に脱毛する。
  • 全頭型: 頭部全体の毛髪がほぼ全て抜け落ちる。
  • 汎発型: 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちる。

米国皮膚科学会(AAD)の重症度分類の概要

米国の皮膚科学会では、頭部全体の脱毛面積の割合によって重症度を分類する基準を提唱しています。

脱毛面積が頭部全体の25%未満であれば軽症、25~49%であれば中等症、50%以上であれば重症で、治療方針を決定する上での一つの指標です。

回復期に見られる兆候

脱毛が止まり、回復期に入ると、脱毛斑に変化が見られ、最初は細くて色の薄い産毛のような毛が生え始め、徐々に太くしっかりとした毛に置き換わっていきます。

生え始めの毛が白髪であることもありますが、多くの場合、次第に元の髪色に戻ります。回復のスピードは個人差が大きく、数ヶ月から1年以上かかることもあります。

円形脱毛症のタイプ別 抜ける期間と回復過程

円形脱毛症は、現れ方によっていくつかのタイプに分類され、タイプによって、髪が抜ける期間や回復までの道のりも異なる傾向があります。

単発型円形脱毛症の期間と回復

単発型は、円形脱毛症の中で最も多く見られるタイプで、頭部に1つだけ脱毛斑が生じます。比較的軽症とされ、自然に治癒することも少なくありません。

脱毛期間の一般的な目安

単発型の場合、脱毛が始まってから数週間程度で脱毛斑の大きさが定まり、それ以上は拡大しないことが多いです。脱毛が活発な期間は比較的短く、1~2ヶ月程度で落ち着く傾向にあります。

回復までの期間と特徴

多くの場合、数ヶ月から1年以内に自然に毛髪が再生し、早い人では3ヶ月程度で産毛が生え始め、徐々にしっかりとした毛髪へと変化していきます。治療を行うことで、回復を早めることが可能です。

再発の可能性

単発型であっても一度治癒した後に再発する可能性はあります。ストレスや生活習慣の乱れなどが再発の引き金になるため、注意が必要です。

多発型円形脱毛症の期間と回復

多発型は、頭部に複数の脱毛斑が生じるタイプです。脱毛斑が融合して大きな脱毛エリアを形成することもあり、単発型よりも症状が広範囲に及ぶため、治療期間も長くなる傾向があります。

脱毛期間と範囲の拡大

多発型では、最初にできた脱毛斑の進行が止まっても、次々と新しい脱毛斑が現れたり、既存のものが拡大することがあります。

そのため、脱毛が活発な期間は数ヶ月以上に及ぶことも珍しくなく、脱毛の範囲が広がるにつれて、精神的な負担も大きくなりがちです。

回復までの期間と注意点

回復までの期間は単発型よりも時間がかかり、半年から数年単位での治療が必要になることもあります。

根気強く治療を続けることが大切です。

治療法の選択肢

多発型の場合、ステロイド外用薬や局所注射に加え、症状の範囲や進行度によっては局所免疫療法などが検討されます。

円形脱毛症のタイプと回復期間の目安

タイプ脱毛斑の特徴回復期間の目安
単発型1箇所数ヶ月~1年程度
多発型複数箇所、融合することもある半年~数年程度
蛇行型生え際に沿って帯状長期化しやすい

あくまで目安であり、個人差が大きいため、専門医の診断を受けることが重要です。

蛇行型円形脱毛症の期間と回復

蛇行型は、主に後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛が広がる特殊なタイプです。脱毛の範囲が広く、治療に抵抗性を示すこともあり、難治性となるケースも少なくありません。

特徴的な脱毛パターン

髪の生え際に沿って、まるで蛇が這ったような形に脱毛斑が広がるのが特徴です。通常の円形脱毛症とは異なり、脱毛範囲の境界が不明瞭なこともあります。

治療の難易度と期間

蛇行型は、他のタイプに比べて治療が難しいとされ、ステロイド外用薬や局所注射の効果が現れにくい場合もあり、局所免疫療法などのより積極的な治療が必要です。

回復までの期間も長期化しやすく、数年単位での治療になることもあります。

全頭型・汎発型円形脱毛症の期間と回復

全頭型は頭部全体の毛髪が、汎発型は頭髪に加えて眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちてしまう、最も重症なタイプです。

広範囲な脱毛と影響

急速に脱毛が進行し、短期間で広範囲の毛髪が失われ、外見上の変化が大きいため、日常生活や社会生活に支障をきたすことも少なくありません。

回復までの長期的な見通し

全頭型や汎発型は、治療に長期間を要することが多く、残念ながら回復が難しいケースもあります。しかし、近年では新しい治療法の開発も進んでおり、希望が持てるようになっています。

