鏡を見るたびに憂鬱になる、赤く大きく腫れ上がったニキビ。一刻も早くこの赤みを消し去り、元の滑らかな肌を取り戻したいと願うのは当然のことです。

自己流のケアではなかなか改善しない頑固な赤ニキビに対し、皮膚科で処方されるダラシンやアクアチムといった医療用抗菌外用薬は、炎症を鎮めるための強力な味方となります。

しかし、これらの薬は漫然と使い続けるものではなく、適切なタイミングで開始し、症状の改善とともに「卒業」すべき性質のものです。

本記事では、これら抗菌薬がどのように肌の奥で作用するのか、そして耐性菌を防ぎながら美肌を取り戻すための正しい使用期間について詳しく解説します。

正しい知識を持って治療に取り組むことが、将来的なニキビ跡のリスクを減らし、クリアな素肌を手に入れるための第一歩となります。

赤ニキビができる原因と炎症の進行

赤ニキビは毛穴内部でアクネ菌が過剰に増殖し、それを排除しようとする免疫反応によって皮膚組織が激しい炎症を起こしている状態であり、放置すれば組織破壊が進むため早期の鎮静が必要です。

毛穴詰まりからアクネ菌の増殖まで

健康な肌であれば、毛穴の奥にある皮脂腺から分泌された皮脂は、毛穴を通ってスムーズに皮膚表面へと排出され、天然のクリームとして肌を保護します。

しかし、睡眠不足やストレスによるホルモンバランスの乱れ、あるいは乾燥によるターンオーバーの停滞などが起きると、毛穴の出口付近の角質が厚くなり、出口が塞がれてしまいます。

出口を失った皮脂は行き場をなくし、毛穴の内部にどんどん蓄積していきます。これがニキビの初期段階である「面ぽう(コメド)」、いわゆる白ニキビです。

この段階ではまだ炎症は起きておらず、痛みもありませんが、毛穴の内部では次なるトラブルの火種がくすぶり始めています。それがアクネ菌の増殖です。

アクネ菌(C.acnes)は誰の肌にも存在する常在菌ですが、酸素を嫌い、脂質を好むという性質を持っています。詰まった毛穴の中は、まさに彼らにとって天国のような環境です。

酸素が遮断され、豊富な餌(皮脂)がある環境下で、アクネ菌は爆発的に増殖を開始します。そして皮脂を分解する酵素リパーゼを出し、皮脂を刺激性の強い遊離脂肪酸へと変化させます。

炎症レベルと皮膚状態の相関

進行段階皮膚内部の状態目に見える症状
初期段階(白ニキビ)毛穴出口が角質で閉塞し皮脂が貯留皮膚表面の白い盛り上がり、痛みなし
炎症期(赤ニキビ)アクネ菌増殖、免疫細胞との戦い赤み、腫れ、触れると痛い、熱感
化膿期(黄ニキビ)死滅した白血球や細菌が膿となる中央が黄色く膿む、周囲の強い赤み

免疫反応による炎症の激化

アクネ菌が過剰に増殖し、遊離脂肪酸などの刺激物質が増えると、私たちの体の防衛システムである免疫機能が「異常事態」を感知します。

異物を排除しようと、血管から白血球の一種である「好中球」が毛穴の周囲へと集まってきます。好中球はアクネ菌を攻撃するために活性酸素を放出したり、さまざまな酵素を出したりして戦います。

この免疫細胞と細菌との激しい戦いこそが、私たちが目にする「赤み」や「腫れ」、そして「熱感」の正体です。戦場となった毛穴周辺の皮膚組織は、戦いの余波でダメージを受けます。

