最近、抜け毛が増えた、髪のボリュームが減ってきた、地肌が透けて見える気がする。そんな頭髪の変化に、一人で不安を抱えていませんか。

女性の薄毛や抜け毛は様々な原因が考えられ、正しい知識を持って対処することが大事です。

この記事では、女性の頭髪を専門とする医療機関や外来で、どのような検査や診断、治療が行われるのか、その一連の流れを詳しく解説します。

目次

なぜ女性の抜け毛は専門外来への相談が大切なのか

女性の抜け毛や薄毛の悩みは、非常にデリケートな問題です。市販のケア用品を試してみるものの、なかなか改善が見られず、誰に相談すれば良いのか分からないと感じる方も少なくありません。

一般的な皮膚科との違い

一般的な皮膚科でも頭髪の相談は可能ですが、専門外来はより深く、女性の薄毛治療に特化しています。

皮膚科が扱う疾患は多岐にわたる一方、頭髪専門外来では、女性特有の脱毛症に関する豊富な知見と経験を持つ医師が在籍し、より専門的な検査機器を備えていることが多いです。

専門外来の特長

項目頭髪専門外来一般的な皮膚科
専門性女性の薄毛・抜け毛に特化皮膚疾患全般を扱う
検査詳細な頭皮・毛髪検査、ホルモン検査などが充実基本的な視診や血液検査が中心
治療法治療薬の選択肢や頭皮へのアプローチが豊富保険診療内の基本的な治療が中心

女性特有の抜け毛の原因

女性の抜け毛は、男性とは異なる多様な要因が複雑に絡み合って生じ、ライフステージの変化に伴うホルモンバランスの乱れは、代表的なものです。

妊娠・出産、更年期などは、女性ホルモンの分泌量を大きく変動させ、頭髪に影響を与えます。また、過度なダイエットによる栄養不足、ストレス、誤ったヘアケアなども見逃せない原因です。

早期相談の重要性

抜け毛や薄毛は、進行性のものも少なくありません。気になり始めた段階で専門家に相談し、原因を特定して適切な対策を始めることで、症状の進行を食い止め、改善の可能性を高めることができます。

自己判断でのケアは、かえって時間や費用を浪費してしまうこともあります。早期に医療機関を受診することは、心身の負担を軽減するためにも非常に重要です。

医療機関で相談する安心感

一人で悩みを抱え込まず、医療の専門家に相談することで、科学的根拠に基づいた客観的な診断を受けられ、大きな安心感につながります。

また、多くの女性頭髪専門外来では、プライバシーに配慮した環境が整えられており、他の患者さんと顔を合わせることなく、リラックスして相談できるような工夫がされています。

専門外来での初診から診断までの流れ

初めて専門外来を訪れる際は、どのようなことが行われるのか、緊張や不安を感じるかもしれません。ここでは、一般的な初診から診断が確定するまでの一連の流れを解説します。

問診で伝えるべきこと

診察の第一歩は、医師による詳しい問診です。

症状を正確に把握するために、生活背景や体調の変化について詳しく質問されるので、事前にご自身の状況を整理しておくと、スムーズに伝えられます。

医師はこれらの情報を基に、抜け毛の原因となっている可能性のある要因を探ります。

問診で準備しておくと良い情報

カテゴリ主な確認項目具体例
症状についていつから、どの部位が気になるか半年前から頭頂部が気になる、など
生活習慣食事、睡眠、ストレス、喫煙・飲酒の有無最近忙しく睡眠不足、など
病歴・服薬歴過去や現在の病気、服用中の薬高血圧で薬を服用中、など

