ある日突然、髪にコインほどの大きさの脱毛を見つけ、それが徐々に広がっていくのではないかと不安に感じている女性は少なくありません。
円形脱毛症は、見た目の変化だけでなく、心の負担も大きい症状です。
この記事では、女性の円形脱毛症がなぜ広がるのか、その原因を詳しく解説し、進行を食い止め、健やかな髪を取り戻すためにご自身でできること、そして医療機関で受けられるサポートについて、分かりやすくお伝えします。
女性の円形脱毛症とは?基本的な知識
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛に円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。多くの人が「ストレスが原因」というイメージを持つかもしれませんが、実際にはより複雑な要因が絡み合っています。
円形脱毛症の定義と特徴
円形脱毛症は、特定の部位の毛髪がまとまって抜け落ち、境界が比較的はっきりとした脱毛斑が生じる状態です。多くの場合、自覚症状はほとんどありませんが、時に軽いかゆみや違和感を伴うこともあります。
脱毛斑は1箇所だけでなく、複数箇所に現れることもあり、その大きさや形状も様々です。
見た目の変化と初期症状
初期には、コイン程度の大きさの脱毛斑として気づくことが多く、脱毛部分の皮膚は、炎症や傷跡などが見られず、正常な状態を保っているのが一般的です。
しかし、活動期には脱毛斑の周囲の毛が抜けやすくなっていて、これを「感嘆符毛(かんたんふもう)」と呼び、毛根側が細く、毛先側が太くなっている特徴的な毛が見られることもあります。
他の脱毛症との違い
女性の薄毛には、びまん性脱毛症(女性型脱毛症、FAGA/FPHL)や牽引性脱毛症など、様々な種類があります。
びまん性脱毛症は頭部全体の髪が薄くなるのに対し、円形脱毛症は局所的にまとまって抜けるのが特徴です。牽引性脱毛症は、ポニーテールなどで髪が引っ張られることが原因で起こります。
円形脱毛症の種類とそれぞれの症状
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲によっていくつかのタイプに分類され、タイプによって治療法や予後も異なるため、自身の状態を把握することが大切です。
円形脱毛症の主なタイプ
タイプ | 主な症状 | 特徴 |
---|---|---|
単発型 | 円形・楕円形の脱毛斑が1つだけ現れる | 最も一般的なタイプ。自然に治癒することも多い。 |
多発型 | 脱毛斑が2つ以上現れる | 脱毛斑が融合して大きくなることがある。 |
全頭型 | 頭部全体の毛髪がほぼ全て抜け落ちる | 治療が長期に及ぶことがある。 |
汎発型 | 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜け落ちる | 最も重症なタイプとされる。 |
蛇行型 | 後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛する | 治りにくい場合がある。 |
女性における円形脱毛症の発生頻度
円形脱毛症は、性別や年齢を問わず誰にでも起こりうる疾患ですが、女性における発生状況にはいくつかの特徴が見られます。
人口の約1~2%が生涯に一度は経験すると言われており、決して珍しい病気ではありません。
年代別の傾向
女性の場合、特に20代から40代での発症が多いとされていますが、小児期や高齢期にも発症する可能性があります。
ライフイベントが多く、ストレスやホルモンバランスの変化が起こりやすい年代に発症のピークが見られる傾向がありますが、特定の年代に限定されるわけではなく、幅広い年齢層で注意が必要です。
なぜ?女性の円形脱毛症が広がる主な原因
円形脱毛症がなぜ起こり、そして時に広がってしまうのか。その原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。
自己免疫疾患としての円形脱毛症
現在、円形脱毛症の最も有力な原因と考えられているのが「自己免疫疾患」です。
私たちの体には、外部から侵入する細菌やウイルスなどの異物を攻撃して体を守る「免疫」という仕組みがありますが、免疫システムに異常が生じると、正常な細胞や組織を誤って攻撃してしまうことがあります。
