オゼンピックの承認背景と歴史|日本での糖尿病治療薬としての認可

オゼンピックの承認背景と歴史|日本での糖尿病治療薬としての認可

オゼンピック(一般名:セマグルチド)は、2型糖尿病の治療薬として世界各国で承認されたGLP-1受容体作動薬です。日本では2020年に承認され、週1回の皮下注射で血糖改善と体重減少の両方が期待できます。

承認の土台となったのは、8000人以上が参加した国際共同臨床試験SUSTAINプログラムの豊富なエビデンスです。従来薬を上回るHbA1c改善効果や心血管イベントの低減も確認されています。

この記事では、オゼンピックの開発経緯から日本での認可の背景、承認後に浮上した適正使用の課題まで幅広く解説します。

目次 Outline

オゼンピック(セマグルチド)が糖尿病治療薬として世界で承認された経緯

セマグルチドは、2017年12月に米国FDAの承認を取得したことを皮切りに、世界各国で2型糖尿病治療薬として認可されました。開発元のノボ ノルディスク社が長年にわたるGLP-1研究の成果を結実させた薬剤です。

GLP-1受容体作動薬としてのセマグルチド誕生

セマグルチドは、ヒトのGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というホルモンを基に設計されたペプチド製剤です。天然のGLP-1は体内で約2分という極めて短い時間で分解されてしまうため、そのままでは薬として使えません。

ノボ ノルディスク社の研究チームは、アミノ酸の一部を置換し、長鎖脂肪酸を結合させるアシル化技術を応用しました。その結果、血中アルブミンとの結合力が高まり、半減期が約1週間まで延長されています。この構造上の工夫により、週1回の投与で持続的な効果を得られる薬剤が完成しました。

2017年の米国FDA承認から各国への展開

2017年12月、米国FDAが「オゼンピック」の商品名でセマグルチド皮下注射製剤を承認しました。適応は2型糖尿病における血糖コントロールの改善です。

承認年地域・機関適応
2017年米国(FDA)2型糖尿病
2018年EU(EMA)2型糖尿病
2018年カナダ2型糖尿病
2020年日本(PMDA)2型糖尿病

欧州では2018年2月に欧州医薬品庁(EMA)が承認し、同年カナダでも認可を取得しました。こうした各国の規制当局が相次いで承認に踏み切った背景には、SUSTAINプログラムと呼ばれる大規模臨床試験の強固なエビデンスがあります。

日本では2020年にPMDAが製造販売を承認

日本では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査を行い、2020年3月にオゼンピック皮下注の製造販売承認が下りました。同年6月から医療機関での処方が可能となっています。日本の承認が欧米より約2年遅れた理由として、日本人を対象にした追加の臨床データ収集が求められたことが挙げられます。

日本人の2型糖尿病は、欧米人と比べてインスリン分泌能が低く、肥満度も異なる傾向があるため、国内治験で日本人に特有の有効性と安全性をあらためて確かめる作業が重要でした。こうした人種差への配慮が、承認時期の差を生んだ背景の一つです。

セマグルチドはなぜ血糖値を下げながら体重も減らせるのか

セマグルチドが血糖降下と体重減少の両方をもたらす理由は、膵臓と脳の両方に作用するGLP-1受容体作動薬としての二面的な薬理作用にあります。

インクレチンの働きを模倣する独自の構造

食事をとると小腸からGLP-1やGIPといったインクレチンホルモンが分泌され、膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの放出を促します。セマグルチドはこのGLP-1の作用を人工的に再現する薬剤であり、血糖値が高いときにだけインスリン分泌を増やす「血糖依存性」の特徴をもっています。

単独使用時の低血糖リスクが低い点は、従来のスルホニル尿素薬などと異なる大きな利点といえるでしょう。

食欲を抑制して体重減少を後押しする仕組み

セマグルチドは膵臓だけでなく、脳の視床下部にあるGLP-1受容体にも作用し、満腹感を高めて食欲を抑えます。胃の内容物の排出速度を緩やかにする効果も加わることで、食事量が自然に減るケースが多く報告されています。

