近年、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬にも、女性の薄毛に対応した製品が増えてきました。
しかし、体の中から働きかける内服薬と、頭皮に直接塗る外用薬があり、どちらを選べば良いのか、どのように使い分ければ良いのか迷うことも多いはずです。
この記事では、市販されている女性向けの薄毛治療薬について、その種類や特徴、内服薬と外用薬の正しい使い分け、そして使用する上での注意点などを詳しく解説します。
なぜ女性の薄毛は起こるのか?主な原因を理解する
女性の薄毛は、男性とは異なる要因が複雑に絡み合って発生することが多いです。ここでは、女性の薄毛を引き起こす主な原因について掘り下げていきます。
ホルモンバランスの変化
女性の体は、一生を通じて女性ホルモンの影響を大きく受け、特にエストロゲンというホルモンは、髪の成長を促進し、そのハリやコシを保つ働きがあります。
このホルモンバランスが乱れると、ヘアサイクルに影響が出て薄毛につながることがあります。
産後・更年期の影響
妊娠中はエストロゲンの分泌量が増え、髪の毛が抜けにくい状態になります。しかし、出産後はホルモンバランスが急激に元に戻るため、それまで抜けずにいた髪が一気に抜け落ちることがあります。
これを分娩後脱毛症と呼びます。多くは一時的なものですが、回復には時間がかかることもあります。
また、更年期を迎えるとエストロゲンの分泌が減少し、髪の成長期が短くなることで、髪全体が細く、ボリュームダウンする傾向があります。
ストレスとホルモン
過度なストレスは、自律神経やホルモンバランスの乱れを引き起こします。
ストレス状態が続くと、血管が収縮して頭皮への血流が悪化し、髪の成長に必要な栄養が届きにくくなり、また、男性ホルモンが優位になることもあり、薄毛を助長する一因です。
ピルの服用中止など
経口避妊薬(ピル)の服用を中止した際にも、ホルモンバランスが大きく変動し、出産後と同様に、一時的に抜け毛が増えることがあります。
これも通常は時間が経つにつれて落ち着いていきますが、不安な場合は専門家への相談が推奨されます。
生活習慣の乱れ
日々の生活習慣も、健康な髪を育む上で非常に重要です。不規則な生活は、気づかないうちに髪の健康を損なっている可能性があります。
食生活の偏り
髪の毛は主にケラチンというタンパク質でできています。そのため、タンパク質が不足すると、健康な髪は作られません。
また、髪の成長をサポートするビタミンやミネラル、特に亜鉛やビタミンB群などが不足することも、薄毛や髪質の低下につながります。
インスタント食品や外食に偏った食事は、栄養バランスが崩れやすいので注意が必要です。
睡眠不足の影響
髪の成長を促す成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されます。
特に、入眠後の深い眠りの時間帯に多く分泌されるため、睡眠時間が不足したり、眠りが浅かったりすると、成長ホルモンの分泌が不十分になり、髪の健やかな成長が妨げられてしまいます。
過度なダイエット
急激な体重減少を伴う過度なダイエットは、体にとって大きな負担です。食事制限によって髪の成長に必要な栄養素が極端に不足し、体が生命維持を優先するため、髪への栄養供給が後回しにされてしまいます。
その結果、抜け毛が増えたり、髪がやせ細ったりすることがあります。
頭皮環境の悪化
髪が生える土台である頭皮の環境が悪いと、健康な髪は育ちません。日々のヘアケアや生活習慣が、頭皮にダメージを与えていることも考えられます。
間違ったヘアケア
洗浄力の強すぎるシャンプーで必要な皮脂まで洗い流してしまったり、逆に洗い残しがあったりすると、頭皮が乾燥したり、毛穴が詰まったりして炎症を引き起こす原因になります。
また、爪を立ててゴシゴシ洗うことも頭皮を傷つける行為です。
血行不良
頭皮の血行が悪くなると、毛根にある毛母細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなります。デスクワークによる肩こりや首こり、運動不足、喫煙などは、全身の血行を悪化させ、頭皮の血流にも影響を与えます。
紫外線によるダメージ
顔や腕と同じように、頭皮も紫外線のダメージを受けます。紫外線は頭皮を乾燥させ、炎症を引き起こすだけでなく、毛母細胞に直接ダメージを与えて、髪の成長を妨げる可能性があります。
特に髪の分け目は紫外線を浴びやすいため、注意が必要です。
その他の要因
上記以外にも、いくつかの要因が薄毛に関係していることがあります。
遺伝的素因
薄毛になりやすい体質は、遺伝することがあると考えられています。ただし、遺伝的素因があるからといって必ず薄毛になるわけではなく、生活習慣やケアによってその進行に影響を与えることは可能です。
病気や薬の副作用
