繰り返しできる大人ニキビは、肌表面のケアだけでは解決しないことが多く、体内のバランスの乱れが根本原因となっているケースが少なくありません。

本記事では、東洋医学の観点から大人ニキビの原因を紐解き、代表的な漢方薬である十味敗毒湯や桂枝茯苓丸がどのような体質や症状に適しているのかを詳しく解説します。

一時的な対症療法ではなく、体質そのものを見直すことで「ニキビができにくい肌」を目指すための知識を提供し、ご自身に合った漢方治療の選択肢を見つける手助けをします。

東洋医学から見る大人ニキビの原因と治療アプローチ

大人ニキビは単なる肌のトラブルではなく、体内のバランスが崩れているサインであると考え、根本的な体質の偏りを整えることで再発を防ぐのが東洋医学のアプローチです。

西洋医学的な治療が今ある炎症を抑えることに主眼を置くのに対し、漢方治療では「なぜニキビができるのか」という身体内部の環境に目を向けます。

皮膚に現れる症状は、内臓の不調や全身のエネルギー循環の停滞が表面化したものであると捉え、局所的な処置だけでなく全身を診ることで解決の糸口を探ります。

「気・血・水」の乱れと皮膚トラブル

東洋医学では、健康を維持するために必要な要素として「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つを重視しており、これらが体内を巡っています。

これら3つの要素が滞りなく巡り、相互にバランスが取れている状態が健康であると考えますが、何らかの原因でバランスが崩れると病気や不調として現れます。

しかし、日々のストレスや食生活の不摂生、加齢によるホルモンバランスの変化などによってこれらの巡りが悪くなると、皮膚にトラブルとして現れます。

「気」は生命エネルギーそのものを指し、これが滞ると精神的なストレスを感じやすくなり、口周りやフェイスラインに急な吹き出物ができる原因となります。

気が不足すると肌のバリア機能が低下し、少しの刺激で炎症を起こしやすくなるため、まずは気を充実させ、スムーズに流すことが治療の基本となります。

「血」は全身に栄養を運ぶ血液とその働きを指し、これが滞ると「お血」と呼ばれる状態になり、皮膚の新陳代謝が著しく低下してしまいます。

血の巡りが悪いと、ニキビ跡が赤紫色の色素沈着として残りやすくなったり、繰り返し同じ場所に硬いニキビができやすくなったりする傾向があります。

また、「水」の代謝が悪くなると、体内に余分な水分や老廃物が溜まりやすくなり、ジクジクとした膿を持ちやすいニキビができやすくなります。

大人ニキビの治療においては、これらのどの要素が不足しているのか、あるいは滞っているのかを見極めることが、適切な漢方薬を選ぶための第一歩となります。

西洋医学と漢方医学の役割分担

西洋医学におけるニキビ治療は、主に抗生物質による殺菌や、塗り薬による毛穴詰まりの解消など、発生している症状に対して直接アプローチする方法をとります。

この方法は即効性があり、現在進行形で起きている強い炎症や痛みを伴う化膿を鎮める力に長けているため、急性期の症状コントロールには非常に有効です。

漢方治療が目指すゴール

  • 今ある炎症を鎮めながら、新しいニキビができにくい土壌を作ること
  • 生理周期やストレスによる肌荒れの波を小さくすること
  • 胃腸機能や血流を改善し、肌のターンオーバーを正常化すること