臨床試験では、セマグルチド1.0mgの投与群でプラセボと比較して平均4〜6kgの体重減少が確認されました。糖尿病の管理において体重コントロールは大切な要素であり、血糖と体重の両方に働きかけるこの特性は臨床的に高く評価されています。

週1回の皮下注射で済む長時間作用の秘密

先述のアシル化技術に加え、セマグルチドにはDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素に対する分解耐性が組み込まれています。天然のGLP-1はDPP-4が速やかに分解してしまいますが、セマグルチドは8番目のアミノ酸をα-アミノイソ酪酸に置換することで、この分解を回避しています。

  • 半減期は約1週間(約165時間)で、定常状態に達するまでおよそ4〜5週間
  • 腎機能や肝機能の軽度〜中等度の低下があっても用量調整は原則として不要

こうした薬物動態上の特長により、毎日の注射が負担だと感じる方にも受け入れやすい治療選択肢となっています。

SUSTAINプログラムが明らかにしたオゼンピックの有効性と安全性

オゼンピックの承認を支えた根幹のエビデンスは、SUSTAIN(Semaglutide Unabated Sustainability in Treatment of Type 2 Diabetes)と名づけられた7つの国際共同臨床試験から生まれています。

SUSTAIN 1〜5試験で確認されたHbA1c改善と体重減少

SUSTAIN 1試験では、食事・運動療法のみの2型糖尿病患者388名を対象に、セマグルチド0.5mgおよび1.0mgとプラセボを30週間比較しました。セマグルチド群ではHbA1cが1.45〜1.55%低下し、プラセボとの差は約1.5ポイントに達しています。

SUSTAIN 2〜5試験では、メトホルミンやインスリンなど既存薬との併用においても、シタグリプチンやエキセナチド、インスリングラルギンといった対照薬を上回るHbA1c低下と体重減少が繰り返し示されました。これらの試験は日本を含む複数の国と地域で実施され、幅広い患者層における再現性を確認しています。

試験名対照薬主な結果
SUSTAIN 1プラセボHbA1c 約1.5%低下
SUSTAIN 2シタグリプチンHbA1cと体重で優越性
SUSTAIN 6プラセボ心血管イベント26%減少

SUSTAIN 6試験で示された心血管リスクの低減

心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者3297名を対象としたSUSTAIN 6試験は、オゼンピックの承認審査で特に重視された試験です。約2年間の追跡の結果、セマグルチド群では主要心血管イベント(心血管死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)がプラセボ群と比較して26%有意に減少しました。

このデータは、セマグルチドが血糖を下げるだけでなく心血管系の保護にも寄与する可能性を強く示唆するものです。米国FDAはSUSTAIN 6の結果を受け、2020年にオゼンピックの適応に「2型糖尿病患者における主要心血管イベントのリスク低減」を追加しました。

既存のGLP-1受容体作動薬との比較で優位に立つデータ

SUSTAIN 7試験ではデュラグルチド(トルリシティ)と直接比較され、セマグルチド1.0mgはデュラグルチド1.5mgに対してHbA1c低下・体重減少の両面で統計学的に有意な差を示しました。同じGLP-1受容体作動薬の中でも特に高い治療効果が得られることを裏づけたデータとして、各国の承認審査で重視されています。

日本でのオゼンピック承認に至った審査と国内治験のポイント

2型糖尿病患者の体質は人種によって異なるため、日本での承認には国内の治験データが欠かせませんでした。PMDAはグローバル試験の結果に加え、日本人患者を含むサブグループ解析を慎重に評価しています。

日本人2型糖尿病患者を対象にした治験データ

SUSTAIN 1試験には日本の施設も参加しており、日本人患者のサブグループ解析が行われました。その結果、日本人患者でもHbA1cの低下幅と体重減少幅は全体集団と同等の水準であることが確かめられています。