甲状腺機能の異常や膠原病などの病気が原因で、脱毛が起こることがあります。また、特定の治療薬の副作用として脱毛が見られる場合もあります。
急に抜け毛が増えたなど、体に他の不調も見られる場合は、まず医療機関を受診することが大切です。
市販で購入できる女性の薄毛治療薬の種類
薄毛対策として市販薬を検討する際、大きく分けて「外用薬」と「内服薬」の2つの選択肢があります。それぞれ働きかける場所や目的が異なるため、特徴を理解して選ぶことが重要です。
外用薬(塗り薬)の世界
外用薬は、頭皮に直接塗布することで、毛根に働きかけ、発毛や育毛を促すものです。気になる部分に集中的にアプローチできるのが大きな特徴です。
ミノキシジル配合外用薬
現在、日本で唯一、発毛効果が認められている市販の成分が「ミノキシジル」です。
もともとは高血圧の治療薬として開発されましたが、副作用として多毛が見られたことから、発毛剤として研究が進められました。
ミノキシジルは、頭皮の血管を拡張して血流を改善し、毛根にある毛母細胞を活性化させることで、新しい髪の毛を生やし、今ある髪を太く強く育てる効果が期待できます。
女性向けには、ミノキシジルの配合濃度が1%の製品が市販されています。
その他の有効成分
ミノキシジル以外の外用薬は、主に「育毛剤」や「ヘアトニック」として販売されており、医薬部外品に分類されます。
発毛というよりは、頭皮環境を整えて抜け毛を予防し、今ある髪を健康に育てることを目的としています。センブリエキスやグリチルリチン酸ジカリウムといった成分が、血行促進や抗炎症作用を担います。
外用薬の選び方のポイント
すでに薄毛が進行し、新しい髪を生やしたいと考えている場合は、発毛効果の認められているミノキシジル配合の発毛剤が第一の選択肢となります。
一方で、抜け毛の予防や頭皮環境の改善が目的であれば、育毛剤も有効な選択肢です。また、アルコール成分による刺激が気になる方は、低刺激性の製品を選ぶと良いでしょう。
女性用外用薬の分類
分類 | 主な目的 | 代表的な成分 |
---|---|---|
発毛剤(第1類医薬品) | 新しい髪を生やす(発毛) | ミノキシジル |
育毛剤(医薬部外品) | 抜け毛予防、育毛 | センブリエキス、ビタミンE誘導体 |
ヘアトニック(化粧品) | 頭皮の保湿、清涼感 | 保湿成分、メントール |
内服薬(飲み薬)の選択肢
内服薬は、体の中から必要な栄養素を補給し、髪の成長をサポートするものです。サプリメントとして販売されている製品が多く、体の内側から全体的にアプローチします。
パントガールと同成分のサプリメント
医療機関で処方される女性のびまん性脱毛症治療薬「パントガール」に含まれる成分と同様の組み合わせを持つサプリメントが市販されています。
主な成分は、パントテン酸カルシウムやケラチン、L-シスチンなどで、これらは健康な髪の毛を作るために必要な栄養素です。毛髪の成長を内側から支え、髪質を改善する効果が期待されます。
ビタミン・ミネラル主体のサプリメント
髪の健康に深く関わるビタミンB群、亜鉛、鉄分などを主成分としたサプリメントも多く見られます。
特に亜鉛は髪の主成分であるケラチンの合成に、鉄分は全身への酸素運搬に重要で、不足すると薄毛の原因となり得ます。
普段の食事でこれらの栄養素を十分に摂取できていない場合に、補助的に使用することが推奨されます。
内服薬を選ぶ際の注意点
市販の内服薬は、医薬品ではなくサプリメント(栄養補助食品や健康食品)に分類されるものがほとんどです。治療を目的としたものではなく、あくまで髪の成長に必要な栄養を補うためのものです。
過剰に摂取しても効果が高まるわけではなく、むしろ健康を害する可能性もあるため、1日の摂取目安量を必ず守りましょう。
内服薬と外用薬の基本的な違い
内服薬と外用薬は、アプローチの方法が根本的に異なります。違いを理解し、自分の状態に合わせて使い分けることが大切です。
作用の仕方
外用薬は、頭皮の気になる部分に直接塗布し、毛根にダイレクトに働きかけます。一方、内服薬は、経口摂取され、消化吸収された後、血流に乗って全身に行き渡り、頭皮や毛根を含む体全体に栄養を供給します。
効果の現れ方
外用薬は局所的に作用するため、塗布した部分の変化を比較的感じやすいかもしれません。
内服薬は全身の栄養状態を改善していくため、効果の実感としては髪全体の質感が変わったり、ハリやコシが出てきたりといった、全体的な変化として現れることが多いです。
どちらのタイプも、効果を実感するには数ヶ月単位での継続が必要です。
副作用のリスク
外用薬の主な副作用は、塗布した部分の皮膚トラブルです。かゆみ、かぶれ、発疹などが現れることがあります。内服薬の場合、成分によっては胃腸の不快感などが現れる可能性があります。
また、ミノキシジルを内服薬として使用することは日本では承認されておらず、個人輸入などで使用すると重篤な副作用のリスクがあるため、絶対に行わないでください。
内服薬が推奨されるケースとは?