視診と触診による頭皮チェック

問診の後は、医師が直接、頭皮や髪の状態を観察し、頭皮の色、硬さ、毛穴の状態、髪の毛の太さや密度、抜け毛のパターンなどを丁寧に確認します。

診察により、炎症の有無や脱毛の範囲など、多くの情報を得られます。

マイクロスコープを用いた詳細な頭皮分析

肉眼での確認に加え、多くの専門外来ではマイクロスコープ(拡大鏡)を使用して頭皮の状態をさらに詳しく観察します。

数十倍から数百倍に拡大することで、毛穴の詰まり具合、皮脂の分泌量、毛髪の太さのばらつき、一本の毛穴から生えている毛髪の本数などを詳細に分析することが可能です。

客観的なデータは、正確な診断を下す上で非常に役立ちます。

診断結果の説明と今後の見通し

問診、視診、各種検査の結果を総合的に判断し、医師が診断を伝えます。診断名だけでなく、なぜその状態になっているのか、考えられる原因について分かりやすく説明があります。

そして診断に基づいて、どのような治療の選択肢があるのか、治療によってどのような改善が見込めるのかといった、今後の見通しについても話し合います。

不安な点や疑問点は、この時に遠慮なく質問することが大切です。

女性の抜け毛の原因を探るための主な検査

問診や視診だけでは分からない体内の状態を探るため、より客観的なデータに基づいた検査が行われることがあります。

検査は抜け毛の根本原因を特定し、一人ひとりに合った治療法を選択するために欠かせないものです。どのような検査があるのかを知っておきましょう。

血液検査でわかること

抜け毛の原因として、体内の栄養状態や全身の健康状態が関わっていることが少なくありません。血液検査では、全身の健康状態を把握するための様々な項目を調べられます。

特に、女性の薄毛に関連が深い項目は、鉄分や亜鉛などのミネラル、甲状腺機能などです。

血液検査の主なチェック項目

検査項目抜け毛との関連
貧血関連(鉄、フェリチン)鉄欠乏は毛髪の成長に影響し、抜け毛の原因となり得る
亜鉛毛髪の主成分であるケラチンの合成に必要
甲状腺ホルモンホルモンの異常が脱毛症を引き起こすことがある

ホルモンバランスの検査

女性ホルモン(エストロゲンなど)や男性ホルモン(テストステロンなど)のバランスは、毛髪のサイクルに大きな影響を与えます。

更年期や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが疑われる場合、ホルモン値を測定する血液検査を行うことがあり、ホルモンバランスの乱れが抜け毛にどの程度関与しているかを評価します。

抜け毛そのものを調べる検査(毛髪検査)

ダーモスコピーやトリコスコピーと呼ばれる、特殊な拡大鏡を用いた検査で毛髪や毛根の状態を詳細に観察します。

毛幹の太さのばらつき、毛根の形状、成長期毛と休止期毛の割合などを調べることで、脱毛症のタイプをより正確に鑑別できます。患者さんへの負担が少なく、多くの情報を得られる有用な検査です。

毛髪検査で観察するポイント

  • 毛髪の密度の低下
  • 毛髪の太さの多様性(細い毛の増加)
  • 毛穴の状態(炎症、角栓など)

必要に応じて行われるその他の検査

上記の検査以外にも、疑われる原因に応じて追加の検査が行われることがあります。

自己免疫疾患が疑われる場合には特殊な抗体を調べる血液検査を行うことがあり、また、皮膚の病気が疑われる際には、頭皮の一部を小さく採取して顕微鏡で調べる皮膚生検が行われることも稀にあります。

検査で明らかになる女性の薄毛・抜け毛の主な原因

専門外来での詳しい診察や検査を通じて、抜け毛の背景にある原因が明らかになってきます。女性の薄毛や抜け毛を引き起こす代表的な脱毛症にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴や対処法が異なります。

女性男性型脱毛症(FAGA)

Female Androgenetic Alopeciaの略で、女性の薄毛で最も多い原因の一つです。

男性のAGA(男性型脱毛症)とは異なり、生え際が後退するのではなく、頭頂部や分け目を中心に髪の毛が全体的に細く、軟毛化し、地肌が透けて見えるようになるのが特徴です。

