円形脱毛症は、ある日突然、髪の毛が円形や楕円形に抜け落ちる症状で、多くの方が悩んでいて、特に女性にとっては、外見への影響も大きく、精神的な負担も少なくありません。
この記事では、女性の円形脱毛症について、その原因や症状、そして気になる保険適用や治療費について詳しく解説します。治療法は一つではなく、症状や進行度によって異なります。
どのような治療法があり、それぞれにどの程度の費用がかかるのか、保険はどこまで使えるのか、といった疑問にお答えします。
円形脱毛症とは?女性特有の原因と症状の進行
円形脱毛症は、性別や年齢に関わらず誰にでも起こりうる脱毛症ですが、女性の場合、特有の原因や症状の現れ方があることも知られています。
まずは円形脱毛症の基本的な知識と、女性における特徴について理解を深めましょう。
円形脱毛症の基本的な知識
円形脱毛症は、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など、毛が生えている部分ならどこにでも発症する可能性があり、一般的には、コインのような円形または楕円形の脱毛斑が突然現れるのが特徴です。
単発型から多発型まで 様々なタイプ
円形脱毛症にはいくつかのタイプがあります。
脱毛斑が1箇所だけできる「単発型」、2箇所以上できる「多発型」、頭部全体に広がる「全頭型」、さらに全身の毛が抜ける「汎発型」など、症状の範囲によって分類されます。
また、後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛する「蛇行型」というタイプもあります。
女性に起こりやすい円形脱毛症の特徴
女性の場合、びまん性脱毛といって、特定の部位だけでなく頭部全体の髪が薄くなるタイプの円形脱毛症が見られることもあります。
女性型脱毛症(FAGA)と症状が似ているため、専門医による正確な診断が重要で、また、ホルモンバランスの変動が影響しやすいことも女性の特徴の一つです。
女性の円形脱毛症を起こす主な原因
円形脱毛症の明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
自己免疫疾患としての側面
現在、最も有力な説とされているのが自己免疫疾患です。何らかの原因で免疫系に異常が生じ、自分の毛包組織を異物と認識して攻撃してしまうことで脱毛が起こると考えられています。
リンパ球の一種であるT細胞が毛根を攻撃することが確認されていて、甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患を持つ方に円形脱毛症が合併しやすいことも、この説を裏付けています。
ストレスやホルモンバランスの影響
精神的なストレスや肉体的な疲労が、円形脱毛症の発症や悪化の引き金になることがあり、ストレスは自律神経のバランスを乱し、免疫機能にも影響を与える可能性があります。
また、女性の場合は妊娠、出産、更年期など、ライフステージにおけるホルモンバランスの大きな変化も、円形脱毛症の発症に関与することがあります。
特に産後の脱毛は、ホルモンバランスの急激な変化と育児によるストレスが重なることで起こりやすいです。
その他の考えられる要因
遺伝的な要因も関与していると考えられていて、家族に円形脱毛症の方がいる場合、発症リスクがやや高いです。ただし、遺伝だけで発症するわけではなく、他の要因と複合的に作用します。
その他、アトピー素因(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎など)を持つ人も円形脱毛症になりやすい傾向があります。
症状の進行と脱毛斑の広がり方
円形脱毛症の症状の進行は個人差が大きく、予測が難しい場合があり、早期に気づき、対応をすることが大切です。
初期症状の見分け方
初期症状としては、自覚症状がないまま突然脱毛斑が見つかることが多いです。洗髪時やブラッシング時に多量の抜け毛に気づいたり、美容院で指摘されたりして初めて発症を知るケースも少なくありません。
脱毛斑の皮膚は、赤みを帯びたり、わずかなかゆみや違和感を伴ったりすることもありますが、多くは正常な皮膚と変わらず、脱毛部の毛穴がはっきりしなくなることもあります。
脱毛が進行するパターン
脱毛斑は数週間から数ヶ月かけて拡大したり、数が増え、単発型から多発型へ、さらに広範囲な脱毛へと進行する可能性もあります。
進行のスピードや範囲は、個人の体質や原因、治療の開始時期などによって大きく異なり、急速に進行する場合もあれば、ゆっくりと進行する場合、あるいは自然に治癒する場合もあります。
