多発性円形脱毛症は、単発のものとは異なり、脱毛箇所が複数に及ぶため、見た目の変化も大きく、心への負担も重くなりがちです。

この記事では、多発性円形脱毛症とはどのような状態を指すのか、原因から医療機関での診断基準、そしてどのような治療法があるのかを、女性の視点に立って詳しく解説します。

目次

多発性円形脱毛症とは何か

円形脱毛症という言葉はよく耳にしますが、「多発性」となると、具体的な状態や他の脱毛症との違いについて、正確に理解している方は多くないかもしれません。

ここでは、まず多発性円形脱毛症の基本的な知識について解説します。

円形脱毛症の基本的な定義

円形脱毛症は、頭部やその他の体毛が生えている部分に、境界がはっきりした円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる後天性の疾患です。

一般的には10円玉や500円玉くらいの大きさの脱毛として認識されていますが、大きさや数は様々です。

毛包(毛を作り出す組織)が炎症を起こすことで毛が抜けてしまいますが、毛包そのものが破壊されるわけではないため、再び髪が生えてくる可能性があります。

多発性円形脱毛症の特徴と症状

基本的な性質は円形脱毛症と同じですが、名前の通り、脱毛斑が頭部に2つ以上、複数個所に発生する状態を「多発性円形脱毛症」と呼びます。

単発型に比べて脱毛の範囲が広くなる傾向があり、それぞれの脱毛斑が融合して、より大きな不規則な形の脱毛斑に進行することもあります。

脱毛斑の数と広がり

初めは1つだった脱毛斑が、時間を経て別の場所に次々と現れるケースや、ほぼ同時に複数の脱毛斑が出現するケースがあります。

脱毛斑の数は2、3個のこともあれば、頭部全体に点在するように数十個現れることもあり、個人差が非常に大きいです。

脱毛以外の症状(爪の変化など)

円形脱毛症では、髪の毛だけに症状が現れるとは限りず、約20%の方に爪の変化が見られます。

爪の表面に点状の小さなへこみ(点状陥凹)ができたり、爪がもろくなったり、横方向に線が入ったりすることがあります。

爪の変化は、脱毛症の活動性と関連がある場合も考えられ、診断の一助です。

他の脱毛症との違い

円形脱毛症には、脱毛の広がり方によっていくつかの種類があります。多発性円形脱毛症と混同しやすい、あるいはさらに進行した状態として、他の病型について理解しておくことも大切です。

円形脱毛症の主な病型

病型特徴説明
単発型脱毛斑が1つだけ最も一般的なタイプで、自然に治ることも多いです。
多発型脱毛斑が複数ある本記事で扱うタイプ。複数の脱毛斑が融合することがあります。
蛇行性後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛治りにくい傾向があるとされています。
全頭型頭部の毛が全て抜ける多発型から進行することがあります。
汎発型頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける最も重症なタイプとされます。

多発性円形脱毛症の主な原因

なぜ健康だったはずの髪が突然抜け落ちてしまうのでしょうか。多発性円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、現在、最も有力視されているのは「自己免疫疾患」という考え方です。

