シャンプーのたびに排水溝に溜まる髪の毛や、ブラッシングでブラシにつく抜け毛の量に、不安を感じていませんか。

抜け毛が増えると、どの病院の何科に行けば良いのか分からず、一人で悩みを抱え込んでしまう女性は少なくありません。

この記事では、抜け毛に悩む女性が最初に相談すべき診療科から行われる診察内容、そして考えられる原因までを詳しく解説します。

女性の抜け毛 なぜ医療機関への相談が重要か

抜け毛は誰にでも起こる自然な現象ですが、量や質がいつもと違うと感じたときは、体からの何らかのサインかもしれません。

女性の抜け毛は、様々な要因が隠れていることがあり、安易な自己判断は禁物です。

抜け毛の背後に隠された病気の可能性

抜け毛の増加は単なるヘアサイクルの乱れだけでなく、何らかの病気が原因となっている場合があります。

、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能の異常、膠原病といった全身性の疾患が、脱毛の症状として現れることがあり、また、頭皮自体の疾患、脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎なども抜け毛の原因です。

このような場合原因となる病気の治療を行わない限り、抜け毛は改善しません。

自己判断によるケアのリスク

インターネットや雑誌には、抜け毛対策に関する情報が溢れていますが、情報が必ずしもご自身の状態に合っているとは限りません。

原因が異なるのに、間違った育毛剤やサプリメントを使い続けると、効果がないばかりか頭皮の状態を悪化させてしまう可能性もあります。

乾燥が原因なのに皮脂抑制効果の強い製品を使ったり、アレルギーがある成分の入ったものを使ったりすると、頭皮のかぶれや炎症を起こすことがあるので注意が必要です。

早期診断・早期治療のメリット

多くの脱毛症は早期に治療を開始するほど、改善の効果が高まります。特に、進行性の脱毛症である女性型脱毛症(FAGA)などは、放置すると髪の毛が細く少なくなり続け、回復が難しくなることがあります。

毛根の機能が完全に失われてしまう前に治療を始めることが、髪の状態を維持し、改善させる上で非常に重要です。

抜け毛が気になり始めたら、なるべく早い段階で医療機関を受診することが、時間的にも費用的にも負担が軽く済みます。

医療機関を受診するタイミングの目安

項目具体的な状態
抜け毛の量1日の抜け毛が150本以上続く、明らかに以前より増えた。
髪質の変化髪が細く、弱々しくなった。ハリやコシがなくなった。
頭皮の状態地肌が透けて見える、分け目が広がった、特定の箇所だけ抜ける。
その他の症状頭皮のかゆみ、フケ、赤み、痛みや、全身の倦怠感などがある。

抜け毛の悩みはまず皮膚科へ相談を

抜け毛が気になったとき多くの人が最初に悩むのが、何科を受診すれば良いのかという点ですが、髪や頭皮のトラブルは、まず皮膚科の専門領域です。

なぜ皮膚科が最初の相談先として適しているのか、理由を詳しく見ていきましょう。

皮膚科が髪と頭皮の専門家である理由

髪の毛は医学的には皮膚の一部、皮膚付属器として分類され、爪や汗腺などと同じ仲間です。

そのため、髪と土台である頭皮の構造や機能、そして関連する病気について最も専門的な知識を持っているのが皮膚科医です。

皮膚科では、ニキビやアトピー性皮膚炎など一般的な皮膚疾患と同様に、脱毛症も専門的に扱います。

一般的な皮膚科で受けられる診療

多くの一般的な皮膚科クリニックでは、抜け毛や薄毛に関する相談が可能です。医師が頭皮の状態を直接診察し必要に応じて検査を行い、脱毛症の診断をします。

診断結果に基づいて、塗り薬や飲み薬の処方、生活指導などを行います。まずは身近な皮膚科、かかりつけの皮膚科に相談してみるのが良いでしょう。

対応が難しい特殊なケースや、より専門的な治療が必要と判断された場合には、大学病院や専門クリニックを紹介してもらうこともできます。

皮膚科で相談できる主な髪の悩み

  • びまん性脱毛(全体のボリューム低下)
  • 円形脱毛症
  • 牽引性脱毛症
  • 脂漏性皮膚炎に伴う脱毛
  • その他、原因不明の抜け毛

女性の抜け毛に理解のある皮膚科医

近年、女性の薄毛の悩みが増加していることから、女性の脱毛症治療に力を入れている皮膚科医も増えています。

女性の抜け毛は、ホルモンバランスの変動やライフスタイルの変化など、男性とは異なるデリケートな問題が関わっているので、女性患者への対応に慣れ、親身に相談に乗ってくれる医師を見つけることが大切です。