回復の兆しと注意点
治療を開始したり、自然治癒の過程に入ったりすると、脱毛斑に細く柔らかい産毛が生えてくることがあり、白色や薄茶色であることが多いですが、次第に太く黒い毛に置き換わっていきます。
回復の兆しが見られても、自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従うことが重要で、また、再発する可能性もあるため、油断は禁物です。
円形脱毛症の診断 どのような検査を行うのか
円形脱毛症の疑いがある場合、まずは皮膚科を受診し、専門医による正確な診断を受けることが治療の第一歩です。
皮膚科での専門的な診断の流れ
皮膚科では、患者さんの状態を詳しく把握するために、問診と視診・触診を行います。
問診で伝えるべきこと
問診では、以下のような情報を医師に伝えることが大切です。
- いつから脱毛が始まったか
- 脱毛の範囲や進行の様子
- 自覚症状(かゆみ、痛みなど)の有無
- 過去の円形脱毛症の経験
- 家族歴(血縁者に円形脱毛症の人がいるか)
- アトピー素因の有無
- 現在治療中の病気や服用中の薬
- 最近の生活環境の変化やストレスの状況
- 妊娠・出産の状況(女性の場合)
情報は、診断の手がかりとなるだけでなく、治療方針を決定する上でも重要になります。
視診と触診による状態の確認
医師は、脱毛斑の形、大きさ、数、分布、頭皮の状態(色、炎症の有無など)を詳しく観察します。
また、脱毛斑の境界部やその周辺の毛の状態(切れ毛、萎縮毛、「感嘆符毛」と呼ばれる特徴的な毛の有無など)も確認します。触診では、頭皮の硬さや脱毛部の状態を確かめます。
確定診断のための検査方法
視診だけでは診断が難しい場合や、他の脱毛症との鑑別が必要な場合には、さらに詳しい検査を行います。
ダーモスコピー検査とは
ダーモスコピーは、特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を用いて頭皮や毛髪の状態を詳細に観察する検査です。
検査により、肉眼では見えにくい毛穴の状態、毛髪の太さや形状、微細な血管のパターンなどを確認できます。
円形脱毛症に特徴的な所見(イエローデポジット、ブラックドット、感嘆符毛など)を見つけることで、診断の精度を高めることができます。
血液検査でわかること
血液検査は、円形脱毛症の原因となりうる自己免疫疾患(特に甲状腺疾患など)や、鉄欠乏性貧血、亜鉛欠乏など、全身状態の異常がないかを調べるために行われることがあります。
また、アトピー素因の有無を調べるために、IgE抗体の値を測定することもあり、全ての患者さんに行うわけではなく、医師が必要と判断した場合に実施する検査です。
皮膚生検が必要なケース
診断が非常に難しい場合や、他の重篤な皮膚疾患との鑑別が必要な場合には、皮膚生検を行うことがあり、脱毛部の皮膚を局所麻酔下に少量採取し、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる検査です。
毛包周囲の炎症細胞の種類や分布などを確認することで、より正確な診断が可能になります。ただし、侵襲的な検査であるため、実施は慎重に判断されます。
他の脱毛症との見分け方
女性の薄毛や脱毛の原因は円形脱毛症だけではありません。治療を行うためには、他の脱毛症と正確に見分けることが重要です。
女性型脱毛症(FAGA)との違い
女性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia: FAGA)は、主に頭頂部や前頭部の髪が全体的に薄くなるのが特徴で、男性型脱毛症(AGA)の女性版です。
ただし、円形脱毛症のような境界明瞭な脱毛斑は通常見られません。FAGAは主に加齢やホルモンバランスの変化が原因と考えられています。
牽引性脱毛症や薬剤性脱毛症との比較
牽引性脱毛症は、ポニーテールやきつい編み込みなど、髪を強く引っ張る髪型を長期間続けることで、毛根に負担がかかり脱毛が起こるものです。
主に生え際や分け目に見られます。薬剤性脱毛症は、特定の薬剤(抗がん剤など)の副作用として起こる脱毛で、原因となる薬剤の使用状況を確認することで鑑別できます。
脱毛症の種類
脱毛症の種類 | 主な特徴 | 好発部位 |
---|---|---|
円形脱毛症 | 境界明瞭な円形・楕円形の脱毛斑 | 頭部、眉毛、まつ毛、体毛など全身 |
女性型脱毛症(FAGA) | 頭頂部や前頭部がびまん性に薄くなる | 頭頂部、前頭部 |