血管は拡張して患部が赤く見え、組織液が滲み出して腫れ上がり、神経が圧迫されることでズキズキとした痛みを感じるようになります。これが「赤ニキビ」の状態です。

単なる皮脂詰まりとは異なり、皮膚の深部では組織の破壊と修復が同時に行われている、まさに緊急事態といえる状況が進行しているのです。

放置することで起こるニキビ跡のリスク

赤ニキビの炎症が長く続くと、毛穴の壁(毛包壁)がその圧力に耐えきれずに破裂し、炎症物質が周囲の真皮層にまで広く漏れ出してしまいます。

真皮層には、肌のハリや弾力を支えるコラーゲンやエラスチンといった重要な組織が存在しますが、激しい炎症はこれらの組織を変性させたり、溶かしたりしてしまいます。

一度破壊された真皮組織は、表皮のように簡単には再生しません。傷を治そうとして過剰にコラーゲンが作られれば、硬く盛り上がった「肥厚性瘢痕(しこり)」となります。

逆に、組織が失われたまま修復が止まってしまうと、肌表面が凹んでしまう「萎縮性瘢痕(クレーター)」となり、生涯消えない跡を残すことになります。

また、炎症によるダメージはメラノサイトを刺激し、ニキビが治った後も茶色いシミのような色素沈着を残す原因となります。だからこそ、炎症を「いかに早く鎮めるか」が美肌を守るために重要なのです。

抗菌外用薬ダラシンTゲルの特徴と作用

ダラシンTゲルはリンコマイシン系の抗生物質を含有し、アクネ菌のタンパク質合成を阻害することで増殖を抑える作用を持ち、特に炎症を伴う赤ニキビに対して高い効果を発揮します。

クリンダマイシンリン酸エステルの働き

ダラシンTゲルの有効成分である「クリンダマイシンリン酸エステル」は、皮膚科領域で長年にわたり信頼されているリンコマイシン系の抗生物質です。

この成分は、皮膚に塗布された後、皮膚内の酵素によって加水分解され、抗菌力を持つ活性型のクリンダマイシンへと変化して効果を発揮します。

具体的な作用メカニズムとしては、アクネ菌などの細菌のリボソーム(タンパク質を作る工場のような器官)の50Sサブユニットに結合します。

これにより、細菌が生きていくために必要なタンパク質の合成ラインを強制的にストップさせます。タンパク質を作れなくなったアクネ菌は、増殖できなくなり活動が弱まります。

さらに、クリンダマイシンには、好中球が出す活性酸素の産生を抑える働きや、アクネ菌が出すリパーゼ(皮脂分解酵素)の産生を抑える働きもあることが研究で示唆されています。

つまり、単に菌の増殖を止めるだけでなく、炎症を引き起こす物質そのものを減らす多角的なアプローチにより、赤く腫れたニキビを鎮静化へと導くのです。

ゲルタイプとローションタイプの使い分け

ダラシンには「Tゲル」と「Tローション」という2種類の剤形が用意されており、成分濃度は同じ1%ですが、使用感や適した肌質によって使い分けられます。

ゲルタイプは半透明で適度な粘度があり、塗布後に薄い被膜を形成して患部に薬剤が留まりやすいという特徴を持っています。保湿効果も期待できるため、乾燥肌の方に適しています。

主に頬や口周り(Uゾーン)など、乾燥しやすい部分にできた赤ニキビに対して、ピンポイントで塗布するのに非常に適した剤形といえます。

ダラシンの剤形による特性比較

項目ダラシンTゲル1%ダラシンTローション1%
基剤の特徴水分を含んだゲル状アルコールを含む液状
使用感しっとりと患部に留まるさっぱりして乾きが早い
適した部位顔全体、乾燥しやすい部位Tゾーン、背中、胸部

一方、ローションタイプはアルコール基剤を含んでおり、水のようにサラサラとしていて、塗った直後にスッと乾くさっぱりとした使用感が特徴です。

皮脂分泌が多くベタつきがちなTゾーン(額や鼻)のニキビや、背中や胸(デコルテ)といった広範囲にニキビが散らばっている場合に、塗り広げやすく便利です。

ただし、アルコールを含んでいるため、塗布時にスーッとする清涼感がある反面、傷口にしみたり、アルコール過敏症の方が使用すると赤くなったりすることがあるため注意が必要です。

敏感肌への刺激性と副作用の注意点

ダラシンTゲルは比較的副作用の少ない安全性の高い薬として知られていますが、すべての方にトラブルが起きないわけではありません。

人によっては塗布部位にピリピリとした刺激感(ヒリヒリ感)、つっぱり感、赤み、かゆみなどが現れることがあります。特に肌のバリア機能が低下している時に起こりやすい傾向があります。

