薄毛や抜け毛の悩みを解決したいけれど、治療に一体どれくらいの費用がかかるのか、不安に感じている女性は多いでしょう。特に、保険が使えるのかどうかは、治療に踏み出す上で大きな関心事です。

この記事では、女性の薄毛治療における費用について、保険が適用されるケースと自由診療になるケースの違いを明確に解説します。

それぞれの治療法の費用相場や、総額を抑えるためのポイント、そして安心して治療を受けるためのクリニック選びの注意点まで、詳しくご紹介します。

女性の薄毛治療における保険診療と自由診療

女性の薄毛治療を考える上で、まず理解しておくべきなのが、保険が適用される保険診療と、全額自己負担となる自由診療の違いです。この区別は、治療の選択肢と費用の両方に大きく影響します。

なぜ薄毛治療は基本的に自由診療なのか

日本の公的医療保険制度は、生命や健康に直接的な影響を及ぼす病気やケガの治療を対象としています。

加齢や体質の変化、遺伝的要因などによって起こる薄毛の多くは、美容目的の悩みと見なされ、病気とは判断されません。

そのため、女性の薄毛の主な原因であるびまん性脱毛症や女性男性型脱毛症(FAGA)に対する治療は、審美性の改善を目的とする自由診療となるのが一般的です。

自由診療では、治療費は全額自己負担となり、医療機関が独自に価格を設定できます。

保険適用となるケースの基準

一方で、薄毛や抜け毛の原因が、他の明確な病気にあると診断された場合は、病気の治療の一環として保険が適用されることがあります。

円形脱毛症や、甲状腺機能の異常、膠原病、鉄欠乏性貧血などが原因で脱毛が起きているケースです。

この場合、目的は脱毛症状を引き起こしている原疾患の治療であり、結果として薄毛が改善することになります。

あくまで病気の治療が主体であるため、皮膚科や内科など、一般の保険医療機関で診療を受けることになります。

保険診療と自由診療の比較

項目保険診療自由診療
対象病気が原因の脱毛(円形脱毛症など)美容目的の薄毛(FAGAなど)
費用負担原則1~3割負担10割負担(全額自己負担)
治療法国が承認した治療法に限られる国内外の多様な治療法を選択可能

保険診療と自由診療の費用の違い

最も大きな違いは、窓口で支払う費用の負担割合です。保険診療の場合、年齢や所得に応じて自己負担は1割から3割に抑えられます。一方、自由診療は全額自己負担となるため、費用は高額になる傾向があります。

しかし、自由診療には、保険診療では認められていない新しい治療薬や、より積極的な発毛治療(注入治療など)を受けられるという利点もあります。

保険が適用される可能性のある脱毛症と治療法

すべての薄毛治療が自由診療というわけではありません。原因が特定の病気にあると診断されれば、健康保険を使った治療が可能です。

ここでは、どのような脱毛症が保険適用の対象となり得るのか、そして皮膚科などで行われる一般的な治療法と費用の目安について解説します。

円形脱毛症の治療と費用

円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられており、明確な病気として扱われるため、治療は保険適用となります。

治療法は脱毛範囲の広さや重症度によって異なりますが、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬の内服が基本です。

範囲が広い場合は、ステロイドを局所注射する方法や、特殊な薬品を塗って人工的にかぶれを起こし、発毛を促す局所免疫療法なども行われます。

3割負担の場合、診察と薬の処方で、月々の費用は数千円程度が目安です。

脂漏性脱毛症や粃糠性脱毛症

脂漏性脱毛症は、頭皮の皮脂が過剰に分泌されることで起こる脂漏性皮膚炎に伴う脱毛です。粃糠性脱毛症は、乾いたフケが大量に発生する粃糠疹に伴って起こります。

皮膚の病気が原因であるため、皮膚炎自体の治療は保険適用となります。治療は、原因となる皮膚炎を抑えるための抗真菌薬やステロイドの外用薬、ビタミン剤の内服などが中心です。

皮膚炎が改善することで、抜け毛も治まることが期待できます。

保険適用治療の費用目安(3割負担の場合)

