「保湿クリームとして有名なヒルドイドが、もしかしたら薄毛に効果があるかもしれない」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

本来は皮膚の乾燥や血行障害の改善に用いる医薬品ですが、その血行を促進する働きが、女性の薄毛の悩みに対して良い影響を与える可能性が指摘されています。

この記事では、ヒルドイドの主成分であるヘパリン類似物質が頭皮にどのように作用するのか、育毛効果が期待される理由、そして女性が使用する上での注意点などを詳しく解説します。

ヒルドイドとは?本来の目的と成分

ヒルドイドは、主に皮膚の乾燥改善や血行促進を目的として医療機関で処方される外用薬です。

肌の保湿だけでなく、しもやけやケロイドの予防と治療などにも用いられる医薬品で、その中心的な役割を担っているのが「ヘパリン類似物質」という成分です。

保湿と血行促進を目的とした医薬品

ヒルドイドは、主に皮脂欠乏症やしもやけ、ケロイドの予防と治療などに用いられます。これらの症状に共通しているのは、皮膚の乾燥や血行不良が関係している点です。

ヒルドイドは皮膚に潤いを与え、血行を良くして、これらの症状を改善に導きます。

乾燥して硬くなった皮膚を柔らかくし、肌のバリア機能をサポートする働きは、多くの方に知られています。

主成分ヘパリン類似物質の働き

ヒルドイドの中心的な役割を担っているのが、「ヘパリン類似物質」という成分です。この成分には、大きく分けて3つの重要な働きがあります。

1つ目は「保湿作用」で、水分を保持する能力が高く、角質層に水分を補給して乾燥を防ぎます。2つ目は「血行促進作用」で、皮膚の血管を広げて血液の流れを良くします。

そして3つ目が「抗炎症作用」で、軽度の炎症を抑える働きを持ちます。これらの作用が複合的に働いて、皮膚の状態を健やかに保ちます。

ヘパリン類似物質の3つの主要な働き

作用内容頭皮への期待
保湿作用角質層の水分保持能力を高め、皮膚の乾燥を防ぐ。乾燥によるフケやかゆみを抑え、頭皮環境を整える。
血行促進作用末梢血管を拡張し、皮膚組織の血液循環を促す。毛母細胞への栄養供給を円滑にし、発毛をサポートする。
抗炎症作用軽度の炎症を鎮め、皮膚の状態を穏やかにする。頭皮の炎症を抑え、健康な髪が育つ土台を維持する。

ソフト軟膏・クリーム・ローション・スプレーの違い

ヒルドイドには、いくつかの剤形(タイプ)があります。それぞれ使用感や適した部位が異なるため、目的に応じて使い分けることが大切です。

頭皮への使用を考えた場合、べたつきが少なく、髪の間にも塗り広げやすいローションタイプやスプレータイプが比較的使いやすいでしょう。

一方で、軟膏やクリームは保湿力に優れていますが、頭皮に塗るとべたつきやすい傾向があります。

剤形による特徴と使用感の比較

剤形保湿力使用感・特徴
ソフト軟膏高い油分が多く、患部を保護する力に優れるが、べたつきやすい。
クリームやや高い軟膏より伸びが良く、しっとりとした使用感。
ローション標準乳液状で塗り広げやすく、べたつきが少ない。広範囲への使用に適している。
フォーム標準泡状で液だれしにくく、塗りやすい。べたつきも少ない。

なぜヒルドイドに育毛効果が期待されるのか

ヒルドイドが本来、育毛剤ではないことは事実です。

しかし、その主成分であるヘパリン類似物質の持つ「血行促進作用」と「保湿作用」が、結果として育毛に良い影響を与えるのではないかと考えられています。

頭皮の血行促進による影響

髪の毛は、毛根にある毛母細胞が細胞分裂を繰り返して成長します。この毛母細胞が活発に働くためには、血液から十分な栄養素と酸素を受け取ることが必要です。

頭皮の血行が悪くなると栄養素が毛根まで届きにくくなり、髪の成長が妨げられたり、髪が細くなったりする原因になります。

ヒルドイドの血行促進作用は、頭皮の毛細血管の血流を改善し、毛母細胞への栄養供給をサポートする可能性があります。その結果、髪が健康に育つための環境が整うと考えられます。

