何度も同じ場所に現れては消え、赤く腫れ上がったまま治りにくい大人ニキビ。その根本的な原因は、実は皮膚の表面的な汚れやケア不足だけではなく、体の内側にあるホルモンバランスの乱れが深く関わっているケースが非常に多いのです。

いくら高価な洗顔料を使ったり、抗生物質の塗り薬を塗ったりしても改善しない「難治性ニキビ」に対して、ホルモン療法は有力な選択肢となります。低用量ピルとスピロノラクトンを用いるこの治療法は、ニキビができる体内のスイッチそのものをオフにすることを目指します。

本記事では、なぜこれらの薬が頑固なニキビに効くのか、服用すると体にどのような変化が起こるのかについて詳しく掘り下げます。さらに、治療を検討する上で避けて通れない副作用のリスク管理まで、正しい知識を提供し、美肌を取り戻すための道筋を示します。

大人ニキビが治らない原因とホルモンの関係

一般的なニキビ治療を数ヶ月続けても一向に改善の兆しが見えない、あるいは薬を使っている間は良くても止めた途端に再発してしまう。そんな出口の見えない大人ニキビの背景には、ほとんどの場合、体内のホルモン環境が大きく影響を及ぼしています。

私たちの皮膚は、単なる体を覆う膜ではなく、内臓の状態を映し出す鏡のような存在です。特に女性の肌において、性ホルモンの周期的な変動やバランスの乱れは、皮脂腺の活動に対して直接的かつ強力な指令を送る極めて重要な要素となっています。

なぜ大人ニキビが形成され、治りづらいのか。その根本にあるホルモンとの複雑な関係性を一つひとつ紐解いていきましょう。表面的なケアだけでは到達できない、体の内側で起きているメカニズムを理解することが、完治への第一歩となるはずです。

繰り返すニキビの正体は男性ホルモン

「男性ホルモン」という名前を聞くと、男性特有のもので女性には関係ないと思われがちです。しかし実際には、女性の体内でも副腎や卵巣で日常的に作られており、筋肉の維持や意欲の向上など、健康的な生活を送るために必要不可欠な役割を担っています。

問題となるのは、この男性ホルモン、特にアンドロゲンと呼ばれる種類のホルモンが過剰に働いてしまった場合です。あるいは、ホルモンの量は正常でも、それを受け取る側の皮膚の受容体(レセプター)が敏感になりすぎているケースも少なくありません。

アンドロゲンが皮脂腺を強力に刺激すると、必要以上の大量の皮脂が分泌されるようになります。肌を守るための皮脂が、逆に毛穴を詰まらせる原因となり、そこにアクネ菌が繁殖するための格好の餌を提供してしまうという悪循環が始まります。

さらに厄介なことに、男性ホルモンには皮膚の角化を促進する作用もあります。角化とは、皮膚の細胞が生まれ変わり、最終的に角質となって剥がれ落ちるサイクルのことです。このサイクルが乱れると、毛穴の出口付近の角質が異常に厚くなり、出口を塞いでしまいます。

出口を失った毛穴の中で行き場をなくした皮脂が溜まり続け、内部で炎症を起こすことで、赤く腫れた痛みを伴うニキビが発生します。フェイスラインや口周り、顎(Uゾーン)にできるニキビは、このホルモンの影響を特に強く受けている典型的なサインといえます。

アンドロゲンの作用機序

もう少し専門的な視点で見ると、血中を流れるテストステロンなどの男性ホルモンが皮膚の細胞内に到達したとき、5αリダクターゼという酵素の働きによって、より活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)という物質に変換される現象が起きます。

このDHTこそが、皮脂腺の受容体に強力に結合し、「もっと皮脂を作れ」という強烈な命令を出す真犯人です。ホルモン療法のアプローチは、このDHTの産生を抑えたり、受容体との結合を邪魔したりすることで、ニキビができるプロセスを根本から遮断することを目的としています。

ストレスや生活習慣によるホルモンバランスの乱れ

現代の女性を取り巻く環境は、ホルモンバランスを乱す要因に満ち溢れています。職場でのプレッシャーや人間関係の悩みといった精神的なストレスがかかると、私たちの体はそれに対抗して身を守ろうとする防御反応を示します。