日本人は欧米人に比べてBMIが低い傾向にあるものの、体重減少効果は同様に認められた点が注目されました。

PMDAの審査で評価された安全性と副作用への対応

PMDAの審査では、有効性だけでなく安全性のプロファイルも詳しく検証されています。セマグルチドで報告される代表的な副作用は消化器症状、特に悪心(吐き気)や下痢です。

副作用の種類発現頻度の目安
悪心(吐き気)約15〜20%
下痢約8〜12%
便秘約5〜7%

これらの症状の多くは投与開始時に集中し、用量を段階的に増やす漸増法を用いることで軽減できるとされています。重篤な副作用の頻度は低く、リスクと治療効果のバランスを総合的に判断して承認が下りました。

国内承認時の適応と推奨される用法・用量

日本で承認された適応は「2型糖尿病」であり、開始用量は週1回0.25mgの皮下注射です。4週間以上の間隔を空けて0.5mgに増量し、効果が十分でない場合はさらに1.0mgへ増量することが認められています。食事のタイミングを問わず投与でき、腹部・大腿部・上腕部のいずれかに自己注射する形式です。生活スタイルに合わせやすい点も継続治療を支える要素となっています。

糖尿病治療の枠を超えて広がるセマグルチドへの関心と課題

承認後、セマグルチドは糖尿病治療の領域にとどまらず、ダイエット目的での使用が急速に広がりました。しかしながら、適正使用を逸脱した処方は医療上のリスクを伴います。

ダイエット目的の処方増加がもたらした供給不安

2型糖尿病の治療薬として承認されたオゼンピックは、体重減少効果が広く知られるにつれ、自由診療クリニックで「やせ薬」として処方されるケースが増えました。SNSやメディアでの話題化も拍車をかけ、需要が急増しています。

その結果、本来の適応である糖尿病患者への供給が一時的に不安定になるという問題が発生しました。ノボ ノルディスク社は増産体制を整えつつも、適正使用の呼びかけを繰り返し行っています。

肥満症治療薬ウゴービとしての承認で線引きは明確に

セマグルチドを肥満症の治療に用いる場合は、「ウゴービ」という別ブランドが2021年に米国で承認されました。日本でも2023年に承認を取得し、BMI 27以上で肥満に関連する健康障害を有する方を対象としています。

オゼンピックはあくまで糖尿病治療薬、ウゴービは肥満症治療薬と、それぞれ適応が明確に分かれている点を理解しておくことが大切です。

医療関係者や学会が求める適正使用のあり方

日本糖尿病学会をはじめとする関連学会は、オゼンピックの適正使用に関する声明を公表し、2型糖尿病の診断を受けていない方への安易な処方に警鐘を鳴らしています。副作用のリスク管理や長期的な安全性の観点からも、医師の適切な判断のもとで使用されるべき薬剤です。

  • 2型糖尿病と診断された方に対し、食事・運動療法と併用して処方される
  • 自由診療でのダイエット目的の処方は添付文書上の適応外にあたる

オゼンピックの注射薬と経口薬リベルサスはどう使い分ける?

「注射は苦手だから飲み薬がいい」という声は少なくありません。セマグルチドには週1回の皮下注射であるオゼンピックのほかに、毎日服用する経口薬「リベルサス」(Rybelsus)があり、患者の希望や生活背景に応じて選択できます。

経口GLP-1受容体作動薬が生まれた背景

GLP-1受容体作動薬はペプチド製剤のため、従来は注射でしか投与できませんでした。リベルサスは、世界初の経口GLP-1受容体作動薬として2019年に米国で承認され、日本でも2021年に承認を取得しています。注射への抵抗感がGLP-1受容体作動薬の普及を妨げていた面があり、経口薬の登場はその壁を低くしました。