一方、漢方医学は「肌は内臓の鏡」という考えに基づき、胃腸の働きやホルモンバランス、冷えやのぼせといった全身の状態を改善することを目指します。

結果として皮膚を健康な状態へ導くため、時間はかかるものの、治療を終えた後もニキビができにくい体質を維持できる可能性が高まります。

このように、漢方治療は今あるニキビを治すだけでなく、身体全体の調子を整えることで、長期的な肌の安定を目指す点が大きな特徴です。

ご自身の症状が「繰り返しできる」「治りにくい」「体調によって悪化する」といった特徴を持つ場合、漢方薬は非常に有効な選択肢となります。

西洋医学で急性期の炎症を抑えつつ、漢方医学で再発しない身体作りを行うというように、両者の長所を組み合わせる治療法も現在では広く行われています。

十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)の特徴と適応症状

十味敗毒湯は、皮膚の赤みや化膿を伴うトラブルに対して頻繁に選択される漢方薬であり、ニキビ治療においても第一選択薬の一つとして広く知られています。

江戸時代の著名な外科医である華岡青洲が、中国の古典処方をベースに日本人の体質に合わせて考案した処方で、体内の「毒」を排出する力が特徴です。

皮膚の炎症を鎮めるだけでなく、アレルギー体質の改善などにも応用されることがあり、皮膚疾患全般に対して幅広い適応を持っています。

10種類の生薬が持つ複合的な作用

この処方には、その名の通り10種類の生薬が絶妙なバランスで配合されており、それぞれの生薬が持つ薬効が相乗効果を生み出しています。

主な構成生薬として、柴胡(サイコ)や桔梗(キキョウ)などが含まれており、これらが協力して働くことで皮膚の解毒機能を高め、膿の排出を促します。

具体的には、皮膚の免疫機能を調整し、アクネ菌や黄色ブドウ球菌などの細菌に対する抵抗力を高める作用が期待でき、感染による悪化を防ぎます。

また、荊芥(ケイガイ)や防風(ボウフウ)といった生薬は、皮膚表面の病邪を発散させる働きを持ち、ニキビに伴う痒みや熱感を抑える効果があります。

茯苓(ブクリョウ)は体内の水分代謝を助け、余分な水分を排出することで、患部がジクジクするのを防ぎ、乾燥しすぎない適度な湿潤環境を保ちます。

これにより、炎症を持って赤くなったニキビが枯れていくのを助け、スムーズな治癒を促すとともに、ニキビ跡が残りにくいように皮膚の再生をサポートします。

桜皮(オウヒ)の配合による女性ホルモンへの作用

近年の研究や製品によっては、本来の処方に加えて配合生薬の一つとして「桜皮(オウヒ)」が含まれているものが一般的になっています。

桜皮には女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの産生を促す作用があるという報告もあり、ホルモンバランスの乱れが関与する大人ニキビに効果的です。

十味敗毒湯の適応判断基準

適している症状・体質あまり適していない症状・体質期待できる主な変化
赤く盛り上がったニキビ
小さな膿をもつニキビ
蕁麻疹や湿疹ができやすい
じゅくじゅくと湿潤が強い患部
暗紫色に変色した古いニキビ
著しく体力が低下している人
ニキビの赤みが引く
化膿が広がるのを防ぐ
皮膚の痒みが軽減する
季節の変わり目に悪化する
顔だけでなく背中にもできる
乾燥が極端に激しい肌
炎症がなく白ニキビだけの状態
新しいニキビの発生頻度が減る
肌のキメが整いなめらかになる

男性ホルモンの影響で皮脂分泌が過剰になっている場合でも、桜皮の作用でホルモンバランスを整えることで、過剰な皮脂による毛穴の詰まりを防ぎます。

このように、十味敗毒湯は単に菌を殺すだけでなく、皮膚の環境を整え、ホルモンバランスにも働きかけることで、多角的に大人ニキビへアプローチします。

ただし、万能に見える十味敗毒湯ですが、すべての人に適しているわけではなく、体力が中程度の方に向いており、極端に胃腸が弱い方には不向きな場合があります。

また、すでにニキビが黒ずんで硬結(しこり)になっているような慢性期や、炎症が全くない白ニキビの状態には効果が薄い場合もあるため見極めが必要です。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)による血流改善アプローチ