体の内側からケアする内服薬(サプリメント)は、どのような状態の時に選択すると良いのでしょうか。
全体的に髪のボリュームが減ってきた場合
特定の場所だけでなく、頭部全体の髪がなんとなく薄くなった、ボリュームがなくなったと感じる場合は、内側からのケアが有効な可能性があります。
びまん性脱毛症の可能性
女性の薄毛で最も多いとされるのが「びまん性脱毛症」です。これは、頭部全体の髪の毛が均等に薄くなるのが特徴で、加齢やストレス、栄養不足などが原因とされています。
このような全体的な症状に対しては、体の中から髪の成長に必要な栄養を補給する内服薬が適していると考えられます。
加齢による変化
年齢を重ねるとともに、髪の毛を作る毛母細胞の働きが少しずつ衰えたり、髪の成長に必要な栄養素の吸収率が低下したりすることがあります。
髪が細くなり、ハリやコシが失われることで、全体のボリュームがダウンして見えます。内服薬で栄養を補うことは、加齢による変化に対する一つのサポートになります。
栄養不足が疑われるサイン
過度なダイエットをしていたり、食生活が不規則であったりする場合、体は栄養不足の状態に陥りがちです。髪は生命維持に直接関係しないため、栄養不足の影響が現れやすい部分です。
爪がもろくなったり、肌が荒れたりといったサインと同時に髪のトラブルを感じるなら、栄養補給を目的とした内服薬を検討する価値があります。
内側からのケアが必要かどうかのセルフチェック
チェック項目 | 解説 |
---|---|
髪の分け目が全体的に広がった気がする | 局所的でなく、全体の密度が低下しているサインかもしれません。 |
一本一本の髪が細く、弱々しくなった | 髪の成長に必要な栄養が不足し、髪質が低下している可能性があります。 |
最近、無理なダイエットや偏った食事をしていた | 栄養不足が薄毛の直接的な原因になっていることが考えられます。 |
髪のハリやコシが失われたと感じる時
抜け毛の量はそれほどでもないけれど、髪全体の質が落ちたと感じる場合も、内服薬が役立つことがあります。
毛髪の質の低下
髪にツヤがなくパサついたり、すぐにペタッとしてしまったりするのは、毛髪内部の成分が不足しているサインです。
健康な髪を構成するタンパク質やアミノ酸、ビタミン類が不足すると、髪はしなやかさを失います。
アミノ酸やビタミンの重要性
髪の主成分であるケラチンは、L-シスチンなどのアミノ酸から作られます。また、パントテン酸カルシウムなどのビタミンB群は、頭皮の代謝を助け、健康な髪の育成をサポートします。
これらの成分を内服薬で補うことで、髪質の改善が期待できます。
内側からのケアの考え方
髪は畑の作物に例えられます。良い土壌(頭皮)に、十分な肥料(栄養)を与えることで、丈夫な作物が育ちます。
内服薬は、この「肥料」の役割を担い、髪が育つための根本的な体内環境を整えることを目指します。
外用薬の使用に抵抗がある、または肌が弱い場合
毎日頭皮に薬を塗ることに抵抗があったり、肌が敏感でかぶれやすかったりする方にとっても、内服薬は良い選択肢となります。
塗布の手間と継続
外用薬は、毎日1回または2回、欠かさず頭皮に塗布する必要があります。この手間が負担になり、継続が難しいと感じる方もいるでしょう。
その点、内服薬は決まった時間に飲むだけなので、生活に取り入れやすいと感じるかもしれません。
かぶれなどの頭皮トラブル
外用薬に含まれる成分や基剤(アルコールなど)が肌に合わず、かゆみ、赤み、かぶれといった接触皮膚炎を起こすことがあります。
特に敏感肌やアトピー性皮膚炎の既往がある方は、頭皮への塗布をためらうこともあるでしょう。内服薬であれば、こうした局所的な皮膚トラブルの心配はありません。
敏感肌の方向けの選択
頭皮への刺激を避けたいと考える敏感肌の方にとって、体の中から作用する内服薬は、安心して始めやすい薄毛対策の一つと言えます。
外用薬が推奨されるケースとは?
