高血圧の治療を続けている女性の中には、以前より髪の毛が薄くなった、抜け毛が増えたと感じている方がいらっしゃるようです。

毎日服用するお薬が関係しているのか、それとも他に原因があるのか、不安に思われるのも無理がありません。

この記事では、高血圧の治療薬が女性の薄毛に与える可能性のある影響とその関係性について解説します。

高血圧と女性の薄毛の関係性

高血圧の治療を受けている方から、薄毛に関するご相談を受けるときがあります。ここでは、高血圧そのものや、それに伴う身体の変化が女性の髪にどのような影響を与えうるのかを見ていきましょう。

高血圧自体が薄毛に影響する?

高血圧が直接的に薄毛を引き起こすという明確な医学的根拠は、現時点では限定的です。

しかし、高血圧の状態が続くと、間接的に髪の毛の健康に影響を与える可能性は考えられます。

高血圧は全身の血管に負担をかける状態であり、これが頭皮の血流にも影響しないとは言い切れません。

血行不良と頭皮環境

髪の毛の成長には、毛根にある毛母細胞への十分な栄養供給が必要です。

栄養は血液によって運ばれるため、頭皮の血行は髪の健康を維持する上で非常に重要です。高血圧やそれに伴う動脈硬化などが進行すると、頭皮を含む末梢血管の血流が悪くなる可能性があります。

血行不良は毛母細胞への栄養供給を滞らせ、髪の成長を妨げたり抜け毛を増やしたりする一因となり得ます。

高血圧が血行に与える影響

影響の種類詳細頭皮への影響
血管への圧力増加血管壁に常に高い圧力がかかり、血管が傷つきやすくなる頭皮の毛細血管にも負担がかかる可能性がある
動脈硬化の促進血管が硬くなり、弾力性が失われ、内腔が狭くなる頭皮への血流が低下し、栄養供給が滞る可能性がある
血流調整機能の低下状況に応じた血管の拡張・収縮がスムーズに行われにくくなる環境変化(気温など)に対する頭皮血流の反応が鈍る可能性

ストレスとホルモンバランスの影響

高血圧の診断や治療は、精神的なストレスとなる場合があります。長期的なストレスは、自律神経やホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性があります。

特に女性の場合、ホルモンバランスの変化は髪の毛の成長サイクル(ヘアサイクル)に影響を与えやすく、抜け毛や薄毛につながると知られています。

ストレスは血管を収縮させ、血行を悪化させる要因にもなります。

女性特有の要因

女性の薄毛は、男性とは異なるパターンや原因を持つケースが多いです。加齢やホルモンバランスの変化(妊娠、出産、更年期など)は、女性の薄毛に大きく関わっています。

高血圧の治療を受けている方が、これらの要因と重なる時期に薄毛の悩みを感じる例も少なくありません。高血圧の治療と、女性特有の薄毛要因が複合的に影響しあっている可能性も考慮する必要があります。

一部の高血圧治療薬は薄毛リスクのある薬剤

高血圧の治療に用いられる降圧剤の中には、副作用として脱毛(薄毛)を引き起こす可能性が指摘されているものがあります。

ただ、全ての降圧剤で起こるわけではなく、服用している全ての人に起こるわけでもありません。

なぜ一部の降圧剤は薄毛を引き起こす可能性があるのか

降圧剤が薄毛を引き起こす詳細な理由は完全には解明されていませんが、いくつかの可能性が考えられています。

一つは、薬剤が毛母細胞の活動や髪の毛が成長する期間(成長期)に影響を与え、ヘアサイクルを乱してしまう可能性です。

また、薬剤によっては頭皮の血流に影響を与えたり特定の栄養素の吸収を妨げたりすることが、間接的に髪の健康に関わっている可能性も指摘されています。

薄毛リスクが指摘される降圧剤の種類

副作用として脱毛の報告がある降圧剤の系統には、以下のようなものがあります。ただし、頻度は低いとされています。

報告のある降圧剤系統例

薬剤系統作用機序
β遮断薬心臓の働きを抑え、心拍数を減らし血圧を下げる
ACE阻害薬血圧を上げる物質(アンジオテンシンII)の生成を抑える
スピロノラクトン利尿作用に加え、男性ホルモンの働きを抑える作用もある(高血圧治療では利尿目的が主)

