この記事では、女性の円形脱毛症について、基本的な知識から、完治に至るまでの期間、そして回復の道のりでどのようなことが起こりうるのかを詳しく解説します。

円形脱毛症は、ある日突然髪が抜け落ちる症状で、多くの方が不安を感じます。

特に女性にとっては、見た目への影響も大きく、精神的な負担も少なくありませんが、円形脱毛症は適切な理解と対応によって、多くの場合、回復が期待できるものです。

目次

円形脱毛症とは何か?その基本的な理解

円形脱毛症は、頭部やその他の体毛のある部分に、円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。

多くの場合、自覚症状がないまま進行し、ある日鏡を見て気づく、あるいは家族や美容師に指摘されて発見されることも少なくありません。

円形脱毛症の定義と特徴

円形脱毛症は、毛髪が部分的に抜け落ちる後天性の脱毛症で、その名の通り、多くはコインのような円形の脱毛斑を生じますが、脱毛範囲や形状は個人差が大きいです。

一つの脱毛斑が徐々に拡大することもあれば、複数の脱毛斑が同時に発生したり、融合したりすることもあります。年齢や性別を問わず発症しますが、特に若年層にも見られることが特徴です。

多くの場合、毛包(毛を作り出す組織)は残存しているため、毛髪が再生する可能性は十分にあります。

円形脱毛症が治る過程では、まず細くて白い産毛が生え始め、徐々に太く黒い毛髪へと変化していくのが一般的です。

女性に多い円形脱毛症のタイプ

円形脱毛症にはいくつかのタイプがあり、脱毛の範囲や広がり方によって分類され、女性の場合、特に美容的な観点から悩みが深くなることもあります。

単発型と多発型

単発型は、頭部に1つだけ円形または楕円形の脱毛斑が生じるタイプで、円形脱毛症の中で最も多く見られるタイプで、比較的軽症です。

多くの場合、数ヶ月から1年程度で自然に治ることもありますが、治療を行うことで回復を早めることが期待できます。

多発型は、脱毛斑が2つ以上現れるタイプで、脱毛斑が頭部の広範囲に及ぶこともあり、単発型に比べて治療が長引く傾向があります。脱毛斑同士が融合して、より大きな不規則な形の脱毛になることもあります。

全頭型と汎発型

全頭型は、頭髪全体が抜け落ちてしまうタイプで、急速に進行する場合もあれば、多発型から移行する場合もあります。

治療には時間を要することが多く、根気強い対応が必要で、汎発型は、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、脇毛、陰毛など、全身の体毛が抜け落ちてしまう最も重症なタイプです。

全頭型同様、治療は長期にわたることが一般的で、精神的なサポートも重要になり、重症型は、円形脱毛症全体の数パーセント程度とされています。

他の脱毛症との違い

女性の薄毛や抜け毛の原因は円形脱毛症だけではなく、他の脱毛症との違いを理解することは、適切な対応を見つける第一歩です。

女性型脱毛症(FAGA)は、主に頭頂部の髪が薄くなるのが特徴で、ゆっくりと進行し、また、牽引性脱毛症は、ポニーテールなど特定の髪型を長期間続けることで、毛根に負担がかかり発生します。

分娩後脱毛症は、出産後のホルモンバランスの変化によって一時的に抜け毛が増えるものです。

脱毛症は、円形脱毛症とは原因や症状の現れ方が異なり、円形脱毛症は、境界が比較的はっきりした脱毛斑が生じるのが特徴です。

脱毛症の種類と主な特徴

脱毛症の種類主な原因特徴的な症状
円形脱毛症自己免疫異常など円形・楕円形の脱毛斑、突然発症
女性型脱毛症(FAGA)ホルモンバランス、遺伝など頭頂部中心にびまん性に薄毛が進行
牽引性脱毛症髪への物理的負担生え際や分け目などが後退・薄毛化

女性の円形脱毛症の主な原因と考えられる要因

円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。

自己免疫疾患としての側面

現在、円形脱毛症の最も有力な原因と考えられているのは、自己免疫反応の異常です。

通常、免疫システムは体外から侵入する細菌やウイルスなどの異物を攻撃して体を守りますが、免疫システムに異常が生じると、自分自身の正常な細胞や組織を異物と誤認して攻撃してしまうことがあります。