牽引性脱毛症 | 髪を強く引っ張ることで生じる脱毛 | 生え際、分け目など牽引される部位 |
女性の円形脱毛症治療における保険適用の範囲
円形脱毛症の治療を受けるにあたり、多くの方が気になるのが保険適用の範囲と治療費でしょう。ここでは、どのような治療が健康保険の対象となり、どのような場合に自由診療となるのかを解説します。
健康保険が使える治療法とは
日本の医療制度では、病気やケガの治療に対して健康保険が適用されます。円形脱毛症も皮膚疾患の一つとして、一部の治療法は保険診療の対象となります。
保険適用となる主な治療薬
円形脱毛症の保険診療で用いられる代表的な薬剤には、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬などがあります。
薬剤は、炎症を抑えたり、かゆみを軽減したりする効果が期待され、医師が症状や範囲に応じて処方します。
保険適用される治療行為
薬剤処方のほか、ステロイド局所注射や液体窒素による冷却療法なども、条件によっては保険適用となる場合があります。
また、紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法など)も、一部の医療機関では保険診療として行われています。
ただし、治療が全ての方に適用されるわけではなく、医師の判断と医療機関の設備によります。
保険適用外(自由診療)となる治療法
一方で、円形脱毛症の治療法の中には、健康保険が適用されない自由診療となるものもあります。
自由診療を選択するケース
自由診療は、保険診療で十分な効果が得られない場合や、より新しい治療法を試したい場合などのときの選択肢です。
患者さんの希望や医師の判断によって行われ、自由診療の場合、治療費は全額自己負担となります。
代表的な自由診療の治療法
円形脱毛症の自由診療としては、局所免疫療法(SADBE療法やDPCP療法)、ミノキシジル外用薬(高濃度のものや内服薬)、HARG療法、メソセラピー、低出力レーザー治療などがあります。
治療法は、有効性が期待されるものの、保険診療として承認されるためのエビデンスがまだ十分でない、あるいは美容的な側面が強いと判断される場合などがあります。
保険診療と自由診療の比較
項目 | 保険診療 | 自由診療 |
---|---|---|
自己負担割合 | 原則1~3割 | 全額(10割) |
治療法の種類 | 国が認めた標準的な治療 | 多様な選択肢、先進的な治療も含む |
費用 | 比較的安価 | 高額になる場合がある |
円形脱毛症の治療費 具体的な費用の目安
円形脱毛症の治療費は、保険診療か自由診療か、また治療法や治療期間によって大きく異なります。ここでは、費用の目安について解説します。
保険診療の場合の治療費内訳
保険診療の場合、治療費は診療報酬点数に基づいて計算され、患者さんはその一部を負担します。主な内訳は以下の通りです。
初診料・再診料
初めて医療機関を受診する際には初診料が、2回目以降の受診では再診料がかかり、料金は国によって定められています。
初診料は通常2,000円~3,000円程度(3割負担の場合)、再診料は700円~1,000円程度(3割負担の場合)が目安です。
検査費用
診断のためにダーモスコピー検査や血液検査などを行った場合、別途検査費用がかかります。
ダーモスコピー検査は数百円程度(3割負担の場合)、血液検査は項目数にもよりますが数千円程度(3割負担の場合)が目安です。皮膚生検を行う場合は、さらに費用がかかります。
薬剤費(内服薬・外用薬)
ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬などが処方された場合、1ヶ月あたり数百円から数千円程度(3割負担の場合)が目安です。ジェネリック医薬品を選択することで、薬剤費を抑えられる場合もあります。
処置料
ステロイド局所注射や液体窒素による冷却療法などの処置を行った場合、処置料がかり、1回あたり数百円から数千円程度(3割負担の場合)です。
保険診療における一般的な費用項目(3割負担の場合の目安)
費用項目 | 目安金額 | 備考 |
---|---|---|
初診料 | 約2,000~3,000円 | 初回のみ |
再診料 | 約700~1,000円 | 2回目以降 |
薬剤費(1ヶ月分) | 約500~3,000円 | 薬剤の種類・量による |
処置料(1回) | 約500~2,000円 | 処置内容による |