頭皮に直接アプローチする外用薬は、特定の悩みに対して高い効果が期待できます。どのような場合に外用薬を選ぶのが適しているのか、具体的なケースを見ていきましょう。
特定の部位の薄毛が気になる場合
髪全体というよりは、「ここが特に気になる」という部分がある場合には、外用薬の局所的なアプローチが非常に有効です。
分け目や生え際
分け目がくっきりと目立ってきた、あるいは以前よりも後退したように感じる生え際など、ピンポイントで薄毛が気になる部分には、外用薬を直接塗布することで有効成分を集中して届けることができます。
頭頂部の悩み
頭頂部は、自分では見えにくいものの、人からは見えやすい場所です。つむじ周りが薄くなってきたと感じる場合も、外用薬のターゲットとなります。
鏡を使ったり、家族に協力してもらったりしながら、正確に塗布することが大切です。
局所的なアプローチ
外用薬の最大の利点は、この「局所性」にあります。悩みのある部分に直接働きかけるため、全身への影響を抑えつつ、気になる部分の改善を目指すことができます。
外用薬が特に有効な部位
気になる部位 | 外用薬が適している理由 |
---|---|
分け目 | 地肌が露出しやすく、薄毛が目立ちやすい部分に直接塗布できるため。 |
頭頂部(つむじ周り) | 血行不良が起こりやすい部位でもあり、血流改善効果のある成分が有効。 |
生え際 | 産毛を太く育て、ラインを整える効果が期待できるため。 |
より直接的な発毛効果を期待する場合
抜け毛予防や育毛だけでなく、積極的に「髪を生やしたい」という強い希望がある場合には、発毛効果が科学的に認められている成分を含む外用薬が第一の選択肢となります。
毛根へのダイレクトな働きかけ
外用薬は、有効成分が毛穴から浸透し、髪の毛を作り出す工場である「毛包(毛根)」に直接作用します。
休止期に入ってしまった毛包を再び成長期へと導いたり、活動が弱まった毛母細胞を活性化させたりする効果が期待できます。
ミノキシジルの役割
前述の通り、市販薬で発毛効果が認められているのはミノキシジルだけです。この成分は、毛包に直接作用して、細胞の増殖やタンパク質の合成を促す働きがあると考えられています。
薄毛が進行し、毛量の減少が明らかな場合には、ミノキシジル配合の外用薬の使用を積極的に検討する価値があります。
臨床データで示される効果
ミノキシジル配合の発毛剤は、医薬品として承認されるにあたり、多くの臨床試験が行われています。その有効性や安全性は科学的なデータによって裏付けられているため、効果への期待値が高いと言えます。
内服薬との併用を考えている場合
より総合的なケアを目指して、内服薬と外用薬を一緒に使いたいと考える場合、外用薬は重要な役割を担います。
内外からの相乗効果
内服薬で体の中から髪の成長に必要な栄養を補給し、髪が育つための土台を整えつつ、外用薬で気になる部分の毛根に直接発毛を促します。
「内と外からの挟み撃ち」によって、それぞれ単独で使用するよりも高い効果が期待できる場合があります。
併用時の注意点
自己判断で複数の製品を併用する前には、注意が必要です。成分の重複や、予期せぬ相互作用が起こる可能性もゼロではありません。
特に医薬品である発毛剤とサプリメントを併用する場合は、一度、薬剤師や医師に相談することが望ましいでしょう。
医師への相談の重要性
薄毛治療に詳しい医師であれば、個々の症状や体質に合わせてケアの方法を提案してくれます。併用を検討する段階になったら、専門の医療機関に相談することも一つの賢明な選択です。
市販薬を使い始める前に知っておくべきこと
市販薬は手軽に始められる一方で、正しい知識を持たずに使うと思うような効果が得られなかったり、思わぬトラブルにつながったりすることもあります。
効果を実感できるまでの期間
薄毛治療は、今日始めて明日結果が出るというものではありません。焦らず、じっくりと取り組む姿勢が重要です。
最低でも3ヶ月から6ヶ月
髪の毛には「ヘアサイクル」という生まれ変わりの周期があります。薬を使い始めてから、その効果が新しい髪の成長として目に見える形で現れるまでには、時間がかかります。