頭皮の乾燥を防ぎ環境を整える

頭皮も顔や体の皮膚と同じで、乾燥はさまざまなトラブルの原因になります。

頭皮が乾燥するとバリア機能が低下して外部からの刺激に弱くなったり、フケやかゆみが発生しやすくなったりします。こうした頭皮環境の悪化は、健康な髪の育成を妨げます。

ヒルドイドの優れた保湿作用は頭皮に潤いを与え、乾燥によるトラブルを防ぎます。潤いのある柔軟な頭皮は、健康な髪を育むための大切な土台です。

毛母細胞への栄養供給をサポート

髪の成長に必要な栄養は食事から摂取され、血液によって頭皮の毛細血管を通って毛母細胞へと運ばれます。ヒルドイドの働きは、この「運搬ルート」をスムーズにすることに例えられます。

いくら栄養バランスの取れた食事を心がけても、血行が悪ければ栄養が目的地まで届きません。

血行を促進して、この最後の道のりをしっかりとサポートし、毛母細胞が栄養を効率よく受け取れるように手助けする効果が期待できます。

髪の成長に必要な栄養素の例

  • タンパク質(アミノ酸)
  • 亜鉛
  • ビタミン類

女性の薄毛の原因とヒルドイドの関連性

女性の薄毛は、加齢やホルモンバランスの乱れなど、複数の要因が絡み合って起こります。

特に頭部全体の髪が薄くなる「びまん性脱毛症」には、頭皮の血行不良や乾燥が深く関係しており、ヒルドイドの持つ血行促進・保湿作用が、これらの問題を改善する手助けとなる可能性があります。

女性に多いびまん性脱毛症とは

びまん性脱毛症は、頭全体の髪の毛が均等に薄くなるのが特徴です。

分け目が目立つようになった、髪にハリやコシがなくなった、全体のボリュームが減った、と感じる場合は、このタイプの可能性があります。

原因は一つではなく、加齢やホルモンバランスの乱れ、ストレスや栄養不足、誤ったヘアケアなど、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

加齢やホルモンバランスの変化と頭皮環境

女性は年齢とともに女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が減少します。

エストロゲンは髪の成長を促進し、その期間を維持する働きがあるため、減少すると髪の成長期が短くなり、抜け毛が増えやすくなります。

また、更年期や出産後など、ホルモンバランスが大きく変動する時期にも、一時的に抜け毛が増える場合があります。

こうしたホルモンの変化は、頭皮の乾燥や血行不良を招きやすく、薄毛の進行に影響を与えます。

女性のライフステージと薄毛リスク

ライフステージ主な要因頭皮への影響
思春期~20代過度なダイエット、ストレス、誤ったヘアケア栄養不足、頭皮の炎症、血行不良
出産後女性ホルモンの急激な減少、育児ストレス一時的な抜け毛の増加(産後脱毛症)
更年期女性ホルモンの減少、加齢髪のハリ・コシ低下、びまん性脱毛

血行不良が引き起こす髪への影響

女性の薄毛の多くの要因に共通して見られるのが「血行不良」です。ストレスや睡眠不足、運動不足や冷え性などは、すべて全身の血行を悪化させる原因となります。

特に頭皮は心臓から遠い位置にあるため、血行不良の影響を受けやすい部位です。

ヒルドイドが持つ血行促進作用は、これらの要因によって滞りがちになった頭皮の血流を改善する点で、女性の薄毛対策の一つの方法として期待されるのです。

ヒルドイドの育毛効果に関する研究や見解

ヒルドイドに育毛の可能性があるという話は魅力的ですが、医薬品としてその効果が正式に認められているわけではありません。

育毛効果に関する現在の位置づけや、医療現場での見方について客観的な情報を確認しておきましょう。

育毛剤としての正式な承認はない

最も重要な点として、ヒルドイドおよびそのジェネリック医薬品は、どの国においても「脱毛症の治療」や「育毛」を目的とした効能・効果で承認されてはいません。

あくまで皮膚疾患治療薬であり、その枠を超えた使用は適応外となります。

インターネット上にはさまざまな情報がありますが、この事実を正確に理解しておく必要があります。

医療現場における見解

多くの医師は、ヒルドイドを積極的に育毛目的で処方することはありません。なぜなら、育毛効果に関する十分な科学的データが蓄積されておらず、効果や安全性が確立していないためです。