治療内容1回あたりの費用目安備考
初診料+処方2,500円~4,000円程度検査内容によって変動します
再診料+処方1,500円~2,500円程度薬の種類や量によって変動します
ステロイド局所注射2,000円~3,000円程度注射範囲や回数によります

甲状腺疾患など内科的疾患に伴う脱毛

甲状腺機能低下症や亢進症、膠原病、鉄欠乏性貧血といった内科的な病気が、抜け毛や薄毛の原因となることがあります。

この場合、脱毛は全身疾患の一症状として現れているため、まずは原因となっている病気の治療を優先します。治療は、内科や内分泌科などの専門科で行われ、保険適用です。

原因疾患のコントロールがつけば、それに伴って脱毛症状も改善していくことが期待できます。抜け毛の他に、倦怠感や体重の変化、動悸などの全身症状がある場合は、これらの病気を疑う必要があります。

皮膚科での一般的な治療の流れ

抜け毛で皮膚科を受診した場合、まずは問診で症状や生活習慣などを詳しく聞き、視診で頭皮の状態を確認します。

ダーモスコピーという拡大鏡で毛根の状態を見たり、血液検査で内科的な異常がないかを調べることも大切です。

診察や検査の結果、保険適用となる病気と診断されれば、病気に対する治療が開始されます。薬は院外処方となることが多く、診察料とは別に薬局で薬代を支払うことになります。

自由診療となる主な薄毛治療と費用相場

女性の薄毛の悩みの多くを占める、加齢やホルモンバランスの変化などを原因とする薄毛(びまん性脱毛症やFAGA)は、自由診療の対象です。

ここでは、専門のクリニックで行われる代表的な自由診療の治療法と、費用相場について見ていきましょう。

女性男性型脱毛症(FAGA)の治療費用

FAGAの治療は、内服薬、外用薬、そして注入治療などを組み合わせて行うのが一般的です。治療は長期間にわたることが多いため、月々の費用で考えるのが分かりやすいでしょう。

内服薬と外用薬を組み合わせた基本的な治療の場合、月々の費用相場は15,000円から30,000円程度です。これに、より積極的な発毛を促す注入治療などを加えると、費用はさらに高くなります。

  • 内服薬(飲み薬)
  • 外用薬(塗り薬)
  • 頭皮への注入治療
  • サプリメント

内服薬(スピロノラクトン・サプリメント)の費用

FAGA治療で用いられる代表的な内服薬がスピロノラクトンです。男性ホルモンの働きを抑制し、抜け毛を防ぐ効果が期待できます。費用相場は、1ヶ月分で5,000円から10,000円程度です。

また、髪の成長に必要なビタミンやミネラル、アミノ酸などを配合した、クリニック独自の処方によるサプリメントもよく用いられます。こちらの費用相場は、1ヶ月分で5,000円から15,000円程度です。

外用薬(ミノキシジル)の費用

ミノキシジルは、日本で唯一、発毛効果が認められている外用薬の成分です。頭皮の血行を促進し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促します。

女性用には、男性用よりも濃度の低い1%や2%の製品が推奨されています。クリニックで処方されるミノキシジル外用薬の費用相場は、1本(約1ヶ月分)で6,000円から15,000円程度です。

市販薬よりも高濃度のものを処方しているクリニックもあります。

頭皮への注入治療(メソセラピーなど)の費用

発毛メソセラピーとも呼ばれる注入治療は、髪の成長に有効な成分(成長因子、ミノキシジル、ビタミンなど)を、注射や特殊な機器を用いて頭皮に直接導入する治療法です。

有効成分を直接毛根に届けることができるため、高い効果が期待できます。費用はクリニックや注入する成分によって大きく異なりますが、1回あたり20,000円から80,000円程度が相場です。

多くの場合、複数回の治療をセットにしたコース料金が設定されています。

自由診療の費用相場一覧

治療内容費用相場備考
初診・カウンセリング料無料~10,000円無料のクリニックも多い
内服薬(1ヶ月分)10,000円~25,000円薬の種類や組み合わせによる
外用薬(1ヶ月分)6,000円~15,000円ミノキシジルの濃度などによる
注入治療(1回)20,000円~80,000円複数回コースで割引がある場合も