回復する場合は、数年からそれ以上の期間がかかることが一般的です。

医療機関での円形脱毛症の検査と診断

円形脱毛症の症状が現れた場合、自己判断せずに皮膚科専門医を受診することが大切です。

皮膚科専門医による問診の重要性

問診は、診断の手がかりを得るための最初のステップです。医師は患者さんから詳しい情報を聞き取り、円形脱毛症の可能性や他の疾患との鑑別を行います。

発症時期や状況の確認

いつ頃から脱毛に気づいたか、どのような状況で気づいたか(美容院で指摘された、自分で見つけたなど)、脱毛の進行具合などを詳しく確認します。初発か再発か、過去の治療歴なども重要な情報です。

既往歴や家族歴の聴取

甲状腺疾患、膠原病、アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患やアレルギー疾患の既往歴がないか、また家族に円形脱毛症や自己免疫疾患の人がいないかなどを確認します。

生活習慣に関する質問

最近、大きなストレスを感じる出来事があったか、睡眠時間や食生活、喫煙・飲酒の習慣など、生活習慣についても質問します。

視診とダーモスコピー検査

問診に続いて、脱毛の状態を直接観察します。視診は診断の基本であり、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いることで、より詳細な情報を得られます。

脱毛斑の状態観察

脱毛斑の数、大きさ、形状、境界の明瞭さ、分布などを詳細に観察し、脱毛斑の皮膚の色調(赤みがないかなど)や、毛穴の状態も確認します。

毛髪の状態(切れ毛、萎縮毛など)の確認

脱毛斑の辺縁部や内部に残っている毛髪の状態を観察します。

円形脱毛症に特徴的な「感嘆符毛(毛根部が細く、毛先が太くなっている毛)」や、途中で切れている毛、毛根が萎縮している毛などがないかを確認します。

ダーモスコピーを用いた詳細な観察

ダーモスコピー(皮膚拡大鏡)を用いると、肉眼では見えにくい毛穴の状態や微細な毛髪の変化、血管のパターンなどを観察できます。

ダーモスコピーで観察される主な所見

所見特徴示唆されること
感嘆符毛毛根部が細く、毛先が太い円形脱毛症の活動期
黒点(black dots)毛穴に残った黒い点状の毛幹毛髪が途中で折れている状態
黄色点(yellow dots)毛穴に皮脂や角質が詰まった黄色い点慢性的な炎症や毛包の変性

血液検査で確認する項目

円形脱毛症の診断自体は主に視診で行いますが、合併症の有無や他の疾患との鑑別、治療方針の決定のために血液検査を行うことがあります。

甲状腺機能

円形脱毛症の患者さんの中には、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や甲状腺機能低下症(橋本病)などの甲状腺疾患を合併している場合があります。

疾患の有無を確認するために、甲状腺ホルモンや自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体など)を測定します。

自己抗体の有無

円形脱毛症は自己免疫疾患と考えられているため、他の自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)を合併していないかを確認するために、抗核抗体などの自己抗体を検査することがあります。

鉄分や亜鉛などの栄養状態

鉄欠乏性貧血や亜鉛欠乏は、脱毛の原因となることがあり、栄養素の不足がないかを確認するために、血清フェリチン値や亜鉛濃度などを測定することがあります。

鑑別診断の必要性

女性の脱毛症には、円形脱毛症以外にも、びまん性脱毛症、女性型脱毛症(FAGA)、牽引性脱毛症、抜毛症(トリコチロマニア)、休止期脱毛症など、さまざまな種類があります。

また、梅毒や膠原病などの全身性疾患の一症状として脱毛が現れることもあります。

円形脱毛症の治療法とそれぞれの特徴

円形脱毛症の治療法は、症状の範囲や重症度、患者さんの年齢や健康状態などを考慮して選択します。

ステロイド治療

ステロイドは、炎症や免疫反応を抑える効果があり、円形脱毛症の治療に広く用いられています。使用方法には、外用(塗り薬)、局所注射、内服(飲み薬)があります。

ステロイド外用薬

軽症から中等症の円形脱毛症に対して、まず試みられる治療法です。

炎症を抑える作用のあるステロイドの塗り薬やローションを脱毛斑に塗布し、比較的副作用が少なく、自宅で手軽に行える利点があります。効果が現れるまでには数週間から数ヶ月かかります。