ただし、一部の医師は、その血行促進作用や保湿作用が頭皮環境の改善に寄与する可能性を考慮し、補助的なケアとしてアドバイスをするケースもゼロではありません。

しかし、それはあくまで薄毛治療の主軸ではなく、補助的な位置づけです。

血行促進作用の育毛への応用

ヒルドイドの育毛効果が期待される根拠は、その血行促進作用にあります。

実際に、女性の薄毛治療で効果が認められている「ミノキシジル」という成分も、元々は高血圧の治療薬として開発され、血管を拡張して血流を良くする作用を持っています。

作用の仕方は異なりますが、「血行を促進して毛根に栄養を届ける」という基本的な考え方は共通しています。

このため、ヘパリン類似物質の血行促進作用が育毛に応用できるのではないか、という期待が持たれているのです。

育毛方法の比較

成分主な働きかけ承認
ヘパリン類似物質血行促進、保湿による頭皮環境改善育毛目的での承認なし
ミノキシジル血管拡張による血行促進、毛母細胞の活性化壮年性脱毛症における発毛、育毛効果で承認あり

女性がヒルドイドを頭皮に使用する際の注意点

ヒルドイドを頭皮に使用する際は、医薬品であることを理解し、副作用リスクへの注意が重要です。

適量を守り、もし皮膚に異常を感じた場合はすぐに使用を中止してください。また、他の育毛剤と併用する際は、自己判断せず必ず医師に相談する必要があります。

副作用のリスク

ヒルドイドは副作用の少ない安全な薬とされていますが、人によっては皮膚炎やかゆみ、発疹や赤み、刺激感などが現れる場合があります。

頭皮は他の部位に比べてデリケートなため、異常を感じたらすぐに使用を中止し、医師や薬剤師に相談しましょう。

また、血液を固まりにくくする作用があるため、出血性の疾患がある方や、ごくわずかでも出血の可能性がある傷口への使用は避ける必要があります。

確認すべき主な副作用

症状対処法
皮膚炎、かゆみ、発疹、赤み直ちに使用を中止し、症状が続く場合は医師に相談する。
皮膚刺激感、紫斑使用を中止し、様子を見る。改善しない場合は医師に相談する。

正しい使用量と塗布方法

どのような薬でも、過剰な使用は副作用のリスクを高めます。頭皮に塗る場合も適量を守るのが基本です。

ローションタイプであれば1円玉大程度を指に取り、薄く伸ばすように塗布します。

一度にたくさん塗るのではなく、気になる部分を中心に優しくマッサージするようになじませましょう。強くこすると頭皮を傷つける原因になるので注意してください。

頭皮への塗布手順

  1. 洗髪後、髪と頭皮をしっかり乾かす
  2. 適量を指の腹にとる
  3. 分け目など、気になる部分に優しく塗布する
  4. 指の腹で円を描くように軽くマッサージする

他の育毛剤や治療薬との併用

すでにミノキシジル配合の育毛剤など、他の治療薬を使用している場合は、ヒルドイドを併用する前に必ず医師に相談してください。

薬の成分同士が相互に影響し、予期せぬ副作用を引き起こしたり、本来の効果を損なったりする可能性があります。

自己判断での併用は絶対に避けるべきです。安全な治療のためにも、専門家の指示に従いましょう。

医師への相談の重要性

薄毛の悩みは一人で抱え込まず、専門の医師に相談することが大切です。

女性の薄毛の原因は多岐にわたるため、まずはその原因を正確に診断してもらうのが、改善への第一歩です。

その上で、ヒルドイドの使用が適切かどうかを含め、自分に合った治療法についてアドバイスを受けると、安全かつ効果的な対策につながります。

ヒルドイド以外の女性の薄毛治療の選択肢

ヒルドイドはあくまで頭皮環境を整える補助的な選択肢の一つです。女性の薄毛治療には、ヒルドイドによる頭皮ケア以外にも医学的に効果が認められた選択肢があります。

代表的なものとして、発毛を促進する「ミノキシジル外用薬」や、抜け毛の原因となるホルモンに働きかける「スピロノラクトン内服薬」などがあり、専門クリニックでの治療も有効です。