胃からの吸収を可能にしたSNAC技術

リベルサスでは、SNAC(サルカプロザートナトリウム)という吸収促進剤がセマグルチドと同じ錠剤に配合されています。SNACは胃の粘膜を一時的に透過しやすくし、セマグルチドが分解されずに血中へ移行するのを助けます。空腹時にコップ半分程度(約120mL)の水で服用し、服用後30分は飲食を控える必要がある点が特徴です。

比較項目オゼンピック(注射)リベルサス(経口)
投与頻度週1回毎日
投与方法皮下注射経口(空腹時)
維持用量0.5〜1.0mg7〜14mg

注射が苦手な方にとっての利点と服用時の注意点

注射に対する心理的なハードルが高い方にとって、リベルサスは治療継続のモチベーションを保ちやすい選択肢です。一方で、空腹時に水で服用するという制約や、食事・他の薬との間隔を空ける必要があるため、生活リズムによっては服用管理が難しいと感じる場合もあります。

どちらを選ぶかは、患者一人ひとりの生活スタイルや治療目標、副作用の出方などを踏まえて担当医と相談しながら決めることが望ましいでしょう。

よくある質問

オゼンピックはいつ日本で承認されましたか?

オゼンピック(セマグルチド)は、2020年3月に日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)により2型糖尿病治療薬として製造販売承認を取得しました。同年6月から医療機関での処方が開始されています。

日本での承認は米国(2017年)や欧州(2018年)よりも約2年遅れていますが、日本人患者を対象とした治験データの収集と評価に時間を要したことが主な理由です。

オゼンピックの承認に用いられた臨床試験はどのようなものですか?

オゼンピックの承認はSUSTAINプログラムと呼ばれる7つの大規模国際共同臨床試験に基づいています。SUSTAIN 1〜7試験を通じて合計8000人以上の2型糖尿病患者が参加し、HbA1cの低下効果、体重減少効果、心血管イベントへの影響などが評価されました。

特にSUSTAIN 6試験では心血管リスクの高い患者を対象に約2年間追跡し、主要心血管イベントの発生率がプラセボ群に比べて26%低下したという結果が示されています。

オゼンピックの承認された適応症は糖尿病だけですか?

日本において、オゼンピックが承認されている適応症は2型糖尿病のみです。ダイエットや体重管理を目的とした使用は、添付文書上の適応外に該当します。

肥満症治療を目的としたセマグルチド製剤としては、別ブランドの「ウゴービ」が存在し、2023年に日本で承認されています。適応や用量が異なるため、オゼンピックとウゴービは目的に合わせて処方されるべき別々の製品です。

オゼンピックの副作用として多い症状は何ですか?

オゼンピックの代表的な副作用は消化器に関連する症状です。悪心(吐き気)が約15〜20%、下痢が約8〜12%、便秘が約5〜7%の頻度で報告されています。多くの場合、投与の初期段階に集中し、用量を段階的に増やすことで軽減される傾向があります。

重篤な副作用の報告は少ないものの、膵炎の既往がある方や甲状腺に疾患のある方は投与前に担当医へ相談してください。気になる症状が出た場合は、自己判断で中止せず医師に連絡することが大切です。

オゼンピックと経口薬リベルサスの違いは何ですか?

オゼンピックとリベルサスはどちらも有効成分がセマグルチドですが、投与経路と投与頻度が異なります。オゼンピックは週1回の皮下注射であるのに対し、リベルサスは毎日空腹時に服用する経口薬です。

リベルサスはSNACという吸収促進剤の技術を用いて胃からセマグルチドを吸収させる仕組みとなっています。注射への抵抗感がある方にとっては経口薬が続けやすい一方、毎朝の服用ルールを守る必要があるため、どちらが合うかは生活習慣に応じて担当医と選択するのがよいでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

大木 沙織 大木皮ふ科クリニック 副院長

皮膚科医/内科専門医/公認心理師 略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。 所属:日本内科学会