これらの薬剤を服用しているからといって、必ずしも薄毛になるわけではありません。ご自身が服用している薬剤について心配な場合は必ず処方医にご相談ください。

影響の現れ方と個人差

薬剤による脱毛は、一般的に薬の服用を開始してから数週間から数ヶ月後に現れるケースが多いとされます。

脱毛の程度はびまん性(全体的に薄くなる)である方が多いですが、個人差が大きいです。

体質や他の要因も影響するため、同じ薬を服用していても全ての人に同じ副作用が現れるわけではありません。

自己判断での中断は絶対に避けるべき理由

もし服用中の降圧剤が薄毛の原因かもしれないと感じても、ご自身の判断で服用を中止したり量を減らしたりするのは絶対に避けてください。

高血圧の治療を中断すると血圧が急上昇し、脳卒中や心筋梗塞などの深刻な合併症を引き起こす危険性が高まります。

薄毛に関する悩みは、必ず処方医に相談し、指示に従うようにしてください。

降圧剤による薄毛のサインと見分け方

降圧剤が原因かもしれない薄毛に気づくためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。他の原因による薄毛との違いや早期発見のポイントについて解説します。

脱毛のパターンや特徴

降圧剤が原因とされる脱毛(薬剤性脱毛)は特定の部位だけが抜けるのではなく、頭部全体の髪が均等に薄くなる「びまん性脱毛」が多いとされています。

急激に大量の髪が抜けるというよりは、徐々に全体のボリュームが減っていくように感じられるかもしれません。

薬剤性脱毛と他の脱毛症の特徴比較

特徴項目薬剤性脱毛(可能性がある場合)女性型脱毛症(FAGA)円形脱毛症
脱毛パターン頭部全体のびまん性脱毛が多い頭頂部や分け目が目立つことが多い円形・楕円形の脱毛斑が突然出現
進行スピード服用開始後、数週間~数ヶ月で徐々にゆっくりと進行することが多い急速に進行することがある
自覚症状(かゆみ等)通常は伴わないことが多い伴わないことが多いかゆみや違和感を伴うことがある

他の原因による薄毛との違い

女性の薄毛の原因は多様です。加齢、ホルモンバランスの乱れ(更年期など)、甲状腺疾患、栄養不足、ストレス、あるいは女性型脱毛症(FAGA)など、様々な要因が考えられます。

降圧剤の影響を疑うときは、薬の服用開始時期と薄毛が気になり始めた時期に関連があるかどうかが一つの目安になります。

しかし、他の原因と重なっている例も多いため、自己判断は難しいです。

気づいたときに記録しておきたいこと

もし薄毛が気になり始めたら、以下の点を記録しておくと、医師に相談する際に役立ちます。

  • いつ頃から薄毛や抜け毛が気になり始めたか
  • どのくらいの期間で進行していると感じるか
  • 抜け毛の量に変化はあるか(枕元、排水溝など)
  • 頭皮にかゆみや赤みなどの異常はないか
  • 服用している全ての薬の名前と開始時期(降圧剤以外も含む)
  • 最近、大きなストレスや生活環境の変化はなかったか

早期発見の重要性

どのような原因であれ、薄毛は早期に対処を開始することが改善への近道となります。

特に薬剤性の脱毛が疑われる場合は、原因薬剤の特定と変更の検討が重要です。気になる変化を感じたら、早めに医師に相談すると良いでしょう。

薄毛が気になった場合の対処法

降圧剤を服用中に薄毛が気になり始めたら、まずは落ち着いて適切な対処を行いましょう。

まずは処方医に相談する

最も重要なのは、降圧剤を処方している主治医への相談です。「最近、抜け毛が増えたり髪が薄くなったりした気がするのですが、お薬の影響は考えられますか?」と具体的に伝えてみましょう。

自己判断で薬をやめたりせず、次の診察日を待たずに必ず医師の診察を受けてください。

薬剤変更や調整の可能性

医師は、薄毛の症状と服用している薬剤との関連性を評価します。もし、降圧剤が原因である可能性が高いと判断された場合、他の系統の降圧剤への変更や用量の調整などを検討します。