これが自己免疫疾患で、円形脱毛症の場合、Tリンパ球という免疫細胞が毛包を攻撃し、毛髪が抜け落ちると考えられています。

毛包が破壊されるわけではないため、免疫の攻撃が収まれば、再び毛髪が再生する可能性があり、円形脱毛症の完治を目指す治療では、この免疫の異常な働きを抑えることが一つの目標です。

ストレスとの関連性

精神的なストレスや肉体的な疲労が円形脱毛症の引き金になる、あるいは症状を悪化させる要因の一つです。

ストレスは自律神経のバランスを乱し、免疫系や内分泌系(ホルモン)にも影響を与える可能性があります。

過度なストレスがかかると、免疫細胞の働きが異常になり、毛包を攻撃しやすくなるのではないかという説があります。

ただし、ストレスが直接的な原因であるとは断定できず、あくまで誘因の一つと捉えるのが一般的です。

遺伝的要因の可能性

円形脱毛症の発症には、遺伝的な素因も関与していると考えられていて、家族内に円形脱毛症の方がいる場合、そうでない場合に比べて発症しやすいという報告があります。

複数の遺伝子が複雑に関与していると推測されており、特定の遺伝子だけで発症が決まるわけではありません。

遺伝的素因を持つ人が、何らかの環境要因(ストレス、感染症など)にさらされることで発症のスイッチが入るのではないか、という考え方もあります。

その他の誘因となり得るもの

自己免疫異常、ストレス、遺伝的要因以外にも、円形脱毛症の発症や悪化に関与する可能性のある要因がいくつか指摘されていて、複合的に絡み合って発症に至ると考えられています。

睡眠不足や不規則な生活

睡眠不足や不規則な食生活、過度なダイエットなどは、体のリズムを崩し、免疫機能の低下やホルモンバランスの乱れを起こす可能性があり、間接的に円形脱毛症の誘因となります。

健康な毛髪の成長には、十分な睡眠とバランスの取れた栄養が必要で、生活習慣を見直すことは、円形脱毛症の回復をサポートする上で大切です。

ホルモンバランスの乱れ

特に女性の場合、妊娠・出産、更年期など、ライフステージにおけるホルモンバランスの大きな変化が、円形脱毛症の発症や症状の変動に関与することがあります。

甲状腺疾患など、ホルモン分泌に関わる病気が背景にある場合も考えられ、気になる場合は、内分泌科など専門医の診察も考慮に入れると良いでしょう。

アトピー素因

アトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすいです。

アトピー素因を持つ人は、免疫システムが過敏に反応しやすい体質であるため、自己免疫反応も起こりやすいのではないかと考えられています。

実際に、円形脱毛症の患者さんの中には、何らかのアトピー疾患を合併しているケースが少なくありません。

円形脱毛症の症状と進行の仕方

円形脱毛症の症状は、単に髪が抜けるだけでなく、その現れ方や進行の仕方には個人差があり、初期症状に気づき、適切に対処することが、その後の回復にも影響を与えることがあります。

初期症状の見分け方

円形脱毛症の最も一般的な初期症状は、頭部にコイン大の脱毛斑が突然現れることです。

多くの場合、かゆみや痛みといった自覚症状は伴わないため、自分で気づくよりも、家族や美容師に指摘されて初めて知るケースもあります。

脱毛斑の皮膚は、炎症などがない限り、正常な皮膚と変わらないように見えることが多いですが、時に軽度の赤みやむくみを伴うこともあります。脱毛斑の境界は比較的はっきりしているのが特徴です。

初期の小さな脱毛斑を見逃さず、早めに皮膚科を受診することが、円形脱毛症が治るための第一歩となります。

脱毛斑の形状と大きさの変化

脱毛斑は、初期には1cm程度の小さな円形であることが多いですが、時間とともに拡大したり、数が増えたりすることがあり、複数の脱毛斑が融合して、不規則な大きな脱毛斑を形成することもあります。

進行のスピードは人それぞれで、数週間で急速に拡大する場合もあれば、数ヶ月かけてゆっくりと進行する場合もあります。

また、一度脱毛斑ができた後、自然に縮小して治癒に向かうケースもあれば、別の場所に新たな脱毛斑が出現するケースもあります。このように、症状の変動が大きいのも円形脱毛症の特徴の一つです。