治療費用の内訳と総額を理解する

薄毛治療を始めるにあたって、月々の薬代だけでなく、初めにかかる費用や、治療全体でどれくらいの総額になるのかを把握しておくことは非常に重要です。

初診料・再診料

治療を始める最初のステップとして、初診料やカウンセリング料がかかります。自由診療のクリニックでは、無料としているところも多いですが、有料の場合は3,000円から10,000円程度が相場です。

治療開始後は、定期的に通院して経過観察や薬の処方を受けることになり、その都度、再診料がかかります。再診料は1,000円から3,000円程度、あるいは薬代に含まれている場合もあります。

検査費用(血液検査・頭皮診断など)

安全かつ効果的な治療を行うために、初診時に各種検査を行います。血液検査は、薬の服用が可能かどうかを判断したり、他の病気が隠れていないかを確認したりするために重要です。

費用は5,000円から15,000円程度が目安です。また、マイクロスコープによる頭皮診断や、遺伝子検査などをオプションで提供しているクリニックもあります。

初診時にかかる費用の内訳例

項目費用相場合計の目安
初診料・カウンセリング料0円~10,000円15,000円~55,000円程度
血液検査料5,000円~15,000円
治療薬代(1ヶ月分)10,000円~30,000円

薬代(内服薬・外用薬)

薄毛治療の費用の中で、継続的にかかる中心的な費用が薬代です。内服薬と外用薬を合わせると、月々15,000円から30,000円程度が一般的な相場となります。

クリニックによっては、3ヶ月分や6ヶ月分など、まとめて処方を受けることで1ヶ月あたりの費用が割引になるプランを用意している場合があります。

長期的に治療を続けることを考えると、こうしたプランをうまく活用することも費用を抑えるポイントです。

治療費用を抑えるためのポイント

自由診療である薄毛治療は、経済的な負担が大きくなりがちです。しかし、いくつかのポイントを押さえることで、賢く費用を管理し、負担を軽減することが可能です。

早期発見・早期治療の重要性

最も基本的で重要なことは、抜け毛や薄毛のサインに気づいたら、なるべく早く専門家に相談することです。

症状が進行してから治療を始めると、改善までにより長い時間と多くの治療が必要となり、結果的に総額費用も高くなってしまいます。

初期段階で治療を開始できれば、比較的軽度な治療で効果が得られる可能性が高く、費用も期間も抑えることができます。悩んでいる時間が、症状を進行させてしまうこともあるのです。

医療費控除制度の活用

医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税や住民税の還付・軽減を受けられる制度です。基本的に、美容目的の薄毛治療は医療費控除の対象外とされています。

しかし、医師の診断の結果、FAGAなどが病気として治療が必要と判断された場合や、円形脱毛症など保険適用の治療の場合は、対象となる可能性があります。

医療費控除の概要

項目内容
対象となる医療費その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費
計算方法(支払った医療費の合計 – 保険金などで補填される金額) – 10万円
手続き翌年の確定申告期間中に、税務署に申告する

クリニックの料金体系を比較検討する

自由診療の費用はクリニックが独自に設定するため、同じような治療内容でも価格に差があります。

治療を始める前には、複数のクリニックのカウンセリングを受け、料金体系を比較検討することをおすすめします。

初診料や検査料はかかるか、薬代はいくらか、コース料金の割引率はどのくらいか、などを確認しましょう。

単純な価格の安さだけでなく、治療内容や医師の専門性、サポート体制なども含めて、総合的に判断することが大切です。

長期的な視点で治療計画を立てる

薄毛治療は、数ヶ月で終わるものではなく、年単位での継続が必要になることがほとんどです。そのため、目先の費用だけでなく、長期的な視点で無理なく続けられる治療計画を立てることが重要です。

