ご出産に慣れない育児の疲れとともに、シャワーの後やブラッシングの際に増える抜け毛に驚き、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
産後の抜け毛は「分娩後脱毛症」とも呼ばれ、多くの女性が経験するごく自然な身体の変化の一つです。変化は一時的なものであり、適切な知識を持つことで、過度な心配を和らげることができます。
この記事では、産後の抜け毛が一体いつから始まり、いつまで続くのか、原因からご自宅でできるケア方法、どのような場合に専門家への相談を考えると良いのかについて、解説していきます。
産後の抜け毛とは何かを正しく知る
産後の抜け毛は、多くの女性が直面する悩ましい問題の一つですが、これは病気ではなく、出産に伴う身体の正常な反応の一部です。
分娩後脱毛症という現象
一般的に「産後の抜け毛」と呼ばれるこの症状は、医学的には「分娩後脱毛症(ぶんべんごだつもうしょう)」という名称で知られています。
これは、出産を経験した女性の多くに見られる一時的な脱毛症状を指します。
髪の毛が全体的に薄くなる「びまん性脱毛」という状態になるのが特徴で、頭頂部や生え際が特に気になるという方もいれば、全体的にボリュームが減ったと感じる方もいます。
なぜ産後に髪が抜けるのか
髪の毛には一本一本に寿命があり、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。
通常であれば、毎日50本から100本程度の髪が自然に抜け落ち、新しい髪へと生え変わっていますが、妊娠中は女性ホルモンの影響で、ヘアサイクルに変化が起こります。
本来であれば休止期に入り抜け落ちるはずの髪が、そのまま成長期を維持し続け、妊娠中は髪の量が増え、ハリやコシが出たと感じる方も少なくありません。
そして出産を終えると、ホルモンバランスが妊娠前の状態へと急激に戻るため、それまで抜けずにいた髪が一斉に休止期に入り、まとまって抜け落ちてしまうのです。
多くの新米ママが経験する共通の悩み
鏡を見るたび、お風呂の排水溝を見るたびに、ごっそりと抜けた髪の毛を目の当たりにすると、「このまま全部抜けてしまうのではないか」と深刻に悩んでしまうのも無理はありません。
特に初めての出産と育児で心身ともに余裕がない時期に重なるため、精神的なダメージは想像以上に大きいものです。
しかし、出産を経験した女性の半数以上が、程度の差こそあれ産後の抜け毛を経験すると言われています。
一時的な現象であることを理解する
最も重要なことは、分娩後脱毛症が「一時的な現象」であるという事実です。
ホルモンバランスが安定し、身体が本来の状態を取り戻すにつれて、ヘアサイクルも正常化すると、抜け毛の量は自然と減少し、やがて新しい髪の毛がきちんと生え始めます。
回復までの期間には個人差がありますが、永遠にこの状態が続くわけではありません。
産後の抜け毛はいつから始まるのか
「一体この抜け毛はいつから始まるのだろう」と、出産前から気にしている方もいるかもしれません。ここでは、産後の抜け毛が始まる具体的な時期について見ていきます。
一般的な開始時期
産後の抜け毛は、出産直後すぐに始まるわけではありません。多くの場合、出産後2ヶ月から3ヶ月経過した頃から抜け毛の増加を実感し始めます。
これは、妊娠中に髪の成長を支えていた女性ホルモンが出産を機に急激に減少し、その影響がヘアサイクルに現れるまでに一定の時間がかかるためです。
髪の毛が一斉に休止期に入ってから、実際に抜け落ちるまでには数ヶ月のタイムラグがあるため、「産後しばらくは大丈夫だったのに、急に抜け始めた」と感じるのはごく自然なことです。
個人差が大きい理由
抜け毛が始まる時期には、かなり大きな個人差があます。これは、もともとのホルモンバランス、体力の回復度合い、栄養状態、さらには育児環境からくるストレスの度合いなどが一人ひとり異なるためです。
例えば、産後の回復が順調で、比較的リラックスして過ごせている方と、睡眠不足や疲労が蓄積している方とでは、身体の状態が大きく異なります。
複合的な要因が絡み合うことで、抜け毛が始まる時期も、産後1ヶ月頃からと早い方もいれば、産後4ヶ月を過ぎてからという方もいます。
産後の抜け毛開始時期の目安
時期 | 抜け毛の状態 | 主な理由 |
---|---|---|
出産直後〜1ヶ月 | あまり変化を感じないことが多い | ヘアサイクルが休止期に入る準備段階 |
産後2ヶ月〜3ヶ月 | 抜け毛の増加を実感し始める | 多くの髪が休止期に入り抜け始める |
