髪のボリュームが減ってきた、抜け毛が増えた気がするなど、女性の薄毛に関する悩みは少なくありません。
その原因はさまざまですが、食生活の乱れによる栄養不足も関係している可能性があります。なかでもミネラルの一種である亜鉛は、髪の成長に深く関わる栄養素として注目されています。
この記事では、女性の薄毛と亜鉛摂取の関係性、そして健康な髪を育むための栄養バランスの重要性について詳しく解説します。
女性の薄毛の原因と栄養の関係
女性の薄毛や抜け毛が起こる背景には、様々な要因が複雑に関係しています。
栄養状態もその一つであり、健康な髪を維持するためには、体に必要な栄養素をバランス良く摂取することが大切です。
ホルモンバランスの変化
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、髪の成長を促進してハリやコシを保つ働きがあります。
しかし、加齢や出産、ストレスなどによってエストロゲンの分泌量が減少すると、相対的に男性ホルモンの影響が強まり、ヘアサイクルが乱れて薄毛に繋がるケースがあります。
更年期はホルモンバランスが大きく変動するため、薄毛の悩みがとくに増える傾向にあります。栄養バランスの乱れは、ホルモンバランスの乱れを助長する可能性も指摘されています。
生活習慣の乱れ
睡眠不足や過度なストレス、喫煙や不規則な食生活といった生活習慣の乱れは、血行不良や自律神経の乱れを引き起こして頭皮環境の悪化を招きます。
頭皮への血流が滞ると髪の成長に必要な栄養素が毛根まで十分に届かなくなり、結果として髪が細くなったり、抜け毛が増えたりする原因となります。
バランスの取れた食事は、健やかな生活習慣の基盤です。
間違ったヘアケア
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用や、頻繁なカラーリング、パーマや過度なブラッシングは頭皮や髪にダメージを与え、薄毛の原因となり得ます。
また、頭皮の乾燥や皮脂の過剰分泌も毛穴の詰まりや炎症を引き起こし、健康な髪の成長を妨げる可能性があります。
そのため、自身の髪質や頭皮の状態に合ったケア方法を選ぶことが重要です。
栄養不足の影響
髪の毛は主にケラチンというタンパク質からできています。そのため、タンパク質の摂取量が不足すると髪の材料が足りなくなり、細く弱い髪しか作られなくなります。
また、タンパク質の合成や細胞分裂を助けるビタミンやミネラルも、髪の成長には欠かせません。
亜鉛はケラチンの合成に関わる重要なミネラルであり、不足すると薄毛のリスクを高める可能性があります。
栄養不足が招く可能性のある髪の変化
栄養素 | 不足した場合の髪への影響(可能性) |
---|---|
タンパク質 | 髪の細り、強度の低下 |
亜鉛 | 抜け毛の増加、髪の成長遅延 |
鉄分 | 抜け毛、髪質の低下 |
髪の健康に亜鉛が重要な理由
亜鉛は体内に存在する必須ミネラルの一つであり、さまざまな生命活動に関与しています。髪の健康維持においては、その役割は非常に大きいと考えられています。
亜鉛がどのように髪の成長に関わっているのかを見ていきましょう。
ケラチン合成のサポート
髪の主成分であるケラチンは、複数のアミノ酸が結合して作られるタンパク質です。亜鉛は、このケラチンを合成する過程で重要な役割を担う酵素の働きを助けます。
体内の亜鉛が不足するとケラチンの合成がスムーズに行われなくなり、結果として髪の毛が正常に作られにくくなる可能性があります。これが、薄毛や髪質の低下に繋がると考えられています。
細胞分裂の促進
髪の毛は、毛根にある毛母細胞が分裂を繰り返すことによって成長します。亜鉛は細胞分裂を正常に行うためにも必要なミネラルです。
亜鉛が不足すると毛母細胞の分裂が滞り、髪の成長サイクル(ヘアサイクル)が乱れる可能性があります。
ヘアサイクルが短縮されると髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまい、薄毛が進行する一因となります。
頭皮環境の維持
亜鉛は、皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)を正常に保つ働きも持っています。
