薄毛や抜け毛の悩みは、多くの方が抱える深刻な問題です。特に男性型脱毛症(AGA)が進行すると、見た目の印象が大きく変わり、自信を失う原因にもなりかねません。
この記事では、薄毛治療の有力な選択肢である「自毛植毛」の中でも、FUT(ドナーストリップ法)に焦点を当てて詳しく解説します。
手術の仕組みから費用、メリットやデメリットまで、あなたが抱える疑問や不安に答え、後悔のない治療選択を支援します。
自毛植毛とは何か – 自分の髪を移植する医療技術の仕組み
自毛植毛は、薄毛の影響を受けにくい後頭部や側頭部から、自分自身の健康な毛髪を毛根ごと採取し、薄毛が気になる頭頂部や生え際などに移植する外科的な治療法です。
AGA(男性型脱毛症)の主な原因は男性ホルモンですが、後頭部の毛髪はこのホルモンの影響を受けにくい性質を持っています。
この性質を利用し、移植した髪は、元の場所の性質を保ったまま生え変わり続けます。これにより、根本的かつ長期的な薄毛改善が期待できます。
AGAの影響を受けにくいドナー毛の性質
AGAは、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)が、毛乳頭細胞の受容体と結合することで進行します。
しかし、後頭部や側頭部の毛髪にある受容体は、このDHTの影響をほとんど受けません。
そのため、これらの部位から採取した毛髪(ドナー)を薄毛部分に移植すると、移植先でもその性質を維持し、半永久的に成長を続けるのです。
この点が、薬物治療や他の治療法との大きな違いであり、自毛植毛の最大のメリットと言えます。
毛髪の再生サイクルと移植後の髪
私たちの髪には、成長期、退行期、休止期というサイクルがあります。AGAが進行した部位では、この成長期が極端に短くなり、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまいます。
自毛植毛によって移植された毛髪は、一度休止期に入って抜け落ちることがありますが、その後は後頭部由来の正常な成長サイクルを取り戻します。
数ヶ月後には新しい髪が生え始め、時間とともに太く、長く成長していきます。
FUT(ドナーストリップ法)の特徴 – 確実な毛髪採取と移植の方法
自毛植毛にはいくつかの術式がありますが、FUT(ドナーストリップ法)は、その中でも歴史と実績のある代表的な方法です。
この方法は、メスを用いて後頭部の頭皮を帯状に切除し、そこから移植に必要な毛髪(株)を一つひとつ丁寧に採取する点に大きな特徴があります。
外科的な手法であるため、医師の高度な技術が求められますが、多くのメリットも存在します。
ドナーストリップ法による毛髪採取

FUT法では、まずAGAの影響を受けにくい後頭部の毛髪が密集している部分を、医師が慎重に見極めます。そして、局所麻酔の後、メスを使ってその部分の頭皮を必要な分だけ帯状(ストリップ)に切除します。
この方法の利点は、一度に多くの健康なドナーを確保できることです。
切除した頭皮は、専門の技術者が顕微鏡を使い、毛根を傷つけないように細心の注意を払いながら、移植単位である「株(グラフト)」に分けていきます。
株(グラフト)の品質と顕微鏡下での株分け
FUT法のメリットの一つは、株の品質を高く保てる点にあります。医師が直接目で見てドナーの状態が良い部分を切除し、さらに顕微鏡下で株分けを行うため、毛根の切断率を低く抑えることができます。
これは、移植後の生着率に直結する非常に重要な点です。品質の高い株を移植することで、より確実な発毛効果が期待できます。

切除後の縫合と傷跡の管理
頭皮を切除した後、医師は傷口を丁寧に縫合します。この縫合技術が、術後の傷跡の目立ち具合を大きく左右します。
経験豊富なクリニックでは、傷跡が髪の毛で隠れてほとんど分からなくなるような、特殊な縫合技術(トリコフィティック縫合など)を用います。

この技術により、傷跡自体からも髪が生えてくるように促し、後頭部の傷跡に関するデメリットを最小限に抑える工夫をします。
FUT法のメリットの要約
FUT法は、特に広範囲の薄毛に悩む方にとって有効な選択肢となります。その主な利点を以下に示します。
- 一度に大量の株を採取可能
- 株の切断率が低く、品質が高い
- 1株あたりの費用を抑えやすい
- 手術時間が比較的短い
FUTと他の植毛法の違い – なぜドナーストリップ法が選ばれるのか
自毛植毛を検討する際、多くの方がFUT法とFUE法のどちらを選ぶべきか悩むでしょう。FUE法は、メスを使わずに専用のパンチで毛穴ごと株をくり抜く方法です。
それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらが優れているということではなく、個人の症状や希望によって適した方法は異なります。
ここでは、両者の違いを明確にし、FUT法が選ばれる理由を探ります。
FUT法とFUE法の根本的な違い
二つの術式の最も大きな違いは、ドナーの採取方法にあります。FUT法がメスで頭皮ごと帯状に切除するのに対し、FUE法は一本一本の株をくり抜いて採取します。
この採取方法の違いが、傷跡の形状、術後の痛み、一度に採取できる株の数、そして費用など、さまざまな側面に影響を与えます。
術式による比較