ただし、血圧コントロールが最優先されるため、安全に変更可能かどうかは患者さん一人ひとりの状態によって異なります。

相談時に伝えるべき情報

医師が的確な判断をするためには、患者さんからの情報が重要です。

診察時には、前述した「気づいたときに記録しておきたいこと」に加えて、以下の点も伝えられると良いでしょう。

項目具体的な内容例
症状の具体的な内容抜け毛の量、薄くなった部位、髪質の変化など
症状の開始時期と経過いつから気になり始め、どのように変化してきたか
服用中の全ての薬剤降圧剤の種類、用量、開始時期。他の病気の薬、サプリメント、漢方薬なども
既往歴や現在の健康状態高血圧以外の持病、アレルギー歴、最近の体調変化など
生活習慣の変化食生活、睡眠、ストレス、ヘアケア方法の変更など

薄毛治療専門クリニックへの相談も選択肢

処方医に相談した結果、降圧剤の変更が難しい場合や薬剤以外の原因も考えられる場合、あるいはより専門的な診断や治療を希望する場合は、女性の薄毛治療を専門とするクリニックに相談するのも有効な選択肢です。

専門クリニックでは、頭皮や毛髪の状態を詳しく調べて原因に応じた適切な治療法を提案してくれます。

生活習慣の見直しによる薄毛対策

薬剤の影響だけでなく、日々の生活習慣も髪の健康に大きく関わっています。高血圧の管理にもつながる生活習慣の見直しは、薄毛対策としても有効です。

バランスの取れた食事と栄養

髪の毛は主にタンパク質(ケラチン)でできています。そのため健やかな髪を育むために、良質なタンパク質の十分な摂取が大切です。

また、タンパク質の合成を助ける亜鉛や頭皮の血行を促進するビタミンE、毛母細胞の働きをサポートするビタミンB群なども重要な栄養素です。

髪の健康に役立つ栄養素と主な食材例

栄養素髪への働き(期待される効果)
主な食材例
タンパク質髪の主成分ケラチンの材料となる肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛ケラチンの合成を助ける、細胞分裂を促進牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類、チーズ
ビタミンE血行を促進し、頭皮環境を整えるアーモンド、ナッツ類、植物油、アボカド、うなぎ
ビタミンB群皮脂分泌の調整、毛母細胞の活性化を助けるレバー、豚肉、マグロ、カツオ、納豆、卵、緑黄色野菜

特定の食品ばかりを食べるのではなく、様々な食品をバランス良く摂ることを心がけましょう。

良質な睡眠の確保

睡眠中には、髪の成長に欠かせない成長ホルモンが分泌されます。睡眠不足は成長ホルモンの分泌を妨げ、髪の成長サイクルに悪影響を与える可能性があります。

毎日決まった時間に寝起きするなど、質の高い睡眠を十分にとるようにしましょう。寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を控えるのも有効です。

ストレス軽減のための工夫

過度なストレスは、血管を収縮させて頭皮の血行を悪化させたりホルモンバランスを乱したりして、薄毛の原因となり得ます。

自分に合ったリラックス方法を見つけ、ストレスを溜め込まないようにする工夫が大切です。軽い運動、趣味の時間、入浴、瞑想などを日常生活に取り入れてみましょう。

頭皮ケアの基本

健やかな髪は、健康な頭皮から生まれます。

毎日のシャンプーで頭皮を清潔に保つのが基本ですが、洗いすぎや爪を立てて洗うと頭皮を傷つけたり、必要な皮脂まで奪ったりする可能性があるので注意が必要です。

ケアの種類ポイント注意点
シャンプーの選び方ご自身の頭皮タイプ(乾燥肌、脂性肌など)に合ったもの、洗浄力が強すぎないものを選ぶ刺激の強い成分(硫酸系洗浄剤など)が含まれていないか確認する
洗い方指の腹で優しくマッサージするように洗う。すすぎは十分に行う爪を立てない、熱すぎるお湯を避ける
ドライヤーの使い方頭皮から20cm程度離し、同じ場所に熱風を当て続けない。最後に冷風で仕上げる自然乾燥は雑菌が繁殖しやすいため、ドライヤーでしっかり乾かすのがおすすめ

頭皮マッサージは血行促進に役立ちますが、力を入れすぎないように注意しましょう。

女性の薄毛治療専門クリニックでできること

高血圧の治療を続けながら薄毛の悩みも改善したい場合、女性の薄毛治療を専門とするクリニックが力になります。専門医による診断と個々の状態に合わせた治療を提供してもらえます。

