ある日突然、髪にコイン大の脱毛が見つかる円形脱毛症。特に女性にとっては、その悩みは深刻なものです。
さまざまな原因が考えられますが、実は体に必要なミネラルの一つである「亜鉛」の不足が、症状と深く関わっている可能性があります。
この記事では、なぜ亜鉛が髪の健康にとって大切なのか、亜鉛不足がどのように円形脱毛症に影響を与えるのか、健やかな髪を取り戻すために私たちが日常生活で何ができるのかを、詳しく解説します。
円形脱毛症とは何か 女性特有の要因も解説
円形脱毛症は、頭部やその他の体毛に円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。多くの場合、自覚症状がないまま進行し、鏡を見て初めて気づくことも少なくありません。
円形脱毛症の基本的な特徴
円形脱毛症の最も顕著な特徴は、境界がはっきりとした脱毛斑です。大きさは10円玉程度のものから、頭部全体に広がるものまで様々です。脱毛斑の数も単発の場合と多発する場合があります。
多くは自然に治癒する傾向がありますが、再発を繰り返したり、脱毛範囲が拡大したりすることもあり、かゆみや軽い痛みを感じる人もいますが、多くは無症状です。
毛髪の根元が細くなり、 exclamation mark hair(感嘆符毛)と呼ばれる特徴的な毛が見られることもあり、これは、毛幹が毛穴の近くで細くなっている状態を指します。
発症年齢に特定の傾向はなく、子供から高齢者まで誰にでも起こりえますが、若い世代での発症が多いという報告もあります。
脱毛のパターンも多様で、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など、毛のある部分ならどこにでも発症する可能性があります。
女性における円形脱毛症の傾向
女性の円形脱毛症は、男性と比較して発症率に大きな差はないと考えられていますが、女性は髪に対する意識が高いため、小さな脱毛斑でも精神的な苦痛を感じやすいです。
また、女性の場合、びまん性の脱毛(全体的に薄くなる)と円形脱毛症が併発することもあり、診断が複雑になることもあります。
ライフステージの変化、例えば妊娠・出産や更年期といったホルモンバランスが大きく変動する時期に、円形脱毛症を発症したり、症状が悪化したりするケースも見られます。
円形脱毛症を起こす可能性のある要因
円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、最も有力な説は、自己免疫疾患の一つであるというものです。
これは、本来身体を守るべき免疫システムが、何らかの理由で毛包(毛を作り出す器官)を異物と認識し、攻撃してしまうことで脱毛が起こるという考え方です。
毛包周囲にリンパ球などの免疫細胞が集まっていることが、この説を裏付けています。
また、遺伝的な素因も関与していると考えられています。家族内に円形脱毛症の人がいる場合、発症リスクが高まるという報告があります。
ただし、遺伝的素因を持つ人すべてが発症するわけではなく、何らかの環境要因が引き金となって発症すると考えられています。
その他、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患などの自己免疫疾患を持つ人は、円形脱毛症を併発しやすいです。
女性特有の円形脱毛症の要因
女性の場合、ホルモンバランスの変動が円形脱毛症の発症や悪化に影響を与えることがあります。
妊娠中はエストロゲンという女性ホルモンの分泌量が増加し、毛髪の成長期が延長されるため、抜け毛が減ることが一般的です。
出産後はエストロゲンが急激に減少し、毛髪が一斉に休止期に入るため、「産後脱毛症」と呼ばれる一時的な脱毛が増え、この時期に円形脱毛症を発症したり、元々あった症状が悪化するケースがあります。