比較項目 | FUT(ドナーストリップ法) | FUE(くり抜く方法) |
---|---|---|
ドナー採取方法 | メスで帯状に頭皮を切除 | パンチで株を1つずつくり抜く |
傷跡の形状 | 後頭部に一本の線状の傷跡 | 広範囲に小さな点状の傷跡 |
術後の痛み | FUE法より強い傾向がある | 比較的少ない |
広範囲の薄毛に対するFUT法の優位性
進行したAGAなど、広範囲に大量の移植が必要な場合、FUT法に大きなメリットがあります。一度の手術で3000株以上の大量のドナーを確保できるため、高密度な移植を実現しやすいのです。

FUE法でも大量移植は可能ですが、一本ずつ採取するため時間がかかり、それに伴い費用も高額になる傾向があります。
そのため、コストを抑えつつ最大限の効果を得たいと考える方にとって、FUT法は非常に合理的な選択肢となります。
生着率と株の品質における違い
移植した髪がしっかりと生え付く確率を「生着率」と呼びます。
FUT法では、顕微鏡を使いながら毛根を保護しつつ株分けを行うため、毛根の損傷リスクが低く、安定して高い生着率が期待できます。
一方、FUE法は医師の技術力によって生着率が左右されやすく、毛根を切断してしまうリスクがFUT法より高いとされています。確実な結果を求める上で、この生着率の違いは重要な判断材料です。
FUT法が適している方の特徴
項目 | 解説 |
---|---|
広範囲の薄毛の方 | 一度に多くの株を移植でき、効率的に密度を高められます。 |
費用を重視する方 | 1株あたりの費用が安く、総額を抑えやすい傾向にあります。 |
確実な生着率を望む方 | 株の品質が高く、安定した結果を期待できます。 |
手術の流れと所要時間 – カウンセリングから術後まで
FUT法による自毛植毛は、どのような流れで進むのでしょうか。安心して手術に臨むためには、カウンセリングから手術当日、そして術後のケアまでの全体像を把握しておくことが大切です。
信頼できるクリニックでは、患者の不安を取り除くために、各段階で丁寧な説明を行います。
初診カウンセリングと手術計画
まず、専門のクリニックで医師によるカウンセリングを受けます。ここでは、あなたの薄毛の状態や進行度、頭皮の健康状態などを詳しく診察します。
そして、あなたの希望やライフスタイルを考慮しながら、FUT法が適切かどうか、何株程度の移植が必要かといった具体的な手術計画を立てます。
費用やリスクに関する説明もこの段階で受け、十分に納得した上で手術日を決定します。
手術当日の流れ

手術当日は、体調の確認から始まります。その後、移植するデザインの最終確認を行い、ドナーを採取する後頭部を部分的に剃毛します。
手術は局所麻酔で行うため、意識ははっきりしていますが、痛みを感じることはほとんどありません。リラックスした状態で手術を受けられるよう、多くのクリニックでは音楽や映像を用意しています。
手術の各段階と所要時間
段階 | 内容 | おおよその時間 |
---|---|---|
ドナー採取 | 後頭部からメスで頭皮を帯状に切除し、縫合します。 | 約30分~1時間 |
株分け | 採取した頭皮を専門スタッフが顕微鏡で株に分けます。 | (採取と並行して進行) |
移植 | 医師が薄毛部分に株を一つひとつ丁寧に植え込みます。 | 約2~4時間 |
手術全体の所要時間は、移植する株の数によって異なりますが、一般的には4時間から6時間程度です。手術後は、少し休憩してから帰宅できます。入院の必要はありません。
FUTによる植毛の定着率と持続性 – 移植した髪はどれくらい残るのか
高額な費用をかけて自毛植毛を受けるからには、その効果がどれだけ持続するのか、移植した髪が本当に生え続けるのかは最も気になる点でしょう。
FUT法は、その安定した生着率と持続性において高い評価を得ています。ここでは、その理由と、効果を最大限に引き出すためのポイントを解説します。
生着率の考え方
生着率とは、移植した株(グラフト)のうち、実際に生着して髪が伸びてくる割合のことです。
一般的に、自毛植毛の生着率は80%以上とされていますが、技術力の高いクリニックでFUT法を受けた場合、95%以上という非常に高い生着率も期待できます。
この数字は、移植した100本の髪のうち95本以上が、その後も生え続けることを意味します。
生着率を高める要因