カウンセリングの際に、ご自身の予算を正直に伝え、その範囲内で最大限の効果が期待できるプランを医師と一緒に考えましょう。高額な治療を無理して始めても、続けられなければ意味がありません。

クリニック選びと費用に関する注意点

納得のいく治療を、適正な費用で受けるためには、信頼できるクリニックを選ぶことが何よりも大事です。

費用に関するトラブルを避け、安心して治療に専念するために、クリニック選びの際に注意すべき点や、カウンセリングで確認すべきことをまとめました。

カウンセリングで費用を明確にする

治療契約を結ぶ前のカウンセリングは、費用に関する疑問をすべて解消する機会です。

提示された治療プランについて、費用の総額がいくらになるのか、内訳はどうなっているのかを、書面で明確に示してもらいましょう。

初診料、検査料、薬代、施術料など、項目ごとに確認し、不明な点は遠慮なく質問することが大切です。

  • 提示された治療プランの総額
  • 薬代や施術料以外の追加費用の有無
  • 支払い方法の種類(現金、カード、ローン)
  • 解約時の返金規定

安さだけで選ぶリスク

広告などで極端に安い価格を提示しているクリニックには、注意が必要です。安さには何らかの理由があるかもしれません。

例えば、効果の薄い治療法であったり、後から高額なオプションを勧められたりするケースも考えられます。また、医師の経験が浅かったり、カウンセリングが不十分だったりする可能性もあります。

費用はもちろん重要な要素ですが、それだけで判断するのではなく、医師の専門性や治療実績、カウンセリングの丁寧さ、院内の清潔感など、総合的な質を見極めることが大事です。

追加費用の有無を確認する

最初に提示された金額以外に、後から追加で費用が発生することがないか、事前にしっかりと確認しておきましょう。

治療経過の診察料や、薬の処方料が毎回別途必要なのか、あるいは治療プランに含まれているのかは大きな違いです。また、血液検査を定期的に行う場合、その費用も考慮に入れる必要があります。

契約書や同意書に、追加費用に関する記載があるかどうかも、隅々まで目を通しましょう。

よくある質問

最後に、女性の薄毛治療の費用に関して、多くの方が抱く共通の疑問についてお答えします。

Q
カウンセリングだけで費用はかかりますか
A

多くの薄毛専門クリニックでは、初回のカウンセリングを無料で行っています。これは、患者さんが気軽に相談できる機会を提供するためです。

一方で、医師による診察を伴う場合は、初診料として数千円の費用がかかることもあります。

カウンセリングを予約する際に、費用が発生するのかどうかを事前にウェブサイトや電話で確認しておくと安心です。

Q
医療ローンや分割払いは可能ですか
A

多くの自由診療クリニックでは、患者さんの経済的負担を軽減するために、医療ローンや分割払いの制度を導入しています。

これにより、高額になりがちな注入治療のコース料金なども、月々一定額の支払いで治療を始めることが可能です。

金利や手数料、審査の有無などは、提携している信販会社によって異なります。

利用を検討する場合は、カウンセリングの際に詳細な条件を確認し、無理のない返済計画を立てることが重要です。

Q
治療を途中でやめた場合、返金はありますか
A

コース契約などをした場合の、中途解約時の返金規定は、クリニックによって大きく異なります。

法律(特定商取引法)に基づいた返金制度を設けているクリニックもあれば、独自の規定を設けている場合もあります。

一般的には、未治療分の料金から、所定の解約手数料を差し引いた金額が返金されることが多いです。

契約書に中途解約に関する条項が必ず記載されているはずなので、契約前に必ず内容を理解し、不明な点は確認しましょう。

Q
市販の育毛剤とクリニックの治療費用の違いはなんですか
A

市販の育毛剤は、1本あたり数千円程度で購入でき、手軽に始められるのが利点です。しかし、その多くは医薬部外品であり、効果は主に抜け毛予防や頭皮環境の改善に限られます。

クリニックで処方される治療薬は、発毛効果が医学的に認められた医薬品です。費用は高くなりますが、医師の診断のもとで、より高い効果と安全性が期待できます。

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