産後4ヶ月〜6ヶ月 | 抜け毛のピークを迎えることが多い | ホルモンバランスの変化が最大になる |
出産後2〜3ヶ月が目安
多くのケースで、抜け毛の増加が顕著になるのは産後2ヶ月から3ヶ月頃です。この時期は、赤ちゃんとの生活にも少しずつ慣れてくる一方で、まとまった睡眠が取れずに疲れが溜まってくる頃でもあります。
身体的な変化と環境的な変化が重なり、抜け毛という形でサインが現れるのです。
抜け毛が始まる前の兆候
はっきりとした抜け毛が始まる前に、いくつかの兆候を感じる方もいます。すべての人が感じるわけではありませんが、注意していると気付くかもしれません。
- 髪全体のハリやコシが失われたように感じる
- 髪をセットしてもまとまりにくくなる
- 頭皮がいつもより脂っぽく感じたり、逆に乾燥したりする
- 枕やブラシにつく髪の毛が少しずつ増えてくる
産後の抜け毛はいつまで続くのか
始まりがあれば、必ず終わりがあります。産後の抜け毛に悩む方にとって、最も知りたいのは「この状態がいつまで続くのか」ということでしょう。
ピークの時期と期間
産後の抜け毛は、だらだらと同じ量が抜け続けるわけではありません。一般的には、産後4ヶ月から6ヶ月頃に抜け毛の量が最も多くなる「ピーク」を迎えます。
この時期には、シャンプーをするたびに排水溝が髪の毛でいっぱいになったり、手ぐしを通しただけで何本も髪が絡んできたりと、最も不安を感じやすい時期かもしれません。
しかし、このピークは長くは続かず、通常、1〜2ヶ月程度でピークを過ぎると、抜け毛の量は徐々に減少していきます。
一般的な終息時期
抜け毛の量が妊娠前の通常レベルに落ち着くのは、多くの場合、産後半年から1年くらいが目安です。
産後6ヶ月を過ぎたあたりから「そういえば、最近抜け毛が減ってきたかも」と感じ始める方が多く、産後1年の誕生日を迎える頃には、ほとんどの方が抜け毛の悩みから解放されています。
産後の抜け毛の一般的な経過
時期 | 状態 | 心の持ち方 |
---|---|---|
産後2〜3ヶ月 | 抜け毛が始まり、徐々に増加する | 「自然なこと」と受け入れる準備 |
産後4〜6ヶ月 | 抜け毛の量がピークに達する | 最もつらい時期だが、終わりは近い |
産後6ヶ月〜1年 | 抜け毛が減少し、新しい髪が生え始める | 回復の兆しを喜び、ケアを続ける |
産後半年から1年で落ち着くことが多い
多くの女性にとって、産後半年という時期は一つの節目になります。
抜け毛のピークを越え、量が落ち着いてくるだけでなく、短い新しい髪の毛(アホ毛のように見えることもあります)が生えてくるのを実感できる時期でもあります。
新しい髪の毛の成長は、ヘアサイクルが正常に戻りつつある確かな証拠で、産後1年が経過する頃には、髪全体のボリュームもかなり回復してくるでしょう。
回復が遅れるケースとその要因
一方で、中には産後1年を過ぎても抜け毛が気になったり、髪の回復が遅いと感じたりする方もいます。
回復が遅れる要因
- 完全母乳育児で、授乳期間が長い
- 育児による極度の睡眠不足やストレスが続いている
- 産後ダイエットなどで栄養が偏っている
- 次の妊娠までの期間が短い
- 高齢出産である
要因が複数重なると、身体の回復に時間がかかり、それが髪の毛の回復の遅れにつながることがあります。
産後の抜け毛を引き起こす主な原因
産後の抜け毛がなぜこれほど多くの女性に起こるのか、背景にはいくつかの原因があります。
ホルモンバランスの急激な変化
産後の抜け毛における最大の原因は、女性ホルモンの劇的な変動です。特に「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という二つのホルモンが深く関わっています。
エストロゲンとプロゲステロンの役割
エストロゲンは、髪の成長を促進し、髪の毛の成長期を長く維持する働きを持っています。また、髪にツヤやハリを与える役割も担います。プロゲステロンもまた、妊娠を維持するために重要なホルモンです。
妊娠中は、これらの女性ホルモンの分泌量が大幅に増加し、その恩恵で髪は抜けにくく、豊かな状態を保ちます。
しかし、出産を終えると、これらのホルモンの分泌量は一気に減少し、妊娠前のレベルまで急降下します。
「ホルモンの崖」とも言える急激な変化に、髪の毛のサイクルが対応しきれず、一斉に休止期へと移行してしまうのです。
妊娠中と産後のホルモン分泌量のイメージ
時期 | エストロゲン | プロゲステロン |
---|---|---|
