抜け毛が増えた、髪の分け目が目立つようになった、髪全体のボリュームが減ったなど、女性の薄毛に関する悩みは非常にデリケートです。

誰に相談すれば良いのか分からず、一人で抱え込んでいる方も少なくありません。いざ治療を考えたとき、最初に直面するのが女性の薄毛は病院の何科へ行けば良いのかという疑問です。

この記事では、薄毛に悩む女性が適切な医療機関を選ぶための情報を提供します。

目次

なぜ女性の薄毛は専門的な診断が重要なのか

女性の薄毛は、男性の薄毛とは異なり、原因が多岐にわたることが特徴です。そのため、市販の育毛剤や自己流のケアだけで対処しようとすると、かえって時間や費用を無駄にしてしまう可能性があります。

専門的な医療機関で正確な診断を受けることが、改善への最も確実な道筋です。

男性の薄毛との原因の違い

男性の薄毛の多くはAGA(男性型脱毛症)と呼ばれ、男性ホルモンが主な原因です。

一方、女性の薄毛は、女性ホルモンの減少、生活習慣の乱れ、ストレス、甲状腺疾患などの病気、間違ったヘアケアなど、複数の要因が複雑に絡み合って発症することが多いです。

代表的なものにFAGA(女性男性型脱毛症)や休止期脱毛症などがあり、原因に応じたアプローチが必要になります。

男性と女性の薄毛の主な原因比較

項目男性の薄毛(AGA)女性の薄毛(FAGAなど)
主な原因男性ホルモン、遺伝女性ホルモンの変化、ストレス、生活習慣、病気など
薄毛のパターン生え際の後退、頭頂部が薄くなる頭頂部を中心に全体的に髪が細く、少なくなる

全身の健康状態が関係する可能性

女性の薄毛は頭皮や髪の問題だけでなく、体全体の健康状態を反映するサインである場合があり、甲状腺機能の異常や、貧血(特に鉄欠乏性貧血)、膠原病といった内科的な疾患が抜け毛を起こすことがあります。

また、婦人科系の疾患や産後、更年期など、ライフステージに伴うホルモンバランスの大きな変化も、髪の状態に深く影響します。

そのため、頭皮だけを見るのではなく、全身の状態を考慮した診断がとても大事になります。

自己判断によるケアのリスク

薄毛の原因を特定しないまま、高価な育毛剤やシャンプーを使ったりサプリメントを摂取しても、根本的な解決にはつながりにくいです。

もし薄毛の原因が内科的な疾患にある場合、治療の機会を逃してしまうことにもなりかねません。

また、肌に合わない製品を使い続けることで、頭皮環境が悪化し、かえって抜け毛を増やしてしまうリスクもあります。まずは専門医に相談し、ご自身の薄毛の本当の原因を知ることが重要です。

早期発見と早期治療の重要性

多くの脱毛症は、進行性です。放置しておくと、髪の毛を作り出す毛包の機能が徐々に低下し、治療を始めても改善に時間がかかるようになったり、回復が難しくなることがあります。

髪の変化に気づいた早い段階で専門医の診察を受け、適切な治療を開始することで症状の進行を食い止め、より良い改善が期待できます。少しでも気になったら、まずは相談するという意識が大切です。

女性の薄毛相談ができる主な診療科

女性の薄毛を相談できる医療機関は、一つだけではありません。それぞれの診療科で対応できる範囲や得意分野が異なります。ご自身の状況や希望に合わせて、どの診療科を受診するか検討しましょう。

第一の選択肢としての皮膚科

髪の毛は皮膚の一部であるため、薄毛の悩みを相談する際の最も一般的な窓口は皮膚科です。

皮膚科では、頭皮の炎症やアトピー性皮膚炎、円形脱毛症など、皮膚疾患が原因で起こる抜け毛の診断と治療を行います。多くの皮膚科は保険診療を基本としているため、費用を抑えやすいことが利点です。

