
ビクトーザ(一般名リラグルチド)は、単独で使う限り低血糖を起こしにくい薬です。血糖値が高いときに強く働き、下がるとインスリン分泌を促す作用が弱まるためです。
ただし、インスリン製剤やスルホニル尿素薬と併用すると、低血糖の危険は高まります。食事量の減少、予定外の運動、飲酒などが重なった日も注意が必要です。
冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感は代表的なサインです。意識が保たれて飲み込めるなら、決めておいた量のブドウ糖をとり、約15分後に症状や血糖値を確かめます。意識が悪い人には口から飲食物を与えず、周囲の人が救急要請してください。
この記事では、ビクトーザと低血糖の関係、併用薬ごとの注意点、症状が出た場面での対処、再発を減らすための相談事項を解説しています。
ビクトーザ単独で低血糖が起こりにくい理由
ビクトーザは、血糖値に応じてインスリンの分泌を助ける薬です。血糖を下げる力が常に同じ強さで働く薬とは異なり、血糖値が低い場面では作用が弱まります。
血糖値に応じてインスリン分泌を助ける
食後に血糖値が上がると、膵臓のベータ細胞はインスリンを分泌します。インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪などへ取り込ませ、血糖値を下げるホルモンです。
ビクトーザは、体内の消化管ホルモンに似た働きをするGLP-1受容体作動薬です。血糖値が高いときのインスリン分泌を後押しし、血糖値が下がるにつれて、その後押しも弱くなる性質があります。
また、血糖値を上げるグルカゴンというホルモンの分泌にも影響します。この作用も血糖値に依存するため、ビクトーザだけで血糖値を際限なく下げる方向には働きにくいと考えられています。
薬によって血糖の下げ方は異なる
血糖降下薬は、すべてが同じ方法で血糖値を下げるわけではありません。持続血糖モニターを用いて複数の薬を比べた研究でも、1日の血糖推移は薬の種類によって異なると報告されています。
| 薬の働き方 | 血糖が低い場面 | 低血糖との関係 |
|---|---|---|
| ビクトーザ | インスリン分泌を促す作用が弱まる | 単独では起こしにくい |
| インスリン製剤 | 注射した分の作用が続く | 食事や運動とのずれで起こりうる |
| スルホニル尿素薬 | インスリン分泌を促す作用が続く | 併用時は特に注意が必要 |
この違いが、ビクトーザ単独と併用時で危険度が変わる背景です。「ビクトーザは低血糖を起こしにくい」という説明は、どの薬と組み合わせても心配がないという意味ではありません。
単独でも体調と測定値を確認したい場面
食事がほとんどとれなかった日、普段より長く体を動かした日、空腹のまま飲酒した日は、血糖値が下がる条件が重なります。ビクトーザ以外の薬を使っていなくても、いつもと違う感覚を見過ごさない姿勢が大切です。
腎機能や肝機能の状態、食事の間隔、運動量によっても血糖の動きは変わります。心配な症状があれば測定し、測れない場面でも低血糖らしいサインがそろうなら、あらかじめ主治医から示された対応を優先してください。吐き気や下痢で食事と水分をとれない状態が続く場合は、脱水や高血糖など別の問題もあり得るため、低血糖への対応だけで済ませず処方元へ連絡します。
併用すると低血糖に注意したい薬
特に注意が要る組み合わせは、インスリン製剤とスルホニル尿素薬です。ビクトーザを始める前から使っている薬だけでなく、別の医療機関で処方された薬も含めて確認します。
インスリン製剤では食事や運動とのずれが影響する
インスリン製剤は、体内で不足するインスリンを注射で補います。食事から入る糖質が少ない、注射後の食事が遅れる、運動で消費するブドウ糖が増えるといったずれが生じると、血糖値が下がりすぎる恐れがあります。
インスリン製剤には、食事に合わせて短く働く種類と、基礎分泌を補うため長く働く種類があります。製剤によって低血糖が起きやすい時間帯が異なるため、ビクトーザの開始時には製品名と注射時刻を主治医へ正確に伝えます。