脳からの指令により、副腎から抗ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されますが、このとき同時に、副産物として男性ホルモンの一種である副腎性アンドロゲンも分泌されてしまいます。つまり、ストレスを感じるたびに、体内でニキビの原因物質が増えてしまうのです。

また、睡眠不足も肌にとっては深刻なダメージとなります。質の良い睡眠中に分泌されるはずの成長ホルモンや細胞修復因子が不足すると、肌のターンオーバーが停滞します。古い角質が肌に残りやすくなり、毛穴詰まりのリスクがさらに高まります。

食生活の影響も見逃せません。糖質の多い食事や高カロリーな食事によって血糖値が急上昇すると、それを下げるためにインスリンが大量に分泌されます。インスリンにはIGF-1(インスリン様成長因子)を増やす働きがあり、これが間接的に男性ホルモンの産生を促すことがわかっています。

一般的な治療で改善しない理由

多くの人が最初に受ける皮膚科での治療、例えば抗生物質の内服や外用薬、ピーリングなどは、すでにできてしまったニキビの炎症を抑えたり、詰まった毛穴を開放したりする対症療法としての効果は非常に優れています。

これらの治療法は、今あるニキビを治す力は持っていますが、次々と新しいニキビを作り出す「発生源」である体内のホルモンバランスの乱れそのものを是正する力はありません。そのため、どうしても「治ってはできる」の繰り返しになってしまうのです。

薬を使っている間は肌の調子が良くても、使用をやめるとすぐに元に戻ってしまうというイタチごっこに陥りがちなのはこのためです。ホルモン療法は、ニキビができる最上流のスイッチをオフにする治療法であり、既存の治療で限界を感じている方にとっての突破口となり得ます。

ニキビの種類と治療のアプローチ

ニキビのタイプ主な原因推奨されるアプローチ
思春期ニキビ成長期のホルモン分泌増加過剰皮脂の洗浄、外用薬
一般大人ニキビ乾燥、化粧品、軽度の不調保湿、生活改善、外用薬
難治性大人ニキビホルモンバランスの乱れ、男性ホルモン優位ホルモン療法(ピル・スピロノラクトン)

ホルモン療法の主役である低用量ピルの効果

低用量ピルは、本来の目的である避妊薬としてだけでなく、肌質改善や月経困難症の治療薬として、世界中で広く活用されています。ニキビ治療においては、体内のホルモン環境を一定に保ち、男性ホルモンの影響を相対的に下げることで、ニキビができにくい肌質へと体質改善を図ります。

単に生理を止める薬という認識だけでは、その美容効果を十分に理解することはできません。ピルがどのようにして体内のバランスを整え、美肌効果をもたらすのか。その科学的なメカニズムと働きについて、より詳細に見ていきましょう。

避妊薬だけでないピルの多様な働き

低用量ピルには、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がバランスよく配合されています。これを毎日決まった時間に服用することで、脳は「卵巣から十分にホルモンが出ている」と錯覚します。

すると脳は、卵巣に対して「これ以上ホルモンを出さなくていい」という指令を出し、卵巣を休ませるモードに入ります。これにより排卵が抑制され、確実な避妊効果が得られると同時に、卵巣からの過剰な男性ホルモンの分泌も抑制されることになります。

このメカニズムは、ニキビ治療においても極めて重要な意味を持ちます。排卵に伴うダイナミックなホルモンの波を穏やかな凪の状態にし、常に安定したホルモン環境を作ることで、肌の調子が周期的に揺らぐのを防ぐことができるのです。

男性ホルモン抑制による皮脂分泌のコントロール

ピルに含まれるエストロゲン成分には、肝臓に働きかけてSHBG(性ホルモン結合グロブリン)という特殊なタンパク質の産生を劇的に増やす作用があります。このSHBGは、血液中を流れる男性ホルモン(テストステロン)を磁石のように吸着する性質を持っています。

本来、血液中の男性ホルモンは自由に動き回り、皮脂腺の受容体に結合して皮脂分泌を促します。しかし、SHBGと結合して捕まえられた男性ホルモンは、もはや皮脂腺に対して悪さをすることができなくなります。

つまり、ピルを服用してSHBGを増やすことは、体内をパトロールする警察官を増やすようなもので、暴れ回る「フリーの男性ホルモン」を次々と確保し、無力化してくれるのです。その結果、皮脂腺への刺激が減り、過剰な皮脂分泌が根本から抑制されます。