より専門的な治療を目指すなら薄毛専門クリニック

近年増えているのが、女性の薄毛治療を専門に行うクリニックで、女性の薄毛に関する豊富な知識と治療経験を持ち、最新の知見に基づいた多様な治療法を提供しています。

プライバシーへの配慮が行き届いている点も大きな特徴です。治療は自由診療が中心となることが多いですが、より踏み込んだ治療を望む方にとっては有力な選択肢になります。

診療科ごとの対応範囲

診療科主な対応範囲診療の中心
皮膚科円形脱毛症、頭皮の皮膚炎など保険診療
薄毛専門クリニックFAGA、びまん性脱毛症など女性特有の薄毛全般自由診療
婦人科・内科産後や更年期の脱毛、内科疾患に伴う脱毛原因疾患の治療(保険診療)

ホルモンバランスが気になる場合の婦人科

出産後や更年期に入ってから抜け毛が増えたなど、女性ホルモンのバランスの乱れが原因として強く考えられる場合は、婦人科に相談するのも一つの方法です。

婦人科ではホルモン補充療法など、体の中からバランスを整えるアプローチで薄毛の改善を図ることがあります。ただし、婦人科医が必ずしも薄毛治療に詳しいとは限らないため、事前に確認が必要です。

他の病気が疑われる場合の内科

急に体重が変化した、疲れやすい、体のむくみなど、抜け毛以外にも全身に不調を感じる場合は、内科を受診することを検討してください。

甲状腺機能の異常や貧血など、内科的な病気が隠れている可能性があり、まずは原因となっている病気の治療を優先することが、結果的に薄毛の改善につながります。

皮膚科を受診する場合の特徴と注意点

最も身近な選択肢である皮膚科ですが、受診する際にはその特徴を理解しておくことが大切です。すべての皮膚科が女性の薄毛治療に積極的とは限らないため、事前の情報収集が鍵となります。

保険診療が中心となる治療

皮膚科での治療は、健康保険が適用される保険診療が基本です。

円形脱毛症や、脂漏性皮膚炎などの診断がつけば、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬などが保険で処方され、比較的安価に治療を始められます。

ただし、女性の薄毛で最も多いFAGA(女性男性型脱毛症)の治療は、保険適用外となることがほとんどです。

皮膚疾患全般を診るという視点

皮膚科は薄毛だけでなく、アトピー性皮膚炎やニキビ、じんましんなど、あらゆる皮膚の病気を診る診療科です。そのため、医師が必ずしも女性の薄毛治療を専門分野としているわけではありません。

基本的な診察や投薬は可能ですが、より専門的な治療法の提案や、きめ細やかなカウンセリングは期待できない場合もあります。

皮膚科での保険診療と自費診療

診療区分対象となる主な疾患・治療特徴
保険診療円形脱毛症、脂漏性皮膚炎など費用負担が少ない(1割〜3割)
自費診療FAGA治療(ミノキシジル外用薬など)費用が全額自己負担となる

処方される主な治療薬

皮膚科でFAGAと診断された場合自費診療となりますが、ミノキシジル外用薬が処方されることがあります。

ミノキシジルは、日本皮膚科学会のガイドラインでも女性の薄毛治療に推奨されている成分で、発毛効果が認められています。

薄毛治療の専門性の確認方法

皮膚科を選ぶ際には、クリニックが女性の薄毛治療にどの程度力を入れているか、ホームページなどで事前に確認することが重要です。

自由診療のメニューとして女性の薄毛治療を明記しているか、治療実績や症例写真などを掲載しているか、といった点が判断材料になります。電話で問い合わせてみるのも良いでしょう。

女性の薄毛専門クリニックを選ぶメリット

費用は高くなる傾向にありますが、専門クリニックには皮膚科にはない多くのメリットがあります。本気で薄毛を改善したいと考える方にとって、価値は大きいかもしれません。

女性の薄毛に特化した豊富な知識と実績

専門クリニックの医師やスタッフは、女性の薄毛の原因、症状のパターン、有効な治療法に関する深い知識と多くの治療経験を持っています。

FAGAだけでなく、びまん性脱毛症や牽引性脱毛症など、さまざまなタイプの薄毛に対して、原因を正確に診断し、一人ひとりに合った治療計画を立てられます。

多様な治療選択肢の提供

専門クリニックではミノキシジル外用薬だけでなく、内服薬、頭皮に直接有効成分を注入する治療、再生医療、低出力レーザー治療など、幅広い選択肢の中から治療法を組み合わせることが可能です。

