ある日突然、髪に円形の脱毛部分を見つけてしまい、不安を感じている女性は少なくありません。円形脱毛症は年齢を問わず誰にでも起こりうるものです。
女性にとっては、見た目の変化が大きな精神的負担となることもあります。
この記事では、女性の円形脱毛症について、その基本的な知識から原因、症状の進行、そして何よりも大切な早期発見のポイントと治療を開始する適切なタイミングについて、詳しく解説します。
円形脱毛症の基礎知識 女性が知っておきたいこと
円形脱毛症は、頭髪の一部または広範囲にわたり、円形または楕円形の脱毛斑が生じる後天性の脱毛症です。
「10円ハゲ」などと俗称されることもありますが、その症状や範囲は個人差が大きく、一つだけの場合もあれば、多発することや、頭部全体、さらには眉毛やまつ毛、体毛にまで及ぶこともあります。
女性の場合、男性とは異なるホルモンバランスやライフスタイルが関与することもあり、特有の悩みや不安を抱える方が多いのが実情です。
円形脱毛症とはどのような状態か
円形脱毛症は、自己免疫反応の異常が主な原因と考えられています。
通常、免疫系は体外からの異物(細菌やウイルスなど)を攻撃して体を守る働きをしますが、何らかの理由でこの免疫系が自身の毛包を誤って攻撃してしまうことで、毛髪の成長が阻害され、脱毛が起こります。
脱毛斑の境界は比較的はっきりしており、脱毛部分の皮膚は炎症を起こしていなければ、ほぼ正常に見えます。かゆみや軽い痛みを伴うこともありますが、無症状の場合も多いです。
多くの場合、毛包自体は破壊されていないため、適切な治療や時間の経過とともに毛髪が再生する可能性があります。
女性における円形脱毛症の有病率と年代別の特徴
円形脱毛症は、性別や年齢に関わらず発症しますが、人口の1~2%が生涯に一度は経験するといわれています。
女性の場合、特に20代から40代の比較的若い世代での発症報告が多い傾向にありますが、子供から高齢者まで幅広い年代で見られます。
女性は男性に比べて、甲状腺疾患や膠原病といった自己免疫疾患を合併しやすく、円形脱毛症の発症や悪化に関与している可能性も指摘されています。
また、妊娠・出産、更年期といったライフステージにおけるホルモンバランスの変化や、社会生活におけるストレスなどが、発症の誘因です。
他の脱毛症との違い
女性の薄毛や抜け毛の原因となる症状は円形脱毛症以外にもいくつかあります。それぞれ原因や症状の現れ方が異なるため、対処のためには、まずどのタイプの脱毛症なのかを把握することが重要です。
女性型脱毛症(FAGA)との違い
女性型脱毛症(FAGA)は、男性型脱毛症(AGA)の女性版とも言える状態で、主に女性ホルモンの減少や男性ホルモンの影響により、頭頂部や前頭部の髪が細くなり、分け目が目立つようになるのが特徴です。
円形脱毛症のように境界明瞭な脱毛斑が生じることは稀で、ゆっくりと進行します。
びまん性脱毛症との違い
びまん性脱毛症は、頭部全体の毛髪が均等に薄くなる状態を指します。
特定の原因疾患があるわけではなく、加齢、栄養不足、過度なダイエット、薬剤の影響、甲状腺機能の異常、ストレスなど、様々な要因が複合的に関与して発症すると考えられています。
円形脱毛症と他の主な脱毛症の比較
特徴 | 円形脱毛症 | 女性型脱毛症(FAGA) | びまん性脱毛症 |
---|---|---|---|
主な原因と考えられているもの | 自己免疫異常、ストレス、アトピー素因など | ホルモンバランスの乱れ、遺伝的要因 | 栄養不足、薬剤、甲状腺疾患、ストレスなど |
脱毛パターン | 円形・楕円形の脱毛斑、境界明瞭 | 頭頂部中心に薄毛、分け目が目立つ | 頭部全体の毛髪が均等に薄くなる |
進行速度 | 急激に進行することも、緩やかなこともあり個人差が大きい | 一般的にゆっくりと進行する | 原因により異なるが、比較的緩やかに進行することが多い |
女性の円形脱毛症を引き起こすと考えられる原因