他の診療科との違い

抜け毛の相談先として、美容外科や内科などを考える方もいるかもしれません。美容外科は主に植毛など外科的なアプローチが中心であり、内科は全身疾患が疑われる場合の窓口となります。

しかし、抜け毛の原因を特定し、皮膚科学に基づいた治療の第一歩を踏み出すには、やはり皮膚科が最も適した診療科です。

皮膚科ではどのような診察や検査をするのか

実際に皮膚科を受診したら、どのようなことが行われるのでしょうか。問診から検査、診断に至るまでの一般的な流れを把握しておきましょう。

丁寧な問診の重要性

診察はまず問診から始まり、医師は抜け毛に関する情報だけでなく、生活全般に関する様々な質問を通して、原因を探るための手がかりを得ようとします。

いつから抜け毛が気になり始めたか、どのような状況で抜けるか、頭皮にかゆみや痛みはあるか、食生活、睡眠時間、ストレスの有無、既往歴、服用中の薬、月経周期や妊娠・出産の経緯なども重要な情報です。

問診で伝えるべきことのまとめ

カテゴリ伝えるべき内容の例
抜け毛について始まった時期、量、抜ける場所、抜けた毛の状態。
頭皮の状態かゆみ、フケ、赤み、湿疹、痛みなどの有無。
生活習慣食事、睡眠、喫煙・飲酒の習慣、ストレスの状況。
女性特有の情報月経周期、妊娠・出産経験、婦人科系の疾患の有無。
その他既往歴、現在服用中の薬やサプリメント、家族の病歴。

視診とダーモスコピー検査

問診の後は、医師が直接頭皮と髪の状態を観察する視診が行われます。

脱毛の範囲やパターン、頭皮の色、毛穴の状態、フケや炎症の有無などを詳しくチェックし、このとき、ダーモスコピー(またはマイクロスコープ)という特殊な拡大鏡を用いることがあります。

ダーモスコピーは肉眼では見えない毛穴の詰まり具合や、髪の毛の太さの変化、頭皮の血管の状態などを詳細に観察でき、より正確な診断に役立ちます。

原因特定のための血液検査

抜け毛の原因として体内の異常が疑われる場合には、血液検査を行います。鉄欠乏性貧血の指標となるフェリチン値、甲状腺機能を示すホルモン値(TSH, FT3, FT4)、自己免疫疾患に関連する抗体などを調べます。

検査結果から、抜け毛が全身性の疾患によるものではないかを確認し、もし異常が見つかれば、病気の治療を優先しす。

その他の検査(引っ張り試験など)

医師が必要と判断した場合には、その他の検査が行われることもあります。

引っ張り試験(プルテスト)は医師が数十本の毛束を軽く引っ張り、どのくらいの毛が簡単に抜けるかを調べることで、活動性の脱毛があるかどうかを判断する簡単な検査です。

また、まれに頭皮の一部を小さく採取して病理組織を調べる皮膚生検が行われることもあり、診断が困難な難治性の脱毛症の場合などに検討されます。

皮膚科で診断される女性の主な脱毛症

皮膚科での診察と検査を経て、抜け毛の原因となっている脱毛症の診断が下されます。女性に見られる脱毛症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や症状、治療法が異なります。

女性型脱毛症(FAGA)