また、非常に稀なケースですが、抗生物質の長期連用によって腸内細菌のバランスが崩れ、大腸炎(偽膜性大腸炎など)を引き起こす可能性が添付文書に記載されています。

腹痛や頻回の下痢、粘液や血が混じった便などが現れた場合は、直ちに使用を中止し、処方医に相談することが重要です。

外用薬とはいえ、成分の一部は皮膚から吸収される可能性があるため、定められた用法用量を守り、必要以上に広範囲・長期間の使用は控えるべきです。

抗菌外用薬アクアチムクリームの特徴と作用

アクアチムクリームはニューキノロン系の抗菌薬であり、細菌のDNA複製を阻害することで強い殺菌的に作用し、アクネ菌だけでなく表皮ブドウ球菌など他の化膿菌にも効果を示します。

ナジフロキサシンの抗菌スペクトル

アクアチムの有効成分は「ナジフロキサシン」です。これはニューキノロン系と呼ばれる種類の抗菌薬で、細菌の核にあるDNAジャイレースという酵素に作用します。

DNAジャイレースは、細菌が分裂・増殖する際に、自分自身の設計図であるDNAを複製するために絶対に欠かせない酵素です。

ナジフロキサシンはこの酵素の働きを阻害することで、細菌のDNA複製を物理的に不可能にし、細菌を死滅させます。

ダラシンがタンパク質合成を阻害して菌の増殖を抑える「静菌的」な作用が中心であるのに対し、アクアチムは「殺菌的」に働くのが大きな特徴です。

また、アクネ菌だけでなく、黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌といった、ニキビの化膿をさらに悪化させる他の細菌に対しても広い抗菌スペクトル(効果の範囲)を持っています。

そのため、赤ニキビだけでなく、中心が黄色く膿んでしまった「黄ニキビ」や、他の雑菌が入り込んでジュクジュクした状態のニキビにも優れた効果を発揮します。

クリーム・軟膏・ローションの基剤の違い

アクアチムにはクリーム、軟膏、ローションという3つの剤形がラインナップされており、患者の肌状態に合わせて細やかに使い分けることができます。

ニキビ治療で最も一般的に処方されるのは「クリーム」です。なめらかで伸びが良く、肌にスッと馴染むため、顔のニキビに適しています。塗った後も白浮きしにくいのが利点です。

「軟膏」は油分が多く、べたつきがありますが、皮膚を保護する作用が強いため、ジュクジュクした患部や、乾燥による亀裂がある場合などに選ばれることがあります。

刺激が少ないため、敏感肌の方にも使いやすいですが、使用感が重いため、夏場や脂性肌の方には敬遠されることもあります。

アクアチムの剤形バリエーション

剤形テクスチャー主な使用シーン
クリームなめらかで伸びが良い顔のニキビ全般(標準的)
軟膏油分が多く保護力が高い乾燥が強い患部、刺激に弱い肌
ローション液体で広がりやすい背中、デコルテ、頭皮

「ローション」はダラシン同様に広範囲に塗り広げやすく、毛髪のある頭皮のニキビや、背中ニキビなどに適しています。

医師は患者の肌質やニキビの進行度合い、発生している部位などを総合的に判断し、これらの中から最適な剤形を選択して処方します。

ダラシンと比較した際の特徴

ダラシンとアクアチムはどちらも赤ニキビ治療の第一選択薬となり得ますが、前述の通り作用機序(効き方の仕組み)が異なります。

そのため、片方の薬をしばらく使ってみて効果が不十分だった場合や、あるいは長期間の使用で耐性菌が出現して効果が落ちてきた場合に、もう一方の薬に変更する「スイッチ」が有効な場合があります。