女性の円形脱毛症の発症には、様々な要因が複雑に関与していると考えられています。その中でも、現在の医学で最も有力視されているのは「自己免疫疾患」としての側面です。
自己免疫反応の異常と円形脱毛症
円形脱毛症の最も有力な原因は、自己免疫反応の異常です。私たちの体には、外部から侵入する細菌やウイルスなどの異物を攻撃し、体を守る「免疫」というシステムが備わっています。
しかし、この免疫システムに何らかの異常が生じると、自分自身の正常な細胞や組織を誤って攻撃してしまい、これを自己免疫反応と呼びます。
円形脱毛症の場合、Tリンパ球という免疫細胞が、毛根を包む組織である「毛包」を異物と誤認して攻撃してしまうことで、毛髪の成長サイクルが阻害され、脱毛が起きると考えられています。
ストレスが円形脱毛症の引き金になる可能性
精神的ストレスや肉体的ストレスが、円形脱毛症の発症や悪化の誘因となることは、多くの臨床経験から知られています。
過度なストレスは、自律神経のバランスを乱し、免疫系や内分泌系(ホルモン分泌など)の機能に影響を与える可能性があります。
円形脱毛症の誘因となり得るストレス
- 精神的ストレス(人間関係の悩み、仕事のプレッシャー、家庭内の問題、大切な人との別れなど)
- 肉体的ストレス(過労、睡眠不足、不規則な生活、手術、高熱を伴う病気、出産など)
- 環境の変化(転居、転職、入学など)
ただし、ストレスの感じ方や影響の受けやすさには個人差があり、ストレスが直接的な原因となって必ずしも発症するわけではありません。
アトピー素因と円形脱毛症の関連性
アトピー素因を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすい傾向があることが報告されています。
アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎といったアレルギー疾患を発症しやすい体質のことです。
アトピー素因を持つ人は、免疫系のバランスが崩れやすく、特定の抗原に対して過敏な反応を示す傾向があります。
その他の要因(遺伝的背景、内分泌異常、薬剤など)
上記の要因以外にも、円形脱毛症の発症に関与する可能性のあるものがいくつかあります。
一つは遺伝的背景です。円形脱毛症の患者さんの約10~40%に家族内発症が見られるという報告があり、特定の遺伝子が発症のしやすさに関わっていると考えられています。
ただし、遺伝子が全てを決めるわけではなく、あくまで発症リスクを高める一因とされています。
また、甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病など)や膠原病といった他の自己免疫疾患を合併している場合に、円形脱毛症を発症しやすいことも知られています。
その他、まれに特定の薬剤の影響や、感染症、栄養障害などが誘因となる可能性も考えられますが、直接的な原因となるケースは少ないです。
女性の場合、妊娠や出産に伴うホルモンバランスの急激な変化が、一時的に円形脱毛症を起こすこともあります。
円形脱毛症の多様な症状と進行の仕方
円形脱毛症の症状は、単に「円く毛が抜ける」というだけではありません。脱毛斑の大きさや数、出現する場所、進行の速さなどは個人差が大きく、非常に多様です。
初期に見られる脱毛斑の特徴
円形脱毛症の最も一般的な初期症状は、頭皮に境界明瞭な円形または楕円形の脱毛斑が突然現れることで、大きさは10円玉程度のものから、それ以上の大きさまで様々です。
脱毛斑の皮膚は、炎症がなければ正常に見え、光沢を帯びていることもあります。
自覚症状としては、軽いかゆみや違和感、ピリピリとした感覚を伴うことがありますが、全く無症状で、美容院で指摘されたり、家族に発見されたりして初めて気づくケースも少なくありません。
円形脱毛症の初期症状
- ある日突然、コイン程度の大きさの脱毛部分を見つける
- シャンプーやブラッシング時の抜け毛が普段より明らかに多いと感じる