桂枝茯苓丸は、東洋医学でいう「お血(おけつ)」、すなわち血流の滞りを改善する代表的な駆お血剤として、婦人科疾患や皮膚トラブルに多用されます。

大人ニキビの中でも、特に生理前に悪化するものや、ニキビ跡が茶色っぽく色素沈着として残りやすいタイプに対して、血液循環を促すことで改善を図ります。

肩こりや頭痛、足の冷えなどを伴うことが多く、これらは全て血流の悪さに起因するサインであるため、ニキビと同時にこれらの不定愁訴も治療の対象となります。

「お血」と大人ニキビの深い関係

血の巡りが悪くなると、皮膚の細胞一つひとつに必要な酸素や栄養素が行き渡らなくなると同時に、代謝によって生じた老廃物の回収がスムーズに行われなくなります。

これが肌のターンオーバーのサイクルを乱し、古い角質が剥がれ落ちずに肌表面に残ってしまうことで、角質が厚くなり毛穴を塞ぐ原因となります。

厚くなった角質が毛穴を塞ぐと、内部に皮脂が溜まりやすくなり、そこにアクネ菌が繁殖することで炎症を伴うニキビが発生するという悪循環に陥ります。

また、血流の悪さは「冷えのぼせ」を引き起こしやすく、足元は冷えているのに顔だけカッカと熱いという状態は、上半身に熱がこもっている証拠です。

この顔面に偏在した熱が皮膚の炎症、つまりニキビを助長させる要因となるため、熱のバランスを整えることが治療において非常に重要になります。

桂枝茯苓丸は、この偏在した熱と血を全身に巡らせることで、顔の熱を下げて足元を温め、結果として顔の赤みや炎症を自然に鎮める働きをします。

ホルモンバランスと月経トラブルの調整

大人ニキビの大きな特徴として、生理周期に連動して口周りや顎ライン(Uゾーン)に多発し、生理が終わると少し落ち着くという波を繰り返す点が挙げられます。

お血体質のチェックと桂枝茯苓丸の適応

お血のサイン(身体症状)お血のサイン(皮膚症状)桂枝茯苓丸の作用
強い生理痛がある
経血にレバー状の塊が混じる
肩こりや頭痛持ちである
ニキビ跡が紫色に残る
肌がくすんで見える
シミができやすい
末梢血管を拡張し血流を促す
鬱血を取り除き炎症を抑える
全身の熱バランスを整える
足が冷えて顔がのぼせる
下腹部に圧痛がある
しこりのある硬いニキビ
顎やフェイスラインのニキビ
肌のターンオーバーを促進する
老廃物の排出を助ける

これはホルモンバランスの変動が直接的に肌に影響していますが、桂枝茯苓丸は子宮周りの血流を重点的に改善することで、婦人科系の機能を整えます。

生理痛や月経不順、更年期障害といった婦人科系のトラブルも同時にケアすることで、身体の内側からホルモン環境を安定させ、肌荒れの波を穏やかにします。

桂枝茯苓丸に、肌荒れ改善効果のある生薬「ヨクイニン(ハトムギ)」を加えた「桂枝茯苓丸加ヨクイニン」という処方も、皮膚科では頻繁に使われます。

ヨクイニンは排膿作用と肌の水分代謝を良くする働きがあるため、ニキビだけでなく、肌のざらつきやイボが気になる場合には、こちらが選択されることも多いです。

その他の有効な漢方薬と使い分けのポイント

十味敗毒湯や桂枝茯苓丸以外にも、個人の体質やニキビの状態に合わせて選択される漢方薬は複数存在し、その人の「証」に合わせることが最も重要です。

ご自身の症状がどのタイプに当てはまるかを知ることで、より精度の高い治療選択が可能になり、無駄な薬の服用を避けることができます。

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)

顔全体が真っ赤で、脂性肌で炎症の勢いが強いニキビに適しており、特に若い世代や、食生活が乱れて脂っこいものを好む人の大人ニキビに使われます。

十味敗毒湯よりも「熱」を冷ます力が格段に強く、思春期ニキビのように皮脂分泌が活発で、常に顔が赤らんでいるようなタイプに向いています。

身体の上部にこもった過剰な熱を発散させることで、赤ニキビの炎症を強力に鎮静させ、化膿が悪化するのを食い止める働きがあります。

ただし、身体を冷やす作用が強いため、胃腸が冷えやすくて弱い人や、長期間の連用には注意が必要で、症状が落ち着いてきたら別の薬に変えることもあります。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