生理周期に伴う肌荒れの改善

生理の1週間ほど前になるとニキビが悪化する、いわゆる「生理前ニキビ」に悩まされる女性は非常に多いです。これは、排卵後に分泌が増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)が皮脂分泌を促したり、腸の動きを鈍らせて便秘を招いたりするためです。

加えて、生理前はエストロゲンの分泌が一時的に減少するため、肌の水分保持能力やバリア機能も低下しがちです。乾燥しているのに脂っぽい、という不安定な肌状態になりやすく、外部からの刺激にも弱くなってしまいます。

低用量ピルを服用すると、このような自前のホルモンの激しい変動がなくなり、常に一定量のホルモンが補充される状態になります。生理前の急激なホルモン変化による肌荒れや、精神的なイライラ(PMS)の波も同時に鎮めることができます。

毎月のように訪れる肌トラブルの波から解放されることは、肌そのものの健康を取り戻すだけでなく、精神的な安定や生活の質(QOL)の向上にも大きく寄与します。鏡を見るたびに憂鬱になっていた生理前の期間が、穏やかな時間に変わるのです。

ピルが肌に作用する仕組み

作用具体的な内容肌へのメリット
卵巣抑制卵巣からの男性ホルモン分泌を低下させる皮脂腺への刺激が減る
SHBG増加男性ホルモンを吸着するタンパク質を増やす利用可能な男性ホルモンが減る
ホルモン安定生理周期によるホルモンの波をなくす生理前の肌荒れを防ぐ

低用量ピルの種類とニキビ治療への適性

一口に「低用量ピル」と言ってもその種類は多岐にわたり、含まれている黄体ホルモンの成分によって第1世代から第4世代まで分類されています。ニキビ治療においては、どのピルを選んでも同じ結果が得られるわけではありません。

中には男性ホルモンに似た作用を持っており、かえってニキビを悪化させてしまうリスクのある種類も存在します。自分の肌質や体質に合った最適なピルを見つけるために、世代ごとの特徴や違いについての基礎知識を持っておくことは非常に大切です。

世代ごとのピルの特徴と違い

開発された順序によって分類されるピルの世代ですが、それぞれに得意分野が異なります。第1世代(ノルエチステロン)は歴史が長く、生理痛のコントロールには定評がありますが、わずかながらアンドロゲン作用が残っている場合があり、肌質改善が主目的の場合は第一選択とならないことがあります。

第2世代(レボノルゲストレル)は、「トリキュラー」などが有名で広く処方されていますが、これに含まれる黄体ホルモンはアンドロゲン活性が比較的高めです。そのため、人によっては服用後にニキビが増えたり、毛深くなったりする可能性がゼロではありません。

第3世代(デソゲストレル)は、「マーベロン」などが代表的で、男性ホルモン作用を極力抑えるように改良されています。ニキビ治療においては非常にバランスが良く、多くのクリニックでスタンダードな治療薬として採用されています。

そして第4世代(ドロスピレノン)は、「ヤーズ」などが該当します。利尿作用があるためむくみにくく、アンドロゲン活性がほとんどない、あるいは抗アンドロゲン作用を持つものもあり、現在のニキビ治療における主流の一つとなっています。

医師が選ぶニキビ治療に適した配合

ニキビ治療を最優先の目的とする場合、多くの専門医は第3世代または第4世代のピルを推奨します。これらに含まれる黄体ホルモンは、皮脂分泌を促す作用が極めて低く、肌トラブルのリスクを最小限に抑えられるからです。

特に第3世代のピルは、ニキビ改善効果に関する医学的なエビデンスが多く蓄積されており、信頼性が高い選択肢です。肌のキメを整え、毛穴を目立たなくする効果も期待でき、美容目的での服用にも適していると言われています。

さらに、通常のピルではコントロールが難しい重症のニキビに対しては、「酢酸シプロテロン」という強力な抗アンドロゲン作用を持つ成分が配合された「ダイアン」などの特殊なピルが選ばれることもあります。ただし、これらは血栓症リスクがやや高いため、医師の慎重な管理下での使用が求められます。

保険診療と自由診療の薬剤の違い

日本において、避妊のみを目的としたピルの処方は自費診療(自由診療)となりますが、月経困難症や子宮内膜症といった病気の治療目的であれば、保険適用となる「LEP製剤」と呼ばれる薬が処方されます。