妊娠前(通常時) | 通常レベル | 通常レベル |
妊娠後期 | ピーク(通常時の100倍以上) | ピーク(通常時の数十倍) |
出産直後 | 急激に減少 | 急激に減少 |
慣れない育児によるストレス
出産はゴールではなく、育児という新たな生活のスタートです。
24時間体制での授乳やおむつ替え、夜泣きの対応など、これまで経験したことのない状況に直面し、多くの母親は大きな精神的・肉体的ストレスを感じます。
ストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させる原因となります。
頭皮の血行が悪くなると、髪の毛を育てる毛母細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなり、健康な髪の成長を妨げ、抜け毛を助長する一因です。
睡眠不足と生活リズムの乱れ
産後の母親にとって、まとまった睡眠時間を確保することは非常に困難で、細切れの睡眠が続くと、身体は十分に回復できません。
髪の毛の成長に重要な成長ホルモンは、深い眠りの間に最も多く分泌されるので、慢性的な睡眠不足は、成長ホルモンの分泌を妨げ、ヘアサイクルを乱す原因となります。
また、昼夜を問わない赤ちゃんのお世話で生活リズムが不規則になることも、自律神経の乱れにつながり、間接的に抜け毛に影響を与えます。
栄養不足と食生活の変化
育児に追われるあまり、自分の食事は後回しになりがちです。
手軽に食べられるパンやおにぎりだけで済ませてしまったり、ゆっくりと食事をする時間がなかったりすることで、栄養バランスが偏りやすくなります。
髪の毛は主に「ケラチン」というタンパク質でできており、生成にはタンパク質はもちろん、亜鉛や鉄分、ビタミン類など様々な栄養素が必要です。
母乳育児の場合は、摂取した栄養が母乳として赤ちゃんに分け与えられるため、意識して栄養を摂取しないと母親自身が栄養不足に陥りやすくなり、髪の健康を損ない、抜け毛を悪化させることにつながるのです。
産後の抜け毛を悪化させる可能性のある要因
ホルモンバランスの変化など、産後の抜け毛には避けられない原因があり、さらにそれに加えて日々の生活習慣が、抜け毛の程度を左右することがあります。
過度なダイエット
「妊娠前の体型に早く戻りたい」と焦る気持ちから、産後すぐに厳しい食事制限などのダイエットを始めるのは注意が必要です。
出産で体力を消耗し、これから始まる育児のために多くのエネルギーを必要とするこの時期に、極端な食事制限を行うと、深刻な栄養不足に陥ります。
髪の毛は、身体にとっては生命維持に直接関わる部分ではないため、栄養が不足すると、まず髪への供給が後回しにされます。
頭皮への負担が大きいヘアスタイル
育児中は、髪が邪魔にならないようにと、ポニーテールやきついお団子など、髪を強く引っ張るスタイルを長時間続けることが多くなりがちです。
このような髪型は、特定の部位の毛根に常に負担をかけ続けることになり、「牽引性脱毛症」を引き起こす原因となります。
産後のホルモンバランスの変化でただでさえ抜けやすい状態のところに、物理的な力が加わることで、抜け毛をさらに悪化させてしまうのです。
毎日同じ場所で髪を結ぶのは避け、時々は髪を下ろしたり、結ぶ位置を変えたり、シュシュなどの柔らかい素材のものを使ったりする工夫が大切です。
不適切なヘアケア
良かれと思って行っているヘアケアが、実は頭皮にダメージを与えていることもあります。特に産後のデリケートな頭皮環境においては、普段以上に丁寧なケアが求められます。
洗浄力の強すぎるシャンプー
産後はホルモンバランスの影響で頭皮の皮脂分泌が不安定になり、乾燥しやすくなったり、逆にかゆみが出やすくなったりします。
そのような状態で、洗浄力の強い高級アルコール系のシャンプーを毎日使うと、頭皮を守るために必要な皮脂まで奪い去ってしまい、頭皮環境を悪化させる原因になります。
頭皮が乾燥すると、フケやかゆみだけでなく、健康な髪を育てる土壌そのものが損なわれてしまいます。
髪が濡れたままの就寝
育児で疲れて、髪を乾かすのも億劫になり、濡れたままベッドに入ってしまうことはありませんか。濡れた髪はキューティクルが開いた非常に無防備な状態であり、枕との摩擦で簡単に傷ついてしまいます。
それだけでなく、湿った頭皮は雑菌が繁殖しやすい環境です。雑菌が繁殖すると、頭皮にかゆみや炎症を起こし、抜け毛の原因となることがあります。
少し大変でも、就寝前には必ず頭皮を中心に髪をしっかりと乾かす習慣をつけましょう。
高齢出産との関連