頭皮も皮膚の一部であり、亜鉛が不足するとターンオーバーが乱れ、乾燥やフケ、炎症などを引き起こしやすいです。
頭皮環境が悪化すると健康な髪が育ちにくくなるため、亜鉛による頭皮環境の維持も、間接的に髪の健康に貢献していると言えます。
亜鉛の主な働き
働き | 髪への関与 |
---|---|
タンパク質合成 | ケラチン合成のサポート |
細胞分裂 | 毛母細胞の分裂促進 |
皮膚代謝 | 頭皮環境の維持 |
亜鉛不足が引き起こす可能性のある髪への影響
体内の亜鉛が不足すると、髪の毛にさまざまな影響が現れる可能性があります。
亜鉛不足は薄毛や抜け毛の直接的な原因となるだけでなく、髪質の低下にも繋がります。
抜け毛の増加
亜鉛不足による最も顕著な影響の一つが、抜け毛の増加です。前述の通り、亜鉛はケラチンの合成や毛母細胞の分裂に深く関わっています。
亜鉛が不足すると毛母細胞の働きが低下し、髪の成長が妨げられたり、ヘアサイクルが乱れたりします。
その結果、本来ならまだ成長期にあるはずの髪が早期に休止期に入り、抜け落ちてしまいます。
髪の成長遅延
亜鉛不足によって毛母細胞の細胞分裂が滞ると、髪の伸びるスピードが遅くなる可能性があります。
髪の成長が遅いと感じるときは、亜鉛不足が関係しているかもしれません。
髪質の低下(細毛化・パサつき)
亜鉛は、丈夫で健康な髪を作るためにも重要です。亜鉛が不足するとケラチンの合成が不十分になり、髪の毛が細くなったり、もろくなったりしやすいです。
また、髪のツヤや潤いが失われ、パサつきやすくなることも考えられます。髪質が悪くなったと感じる場合も、栄養バランスの見直しが大切です。
亜鉛不足のサインかもしれない症状
症状 | 詳細 |
---|---|
抜け毛の増加 | ヘアサイクルの乱れによる可能性 |
髪の成長が遅い | 毛母細胞の分裂低下による可能性 |
髪が細くなった | ケラチン合成不足による可能性 |
亜鉛を多く含む食品と適切な摂取量
亜鉛は体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。日々の食生活で亜鉛を意識的に取り入れると、髪の健康維持に繋がります。
どのような食品に亜鉛が多く含まれているのか、そして1日にどれくらいの量を摂取すれば良いのかを知っておきましょう。
亜鉛を豊富に含む食品
亜鉛はさまざまな食品に含まれていますが、特に含有量が多いのは動物性食品です。
亜鉛が豊富な食品
食品カテゴリー | 具体的な食品例 | 備考 |
---|---|---|
魚介類 | 牡蠣、うなぎ、たらこ | 特に牡蠣は含有量が多い |
肉類 | 牛肉(特に赤身)、豚レバー、鶏レバー | レバー類も豊富 |
その他 | 卵、チーズ、納豆、ナッツ類(アーモンド、カシューナッツ)、ごま | 植物性食品にも含まれる |
植物性食品に含まれる亜鉛は、動物性食品に比べて吸収率が低い傾向にあります。
しかし、ビタミンCや動物性タンパク質と一緒に摂取すると、吸収率を高められます。
亜鉛の推奨摂取量
厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、成人女性の亜鉛の推奨量は1日あたり8mgです。
ただし、妊娠中や授乳中は、胎児や母乳への供給のためさらに多くの亜鉛が必要となります。
女性の年代別亜鉛推奨量(mg/日)
年齢 | 推奨量 | 備考 |
---|---|---|
18~74歳 | 8mg | 通常の成人女性 |
妊婦(付加量) | +2mg | 合計10mg |
授乳婦(付加量) | +4mg | 合計12mg |
通常の食生活を送っていれば、極端な亜鉛不足になることは稀ですが、偏食や極端なダイエットをしている場合は注意が必要です。
吸収率を高める工夫
亜鉛の吸収率は、一緒に摂取する栄養素によって影響を受けます。吸収を高めるためにはビタミンCやクエン酸、動物性タンパク質を含む食品と一緒に摂ると効果的です。
例えば、肉や魚と一緒にレモン汁や酢を使った料理、果物などを組み合わせると良いでしょう。
一方で、加工食品に多く含まれるリン酸塩や穀類や豆類に含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収を妨げる可能性があるため、過剰摂取には注意が必要です。