色白で体力がなく、冷え性が強い女性のニキビに使われることが多く、いわゆる「虚証」タイプの人に向けた代表的な処方です。

このタイプは乾燥肌であることが多く、血流不足と水分代謝の悪さが原因で肌のバリア機能が低下し、細かいニキビができやすくなっています。

当帰芍薬散は血を補い、余分な水分を排出することで、むくみを取りながら肌に栄養を与え、乾燥からくるニキビを根本から改善します。

生理不順や貧血傾向がある人の肌トラブルにも適しており、妊娠中でも服用できるケースが多い、非常に穏やかで優しい作用の漢方薬です。

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

慢性的な副鼻腔炎や扁桃炎を持ち、肌の色が浅黒く、手足の裏にじっとりと汗をかきやすいタイプの人に適している処方です。

首周りや耳の周りなど、リンパの流れに沿ってできる治りにくいニキビに対して、体内の解毒を促し、慢性的な炎症体質を改善する効果があります。

主要な漢方薬の比較まとめ

漢方薬名主なターゲット体質ニキビの特徴
清上防風湯体力があり、赤ら顔でのぼせ気味顔全体の真っ赤なニキビ
皮脂が多くベタつく
当帰芍薬散色白で痩せ型、冷え性、貧血気味乾燥してカサつく肌のニキビ
生理不順を伴う
荊芥連翹湯胃腸は丈夫だがアレルギー体質首や顎裏のしつこいニキビ
膿んで黒ずみやすい

この薬は「解毒証体質」と呼ばれる、毒素を溜め込みやすい体質の人に向けたもので、抗炎症作用と排膿作用を併せ持ち、しつこいニキビを根治へと導きます。

精神的なストレスで悪化しやすいニキビには「加味逍遙散(かみしょうようさん)」などが選ばれることもあり、イライラや不眠を伴う場合に効果的です。

自分に合う漢方を選ぶための「証(しょう)」の見極め方

漢方治療において最も重要なのは、病名だけでなく、その人の体質や状態を表す「証(しょう)」を正しく判断し、それに合った薬を選ぶことです。

「証」が合っていなければ、どんなに高価で評判の良い薬でも効果を発揮しないばかりか、逆に体調を崩して新たな不調を招くこともあります。

医師は四診(望診、聞診、問診、切診)を通じてこの「証」を決定しますが、基本的な考え方を知っておくことで、自分自身の状態を客観的に見る助けになります。

「虚・実(きょ・じつ)」の判定

体力の有無や抵抗力の強さを測る基準であり、自分が病気に対してどの程度の抵抗力を持っているかを示すバロメーターとなります。

「実証」の人は筋肉質で声が大きく、胃腸も丈夫で便秘がちな傾向があり、エネルギーが過剰で発散できずに内にこもっている状態です。

このタイプには、病邪を攻撃し、便や尿として毒素を強制的に排出する力の強い薬(清上防風湯や防風通聖散など)が適しています。

一方、「虚証」の人は華奢で疲れやすく、胃腸が弱く下痢しやすい傾向があり、エネルギー不足のために身体の機能が十分に働いていない状態です。

このタイプには、身体を補い温め、胃腸機能を高める薬(当帰芍薬散や補中益気湯など)を用いて、優しく体調を底上げする治療を行います。

「寒・熱(かん・ねつ)」の判定

身体が冷えているか、熱を持っているかの基準であり、自覚症状としての「暑がり」「寒がり」だけでなく、身体の深部の状態を見極める必要があります。

ニキビは基本的に赤く腫れる「熱」の症状ですが、その熱が実質の熱なのか、冷えからくるバランスの乱れによる虚熱なのかを見極めることが重要です。

自己チェックのポイント

チェック項目実証・熱証の傾向虚証・寒証の傾向
体型・体力がっちりしている・疲れにくい華奢である・すぐ疲れる
寒暖の好み暑がり・冷たいものを好む寒がり・温かいものを好む
排泄の傾向便秘しやすい・尿の色が濃い下痢しやすい・尿の色が薄く頻回