近年、出産年齢が上昇傾向にありますが、一般的に年齢を重ねると、身体の回復力や基礎代謝は低下する傾向にあります。
そのため、高齢出産の場合は、若い頃の出産に比べて、産後の体力回復に時間がかかり、それがホルモンバランスの正常化やヘアサイクルの回復の遅れにつながることが指摘されています。
加齢による髪自体の変化(髪が細くなる、白髪が増えるなど)も相まって、産後の抜け毛からの回復が遅いと感じやすいかもしれません。
自宅でできる産後の抜け毛対策とケア方法
産後の抜け毛は自然現象であり、完全に防ぐことは難しいですが、日々の少しの心がけで症状を和らげ、回復を早める手助けをすることは可能です。
栄養バランスの取れた食事を心がける
健康な髪を育てるためには、身体の内側からの栄養補給が何よりも重要です。特定の食品だけを食べるのではなく、様々な食材をバランス良く取り入れることを意識しましょう。
髪の成長を助ける主な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食材 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分であるケラチンを作る | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
亜鉛 | ケラチンの合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉、チーズ |
鉄分 | 頭皮へ酸素を運ぶ役割を担う | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき |
積極的に摂りたい食材の例
忙しい中でも手軽に取り入れられる食材を覚えておくと便利です。例えば、朝食にヨーグルトや納豆を加えたり、間食にナッツやチーズを選んだりするだけでも、タンパク質やミネラルの補給につながります。
和食は、魚や大豆製品、海藻などをバランス良く摂取しやすいため、おすすめです。調理が難しいときは、具沢山の味噌汁やスープを作るだけでも、手軽に野菜やタンパク質を摂れます。
質の良い睡眠を確保する工夫
「赤ちゃんがいるのに質の良い睡眠なんて無理」と感じるかもしれませんが、工夫次第で睡眠の質を高めることは可能です。
赤ちゃんが眠っている時間は、家事をしようとせずに一緒に身体を休めることを優先しましょう。15分程度の短い昼寝でも、心身のリフレッシュにつながります。
また、ご家族の協力を得て、週末に数時間だけでもまとまって眠る時間を作ってもらうことも非常に有効です。
ストレスを上手に管理する方法
育児中のストレスをゼロにすることはできません。大切なのは、ストレスを溜め込まず、こまめに発散する方法を見つけることです。
完璧な母親を目指そうとせず、「今日はここまでできれば十分」と自分を許してあげることも大切です。
簡単なリフレッシュ方法
- 天気の良い日に赤ちゃんと一緒に5分だけ散歩する
- 好きな音楽を聴きながら授乳する
- 温かいハーブティーを一杯飲む時間を作る
- 信頼できる友人や家族に電話で話を聞いてもらう
ほんの些細なことでも意識的に自分のための時間を作ることが、心の健康を保ち、身体の健康、髪の健康にもつながります。
頭皮に優しいヘアケア方法
産後のデリケートな頭皮をいたわるためには、毎日のヘアケアを見直すことが効果的です。
シャンプーの選び方と正しい洗い方
ポイント | 具体的な方法 | 目的 |
---|---|---|
シャンプー選び | アミノ酸系など、洗浄力がマイルドな製品を選ぶ | 頭皮の乾燥を防ぎ、必要な皮脂を守る |
洗い方 | 指の腹を使い、優しくマッサージするように洗う | 頭皮を傷つけず、血行を促進する |
すすぎ | シャンプー剤が残らないよう、時間をかけて丁寧にすすぐ | 頭皮トラブルの原因となる残留物をなくす |
頭皮マッサージのすすめ
シャンプーのついでや、テレビを見ながらなど、リラックスタイムに頭皮マッサージを取り入れるのも良いでしょう。
指の腹で頭皮全体を優しく動かすようにマッサージすることで、頭皮の血行が促進され、毛根に栄養が届きやすくなります。また、頭部の緊張をほぐすことは、リフレッシュ効果も期待できます。
強くこすりすぎず、気持ち良いと感じる程度の力加減で行うのがポイントです。
産後の抜け毛と他の脱毛症との違い
「私の抜け毛は、本当に産後だけのものだろうか」と、他の脱毛症の可能性を心配される方もいるかもしれません。ほとんどの場合は一時的な分娩後脱毛症ですが、まれに他の原因が隠れていることもあります。
