髪のボリュームが減り地肌が透けて見えるようになると、鏡を見るたびに気持ちが沈んでしまうものです。

セルフケアでは限界を感じ、専門的な治療を考えたとき、女性専門の発毛外来やクリニックが選択肢に上がります。

しかし、実際にどのような治療を行い、どれくらいの費用がかかるのか、不安や疑問は尽きないでしょう。

この記事では、女性が発毛外来で受けることができる具体的な治療内容から、それぞれの費用の相場、そして信頼できるクリニックを選ぶためのポイントまで、詳しく解説します。

目次

女性の発毛外来とは?皮膚科や美容サロンとの違い

薄毛の悩みを解決したいと考えたとき、選択肢はいくつかあります。一般的な皮膚科、女性専門の発毛外来、そして美容サロン。似ているようで、役割や提供できるサービスには大きな違いがあります。

発毛外来の専門性と役割

女性の発毛外来は、女性の薄毛や抜け毛の治療を専門的に行う医療機関です。

最大の役割は、医師が医学的な根拠に基づいて薄毛の原因を正確に診断し、個々の患者さんに合わせた発毛治療を提案・実施することです。

ホルモンバランス、生活習慣、遺伝的要因などを多角的に分析し、内服薬や外用薬、頭皮への直接的なアプローチなど、医療機関でしか扱えない専門的な治療法で発毛を促し、毛髪を育てることを目指します。

一般的な皮膚科との診療範囲の違い

一般的な皮膚科でも、薄毛の相談は可能です。特に、円形脱毛症や頭皮の炎症など、明確な皮膚疾患が原因の場合は保険適用の治療を行います。

しかし、女性の薄毛で最も多い女性型脱毛症(FAGA)に関しては、皮膚科では基本的な治療(外用薬の処方など)に留まることも少なくありません。

一方、発毛外来や専門クリニックはFAGA治療を主軸としており、より積極的で多様な治療選択肢(自由診療)を持っている点が大きな違いです。

医療機関の種類と主な対応範囲

種類主な対応範囲主な治療
一般的な皮膚科皮膚疾患に伴う脱毛(円形脱毛症など)保険診療(ステロイド外用など)
女性発毛外来・クリニック女性型脱毛症(FAGA)など自由診療(内服薬、外用薬、注入治療など)

育毛サロンと医療機関(クリニック)の根本的な違い

発毛外来やクリニックは医師が在籍する医療機関ですが、育毛サロンは医療機関ではありません。この違いは決定的です。

育毛サロンで行うのは頭皮のマッサージや洗浄、育毛剤の塗布といった、あくまでも頭皮環境を整えるためのケアです。医薬品の使用や診断といった医療行為は一切できません。

発毛クリニックでは医師の診断のもと、発毛効果が医学的に認められた医薬品を用いた治療が可能です。髪を生やすことを目的とするなら、医療機関であるクリニックを選択することが大前提となります。

発毛外来での初診の流れと検査内容

発毛外来では、どのようなことが行われるのでしょうか。事前に流れを知っておくことで、リラックスして臨めます。

専門医による詳細なカウンセリング

診察は、まず医師による丁寧なカウンセリングから始まります。

いつから薄毛が気になり始めたか、抜け毛の量、生活習慣、食生活、ストレスの有無、過去の病歴や服薬歴、そしてご家族の髪の状態など、多岐にわたる質問を通して薄毛の原因を探る手がかりを集めます。

カウンセリングは画一的な治療ではなく、治療計画を立てるための非常に重要な時間です。どんな些細なことでも、不安に思っていることは遠慮なく相談しましょう。

マイクロスコープによる頭皮・毛髪の診察

カウンセリングの後はマイクロスコープという特殊な拡大鏡を使って、頭皮や毛髪の状態を詳細に観察します。

肉眼では見えない毛穴の詰まり具合、頭皮の色や炎症の有無、髪の毛の太さ、一本の毛穴から生えている髪の本数などをチェックします。

客観的なデータにより、現在の頭皮環境がどのような状態にあるのか、FAGAに特徴的な髪の軟毛化が進んでいないかなどを正確に評価できます。

マイクロスコープで分かること

観察項目評価内容
頭皮の色健康な頭皮(青白い)か、血行不良(茶色)、炎症(赤い)か。
毛穴の状態皮脂や角質で詰まっていないか。
髪の太さと密度細く弱々しい毛(軟毛)が多くないか、全体の密度はどうか。