脱毛斑の進行パターン

パターン特徴注意点
単発・自然治癒型小さな脱毛斑が1つでき、自然に軽快再発の可能性も考慮
多発・拡大進行型複数の脱毛斑が出現し、拡大・融合早期の医療機関受診が推奨される
蛇行状脱毛型後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛治療に時間を要する場合がある

脱毛以外の自覚症状

円形脱毛症では、脱毛以外にもいくつかの症状が現れることがあり、必ずしも全ての人に見られるわけではありませんが、診断の一助となることがあります。

爪の異常

円形脱毛症の患者さんの約10~20%に、爪の異常が見られることがあります。

症状は、爪の表面に小さな点状のへこみ(点状陥凹)ができたり、爪がもろくなったり、横方向に溝ができたり(ボー線条)することです。

爪の変化は、脱毛症状と同時期に現れることもあれば、脱毛の前後に見られることもあり、爪の異常は、円形脱毛症の活動性や重症度と関連があるという報告もあります。

違和感やかゆみ

通常、円形脱毛症の脱毛斑には痛みやかゆみなどの自覚症状は伴いませんが、一部の患者さんでは、脱毛が始まる前や脱毛部位に、軽いかゆみ、ピリピリとした違和感、または知覚過敏を感じることがあります。

症状は一時的なものであることが多いです。強いかゆみや痛みが続く場合は、他の皮膚疾患の可能性も考慮する必要があるため、医師に相談しましょう。

症状が進行するケースと自然治癒するケース

約80%の患者さんは、1年以内に自然に治癒すると言われています。

脱毛斑が1つか2つ程度の軽症(単発型)の場合は、特別な治療をしなくても自然に毛髪が再生することが多いです。

脱毛斑が多発する場合や、脱毛範囲が広い場合(全頭型、汎発型)、アトピー素因がある場合、発症年齢が低い場合などは、症状が進行しやすく、治癒までに時間がかかる傾向があります。

また、一度治癒しても再発を繰り返すケースもあります。

円形脱毛症の完治までの一般的な期間

円形脱毛症を発症すると、「いつ治るのだろうか」という不安が最も大きいのではないでしょうか。完治までの期間は、症状の程度や治療法、そして個人の体質などによって大きく異なります。

症状の程度と回復期間の目安

円形脱毛症の回復期間は、一概には言えません。脱毛の範囲が狭く、数が少ない軽症の場合ほど、回復は早い傾向にあります。脱毛範囲が広範囲に及ぶ重症例では、回復までに長期間を要することが一般的です。

軽症の場合

脱毛斑が1~数個で、それぞれの範囲が小さい単発型や一部の多発型の場合、数ヶ月から1年程度で自然に治癒することが多く、適切な治療を行うことで、この期間を短縮できる可能性があります。

多くの場合、最初に細い産毛が生え始め、徐々にしっかりとした毛髪に置き換わっていき、この時期は、焦らずに毛髪の成長を見守ることが大切です。

中等症の場合

脱毛斑が複数あり、ある程度範囲が広がっている多発型の場合、回復までには半年から2年以上かかることもあり、治療法も、外用薬だけでなく、局所注射や内服薬などが検討されることがあります。

根気強く治療を続けることが、円形脱毛症の回復には重要です。

重症の場合

頭部全体の毛髪が失われる全頭型や、全身の体毛が失われる汎発型の場合、回復までには数年単位の期間が必要となることも少なくありません。

残念ながら、治療に反応しにくいケースや、完治が難しいケースもありますが、近年では新しい治療法の開発も進んでおり、希望を捨てずに専門医と相談しながら治療を継続することが求められます。

治療法による期間の違い

選択する治療法によっても、回復までの期間は変わってきて、ステロイド外用薬やミノキシジル外用薬などによる治療は、比較的軽症例に用いられ、効果が現れるまでに数ヶ月を要します。