また、更年期も女性ホルモンの分泌量が大きく変化する時期です。エストロゲンの減少は、髪のハリやコシの低下、乾燥などを招きやすく、薄毛全体の悩みが増える時期でもあります。
亜鉛の基本的な働きと重要性
亜鉛は、私たちの体内に微量ながらも存在する必須ミネラルの一つです。体重60kgの成人男性の場合、体内に約2gの亜鉛が存在し、その多くは骨格筋や骨に貯蔵されています。
その他、皮膚、肝臓、膵臓、前立腺などにも分布しています。亜鉛は体内で作り出すことができないため、食事から継続的に摂取することが必要です。
亜鉛とはどのようなミネラルか
亜鉛は、多くの酵素の構成成分として、また酵素の活性化に関与することで、体内の様々な化学反応をサポートしています。
その数は300種類以上とも言われ、タンパク質の合成、DNAの合成・修復、細胞分裂、免疫機能の維持など、生命維持に欠かせない広範な役割を担っています。
特に、新しい細胞が作られる際には亜鉛が大量に消費されるため、成長期の子供や、新陳代謝が活発な組織(皮膚や毛髪など)にとっては非常に重要なミネラルです。
また、亜鉛はホルモンの作用や神経伝達物質の働きにも関わっていて、インスリンの合成や貯蔵、作用発現にも亜鉛が必要です。
健康維持における亜鉛の多岐にわたる役割
亜鉛が関わる生理機能は非常に多岐にわたり、まず、免疫機能の維持には亜鉛が深く関わっています。
亜鉛は、免疫細胞であるT細胞やB細胞、NK細胞などの分化や機能維持に必要で、不足すると免疫力が低下し、感染症にかかりやすいです。
また、傷の治癒にも亜鉛は重要な役割を果たし、皮膚の細胞が新しく作られる際に必要となるため、亜鉛が不足すると傷の治りが遅れることがあります。
味覚や嗅覚を正常に保つためにも亜鉛は必要です。舌にある味蕾(みらい)という味を感じる細胞や、鼻の粘膜にある嗅細胞は、新陳代謝が非常に活発で、再生には亜鉛が消費されます。
そのため、亜鉛が不足すると味覚障害や嗅覚障害が起こることがあり、さらに、精神安定や生殖機能の維持、活性酸素の除去など、亜鉛の働きは多岐にわたります。
亜鉛と免疫機能の関連
免疫細胞の種類 | 亜鉛の役割 | 不足時の影響(可能性) |
---|---|---|
Tリンパ球 | 分化、成熟、機能維持 | 細胞性免疫の低下 |
Bリンパ球 | 抗体産生のサポート | 液性免疫の低下 |
NK細胞 | 活性化のサポート | がん細胞やウイルス感染細胞への攻撃力低下 |
髪の毛の成長と亜鉛の関係
髪の毛は、主にケラチンというタンパク質からできていて、合成する過程で、亜鉛は重要な役割を担っています。毛母細胞が分裂し、新しい髪の毛を作り出す際にも亜鉛が必要です。
亜鉛が不足すると、ケラチンの合成がスムーズに行われなくなり、髪の毛が細くなったり、もろくなったり、成長が遅れたりする可能性があります。
また、毛周期(ヘアサイクル)にも影響を与え、成長期が短縮されたり、休止期が延長されたりすることで、抜け毛が増えることにもつながりかねません。
亜鉛不足が引き起こす身体への影響
亜鉛は体内で多くの重要な役割を担っているため、不足すると様々な不調が現れる可能性があります。
亜鉛不足の主な原因
亜鉛不足に陥る原因は一つではありません。
まず考えられるのは、単純な摂取不足で、肉類や魚介類をあまり食べない人、極端なダイエットをしている人、偏食傾向のある人は、食事からの亜鉛摂取量が不足しがちです。
また、高齢になると食事量が減ったり、消化吸収能力が低下したりするため、亜鉛不足になりやすいと言われています。
次に、吸収不良も原因で、亜鉛の吸収は、同時に摂取する食品成分によって影響を受けます。
穀類や豆類に多く含まれるフィチン酸や、加工食品に多く含まれるポリリン酸などの食品添加物は、亜鉛と結合してその吸収を妨げることが知られています。