一般的に、アクアチムはキノロン系特有の切れ味の良い殺菌作用を持ちますが、歴史的にはダラシンの方が古くから使われてきた実績があります。

どちらが薬として優れているという序列があるわけではなく、個人の肌との相性や、その時の菌の感受性(薬の効きやすさ)によって効果の実感は異なります。

「友達はこっちで治ったから」といって自己判断で薬を選んだり使い分けたりせず、肌の状態を診た医師の指示に従うことが、結果的に最短での治癒につながります。

抗菌薬を使用する正しいタイミングと塗り方

抗菌薬の効果を最大限に引き出し副作用を防ぐためには、洗顔後の清潔な肌に対し、保湿ケアを行った後に適量を患部のみに優しく乗せるように塗布することが大切です。

洗顔後のスキンケア手順における順番

基本的に、ニキビ治療薬を塗るタイミングは朝と夜の「洗顔後」です。しかし、洗顔直後の無防備な肌にいきなり強い薬を塗ると刺激になることがあります。

一般的な推奨手順としては、まず優しく洗顔を行い、タオルで水分を拭き取った後、化粧水で肌にたっぷりと水分を補給します。

その後、必要であればノンコメドジェニックの乳液やジェルで保湿を行い、肌の状態を整えてから、最後に抗菌薬を塗布します。

この順番を守ることで、皮膚のバリア機能を保ちつつ、薬剤による乾燥や刺激を和らげることができます。

ただし、油分の多いこってりとしたクリームや美容オイルを顔全体に塗った後に薬を塗ると、油膜がバリアとなって薬の成分が浸透しにくくなる可能性があります。

乾燥がひどく油分での保湿が必要な場合は、薬を塗る部分だけ避けるか、薬を塗って十分に乾いてから、その上から優しく保湿剤を重ねるなどの工夫が必要です。

患部へのポイント塗布と広範囲塗布の違い

ダラシンやアクアチムのような抗菌薬は、基本的には「赤く腫れているニキビがある部分だけ」に塗るポイント塗布が原則です。

ニキビができていない部分にまで予防的に塗り広げてしまうと、肌を守っている善玉菌などの常在菌まで殺してしまい、肌のバランス(スキンフローラ)を崩すリスクがあります。

清潔な指先や綿棒に少量の薬を取り、赤ニキビの上にチョンと乗せるように塗ります。皮膚の中に押し込もうとして強く擦り込む必要はありません。

ただし、医師から「面で塗るように」と特別な指示があった場合や、赤ニキビが密集して多発しているエリアがある場合は、その範囲に限って薄く塗り広げることもあります。

日々のスキンケアと塗布の流れ

  • 丁寧な泡洗顔で余分な皮脂と汚れを落とし、タオルで優しく水分を拭き取る
  • 化粧水を手やコットンでなじませ、肌に水分を与えて角層を整える
  • ニキビができにくい処方の乳液やジェルを使用し、必要な保湿を行う
  • 抗菌薬を適量取り、赤ニキビの患部のみに優しく乗せるように塗布する
  • 薬が乾いたのを確認してから、朝であれば日焼け止めやメイクを行う

1日の使用回数と塗布量の目安

通常、これらの抗菌薬は「1日2回」、朝と晩の洗顔後に使用します。朝はメイクの前、夜は入浴や洗顔の後というルーティンを守りましょう。

薬の効果を持続させるためには、一定の間隔を空けて塗布し、皮膚上の薬物濃度を有効なレベルに保ち続けることが大切です。

塗布量の目安は、患部を薄く覆える程度で十分です。早く治したいからといって、白く残るほどたっぷりと山盛りに塗っても効果が倍増するわけではありません。

むしろ、過剰な量は周囲の皮膚への刺激になったり、寝ている間に枕カバーや布団に付着してしまったりするだけです。

「適量を、毎日、忘れずに」継続することこそが、薬の効果を最大限に引き出し、ニキビを治すための近道となります。

治療効果を実感するまでの期間と継続の重要性

抗菌薬による治療は即効性を期待するものではなく、通常は使用開始から2週間程度で赤みの減少などの効果が現れ始めますが、自己判断で中断せず医師の指示通りに継続することが完治への鍵となります。