成分的には避妊用ピルとほぼ同じものも存在しますが、あくまで「病気の治療」のための薬であるため、ニキビを治したいという理由だけでは保険適用にはなりません。しかし、重度の生理痛を伴うニキビ患者さんの場合は、結果的に保険薬で肌も改善するというケースはあります。

保険薬の中にも、ニキビに効果的な第4世代系のもの(ヤーズ配合錠など)と、第1世代系のもの(ルナベルなど)があります。診察時には「ニキビも治したい」という希望を明確に伝えることが大切で、医師は患者の症状と経済的な負担、そして求める効果のバランスを総合的に判断して薬剤を決定します。

主なピルの世代別特徴

分類黄体ホルモン成分ニキビ治療への適性
第2世代レボノルゲストレル△(人により悪化の可能性)
第3世代デソゲストレル◎(男性ホルモン作用が低い)
第4世代ドロスピレノン◎(むくみにくく効果的)

難治性ニキビの切り札スピロノラクトンとは

低用量ピルだけでも十分な効果が得られることは多いですが、それでも改善しない頑固なニキビや、背中やデコルテまで広がる重症例、よりスピーディーに皮脂を抑えたい場合に用いられるのが「スピロノラクトン」です。

ピルとは全く異なるメカニズムで男性ホルモンの働きをブロックするこの薬は、難治性ニキビ治療における「切り札」とも呼べる存在です。特に皮脂分泌が過剰なオイリー肌の方や、フェイスラインの深いニキビに悩む方には劇的な効果を発揮することがあります。

もともとは高血圧の薬としての利用

スピロノラクトンは、美容皮膚科専用の新しい薬ではありません。本来は「カリウム保持性利尿薬」として、古くから高血圧や心不全、肝硬変による腹水や浮腫(むくみ)の治療に使われている、非常に歴史と実績のある薬です。

腎臓に働きかけて体内の余分な塩分と水分を尿として排出し、血圧を下げる効果があります。しかし、長期間高用量で使用している男性患者さんの中に、女性化乳房(胸が大きくなる)や体毛が薄くなるといった副作用が見られることがありました。

これはスピロノラクトンが、男性ホルモンの受容体をブロックするという副作用(抗アンドロゲン作用)を持っていたためです。ニキビ治療では、この「副作用」をあえて「主作用」として利用するという逆転の発想で応用されています。

皮脂腺にある男性ホルモン受容体のブロック

スピロノラクトンの最大の特徴にして最強の武器は、皮脂腺にある男性ホルモンの受容体(レセプター)に対して、男性ホルモンよりも先に結合し、蓋をしてしまうことです。これを「競合的阻害」と呼びます。

例えるなら、男性ホルモンという「鍵」が皮脂腺という「鍵穴」に入ろうとしても、スピロノラクトンという「偽の鍵」がすでに鍵穴に刺さっていて、鍵を回すことができない状態にするようなものです。指令が伝わらなければ、皮脂は作られません。

血液中にどれだけ男性ホルモンが流れていても、受容体がブロックされていれば、その影響は皮脂腺に及びません。これにより、物理的かつ強制的に皮脂の過剰分泌をストップさせ、ニキビの発生源を断つことができます。

ピルと併用することで高まる相乗効果

スピロノラクトン単独でも高い効果を発揮しますが、低用量ピルと併用することで治療効果は飛躍的に高まります。ピルが卵巣からの男性ホルモンの「生産」を抑え、スピロノラクトンが皮脂腺での「作用」をブロックするという、完全な二重包囲網を敷くことができるからです。

また、スピロノラクトンを高用量で単独使用すると、生理周期が乱れたり、不正出血が起きたりする副作用が出やすくなります。ピルを併用することで生理周期を規則正しく整えることができ、副作用のマネジメントという観点からも非常に理にかなった組み合わせと言えます。

多くの専門クリニックでは、重症度に応じてピルのみで開始するか、最初から併用療法を行うかを判断します。併用療法は、短期間で確実に結果を出したい方にとって、最も推奨されるアプローチの一つとなっています。

ピルとスピロノラクトンの役割分担

薬剤名主な役割作用ポイント
低用量ピルホルモン産生抑制・SHBG増加血液中のホルモン量調整
スピロノラクトンホルモン受容体ブロック皮脂腺での直接的な遮断
併用療法生産抑制と作用阻害のダブル効果全身および局所