自己免疫疾患としての側面

私たちの体には、外部から侵入したウイルスや細菌などの異物を攻撃して体を守る「免疫」という仕組みが備わっています。

しかし、この免疫システムに異常が生じ、本来攻撃する必要のない自分自身の正常な細胞や組織を「敵」と誤認して攻撃してしまうことがあり、これが自己免疫疾患です。

Tリンパ球の役割

円形脱毛症の場合、免疫細胞の一種である「Tリンパ球」が、成長期の毛包を異物と間違えて攻撃してしまうことで発症すると考えられています。

毛包が攻撃されると、そこで炎症が起こり、正常なヘアサイクルが妨げられ、髪の毛が十分に成長できないまま抜け落ちてしまうのです。

毛包への攻撃

なぜTリンパ球が毛包を攻撃するようになるのか、そのきっかけはまだ不明な点が多いです。

しかし、毛包自体が破壊されるわけではないため、免疫の攻撃が収まれば、毛包は再び活動を再開し、髪を生やす能力を取り戻せます。

遺伝的要因の関与

円形脱毛症の発症に、遺伝的な要素が関わっていることも分かってきました。欧米の報告では、患者さんのおよそ10%から40%に家族内での発症が見られます。

血縁者に円形脱毛症の方がいる場合、いない場合に比べて発症しやすい傾向があるようです。

ただし、特定の遺伝子があれば必ず発症するという単純なものではなく、複数の遺伝子が複雑に関与し、さらに環境要因が加わることで発症に至ると考えられています。

ストレスや生活習慣との関連性

「ストレスで髪が抜けた」という話をよく聞くように、精神的なストレスが円形脱毛症の引き金になることは、多くの人が経験的に感じています。

科学的にも、強いストレスが免疫系やホルモンバランスに影響を与え、発症のきっかけとなりうることが示唆されています。

ストレスが引き金になる可能性

過労、睡眠不足、大きな精神的ショックを経験した後に発症するケースは少なくありません。

ストレスは、体を守る免疫のバランスを崩し、Tリンパ球が毛包を攻撃しやすくする環境を作ってしまう可能性があります。

ただし、ストレスが直接的な原因というよりは、あくまで発症の「誘因」の一つです。

睡眠不足や栄養バランス

不規則な生活や栄養の偏りも、体の免疫機能を正常に保つ上では好ましくありません。特に髪の毛はタンパク質(ケラチン)から作られており、その生成には亜鉛やビタミン類など様々な栄養素が必要です。

髪の健康に関わる栄養素

栄養素主な働き多く含まれる食品
タンパク質髪の主成分であるケラチンの材料肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛ケラチンの合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉、チーズ
ビタミンB群頭皮の新陳代謝を促す豚肉、レバー、うなぎ、納豆

他の自己免疫疾患との合併

円形脱毛症は、それ自体が自己免疫疾患の一つですが、他の自己免疫疾患を合併しやすいことも知られています。

甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)、尋常性白斑、膠原病(全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)、I型糖尿病などとの関連が報告されています。

医療機関での診断の流れ

複数の脱毛斑に気づいたら、自己判断で悩まずに、まずは皮膚科専門医のいる医療機関を受診することが大切です。

初診で行う問診内容

診断において、患者さんからの情報は非常に重要です。医師は、脱毛の状態を正確に把握するために、いくつかの質問をします。

発症時期や経過の確認

「いつ頃、最初の脱毛斑に気づいたか」「その後、脱毛斑は増えたか、大きくなったか」「かゆみや痛みはあるか」といった、発症からの詳しい経過を確認します。

既往歴や家族歴の聴取

これまでに大きな病気をしたことがあるか(既往歴)、特にアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアトピー素因の有無、前述したような自己免疫疾患にかかっていないかを確認します。

また、血縁者に円形脱毛症になった方がいるか(家族歴)どうかも尋ねます。

視診と触診による脱毛斑の評価

問診の後は、実際に頭皮と髪の状態を詳しく調べ、脱毛斑の数、大きさ、形状、分布などを目で見て確認します(視診)。また、頭皮の色や状態、フケの有無、残っている毛の状態なども丁寧にチェックします。

脱毛斑の状態(色、フケ、断毛など)

活動期の脱毛斑の皮膚は、少し赤みを帯びていたり、むくんでいたりすることがあります。

また、毛穴がはっきりと見え、毛穴の中に黒い点(ブラックドット)や、途中で切れた毛(断毛)が残っていることもあり、所見は診断の手がかりです。

活動性のサイン(感嘆符毛など)