※上記はあくまで目安であり、医療機関や治療内容によって異なります。
自由診療の場合の治療費相場
自由診療の場合、医療機関が独自に価格を設定できるため、費用は大きく異なり、治療を受ける前に、必ず費用について十分な説明を受け、納得することが重要です。
治療法別の費用感
例えば、局所免疫療法(SADBE療法やDPCP療法)は、1回あたり数千円から1万円程度が相場です。ミノキシジル外用薬(高濃度のもの)は、1ヶ月分で数千円から1万円以上することもあります。
HARG療法やメソセラピーといった注入治療は、1回あたり数万円から十数万円と高額になる傾向があります。
クリニックによる価格設定の違い
同じ治療法でも、クリニックの立地や設備、医師の経験などによって価格設定が異なります。複数のクリニックでカウンセリングを受け、費用や治療内容を比較検討することも一つの方法です。
治療回数と総額の目安
自由診療の治療は、効果が出るまでに複数回の治療が必要となります。そのため、1回あたりの費用だけでなく、治療完了までの総額がどの程度になるのかを事前に確認しておくことが大切です。
自由診療の治療費例(目安)
治療法 | 1回あたりの費用目安 | 備考 |
---|---|---|
局所免疫療法 | 5,000円~15,000円 | 定期的な通院が必要 |
高濃度ミノキシジル外用薬 | 8,000円~20,000円(1ヶ月分) | 継続的な使用が必要 |
注入治療(HARG、メソセラピー等) | 50,000円~150,000円 | 複数回の治療が必要な場合が多い |
※上記はあくまで目安であり、クリニックや治療内容によって大きく異なります。
代表的な円形脱毛症の治療法とそれぞれの特徴
円形脱毛症の治療法は多岐にわたります。症状の範囲や程度、年齢、合併症の有無などを考慮し、医師が患者さんと相談しながら適切な治療法を選択します。
ステロイド治療
ステロイドは、炎症や免疫反応を抑える作用があり、円形脱毛症の治療において広く用いられ、使用方法には、外用(塗り薬)、局所注射、内服(飲み薬)です。
ステロイド外用薬(塗り薬)
脱毛斑に直接塗布するタイプの薬剤で、比較的軽症の円形脱毛症や、小範囲の脱毛斑に対して初期治療として用いられることが多いです。
副作用は少ないですが、長期間使用する場合は皮膚が薄くなるなどの注意が必要になります。
ステロイド局所注射
脱毛斑に直接ステロイドを注射する方法です。外用薬よりも薬剤が直接毛包に作用するため、より高い効果が期待でき、主に脱毛斑が限局している場合や、外用薬で効果が不十分な場合に選択されます。
注射部位に痛みや皮膚の萎縮、陥凹などが起こることがあり、数週間から1ヶ月程度の間隔で治療を行います。
ステロイド内服薬
脱毛が広範囲で急速に進行している重症例に対して、短期間に限定して使用されることがあります。
免疫抑制作用が強く、高い効果が期待できる一方で、全身性の副作用(免疫力低下、糖尿病、高血圧、骨粗しょう症、ムーンフェイスなど)のリスクがあるため、使用は慎重に判断されます。
ステロイド治療法の比較
治療法 | 主な対象 | 特徴・注意点 |
---|---|---|
外用薬 | 軽症、小範囲 | 副作用は比較的少ないが、長期使用に注意 |
局所注射 | 限局性、外用薬で効果不十分な場合 | 注射部位の痛み、皮膚萎縮の可能性 |
内服薬 | 重症、急速進行例 | 効果は高いが、全身性の副作用に注意 |
免疫療法
免疫療法は、人工的に皮膚にかぶれを起こさせることで、毛包への攻撃を別の方向に向かせ、発毛を促す治療法です。主に広範囲の脱毛症や、他の治療で効果が見られない場合に検討されます。
SADBE療法やDPCP療法
局所免疫療法として代表的なものに、SADBE(スクアレン酸ジブチルエステル)やDPCP(ジフェニルシクロプロペノン)という化学物質を脱毛部に塗布する方法があります。
このような物質は、かぶれを起こしやすい性質を持っています。
まず、感作(アレルギー反応を起こせる状態にすること)を行い、その後、低濃度から徐々に濃度を上げて脱毛部に塗布し、軽い接触皮膚炎を維持します。
その後、毛包を攻撃していたリンパ球の働きが変化し、発毛が促されると考えられています。
治療の進め方と効果
治療は通常、1~2週間に1回のペースで行い、効果が現れるまでには数ヶ月かかることが多く、根気強い治療が必要です。
効果には個人差があり、全ての人に有効とは限りません。治療期間は半年から1年以上になることもあります。
副作用と注意点
