薄毛に悩む女性にとって、自毛植毛は根本的な解決策の一つとして注目されています。中でも「ロボット植毛」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

これは、医療用ロボットを用いて毛髪を採取する先進的な手法です。人の手による作業をロボットが代替することで、正確かつ効率的な施術が期待されます。

しかし、その一方で、費用やデザイン性、女性特有の薄毛の症状との相性など、事前に知っておくべき点も少なくありません。

この記事では、ロボット植毛の基本から、そのメリット・デメリット、そしてなぜ現段階では慎重な検討が必要なのかを、専門的な視点から詳しく解説します。

ロボット植毛とは何か – 医療用ロボットによる自毛植毛の基本

女性のロボット植毛の基本図解(ドナー採取から移植までの流れ)

近年、医療分野でも技術革新が進み、自毛植毛の世界にもロボットが導入されるようになりました。

ロボット植毛は、後頭部や側頭部から移植する毛髪(グラフト)を採取する工程を、ロボットアームが担う点が最大の特徴です。これにより、施術者の身体的な負担を軽減し、一定の品質でグラフトを採取することを目指します。

特に「ARTAS(アルタス)」という医療用ロボットが有名で、ロボット植毛の代名詞として知られています。

しかし、全ての工程をロボットが自動で行うわけではなく、デザインや植え付けといった重要な部分は、これまで通り医師の手作業に委ねられます。

ARTAS(アルタス)の役割

ARTASロボットの構成イメージ(カメラ・AI・ロボットアーム・コンソール)

ロボット植毛の代表的なシステム

ARTASは、自毛植毛のために開発されたロボットシステムです。

高解像度カメラとAI技術を用いて、ドナー(毛髪を採取する部位)から健康的で質の良い毛包を自動で選別し、精密なアームで一つひとつくり抜いていきます。

毛髪の角度、向き、密度などを瞬時に計算し、周辺の毛包を傷つけないように採取するようプログラムされています。この技術により、人的なミスを減らし、安定したグラフト採取が可能になるとされています。

ただし、ARTASができるのはあくまで「採取」と「スリット(植え付け用の穴)作成」の一部であり、治療全体の成果を保証するものではありません。

自毛植毛におけるロボットの機能

ロボットと医師の役割分担(採取=ロボット/デザイン・植え付け=医師)

医師の補助としての位置づけ

ロボット植毛というと、全自動で手術が行われるイメージを持つかもしれませんが、現状では医師の補助的な役割を担う存在です。

グラフト採取という、非常に繊細で集中力を要する作業をロボットが代行することで、医師はよりクリエイティブな部分、つまり患者様一人ひとりの顔立ちや希望に合わせた生え際のデザインや、採取したグラフトをどの角度でどの密度で植え付けるか、といった芸術的なセンスが問われる工程に集中できる、という考え方もあります。

ロボットはあくまでツールであり、それをどう使いこなし、最終的な仕上がりまで導くかは、担当する医師の経験と技術に大きく依存します。

女性の薄毛治療としての選択肢

生え際のデザインとロボットの限界

女性の薄毛治療では、特に生え際の自然さが強く求められます。産毛のような細い毛を配置したり、柔らかな曲線を描いたりするなど、非常に繊細なデザインが必要です。

現在のロボット技術では、このような微妙なニュアンスを完全に再現するのは難しいとされています。

ロボットはプログラムされた通りに均一な作業を行うことは得意ですが、個々の状態に合わせた柔軟な対応や芸術的な表現は、熟練した医師の手に勝るものではありません。

そのため、女性がロボット植毛を検討する際には、特にデザイン面での限界を理解しておくことが重要です。

多くの症例では、経験豊富な医師による手作業の方が、より満足度の高い結果につながる可能性があります。

ロボット植毛の仕組みと施術プロセス

ロボット植毛がどのような流れで進むのか、その具体的な内容を理解することは、治療を選択する上で大切です。

カウンセリングから始まり、ロボットによるグラフト採取、そして医師による植え付けまで、各段階で何が行われるのかを知ることで、不安を解消し、納得のいく治療を受けられます。

ここでは、ARTASを用いた一般的な施術の流れと、その中心となるグラフト採取の自動化について解説します。

施術全体の流れ

ロボット植毛の施術フロー(カウンセリングからアフターケアまで)