- 頭皮の一部にかゆみや軽いむずむず感、違和感がある
- 脱毛部分の毛が、毛根部分が細く、毛先が太い「感嘆符毛(かんたんふもう)」と呼ばれる特徴的な切れ毛になっている
初期の脱毛斑は1ヶ所だけ(単発型)のことが多いですが、最初から複数個出現する(多発型)こともあります。
脱毛の範囲による分類とそれぞれの特徴
円形脱毛症は、脱毛が起きる範囲や広がり方によって、いくつかのタイプに分類されます。
脱毛範囲による円形脱毛症の主な分類
分類 | 特徴 | 一般的な治療の進め方 |
---|---|---|
単発型 (通常型) | 頭部に円形または楕円形の脱毛斑が1つだけ生じる。最も多いタイプ。 | ステロイド外用薬や局所注射が中心。自然治癒することも比較的多い。 |
多発型 (通常型) | 頭部に脱毛斑が2つ以上生じる。脱毛斑同士が融合して大きな不整形になることもある。 | ステロイド外用薬、局所注射、場合により局所免疫療法などを検討。 |
蛇行状脱毛症 (Ophiasis) | 後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛が広がる。治療に時間がかかることがある。 | ステロイド外用薬、局所注射、局所免疫療法などを組み合わせることが多い。 |
全頭型脱毛症 (Alopecia Totalis) | 頭髪全体がほぼ完全に脱毛する。 | 局所免疫療法、ステロイド内服、JAK阻害薬などを検討。治療が難しい場合もある。 |
汎発性脱毛症 (Alopecia Universalis) | 頭髪に加え、眉毛、まつ毛、腋毛、陰毛など全身の毛が脱毛する。最も重症なタイプ。 | 局所免疫療法、ステロイド内服、JAK阻害薬などを検討。治療が難しい場合が多い。 |
頭髪以外の体毛や爪に現れる症状
円形脱毛症は頭髪だけに症状が現れるとは限りません。
重症化すると、眉毛、まつ毛、ひげ(男性の場合)、腋毛、陰毛、すね毛など、全身のあらゆる体毛が脱毛することがあり、汎発性脱毛症と呼びます。
また、円形脱毛症の患者さんの約10~20%に、爪の異常が見られることがあります。最も特徴的なのは、爪の表面に点状の小さなへこみ(点状陥凹)が多数現れることです。
その他、爪がもろくなる、横筋が入る、爪が薄くなる、光沢が失われるといった変化が見られることもあります。
爪の変化は、円形脱毛症の活動性や重症度と関連している場合があると考えられていますが、必ずしも一致するわけではありません。
症状の進行と自然治癒の可能性
円形脱毛症の進行パターンは非常に多様で、予測が難しいのが特徴です。
数週間から数ヶ月で急速に脱毛範囲が拡大することもあれば、数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行する場合もあり、また、一度治癒したように見えても、再発を繰り返すことも少なくありません。
軽症の単発型の場合、特別な治療を行わなくても数ヶ月から1年程度で自然に毛髪が再生してくることもあります。
しかし、脱毛範囲が広い場合や、多発型、蛇行状、全頭型、汎発性といった重症型の場合は、自然治癒が難しく、積極的な治療が必要となることが多いです。
医療機関における円形脱毛症の診断プロセス
円形脱毛症の疑いで医療機関を受診した場合、医師はまず丁寧な問診と視診・触診を行い、症状を詳しく把握します。
その上で、必要に応じてダーモスコピー検査や血液検査などを実施し、診断を確定するとともに、他の脱毛症との鑑別や、合併症の有無などを確認します。
医師による問診で確認する内容
問診は、診断において非常に重要な情報源となります。
問診での主な確認事項
確認項目カテゴリー | 具体的な質問内容の例 |
---|---|
症状について | いつ頃から脱毛に気づいたか、最初の脱毛斑はどこにできたか、脱毛斑の数や大きさの変化、かゆみや痛みなどの自覚症状の有無、抜け毛の量など |