女性の薄毛で最も多いのが、女性型脱毛症(FAGA: Female Androgenetic Alopecia)です。

加齢やホルモンバランスの変化により髪の毛の成長期が短くなり、髪が細く、短く(軟毛化)なることで、頭部全体のボリュームが失われます。

頭頂部の分け目を中心に地肌が透けて見えるようになるのが典型的なパターンで、進行性のため、早期からの治療が重要です。

びまん性脱毛症

びまん性脱毛症は、特定の部位だけでなく、頭部全体の髪の毛が均等に薄くなる状態です。

FAGAも広義にはびまん性脱毛症に含まれますが、それ以外にも、栄養障害、ストレス、急激なダイエット、薬剤の影響など、様々な原因で起こります。

原因が多岐にわたるため、原因を特定し、それを取り除くことが治療の基本です。

女性に多い脱毛症の種類と特徴

脱毛症の名称主な原因症状の特徴
女性型脱毛症(FAGA)ホルモンバランスの変化、遺伝的要因頭頂部を中心に髪が細くなり、全体的に薄くなる。
円形脱毛症自己免疫疾患、ストレス、遺伝的要因円形または楕円形の脱毛斑が突然生じる。
牽引性脱毛症髪を強く引っ張るヘアスタイル生え際や分け目など、髪が引っ張られる部分が薄くなる。
脂漏性脱毛症皮脂の過剰分泌、マラセチア菌の増殖フケやかゆみを伴い、頭皮の炎症によって脱毛する。

円形脱毛症

円形脱毛症は、年齢や性別を問わず発症する自己免疫疾患の一つです。免疫系の異常により、リンパ球が自身の毛根を攻撃してしまい、髪の毛が抜けてしまいます。

コインのような円形の脱毛斑が突然現れるのが特徴ですが、頭部全体に広がるものや、眉毛やまつ毛など体毛に及ぶものまで、症状は様々です。アトピー素因やストレスが関与することもあります。

牽引性脱毛症や脂漏性脱毛症など

牽引性脱毛症は、ポニーテールやきついお団子ヘアなど特定の髪型を長時間続けることで、毛根に物理的な負担がかかり、生え際や分け目の髪が抜けてしまう状態です。

原因がはっきりしているため、髪型を変えることで改善が見込めます。

脂漏性脱毛症は皮脂の過剰な分泌によって頭皮環境が悪化し、炎症が起こることで抜け毛が増える状態、フケやかゆみ、赤みを伴うことが多く、シャンプーや薬剤で頭皮の炎症を抑える治療が必要です。

皮膚科以外の選択肢 女性薄毛専門クリニック

一般的な皮膚科に加えて、近年では女性の薄毛治療を専門的に扱うクリニックも増えています。専門クリニックは、一般的な皮膚科とは異なる特徴や利点があります。

専門クリニックの特徴と利点

女性薄毛専門クリニックの最大の利点は、女性の薄毛に関する診断と治療の経験が非常に豊富であることです。医師やスタッフ全員が女性の悩みに深く精通しており、きめ細やかな配慮が期待できます。

また、一般的な皮膚科では行っていないような、より多彩な治療選択肢(内服薬、外用薬、注入治療、光治療など)が用意されていることが多く、一人ひとりの症状や希望に合わせたオーダーメイドに近い治療を提案してもらえます。

一般的な皮膚科と専門クリニックの比較

項目一般的な皮膚科女性薄毛専門クリニック
アクセスのしやすさ身近な場所にあり、受診しやすい。都市部に集中していることが多い。
治療の選択肢保険診療が中心。基本的な治療が主。自由診療が中心。多彩な治療法がある。
費用保険適用であれば比較的安価。自由診療のため、費用は高額になる傾向。
専門性皮膚疾患全般を扱う。女性の薄毛に特化しており、症例が豊富。

自由診療が中心となる治療内容

専門クリニックで行われる治療の多くは、健康保険が適用されない自由診療となります。

これは、女性の薄毛(FAGAなど)が、生命に直接関わる病気ではなく、容姿を改善するための美容的な側面が強いと見なされるためです。

自由診療では、ミノキシジル外用薬の高濃度処方や、海外では承認されている内服薬の使用、成長因子を頭皮に直接注入する治療など、より積極的なアプローチが可能になります。

どのような人が専門クリニックに向いているか

専門クリニックは、一般的な皮膚科での治療で満足のいく効果が得られなかった方や、最初からより専門的で包括的な治療を望む方に向いています。

また、薄毛の悩みを他の患者さんに聞かれたくない、プライベートな環境でじっくり相談したいという方にも適しています。

ただし、治療費は高額になる傾向があるため、費用面についてもしっかりと検討した上で選択することが大切です。

婦人科や内科など他の診療科との連携

抜け毛の原因は、必ずしも頭皮や髪だけの問題とは限りません。体の内側の不調が、髪の毛という形でサインを出していることもあります。

そのような場合、皮膚科だけでなく、他の診療科と連携して治療を進めることが重要です。

ホルモンバランスの乱れと婦人科

月経不順や更年期障害など、女性ホルモンのバランスが大きく乱れていることが抜け毛の背景にある場合、婦人科での治療が必要になることがあります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの疾患では、男性ホルモンが過剰になることでニキビや多毛と同時に、頭髪の脱毛が見られることがあります。