カウンセリングからアフターケアまで

ロボット植毛も、基本的な流れは従来の手作業による自毛植毛と大きくは変わりません。

まず、医師によるカウンセリングで頭皮の状態を診察し、ロボット植毛が適しているか、何グラフト必要かなどを判断します。

その後、施術日を決定し、当日はデザインの最終確認、麻酔、そしてロボットによるグラフト採取へと進みます。採取が終わると、次に医師と看護師が手作業でグラフトを植え付けていきます。

施術後は、クリニックでの経過観察と、自宅でのセルフケアが必要です。

ARTAS植毛の一般的な流れ

段階主な内容担当
カウンセリング・診察頭皮状態の確認、デザインの相談、費用や料金の説明医師・カウンセラー
施術当日デザイン確定、麻酔、ドナー部の剃毛(部分的な刈り上げ)医師・看護師
グラフト採取ARTASが毛髪の状態を分析し、ロボットアームで採取ロボット(医師が監視)
グラフトの植え付け採取したグラフトを、医師が手作業で移植部に植え付ける医師・看護師
アフターケア術後の経過観察、自宅でのケア方法の指導医師・看護師

グラフト採取の自動化

ARTASによるドナー株の選定

ロボット植毛の核となるのが、このグラフト採取の工程です。ARTASは、まずドナーとなる後頭部の毛髪をデジタルカメラで撮影し、それぞれの毛包の位置、角度、密度、本数などを詳細に分析します。

そのデータに基づき、AIが移植に適した健康なグラフトだけを瞬時に選別します。

そして、医師が設定したプログラムに従い、ロボットアームの先端についた極細のパンチ(刃)で、選ばれたグラフトを一つひとつ丁寧にくり抜いていきます。

この一連の作業を、人間には不可能な速度と精度で、長時間にわたって安定して行えるのがロボットの強みとされています。

移植ホールの作成

ロボットか医師かを選択できる場合も

グラフトを植え付けるためには、まず移植先にスリットと呼ばれる小さな穴を作成する必要があります。ARTASには、このスリット作成機能も搭載されています。

ロボットが事前に計画された密度や配置通りに、均一な深さと角度でスリットを作成することができます。

ただし、この工程も医師が手作業で行うクリニックがほとんどです。なぜなら、生え際などの部位では、毛の向きや流れを自然に見せるために、一本一本スリットの角度を微妙に変える必要があるからです。

この微調整は、やはり人間の医師の経験と感覚が重要になる部分であり、ロボットによる画一的なスリット作成では、のっぺりとした不自然な仕上がりになるリスクがあります。

医療用ロボットが実現する毛髪採取の精度

ロボット植毛を語る上で、その「精度」は最も注目される点の一つです。

デジタル技術を駆使して毛髪の状態を正確に分析し、ミクロン単位の精密な動きでグラフトを採取する能力は、人間の手作業にはない利点とされています。

この精度が、グラフトの切断率を下げ、ドナー部の傷跡を目立ちにくくすることにつながると期待されています。

ここでは、ロボットがいかにして高い精度を実現しているのか、その技術的な側面に焦点を当てて解説します。

デジタルイメージングによる分析

毛髪角度・密度のデジタル解析(頭皮断面で示すARTASの認識)

毛髪の角度や密度を正確に把握

ARTASは、複数の高解像度デジタルカメラを用いて、ドナー部の頭皮を立体的にマッピングします。

これにより、肉眼では捉えきれない個々の毛髪の生えている角度、皮膚表面下の毛根の向き、周辺の毛髪との距離などを、0.1mm以下の精度で把握します。

AIがこれらの情報をリアルタイムで解析し、採取に最適なグラフトを特定すると同時に、パンチをどの角度で、どの深さまで入れるべきかを瞬時に計算します。

このデジタルガイドにより、毛根を傷つける(切断する)リスクを最小限に抑え、質の高いグラフトを効率的に採取することを目指します。

均一なグラフト採取

均一なグラフト採取による傷跡分散と採りすぎ防止(パターン比較)