ステロイド局所注射は、より直接的に毛包に作用するため、外用薬よりも早い効果が期待できる場合がありますが、複数回の治療が必要です。

局所免疫療法は、効果が現れるまでに数ヶ月から半年程度かかることが多く、効果が見られた後も維持療法が行われることがあります。

内服薬(ステロイドやJAK阻害薬など)は、比較的重症な場合に検討されますが、副作用のリスクも考慮し、医師の厳密な管理のもとで使用されます。

治療法別の一般的な効果発現時期の目安

治療法対象となる症状の程度効果発現までの目安
ステロイド外用薬軽症~中等症2~3ヶ月以上
ステロイド局所注射軽症~中等症(脱毛斑が限局している場合)1~2ヶ月(複数回治療後)
局所免疫療法中等症~重症3~6ヶ月以上

※上記はあくまで目安であり、個人差があります。

個人差が大きい回復期間

円形脱毛症の回復期間には、非常に大きな個人差があり、同じような症状、同じ治療法であっても、回復のスピードは人それぞれです。

年齢、体質、ストレスの状況、生活習慣、合併している疾患の有無などが影響すると考えられています。

特に、アトピー素因を持つ人や、甲状腺疾患などの自己免疫疾患を合併している人は、治癒までに時間がかかる傾向があります。

また、一度治癒しても再発しやすいため、他人と比較して一喜一憂するのではなく、ご自身のペースで治療に取り組み、焦らずじっくりと回復を待つ姿勢が大切です。

円形脱毛症の回復過程で起こりうること

円形脱毛症の治療を開始し、回復へと向かう過程では、様々な変化が起こりえ、良い兆候もあれば、不安に感じるような出来事もあるかもしれません。

産毛の再生とその後の変化

円形脱毛症が回復に向かう最初のサインとして、脱毛斑に細くて白い産毛が生えてくることが挙げられ、これは、休止していた毛包が再び活動を始めた証拠です。

この産毛は、最初は非常に細く、色も薄いため目立ちにくいかもしれませんが、重要な回復の兆しです。

その後、数週間から数ヶ月かけて、産毛は徐々に太く、色も濃くなり、しっかりとした毛髪へと成長していきます。

この過程で、一時的に髪質が変わったように感じること(例えば、以前よりくせ毛になるなど)もありますが、多くは時間とともに元の髪質に戻っていきます。

産毛が生えてきたからといってすぐに治療を中断せず、医師の指示に従って治療を継続し、毛髪が十分に成長するのを見守ることが、円形脱毛症が治るためには重要です。

再発の可能性と注意点

円形脱毛症は、一度治癒しても再発することがある疾患です。再発率は比較的高く、約40%の人が5年以内に再発するという報告もあります。

再発する場合、以前と同じ場所に脱毛斑ができることもあれば、別の場所に新たにできることもあり、再発を完全に予防することは難しいです。

ただし、ストレスを溜めない、バランスの取れた食事を心がける、十分な睡眠をとるなど、健康的な生活習慣を維持することが、再発リスクを低減させるのに役立つことがあります。

回復を促す生活習慣

円形脱毛症の直接的な治療ではありませんが、健康的な生活習慣は、体の免疫機能を正常に保ち、毛髪の再生をサポートする上で重要です。

バランスの取れた食事は、健康な毛髪を作るための栄養素を供給し、特に、タンパク質、亜鉛、鉄分、ビタミン類などを意識して摂取しましょう。

十分な睡眠は、成長ホルモンの分泌を促し、細胞の修復や再生を助けます。

適度な運動は、血行を促進し、ストレス解消にもつながり、喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させる可能性があるため、控えることが望ましいです。

回復期に意識したい生活習慣のポイント

  • バランスの取れた食事
  • 十分な質の高い睡眠
  • 適度な運動習慣
  • ストレスマネジメント
  • 禁煙

円形脱毛症の診断と医療機関での対応

円形脱毛症の疑いがある場合、自己判断せずに皮膚科専門医の診察を受けることが最も重要で、正確な診断に基づいた適切な治療が、早期回復への鍵です。

皮膚科専門医による診断の流れ

皮膚科では、まず問診と視診によって症状を詳しく把握し、その後、必要に応じていくつかの検査を行い、総合的に診断を下します。

問診と視診

問診では、いつから脱毛が始まったか、脱毛以外の自覚症状(かゆみ、痛みなど)の有無、既往歴、家族歴、生活習慣、ストレスの状況などが尋ねられます。

視診では、脱毛斑の数、大きさ、形状、分布、脱毛斑の皮膚の状態、毛髪の状態(切れ毛や萎縮毛の有無など)を詳細に観察します。

特に、脱毛斑の辺縁部で毛髪が簡単に抜けるかどうかは、疾患の活動性を判断する上で重要な所見です。

ダーモスコピー検査

ダーモスコピーは、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、皮膚や毛髪の状態を詳細に観察する検査です。