一般的に、ミノキシジル配合の発毛剤の場合、効果を実感するまでには最低でも6ヶ月、育毛剤や内服薬の場合でも3ヶ月から6ヶ月程度の継続使用が必要です。
使用を止めるとどうなるか
特にミノキシジル配合の発毛剤の場合、効果は使用している期間中に維持されます。
使用を中止すると、薬の効果で維持されていた髪が再び元の状態に戻り、数ヶ月かけてゆっくりと抜け毛が増え、薄毛が再度進行する可能性があります。効果を維持するためには、継続的な使用が大切です。
根気強い継続の必要性
最初の数ヶ月で効果が見られないからといって、すぐに諦めてしまうのは早計です。まずは製品が推奨する使用期間を目安に、根気強くケアを続けてみることが何よりも大事です。
考えられる副作用と対処法
どんな薬にも副作用のリスクはあります。事前にどのような可能性があるかを知っておき、異常を感じた時に適切に対応できるようにしておきましょう。
外用薬の副作用(かゆみ、かぶれなど)
最も一般的に見られるのは、塗布した部分の皮膚症状です。かゆみ、赤み、発疹、フケ、かぶれなどが現れることがあります。
有効成分そのものや、基剤として含まれるアルコールなどが原因で起こる接触皮膚炎です。
軽い症状であれば様子を見ることもできますが、続く場合やひどくなる場合は使用を中止し、薬剤師や皮膚科医に相談してください。
内服薬の副作用(初期脱毛など)
ミノキシジル配合の外用薬を使い始めた初期段階で、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」が起こることがあります。
これは、乱れたヘアサイクルが正常化する過程で、古い髪が新しい強い髪に押し出されるために起こる現象です。
通常は1ヶ月程度で収まりますが、不安な場合は専門家に相談しましょう。サプリメント形態の内服薬では重篤な副作用は稀ですが、体質によっては胃腸の不快感などを感じることがあります。
異常を感じた時の対応
使用していて何らかの異常を感じた場合は、まず使用を中止することが基本です。そして、購入した薬局の薬剤師や、皮膚科、薄毛治療専門のクリニックなど、専門家に速やかに相談することが重要です。
副作用の主な症状と相談先
種類 | 主な副作用の症状 | 相談先の例 |
---|---|---|
外用薬 | 頭皮のかゆみ、赤み、発疹、フケ、かぶれ | 薬剤師、皮膚科医 |
内服薬(サプリメント) | 胃腸の不快感、食欲不振など | 薬剤師、かかりつけ医 |
市販薬で効果が見られない場合
期待して市販薬を使い続けても、残念ながら全ての人が満足のいく効果を得られるわけではありません。
使用期間の目安
一つの判断基準として、各製品が推奨する期間(多くは6ヶ月程度)を継続使用しても、全く変化が見られない、あるいは悪化するような場合は、その治療法が合っていない可能性があります。
専門医への相談のタイミング
市販薬で改善しない場合は、自己判断でのケアに限界があると考えられます。より専門的な診断や治療が必要な状態かもしれません。
薄毛治療を専門とする皮膚科やクリニックを受診し、医師の診断を仰ぐことを強く推奨します。
他の脱毛症の可能性
女性の薄毛の原因は多岐にわたります。市販薬がターゲットとする「びまん性脱毛症」や「壮年性脱毛症」以外の、例えば「円形脱毛症」や、他の全身疾患に伴う脱毛症である可能性も考えられます。
原因疾患の治療が優先されるため、医療機関での正確な診断が何よりも大切です。
市販薬の効果を高めるセルフケア
市販薬を使用するだけでなく、日々の生活習慣を見直すことで、効果をより高めることが期待できます。
バランスの取れた食事
健康な髪を育てるためには、内側からの栄養補給が基本です。バランスの悪い食事は、薬の効果を半減させてしまう可能性さえあります。
髪に必要な栄養素
髪の毛の約90%は「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、良質なタンパク質の摂取は非常に重要です。
また、タンパク質が髪に変わるのを助ける亜鉛、頭皮の血行を良くするビタミンE、頭皮の新陳代謝を促すビタミンB群なども積極的に摂りたい栄養素です。
- タンパク質
- 亜鉛
- ビタミン類(特にB群、C、E)
- 鉄分
積極的に摂りたい食品