既往歴・家族歴 | これまでに円形脱毛症と診断されたことがあるか、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患などの持病の有無、家族(血縁者)に円形脱毛症や自己免疫疾患の人がいるか |
生活習慣・ストレス状況 | 最近の生活で大きな変化やストレスはなかったか(仕事、家庭環境、人間関係など)、睡眠時間、食生活、喫煙・飲酒の習慣など |
使用中の薬剤・アレルギー | 現在服用中の薬や使用中の外用薬、サプリメントなど、薬剤や食物などに対するアレルギーの有無 |
視診と触診による頭皮状態の評価
問診に続いて、医師は実際に頭皮や毛髪の状態を詳細に観察し(視診)、脱毛斑の数、大きさ、形状、分布、境界の明瞭さなどを確認します。
また、脱毛斑内の皮膚の色調(赤みがないかなど)、光沢の有無、毛穴の状態、残存している毛髪の太さや密度なども重要な観察ポイントです。
触診では、脱毛斑やその周辺の皮膚を軽く触れて、硬さや弾力、腫れ、圧痛(押したときの痛み)の有無などを調べます。
また、毛髪を軽く引っ張って抜けやすさを確認する「牽引試験(プルテスト)」を行うこともあり、活動性の高い円形脱毛症では、脱毛斑の辺縁部で毛髪が容易に抜け落ちることがあります。
ダーモスコープを用いた詳細な観察
ダーモスコピー検査は、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、頭皮や毛髪の状態をより詳細に観察する検査です。
皮膚の表面の光の反射を抑えることで、肉眼では見えにくい毛穴の状態、毛髪の形状、血管のパターンなどを拡大して確認できます。
円形脱毛症に特徴的な所見
- 感嘆符毛(Exclamation mark hair):毛根側が細く、毛先に向かって太くなっている、途中で切れた短い毛。活動性の指標となります。
- 黒点(Black dots):毛穴の中に黒い点として残っている断毛。
- 黄色点(Yellow dots):皮脂や角質で満たされた毛包開口部。慢性期に見られることがあります。
- 萎縮毛(Tapered hair):先細りの毛。
診断に必要な血液検査とその項目
円形脱毛症の診断自体は、主に問診と視診、ダーモスコピー検査によって行われますが、全身状態の把握や、他の自己免疫疾患(特に甲状腺疾患など)や鉄欠乏性貧血などの合併症の有無を確認するために、血液検査を行うことがあります。
円形脱毛症の診断時に考慮される主な血液検査項目
検査項目 | 調べる目的 | 円形脱毛症との関連 |
---|---|---|
甲状腺ホルモン (TSH, FT3, FT4) | 甲状腺機能の異常(亢進症や低下症)の有無を調べる。 | 甲状腺疾患は円形脱毛症に合併しやすい自己免疫疾患の一つ。 |
自己抗体 (抗核抗体, 抗サイログロブリン抗体, 抗TPO抗体など) | 自己免疫疾患の存在を示唆する抗体の有無を調べる。 | 円形脱毛症自体も自己免疫が関与。他の自己免疫疾患の合併を確認。 |
血算 (赤血球数, ヘモグロビン, 白血球数, 血小板数など) | 貧血や炎症の有無など、全身状態を把握する。 | 鉄欠乏性貧血が脱毛を助長する可能性。 |
血清鉄・フェリチン | 体内の鉄分の貯蔵状態を調べる。 | 鉄欠乏は毛髪の成長に影響を与えることがある。 |
女性の円形脱毛症に対する主な治療法
女性の円形脱毛症の治療は、脱毛の範囲、重症度、活動性、年齢、合併症の有無、そして患者さん自身の希望などを総合的に考慮して、個別に選択されます。
ステロイド外用薬による治療
ステロイド外用薬は、円形脱毛症の治療において最も一般的に用いられる方法の一つです。
ステロイドには、免疫反応を抑制し、炎症を鎮める効果があり、脱毛斑に直接塗布することで、毛包への攻撃を抑え、発毛を促すことを期待します。
主に、脱毛範囲が比較的小さい軽症から中等症の単発型や多発型に用いられ、様々な強さ(ランク)のステロイド外用薬があり、症状や部位、年齢に応じて医師が適切なものを選択します。