脱毛斑の境界部分に、毛根側が細く、先端が太くなっている「感嘆符毛(かんたんふもう)」と呼ばれる特徴的な毛が見られることがあります。

これは、脱毛が今まさに進行していることを示すサイン(活動性所見)の一つです。

ダーモスコピーを用いた詳細な観察

ダーモスコピーは、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、皮膚をより詳細に観察する検査です。

光の乱反射を抑えることで、肉眼では見えない皮膚の内部構造や毛穴の状態をはっきりと見ることができ、円形脱毛症の診断精度を高めます。

ダーモスコピーで確認できる主な所見

所見状態意味すること
感嘆符毛根元が細く先端が太い毛疾患の活動性が高いことを示す
ブラックドット毛穴に残った黒い点状の断毛毛幹が皮膚表面で折れている状態
イエロードット皮脂や角質で満たされた毛穴脱毛が長引いていることを示唆する

血液検査やその他の検査の必要性

通常円形脱毛症の診断に血液検査は必須ではありませんが、症状が重い場合や、他の自己免疫疾患の合併が疑われる場合には、甲状腺機能や自己抗体の有無などを調べるために血液検査を行うことがあります。

また、非常にまれですが、梅毒などの感染症が原因で脱毛が起こることもあるため、必要に応じて検査項目を追加します。診断が困難な場合には、皮膚の一部を採取して調べる皮膚生検を行うこともあります。

多発性円形脱毛症の診断基準

医師は、これまでの診察で得た情報をもとに、円形脱毛症であるかどうか、そして重症度を判断します。診断は、主に臨床症状に基づいて行いますが、客観的な評価のためにガイドラインや分類が用いられます。

日本皮膚科学会の診療ガイドライン

日本の皮膚科診療では、「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン」が診断と治療の指針となります。

ガイドラインは、それまでに行われた世界中の研究結果(エビデンス)を基に、専門家たちが現時点で最も標準的と考える診断方法や治療法をまとめたものです。

脱毛斑の数と範囲による重症度分類

円形脱毛症の重症度は、主に頭部における脱毛面積の割合で評価し、これは治療方針を決定する上での重要な指標です。国際的によく用いられる分類法の一つに、米国のSaltz & Vitaによる重症度スコアがあります。

頭部脱毛面積の重症度分類(Saltz & Vita変法)

スコア頭部全体の脱毛面積状態の目安
S0脱毛なし正常な状態
S125%未満軽症(単発型や軽度の多発型)
S226~50%中等症(広範囲の多発型)
S351~75%重症
S476~99%最重症(ほぼ全頭型に近い)
S5100%全頭型

活動性の判断基準

重症度に加えて、脱毛症が「活動期」にあるか「固定期」にあるかを判断することも重要です。活動期であれば脱毛の進行を抑える治療を優先し、固定期であれば発毛を促す治療を中心に考えます。

脱毛が進行しているサイン

前述した「感嘆符毛」の存在は、活動性の高いサインです。その他にも、脱毛斑の境界が赤みを帯びている、かゆみや軽い痛みを感じる、抜け毛が増えている、といった自覚症状も参考になります。