寒証の人に冷やす薬を使うと、さらに冷えが悪化し、血流が悪くなって肌の再生能力が落ち、いつまでもニキビが治らないという事態に陥ります。

逆に熱証の人に温める薬を使うと、火に油を注ぐように炎症が悪化し、ニキビが爆発的に増えたり化膿がひどくなったりする危険性があります。

自分の体質は固定されたものではなく、季節や年齢、生活環境によって変化するため、その時々の状態に合わせて柔軟に薬を変えていくことも漢方治療の醍醐味です。

漢方効果を高めるための生活習慣と食養生

漢方薬はあくまで自然治癒力をサポートするものであり、薬さえ飲んでいれば全て解決するという魔法の薬ではありません。

毎日の生活習慣が乱れていては、せっかくの薬の効果を打ち消してしまい、十分な効果を発揮できないため、養生は治療の両輪となります。

特に「胃腸」の状態は肌に直結するため、何を食べるか、どう過ごすかという食養生は、漢方治療とセットで考える必要があります。

「湿熱(しつねつ)」を生まない食事

東洋医学では、甘いもの、脂っこいもの、辛いもの、アルコールの摂りすぎは体内に「湿熱」という、ドロドロとした熱の塊を生むと考えられています。

この湿熱が体内に溜まりきらなくなり、皮膚から溢れ出たものがニキビであり、いわば身体のゴミ出し機能が働いている状態とも言えます。

漢方薬で湿熱を取り除こうとしても、日々の食事で次々と新しい湿熱を生み出してしまっては、プラスマイナスゼロどころかマイナスになりかねません。

控えるべき食材と推奨される食材

  • 控えるべきもの:チョコレートやケーキなどの洋菓子、ポテトチップスなどのスナック菓子、天ぷらなどの揚げ物、激辛料理、毎晩の飲酒。これらは胃腸に負担をかけ、炎症物質を増やします。
  • 推奨されるもの:冬瓜やきゅうり、トマトなどの夏野菜(余分な熱を冷ます)、ハトムギや小豆(水分代謝を促す)、海藻類やキノコ類(ミネラルと食物繊維)、大根やキャベツ(消化を助ける)。

食事は和食を中心とし、油を使いすぎない蒸し料理や煮物を増やすことで、胃腸への負担を減らし、肌に必要な栄養を効率よく吸収できる環境を整えます。

睡眠とストレスケアによる「気」の巡り改善

肌の修復や再生は寝ている間に行われますが、特に夜10時から深夜2時の間は肌のゴールデンタイムと言われ、成長ホルモンの分泌がピークになります。

東洋医学的にもこの時間は「陰(いん)」を養う大切な時間であり、身体に潤いを与え、昼間の活動で生じた熱を冷ますための重要な休息時間です。

睡眠不足が続くと「陰虚(いんきょ)」という潤い不足の状態を招き、肌が乾燥するとともに、それを補おうとして過剰な皮脂が分泌される悪循環を引き起こします。

また、ストレスは「気」の流れを停滞させ(気滞)、気が巡らないと熱が上半身にこもりやすくなるため、イライラした時にニキビができやすくなります。

軽い運動や入浴、深呼吸などでリラックスし、気をスムーズに流す習慣を持つことは、高価な美容液を使う以上に肌にとって有益なケアとなります。

入浴はシャワーで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、副交感神経を優位にし、全身の血流を改善してデトックス効果を高めることができます。