また、過剰なアルコール摂取も亜鉛の排泄を促し、不足を招く原因です。
さらに、成長期や妊娠・授乳期、大きな手術や怪我の後など、体内で亜鉛の需要が高まっている時期にも、相対的な亜鉛不足に陥りやすくなります。
特定の薬剤の長期服用が亜鉛の吸収を阻害したり、排泄を促進することもあります。
亜鉛の吸収を妨げる可能性のある食品成分
成分名 | 多く含まれる食品例 | 亜鉛吸収への影響 |
---|---|---|
フィチン酸 | 玄米、豆類、種実類 | 亜鉛と結合し吸収を阻害 |
タンニン | コーヒー、緑茶、紅茶 | 過剰摂取で亜鉛の吸収をやや妨げる可能性 |
食物繊維 | 野菜、きのこ類、海藻類 | 過剰摂取で亜鉛の吸収をやや妨げる可能性 |
亜鉛不足による一般的な症状
亜鉛不足が起こす代表的な症状は、味覚障害で、「食べ物の味がしない」「何を食べても同じ味に感じる」といった症状が現れ、これは、味を感じる味蕾細胞の新陳代謝に亜鉛が必要なためです。
同様に、嗅覚障害も起こりえます。
皮膚症状としては、皮膚炎や湿疹、口内炎、褥瘡(床ずれ)の治癒遅延などが見られ、爪にも異常が現れることがあり、白い斑点ができたり、もろくなったりします。
また、免疫力の低下も亜鉛不足の重要なサインです。風邪をひきやすくなったり、感染症が治りにくくなったりし、子供の場合は、成長障害や発達の遅れが見られることもあります。
その他、食欲不振、貧血、精神的な不安定(抑うつ症状など)、生殖機能の低下、脱毛症などです。
亜鉛不足と脱毛症の関連を示唆する研究
亜鉛不足と脱毛症、特に円形脱毛症との関連については、これまでにもいくつかの研究報告があります。
円形脱毛症の患者さんの血清亜鉛濃度を測定したところ、健康な人と比較して有意に低い値を示したという研究結果が複数あります。
また、亜鉛を補給することで脱毛症状が改善したという症例報告も散見されます。
ただし、これらの研究結果は、亜鉛不足が円形脱毛症の直接的な原因であると断定するものではありません。
亜鉛不足が免疫機能に影響を与え、自己免疫反応を起こしやすくする可能性や、毛髪の成長に必要な細胞の機能低下を招く可能性などが考えられますが、詳細な関係性はまだ研究段階です。
女性の円形脱毛症と亜鉛不足の具体的な関連性
女性の円形脱毛症において、亜鉛不足がどのように関わっているのか、さらに詳しく見ていきましょう。
なぜ亜鉛不足が円形脱毛症につながるのか
亜鉛不足が円形脱毛症の発症や悪化に関与する可能性として、いくつかの機序が考えられ、まず、免疫系の調節機能への影響です。
亜鉛は免疫細胞の正常な機能維持に必要であり、不足すると免疫バランスが崩れ、自己の毛包を攻撃してしまう自己免疫反応が起こりやすくなる可能性があります。
毛包周囲の炎症反応をコントロールする上でも、亜鉛の役割は無視できません。
次に、毛髪の成長サイクルへの直接的な影響です。
毛母細胞の分裂や増殖、髪の主成分であるケラチンタンパク質の合成には亜鉛が不可欠で、亜鉛が不足すると、これらのプロセスが滞り、健康な毛髪が育ちにくくなります。
結果として、毛髪が細くなったり、成長期が短縮されて早期に抜け落ちたりする可能性があります。
また、抗酸化作用を持つ亜鉛が不足することで、毛包細胞が活性酸素によるダメージを受けやすくなり、機能が低下しやすいです。
女性ホルモンと亜鉛の関係性
女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンと亜鉛は、互いに影響し合う関係にあり、エストロゲンは亜鉛の体内分布や代謝に影響を与える可能性が指摘されています。
また、亜鉛はホルモンの合成や受容体の機能にも関与しており、ホルモンバランスを整える上で間接的な役割を果たしています。