薄毛の原因を探る血液検査

女性の薄毛は、体の内側の不調が原因となっていることも少なくないため、多くの発毛外来では血液検査を実施します。

検査により、甲状腺ホルモンの異常や、髪の成長に不可欠な鉄分(フェリチン値で評価)、亜鉛などの栄養素の不足がないかを調べます。

もし数値に異常が見つかれば、まずその治療を優先することが、発毛への近道です。

女性の発毛を促す主な内服薬治療

女性の発毛外来で行われる治療の中心となるのが、内服薬によるアプローチです。

体の内側から薄毛の原因に働きかけたり、髪の成長に必要な栄養を届けたりすることで、発毛を促し、健康な髪を育てていきます。

スピロノラクトンによるホルモンアプローチ

女性型脱毛症(FAGA)の要因の一つに、男性ホルモンの影響が挙げられます。

スピロノラクトンは、もともとは高血圧の治療などに使う利尿薬ですが、男性ホルモン(アンドロゲン)が毛根の受容体と結合するのをブロックする作用があります。

この作用を利用して、男性ホルモンによる脱毛の指令を止め、抜け毛を抑制し、ヘアサイクルを正常な状態に戻すことを目指します。医師の処方が必要な医療用医薬品です。

ミノキシジル内服薬(ミノタブ)の作用と注意点

ミノキシジルは、血管を拡張させて血流を促進する作用があり、もともとは高血圧の治療薬として開発されました。

服用することで頭皮の毛細血管の血流が改善され、毛母細胞が活性化されることで、強力な発毛効果が期待できます。

高い効果が期待できる一方、初期脱毛や、全身の多毛、むくみなどの副作用の可能性があるため、必ず医師の厳密な管理のもとで使用する必要があります。

主な内服薬治療の概要

薬剤名主な作用期待できる効果
スピロノラクトン抗アンドロゲン作用抜け毛の抑制、ヘアサイクルの正常化
ミノキシジル(内服)血管拡張、血流促進強力な発毛促進
栄養補助サプリメント髪に必要な栄養素の補給毛髪の質の改善、健やかな髪の育成

髪の栄養を補う医療用サプリメント(パントガールなど)

髪の毛はタンパク質の一種であるケラチンを主成分とし、成長には様々なビタミンやミネラルが必要です。発毛外来では栄養素をバランス良く配合した、医療機関専売のサプリメントを処方することがあります。