皮膚科と専門クリニックの比較

比較項目一般的な皮膚科女性の薄毛専門クリニック
専門性皮膚疾患全般女性の薄毛に特化
治療選択肢限定的(主に外用薬)多様(内服薬、注入治療など)
費用保険診療中心(一部自費)自由診療中心(高額な傾向)
プライバシー他の疾患の患者もいる配慮されていることが多い

プライバシーに配慮された環境

薄毛の悩みは非常にデリケートなため、他の患者さんの目が気になるという方も多いでしょう。

専門クリニックの多くは完全予約制であったり、待合室が個室や半個室になっていたりと、患者さんのプライバシーに最大限配慮した空間作りをしています。

周囲を気にすることなく、リラックスして相談や治療を受けられる環境は、大きな安心感につながります。

自由診療が中心となる費用体系

専門クリニックでの治療は、原則として自由診療(自費診療)となるため、保険診療と比べて費用は高額ですが、その分、一人ひとりの状態に合わせた治療を受けられるというメリットがあります。

多くのクリニックでは、カウンセリング時に詳細な費用について説明があるので、内容と金額に納得した上で治療を開始することが大切です。

病院やクリニックを受診する前に準備すべきこと

事前にいくつか準備をしておくことで、当日の診察がスムーズに進み、ご自身の状態を正確に医師に伝えられます。限られた診察時間を有効に使うためにも、ぜひ実践してください。

症状の経過をまとめたメモの用意

いつ頃から抜け毛が気になり始めたか、どのような時に抜けると感じるか、髪のボリュームがどのように変化してきたかなど、症状の経過を時系列でメモにまとめておくと、医師が診断する上で非常に役立ちます。

過去に自分で試した育毛剤やケア方法、効果の有無なども記録しておくと良いでしょう。

普段の生活習慣の振り返り

食生活、睡眠時間、ストレスの状況、喫煙や飲酒の習慣など、普段の生活習慣も髪の健康に大きく影響します。

最近、大きな環境の変化や強いストレスはなかったか、ダイエットをしていないかなど、思い当たる点を整理しておきましょう。正直に伝えることが、正しい診断への近道です。

現在使用中の薬やサプリメントのリスト

他の病気の治療で服用している薬や日常的に摂取しているサプリメント、漢方薬などがあれば、名前が分かるもの(お薬手帳やパッケージなど)を持参してください。

薬の飲み合わせや、特定の成分が抜け毛に関係している可能性を医師が判断する上で、重要な情報です。

受診前に準備する項目リスト

  • 症状の経過を記録したメモ
  • 生活習慣(食事、睡眠、ストレスなど)の振り返り
  • 服用中の薬やサプリメントのリスト(お薬手帳など)
  • 医師に質問したいことのリスト

初診時に行われる一般的な検査と診断の流れ

初めて医療機関を受診する際、どのような診察や検査が行われるのか分からず、不安を感じるかもしれません。ここでは、初診時の一般的な流れを解説します。

問診で伝えるべき情報

診察はまず問診から始まり、医師は事前に準備したメモやヒアリングを通じて、患者さんの症状や生活背景を詳しく把握しようとします。

いつから、どこが、どのように薄くなっているのか、抜け毛の量、かゆみや痛みなどの自覚症状、既往歴、家族歴、生活習慣などをできるだけ正確に伝えてください。

問診が、診断の方向性を決める上で最も重要な情報です。

視診と触診による頭皮チェック

次に、医師が直接、頭皮や髪の状態を目で見て、手で触れて確認します。頭皮の色、毛穴の状態、フケや炎症の有無、髪の毛の密度や太さ、硬さなどをチェックします。

また、軽く髪を引っ張って抜けやすさを調べる検査(牽引試験)を行うこともあり、脱毛のパターンや頭皮環境の問題点を把握します。

血液検査で調べる項目

女性の薄毛は全身の健康状態と関連が深いため、血液検査を行うことが多くあります。ホルモンバランスや、抜け毛の原因となりうる内科的疾患の有無を調べるのが目的です。

血液検査で確認する主な項目

検査項目何が分かるか
甲状腺ホルモン甲状腺機能の異常(亢進症や低下症)の有無
血算・フェリチン貧血の有無、体内の貯蔵鉄の量
女性ホルモン・男性ホルモンホルモンバランスの乱れの有無
亜鉛など髪の成長に必要な栄養素の不足の有無