円形脱毛症との見分け方
円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられており、年齢や性別を問わず発症します。産後のストレスが引き金となって発症することもあります。最大の違いは、抜け方です。
産後の抜け毛が髪全体から均等に抜ける「びまん性」であるのに対し、円形脱毛症は、コインのような円形や楕円形に、境界がはっきりした脱毛斑ができるのが特徴です。
もし、頭部に一部分だけつるつるになった箇所を見つけたら、それは円形脱毛症の可能性があります。
女性男性型脱毛症(FAGA)との違い
女性男性型脱毛症(FAGA: Female Androgenetic Alopecia)は、壮年期以降の女性に見られる進行性の薄毛で、男性ホルモンの影響などが関係していると考えられており、ゆっくりと時間をかけて進行します。
産後の抜け毛との主な違いは、症状の現れ方と回復の有無です。
産後脱毛症とFAGAの主な違い
項目 | 分娩後脱毛症 | 女性男性型脱毛症(FAGA) |
---|---|---|
発症時期 | 産後2〜3ヶ月頃から急に始まる | 30代後半以降から徐々に進行する |
抜け方 | 全体の髪が均等に抜ける(びまん性) | 頭頂部の分け目が目立つようになる |
経過 | 産後1年ほどで自然に回復する | 自然に回復せず、ゆっくりと進行する |
産後の抜け毛が落ち着くはずの時期を過ぎても、分け目がどんどん広がっていくように感じる場合は、FAGAの可能性も視野に入れる必要があります。
甲状腺機能の異常による脱毛
出産をきっかけに、甲状腺の機能に異常が生じることがあります(産後甲状腺機能異常症)。甲状腺ホルモンは、全身の代謝をコントロールしており、髪の毛の成長にも影響を与えます。
甲状腺機能が低下しても、亢進しても、脱毛の症状が現れることがあります。
抜け毛の他にも、「極端な体のだるさ」「急激な体重の増減」「動悸」「ひどいむくみ」など、髪以外の全身症状を伴うのが特徴です。
いつ医療機関に相談すべきか
基本的には自然に回復する産後の抜け毛ですが、心配が続く場合や、通常とは異なる症状が見られる場合は、専門家に相談できます。
相談を検討するサイン
サイン | 考えられる可能性 | 相談先 |
---|---|---|
産後1年以上経っても抜け毛が減らない | FAGA、栄養障害など | 皮膚科、女性の薄毛専門外来 |
円形など部分的に髪が抜けている | 円形脱毛症 | 皮膚科 |
強い倦怠感など全身の不調を伴う | 甲状腺疾患、貧血など | 内科、婦人科 |
不安を一人で抱え込まず、気になる症状があれば、まずはかかりつけの産婦人科医に相談してみるのも良いでしょう。
産後の抜け毛に関するよくある質問(Q&A)
最後に、産後の抜け毛に関して多くの女性が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。皆さんが気になるポイントをまとめましたので、ご自身の状況と照らし合わせながら参考にしてください。
- Q授乳は抜け毛に関係しますか?
- A
直接的な原因ではありませんが、間接的に関係する場合があります。
母乳は母親の血液から作られるため、授乳中は多くの栄養素が母乳を通して赤ちゃんへ移行するため、母親自身が栄養不足、特にタンパク質や鉄分、カルシウムなどが不足しがちになります。
栄養不足は髪の毛の成長に影響を与え、抜け毛の回復を遅らせる一因です。また、夜間の授乳による睡眠不足も、髪の健康にはマイナスに働く可能性があります。
- Q育毛剤やサプリメントは使ってもいいですか?
- A
産後の抜け毛はホルモンバランスの変化が主な原因であるため、基本的には何もしなくても時間とともに回復します。
しかし、頭皮環境を整える目的で、産後のデリケートな頭皮にも使える、刺激の少ない女性向けの育毛剤を使用することは一つの選択肢です。
ただし、製品によっては、母乳に影響を与える可能性のある成分が含まれていることも考えられ、注意が必要です。
- Q髪が元通りになるまでどのくらいかかりますか?
- A
多くの人が最も気になるのが、髪のボリュームがいつになったら元に戻るのか、ということでしょう。
髪の毛は1ヶ月に約1cmしか伸びないため、全体の長さが揃い、以前のようなヘアスタイルを楽しめるようになるまでには、1年程度の時間が必要です。
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