代表的なものに、パントテン酸カルシウムやケラチン、アミノ酸などを含むパントガールがあります。

これは、びまん性脱毛症の治療薬として承認されている国もあり、髪に栄養を与えることで、毛髪の質を改善し抜けにくく、強く健康な髪を育てる土台を作ります。

内服薬治療の費用相場と期間

これらの内服薬治療は、自由診療となります。費用はクリニックや処方内容によって異なりますが、一般的に1ヶ月あたり15,000円から25,000円程度が相場です。

治療期間は、効果を実感するまでに少なくとも6ヶ月は必要で、良い状態を維持するためには継続的な服用が基本となります。

直接頭皮に働きかける外用薬・注入治療

内服薬による内側からのアプローチに加え、体の外から直接頭皮に働きかける治療を組み合わせることで、より高い発毛効果が期待できます。

発毛外来では、高濃度の外用薬や、有効成分を直接頭皮に届ける注入治療などが選択肢です。

高濃度ミノキシジル外用薬の効果

発毛成分として日本で唯一承認されているミノキシジルは、市販の女性用育毛剤では濃度が1%までと定められています。

しかし、医療機関である発毛クリニックでは、医師の判断と責任のもとで、より高濃度のミノキシジルを配合したオリジナルの外用薬を処方することが可能です。

濃度が高いほど、毛母細胞を活性化させる効果も高まる傾向にあり、内服薬との併用で相乗効果が期待できます。

頭皮への注入療法(メソセラピー)とは

発毛メソセラピーは発毛を促進するための有効成分を、注射や特殊な機器を用いて、頭皮の深層部(毛根の周辺)に直接注入する治療法です。

内服薬や外用薬のように、血流に乗ったり皮膚から浸透したりするのを待つのではなく、有効成分をダイレクトに届けられるため、より早く高い効果が期待できるのが特徴です。

痛みを伴うことがありますが、冷却や麻酔クリームなどで痛みを緩和する工夫がされています。

注入療法の主な手法

手法特徴
注射器による注入医師が手作業で、狙った場所に確実に薬剤を注入する。
ダーマペン・メソガン極細の針がついた機器で、広範囲に均一かつスピーディーに注入する。
ノーニードル法電気の力を利用して、針を使わずに薬剤を浸透させる。痛みがほとんどない。

注入される薬剤の成分(成長因子など)

注入療法で用いられる薬剤はクリニックによって様々ですが、中心となるのは成長因子(グロースファクター)です。

成長因子とは、体内で細胞の増殖や分化をコントロールするタンパク質の総称で、毛母細胞を活性化させたり、新たな血管の生成を促したりする働きを持つものが選ばれます。

代表的なものに、KGF(ケラチノサイト成長因子)やIGF(インスリン様成長因子)などがあります。

このほか、ミノキシジルや各種ビタミン、アミノ酸などをブレンドした、クリニック独自のカクテル薬剤を使用することも多いです。

外用・注入治療の費用と治療ペース

高濃度ミノキシジル外用薬は、1ヶ月分で10,000円から20,000円程度が相場です。注入療法は、1回あたり30,000円から80,000円程度と高額になります。

治療ペースは、初期は2週間から1ヶ月に1回、その後は状態を見ながら間隔を空けていくのが一般的です。

新しいアプローチとしての光・レーザー治療

近年、薬剤を用いる治療に加えて、特定の波長の光やレーザーを頭皮に照射することで発毛を促す、新しい治療法も注目されています。

痛みや副作用のリスクが非常に少ないため、他の治療と組み合わせることで、より安全で効果的なアプローチが可能です。

低出力レーザー治療の仕組み

低出力レーザー治療は、安全なレベルの弱いレーザー光を頭皮に照射する治療法です。

レーザー光が毛根の細胞内にあるミトコンドリアに作用し、細胞のエネルギー源であるATPの産生を活性化させ毛母細胞の働きが活発になり、休止期にあった髪が成長期へと移行しやすくなることで、発毛が促進されます。

LED(発光ダイオード)治療の役割

LED治療も、光のエネルギーを利用する点で低出力レーザーと似ています。

特定の波長の赤色LED光を頭皮に照射することで、血行を促進したり毛母細胞を活性化させたり、炎症を抑制したりする効果が報告されています。

レーザーに比べて、より広範囲に穏やかに作用するのが特徴で、痛みや熱さを感じることはなく安全性の高い治療法です。

光・レーザー治療の比較

治療法主な作用特徴
低出力レーザー治療細胞(ミトコンドリア)の活性化FDA承認。発毛促進効果が認められている。
LED治療血行促進、細胞活性化、抗炎症作用広範囲に穏やかに作用。安全性が高い。

他の治療との組み合わせ(コンビネーション治療)

光・レーザー治療は、単独で行うよりも、内服薬や外用薬、注入療法といった基本的な治療と組み合わせる(コンビネーション治療)ことで、真価を発揮します。

基本的な治療で発毛の土台を作りながら、光・レーザー治療で細胞レベルからの活性化を後押しすることで、相乗効果が生まれ、より早く確実な治療効果につながることが期待されます。

女性の薄毛治療にかかる費用の全体像

発毛外来での治療を検討する上で、費用は最も気になる点の一つです。ここでは、治療にかかる費用の全体像を、初期費用から月々の費用、そして長期的な視点まで含めて整理します。