ステロイド局所注射

脱毛斑に直接ステロイドを注射する方法です。外用薬よりも薬剤が直接毛包に届きやすいため、より高い効果が期待できます。

主に脱毛斑が限局している場合や、外用薬で効果が不十分な場合に選択され、数週間おきに治療を繰り返します。注射部位の皮膚の萎縮や陥凹、血管拡張などの副作用が現れることがあります。

ステロイド内服薬(重症例)

脱毛が広範囲で急速に進行している重症例(全頭型や汎発型など)に対して、ステロイドの内服薬が用いられることがあります。

免疫抑制効果が高く脱毛の進行を抑えられますが、長期間の使用や高用量の使用は、感染症にかかりやすい、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、満月様顔貌(ムーンフェイス)などのリスクがあるため、注意が必要です。

ステロイド治療の比較

治療法対象主な利点主な注意点・副作用
外用薬軽症~中等症手軽、副作用が少ない効果発現に時間がかかることあり
局所注射限局性、外用薬で効果不十分な場合比較的高い効果注射部位の皮膚萎縮、痛み
内服薬重症例(急速進行型)強い免疫抑制効果全身性の副作用のリスク、慎重な管理が必要

免疫療法

免疫療法は、人工的に皮膚にかぶれを起こさせることで、毛包への攻撃を別の方向に向ける治療法です。主に広範囲な円形脱毛症に対して行われます。

局所免疫療法(SADBE、DPCP)

SADBE(スクアレン酸ジブチルエステル)やDPCP(ジフェニルシクロプロペノン)といった化学物質を脱毛斑に塗布し、軽い接触皮膚炎(かぶれ)を意図的に引き起こします。

かぶれによって、毛包を攻撃していたリンパ球の働きを抑制したり、別の場所に誘導したりすることで発毛を促します。

治療の仕組みと効果

かぶれを起こすことで、免疫細胞のターゲットが毛包から皮膚表面の炎症へと移り、結果として毛包への攻撃が弱まるという考え方です。

また、かぶれによって放出されるサイトカインなどが発毛を促進する可能性も指摘されています。週に1~2回程度、医療機関で塗布を行います。

副作用と注意点

主な副作用は、塗布部位の強いかゆみ、赤み、腫れ、水疱形成などで、リンパ節の腫れや全身性の湿疹が現れることもあります。治療中は、医師の指示に従い、適切な濃度で塗布を行うことが重要です。

妊娠中や授乳中の方は原則として行えません。

その他の治療法

ステロイド治療や免疫療法の他にも、いくつかの治療法が円形脱毛症に対して試みられています。

ミノキシジル外用薬

ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、発毛効果があることがわかり、脱毛症治療薬として用いられています。

血管を拡張し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促すと考えられています。円形脱毛症に対する効果は限定的ですが、他の治療と併用されることがあります。

冷却療法

液体窒素などを脱毛斑に軽く接触させて冷却刺激を与える治療法です。軽い炎症を起こすことで、免疫状態を変化させ、発毛を促すことを目的とし、主に小範囲の脱毛斑に対して行われます。

紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法)

特定の波長の紫外線を脱毛斑に照射する治療法です。免疫反応を調整する効果が期待されます。

PUVA療法では、ソラレンという薬剤を塗布または内服した後に長波長紫外線(UVA)を照射します。

ナローバンドUVB療法は、特定の波長の中波長紫外線(UVB)を照射する方法です。PUVA療法よりも簡便で副作用が少なく、広範囲の脱毛症に対して選択されることがあります。

治療期間の目安と根気

円形脱毛症は数ヶ月で改善が見られることもあれば、数年単位の治療が必要になることも少なくありません。特に重症例では、根気強く治療を続けることが重要です。

円形脱毛症と上手に付き合うための生活習慣とセルフケア

円形脱毛症の治療と並行して、日々の生活習慣を見直し、心身のバランスを整えることは、症状の改善や再発予防のために非常に大切です。

バランスの取れた食事の重要性

健康な毛髪を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。

特定の食品だけで円形脱毛症が治るわけではありませんが、毛髪の成長に必要な栄養素を十分に摂取することは、頭皮環境を整え、免疫力を維持するために役立ちます。

髪の成長に必要な栄養素

  • タンパク質: 毛髪の主成分。肉、魚、卵、大豆製品など。
  • 亜鉛: 毛髪の合成に必要。牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類など。
  • 鉄分: 頭皮への酸素供給に重要。レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじきなど。
  • ビタミンB群: 頭皮の新陳代謝を促進。豚肉、レバー、魚介類、穀類など。
  • ビタミンC: コラーゲンの生成を助け、鉄分の吸収を高める。果物、野菜など。
  • ビタミンE: 血行を促進し、抗酸化作用がある。ナッツ類、植物油、アボカドなど。