皮膚科の診察でホルモン系の異常が疑われた場合、婦人科への受診を勧められ、婦人科では、ホルモン補充療法や低用量ピルなどを用いて、ホルモンバランスの正常化を図ります。

全身疾患が疑われる場合の内科

血液検査の結果、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能の異常(亢進症・低下症)、膠原病などが発見された場合は、内科での専門的な治療が優先されます。

このような疾患は、抜け毛以外にも、倦怠感、動悸、体重の変化、関節痛など、様々な全身症状を伴うことがあります。

原因となっている全身疾患の治療を進めることで、抜け毛の症状も改善していきます。

抜け毛に関連する他の診療科

診療科関連する可能性のある状態・疾患
婦人科月経不順、更年期障害、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
内科鉄欠乏性貧血、甲状腺機能異常、膠原病
心療内科・精神科重度のストレス、うつ病、抜毛症(トリコチロマニア)

ストレスや精神的な要因と心療内科

過度なストレスが原因で抜け毛が増えることは、よく知られています。

ストレスが深刻で、うつ病や不安障害などの精神的な不調につながっている場合や、自分で髪の毛を抜いてしまう抜毛症(トリコチロマニア)の場合は、心療内科や精神科でのケアが必要です。

心の状態が安定し、ストレスが軽減されることで、髪の状態も改善に向かうことが期待できます。

よくある質問

最後に、女性が抜け毛で医療機関を受診するにあたり、多くの方が抱く疑問についてお答えします。不安を解消し、安心して第一歩を踏み出しましょう。

Q
皮膚科に行ったら、すぐに治療が始まりますか
A

通常、初診でいきなり治療を開始することは稀です。まずは問診、視診、そして必要に応じて検査を行い、抜け毛の原因を正確に診断することが最優先されます。

診断が確定し、患者さん自身が治療内容について十分に理解・納得した上で、治療が開始されます。

血液検査などを行った場合は、その結果が出るまでに1週間程度かかるため、次回の診察から具体的な治療が始まるのが一般的です。

Q
抜毛の治療は保険が効きますか?
A

円形脱毛症や脂漏性皮膚炎など、病名がはっきりしている疾患の治療には、健康保険が適用され、窓口での自己負担は医療費全体の1割から3割です。

女性型脱毛症(FAGA)の治療は美容的な側面が強いとされ、多くの場合保険が適用されない自由診療となります。

自由診療の場合は全額自己負担となり、費用はクリニックによって様々です。

Q
待合室は男性と一緒ですか?
A

薄毛の悩みを抱えるクリニックの待合室で、男性患者と一緒になることに抵抗を感じる女性は少なくありません。

この点に配慮し、女性薄毛専門クリニックの多くは、待合室を男女で分けたり、完全に個室で対応したりするなどの工夫をしています。

一般的な皮膚科でも、予約システムを導入して待ち時間を短縮したり、プライバシーに配慮したレイアウトにしたりしているところもあります。

気になる場合は、事前にクリニックのウェブサイトを確認したり、電話で問い合わせてみると良いでしょう。

参考文献

Singal A, Sonthalia S, Verma P. Female pattern hair loss. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology. 2013 Sep 1;79:626.

Shapiro J. Hair loss in women. New England Journal of Medicine. 2007 Oct 18;357(16):1620-30.

Carmina E, Azziz R, Bergfeld W, Escobar-Morreale HF, Futterweit W, Huddleston H, Lobo R, Olsen E. Female pattern hair loss and androgen excess: a report from the multidisciplinary androgen excess and PCOS committee. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2019 Jul;104(7):2875-91.

Works HP, NY N, Rupa O, Patient FA. A Functional Medicine Approach to Addressing Hair Loss in Women. Women’s Health. 2023 Sep 8.

Owecka B, Tomaszewska A, Dobrzeniecki K, Owecki M. The Hormonal Background of Hair Loss in Non-Scarring Alopecias. Biomedicines. 2024 Feb 24;12(3):513.

Rushton DH. Nutritional factors and hair loss. Clinical and experimental dermatology. 2002 Jul 1;27(5):396-404.

Price VH. Treatment of hair loss. New England Journal of Medicine. 1999 Sep 23;341(13):964-73.