妊娠・出産期や更年期など、女性ホルモンの分泌が大きく変動する時期は、亜鉛の需要が高まったり、吸収率が変化したりする可能性があります。
このような時期に円形脱毛症を発症しやすい背景には、ホルモンバランスの乱れに加えて、亜鉛を含む微量栄養素のバランスの変化も影響しているかもしれません。
他の栄養素とのバランスも大切
髪の健康を維持するためには、亜鉛だけでなく、他の様々な栄養素もバランス良く摂取することが重要です。鉄分は血液中のヘモグロビンの構成成分であり、毛母細胞へ酸素を供給する役割を担っています。
鉄欠乏性貧血は、女性に多く見られる症状であり、薄毛や抜け毛の原因の一つです。
ビタミンDは、毛包の機能維持に関与している可能性が示唆されていて、ビオチン(ビタミンB群の一種)は、ケラチンの生成を助ける働きがあります。
亜鉛は、銅や鉄といった他のミネラルとのバランスが重要で、亜鉛を過剰に摂取すると銅の吸収が阻害されることがありまるので注意が必要です。
健康な髪に必要な栄養素
栄養素名 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品 |
鉄分 | 毛母細胞への酸素供給 | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき |
ビタミンC | コラーゲン生成促進、鉄分の吸収促進 | 果物(柑橘類、いちご)、野菜(ピーマン、ブロッコリー) |
亜鉛を効果的に摂取する方法
亜鉛不足を解消し、髪の健康をサポートするためには、日々の食事から意識して亜鉛を摂取することが基本です。
亜鉛を多く含む食品
亜鉛は様々な食品に含まれていますが、特に含有量が多いのは魚介類、肉類、種実類などです。中でも牡蠣(かき)は、食品の中でもトップクラスの亜鉛含有量を誇ります。
その他、レバー(特に豚レバー)、牛肉(赤身)、鶏肉、卵黄なども良い供給源です。植物性食品では、カシューナッツ、アーモンド、かぼちゃの種、ごま、納豆、豆腐、ココア(ピュアココア)などにも多く含まれています。
ただし、植物性食品に含まれる亜鉛は、動物性食品に含まれる亜鉛に比べて吸収率が低い傾向があります。
これは、植物性食品に多く含まれるフィチン酸や食物繊維が亜鉛の吸収を妨げるためです。
食品別亜鉛含有量の目安(可食部100gあたり)
食品名 | 亜鉛含有量 (mg) | 備考 |
---|---|---|
牡蠣(生) | 14.5 | 非常に多くの亜鉛を含む |
豚レバー(生) | 6.9 | ビタミンAも豊富 |
牛肉(肩ロース、赤身、生) | 5.8 | 部位によって含有量が異なる |
カシューナッツ(フライ、味付け) | 5.4 | 手軽な間食にも |
鶏卵(卵黄、生) | 4.2 | 卵白にはほとんど含まれない |
亜鉛の吸収を高める食事の工夫
亜鉛の吸収率を高めるためには、いくつかの工夫があり、まず、ビタミンCやクエン酸を多く含む食品と一緒に摂取することです。
亜鉛と結合しやすいフィチン酸の影響を軽減し、亜鉛の吸収を助ける働きがあるので、肉や魚料理にレモンを絞ったり、食後に果物を食べたりするのも良いでしょう。
また、動物性タンパク質も亜鉛の吸収を促進し、肉や魚、卵などと一緒に亜鉛を多く含む食品を摂ることで、効率よく吸収できます。
調理法も工夫の一つです。豆類や玄米に含まれるフィチン酸は、水に浸けたり、発酵させたりすることで量を減らせます。過度な飲酒は亜鉛の排泄を促すため、控えることも大切です。
サプリメントを利用する際の注意点
食事からの亜鉛摂取が難しい場合や、明らかに不足していると診断された場合には、サプリメントの利用も選択肢の一つですが、自己判断での安易な使用は避けるべきです。
亜鉛は過剰に摂取すると、吐き気、嘔吐、下痢、頭痛などの急性中毒症状を起こす可能性があります。