傷跡を目立ちにくくする技術

手作業によるFUE法では、長時間にわたる集中力と高い技術が求められ、施術者の疲労がパフォーマンスに影響する可能性もゼロではありません。

一方、ロボットは疲れることなく、設定されたプログラム通りに、終始一貫した品質でグラフトを採取し続けます。

採取するグラフトの間隔を均等に保ち、特定の領域から採りすぎることを防ぐため、術後のドナー部の密度が均一に保たれ、傷跡が点在していても全体として目立ちにくくなる効果が期待できます。

これは、術後に髪を短くしたい方や、傷跡を特に気にする方にとってメリットと感じられるかもしれません。

ロボットによる採取精度の特徴

項目ロボット(ARTAS)の能力期待される効果
毛髪分析デジタル画像解析で毛髪の角度・密度を把握グラフトの切断率低下
採取の一貫性プログラムに基づき均一な間隔・深さで採取ドナー部の傷跡が目立ちにくい
作業の持続性長時間の施術でも精度が落ちない医師の負担軽減、安定した品質

ロボット植毛と手作業植毛の比較

ロボットFUEと手作業FUEの比較イメージ(均一性と微調整力)

自毛植毛を検討する際、多くの方が悩むのが「ロボット植毛と医師による手作業植毛、どちらが良いのか」という点でしょう。それぞれに長所と短所があり、一概にどちらが優れているとは言えません。

ここでは、技術的な側面、費用、そして最も重要な定着率という観点から、両者を客観的に比較し、ご自身にとってどちらがより適しているかを判断するための材料を提供します。

FUE法における比較

医師の技術との違い

ロボット植毛(ARTAS)も、手作業の植毛も、毛包単位でグラフトを採取する「FUE法」の一種です。

最大の違いは、グラフトをくり抜く作業をロボットが行うか、医師が手動のパンチを用いて行うか、という点です。

ロボットは安定した品質で均一に採取することを得意としますが、予期せぬ頭皮の硬さや毛質の違いに柔軟に対応するのは苦手な場合があります。

一方、経験豊富な医師は、指先の感覚で頭皮の状態を確かめながら、それぞれのグラフトに最適な角度や力加減でパンチを操作できます。

特に、後頭部の中でも場所によって毛質が異なる場合や、細かな調整が必要な症例では、医師の技術と経験が大きな差を生むことがあります。

ARTASと医師によるFUE法の比較

比較項目ロボット植毛(ARTAS)医師による手作業植毛
採取の均一性非常に高い医師の技術レベルに依存
柔軟な対応プログラム範囲内に限られる頭皮や毛質に合わせ微調整が可能
デザイン性(植付)対応不可(医師が手作業で行う)医師の美的センスと技術が反映される

費用と料金体系の違い

ロボット植毛の費用構造イメージ(基本料金+グラフト単価の概念)

初期費用とグラフト単価

費用面では、一般的にロボット植毛の方が高額になる傾向があります。

これは、ARTASロボット本体が非常に高価であること、そしてその維持管理にもコストがかかるため、それらが施術料金に反映されるからです。

料金体系はクリニックによって異なりますが、「基本料金+グラフト単価×株数」という形式が一般的です。手作業の植毛と比較すると、グラフトあたりの単価が数百円高く設定されていることが多いようです。

総額では数十万円から百万円以上の差が出ることも珍しくありません。この費用差と、得られる結果を天秤にかけ、慎重に検討する必要があります。

一般的な費用比較の目安

項目ロボット植毛(ARTAS)医師による手作業植毛
初期投資高額な設備投資が必要比較的少ない
グラフト単価高めに設定される傾向クリニックにより様々
総額費用高額になりやすいロボットより安価な場合が多い

定着率への影響

ロボットと医師の技術が定着率にどう関わるか

自毛植毛で最も重要な指標の一つが「定着率」です。これは、移植した毛髪がその場で生着し、成長を続ける割合のことを指します。

定着率を左右する要因は多岐にわたりますが、特に重要なのが「グラフトの質」と「植え付けの技術」です。ロボットはグラフトの切断率を低く抑えることで、質の高いグラフトを確保する点では貢献できる可能性があります。