自由診療となる理由と費用構造

女性型脱毛症(FAGA)の治療は、容姿の向上を目的とした美容医療に分類されるため、公的医療保険が適用されない自由診療で、費用は全額自己負担です。

費用は主に、初診・再診料、検査料、薬剤費(内服薬・外用薬)や施術費(注入療法など)から構成されます。

治療法別の費用比較(内服・外用・注入)

最も基本的な治療は内服薬や外用薬で、組み合わせた場合、月々の費用は20,000円から35,000円程度が一般的です。

より積極的な治療である注入療法を加えると、1回あたり30,000円から80,000円が追加でかかります。ご自身の予算と、どこまでの効果を望むかを医師と相談しながら、治療計画を立てることが重要です。

治療内容と月額費用の関係(モデルケース)

治療プラン内容月額費用目安
基本プラン内服薬+外用薬20,000円~35,000円
標準プラン基本プラン+注入療法(月1回)50,000円~115,000円
総合プラン標準プラン+光治療など上記にさらに追加

初診から治療開始までにかかる初期費用

治療を開始する初月には月々の治療費に加えて、初診料や検査料がかかります。

クリニックによって異なりますが、初診カウンセリング料が5,000円~10,000円、血液検査料が10,000円~15,000円程度かかることがあります。

初月は、通常の治療費に加えて20,000円程度の初期費用を見込んでおくと良いでしょう。

長期的な視点でのトータルコストの考え方

薄毛治療は、長期間にわたる継続が基本のため、月々の費用だけでなく、半年後、1年後に総額でいくらかかるのかという視点を持つことが大切です。

多くのクリニックでは、複数月分の治療をまとめて契約することで、1ヶ月あたりの費用が割引になるプランを用意しています。

目先の安さだけでなく、治療内容と費用のバランス、そしてご自身が無理なく続けられる支払い計画かどうかを総合的に判断しましょう。

よくある質問

女性の発毛外来での治療に関して、多くの方が抱く疑問や不安についてお答えします。治療への一歩を踏み出す前の参考にしてください。

Q
治療を始めたら、どのくらいで効果を実感できますか
A

治療開始後3ヶ月ほどで抜け毛の減少などの初期変化を感じ始め、6ヶ月から1年ほどで見た目にも明らかな発毛効果(髪の密度の増加や太さの改善)を実感される方が多いです。

髪には成長サイクルがあるため、効果を実感するにはある程度の時間が必要なので、焦らず、医師の指示に従って根気強く治療を続けましょう。

Q
治療に痛みや大きな副作用はありますか
A

内服薬や外用薬、光治療などは、基本的に痛みを伴いません。

注入療法(メソセラピー)は注射による痛みを伴いますが、多くのクリニックでは麻酔クリームや冷却などで痛みを最小限に抑える工夫をしています。

副作用はどの治療法にも起こる可能性はゼロではありませんが、医師が患者さんの体質や健康状態を把握し、厳密な管理のもとで治療を行うため、重篤な副作用が起こることはまれです。

診察の際に、考えられる副作用については詳しい説明がありますので、不安な点はすべて確認してください。

Q
治療をやめたら元に戻ってしまいますか
A

FAGAのように体質や加齢が主な原因である薄毛の場合、治療を完全に中止すると、残念ながら少しずつ元の状態に戻っていく可能性があります。

治療は薄毛になる体質そのものを変えるのではなく、発毛を促し進行を抑えるためのものだからです。

治療によって髪の状態が十分に改善した後は、医師と相談しながら薬の量や種類を調整したり、通院間隔を空けたりと、良い状態を維持するための治療(維持療法)に移行していきます。

Q
治療費は医療費控除の対象になりますか
A

女性の発毛外来で受けるFAGA治療は、容姿の向上を目的とした美容医療と見なされるため、原則として医療費控除の対象にはなりません。これは、病気の治療ではないと判断されるためです。

ただし、医師の診察の結果、円形脱毛症など他の保険適用疾患が見つかり治療が行われた場合は、その部分の費用は医療費控除の対象となります。

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