遺伝的な要因や、加齢に伴う女性ホルモンの減少と、相対的に男性ホルモンの影響が優位になることが関係していると考えられています。

びまん性脱毛症

びまん性とは、全体に広がるという意味で、特定の部位だけでなく頭部全体の髪の毛が均一に薄くなる状態です。

FAGAと症状が似ていますが、FAGAがホルモンの影響を主とするのに対し、びまん性脱毛症はより広い原因、例えば強いストレス、栄養不足、加齢、全身疾患などが引き金となります。

原因が多岐にわたるため、特定が治療の鍵です。

女性に多い脱毛症の比較

脱毛症の種類主な特徴考えられる要因
女性男性型脱毛症(FAGA)頭頂部・分け目が中心に薄くなる遺伝、ホルモンバランスの変化
びまん性脱毛症頭部全体が均一に薄くなるストレス、栄養不足、加齢など
円形脱毛症円形・楕円形の脱毛斑が突然生じる自己免疫疾患、アトピー素因など

分娩後脱毛症や牽引性脱毛症

特定のライフイベントや生活習慣に関連する脱毛症です。

  • 分娩後脱毛症:妊娠中に増加していた女性ホルモンが出産後に急激に減少することで、一時的に抜け毛が大量に増える現象です。通常は産後半年から1年ほどで自然に回復します。
  • 牽引性脱毛症:ポニーテールなど、毎日同じ髪型で髪を強く引っ張り続けることで、毛根に負担がかかり、生え際や分け目の髪が抜けてしまう状態です。

全身疾患や栄養不足が関連する抜け毛

髪の毛は健康のバロメーターとも言われ、体全体の健康状態が反映されます。甲状腺機能の異常(亢進症や低下症)、膠原病などの自己免疫疾患、あるいは鉄欠乏性貧血などが原因で抜け毛が増えることがあります。

また、無理なダイエットは、髪の成長に必須であるタンパク質、ビタミン、ミネラルの不足を招き、深刻な抜け毛につながるため、注意が必要です。

診断に基づく主な治療法の選択肢

正確な診断がつけば、治療の段階に進みます。専門外来では、診断された原因や患者さん一人ひとりの状態、ライフスタイルに合わせて、様々な治療法の中から最も適したものを組み合わせて提案します。

外用薬による治療

頭皮に直接塗布するタイプの治療薬で、代表的なものは、ミノキシジルを配合した外用薬です。

ミノキシジルは、もともと血圧を下げる薬として開発されましたが、発毛効果があることが分かり、薄毛治療薬として承認されました。

頭皮の血行を促進し、毛母細胞を活性化させることで、発毛を促し、髪の毛を太く強く育てる働きがあります。医療機関で処方される外用薬は、市販のものよりも高濃度のものがあり、より高い効果が期待できます。

主な治療法の概要

治療法の種類主な内容期待される働き
外用薬治療ミノキシジルなどを頭皮に塗布血行促進、毛母細胞の活性化
内服薬治療スピロノラクトンや栄養補助薬などを服用ホルモンバランスの調整、栄養補給
注入療法成長因子などを頭皮に直接注入発毛促進、頭皮環境の改善

内服薬による治療

飲み薬によって、体の内側から薄毛の原因にアプローチする方法です。女性男性型脱毛症(FAGA)に対しては、男性ホルモンの働きを抑制する作用のあるスピロノラクトンなどが用いられることがあります。

また、血液検査で鉄分や亜鉛などの栄養素の不足が明らかになった場合には、補うためのサプリメントや内服薬が処方されます。

頭皮への直接的なアプローチ(注入療法など)

より積極的に発毛を促したい場合や、外用薬・内服薬の効果を補助する目的で、頭皮に直接有効成分を届ける治療法も選択肢です。

髪の成長を促す因子(成長因子)や、ビタミン、アミノ酸などをブレンドした薬剤を、極細の針などを用いて頭皮に直接注入する方法があります。

頭皮環境を直接的に改善し、毛根に栄養を届けることで、発毛をサポートします。

栄養指導や生活習慣の改善サポート

薬物治療だけでなく、日々の生活を見直すことも、健やかな髪を育むためには欠かせません。

多くの専門外来では、治療の一環として、栄養バランスの取れた食事内容に関するアドバイスや、質の良い睡眠、ストレス管理の方法といった、生活習慣全般に関するカウンセリングも行っています。