しかし、最終的な定着率は、採取したグラフトをいかにスピーディーかつ丁寧に、適切な深さ・角度で植え付けるかに大きく依存します。

この植え付け作業は、ロボット植毛であっても完全に医師の手作業です。したがって、ロボットを使ったからといって、必ずしも定着率が高くなるとは断言できません。

むしろ、植え付けを担当する医師やチームの習熟度の方が、定着率に与える影響は大きいと言えるでしょう。

手術前のカウンセリングと適応条件

女性薄毛の適応例と非適応例(局所薄毛 vs びまん性脱毛症)

ロボット植毛という選択肢を考える上で、手術前のカウンセリングは極めて重要な意味を持ちます。

自分の薄毛の状態がロボット植毛に適しているのか、どのような結果が期待でき、どのようなリスクがあるのかを、医師と直接話し合い、深く理解する機会だからです。

また、高額な費用がかかる治療であるため、支払い計画についても事前にしっかりと確認しておく必要があります。

医師による診察の重要性

ロボット植毛が適しているかどうかの判断

カウンセリングでは、まず医師がマイクロスコープなどを用いて頭皮や毛髪の状態を詳しく診察します。

薄毛の進行度、範囲、髪の毛の太さや密度、頭皮の硬さなどを確認し、ロボット植毛の適応があるかを判断します。例えば、後頭部のドナーとなる毛髪が十分にない場合や、広範囲にわたるびまん性の薄毛の場合、ロボットでは対応が難しいことがあります。

また、患者様が望むヘアデザイン、特に複雑な生え際の形成などをロボットで行うことの限界についても、この段階で正直な説明を受けるべきです。

医師との対話を通じて、自分自身の希望と、ロボット植毛で実現可能なこととの間にギャップがないかを確認することが大切です。

女性の症例における注意点

びまん性脱毛症への適応

女性の薄毛は、男性のように特定の部分が禿げ上がるのではなく、頭部全体の髪が細く、密度が低下する「びまん性脱毛症」が多いという特徴があります。

この場合、移植する範囲が広範囲に及ぶため、大量のグラフトが必要になります。しかし、ロボット植毛は採取できるグラフト数に限界がある場合や、広範囲の施術に対応しにくい側面があります。

また、既存の髪の毛の間に植え付けていく「間植え」は、周囲の毛根を傷つけないよう非常に高度な技術を要しますが、これをロボットで精密に行うのはまだ難しいのが現状です。

多くの女性の症例では、医師が一本一本状態を確認しながら植え付ける手作業の方が、より安全で確実な結果を得られる可能性が高いと考えられます。

メディカルローンの利用

高額な費用への備え

自毛植毛は健康保険が適用されない自由診療のため、治療費用は全額自己負担となり、高額になりがちです。特にロボット植毛は、手作業の植毛よりも費用が高くなる傾向にあります。

そのため、多くのクリニックでは、分割払いが可能な「メディカルローン」を用意しています。

カウンセリングの際には、総額でどのくらいの費用がかかるのか、メディカルローンを利用する場合の金利や月々の支払額はいくらになるのかなど、料金について詳細な説明を受けましょう。

後悔しないためにも、費用面での不安はカウンセリングの段階で全て解消しておくことが重要です。

手術後の経過とセルフケア

無事に手術を終えた後、理想的な結果を得るためには、術後の過ごし方が非常に重要になります。移植したばかりの毛髪は非常にデリケートな状態にあるため、正しいケアを心がける必要があります。

ダウンタイム中の注意点や、傷跡の治癒過程、そして起こりうる副作用について正しく理解し、適切に対処することで、バレずに快適な回復期間を過ごし、定着率を高めることにつながります。

ダウンタイムの過ごし方

バレずに過ごすための工夫

術後、日常生活に完全に戻るまでの期間をダウンタイムと呼びます。

ロボット植毛(FUE法)は、頭皮を切開しないため、従来のFUT法(切る植毛)に比べて身体的な負担が少なく、ダウンタイムが短いのが特徴です。

術後数日は、移植部にかさぶたができたり、ドナー部に赤みが出たりしますが、通常は1〜2週間ほどで目立たなくなります。

この期間、周囲にバレずに過ごすためには、帽子やヘアアクセサリーを上手に活用するのがおすすめです。

また、激しい運動や飲酒、喫煙は血行に影響し、定着を妨げる可能性があるため、医師の指示に従い、一定期間は控えるようにしましょう。

ダウンタイム中の主な症状と目安

期間主な症状ケアのポイント
術後1〜3日移植部・ドナー部の赤み、腫れ、軽い痛み安静にし、処方された薬を服用。洗髪は控える。
術後4日〜1週間かさぶたの形成、かゆみ医師の指示通りに洗髪を開始。かさぶたは無理に剥がさない。
術後1〜2週間赤みが引き、かさぶたが自然に剥がれ落ちる通常の生活に戻れる。軽い運動も可能に。