積極的に摂取したい食品

栄養素をバランス良く含む食品を日々の食事に取り入れましょう。特に、緑黄色野菜や色の濃い果物には抗酸化物質が豊富に含まれており、免疫機能のサポートにもつながります。

避けるべき食習慣

過度な脂質の摂取、インスタント食品や加工食品の多用、極端なダイエットは栄養バランスを崩し、毛髪の健康に悪影響を与える可能性があります。糖分の摂りすぎも炎症を起こしやすいため注意が必要です。

毛髪の健康に役立つ栄養素と主な食品

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質毛髪の主成分肉類、魚介類、卵、大豆製品
亜鉛毛髪の合成、細胞分裂牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類
ビタミンB群頭皮の新陳代謝促進豚肉、レバー、青魚、納豆

質の高い睡眠を確保する工夫

睡眠は、体の修復やホルモンバランスの調整、免疫機能の維持に不可欠です。質の高い睡眠を確保することは、円形脱毛症の改善にもつながる可能性があります。

睡眠不足が与える影響

睡眠不足は自律神経の乱れを起こし、免疫機能の低下やストレスホルモンの増加につながり、円形脱毛症が悪化したり、回復が遅れることがあります。

睡眠環境の整備

快適な睡眠環境を整えましょう。寝室の温度や湿度を適切に保ち、静かで暗い環境を作ることが大切です。

ストレスマネジメントとリフレッシュ方法

ストレスは円形脱毛症の大きな誘因の一つと考えられています。ストレスを完全に避けることは難しいですが、上手にコントロールし、発散する方法を見つけることが大切です。

ストレスとの向き合い方

何がストレスの原因になっているのかを把握し、可能であれば原因を取り除く努力をしましょう。

また、物事の捉え方を変えてみたり、完璧を求めすぎないようにしたりすることも、ストレスを軽減するのに役立ちます。

自分に合ったリフレッシュ方法の見つけ方

気分転換になるような活動を見つけ、日常生活に取り入れましょう。読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、散歩、ヨガ、瞑想など、自分が心から楽しめることやリラックスできることを見つけることが重要です。

趣味や運動のすすめ

趣味に没頭する時間は、ストレスを忘れさせてくれ、また、適度な運動は、気分転換になるだけでなく、血行を促進し、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。

頭皮への刺激を避けるヘアケア

脱毛している期間は、頭皮が敏感になっている可能性があります。できるだけ頭皮への刺激を避け、優しくケアすることが大切です。

シャンプーの選び方と洗い方

低刺激性のアミノ酸系シャンプーなど、頭皮に優しいシャンプーを選びましょう。洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないようにしっかりと洗い流します。

ドライヤーの注意点

洗髪後は、タオルで優しく水分を拭き取り、ドライヤーで早めに乾かします。ドライヤーの熱が直接頭皮に当たりすぎないように、少し離して使用し、同じ場所に長時間温風を当てないように注意しましょう。

女性の円形脱毛症に関するよくある質問

円形脱毛症と診断されると、様々な疑問や不安が浮かんでくることでしょう。ここでは、女性の患者さんからよく寄せられる質問と回答をまとめました。

Q
円形脱毛症は治りますか?抜ける期間はどれくらいですか?
A

特に脱毛斑が1つだけの単発型の場合は、8割程度が1年以内に治ると言われていますが、多発型や全頭型、汎発型など重症なケースでは、治療が長期に及ぶこともあります。

また、残念ながら完全に治癒しない場合もあります。髪が抜ける期間も、数週間で落ち着くこともあれば、数ヶ月以上続くこともあります。

Q
治療を開始してから効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A

ステロイド外用薬などの場合、効果を実感できるまでには数週間から2~3ヶ月程度かかることが多いです。

ステロイド局所注射や局所免疫療法など、より積極的な治療法でも、効果判定には数ヶ月単位の時間が必要です。

Q
妊娠中や授乳中でも治療は受けられますか?
A

妊娠中や授乳中は、使用できる薬剤や治療法に制限があります。

ステロイドの内服や一部の免疫抑制剤、局所免疫療法(SADBE、DPCP)などは、胎児や乳児への影響を考慮して原則として行いません。

ステロイド外用薬については、比較的安全に使用できると考えられていますが、使用量や期間については医師の指示に従う必要があります。

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