専門的な頭皮・毛髪診断

クリニックではまず丁寧なカウンセリングを行い、薄毛の悩みや生活習慣、既往歴などを詳しく伺います。

その後、マイクロスコープを用いた頭皮の状態チェック、毛髪の太さや密度の測定、血液検査(ホルモンバランスや栄養状態などを確認するため)など、専門的な検査を通じて薄毛の原因を探ります。

高血圧で服用中の薬剤情報も考慮し、総合的に診断します。

原因に合わせた治療法の提案

診断結果に基づき、一人ひとりの原因や症状の程度、生活スタイルに合わせた治療計画を提案します。

治療法には、内服薬や外用薬(ミノキシジルなど)、頭皮への有効成分注入療法、栄養指導、生活習慣改善のアドバイスなどが含まれます。

主な女性薄毛治療法

治療法の種類概要特徴
外用薬(塗布薬)ミノキシジルなど、発毛効果が認められている成分を頭皮に塗布する自宅で継続しやすい、効果が現れるまで数ヶ月かかる場合がある
内服薬スピロノラクトン(FAGAの場合など)、サプリメント(栄養補助)など医師の処方が必要、他の薬剤との飲み合わせに注意が必要
注入療法発毛・育毛を促す有効成分(成長因子など)を頭皮に直接注入するより直接的な効果が期待できる場合がある、複数回の施術が必要なことが多い
低出力レーザー治療特定の波長のレーザーを頭皮に照射し、血行促進や毛母細胞活性化を促す痛みはほとんどない、継続的な治療が必要

これらの治療法は、単独または組み合わせて行われます。

高血圧治療との連携

女性の薄毛治療専門クリニックでは、高血圧治療を受けていることを考慮した上で治療を進めます。

必要に応じて、高血圧の主治医と連携を取りながら、安全かつ効果的な治療法を選択します。服用中の降圧剤との相互作用がないかなどを確認し、全身の健康状態に配慮した治療計画を立てます。

安心して治療を受けるために

薄毛の悩みはデリケートな問題です。専門クリニックでは、プライバシーに配慮した空間で、女性医師やスタッフが丁寧に対応するところが多いです。

治療内容や費用について十分に説明を受け、納得した上で治療を開始することが大切です。疑問や不安な点は、遠慮なく医師に質問しましょう。

よくある質問

高血圧治療中の女性の薄毛に関して、よく寄せられるご質問にお答えします。

Q
降圧剤をやめれば髪は元に戻りますか?
A

もし降圧剤が薄毛の主な原因であった場合、医師の判断により薬剤を変更または中止すると脱毛が改善する可能性があります。

ただし髪の毛にはヘアサイクルがあるため、すぐに元通りになるわけではなく、数ヶ月以上の時間が必要です。

また、薬剤以外にも薄毛の原因があるときは薬剤の変更だけでは改善しないケースもあります。まずは処方医への相談が重要ですので、自己判断での中断は絶対にしないでください。

Q
薄毛に効く市販薬やサプリメントは使っても良いですか?
A

市販の発毛剤(ミノキシジル配合のものなど)や髪に良いとされるサプリメントは数多く存在します。

しかし、ご自身の薄毛の原因に合っていない場合、効果が期待できないだけでなく高血圧の治療に影響を与える可能性もゼロではありません。

特に内服するタイプのものは、自己判断で使用せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。専門クリニックでは、医学的根拠に基づいた治療やサプリメントの提案が可能です。

Q
クリニックでの治療は高血圧の治療と併用できますか?
A

多くの場合、併用は可能です。女性の薄毛治療専門クリニックでは、高血圧の治療や服用中の薬剤を考慮して安全な治療法を選択します。

例えば、外用薬や注入療法、低出力レーザー治療などは、全身への影響が少ないため、高血圧治療中でも行いやすい治療法です。

内服薬を用いる場合は、処方医と連携を取りながら慎重に進めます。カウンセリング時に高血圧の治療状況と服用薬について詳しく伝えると良いです。

Q
どのくらいの期間で効果が出ますか?
A

薄毛治療の効果が現れるまでの期間は、原因や選択する治療法、個人の体質によって大きく異なります。

一般的に、目に見える変化を感じるまでには少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の継続が必要となる方が多いです。

焦らず、根気強く治療を続けることが大切です。治療経過は定期的に医師が確認し、必要に応じて治療計画を見直します。

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