通常、1日数回、脱毛部分に塗布します。効果が現れるまでには数ヶ月かかることが一般的です。
副作用としては、長期間使用した場合に塗布部位の皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)、毛細血管が拡張する、にきびのような発疹(ステロイドざ瘡)などが生じることがあります。
ステロイド局所注射の効果と注意点
ステロイド局所注射療法は、ステロイド薬を脱毛斑の皮内に直接注射する方法で、外用薬よりも薬剤が直接的かつ高濃度に作用するため、より強い効果が期待できます。
主に、脱毛範囲が限局している中等症以上の単発型や多発型で、外用薬の効果が不十分な場合に選択されることが多いです。
治療は、通常2~6週間おきに行います。注射時にはある程度の痛みを伴います。効果には個人差がありますが、数回の注射で発毛が見られることもあります。
副作用としては、注射部位の皮膚が一時的に陥凹することがありますが、多くは時間とともに回復し、その他、内出血や感染のリスクもわずかながらあります。
広範囲の脱毛には適しておらず、また、妊娠中や授乳中の女性、小さなお子さんへの適応は慎重に判断することが重要です。
局所免疫療法(SADBE、DPCP)の概要
局所免疫療法は、かぶれ(接触皮膚炎)を人為的に起こす化学物質(SADBE:)を脱毛斑に定期的に塗布し、軽い炎症反応を維持することで、毛包への免疫攻撃の方向を変え、発毛を促す治療法です。
主に、脱毛範囲が広い多発型、全頭型、汎発性といった重症例や、他の治療法で効果が見られなかった場合に適応となります。
治療は、まず感作(アレルギー反応を起こせるようにする)を行い、その後は1~2週間に1回程度の頻度で、弱いかぶれが持続するように薬剤の濃度を調整しながら塗布を続けます。
効果判定には通常半年以上の期間が必要です。
副作用としては、塗布部位のかゆみ、赤み、腫れ、水疱などの接触皮膚炎症状が現れ、その他、リンパ節の腫れ、全身倦怠感、蕁麻疹などが起こることもあります。
主な治療法の比較検討
治療法 | 対象となる症状の目安 | 期待される主な効果 | 主な注意点・副作用の可能性 |
---|---|---|---|
ステロイド外用薬 | 軽症~中等症、脱毛範囲が小さい場合 | 炎症抑制、発毛促進 | 皮膚萎縮、毛細血管拡張(長期使用時) |
ステロイド局所注射 | 中等症~重症、脱毛範囲が限局している場合 | 外用薬より強い効果が期待できる | 注射部位の痛み、陥凹、内出血 |
局所免疫療法 | 広範囲な脱毛、難治性の場合 | 免疫反応の調整による発毛促進 | 接触皮膚炎(かゆみ、赤み、腫れ)、リンパ節腫脹 |
その他の治療選択肢と補助的なアプローチ
上記の治療法の他にも、症状や状況に応じて様々な治療法が検討されることがあります。
内服薬(ステロイド、抗ヒスタミン薬など)
急速に進行する重症例や広範囲な脱毛に対して、ステロイドの内服薬が用いられることがあります。
高い効果が期待できる一方で、全身性の副作用(免疫力低下、糖尿病、骨粗鬆症、精神症状など)のリスクもあるため、適応は慎重に判断され、短期間の使用が原則です。
かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服が併用されることもあります。
また、血流改善薬やセファランチンといった薬剤が補助的に用いられることもありますが、その効果については十分な科学的根拠が確立されていないものもあります。
紫外線療法
PUVA療法やナローバンドUVB療法といった紫外線療法も、一部の円形脱毛症に対して行われることがあります。
特定の波長の紫外線を脱毛部に照射することで、免疫反応を抑制する効果が期待され、週に数回の通院が必要となることが一般的です。
生活習慣の見直しと食事療法