傷跡の治癒過程

術後0〜2週間の経過イメージ(赤み・かさぶた・回復の目安)

後頭部のケア

ロボット植毛では、後頭部から毛髪を採取した部分に、直径1mm程度の小さな点状の傷跡が残ります。

術後すぐは赤い点に見えますが、時間とともに治癒し、数ヶ月から1年ほどで白い点になり、周りの髪の毛に隠れてほとんど分からなくなります。

ただし、傷跡の治り方には個人差があります。治癒を促すためには、頭皮を清潔に保ち、血行を良くすることが大切です。医師から指示された軟膏などがあれば、正しく使用しましょう。

また、ドナー部は部分的に刈り上げを行うことが多いため、髪が伸びて傷跡が隠れるまでの期間を考慮しておく必要があります。

「刈り上げ不要」を謳うクリニックもありますが、ロボットの性質上、ある程度の範囲を短くする必要があるのが一般的です。

副作用のリスク

腫れや赤みについて

自毛植毛は安全性の高い手術ですが、医療行為である以上、副作用のリスクが全くないわけではありません。最も一般的に見られるのは、術後の腫れや赤み、痛み、かゆみなどです。

これらは通常、数日から1週間程度で自然に軽快します。麻酔の影響で、額やまぶたが腫れることもありますが、これも一時的なものです。

まれに、移植部にニキビのような毛嚢炎ができたり、一時的に既存の毛が抜ける「ショックロス」が起きたりすることもあります。

ほとんどの場合は時間の経過とともに改善しますが、不安な症状が現れた場合は、すぐに手術を受けたクリニックに相談することが重要です。

  • 術後の腫れ・赤み
  • かゆみ・痛み
  • 毛嚢炎
  • ショックロス

ロボット植毛のメリットと期待できる効果

ロボット植毛には、いくつかの明確なメリットが存在します。特に、長時間にわたる手術での品質の安定性や、医師の身体的負担の軽減といった点は、医療技術としての大きな進歩と言えるでしょう。

また、採取跡が均一であることから、傷跡が目立ちにくいという効果も期待されます。ここでは、ロボット植毛が持つ利点と、それによってどのような効果が得られるのかを具体的に見ていきます。

医師の負担軽減と安定した採取

長時間手術におけるメリット

自毛植毛、特に大量のグラフトを移植する手術は、数時間にも及ぶことがあります。

手作業で何千ものグラフトを一つひとつ採取し続けるのは、非常に高い集中力と体力を要し、医師の疲労がパフォーマンスに影響しないとも限りません。

その点、ロボットは疲れを知りません。手術開始から終了まで、プログラムされた通りの精度とスピードで、安定してグラフトを採取し続けることができます。

この「品質の安定性」は、ロボット植毛の最大のメリットの一つです。医師は採取作業をロボットに任せることで、より重要度の高いデザインや植え付けの工程に集中力を注ぐことができます。

均一な採取による傷跡の目立ちにくさ

刈り上げ不要の選択肢は?