免疫システムの異常とは
円形脱毛症の場合、免疫細胞の一種であるTリンパ球が、髪の毛を作り出す毛包を異物と誤認し、攻撃してしまうことで発症し、毛包が攻撃されると、毛髪の成長が阻害され、脱毛が起こります。
なぜこのような免疫異常が起こるのか、その詳細な理由はまだ完全には解明されていません。
Tリンパ球の役割と毛包への攻撃
Tリンパ球は、通常、体を守るために重要な役割を果たしていますが、何らかのきっかけで毛包の特定の成分に対して過剰に反応するようになると、毛包を攻撃し始めます。
攻撃が続く限り、毛髪は再生しにくくなり、脱毛斑が維持されたり、拡大したりします。
自己免疫疾患が起こりやすい背景
自己免疫疾患が起こりやすい背景には、遺伝的な素因が関わっていて、また、何らかの環境因子(感染症、薬剤、ストレスなど)が引き金となって発症することもあります。
円形脱毛症の患者さんの中には、甲状腺疾患や尋常性白斑など、他の自己免疫疾患を合併しているケースも見られます。
ストレスと円形脱毛症の関連性
「ストレスで髪が抜ける」という話はよく耳にしますが、円形脱毛症とストレスの関係は医学的にも指摘されています。
ただし、ストレスが直接的な原因となるわけではなく、あくまで発症や悪化の「誘因」の一つです。
精神的ストレスの影響
仕事上のプレッシャー、人間関係の悩み、家庭内の問題、大切な人との別れなど、精神的なストレスは多岐にわたります。
ストレスが長期間続くと、自律神経やホルモンバランスが乱れ、免疫系にも影響を及ぼし、自己免疫反応が起きやすくなり、円形脱毛症の発症や悪化につながることがあります。
肉体的ストレスの影響
過労、睡眠不足、不規則な生活、大きな手術や病気、急激なダイエットなども、体にとっては大きなストレスです。
肉体的ストレスもまた、免疫系のバランスを崩す要因となり得、特に女性の場合、出産は大きな肉体的・精神的ストレスであり、産後に円形脱毛症を発症するケースも報告されています。
ストレスの種類と影響
ストレスの種類 | 具体例 | 身体への影響(可能性) |
---|---|---|
精神的ストレス | 人間関係、仕事のプレッシャー、不安感 | 自律神経の乱れ、ホルモンバランスの変動、免疫機能の低下 |
肉体的ストレス | 過労、睡眠不足、病気、手術、出産 | 免疫細胞の活動変化、炎症反応の亢進 |
環境的ストレス | 騒音、気温の変化、化学物質への曝露 | 交感神経の緊張、ホルモン分泌の変化 |
アトピー素因と円形脱毛症
アトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすい傾向があることが知られています。
アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎などを起こしやすい体質のことです。
アトピー性皮膚炎との合併
円形脱毛症の患者さんの約20~30%にアトピー性皮膚炎の合併が見られるという報告があり、また、アトピー性皮膚炎の既往歴がある人や家族歴がある人も、円形脱毛症のリスクが高いです。
これは、両疾患の背景に共通の免疫異常が存在する可能性を示唆しています。
アレルギー体質と免疫反応
アトピー素因を持つ人は、特定の物質に対して免疫系が過剰に反応しやすい傾向があり、免疫反応の偏りが、毛包に対する自己免疫反応を起こす一因となるのではないかと考えられています。
ただし、アトピー素因があれば必ず円形脱毛症になるわけではありません。
遺伝的要因の可能性
アトピー素因自体に遺伝的な要因が関与しているため、間接的に円形脱毛症の発症にも遺伝が影響している可能性があります。アトピー素因と円形脱毛症の関連については、まだ研究が進められている段階です。
その他の考えられる原因
自己免疫疾患、ストレス、アトピー素因の他にも、円形脱毛症の発症や進行に関与する可能性のある要因がいくつか挙げられています。
- 遺伝的要因
- 内分泌異常(甲状腺疾患、糖尿病など)
- 睡眠不足や不規則な生活
- 栄養バランスの乱れ(特に亜鉛や鉄分の不足)
要因が単独で原因となることは稀で、多くは複数の要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。
円形脱毛症が広がるサインと初期対応