併用開始時には、血糖値の測定時刻やインスリン量について個別の指示が必要です。自己判断で注射量を減らしたり、打つのをやめたりすると、高血糖につながるため避けてください。
スルホニル尿素薬はインスリン分泌を促し続ける
スルホニル尿素薬は、膵臓からのインスリン分泌を促す飲み薬です。グリメピリド、グリクラジド、グリベンクラミドなどが該当し、処方時には薬の一般名と商品名の両方を確かめると見落としを減らせます。
この薬の作用が残っているところへビクトーザを加えると、単独使用より低血糖に注意が必要です。とりわけ食事量が不安定な時期や腎機能が低下している人では、測定値と症状を主治医へ具体的に伝える必要があります。
| 併用薬 | 注意する場面 | 確認先 |
|---|---|---|
| インスリン製剤 | 食事の遅れ、予定外の運動 | 注射量と測定時刻 |
| スルホニル尿素薬 | 食事量の低下、腎機能の変化 | 服用量と服用時刻 |
| そのほかの血糖降下薬 | 薬の追加や変更 | 組み合わせ全体 |
お薬手帳で組み合わせを漏れなく伝える
薬の名前が分からなくても、錠剤の色や形だけで判断しないでください。お薬手帳、処方内容が表示されたアプリ、薬袋のいずれかを受診時に示せば、同じ成分や同じ働きの薬を確認しやすくなります。
- 糖尿病の注射薬 … 製品名、1回量、使う時刻
- 糖尿病の飲み薬 … 製品名、1錠あたりの量、服用時刻
- 別の医療機関の処方薬 … 処方元と使用目的
- 市販薬やサプリメント … 商品名と使用頻度
薬を減らす必要があるかは、測定値、食事量、腎機能などを合わせて判断します。低血糖が怖いという理由だけで併用薬を中断せず、処方した主治医へ相談してください。相談時には、低い値が出た時刻とその前後の食事を伝えると、どの薬の作用時間と重なったかを検討しやすくなります。
冷や汗や震えから低血糖を疑う
低血糖の初期には、冷や汗、手指の震え、動悸、強い空腹感などが現れます。さらに血糖値が下がると、考えがまとまらない、受け答えがおかしい、強い眠気が出るなど、脳の働きにも影響が及びます。
初期に出やすい体からの警告
血糖値が低下すると、体は血糖を戻そうとして交感神経を働かせます。その反応として冷や汗、震え、動悸、不安感、顔色の変化などが現れ、普段とは違う強い空腹感だけが先に出る人もいます。
症状の出方や順番は毎回同じとは限りません。自分に起きた感覚と血糖値を一緒に記録すると、次に気づくための個人的な手掛かりになります。
| 段階 | 感じやすい変化 | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 早い段階 | 冷や汗、震え、動悸、空腹感 | 可能なら測定し、すぐ補糖 |
| 進んだ段階 | 集中困難、ぼんやりする、言葉が出にくい | 周囲へ助けを求めて補糖 |
| 重い段階 | けいれん、意識の低下 | 口から与えず救急要請 |
脳への糖が足りなくなると判断力が落ちる
脳はブドウ糖を主要なエネルギー源として使うため、低血糖が進むと集中力や判断力が低下します。いつもできる操作を間違える、同じ話を繰り返す、ろれつが回りにくいといった変化は、本人より周囲が先に気づく場合もあります。
「少し休めば戻る」と判断して補糖を遅らせると、自分で対処できなくなる恐れがあります。運転中なら安全な場所へ停車し、機械を扱っているなら操作を中断したうえで対処します。
数値と症状が一致しないときの判断
一般に血糖値70mg/dL未満は低血糖への注意が必要な水準ですが、症状が出る値には差があります。高い血糖値が続いていた人では急に下がる途中で症状が出る一方、低い値でも自覚しにくい人がいます。
測定器の値だけでなく、体の変化と直前の食事、運動、服薬を合わせて判断するのが基本です。測定できず、低血糖を疑う症状があり、安全に飲み込める状態なら、主治医と決めた補糖を先に行います。
ただし、補糖後も改善しない症状をすべて低血糖と決めつけるのは危険です。追加の補糖を際限なく続けず、意識の変化や対処後の経過に応じて医療機関へ連絡してください。呼びかけへの反応が鈍い、けいれんがある、安全に飲み込めないといった場合は、本人だけで対処しようとせず救急要請が必要です。