円形脱毛症に特徴的な所見(例えば、黄点、黒点、切れ毛)を確認することで、診断の精度を高められます。

血液検査など(必要に応じて)

円形脱毛症は、甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患を合併することがあるため、これらの疾患が疑われる場合には血液検査を行うことがあります。

また、鉄欠乏性貧血などが抜け毛の原因となることもあるため、必要に応じて貧血のチェックなども行います。全ての患者さんに必須の検査ではありませんが、他の疾患との鑑別や合併症の確認のために有用です。

一般的な治療法の選択肢

円形脱毛症の治療法は、症状の範囲や重症度、年齢、患者さんの希望などを考慮して選択され、一つの治療法で効果がない場合、他の治療法に変更したり、複数の治療法を組み合わせたりすることもあります。

ステロイド治療(外用・局所注射・内服)

ステロイドは、免疫反応を抑える作用があり、円形脱毛症治療の基本となる薬剤です。

軽症から中等症の場合は、ステロイド外用薬(塗り薬)が主に用いられ、脱毛斑が限局している場合には、ステロイド局所注射が有効なことがあります。

脱毛斑に直接ステロイドを注射する方法で、外用薬よりも高い効果が期待できますが、注射時の痛みを伴います。

広範囲で急速に進行する重症例や、他の治療で効果が見られない場合には、ステロイド内服薬が検討されることもありますが、全身的な副作用のリスクがあるため、医師による慎重な判断と管理が必要です。

局所免疫療法

局所免疫療法は、SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)といった特殊な化学物質を脱毛斑に塗布し、人工的に軽いかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせる治療法です。

かぶれによって、毛包を攻撃している免疫細胞の働きを別の方向へ向けさせ、発毛を促すと考えられていて、主に多発型や全頭型、汎発型といった比較的広範囲な脱毛症に対して行われます。

効果が現れるまでに数ヶ月かかり、定期的な通院が必要です。

その他の治療法

上記以外にも、ミノキシジル外用薬(血行促進作用や毛母細胞活性化作用)、セファランチン内服(アレルギー反応抑制、血流改善)、紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法など)、JAK阻害薬内服(新しいタイプの免疫抑制薬で、重症例に用いられることがある)など、様々な治療法があります。

主な治療法の比較

治療法主な作用適応(目安)
ステロイド外用抗炎症・免疫抑制軽症~中等症
ステロイド局所注射抗炎症・免疫抑制(局所)単発型・多発型(限局)
局所免疫療法免疫変調多発型・全頭型・汎発型

円形脱毛症と上手に付き合うための日常生活のヒント

円形脱毛症の治療と並行して、日常生活で少し工夫をすることで、頭皮への負担を減らしたり、精神的なストレスを軽減したりできます。

頭皮への刺激を避ける工夫

脱毛している部分の頭皮は敏感になっていることがあり、できるだけ刺激を与えないように心がけることが大切です。

シャンプーやヘアケア製品の選び方

シャンプーは、洗浄力が強すぎない、低刺激性のものを選びましょう。アミノ酸系やベタイン系の洗浄成分を配合したものがおすすめです。

洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流します。ドライヤーは、頭皮から離して低温で使用し、乾かしすぎないように注意してください。

パーマやヘアカラーは、頭皮や毛髪に大きな負担をかけるため、症状が落ち着くまでは控えるのが賢明です。

ヘアスタイルの工夫

脱毛斑が気になる場合は、ヘアスタイルを工夫することで目立たなくすることができ、分け目を変えたり、ボリュームを出すようなスタイリングを試したりするのも良いでしょう。

髪を結ぶ際は、きつく引っ張りすぎないように注意が必要で、牽引性脱毛症を併発するリスクを避けるためにも、頭皮に負担のかからない髪型を心がけてください。

バランスの取れた食事と栄養

健康な毛髪を育むためには、バランスの取れた食事が基本です。

特定の食品だけを摂取すれば円形脱毛症が治るということはありませんが、体全体の健康状態を良好に保つことが、毛髪の再生にも良い影響を与えます。

タンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など)は髪の主成分であり、亜鉛(牡蠣、レバー、ナッツ類など)は毛髪の成長に、鉄分(レバー、赤身肉、ほうれん草など)は頭皮への酸素供給に重要です。