主な副作用は、塗布部位のかゆみ、赤み、腫れ、ただれなどの接触皮膚炎症状です。重度の場合は、水疱形成やリンパ節の腫れなどが起こることもあります。
症状は、塗布する薬剤の濃度を調整することでコントロールし、また、治療中は紫外線対策が重要です。
その他の治療法
ステロイド治療や免疫療法の他にも、いくつかの治療法が円形脱毛症に対して試みられています。
ミノキシジル外用薬
ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、発毛効果があることがわかり、脱毛症治療薬として用いられていて、毛母細胞の活性化や血行促進作用により、発毛を促します。
日本では、男性型脱毛症(AGA)治療薬として市販されていますが、円形脱毛症に対しても医師の判断で使用されることがあり、保険適用外となる場合が多いです。
副作用として、塗布部位のかゆみや発疹などが報告されています。
紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法)
特定の波長の紫外線を脱毛部に照射する治療法です。免疫反応を調整する作用があり、円形脱毛症の改善効果が期待されます。
PUVA療法は、ソラレンという薬剤を塗布または内服した後に長波長紫外線(UVA)を照射する方法、ナローバンドUVB療法は、中波長紫外線(UVB)の中の特定の狭い波長域の光を照射する方法です。
週に1~3回程度の通院が必要です。副作用として、日焼けのような皮膚の赤みや色素沈着、長期的な影響として皮膚がんのリスク増加の可能性などが指摘されています。
冷却療法
液体窒素などを脱毛部に接触させて冷却刺激を与える治療法です。
軽い炎症を起こすことで、免疫状態を変化させ、発毛を促し、比較的簡便に行える治療ですが、効果には個人差があります。治療時に軽い痛みを伴うことがあります。
その他の治療法の概要
治療法 | 作用機序(考えられるもの) | 主な特徴 |
---|---|---|
ミノキシジル外用薬 | 毛母細胞活性化、血行促進 | 保険適用外の場合が多い、継続使用が必要 |
紫外線療法 | 免疫反応の調整 | 週に数回の通院が必要、副作用に注意 |
冷却療法 | 冷却刺激による免疫状態の変化 | 簡便、効果に個人差、軽い痛み |
治療期間と回復までの道のり
円形脱毛症の治療を開始してから、実際に髪が生えそろうまでには、ある程度の時間が必要です。
治療開始から効果実感までの目安
治療を始めてすぐに効果が現れるわけではありません。多くの場合、効果を実感するまでには数週間から数ヶ月を要します。
症状の程度による違い
脱毛斑が小さく、数が少ない軽症の場合は、比較的短期間で発毛が見られることがあります。
脱毛範囲が広い場合や、全頭型、汎発型といった重症例では、治療効果が現れるまでに時間がかかる傾向があります。また、発症からの期間が長いほど、治療への反応が鈍くなることもあります。
治療法による効果発現の差
ステロイド外用薬や局所注射は比較的早期に効果が見られることがありますが、局所免疫療法や紫外線療法は、効果発現までに数ヶ月単位の時間が必要となるのが一般的です。
初期脱毛とその後の経過
一部の治療法(例えばミノキシジル外用薬など)では、治療開始後に一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」と呼ばれる現象が起こることがあります。
これは、休止期にあった毛髪が新しい毛髪に押し出されるために起こるもので、治療が効き始めている兆候です。
通常は1~2ヶ月程度で落ち着き、その後、新しい髪が生えてきます。
完治までの平均的な期間
円形脱毛症が完治するまでの期間は、一概には言えません。数ヶ月で治癒するケースもあれば、数年単位の治療が必要となるケースもあります。
再発の可能性と予防
円形脱毛症は、一度治癒しても再発することがある病気で、再発率は30~40%程度とも言われています。
再発を完全に予防することは難しいですが、ストレスを溜めない、バランスの取れた食事を心がける、十分な睡眠をとるなど、心身の健康を保つことが再発リスクを低減するためには重要です。
治療中の生活で心がけること
円形脱毛症の治療効果を高め、再発を防ぐためには、治療と並行して日常生活でもいくつかの点に気をつけましょう。
バランスの取れた食事
髪の毛はタンパク質からできており、成長にはビタミンやミネラルも必要で、特定の食品だけを摂取するのではなく、肉、魚、卵、大豆製品、野菜、果物などをバランス良く摂ることが大切です。