FUT法の高い生着率は、その作業工程に理由があります。顕微鏡を使い、毛根を直接見ながら株分けを行うため、毛根を傷つけるリスクを最小限に抑えられます。
また、採取から移植までの時間を短縮するクリニックの体制も、株の鮮度を保ち、生着率を高める上で重要です。
医師の移植技術、看護師や専門スタッフの連携、そしてクリニック全体の経験値が、高い生着率を支えています。
生着率に影響を与える要素
要素 | 内容 |
---|---|
株の品質 | 毛根が損傷していない、健康な株であること。FUT法はこの点で有利です。 |
移植技術 | 医師が適切な深さ、角度、密度で植え込む技術。 |
術後ケア | 患者自身が移植部を擦ったり、刺激したりしないなどの注意を守ること。 |
移植毛の持続性とAGAの進行
FUT法で移植した髪は、AGAの影響を受けにくい後頭部の性質を保ち続けるため、半永久的に生え変わります。つまり、一度生着すれば、その髪がAGAを原因として再び抜け落ちる心配はほとんどありません。
ただし、注意すべきは「既存の髪」です。移植した髪以外の、元々生えていた髪は、AGAの影響を受け続けます。
そのため、植毛後もAGAの進行を抑えるために、内服薬などの治療を併用することを勧めるクリニックも多くあります。
術後の経過と日常生活への復帰 – 仕事や運動はいつから可能か

手術後のダウンタイムがどのくらいなのか、いつから普段通りの生活に戻れるのかは、仕事やプライベートの予定を立てる上で非常に重要です。
FUT法はメスを使うため、FUE法に比べてダウンタイムがやや長い傾向にありますが、クリニックの指示を守ることで、回復を早め、リスクを軽減できます。
術後直後から抜糸までの注意点
手術当日は、麻酔の影響が残っているため、車の運転はできません。帰宅後は安静に過ごします。
術後数日間は、後頭部の縫合部に痛みや突っ張り感を感じることがありますが、処方される痛み止めでコントロールできます。
また、移植部を保護するため、就寝時の姿勢にも注意が必要です。翌日または数日後にクリニックで洗髪と経過観察を行い、問題がなければ、その後は自分で慎重に洗髪できるようになります。
術後の主な症状と対処法
症状 | 期間の目安 | 対処法 |
---|---|---|
痛み・つっぱり感 | 術後2~3日 | クリニックから処方される痛み止めを服用する。 |
腫れ・むくみ | 術後3~5日 | 額や目元に出ることがあるが、自然に引いていく。 |
かさぶた | 術後1~2週間 | 自然に剥がれるのを待つ。無理に剥がさない。 |
日常生活への復帰スケジュール
多くの方が気になる仕事や運動の再開時期ですが、これは職種や運動の強度によって異なります。デスクワークのような身体的な負担が少ない仕事であれば、手術の2~3日後から復帰する方もいます。
一方、力仕事や激しい運動は、縫合部に負担がかかるため、一定期間控える必要があります。
活動再開の目安
- デスクワーク:術後2~3日後から可能
- 軽い運動(散歩など):術後1週間後から可能
- 激しい運動(筋トレ、ランニングなど):術後1ヶ月後から可能
- 飲酒・喫煙:血行に影響するため、最低1週間は控える
抜糸は、術後10日から2週間程度で行います。抜糸が終われば、日常生活の制限はほとんどなくなります。
ただし、後頭部の傷跡が完全に落ち着くまでには数ヶ月かかりますので、その間はパーマやカラーリングなどを避けるのが賢明です。
費用と医療機関の選び方 – 安全な治療を受けるために
自毛植毛は自由診療のため、健康保険が適用されず、費用は全額自己負担となります。決して安い金額ではないからこそ、費用体系を正しく理解し、信頼できるクリニックを選ぶことが何よりも重要です。
ここでは、費用の内訳と、後悔しないクリニック選びのポイントを解説します。
FUT法の費用体系