薬だけに頼るのではなく、生活全体で髪の健康を支えるという視点が、治療効果を高める上で大事です。

治療期間の目安と費用について

治療を始めるにあたって、どのくらいの期間がかかるのか、費用はどの程度なのか、という点は多くの方が気になるところです。ここでは、治療期間や費用に関する一般的な目安について解説します。

効果を実感するまでの期間

毛髪にはヘアサイクル(毛周期)があるため、治療を開始してすぐに劇的な変化が現れるわけではありません。多くの場合、治療効果を実感し始めるまでには、少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。

これは、新しい髪が成長し、目に見える長さになるまでに時間がかかるためで、焦らず、根気強く治療を続けることが、良い結果につながります。

治療を継続する重要性

女性の薄毛治療は多くの場合、継続的なケアが必要です。特にFAGAなどの進行性の脱毛症の場合、治療を自己判断で中断してしまうと症状が再び進行し、治療前の状態に戻ってしまう可能性があります。

効果が現れた後も状態を維持するために、医師の指示に従って治療を続けることが重要です。定期的な通院で、状態の変化を確認しながら治療計画を調整していきます。

保険適用と自由診療

女性の薄毛治療における費用は、原因によって保険が適用される場合と、適用されない自由診療となる場合があります。

保険適用と自由診療の区分

区分対象となる可能性のある疾患・状態備考
保険適用円形脱毛症、甲状腺疾患など全身疾患に伴う脱毛原因疾患の治療として扱われる
自由診療女性男性型脱毛症(FAGA)、びまん性脱毛症など美容的な側面が強いと判断されるため

FAGAや加齢によるびまん性脱毛症の治療は、多くが自由診療となります。

自由診療の費用は、医療機関や治療内容によって大きく異なるため、治療を開始する前に、必ず費用体系について詳しい説明を受け、納得した上で進めましょう。

医療費控除の可能性

医師による診断の結果薄毛が何らかの疾患の治療として行われる場合、費用は医療費控除の対象となる可能性があり、円形脱毛症の治療などが該当します。

女性の頭髪治療に関するよくある質問

最後に、女性の頭髪治療に関して、多くの患者さんから寄せられる質問とその回答をまとめました。治療への不安や疑問を解消するための一助となれば幸いです。

Q
治療には痛みは伴いますか
A

外用薬や内服薬による治療には、痛みは伴いません。頭皮への注入療法など、針を使用する治療の場合は、ちくっとした軽い痛みを感じることがあります。

多くの医療機関では、痛みを最小限に抑えるために、冷却や麻酔クリームの使用など様々な工夫をしています。

Q
治療薬に副作用はありますか
A

ミノキシジル外用薬では使用初期にかゆみやかぶれ、頭皮の乾燥などが生じることがあり、内服薬も、薬の種類に応じた副作用のリスクがあります。

専門外来では、治療開始前に考えられる副作用について詳しい説明があり、定期的な診察で体調の変化をチェックしながら、安全に治療を進めていきます。

Q
市販の育毛剤との違いは何ですか
A

市販の育毛剤の多くは、医薬部外品に分類され、主な目的は今ある髪の毛を健康に保つことや、頭皮環境を整えることによる抜け毛の予防です。

医療機関で処方される治療薬(医薬品)は、発毛を促進するミノキシジルなど、科学的に効果が認められた有効成分が配合されており、新たな髪を生み出すことを目的としています。

Q
治療をやめると元に戻ってしまいますか
A

分娩後脱毛症のように一過性のものは、原因が解消されれば治療を終了しても問題ありません。

しかし、FAGAのように進行性で、体質が関わる脱毛症の場合、治療を完全にやめてしまうと、徐々に治療前の状態に戻っていく可能性があります。

症状が改善した後も、良い状態を維持するためのメンテナンス治療を続けることが推奨される場合が多いです。

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