また、長期的な過剰摂取は、銅や鉄といった他の必須ミネラルの吸収を妨げ、それらの欠乏症を招くリスクもあります。特に銅欠乏は貧血や免疫機能低下などを起こすため注意が必要です。
サプリメントを利用する場合は、必ず医師や管理栄養士などの専門家に相談し、種類や量を指導してもらいましょう。
日本の食事摂取基準では、成人女性の亜鉛の推奨量は1日8mg、耐容上限量は35mg(18~64歳の場合)です。
亜鉛サプリメント摂取の目安と注意点
項目 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
1日の推奨量(成人女性) | 8 mg | 通常の食事で摂取目標としたい量 |
耐容上限量(成人女性 18-64歳) | 35 mg | これを超えると健康障害リスク増 |
過剰摂取時の主な症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、銅欠乏 | 長期的な過剰摂取は特に注意 |
亜鉛不足や円形脱毛症に関する医療機関への相談
円形脱毛症の症状が見られたり、亜鉛不足が疑われたりする場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
どのような場合に医療機関を受診すべきか
以下のような場合は、皮膚科や薄毛治療専門のクリニックなど、医療機関を受診することを検討しましょう。まず、脱毛斑が1つだけでなく複数ある場合や、脱毛範囲が急速に拡大している場合です。
また、脱毛が繰り返される場合や、数ヶ月経っても改善の兆しが見られない場合も相談が必要です。
眉毛やまつ毛など、頭髪以外の体毛にも脱毛が見られる場合や、爪の異常(点状のへこみ、横溝など)を伴う場合も、円形脱毛症の可能性があります。
原因がはっきりしない脱毛や、強いかゆみ、痛み、フケなどの頭皮トラブルを伴う場合も、専門医の診察を受けることをお勧めします。
特に、亜鉛不足を疑うような症状(味覚障害、皮膚炎など)が他に見られる場合は、その旨も医師に伝えましょう。
医療機関で行う検査と診断
医療機関では、まず問診で症状の経過、既往歴、家族歴、生活習慣、服用中の薬などを詳しく聞き取り、その後、視診で脱毛の状態や範囲、頭皮の状態などを確認します。
ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いて、毛穴の状態や毛髪の形状(感嘆符毛の有無など)を詳細に観察することもあります。
血液検査は、円形脱毛症の原因や背景にある可能性のある疾患(甲状腺疾患、膠原病など)の有無を調べるためや、栄養状態(亜鉛、鉄などのミネラル濃度)を評価するために行うことがあります。
亜鉛不足が疑われる場合は、血清亜鉛濃度の測定が重要です。
円形脱毛症の診断で用いられる主な検査
検査名 | 目的 | 内容の概要 |
---|---|---|
問診 | 症状の把握、原因の推定 | 発症時期、経過、既往歴、生活習慣などの聞き取り |
視診・ダーモスコピー検査 | 脱毛斑の状態、毛髪の異常の確認 | 脱毛範囲、毛穴の状態、感嘆符毛の有無などを観察 |
血液検査 | 全身状態の評価、合併症の確認、栄養状態の把握 | 甲状腺機能、自己抗体、血清亜鉛・鉄濃度などを測定 |
円形脱毛症の一般的な治療法
軽症の場合は、自然治癒を期待して経過観察することもあります。活動性の高い脱毛斑に対して用いられるのは、ステロイド外用薬やミノキシジル外用薬です。
ステロイド外用薬は炎症を抑える効果があり、ミノキシジル外用薬は毛母細胞の活性化や血流改善効果が期待されます。
脱毛範囲が広い場合や、進行が速い場合には、ステロイド局所注射(脱毛部に直接ステロイドを注射する方法)や、局所免疫療法(SADBE療法など、かぶれを起こす化学物質を塗布して発毛を促す治療法)が検討されることもあります。