円形脱毛症が広がり始めるサインを早期に察知し、適切に対応することは、症状の悪化を防ぎ、早期回復を目指す上で非常に重要です。
脱毛範囲の拡大を見極めるポイント
脱毛斑が一つ見つかった場合、それが広がるのか、あるいは新たな脱毛斑が出現するのかは大きな心配事す。
脱毛斑の数や大きさの変化
最初に発見した脱毛斑の大きさが徐々に拡大していないか、また、新たな脱毛斑が別の場所にできていないかを確認します。定期的に鏡で確認したり、家族にチェックしてもらったりすると良いでしょう。
スマートフォンのカメラで定期的に写真を撮っておくと、変化を客観的に把握しやすくなります。
脱毛部分の境界線の状態
脱毛斑の境界線がぼやけていたり、周囲の毛が簡単に抜けたりする場合は、脱毛がまだ活動的である可能性があります。
逆に、境界線がはっきりしてきて、産毛が生えてくるようであれば、回復傾向にあるサインかもしれません。
新たな脱毛斑の出現
単発型だと思っていたら、数週間後あるいは数ヶ月後に別の場所に新たな脱毛斑が出現し、多発型に移行することがあります。頭部全体をくまなくチェックすることが大切です。
脱毛以外の初期症状に注意
脱毛だけでなく、頭皮や体調に現れる変化も、円形脱毛症の活動性や進行を示すサインとなることがあります。
脱毛以外の初期症状の例
症状 | 詳細 | 考えられること |
---|---|---|
頭皮の違和感 | 脱毛部分やその周辺にかゆみ、赤み、ピリピリとした軽い痛みを感じる。 | 毛包周囲で炎症が起きている可能性。活動性のサインの一つ。 |
爪の異常 | 爪の表面に小さな点状のへこみ(点状陥凹)や横溝、もろさが見られる。 | 円形脱毛症患者の約10~20%に見られる。爪と毛髪は同じケラチンからできているため関連が指摘される。 |
全身倦怠感など | 原因不明の疲労感やだるさを感じる。 | 自己免疫反応やストレスが影響している可能性。 |
これらの症状は必ず現れるわけではありませんが、もし脱毛と合わせて気になる症状があれば、医療機関を受診する際に医師に伝えましょう。
早期発見・早期対応の重要性
円形脱毛症は、早期に発見し対応を開始することで、進行を遅らせたり、回復を早めたりできる可能性があります。
進行を遅らせる可能性
脱毛が広がる前に治療を開始することで、免疫の異常な攻撃を早期に抑え、毛包へのダメージを最小限に食い止めることが期待でき。脱毛範囲の拡大を防ぎ、症状の悪化を抑制できる可能性があります。
治療選択肢の幅
症状が軽度なうちであれば、外用薬など比較的負担の少ない治療法で効果が得られることがありますが、症状が進行してしまうと、より強力な治療法や複数の治療法を組み合わせる必要が出てくることもあります。
円形脱毛症の進行を防ぐためにできること
円形脱毛症の進行を食い止め、回復を促すためには、医療機関での治療と並行して、ご自身でできる生活習慣の改善やセルフケアも非常に重要です。
生活習慣の見直しと改善
健康な髪を育むためには、体の内側からのケアが基本です。バランスの取れた食事、質の高い睡眠、適度な運動を心がけ、免疫力を高め、心身の調子を整えましょう。
バランスの取れた食事
髪の主成分はタンパク質(ケラチン)です。良質なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)をしっかり摂取し、また、髪の成長にはビタミンやミネラルも欠かせません。
特に、亜鉛は毛髪の合成に、鉄分は毛母細胞への栄養供給に重要です。ビタミンB群は頭皮の新陳代謝を促し、ビタミンCはコラーゲンの生成を助け、ビタミンEは血行を促進します。
髪の成長に必要な栄養素と食品
栄養素 | 多く含む食品例 | 髪への主な役割 |
---|---|---|
タンパク質 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品 | 髪の主成分であるケラチンの材料となる |
亜鉛 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 | ケラチンの合成を助け、細胞分裂を促進する |
鉄分 | レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじき | ヘモグロビンの成分となり、頭皮への酸素供給を助ける |