低血糖に気づいた直後の対応
意識がはっきりして飲み込めるなら、吸収の速いブドウ糖をすぐにとるのが基本です。補糖後は約15分待って再確認し、不十分なら決められた手順を繰り返します。
安全を確保してブドウ糖をとる
まず作業や歩行を止め、転倒や事故のない場所へ移ります。血糖測定器が手元にあれば測りますが、典型的な症状が強いときに測定の準備で補糖を遅らせる必要はありません。
補糖にはブドウ糖の錠剤やゼリーなど、量を把握できて吸収の速い物が向いています。目安としてブドウ糖10〜20gを使う方法がありますが、実際の量は主治医から指示された内容を優先してください。
砂糖を含む菓子は脂質が多いと吸収が遅く、最初の補糖には向かない品があります。アルファグルコシダーゼ阻害薬という糖質の吸収を遅らせる薬を服用している人は、砂糖ではなくブドウ糖が必要です。
約15分後に症状と血糖値を確かめる
補糖してすぐ動き始めず、座って回復を待ちます。約15分後にもう一度測定し、測定できない場合は冷や汗や震えが消えたか、受け答えが普段どおりかを確認します。
| 時点 | 行う内容 | 避けたい行動 |
|---|---|---|
| 気づいた直後 | 動作を止め、安全を確保 | 運転や作業の継続 |
| 安全を確保した後 | 決めた量のブドウ糖を摂取 | 脂質の多い食品だけで対応 |
| 約15分後 | 血糖値と症状を再確認 | 回復確認前の活動再開 |
まだ低い、または症状が残るなら、主治医と決めた量を再びとります。回復後も次の食事まで時間がある場合の補食については、使っている薬の作用時間を踏まえた個別の取り決めが必要です。
飲み込めない人には口から与えない
意識が低下している人、けいれんしている人、呼びかけへの反応がおかしい人へ、飲み物やブドウ糖を口から与えてはいけません。気管へ入って窒息する恐れがあるため、周囲の人は救急要請し、安全な姿勢を保ちます。
グルカゴン製剤を処方されている場合は、家族や同僚が使い方と保管場所を事前に把握しておく必要があります。使用後に意識が戻っても、低血糖を起こした薬の作用が残っている可能性があるため、救急隊や医療機関の指示を受けてください。いざというときに説明書を初めて開くのではなく、本人が元気なうちに使用手順と救急要請の役割分担を確認しておきます。
気づきにくい低血糖へ備えるには?
低血糖を繰り返すと、冷や汗や震えといった早い段階の警告が弱くなる人がいます。気づいた時点ですでに判断力が落ちている状況を避けるには、測定と記録、周囲との共有が役立ちます。
警告症状が弱くなる低血糖無自覚
血糖値が下がっているのに、自律神経による警告を感じにくい状態を低血糖無自覚と呼びます。低血糖を繰り返している人、糖尿病の経過が長く自律神経に障害がある人などでは注意が必要です。
以前は震えで気づけたのに最近は突然ぼんやりする、測定すると予想外に低いといった変化は、診察時に伝える価値があります。測定値が低くても平気だからと放置せず、低血糖を避ける治療目標を主治医と見直してください。
夜間は翌朝の手掛かりも記録する
睡眠中は初期症状を自覚しにくく、汗で寝具が湿る、悪夢で目が覚める、翌朝に頭痛や強い疲労感が残るといった間接的な手掛かりしかない場合があります。こうした変化だけで夜間低血糖とは断定できませんが、繰り返すなら就寝前や起床時の測定値と一緒に記録します。
夜間の値を確かめるために測定時刻を増やすか、持続血糖モニターを使うかは、治療内容に応じた判断が必要です。自己流で毎晩の補食を加えると高血糖や体重への影響も生じるため、先に主治医へ相談します。
運転や一人での作業には事前の備えを置く
運転や高所作業では、短い判断の遅れが大きな事故につながります。低血糖を起こしうる併用薬がある人は、開始前の測定が必要か、どの値なら開始を見合わせるかを主治医と決めておきます。
ブドウ糖は運転席から降りなくても手が届く場所に置き、使用期限を定期的に確認します。症状が出たら安全に停車し、補糖後に血糖値と判断力が戻ったと確認できるまで運転を再開しないでください。