直接的な治療法ではありませんが、健やかな毛髪の育成と免疫バランスの安定のためには、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理といった生活習慣の見直しも重要です。
円形脱毛症治療中の食事で意識したい栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品の例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分であるケラチンの材料となる。 | 肉類(鶏むね肉、豚ヒレ肉など)、魚介類(鮭、アジなど)、卵、大豆製品(豆腐、納豆)、乳製品(牛乳、ヨーグルト) |
亜鉛 | ケラチンの合成を助ける。免疫機能の維持に関わる。 | 牡蠣、レバー(豚・鶏)、牛肉(赤身)、ナッツ類(アーモンド、カシューナッツ)、種実類(かぼちゃの種) |
ビタミンB群 (特にビオチン、パントテン酸) | 頭皮環境を整える。皮膚や粘膜の健康維持を助ける。代謝を促進する。 | レバー、魚介類(サバ、イワシ)、卵黄、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリー)、豆類、きのこ類 |
特定の栄養素だけを過剰に摂取するのではなく、多様な食品からバランス良く栄養を摂ることが大切です。サプリメントを利用する場合は、医師や管理栄養士に相談しましょう。
円形脱毛症治療の期間と回復の見込み
円形脱毛症の治療を開始すると、多くの方が「いつ頃治るのか」「本当に髪は生えてくるのか」といった不安を抱えることでしょう。
治療期間の目安と個人差
円形脱毛症の治療期間を一概に示すことは難しいですが、一般的に効果が現れ始めるまでに数ヶ月単位の時間がかかると考えておくのが良いでしょう。
軽症の単発型であれば、数ヶ月から1年程度で自然治癒することも少なくありませんが、治療を行うことで回復を早めることが期待できます。
ステロイド外用薬や局所注射などの治療で、2~3ヶ月でうぶ毛が生え始め、半年から1年程度で元の状態近くまで回復するケースが多いです。
脱毛範囲が広い多発型や、蛇行状、全頭型、汎発性といった重症型の場合は、治療が長期にわたることが多く、1年以上の治療期間が必要となることも珍しくありません。
局所免疫療法などの治療では、効果が出始めるまでに半年以上かかることもあります。
年齢が若いほど回復が早い傾向にあり、高齢になるほど治療に時間がかかり、また、アトピー素因がある場合や、他の自己免疫疾患を合併している場合は、難治性となりやすい傾向も指摘されています。
治療効果が現れるまでの期間と評価方法
治療効果の現れ方にも個人差があります。多くの場合、まず脱毛斑の辺縁部や中心部から、細くて色の薄いうぶ毛(軟毛)が生え始めます。
うぶ毛が徐々に太く、色も濃い硬毛へと成長していくことで、脱毛斑が目立たなくなっていきます。
医師は、定期的な診察(通常1~2ヶ月ごと)で、脱毛斑の大きさや数の変化、うぶ毛の有無や状態、ダーモスコピーでの毛髪の再生状況などを観察し、治療効果を評価します。
再発のリスクと予防のためにできること
円形脱毛症は、一度治癒しても再発する可能性がある疾患です。再発率は正確には分かっていませんが、約半数以上の人が再発を経験するという報告もあります。
再発の時期や頻度も個人差が大きく、数ヶ月後に再発することもあれば、数年後、あるいは数十年後に再発することもあります。
残念ながら、現時点では円形脱毛症の再発を完全に予防する方法は確立されていませんが、再発のリスクを少しでも減らすためには、日頃から心身のバランスを整えることが重要です。
円形脱毛症の再発予防のために日常生活で心がけたいこと
心がけるポイント | 具体的な行動例 | 期待される効果・目的 |
---|---|---|
ストレスマネジメント | 十分な睡眠と休息、適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)、趣味やリラックスできる時間を持つ、瞑想や深呼吸 | 自律神経のバランスを整え、免疫系の安定化を図る |