赤みが引き始める目安の時期

ダラシンやアクアチムを塗り始めても、魔法のように翌日にニキビが消えるわけではありません。焦らずに経過を見守る姿勢が必要です。

個人差やニキビの重症度にもよりますが、多くの場合は使用開始から1週間から2週間ほど経過した頃に、最初の変化を感じ始めます。

具体的には、ニキビのパンパンに張っていた盛り上がりが少し平らになったり、鮮やかな赤色が落ち着いて暗赤色に変わってきたりといった変化です。

炎症が皮膚の深い場所にまで及んでいる場合や、複数のニキビが皮膚の下でトンネルのように結合している重症例では、効果を実感するまでにさらに時間がかかることもあります。

数日塗って劇的な変化がないからといって「この薬は効かない」と自己判断してやめてしまうのは尚早です。皮膚のターンオーバーや炎症の鎮静プロセスには物理的な時間が必要です。

しこりが残る場合の対応策

表面の赤みや膿が引いても、皮膚の下にコリコリとした硬い「しこり」が残ることがあります。これは治癒過程の一種ですが、非常に厄介な状態です。

これは炎症の結果として生じた瘢痕組織や、袋状になった組織の中に膿や角質などの内容物が完全に出きらずに残存している状態です。

この段階になると、外から抗菌薬を塗るだけでは薬剤が内部まで届かず、改善が難しい場合があります。

しこりが残った場合、気になって指で触ったり、無理に押し出そうとしたりすると、炎症が再燃し、さらに大きく深い跡になるリスクがあります。

抗菌薬の継続に加えて、排膿を促す漢方薬やビタミン剤の内服、場合によっては皮膚科での処置(ステロイド局所注射や切開排膿など)が必要になることもあります。

経過時間と期待される変化の目安

使用期間期待される変化注意点
開始〜1週間痛みや腫れが少し和らぐ副作用(刺激感)の有無を確認する
2週間〜1ヶ月赤みが引き、ニキビが平坦化する新しいニキビができにくくなるか観察
1ヶ月〜3ヶ月炎症がほぼ消失する維持療法への切り替えを検討する時期

途中で中断してしまうことの弊害

ニキビ治療で最も多い失敗パターンの一つが、少し良くなったからといって、完全に治りきる前に患者自身の判断で薬を塗るのをやめてしまうことです。

表面上は赤みが引いたように見えても、毛穴の奥深くにはまだアクネ菌が潜んでおり、炎症の火種が残っていることが多々あります。

この状態で治療を中断すると、生き残ったアクネ菌が再び増殖し、数日後には同じ場所にニキビが再発(リバウンド)してしまうことになります。

中途半端な治療と再発を繰り返すことは、皮膚組織へのダメージを蓄積させ、最終的にはクレーター状の治りにくいニキビ跡へと進行させてしまいます。

医師が「もう塗らなくて良い」と判断するまでは、見た目が綺麗になってきても指示通りに塗り続けることが大切です。

また、炎症が治まった後も、再発を防ぐための維持療法として、別の種類の薬(アダパレンなど)へ切り替える指示が出ることが多いため、定期的な受診を欠かさないようにしましょう。

耐性菌リスクを避けるための使用期間の制限

抗菌薬の長期使用は薬剤耐性菌を生み出し薬が効かなくなるリスクを高めるため、急性期の炎症が治まった段階で速やかに非抗菌薬の維持療法へ切り替えることが現代のニキビ治療のスタンダードです。