牽引試験(pull test)の方法と解釈

活動性を評価する簡単な方法として「牽引試験」があり、医師が脱毛斑の境界付近の毛髪を20〜30本ほど指で軽くつまんで引っ張る検査です。

このときに6本以上の毛が簡単に抜けるようであれば、活動性が高い(陽性)と判断します。健康な状態でも数本は抜けますが、容易にまとまって抜ける場合は注意が必要です。

確定診断のために考慮する点

多発性円形脱毛症の診断は、ほとんどの場合、問診と視診、ダーモスコピー検査で確定できますが、女性の薄毛の原因は他にも様々あります。

女性男性型脱毛症(FAGA)、休止期脱毛症、あるいは膠原病などに伴う脱毛症との見極めが必要です。

脱毛斑の境界が不明瞭であったり、頭部全体の髪がびまん性(全体的に)に薄くなっていたりする場合は、円形脱毛症以外の可能性も視野に入れて、慎重に診断を進めます。

女性の多発性円形脱毛症に対する治療アプローチ

多発性円形脱毛症の治療は、脱毛の範囲や重症度、活動性、患者さんの年齢や希望などを総合的に考慮して選択します。

治療目標の設定と基本的な考え方

治療を始める前に、現実的な目標を共有することが大切です。円形脱毛症の治療は、すぐに結果が出るものではなく、根気強く続ける必要があります。

主な治療の目的

  • 脱毛の進行を抑えること
  • 発毛を促すこと

毛包に対する免疫の異常な攻撃を抑え、これ以上脱毛斑が広がるのを防ぎ、さらに、毛包が再び正常な働きを取り戻し、新しい髪が生えてくるのを助けます。

外用薬による治療

まず基本となるのが、患部に直接塗るタイプの薬(外用薬)で、脱毛範囲がそれほど広くない場合に中心となる治療法です。

ステロイド外用薬

免疫の過剰な働きを抑える作用を持つステロイドの塗り薬は、円形脱毛症治療の第一選択です。毛包での炎症を鎮めることで、脱毛の進行を止め、発毛を促します。

様々な強さのランクがあり、症状に応じて適切なものが処方されます。

副作用として、長期間使用すると皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張したりすることがあるため、医師の指示通りに正しく使用することが重要です。

その他の外用薬

ステロイド以外にも、いくつかの外用薬が用いられます。それぞれの薬には異なる作用があり、症状や体質に合わせて使い分けます。

主な外用治療薬

薬剤の種類作用備考
ステロイド外用薬免疫抑制・抗炎症作用治療の基本となる薬。強さにランクがある。
カルプロニウム塩化物外用薬血管拡張・血流促進作用頭皮の血行を良くして発毛を助ける。
ミノキシジル外用薬毛母細胞の活性化・血流促進作用男性型脱毛症で有名だが、円形脱毛症にも有効な場合がある。保険適用外。

内服薬による治療

脱毛範囲が広い、あるいは進行が速い重症の多発性円形脱毛症の場合、外用薬だけでは効果が不十分なことがあります。その際は、体の中から作用する飲み薬(内服薬)による治療を検討します。

ステロイド内服薬

ステロイドの飲み薬は、強力な免疫抑制作用があり、急速に広がる脱毛を食い止める効果が期待できます。

しかし、効果が高い反面、長期間服用すると全身性の副作用(感染症にかかりやすくなる、糖尿病、骨粗鬆症など)のリスクがあるため、通常は短期間の使用にとどめます。

治療の初期に集中的に用いることが多いです。

抗アレルギー薬など

アトピー素因を持つ患者さんに対しては、抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬を併用することがあります。かゆみを抑えるだけでなく、免疫バランスを整える補助的な効果を期待します。

JAK阻害薬

比較的新しい治療選択肢として「JAK(ジャック)阻害薬」という内服薬があり、免疫細胞の働きを伝える信号(JAK-STAT経路)をブロックすることで、毛包への攻撃をより的確に抑える薬です。

従来の治療で効果が不十分だった重症の患者さんに対して高い有効性が示されており、治療の選択肢が大きく広がりました。ただし、使用できる条件が定められており、専門医による慎重な判断が必要です。

局所注射およびその他の治療法

外用薬や内服薬の他にも、特殊な治療法があります。特定の症状や範囲に対して有効な場合があります。

ステロイド局所注射

脱毛斑に直接ステロイドを注射する方法で、薬が患部に直接届くため、高い効果が期待できます。成人の多発性円形脱毛症で、脱毛斑の数が少なく範囲が限られている場合に良い適応です。

局所免疫療法

特殊な化学物質(SADBEやDPCPなど)を脱毛斑に塗り、意図的にかぶれ(接触皮膚炎)を起こさせる治療法です。

かぶれを起こすことで、毛包を攻撃していたTリンパ球の注意をそちらに向けさせ、毛包への攻撃を止めさせるという考え方に基づいています。広範囲の脱毛に有効な場合が多く、小児の重症例にも適用されます。

治療期間と日常生活でのセルフケア

治療を始めたからといって、すぐに髪が生えそろうわけではありません。効果を実感できるまでには時間がかかりますし、治療と並行して日々の生活習慣を見直すことも、回復を後押しする上で大切です。