亜鉛サプリメント利用時の注意点
食事だけで十分な亜鉛を摂取するのが難しいときや、医師から亜鉛不足を指摘された場合など、サプリメントの利用を検討する方もいるのではないでしょうか。
しかし、亜鉛サプリメントの利用にはいくつかの注意点があります。
過剰摂取のリスク
亜鉛は体に必要なミネラルですが、摂りすぎると健康被害を引き起こす可能性があります。
亜鉛の過剰摂取は吐き気や嘔吐、下痢や腹痛などの消化器症状や、頭痛、めまいなどを引き起こすケースがあります。
また、長期的に過剰摂取を続けると他の銅や鉄の吸収を阻害し、貧血や免疫機能の低下などを招く恐れがあります。
亜鉛の耐容上限量(mg/日)
年齢 | 耐容上限量 |
---|---|
18~29歳 | 35mg |
30~64歳 | 40mg |
65歳以上 | 35mg |
耐容上限量とは、健康障害リスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限です。
サプリメントを利用する場合は、この上限量を超えないように注意が必要です。
他の栄養素との相互作用
亜鉛は、銅や鉄といった他のミネラルと吸収経路が競合します。そのため、亜鉛サプリメントを長期間、高用量で摂取し続けると銅や鉄の吸収が妨げられ、欠乏症を引き起こす可能性があります。
特に銅欠乏は貧血や神経障害、骨の異常などに繋がるため注意が必要です。
サプリメントを選ぶ際は亜鉛だけでなく、他のミネラルとのバランスも考慮されているか確認するのも一つの方法です。
サプリメント利用の判断基準
亜鉛サプリメントの利用は自己判断で行わず、まずは医師や管理栄養士などの専門家に相談することが重要です。
血液検査などで亜鉛不足が確認された場合や、食事改善だけでは摂取が難しい場合に、専門家の指導のもとで適切な量を摂取するようにしましょう。
安易なサプリメント頼りは避け、まずはバランスの取れた食事を心がけるのが基本です。
薄毛対策における栄養バランスの全体像
これまで亜鉛の重要性について解説してきましたが、薄毛対策においては亜鉛だけを摂取すれば良いというわけではありません。
特定の栄養素だけを過剰に摂取するのではなく、髪の成長に必要な様々な栄養素をバランス良く摂取することが、健やかな髪を育むための鍵となります。
特定の栄養素への偏りの危険性
「髪に良い」とされる特定の食品や栄養素ばかりを摂取するような偏った食生活は、かえって栄養バランスを崩し、健康を損なう可能性があります。
亜鉛の過剰摂取が銅の吸収を阻害するように、栄養素同士は互いに影響し合っています。
ある栄養素が不足しても、また過剰になっても、体の機能は正常に働きません。全体的な栄養バランスを整える工夫が結果的に髪の健康にも繋がります。
バランスの取れた食事の基本
バランスの取れた食事とは、主食(ごはん、パン、麺類など)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品など)、副菜(野菜、きのこ、海藻など)を揃えることを基本とします。
これによりエネルギー源となる炭水化物や体を作るタンパク質、体の調子を整えるビタミンやミネラルを偏りなく摂取できます。
食事バランスのポイント
食事区分 | 主な役割 | 食品例 |
---|---|---|
主食 | エネルギー源 | ごはん、パン、麺 |
主菜 | 体を作る(タンパク質源) | 肉、魚、卵、大豆製品 |
副菜 | 体の調子を整える(ビタミン・ミネラル源) | 野菜、きのこ、海藻 |
これに加えて、牛乳・乳製品や果物も適量取り入れるとさらに栄養バランスは向上します。
継続することの重要性
髪の毛は一朝一夕に生え変わるものではありません。ヘアサイクルには時間がかかるため、栄養改善の効果が髪に現れるまでには、数ヶ月単位の時間が必要です。
一時的に栄養バランスを整えるだけでなく、健康的な食生活を継続することが、長期的な薄毛対策には大切です。
無理なく続けられる範囲で、日々の食事内容を見直していくことから始めましょう。
亜鉛だけじゃない!髪に必要なその他の栄養素
健康な髪を育むためには、亜鉛以外にも様々な栄養素が必要です。