長期連用が招く薬剤耐性の問題

抗菌薬をダラダラと長く使い続けることには、大きなリスクが伴います。それが「薬剤耐性菌」の出現です。

菌も生き残るために必死です。薬による攻撃を受け続けると、遺伝子を変異させたりして、その薬に対して抵抗力を持った菌(耐性菌)へと進化してしまうことがあります。

一度耐性菌ができてしまうと、これまで効いていたダラシンやアクアチムが全く効かなくなってしまい、ニキビの治療が非常に困難になります。

それだけでなく、いざ肺炎や中耳炎など他の感染症にかかった時に、同じ系統の抗生物質が効かなくなってしまうという、全身的な健康リスクもはらんでいます。

特にアクネ菌は耐性化しやすい傾向にあり、日本皮膚科学会のガイドラインでも、抗菌薬の漫然とした長期使用は厳に慎むべきとされています。

漫然とした使用を控えるべき理由

「ニキビができそうな気がするから予防として塗っておこう」「受診するのが面倒だから、何ヶ月も前に処方された薬を塗り続けている」といった使い方は非常に危険です。

中途半端な濃度の薬がダラダラと存在し続ける環境は、菌にとって耐性を獲得するための訓練場のようなものです。

耐性菌が増えれば、自分自身の治療の選択肢が狭まるだけでなく、家族や周囲の人に耐性菌を広めてしまう可能性さえあります。

抗菌薬はあくまで「火事(炎症)」を消すための強力な消火活動です。火が消えた後まで消火剤を撒き続ける必要はありません。

火が消えた後は、再び出火しないように建物を管理する(毛穴詰まりを防ぐ)別の薬に切り替え、肌の基礎体力を高めるケアにシフトする必要があります。

医師が判断する中止および変更のタイミング

一般的に、抗菌外用薬の使用期間の目安は「急性炎症期」に限られます。具体的な期間としては、長くても3ヶ月程度が一つの区切りとされています。

もちろん、症状が順調に改善すれば、1ヶ月や2ヶ月といったもっと早い段階で終了することもあります。

医師は、赤い腫れが引き、触れても痛みがなく、新しい赤ニキビができなくなったタイミングを見計らって、抗菌薬の中止を提案します。

耐性菌を防ぐための基本ルール

  • 自己判断で長期間ダラダラと使用せず、医師の指示に従う
  • 炎症のある赤いニキビにのみ使用し、予防目的では使わない
  • 処方された期間を守り、定期的に受診して経過を見せる
  • 効果が感じられない場合は漫然と続けず早めに相談する
  • 過去の残った薬を勝手に使用したり他人に譲ったりしない

そして、その後はアダパレン(ディフェリン)や過酸化ベンゾイル(ベピオ)といった、耐性菌のリスクがなく、毛穴詰まりを予防する薬による維持療法へと移行させていきます。

この「急性期治療」から「維持療法」へのスムーズな切り替えこそが、ニキビ治療のゴールに向けた最も重要なステップなのです。

抗菌薬単独治療の限界と併用療法

現在のニキビ治療では、抗菌薬単独よりも過酸化ベンゾイルやアダパレンなどの毛穴詰まりを改善する薬剤を併用することで、より高い治療効果と耐性菌抑制の両立が可能になっています。

アダパレンや過酸化ベンゾイルとの併用

かつてのニキビ治療は抗菌薬が主体でしたが、現在はアプローチが変わってきています。抗菌薬(ダラシンやアクアチム)は今ある炎症を鎮める力には優れています。

しかし、ニキビの根本原因である「毛穴の詰まり(微小面ぽう)」を解消する力は弱いため、抗菌薬だけでは新たなニキビの発生を完全に防ぐことは難しいのです。

そこで、角質の詰まりを取り除く作用がある「アダパレン」や、強力な酸化作用で殺菌とピーリング効果を併せ持つ「過酸化ベンゾイル」を併用する治療法が主流になっています。

特に過酸化ベンゾイルは、抗菌薬と一緒に使うことで、抗菌薬に対する耐性菌の出現を抑える効果があることが研究で分かっています。

これらの成分が最初から配合された合剤(デュアック配合ゲルなど)が処方されることも多くなっており、患者にとっても2種類の薬を重ね塗りする手間が省けるという大きなメリットがあります。

炎症が強い場合の内服薬の検討

塗り薬だけでは追いつかないほど炎症が激しい場合や、顔全体だけでなく首や背中まで広範囲にニキビが広がっている場合は、内服薬(飲み薬)の抗生物質が処方されることがあります。