ARTASは、採取するグラフトの間隔をコンピューターで管理し、最適な配置でドナーから毛髪を採取します。

これにより、特定の箇所から集中的に採取してしまう「採りすぎ」を防ぎ、術後の後頭部の密度を均一に保つことができます。

結果として、採取跡である小さな点状の傷が広範囲にバランス良く分散するため、髪が伸びてくると傷跡全体が目立ちにくくなります。

ただし、「刈り上げ不要」という点については注意が必要です。ロボットが毛髪を正確に認識するためには、ある程度の範囲を短く刈り上げる必要があります。

完全に刈り上げない方法を提案するクリニックもありますが、採取の精度に影響が出る可能性も考慮し、医師とよく相談することが大切です。

ロボット植毛の主なメリット

  • 採取の品質が安定している
  • 医師の身体的負担が少ない
  • ドナー部の傷跡が均一で目立ちにくい
  • グラフトの切断率が低いとされる

ロボット植毛のデメリットと注意点

多くのメリットが語られる一方で、ロボット植毛には無視できないデメリットや慎重に検討すべき注意点も存在します。

特に、高額な費用、デザイン性の限界、そして個々の状態に合わせた柔軟な対応の難しさは、治療を選択する前に十分に理解しておく必要があります。

これらの点を踏まえずに治療を進めると、期待した結果が得られず、後悔につながる可能性もあります。

高額な費用

ARTAS導入コストが料金に反映

ロボット植毛の最も大きなデメリットは、その費用です。前述の通り、ARTASの導入と維持には莫大なコストがかかるため、それが施術料金に直接反映されます。

同じグラフト数を移植する場合でも、経験豊富な医師による手作業のFUE法と比較して、総額で数十万円から百万円以上高くなることも少なくありません。

この費用を支払う価値があるかどうかは、慎重な判断が求められます。

費用対効果を考えたとき、手作業でも優れた結果を出せる医師がいることを考えると、ロボット植毛が必ずしも最良の選択とは限らないのです。

デザイン性の限界

特に生え際のデザインにおける課題

女性の自毛植毛で最も重要視されるのが、いかに自然で美しい生え際を作れるか、という点です。生え際には、細く柔らかい毛を不規則に配置し、自然な毛流れを作ることが求められます。

このような芸術的ともいえる作業は、現在のロボット技術では再現が困難です。ロボットはあくまで均一な採取やスリット作成はできますが、個々の顔立ちに合わせたミリ単位のデザイン調整はできません。

最終的な植え付けは医師の手で行いますが、ロボットが作成した画一的なスリットに植えるだけでは、自然な仕上がりは期待できません。

美しいデザインを追求するのであれば、やはり最初から最後まで、美的センスに優れた医師に任せる方が賢明と言えるでしょう。

ロボット植毛の主なデメリット

デメリット具体的な内容検討すべき点
費用手作業の植毛より高額になる傾向がある費用対効果が見合っているか
デザイン性自然な生え際など、繊細なデザインが難しい自身の希望するデザインが実現可能か
柔軟性頭皮の硬さや毛質への個別対応が困難な場合がある自分の頭皮状態に適しているか

柔軟な対応の難しさ

個々の頭皮状態への対応

人の頭皮は、場所によって硬さや厚みが異なり、毛質も様々です。熟練した医師は、これらの違いを指先の感覚で感じ取りながら、パンチの角度や深さを微調整してグラフトを採取します。

しかし、ロボットはプログラムされた動きしかできないため、このような個別の状態に合わせた柔軟な対応は苦手です。

例えば、頭皮が硬い方や、毛がカールしている方の場合、ロボットではグラフトの切断率が高くなってしまう可能性も指摘されています。

全ての症例にロボットが万能というわけではなく、むしろ手作業の方が良い結果をもたらすケースも多いのが実情です。

なぜロボット植毛がおすすめできないか

これまでロボット植毛のメリットとデメリットを解説してきましたが、結論として、特に薄毛に悩む女性に対しては、現段階では積極的におすすめしにくい、というのが私たちの見解です。

その理由は、技術的な限界、女性の薄毛の特性との相性、そして費用対効果という3つの大きな側面に集約されます。

ロボットという先進的な響きに惑わされず、その本質を理解することが、後悔しない治療選びにつながります。

最終的な仕上がりは医師の技術に依存する

植え付けは人の手で行うという事実

ロボット植毛の最も重要なポイントは、ロボットが担当するのはあくまで「グラフト採取」という一部分であり、治療の成果を最終的に決定づける「植え付け」は、完全に医師とスタッフの手作業である、という点です。

いくら質の良いグラフトをロボットが採取できたとしても、それを植え付ける医師に十分な経験と美的センスがなければ、満足のいく結果は得られません。

毛の一本一本の角度、向き、密度を計算し、自然な毛流れを再現する作業は、まさに職人技です。つまり、高額な料金を支払ってロボットを選んだとしても、結局は医師の腕次第。