ビタミンB群 | 豚肉、レバー、魚介類、穀類、豆類 | 頭皮の新陳代謝を促進し、皮脂のバランスを整える |
ビタミンC | 果物(柑橘類、いちご)、野菜(パプリカ、ブロッコリー) | コラーゲンの生成を助け、頭皮の健康を保つ。鉄分の吸収も促進。 |
ビタミンE | ナッツ類、植物油、アボカド | 血行を促進し、毛母細胞への栄養供給をスムーズにする。抗酸化作用も。 |
質の高い睡眠の確保
睡眠中には成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や再生が活発に行われ、毛母細胞も睡眠中に分裂・増殖するため、質の高い睡眠は健康な髪の育成に必要です。
毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠習慣を身につけましょう。寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用は避け、リラックスできる環境を整えることが大切です。
必要な睡眠時間は個人差がありますが、一般的には6~8時間が目安とされています。
単に長く寝るだけでなく、深い眠り(ノンレム睡眠)をしっかりとれるように、寝室の温度や湿度、寝具などにも気を配りましょう。
適度な運動の習慣化
適度な運動は、血行を促進し、頭皮への栄養供給をスムーズにし、また、ストレス解消や自律神経のバランスを整える効果も期待できます。
ウォーキング、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど、自分が楽しめる運動を無理のない範囲で続けることが大切です。週に数回、30分程度の運動を目安に始めてください。
頭皮環境を整えるヘアケア
健康な髪は健康な頭皮から生まれます。毎日のヘアケアで頭皮環境を清潔に保ち、刺激を与えないように心がけましょう。
適切なヘアケアのポイント
ポイント | 具体例 | 注意点 |
---|---|---|
シャンプー選び | アミノ酸系など低刺激性のシャンプーを選ぶ。 | 洗浄力が強すぎるもの、香料や着色料が多いものは避ける。 |
洗髪方法 | ぬるま湯で予洗いし、シャンプーはよく泡立ててから頭皮をマッサージするように優しく洗う。 | 爪を立ててゴシゴシ洗わない。すすぎ残しがないように丁寧に洗い流す。 |
乾燥 | 洗髪後はすぐにドライヤーで乾かす。頭皮から20cm程度離し、同じ場所に熱風を当て続けない。 | 自然乾燥は雑菌が繁殖しやすいため避ける。 |
頭皮マッサージ | 指の腹を使って、頭皮全体を優しく揉みほぐす。 | 力を入れすぎない。脱毛部分への強い刺激は避ける。 |
パーマやカラーリングは、頭皮や髪に負担をかける可能性があり、円形脱毛症の症状が出ている間は、できるだけ控えるか、美容師とよく相談して低刺激な方法を選ぶことが大切です。
医療機関で行われる円形脱毛症の検査と診断
円形脱毛症が疑われる場合、皮膚科を受診すると、まず詳しい問診と視診が行われます。必要に応じて、さらに詳細な検査が行われることもあります。
問診で伝えるべきこと
医師は、患者さんの状態を正確に把握するために、様々な質問をします。以下の情報を整理しておくと、スムーズに伝えられます。
- いつから脱毛に気づいたか(発症時期)
- 脱毛の範囲や数、大きさはどのように変化しているか(経過)
- かゆみ、痛みなどの自覚症状はあるか
- 過去に円形脱毛症になったことがあるか
- アトピー性皮膚炎、甲状腺疾患などの持病はあるか(既往歴)
- 家族に円形脱毛症や自己免疫疾患の人はいるか(家族歴)
- 最近、大きなストレスや生活環境の変化はあったか
- 普段の生活習慣(食事、睡眠、喫煙、飲酒など)
- 現在使用している薬やサプリメントはあるか
些細なことでも、診断の手がかりになることがありますので、できるだけ詳しく伝えましょう。
視診・触診による頭皮の状態確認
医師は、脱毛斑の状態を直接見て、触って確認し、脱毛の範囲、形状、活動性などを評価します。
脱毛斑の形状、範囲、活動性
脱毛斑の境界が鮮明か、ぼやけているか、炎症の兆候はないかなどを観察します。
また、脱毛斑の周囲の毛を軽く引っ張る「牽引試験(プルテスト)」を行い、毛が抜けやすい状態(活動期)かどうかを確認することもあります。
毛髪の状態(切れ毛、萎縮毛)