重症例では、ステロイド内服や免疫抑制剤の内服が行われることもありますが、副作用のリスクも考慮し慎重に判断します。
また、治療と並行して、亜鉛などの栄養療法や生活習慣の改善も大切です。
円形脱毛症の主な治療法とその概要
治療法 | 概要 | 期待される効果 |
---|---|---|
ステロイド外用薬 | 炎症を抑える塗り薬 | 脱毛部の炎症抑制、発毛促進 |
ミノキシジル外用薬 | 発毛効果のある塗り薬 | 毛母細胞活性化、血流改善による発毛促進 |
ステロイド局所注射 | 脱毛部にステロイドを直接注射 | 強い炎症抑制効果、発毛促進 |
医師への相談で伝えるべきこと
医療機関を受診する際には、医師に正確な情報を提供することが、正しい診断と治療につながります。
まず、いつから脱毛が始まったか、最初に気づいたきっかけ、脱毛の範囲や進行の速さなど、症状の詳しい経過を伝えましょう。過去に円形脱毛症になったことがあるか、その時の治療法や経過も重要な情報です。
アトピー性皮膚炎、甲状腺疾患、膠原病などの自己免疫疾患や、その他の持病の有無、現在服用している薬(市販薬やサプリメントも含む)は必ず伝えます。
家族に円形脱毛症や自己免疫疾患の人がいるかどうかも参考になります。
また、最近の生活習慣の変化(大きなストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、ダイエットなど)や、体調の変化(味覚異常、皮膚症状、疲労感など)も、原因を探る手がかりになることがあります。
よくある質問
ここでは、亜鉛不足や女性の円形脱毛症に関して、多くの方が疑問に思われる点についてお答えします。ただし、個々の症状や状態によって対応は異なりますので、最終的な判断は必ず医療機関にご相談ください。
- Q亜鉛を摂取すれば円形脱毛症は必ず治りますか?
- A
亜鉛は髪の健康にとって非常に重要なミネラルであり、不足している場合にはそれを補うことで症状の改善が期待できることがあります。
しかし、円形脱毛症の原因は亜鉛不足だけとは限りません。自己免疫反応、遺伝的要因、ストレス、他の栄養素のバランスなど、様々な要因が複雑に関与していると考えられています。
- Q亜鉛サプリメントはどのくらいの期間摂取すれば効果が出ますか?
- A
亜鉛サプリメントの効果が現れるまでの期間は、元の亜鉛不足の程度、吸収率、体質、円形脱毛症の重症度、他の治療との併用状況などによって異なります。
一般的に、体内の栄養状態が改善し、それが毛髪の成長に反映されるまでには数ヶ月単位の時間が必要です。
毛髪には成長サイクルがあり、新しい健康な髪が生えてくるまでには時間がかかります。
- Q子供の円形脱毛症にも亜鉛は関係しますか?
- A
子供の円形脱毛症においても、亜鉛不足が関与している可能性はあります。子供は成長期であり、細胞分裂が活発なため、亜鉛の必要量が多い時期です。
偏食や好き嫌いが多いお子さんの場合、亜鉛が不足しがちになることも考えられます。
ただし、子供の円形脱毛症の原因も様々であり、アトピー素因やストレスなどが関与することも多いです。
- Q亜鉛以外に円形脱毛症に良いとされるミネラルはありますか?
- A
髪の健康には、亜鉛以外にも様々なミネラルが関わっています。
鉄は血液中のヘモグロビンの成分として、毛母細胞に酸素を運ぶ重要な役割を担っており、不足すると脱毛の原因になることがあります。
セレンは抗酸化作用を持ち、頭皮の健康維持に関与し、銅は、亜鉛とのバランスが重要で、メラニン色素の生成にも関わっています。
ケイ素(シリカ)は、コラーゲンの生成を助け、髪の強度や弾力性を保つ働きがあるミネラルです。
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