知っておくべきホルモン療法の副作用とリスク

どのような優れた薬にも、効果の裏には必ず副作用のリスクが存在します。ホルモン療法は体内の内分泌環境を人為的に調整する治療であるため、体がその変化に慣れるまでの不調や、稀ではありますが重篤な症状が現れる可能性があります。

これらのリスクを過度に恐れる必要はありませんが、正しく理解し、自分の体に起こる異変にいち早く気づけるようにしておくことは、安全な治療を継続するために不可欠です。主な副作用と対処法について解説します。

  • 不正出血:
    飲み始めの1〜2ヶ月目に多く見られます。ホルモンバランスが整う過程で一時的に子宮内膜が不安定になるために起こるもので、通常は服用を続けるうちに体が慣れて消失します。
  • 吐き気・頭痛・胸の張り:
    つわりのような症状が出ることがあります。多くの場合、数週間程度で治まりますが、症状が強い場合は吐き気止めを併用したり、服用のタイミングを寝る前に変えたりすることで軽減できます。
  • 気分の変化:
    ホルモンの影響で一時的に落ち込みやすくなったり、イライラしたりすることがあります。生活に支障が出るほどの気分の落ち込みがある場合は、薬の種類を変更するなどの対応が必要です。
  • 血栓症(静脈血栓塞栓症):
    ピルの服用において最も注意すべき重大な副作用です。血管の中で血が固まり、詰まってしまう病気です。確率は低いですが、ふくらはぎの急な痛みや腫れ、激しい頭痛、息苦しさを感じた場合は直ちに服用を中止し、救急医療機関を受診してください。
  • 頻尿・喉の渇き(スピロノラクトン):
    本来が利尿薬であるため、トイレの回数が増えます。脱水を防ぐために、意識的にこまめな水分補給を行うことが大切です。

治療開始から効果実感までの期間と経過

ホルモン療法は、服用した翌日に魔法のようにニキビが消える治療ではありません。体質そのものを時間をかけて根本から変えていくアプローチであるため、効果を実感するにはある程度の期間が必要です。

途中で「効かない」と判断して諦めてしまわないよう、治療のロードマップを理解しておくことがモチベーション維持につながります。一般的な経過の目安を知り、焦らずじっくりと肌と向き合っていきましょう。

服用開始直後の一時的な悪化

治療を開始して最初の1ヶ月ほどは、ホルモンバランスの急激な変化に肌が反応し、一時的にニキビが増えたり悪化したりする「初期悪化(好転反応)」が見られることがあります。また、肌の奥深くに潜んでいたニキビ予備軍が、ターンオーバーの促進により一気に表面化することもあります。

この時期は精神的にも辛いかもしれませんが、「薬が合わない」と自己判断して服用を中止するのは非常に勿体ないことです。これは体が変化に対応しようと頑張っているサインであり、デトックスの期間と捉えて、医師と相談しながら辛抱強く続けることが成功への鍵となります。

3ヶ月目から感じる肌質の変化

個人差はありますが、多くの患者さんが効果を明確に実感し始めるのは、服用開始から3シート目(約3ヶ月)が終わる頃です。まず、新しいニキビができる頻度が減り、夕方になっても顔の脂浮きやテカリが気にならなくなってきます。

4ヶ月から6ヶ月が経過すると、炎症を起こしていた赤ニキビが沈静化し、肌の凹凸が滑らかになってきます。この頃には、コンシーラーや厚塗りのファンデーションで隠す必要がなくなり、メイク時間が短縮されたと喜ばれる方が多いです。肌の水分量も安定し、透明感が出てくるのもこの時期です。

治療完了までの目安と卒業のタイミング

一般的には、半年から1年程度の継続的な服用が推奨されます。ニキビが完全にできなくなってからも、すぐに薬をやめるのではなく、その「ニキビのない良い状態」を体に記憶させるために、数ヶ月は維持療法を行います。

スピロノラクトンを併用している場合は、症状の改善に伴って徐々に服用量を減らしていきます。いきなりゼロにするのではなく、例えば1日2錠から1錠へ、そして2日に1錠へと段階的に減らし、リバウンド(再発)が起きないかを確認しながら慎重に進めることが、スムーズな治療卒業には必要です。