脱毛斑の中や周囲に残っている毛髪の状態も重要な情報で、円形脱毛症に特徴的な「感嘆符毛」や、毛根が萎縮して細くなっている毛がないかなどを確認します。
頭皮の色や炎症の有無
脱毛部分の頭皮の色調(赤みがないかなど)や、フケ、湿疹などの他の皮膚症状がないかもチェックし、他の脱毛症や皮膚疾患との鑑別を行います。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは、特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を使って、頭皮や毛穴、毛髪の状態を詳細に観察する検査です。肉眼では見えにくい微細な変化を捉えることができ、診断の精度を高めるのに役立ちます。
毛穴や毛髪の詳細な観察
ダーモスコピーを用いると、毛穴の開口部の状態、毛髪の太さや形状、色素沈着の有無などを詳しく見られ、円形脱毛症の活動期や回復期に特徴的な所見を確認できます。
円形脱毛症に特徴的な所見
例えば、活動期には「黄点(イエロードット)」と呼ばれる毛穴に皮脂や角質が詰まった黄色い点や、「黒点(ブラックドット)」と呼ばれる毛穴に残った切れ毛の断端などが見られることがあります。
また、感嘆符毛もダーモスコピーでより明瞭に観察でき、所見は、診断の補助や治療効果の判定に有用です。
必要に応じて行われるその他の検査
問診や視診、ダーモスコピー検査で診断が確定できない場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合、あるいは全身性の自己免疫疾患が疑われる場合には、追加の検査が行われることがあります。
円形脱毛症の診断に用いられる検査
検査名 | 目的 | 主な内容・確認事項 |
---|---|---|
血液検査 | 他の自己免疫疾患(甲状腺疾患、膠原病など)の合併がないか、貧血や栄養状態などを調べる。 | 自己抗体(抗核抗体、抗甲状腺抗体など)、甲状腺ホルモン、血算、鉄、亜鉛など。 |
皮膚生検 | 確定診断が難しい場合や、他の脱毛症との鑑別が必要な場合に行う。 | 局所麻酔をして脱毛部から小さな皮膚組織を採取し、顕微鏡で毛包周囲の炎症細胞などを調べる。 |
アレルギー検査 | アトピー素因の関与が疑われる場合に行うことがある。 | 血中のIgE抗体値や特異的IgE抗体検査など。 |
女性の円形脱毛症に対する主な治療法
円形脱毛症の治療法は、症状の範囲や重症度、年齢、患者さんの希望などを総合的に考慮して選択されます。
ステロイド外用療法
軽症の円形脱毛症や、小児の円形脱毛症に対して最初に行われることが多い治療法です。ステロイドには免疫反応や炎症を抑える作用があり、毛包への攻撃を抑制することで発毛を促します。
作用と効果
ステロイド外用薬(塗り薬)を脱毛斑に塗布することで、局所の免疫反応を鎮めます。
比較的副作用が少なく、自宅で手軽に行える治療法で、効果が現れるまでには数ヶ月かかることが一般的です。
使用方法と注意点
医師の指示に従い、1日に1~2回、脱毛部分に薄く塗布し、自己判断で塗る量や回数を増やしたり、中止したりしないようにしましょう。長期間使用する場合は、定期的に医師の診察を受けることが大切です。
副作用について
長期間、広範囲に強いステロイド外用薬を使用した場合、皮膚が薄くなる、毛細血管が拡張する、ニキビができやすくなるなどの局所的な副作用が現れることがあります。
医師の指導のもとで適切に使用すれば、重篤な副作用が起こることは稀です。
ステロイド局所注射
脱毛斑が限局している場合や、外用薬だけでは効果が不十分な場合に選択されることがあります。ステロイド薬を直接脱毛斑の皮内に注射することで、より高い濃度で薬剤を作用させることができます。
作用と効果
外用薬よりも強力に免疫反応を抑制し、発毛を促す効果が期待でき、通常、数週間から1ヶ月程度の間隔で、数回治療を行います。効果には個人差があります。
治療間隔と回数
一般的には2~6週間おきに、症状が改善するまで数回から十数回程度行います。治療間隔や回数は、症状の程度や治療への反応を見ながら医師が判断します。
局所免疫療法(SADBE、DPCP)
広範囲に及ぶ多発型や全頭型、汎発型の円形脱毛症に対して有効性が高いとされる治療法です。
SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)といった特殊な化学物質を脱毛部に塗布し、人工的に軽いかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせることで、毛包を攻撃している免疫細胞の働きを変化させ、発毛を促します。
作用と効果
かぶれを起こすことで、毛包に向かっていた免疫反応を別の方向(かぶれに対する反応)に誘導し、毛包への攻撃を弱める効果が期待されます。
治療効果が現れるまでには数ヶ月から半年程度かかることが多く、根気強い治療が必要です。
治療の流れと注意点
まず、感作(アレルギー反応を起こしやすい状態にすること)のために、腕などに少量の化学物質を塗布します。
1~2週間後に、脱毛部に低濃度の化学物質を塗布し始め、徐々に濃度を上げていき、適度なかゆみや赤みが出るように調整します。
週に1回程度の通院が必要で、治療中は、かゆみや赤みが強く出すぎないように注意が必要です。
かぶれなどの副作用
主な副作用は、治療部位のかゆみ、赤み、腫れ、湿疹などで、時に、リンパ節の腫れや全身倦怠感、蕁麻疹などが現れることもあります。
症状が強い場合は、医師に相談し、塗布する濃度や範囲を調整してもらう必要があります。この治療法は、保険適用外となることが多いです。
その他の治療法と補助療法
上記の治療法の他にも、症状や患者さんの状態に応じて様々な治療法が検討されることがあります。
円形脱毛症の治療法選択肢
治療法 | 概要 | 対象となる主な症状 |
---|---|---|
内服薬(抗アレルギー薬、セファランチンなど) | アレルギー反応を抑えたり、血流を改善したりする目的で使用されることがある。 | 他の治療法の補助として、またはアトピー素因が関与する場合など。 |
紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法) | 特定の波長の紫外線を脱毛部に照射し、免疫反応を調整する。 | 広範囲の脱毛、他の治療で効果が乏しい場合など。 |
冷却療法(液体窒素療法) | 液体窒素を脱毛部に軽く当てることで、刺激を与え発毛を促す。 | 小範囲の脱毛、他の治療の補助として。 |
JAK阻害薬(内服・外用) | 免疫細胞の働きを調整する新しいタイプの薬剤。 | 広範囲で重症な円形脱毛症に対して、近年注目されている。保険適用には条件がある。 |
ウィッグの使用など精神的サポート | 脱毛による外見の変化をカバーし、QOL(生活の質)を維持する。 | 全てのタイプの円形脱毛症。治療と並行して行うことが多い。 |
よくある質問 (FAQ)
円形脱毛症に関して、多くの方が抱える疑問や不安についてお答えします。ただし、ここで提供する情報は一般的なものであり、個々の症状や状況によって異なる場合があります。
- Q円形脱毛症は治りますか?
- A
円形脱毛症の多くは、自然に治癒したり、適切な治療によって改善したりします。特に単発型の場合は、数ヶ月から1年程度で自然に治ることも少なくありません。
しかし、脱毛範囲が広い場合や、全頭型・汎発型などの重症なタイプでは、治療が長期に及んだり、治りにくいケースもあります。
- Q妊娠中や授乳中でも治療は受けられますか?
- A
妊娠中や授乳中は、使用できる薬剤や治療法に制限がある場合があります。
一部の内服薬や強力なステロイド外用薬、局所免疫療法などは、胎児や乳児への影響を考慮して避けるか、慎重な判断が必要になります。
円形脱毛症の治療を希望する場合は、必ず産婦人科医と皮膚科医の両方に相談し、安全性を最優先にした治療計画を立ててもらうことが重要です。
- Q円形脱毛症が再発することはありますか?
- A
残念ながら、円形脱毛症は一度治っても再発する可能性があり、再発率は正確には分かっていませんが、約半数以上の人が再発を経験するという報告もあります。
再発の時期や頻度も個人差が大きいです。
再発を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、日頃からストレス管理や生活習慣に気を配ることで、再発のリスクを低減できる可能性があります。
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