ミノキシジル外用薬

ミノキシジルは、日本皮膚科学会のガイドラインでも女性の薄毛治療に推奨されている成分です。

頭皮に直接塗布することで、毛母細胞を活性化させ、発毛を促進する効果が認められています。

もともと血管拡張薬として開発された経緯があり、頭皮の血流を改善する作用も持っています。女性向けには、濃度が調整された製品が市販されています。

スピロノラクトン内服薬

スピロノラクトンは、本来は高血圧の治療に用いられる利尿薬ですが、男性ホルモンの働きを抑制する作用があるため女性の薄毛治療にも応用されます。

男性ホルモンは髪の成長を妨げる一因となる場合があるため、その影響を抑えると抜け毛を防ぎ、毛髪の成長を助けられます。医師の処方が必要な内服薬です。

主な女性薄毛治療薬の比較

治療薬種類主な働き
ミノキシジル外用薬毛母細胞の活性化、血行促進
スピロノラクトン内服薬男性ホルモンの抑制
サプリメント栄養補助髪の成長に必要な栄養素(亜鉛、ビタミンなど)を補給

専門クリニックでの治療法

薄毛治療を専門とするクリニックでは、薬物治療のほかにも、さまざまな取り組みを行っています。

例えば、髪の成長に必要な成分を直接頭皮に注入する治療や、LEDの光を照射して頭皮の細胞を活性化させる治療などがあります。

専門医が診察の上、一人ひとりの症状や原因に合わせた治療計画を提案してくれます。

よくある質問

さいごに、ヒルドイドの育毛効果に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
ヒルドイドを使い始めてからどれくらいで効果を実感できますか
A

効果を実感できるまでの期間には個人差があり、一概には言えません。ヒルドイドは育毛剤ではなく、あくまで頭皮の血行促進や保湿を通じて間接的に頭皮環境を整えるものです。

髪の毛にはヘアサイクル(毛周期)があるため、頭皮環境が改善されてから新しい髪が健康に育つまでには、少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の期間を見るのが一般的です。

内服薬やミノキシジル外用薬、生活習慣の改善などでも同じですが、薄毛対策は焦らず根気強いケアの継続が大切です。

Q
ヒルドイドはどこで購入できますか
A

ヒルドイドは医療用医薬品であるため、医師の処方箋が必要です。皮膚科や内科などの医療機関を受診し、医師の診察を受けた上で処方してもらうのが正規の入手方法です。

美容目的での処方は原則として行われません。また、近年はヘパリン類似物質を配合した市販薬も販売されていますが、医療用医薬品とは成分濃度が異なる場合があります。

Q
べたつきが気になりますが、対策はありますか
A

べたつきを軽減する方法はあります。まず、剤形の工夫です。軟膏やクリームタイプよりも、ローションタイプやフォームタイプの方がべたつきは少なくなります。

また、塗る量も重要です。一度にたくさん塗るのではなく、少量ずつ指に取り、頭皮に薄く伸ばすように使いましょう。

特に、夜の洗髪後、就寝前に使用すると、日中のべたつきを気にせずケアできます。

Q
妊娠中や授乳中でも使用できますか
A

妊娠中や授乳中の使用については、自己判断せず必ず医師に相談してください。

ヒルドイドは経皮吸収が少なく、大きな影響はないとされることが多いですが、安全性が完全に確立されているわけではありません。

特に妊娠中は体がデリケートな時期ですので、使用の可否については、かかりつけの産婦人科医や皮膚科医の指示に従うのが最も安全です。

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