治療のタイムライン目安

時期肌の状態対策
1ヶ月目変化なし、または一時的悪化諦めずに継続、保湿徹底
3ヶ月目新規ニキビ減少、皮脂減効果を実感し始める
6ヶ月目〜著明な改善、安定期維持療法、または減量開始

治療を受けられない人と注意が必要なケース

ホルモン療法は、残念ながら全ての人に適応されるわけではありません。体質や既往歴、現在の生活習慣によっては、重大な健康リスクを引き起こす可能性があるため、処方を見送らざるを得ない場合があります。

安全を最優先に治療を行うために、以下の禁忌事項に該当しないか、事前の問診や検査でしっかりと確認する必要があります。ご自身が当てはまる項目がないかチェックしてみてください。

  • 前兆のある片頭痛持ちの方:
    閃輝暗点(目の前がチカチカしたり、ギザギザした光が見えたりする)を伴う片頭痛がある場合、ピル服用により脳卒中のリスクが高まるため禁忌となります。
  • 35歳以上で1日15本以上喫煙する方:
    タバコとピルの組み合わせは、血栓症や心筋梗塞のリスクを著しく上昇させるため、処方はできません。治療を希望する場合は、完全な禁煙が必要です。
  • 妊娠中、授乳中、または妊娠希望の方:
    胎児や乳児への影響があるほか、避妊効果により妊娠できなくなるため使用できません。特にスピロノラクトンは男児の生殖器形成に影響を与える可能性があるため、服用中の避妊は絶対条件です。
  • 乳がん、子宮体がんなどの既往がある方:
    これらはエストロゲン依存性の腫瘍であるため、ホルモン剤の投与により病状を悪化させる恐れがあります。
  • 重度の高血圧、肝機能障害、腎機能障害がある方:
    薬剤の代謝や排泄に影響が出たり、基礎疾患が悪化したりする可能性があるため、慎重な判断が求められます。

よくある質問

難治性ニキビ治療を検討されている患者様から、カウンセリングの際によく寄せられる疑問や不安についてお答えします。治療への理解を深め、納得して一歩を踏み出すための参考にしてください。

Q
ピルをやめるとニキビは再発しますか?
A

体質改善が定着していない状態で急に服用をやめると、ホルモンバランスが元の状態に戻り、ニキビが再発する可能性は否定できません。そのため、ニキビが治まってからも一定期間は服用を続け、徐々に薬の量を減らす「テーパリング」という手法をとることが一般的です。また、服用期間中に食事や睡眠などの生活習慣を見直し、ニキビができにくい土台を整えておくことも再発防止には重要です。

Q
未成年でもホルモン療法は受けられますか?
A

初潮を迎えており、月経周期がある程度確立していれば、医学的には服用可能です。ただし、骨の成長への影響などを考慮し、医師が慎重に判断します。未成年の方が治療を受ける際は、保護者の方の十分な理解と同意が必要となる場合がほとんどですので、親子でカウンセリングを受けられることをお勧めします。

Q
男性でもこの治療は可能ですか?
A

低用量ピルは女性ホルモン剤であるため、男性は服用できません。また、スピロノラクトンについても、男性が服用すると女性化乳房や性機能障害などの副作用が出る可能性が高いため、ニキビ治療として使用されることは一般的ではありません。男性の重症ニキビに対しては、イソトレチノイン(アキュテイン)など、別の作用機序を持つ治療薬が検討されます。

Q
飲み合わせの悪い薬やサプリメントはありますか?
A

一部の抗てんかん薬や結核の薬、サプリメントの「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)」は、ピルの代謝を早めて効果を弱めてしまう可能性があります。また、スピロノラクトン服用中は、カリウムを多く含むサプリメントや一部の降圧薬との併用に注意が必要です。普段飲んでいる薬や健康食品がある場合は、必ず医師やお薬手帳で確認させてください。

Q
将来の妊娠に影響はありませんか?
A

ピルの服用が将来の妊娠能力(妊孕性)を低下させることはありません。むしろ、排卵を抑制して卵巣を休ませることで、子宮内膜症などの病気のリスクを減らし、将来的な妊娠機能を保護する効果も期待されています。服用を中止すれば、通常は数ヶ月以内に排卵が再開し、妊娠可能な状態に戻ります。

参考文献