ここでは、特に重要と考えられる栄養素とその働き、多く含む食品について紹介します。他の栄養素も意識して、バランス良く摂取することを心がけましょう。
タンパク質
髪の毛の約90%はケラチンというタンパク質で構成されています。そのため、タンパク質は髪の最も基本的な材料となります。
不足すると髪が細くなったり、ハリやコシが失われたりする原因になります。肉類や魚介類、卵や大豆製品、乳製品などに豊富に含まれています。
ビタミン類
ビタミン類はタンパク質の代謝を助けたり、頭皮環境を整えたりするなど、髪の健康維持に間接的に関与しています。
ビタミン | 役割 |
---|---|
ビタミンB群(B2, B6, ビオチンなど) | 皮脂分泌の調整、血行促進、ケラチン合成のサポート |
ビタミンC | コラーゲン生成促進、抗酸化作用、鉄分の吸収促進 |
ビタミンE | 血行促進、抗酸化作用 |
ビタミンB群はレバーや肉類、魚介類や納豆、卵などに、ビタミンCは果物や野菜に、ビタミンEはナッツ類や植物油に多く含まれます。
鉄分
鉄分は血液中のヘモグロビンの材料となり、全身に酸素を運ぶ役割を担っています。レバーや赤身の肉、あさりやほうれん草、小松菜などに多く含まれています。
頭皮への酸素供給が不足すると、毛母細胞の働きが低下し、抜け毛や薄毛に繋がる可能性があります。
女性は月経により鉄分を失いやすいため、意識的な摂取が必要です。
髪の健康に関わる主な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
ビタミンB群 | 代謝促進、頭皮環境整備 | レバー、納豆、卵 |
鉄分 | 酸素運搬(頭皮への供給) | レバー、赤身肉、ほうれん草 |
よくある質問
女性の薄毛と亜鉛、栄養に関する疑問について、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Q亜鉛を摂れば髪は必ず生えますか?
- A
亜鉛は髪の成長に必要な栄養素の一つですが、亜鉛を摂取するだけで必ず髪が生える、あるいは薄毛が改善するとは限りません。
女性の薄毛の原因はホルモンバランスや遺伝、ストレスや生活習慣、他の病気など多岐にわたります。
亜鉛不足が原因の一部である場合には改善が期待できますが、他の要因が強い場合は亜鉛摂取だけでは効果が見られないケースもあります。
まずはご自身の薄毛の原因を特定することが重要です。
- Qどのくらいの期間、亜鉛やバランスの取れた食事を続ければ効果が出ますか?
- A
髪の毛にはヘアサイクルがあり、成長期、退行期、休止期を経て自然に抜け落ち、新しい髪が生えてきます。このサイクルは通常2年から6年程度と言われています。
食生活の改善による効果が目に見える形で現れるまでには、少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。効果を急がず、長期的な視点で継続しましょう。
- Q食事改善だけで薄毛は治りますか?
- A
栄養バランスの改善は、健康な髪を育むための土台作りとして非常に重要です。栄養不足が原因の薄毛であれば、食事改善によって改善する可能性はあります。
しかし、加齢によるホルモンバランスの変化(FAGA:女性男性型脱毛症など)や、他の病気が原因となっている場合、食事改善だけでは十分な効果が得られないケースも少なくありません。
セルフケアで改善が見られないときは、専門のクリニックに相談することをおすすめします。
- Q薄毛が気になったら、まず何をすべきですか?
- A
まずはご自身の生活習慣や食生活を見直してみましょう。バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレス軽減などを心がけるのが第一歩です。また、頭皮に優しいヘアケアを試すのも良いでしょう。
それでも抜け毛や薄毛が続く、あるいは進行するようであれば、自己判断せずに早めに皮膚科や女性の薄毛治療を専門とするクリニックを受診し、原因を特定した上で適切な対策をとることが重要です。
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