マイクロスコープによる頭皮状態の観察

専門のクリニックなどでは、マイクロスコープを使って頭皮や毛穴の状態を数十倍から数百倍に拡大して観察することがあります。

肉眼では見えない毛穴の詰まりや炎症、皮脂の分泌状態、1つの毛穴から生えている毛髪の本数、毛の太さなどを詳細に確認できます。

患者さん自身もモニターで自分の頭皮の状態を見ることができるため、現状の理解が深まります。

医療機関で受けられる女性の薄毛治療の種類

正確な診断がついたら、その原因と症状に合わせて治療が開始されます。ここでは、代表的な治療法を紹介します。

外用薬による治療(ミノキシジルなど)

女性の薄毛治療において、最も基本となるのがミノキシジルを配合した外用薬(塗り薬)です。

ミノキシジルには毛母細胞を活性化させ、血流を改善することで発毛を促進し、髪の成長期間を延長させる働きがあります。日本皮膚科学会のガイドラインでも、FAGA治療において行うよう強く勧められています。

主な治療法の概要

治療法の種類主な内容期待される効果
外用薬ミノキシジルなどを頭皮に塗布する発毛促進、抜け毛抑制
内服薬スピロノラクトン、各種栄養補助薬などを服用するホルモンバランス調整、栄養補給
注入治療有効成分を頭皮に直接注入する発毛促進、頭皮環境改善

内服薬による治療(スピロノラクトン、サプリメントなど)

専門クリニックでは、内服薬(飲み薬)による治療も行われます。スピロノラクトンは男性ホルモンの働きを抑制する作用があり、FAGAの治療に用いられます。

また、血液検査の結果に基づき、鉄分や亜鉛、ビタミンなど、髪の成長に不足している栄養素を補うための医療用サプリメントが処方されることもあります。

注入治療(メソセラピーなど)

頭皮メソセラピーは、ミノキシジルや成長因子、ビタミン、アミノ酸などをブレンドした薬剤を、注射や特殊な機器を用いて頭皮に直接注入する治療法です。

有効成分を毛根に直接届けることができるため、高い効果が期待できます。痛みを伴うことがありますが、最近では痛みを軽減する工夫がされています。

物理的な治療法(低出力レーザーなど)

低出力レーザー治療は、特殊な波長の赤い光を頭皮に照射することで、細胞を活性化させ、血行を促進し、発毛を促す治療法です。

痛みはなく、副作用のリスクも非常に低いのが特徴で、他の治療と組み合わせて行うこともあります。家庭用の機器も市販されていますが、医療機関で使われるものは出力や効果が異なります。

よくある質問

最後に、女性の薄毛治療に関して多くの方が抱く疑問についてお答えします。

Q
治療を始めたらすぐに効果は出ますか
A

薄毛治療の効果を実感するには、ある程度の時間が必要です。髪の毛にはヘアサイクル(毛周期)があり、新しい髪が成長し、目に見える長さになるまでには時間がかかります。

一般的に、治療効果を感じ始めるまでには、早くても3ヶ月、通常は6ヶ月程度の継続が必要です。

Q
治療に健康保険は使えますか
A

原因となる疾患によって異なります。円形脱毛症や頭皮の皮膚炎など、医師が病気として診断した場合は健康保険が適用されます。

しかし、女性の薄毛で最も多いFAGAや、加齢によるびまん性の脱毛は、容姿を改善するという目的と見なされるため、健康保険は適用されず、自由診療(自費)です。

Q
費用はどのくらいかかりますか
A

保険診療の場合は、診察料と薬代を合わせて数千円程度が目安です。一方、自由診療の場合は、クリニックや治療内容によって大きく異なります。

内服薬や外用薬による治療であれば月々1万5千円から3万円程度、注入治療などを組み合わせるとさらに高額になります。

初回のカウンセリングで、治療内容ごとの詳細な見積もりを確認することが重要です。

Q
治療をやめたら元に戻ってしまいますか
A

FAGAなどの進行性の脱毛症の場合、治療をやめると、薬によって保たれていた状態が失われ、再び薄毛が進行し始める可能性があります。

治療効果を維持するためには、継続的なケアが必要となることが多いです。ただし、生活習慣の改善やホルモンバランスの安定などにより、状態が維持できる場合もあります。

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