治療効果が現れるまでの期間の目安

治療効果には個人差が非常に大きく、一概には言えませんが、一般的に何らかの変化が見られるまでに少なくとも3か月から6か月はかかると考えてください。

治療法と効果発現の目安

治療法効果が見え始めるまでの期間(目安)備考
外用薬治療3~6か月根気よく毎日続けることが大切です。
ステロイド局所注射2~3か月月に1回程度のペースで治療を行います。
局所免疫療法4~6か月適切な強さのかぶれを維持する必要があります。
内服薬治療1~3か月効果は比較的速いが、副作用に注意が必要です。

心身のストレスを軽減する工夫

ストレスは脱毛の引き金や悪化要因となりえます。日常生活の中で、上手にストレスと付き合っていく方法を見つけることもセルフケアの一環です。

完璧を目指さず、ご自身が心地よいと感じることから試してください。

  • 深呼吸や瞑想
  • 軽い運動やストレッチ
  • 趣味や好きな音楽に没頭する時間
  • 信頼できる友人や家族との対話

バランスの取れた食事と栄養

健康な髪を育むためには、その土台となる体が健康であることが第一です。特定の食品だけを食べるのではなく、主食・主菜・副菜をそろえ、様々な食材から栄養を摂ることを心がけましょう。

特に、髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛やビタミン類は意識して摂取すると良いでしょう。無理なダイエットは髪にも悪影響を及ぼすため注意が必要です。

頭皮への刺激を避けるヘアケア

治療中の頭皮はデリケートな状態です。できるだけ負担をかけないように、日々のヘアケアにも気を配りましょう。

洗髪方法の注意点

シャンプーは低刺激性のものを選び、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しは頭皮トラブルの原因になるため、十分に洗い流してください。

洗髪後は、タオルでゴシゴシこすらず、優しく押さえるように水分を拭き取り、ドライヤーで早めに乾かします。

ヘアスタイルの工夫

髪を強く引っ張るようなヘアスタイル(ポニーテールなど)は、頭皮に負担をかけるため避けましょう。

また、脱毛斑が気になる場合は、髪型を工夫したり、おしゃれな帽子やスカーフ、部分的なウィッグ(ヘアピース)などを活用したりするのも良い方法です。

多発性円形脱毛症に関するよくある質問

最後に、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。不安や疑問の解消にお役立てください。

Q
治療すれば必ず髪は生えてきますか
A

円形脱毛症は毛包が残っているため、多くの場合、適切な治療によって発毛が期待できます。特に発症から時間が経っていない軽症から中等症のケースでは、回復する可能性は高いです。

しかし、脱毛範囲が非常に広い全頭型や汎発型、あるいはアトピー素因が強い場合など、難治性で治療に時間がかかるケースや、残念ながら十分な発毛が見られないケースもあります。

Q
治療にはどのくらいの費用がかかりますか
A

円形脱毛症の治療の多くは、健康保険が適用されます。保険診療の場合、自己負担額は通常3割(年齢や所得による)です。

診察料、検査料、処方される薬(ステロイド外用薬、内服薬、抗アレルギー薬など)、ステロイド局所注射、局所免疫療法などが保険適用の対象です。

ただし、ミノキシジル外用薬など一部の治療は保険適用外(自費診療)となります。

Q
妊娠中や授乳中でも治療は可能ですか
A

妊娠中や授乳中は、胎児や乳児への影響を考慮して、使用できる薬が制限されます。特に内服薬は、安全性が確立されていないものが多く、原則として使用を避けます。

Q
再発する可能性はありますか
A

円形脱毛症は、一度治っても再発することがある疾患です。再発率は高く、約40%の方が再発を経験するというデータもあります。

再発を完全に予防する確実な方法はありませんが、日頃からストレスを溜めないように心がけ、バランスの取れた生活を送ることが、再発のリスクを低減させる上で大切です。

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