バランスの取れた食事 | タンパク質、ビタミン(特にB群、C、E)、ミネラル(特に亜鉛、鉄)を意識的に摂取。加工食品や偏った食事を避ける。 | 健やかな毛髪の育成に必要な栄養を供給し、頭皮環境を整える |
適切な頭皮ケア | 刺激の少ないシャンプーを選び、優しく洗髪する。爪を立てずに指の腹でマッサージするように洗う。ドライヤーは頭皮から離して使用する。 | 頭皮への物理的な刺激を減らし、清潔な状態を保つ |
定期的な健康チェック | 甲状腺疾患など、円形脱毛症と関連のある疾患の早期発見・治療。 | 合併症による悪化因子の排除 |
女性の円形脱毛症に関するよくある質問
ここでは、女性の円形脱毛症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
ただし、個々の症状や状況によって回答が異なる場合もありますので、詳細については必ず専門医にご相談ください。
- Q円形脱毛症は遺伝的要因が大きいのでしょうか?
- A
円形脱毛症の発症には、遺伝的要因が関与していると考えられています。
研究によると、円形脱毛症の患者さんの約10~40%に家族内発症が見られると報告されており、特定の遺伝子が発症のしやすさ(感受性)に関わっている可能性が指摘されています。
ただし、遺伝的要因だけで必ず発症するわけではなく、あくまで「発症しやすい体質」が受け継がれる可能性があるということです。
多くの場合、遺伝的素因に加えて、自己免疫反応の異常、ストレス、アトピー素因といった環境因子が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- Q治療中、髪を染めたりパーマをかけたりしても大丈夫ですか?
- A
円形脱毛症の治療中にヘアカラーやパーマを行うことについては、一概に禁止されているわけではありませんが、慎重な判断が必要です。
脱毛症状が活発な時期や、頭皮に炎症がある場合は、薬剤の刺激によって症状が悪化したり、新たな皮膚トラブルを起こしたりする可能性があるため、避けましょう。
症状が落ち着いており、医師の許可が得られれば、頭皮への刺激が少ないタイプの薬剤を選んだり、脱毛部分を避けて施術したりするなどの配慮をしながら行うことは可能です。
- Q円形脱毛症は完全に治るものなのでしょうか?
- A
円形脱毛症の多くは、適切な治療によって毛髪が再生し、治癒が期待できる疾患で、軽症の単発型の場合は、数ヶ月から1年程度で自然に治ることも少なくありません。
しかし、脱毛範囲が広い重症型(全頭型や汎発性など)や、アトピー素因を合併している場合、発症年齢が低い場合などは、治療が長期化したり、難治性となったりすることもあります。
また、一度治癒したように見えても、数ヶ月後や数年後に再発する可能性もあります。
- Q食生活で特に気をつけるべきことはありますか?
- A
円形脱毛症の直接的な原因が特定の食物であるということはありませんし、特定の食品を摂取すれば必ず治るというものでもありません。
しかし、健やかな毛髪を育み、免疫バランスを整えるためには、バランスの取れた食生活が重要であると考えられています。
特に意識したいのは、髪の主成分であるタンパク質、毛髪の成長に関わる亜鉛や鉄分といったミネラル、頭皮環境を整えるビタミンB群、抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEなどです。
肉類、魚介類、卵、大豆製品、緑黄色野菜、果物、海藻類、ナッツ類などを日々の食事にバランス良く取り入れることが推奨されます。
逆に、インスタント食品やファストフード、糖分や脂質の多い食事に偏ることは、栄養バランスを崩し、頭皮環境にも悪影響を与える可能性があるため、控えましょう。
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