治療期間の目安と好転反応への理解

漢方治療を始めるにあたり、どれくらいの期間で効果が出るのか、また副作用はあるのかをあらかじめ知っておくことは、安心して治療を続けるために大切です。

即効性を求める西洋薬とは異なり、漢方は体質の土台をゆっくりと変えていくため、ある程度の期間を要することが一般的であり、焦りは禁物です。

肌のターンオーバーと服用期間

肌が新しく生まれ変わるターンオーバーの周期は、健康な20代で約28日ですが、年齢や肌トラブルがある場合はそれ以上かかり、40代では45日以上とも言われます。

漢方薬の効果を実感するためには、最低でもこのターンオーバーが数回巡る期間、つまり2〜3ヶ月程度の継続服用が必要となることが多く、根気が必要です。

服用開始から2週間程度で「新しいニキビができにくくなった」「肌の赤みが引いてきた」「化粧のノリが良くなった」という小さな変化を感じる場合もあります。

しかし、そこで服用を止めてしまうとすぐに元の状態に戻ってしまうため、根本的な体質改善には半年から1年程度のスパンで考える余裕を持つことが望ましいです。

瞑眩(めんげん)現象と副作用の見極め

漢方薬を飲み始めた直後に、一時的に症状が悪化したように見えることがあり、これを専門用語で「瞑眩(めんげん)」と呼ぶことがあります。

これは身体が毒素を排出しようとする好転反応である場合がありますが、素人判断は危険であり、現代医学的には単に薬が合っていない(誤治)可能性も否定できません。

治療経過のタイムライン目安

期間期待される変化と注意点この時期の心構え
〜1ヶ月消化器症状(胃もたれ等)がないか確認
便通が良くなるなどの身体変化
まずは薬が体に合うかを見極める期間
飲み忘れをなくす習慣をつける
2〜3ヶ月新しいニキビの発生頻度が減少
赤みや炎症の引きが早くなる
肌質の変化を感じ始める時期
諦めずに継続することが大切
半年以上ニキビ跡が薄くなってくる
生理前の肌荒れが軽くなる
体質改善が定着してくる時期
医師と相談し減薬や中止を検討

もし服用後に激しい胃痛、下痢、発疹、ひどい痒みなどが現れた場合は、「毒が出ているからだ」と我慢して飲み続けず、一旦服用を中止するのが賢明です。

直ちに処方医や薬剤師に相談し、薬を変更するか量を調整するなどの対応をとることで、安全に治療を継続することができます。

特に甘草(カンゾウ)という生薬を含む製剤を長期服用する場合、稀に「偽アルドステロン症」という副作用(むくみ、血圧上昇、手足の痺れ)が出ることがあります。

定期的な血液検査を受けたり、日々の血圧測定を行ったりすることで、副作用の兆候を早期に発見し、重篤化を防ぐことができます。

よくある質問

ここでは、大人ニキビの漢方治療に関して、患者さんから寄せられることの多い疑問について、わかりやすく回答します。

Q
漢方薬と皮膚科の塗り薬は併用できますか?
A

はい、併用可能です。むしろ、塗り薬で外側から炎症を抑えつつ、漢方薬で内側から体質を改善する「内外合治」は、治療効果を高めるために非常に有効な手段です。

ディフェリンゲルやベピオゲルなどの外用薬を使用しながら、十味敗毒湯などの内服を行うケースは非常に多く見られます。

医師に現在使用している外用薬を伝えた上で、適切な組み合わせで治療を進めるようにしてください。

Q
妊娠中でもニキビの漢方薬は飲めますか?
A

漢方薬の中には妊娠中の服用に注意が必要な生薬(例えば、桃仁や牡丹皮などの駆お血薬や、大黄などの下剤)が含まれているものがあります。

桂枝茯苓丸などは子宮収縮作用を持つ可能性があるため、慎重投与となるケースがあり、自己判断での服用は避けるべきです。

必ず産婦人科医や漢方専門医に相談してください。当帰芍薬散などは安胎作用があり、妊娠中でも処方されることがありますが、専門家の判断が必要です。

Q
漢方薬は食前と食後、どちらに飲むべきですか?
A

基本的には「食前(食事の30分〜1時間前)」または「食間(食事と食事の間の空腹時)」の服用が推奨されています。

これは空腹時の方が胃酸の影響を受けにくく、生薬の成分が効率よく吸収されるためです。

しかし、胃腸が弱く、空腹時に飲むと胃がムカムカするような場合は、食後の服用に変更しても構いません。最も大切なのは飲み忘れないことです。

Q
粉薬の味が苦手で飲めない場合はどうすれば良いですか?
A

漢方薬独特の香りと苦味は、その薬が体に合っている場合、不思議と美味しく(あるいは不快でなく)感じることがありますが、どうしても苦手な場合もあります。

その際はオブラートや服薬ゼリーを使用してください。また、お湯に溶かして冷ましてから飲むと匂いが立ちにくくなる場合もあります。

逆に温かいお湯に溶かして「香り」ごと味わうことで効果が高まる場合もありますが、無理は禁物です。錠剤タイプがある処方もありますので医師に相談しましょう。

Q
漢方薬だけでニキビ跡も消えますか?
A

漢方薬は肌のターンオーバーを正常化し、血流を改善することで、ニキビ跡が薄くなるのをサポートする効果は期待できます。

しかし、深く凹んでしまったクレーター状のニキビ跡を漢方薬だけで完全に平らにすることは難しいのが現実です。

色素沈着には桂枝茯苓丸などが有効ですが、凹凸に関してはレーザー治療など、美容皮膚科的なアプローチとの併用を検討することをお勧めします。

参考文献