ビタミン類(特にビタミンB群、C、E)も、頭皮環境を整えたり、血行を促進したりする働きがあります。インスタント食品や偏った食事は避け、多様な食材をバランス良く摂取することを心がけましょう。

毛髪の健康に役立つ栄養素

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質毛髪の主成分肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛毛髪の成長促進、免疫機能維持牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類
鉄分酸素運搬、頭皮への栄養供給レバー、赤身肉、ひじき、ほうれん草

ストレスマネジメントの方法

ストレスは円形脱毛症の誘因や悪化要因の一つと考えられていて、日常生活の中で、上手にストレスをコントロールする方法を見つけることが大切です。

十分な睡眠時間を確保する、趣味や好きなことに没頭する時間を作る、適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)でリフレッシュする、友人や家族と会話を楽しむなどが挙げられます。

アロマテラピーや瞑想なども、リラックス効果が期待できます。自分に合ったストレス解消法を見つけ、意識的に取り入れることで、心身のバランスを整え、円形脱毛症の回復をサポートしましょう。

よくある質問(Q&A)

円形脱毛症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ここに記載する内容は一般的なものであり、個々の状況によって異なる場合がありますので、詳細は必ず医師にご相談ください。

Q
治療を始めればすぐに髪は生えてきますか?
A

治療効果が現れるまでの期間には個人差があり、治療を開始してから効果を実感できるまでには数週間から数ヶ月かかることが多いです。

軽症の場合は比較的早く発毛が見られることもありますが、重症の場合はさらに時間がかかることもあります。焦らずに根気強く治療を続けることが大切です。

Q
治療費はどのくらいかかりますか?
A

円形脱毛症の治療は、多くの場合、健康保険が適用されますが、治療法や通院頻度、使用する薬剤の種類などによって、自己負担額は異なります。

外用薬のみの治療であれば比較的安価ですが、局所免疫療法や紫外線療法、新しい内服薬などを行う場合は、費用が高いです。

Q
円形脱毛症は繰り返しますか?
A

円形脱毛症は再発することがある疾患で、一度治癒しても、数ヶ月後や数年後に再び脱毛斑が現れることがあります。再発率は比較的高く、完全に予防することは難しいです。

しかし、再発した場合でも、早期に治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることが期待できます。

Q
民間療法やサプリメントの効果はどうですか?
A

円形脱毛症に対して、科学的根拠の確立された民間療法やサプリメントは現在のところ限定的です。

一部のサプリメント(亜鉛など)が毛髪の健康維持に役立つ可能性はありますが、それだけで円形脱毛症が治るわけではありません。

効果が実証されていないものや、高額なものもあるため、安易に試すことは推奨されません。

参考文献

Starace M, Orlando G, Alessandrini A, Piraccini BM. Female androgenetic alopecia: an update on diagnosis and management. American journal of clinical dermatology. 2020 Feb;21:69-84.

Welsh N, Guy A. The lived experience of alopecia areata: a qualitative study. Body Image. 2009 Jun 1;6(3):194-200.

Sterkens A, Lambert J, Bervoets A. Alopecia areata: a review on diagnosis, immunological etiopathogenesis and treatment options. Clinical and experimental medicine. 2021 May;21:215-30.

Trüeb RM, Dias MF. Alopecia areata: a comprehensive review of pathogenesis and management. Clinical reviews in allergy & immunology. 2018 Feb;54:68-87.

Jolkovsky EL, Goldberg DJ. Alopecia Areata Treatment: Past, Present, and Future. Dermatological Reviews. 2024 Dec;5(6):e70008.

Pratt CH, King LE, Messenger AG, Christiano AM, Sundberg JP. Alopecia areata. Nature reviews Disease primers. 2017 Mar 16;3(1):1-7.

Lintzeri DA, Constantinou A, Hillmann K, Ghoreschi K, Vogt A, Blume‐Peytavi U. Alopecia areata–Current understanding and management. JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft. 2022 Jan;20(1):59-90.