ベータ遮断薬など一部の薬は、動悸や震えを感じにくくする可能性があります。該当する薬を使っているかは自己判断せず、お薬手帳を示して確認するのが確実です。新しい薬が追加されたときも、処方元や薬局へビクトーザと糖尿病治療薬を使っていることを伝え、低血糖のサインへの影響を確かめてください。
ビクトーザ治療中に主治医と決めておきたい項目
低血糖への備えは、補糖量、測定のタイミング、連絡する条件まで具体化すると実行しやすくなります。診察では「心配です」だけで終わらせず、実際の値と生活場面を材料に相談します。
測定値と症状を同じ記録に残す
記録には日時と血糖値だけでなく、症状や直前の食事・運動・飲酒の状況を残します。薬を使った時刻も加えると、低血糖が起きた条件を比べやすくなり、治療を調整する判断材料になります。
数値が低かった時間だけでなく、補糖した量と約15分後の値も重要です。測定器の履歴や持続血糖モニターの画面を見せる場合は、気になった日時をメモしておくと診察中に探しやすくなります。
補糖と連絡の手順を言葉にしておく
同じ「低血糖」でも、使っている薬や低下の程度によって必要な対応は変わります。補糖に使う品と量、再測定までの時間、改善しないときの連絡先を紙やスマートフォンへまとめておきましょう。
- 補糖の品と量 … 携帯するブドウ糖の種類と1回量
- 再確認の方法 … 待つ時間、測定値、症状の見方
- 連絡する条件 … 改善しない回数や繰り返す頻度
- 緊急時の協力者 … 家族や職場へ伝える内容
重い低血糖に備えるグルカゴン製剤が必要か、誰がどう使うかも相談項目です。処方された場合は、本人だけでなく緊急時にそばにいる人が説明を受け、期限と保管場所を共有します。
繰り返すときは併用薬の調整を相談する
低血糖が繰り返す、補糖しても再び下がる、自覚症状が弱くなったという変化は、次の定期診察まで待たず処方元へ伝えます。日時、測定値、補糖後の経過が分かると、原因となる条件を検討しやすくなります。
インスリン製剤やスルホニル尿素薬を調整するかは、主治医が高血糖との釣り合いを見て決めます。ビクトーザを含む薬を自己判断で減量・中断せず、指示を受けるまでの扱いも電話などで確認してください。
低血糖への不安で外出や運動を避けたくなる気持ちは自然です。対処品と測定方法を準備し、自分の生活に合う安全策を主治医と決めると、必要以上に活動を狭めず治療を続けやすくなります。
よくある質問
ビクトーザだけでも低血糖になりますか?
単独では低血糖を起こしにくい薬ですが、食事がとれない日や激しい運動が重なれば注意が必要です。
冷や汗や震えがあれば血糖値を測り、飲み込める状態なら決めておいた量のブドウ糖をとってください。インスリン製剤やスルホニル尿素薬も使っている場合は危険が高まるため、低血糖が起きた時刻と測定値を処方元へ伝えます。
一緒に使うと低血糖が起こりやすい薬はどれですか?
特に注意したいのは、インスリン製剤とスルホニル尿素薬です。
商品名だけでは薬の種類が分かりにくいことがあります。お薬手帳や薬袋を主治医または薬剤師に示して使用中の薬を確認し、処方量は自己判断で変えないでください。
低血糖のときはチョコレートでもよいですか?
チョコレートは脂質が多く糖の吸収が遅れるため、最初の補糖には適していません。ブドウ糖の錠剤やゼリーなど、吸収が速く量を把握できる物を選びます。
携帯する品と1回量は主治医と決め、外出時にもすぐ取り出せる場所へ入れておきます。アルファグルコシダーゼ阻害薬を服用している人は砂糖ではなくブドウ糖が必要なため、併用薬も確認してください。
補糖して症状が消えたら、そのまま活動してよいですか?
すぐには活動を再開せず、約15分後に血糖値と症状を再確認します。運転や危険を伴う作業は、血糖値だけでなく判断力が普段どおりに戻ったと確認できるまで控えてください。
低血糖を繰り返すときはビクトーザを中止すべきですか?
自己判断で中止せず、低血糖が起きた日時、測定値、食事、運動、補糖後の経過を処方元へ伝えます。併用するインスリン製剤やスルホニル尿素薬を含め、どの薬を調整するかは主治医が判断します。
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