内服薬は腸から吸収されて血流に乗り、体の内側から皮膚の深い部分の炎症に対して強力に作用するため、重症例には非常に効果的です。

内服薬に関しても、外用薬と同様に耐性菌のリスクがあるため、使用期間は限定的です。

通常は外用薬と併用して治療を開始し、炎症が落ち着いてきたら内服を先に中止し、外用薬のみでのコントロールに移行していくという流れが一般的です。

また、体質改善を目的として、排膿解毒作用のある漢方薬や、皮脂分泌を調整するビタミン剤が補助的に処方されることもあります。

単独療法と併用療法の比較メリット

治療法主なメリット期待できる効果
抗菌薬単独刺激が比較的少なく導入しやすい急性の炎症・腫れの鎮静
抗菌薬+毛穴改善薬根本原因にもアプローチできる炎症抑制、面ぽう改善、再発予防
抗菌薬+内服薬体の内と外から強力に作用する重症ニキビの早期改善、瘢痕予防

生活習慣の改善によるサポート

どんなに優れた最新の薬を使っても、そのベースとなる身体の状態が悪ければ効果は半減してしまいます。

睡眠不足による成長ホルモンの減少、糖質・脂質の過剰摂取による皮脂分泌の増加、ストレス過多によるホルモンバランスの乱れなどは、すべてニキビの悪化因子です。

薬はあくまで炎症を抑えるサポート役であり、実際に肌を修復して治す主体は、患者自身の体の回復力に他なりません。

質の高い睡眠を取って肌の修復を促すこと、肌の材料となるタンパク質やビタミンをバランスよく食事から摂取すること、肌に直接触れる枕カバーやタオルを清潔に保つこと。

こうした地道な生活環境を整える努力を薬物療法と並行して行うことが、治療期間を短縮し、二度とニキビに悩まない美しい肌を取り戻すためには大切です。

よくある質問

赤ニキビ治療や抗菌薬の使用に関して、患者様から診察室で頻繁に寄せられる疑問について、医学的な観点から分かりやすく回答します。

Q
妊娠中や授乳中でも使用できますか?
A

ダラシンTゲルやアクアチムクリームなどの外用薬は、飲み薬と違って全身への影響が少なく、皮膚からの吸収量も極めて微量です。

そのため、妊娠中や授乳中でも使用可能と判断されるケースが多いですが、絶対に安全と言い切れるわけではありません。

妊娠の時期(初期・中期・後期)や使用する範囲の広さによっては、より慎重な判断が求められることもあります。

自己判断で使用を開始せず、必ず主治医や皮膚科医に妊娠中または授乳中であることを伝えた上で、適切な処方を受けてください。

Q
化粧水や乳液の前に塗るべきですか?
A

基本的には「洗顔→化粧水→(乳液)→薬」の順番が推奨されます。洗顔直後の肌はバリア機能が低下しており、そこに直接薬を塗ると刺激が強すぎる場合があるためです。

また、化粧水で肌に水分を与えて整えることで、その後の薬剤の浸透がスムーズになる効果も期待できます。

ただし、処方された薬の種類(ローションタイプなど)や医師の治療方針によっては、順番が異なる指示が出る場合もあります。

薬を受け取る際に、薬剤師の説明をよく確認し、指示された順番を守るようにしてください。

Q
薬を塗った上からメイクをしても良いですか?
A

薬を塗って十分に乾いた後であれば、その上からメイクをしても問題ありません。むしろ紫外線対策などはしっかり行うべきです。

ただし、患部をコンシーラーで強く擦ったり、厚塗りして密閉したりするようなメイク法は避けてください。

ファンデーションのスポンジやブラシは雑菌が繁殖しやすいため、常に清潔なものを使用するか、使い捨てのタイプを活用しましょう。

また、ニキビを隠すために油分の多い化粧品を使うと毛穴を塞いでしまうため、「ノンコメドジェニックテスト済み」の製品を選び、薄付きを心がけましょう。

Q
治った後も予防として塗り続けて良いですか?
A

治った後に「またできたら怖いから」といって予防目的でダラシンやアクアチムを塗り続けることは避けてください。

抗菌薬の予防投与は、記事内でも解説した通り、耐性菌を生み出す最大の原因となります。

赤みが引き、ニキビが平らになった段階で抗菌薬の役割は終わり、卒業となります。

その後の予防には、ベピオやディフェリンといった毛穴詰まりを改善する薬や、ビタミンC誘導体などを含む適切なスキンケアによる維持療法を行ってください。

参考文献