それならば、初めから植え付け技術に定評のある、信頼できる医師に全てを任せる方が、合理的かつ確実な選択と言えるのではないでしょうか。

女性の薄毛の特性との相性

広範囲の薄毛に対応しにくい

女性に多いびまん性脱毛症は、特定の部位だけでなく、頭部全体の髪が薄くなるのが特徴です。この場合、既存の髪の毛を避けながら、その間に新しい毛を植え込んでいく高度な技術が求められます。

ロボットは既存毛を認識して避ける機能を持っていますが、密集した髪の間を縫うような精密な作業はまだ得意ではありません。

無理に行うと、健康な既存毛の毛根を傷つけてしまうリスクもあります。

広範囲にわたって、全体のボリュームアップを目指すような女性の症例に対しては、ロボットの画一的な動きよりも、医師が全体のバランスを見ながら臨機応変に対応できる手作業の方が、はるかに適していると考えられます。

女性にロボット植毛をおすすめしにくい理由

  • 仕上がりが医師の技術に大きく左右されるため
  • 繊細な生え際デザインの再現が難しいため
  • びまん性脱毛症との相性が良くないため
  • 費用対効果が高いとは言えないため

費用対効果の観点

手作業と比較して

ロボット植毛は、手作業によるFUE法と比べて費用が高額です。しかし、その価格差に見合うだけの圧倒的な優位性があるかというと、疑問が残ります。

採取の精度や均一性というメリットはありますが、それが直接、手作業を上回る定着率や満足度につながるという明確なデータはまだありません。

むしろ、デザイン性や柔軟性の面では、熟練した医師の手作業に劣る部分も多く見られます。

同じ、あるいはそれ以上の結果を手作業でより安価に実現できる可能性がある以上、現時点では、あえて高額なロボット植毛を選択する積極的な理由は見出しにくい、というのが私たちの考えです。

よくある質問

ロボット植毛に関して、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。治療を検討する上での参考にしてください。

Q
施術中に痛みはありますか?
A

施術は局所麻酔をかけて行うため、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。麻酔注射の際にチクッとした痛みを感じる程度です。

術後、麻酔が切れると軽い痛みや違和感が出ることがありますが、処方される痛み止めでコントロールできる範囲です。

Q
刈り上げは絶対に必要ですか?
A

ARTASが毛髪を正確に認識・採取するために、ドナーとなる後頭部の一部を短く刈り上げるのが一般的です。刈り上げる範囲や長さは、必要なグラフト数によって異なります。

完全に「刈り上げ不要」で施術を行うのは、ロボットの性能上、難しい場合が多いです。

カウンセリングの際に、どの程度の刈り上げが必要になるかを確認しましょう。

Q
ARTAS以外のロボットはありますか?
A

現在、自毛植毛の分野で広く実用化されているのはARTASが主流です。他のロボットシステムも研究・開発は進められていますが、臨床で豊富な症例を持つのはARTASとなります。

したがって、日本国内で「ロボット植毛」と言えば、ほぼARTASを指していると考えてよいでしょう。

Q
費用を抑える方法はありますか?
A

ロボット植毛の費用は高額なため、費用を抑えたい場合は、まず手作業によるFUE法を検討することをおすすめします。同じFUE法でも、クリニックによって料金設定は様々です。

また、クリニックによってはモニター制度を設けている場合があり、症例写真の提供などに協力することで、通常より安い料金で治療を受けられる可能性があります。

メディカルローンの利用も一つの方法ですが、金利を含めた総支払額をよく確認することが重要です。

より自然な仕上がりを求める女性の方へ

ロボット植毛には限界がある一方で、経験豊富な医師による手作業の「FUE法」は、女性特有の繊細なご要望に柔軟にお応えできます。

特に、生え際の柔らかなラインや、全体のボリューム感を自然に見せるデザインは、熟練の技術だからこそ実現可能です。

ロボットでは難しいとされる、既存の髪へのダメージを最小限に抑えながら高密度に植え付ける技術など、女性の薄毛治療に特化したアプローチについて、こちらのFUE特集記事で詳しく解説しています。

ご自身の可能性を最大限に引き出す治療法を知るために、ぜひご覧ください。

以上

参考文献