タンパク質は肉、魚、卵、大豆製品に多く含まれます。亜鉛は牡蠣やレバー、牛肉(赤身)など、ビタミンB群は豚肉やマグロ、レバーなどに豊富です。
髪の健康をサポートする食品群
栄養素 | 主な役割 | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分となる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉 |
ビタミンB群 | 頭皮の代謝を促進する | 豚肉、うなぎ、レバー |
質の良い睡眠の確保
睡眠は、体のあらゆる細胞を修復し、成長させるための大切な時間です。髪の毛も例外ではありません。
成長ホルモンと髪の成長
髪の成長を促す「成長ホルモン」は、私たちが眠っている間、特に夜10時から深夜2時の間に最も多く分泌されると言われています。この時間帯に深い眠りについていることが、髪の健やかな成長につながります。
睡眠時間と質
単に長く眠るだけでなく、睡眠の「質」も重要です。寝る前にスマートフォンやパソコンの画面を見るのは避け、部屋を暗くしてリラックスできる環境を整えましょう。
毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きるようにすると、生活リズムが整い、睡眠の質も向上します。
ストレスマネジメント
過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、血行不良やホルモンバランスの乱れを起こし、薄毛の大きな原因となります。
ストレスが髪に与える影響
ストレスを感じると、体は緊張状態になり血管が収縮し、頭皮への血流が滞り、髪に十分な栄養が届かなくなります。また、ストレスは活性酸素を増やし、細胞の老化を早める原因にもなります。
自分に合った発散方法
ストレスを完全になくすことは難しいですが、上手に付き合っていくことは可能です。
適度な運動をする、趣味に没頭する、友人と話す、ゆっくりお風呂に浸かるなど、自分が心からリラックスできる時間を見つけることが大切です。
正しい頭皮ケア
髪が生える土壌である頭皮を清潔で健康な状態に保つことは、育毛の基本中の基本です。
シャンプーの選び方と方法
自分の頭皮タイプに合ったシャンプーを選びましょう。乾燥肌の人は保湿成分の入ったアミノ酸系、脂性肌の人は適度な洗浄力のあるものなど、特徴に合わせて選びます。
洗う際は、まずお湯で十分に予洗いをし、シャンプーをよく泡立ててから、指の腹で頭皮をマッサージするように優しく洗いましょう。
すすぎ残しは頭皮トラブルの原因になるため、時間をかけて丁寧に洗い流してください。
頭皮マッサージ
シャンプーの際や、育毛剤をつけた後などに頭皮マッサージを行うと、血行が促進され、リラックス効果も期待できます。
指の腹を頭皮に密着させ、頭皮全体を動かすようなイメージで、気持ち良いと感じる強さで行いましょう。
内服薬と外用薬の使い分け・併用のポイント
市販薬には内服薬と外用薬があり、それぞれに長所があります。自分の薄毛の状態やライフスタイルに合わせて、賢く使い分けることが効果的なケアにつながります。
ご自身の薄毛タイプを見極める
まず、自分の悩みがどのようなタイプなのかを客観的に把握することが、適切な製品選びのスタートラインになります。
全体的なのか、局所的なのか
鏡を見て、頭部全体を確認してみましょう。分け目や生え際、つむじなど、特定の部分の地肌が透けて見えるのが気になる場合は「局所的」なタイプです。
一方、以前と比べて髪全体のボリュームがなくなり、一本一本が細くなったと感じる場合は「全体的」なタイプと考えられます。
局所的な悩みには外用薬、全体的な悩みには内服薬が、それぞれアプローチしやすい選択肢です。
症状に合わせた選択
例えば、「分け目が目立つ」という局所的な悩みが一番大きいのであれば、まずはミノキシジル配合の外用薬から試してみるのが合理的です。
一方で、「髪全体の元気がなく、抜け毛も増えた」という全体的な悩みであれば、体の中から栄養を補う内服薬(サプリメント)から始めてみるのが良いでしょう。
薄毛のタイプ別・初期選択の目安
薄毛のタイプ | 推奨される初期選択 | その理由 |