特に、髪の主成分であるケラチンの生成に必要な亜鉛や、頭皮の血行を促進するビタミンEなどを意識して摂取すると良いでしょう。
十分な睡眠と休息
睡眠不足や過労は、自律神経の乱れや免疫力の低下につながり、円形脱毛症の悪化要因となる可能性があります。質の高い睡眠を十分にとり、適度に休息を挟むことで、心身のバランスを整えることが重要です。
就寝前のカフェイン摂取を避ける、寝室の環境を整えるなど、睡眠の質を高める工夫をしてください。
ストレスマネジメント
ストレスは円形脱毛症の大きな誘因の一つと考えられていて、日常生活でストレスを完全に避けることは難しいですが、自分なりのストレス解消法を見つけ、上手にコントロールすることが大切です。
趣味の時間を楽しむ、適度な運動をする、リラックスできる時間を作るなど、心身をリフレッシュする方法を取り入れましょう。
頭皮ケアとヘアケア
治療中は、頭皮を清潔に保ち、刺激の少ないシャンプーを使用するなど、優しいヘアケアを心がけましょう。強くこすったり、爪を立てて洗ったりするのは避けます。
また、パーマやカラーリングは、頭皮や毛髪に負担をかける可能性があるため、症状が落ち着くまでは控えるか、医師に相談してから行います。
紫外線も頭皮にダメージを与えるため、外出時には帽子や日傘などで対策をするとことが大切です。
治療中の生活習慣のポイント
生活習慣 | 心がけること | 具体的な例 |
---|---|---|
食事 | バランス良く栄養を摂取する | タンパク質、ビタミン、ミネラルを意識 |
睡眠 | 質の高い睡眠を十分にとる | 規則正しい生活、寝る前のリラックス |
ストレス | 上手に発散・コントロールする | 趣味、運動、休息 |
頭皮ケア | 清潔に保ち、刺激を避ける | 低刺激シャンプー、優しい洗髪、紫外線対策 |
円形脱毛症に関するよくある質問
円形脱毛症について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。治療に関する疑問や不安の解消にお役立てください。
- Q円形脱毛症は遺伝しますか?
- A
円形脱毛症の発症には遺伝的な要因も関与していると考えられていて、家族に円形脱毛症の方がいる場合、全くいない場合に比べて発症リスクがやや高まるというデータがあります。
ただし、遺伝だけで必ず発症するわけではなく、自己免疫の異常やストレス、ホルモンバランスなど、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- Q食生活で気をつけることはありますか?
- A
特定の食品が円形脱毛症を直接治したり、悪化させたりするという明確な科学的根拠はありませんが、髪の毛の健康を保つためには、バランスの取れた食事が基本です。
髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)、髪の成長を助けるビタミン類(特にビタミンB群、C、E)、ミネラル類(特に亜鉛、鉄分)を積極的に摂取しましょう。
- Q治療をやめると再発しますか?
- A
円形脱毛症は、一度治癒しても再発する可能性がある病気です。
治療によって症状が改善し、医師が治癒と判断した場合でも、自己判断で治療を中断したり、通院をやめたりすると、再発のリスクが高まることがあります。
治療終了後も、医師の指示に従い、定期的な検診を受けるなど、経過を観察することが重要です。
参考文献
Ohyama M, Kamei K, Yuasa A, Anderson P, Milligan G, Sakaki‐Yumoto M. Economic burden of alopecia areata: A study of direct and indirect cost in Japan using real‐world data. The Journal of dermatology. 2023 Oct;50(10):1246-54.
Campos‐Alberto E, Hirose T, Napatalung L, Ohyama M. Prevalence, comorbidities, and treatment patterns of Japanese patients with alopecia areata: a descriptive study using Japan medical data center claims database. The Journal of dermatology. 2023 Jan;50(1):37-45.