---|---|---|
局所タイプ(分け目、生え際など) | 外用薬(発毛剤) | 気になる部分に直接有効成分を届け、集中的なケアができるため。 |
全体タイプ(ボリュームダウン、髪質の低下) | 内服薬(サプリメント) | 体の中から栄養を補い、髪が育つための全体的な土台を整えるため。 |
まずはどちらか一つから試す
最初から内服薬と外用薬を両方使うのではなく、まずはどちらか一方から始めてみることをお勧めします。
効果と副作用の判断
一つずつ試すことで、もし効果が現れた場合に、どちらの薬が自分に合っていたのかを明確に判断できます。同様に、かゆみなどの副作用が出た場合も、原因が特定しやすいです。
最初から併用してしまうと、どちらが原因なのか分からなくなってしまいます。
シンプルな開始方法
新しい習慣を始める時は、できるだけシンプルな方が長続きします。まずは一つのケアに集中し、それを生活の中に定着させることを目指しましょう。
焦らない心構え
薄毛治療は長期戦です。焦って一度に多くのことを始めようとすると、経済的な負担も大きくなり、長続きしない原因にもなります。じっくりと自分に合う方法を見つけていくという心構えが大切です。
併用を検討するタイミング
一つの薬を試した上で、次のステップとして併用を考えるのは、非常に有効な戦略です。では、どのようなタイミングで併用を検討するのが良いのでしょうか。
一つの薬剤で効果が頭打ちになった時
例えば、外用薬を6ヶ月以上使用して一定の効果は感じられたものの、それ以上の改善が見られなくなった、という場合に併用を検討します。
内服薬を加えることで、内側からのサポートが加わり、さらなる改善が期待できる可能性があります。
より積極的なケアを望む場合
一つのケアである程度の効果を実感し、経済的にも精神的にも余裕ができた上で、「もっと積極的にケアをしたい」と感じた時も、併用を始める良いタイミングです。
内と外からのアプローチで、相乗効果を目指します。
専門家のアドバイスを求める
併用を始める前には、自己判断だけでなく、薬剤師や医師などの専門家に相談することが最も安全で確実です。
現在の状況を伝え、併用が適切かどうか、またどのような製品の組み合わせが良いかアドバイスをもらうと良いでしょう。
よくある質問
最後に、女性の薄毛や市販薬に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
- Q市販薬はどのくらいの期間使えばいいですか?
- A
効果を判断するためには、最低でも3ヶ月から6ヶ月の継続使用が一つの目安となります。髪にはヘアサイクルがあり、薬の効果が目に見える形で現れるまでには時間が必要です。
特にミノキシジル配合の発毛剤は、添付文書で6ヶ月の使用が推奨されていることが多いです。
- Q男性用の市販薬を女性が使ってもいいですか?
- A
男性用の発毛剤は、女性には濃度が高すぎたり、配合されている成分が体に影響を及ぼしたりする可能性があります。
ミノキシジル配合の発毛剤は、男性用では濃度が5%の製品がありますが、女性が使用すると多毛症などの副作用のリスクが高まります。必ず「女性用」と明記された製品を使用してください。
- Q副作用が心配です。どのようなことに気をつければいいですか?
- A
使用前に必ず添付文書をよく読み、記載されている用法・用量を守ることが大前提です。外用薬の場合は、頭皮のかゆみやかぶれといった皮膚症状が主な副作用です。
使用後に異常を感じたら、すぐに使用を中止し、ひどい場合や長引く場合は皮膚科医に相談してください。また、ミノキシジル配合薬の場合、ごく稀に動悸やめまいなどが報告されています。
- Q効果がなかった場合、どうすればいいですか?
- A
推奨される期間(例:6ヶ月)使用しても全く効果が感じられない場合は、その薬がご自身の症状に合っていないか、あるいは市販薬では対応できないタイプの脱毛症である可能性があります。
自己判断でケアを続けるのではなく、一度、薄毛治療を専門とする皮膚科やクリニックを受診し、専門医の診断を仰ぐことをお勧めします。
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