自毛植毛の費用は、主に「基本治療費」と「移植する株数に応じた費用」で構成されます。
FUT法は、FUE法に比べて1株あたりの単価が安い傾向にあるため、同じ株数を移植する場合、総額を抑えられることが多いです。
ただし、クリニックによって料金体系は異なるため、カウンセリングの際に総額でいくらかかるのかを明確に確認することが大切です。
費用の内訳例(1500株の場合)
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
基本治療費 | 20万円~30万円 | 診察料、手術室使用料など |
グラフト費用 | 60万円~90万円 | @400円~600円 × 1500株 |
合計 | 80万円~120万円 | 薬代などが別途必要な場合もある |
信頼できるクリニックを選ぶためのポイント
良い治療結果を得るためには、クリニック選びが成功の9割を占めると言っても過言ではありません。特にFUT法は、医師のメスを使った切開や縫合の技術が、結果や傷跡の美しさに直結します。
以下の点を参考に、慎重にクリニックを選びましょう。
- FUT法の実績や症例数が豊富か
- 医師がカウンセリングから執刀まで一貫して担当するか
- メリットだけでなく、デメリットやリスクも正直に説明してくれるか
- 費用体系が明確で、追加料金の有無をきちんと説明してくれるか
- 術後のアフターフォロー体制が整っているか
リスクと注意点 – 知っておくべき副作用と対処法

どのような医療行為にも、リスクや副作用の可能性はあります。FUT法も例外ではありません。事前に考えられるリスクを理解し、その対処法を知っておくことで、万が一の際にも冷静に対応できます。
誠実なクリニックは、これらのデメリットについても隠さず説明してくれます。
手術に伴う一般的なリスク
FUT法で考えられる主なリスクは、ドナーを採取した後の後頭部の状態に関連するものです。メスで切開し、縫合するため、術後の痛みや腫れ、つっぱり感はFUE法よりも強く出やすい傾向があります。
また、ごく稀にですが、感染症や縫合不全といった合併症の可能性もゼロではありません。
これらは、クリニックの衛生管理や医師の技術、そして患者自身の術後ケアによって、その発生確率を大きく下げることができます。
主なリスクとその対策
リスク・副作用 | 内容と対策 |
---|---|
後頭部の傷跡 | 線状の傷跡が残るが、髪で隠れる。トリコフィティック縫合で目立ちにくくできる。 |
痛み・知覚鈍麻 | 術後数日は痛みがあるが、薬で対応可能。傷周辺の感覚が鈍ることがあるが、時間とともに回復する。 |
ショックロス | 移植部の周辺の既存毛が一時的に抜けることがある。数ヶ月で再発毛することが多い。 |
FUT法のデメリットと向き合う
FUT法の最大のデメリットは、後頭部に線状の傷跡が残る点です。そのため、将来的に髪を非常に短くする(刈り上げるなど)可能性がある方には、不向きな場合があります。
カウンセリングの段階で、自身のライフプランや希望する髪型について医師とよく相談し、傷跡がどの程度目立つのか、症例写真などを見せてもらいながら確認することが重要です。
また、FUT法は医師の縫合技術が傷跡の仕上がりを大きく左右します。そのため、クリニックを選ぶ際には、FUT法を長年手掛け、多くの経験を持つ医師が在籍しているかどうかを必ず確認しましょう。
よくある質問
ここでは、FUT法による自毛植毛を検討している方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Q手術中の痛みはどのくらいありますか?
- A
手術は局所麻酔をかけて行うため、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。麻酔の注射の際にチクッとした痛みを感じる程度です。
術後は、後頭部の縫合部に痛みが出ますが、処方される痛み止めで十分にコントロールできる範囲です。
- Q傷跡は本当に目立たなくなりますか?
- A
医師の縫合技術によりますが、経験豊富な医師が執刀すれば、傷跡は髪の毛に隠れてほとんど分からなくなります。
特に、傷跡から毛が生えるようにする「トリコフィティック縫合」という技術を用いることで、より目立ちにくくすることが可能です。
ただし、髪を1cm以下のような極端な短髪にすると、傷跡が見える可能性はあります。
- Q移植した髪は、自分の髪と同じように扱えますか?
- A
はい、扱えます。移植した髪は、あなた自身の髪ですので、生えそろった後は、カット、カラー、パーマなど、普通の髪と同じように自由にスタイリングできます。
AGAの影響も受けにくいため、半永久的に生え変わり続けます。
- QFUE法とどちらが良いか迷っています。
- A
どちらの術式が適しているかは、あなたの薄毛の範囲、希望する移植株数、費用に関する考え方、そしてライフスタイルによって異なります。
広範囲に高密度な移植を希望し、費用を抑えたい場合はFUT法が、傷跡を点状に分散させたい、ダウンタイムを短くしたい場合はFUE法が向いていると言えます。
まずは専門のクリニックでカウンセリングを受け、両方のメリット・デメリットを理解した上で、医師と一緒に最適な方法を決めることが大切です。
自毛植毛の技術は日々進化しています。近年では、医師の手作業に代わり、精密なロボットがFUE法による株の採取を行う技術も登場しています。
この方法は、人的なミスの可能性を減らし、より均一で質の高い株を採取できる可能性があるとして注目されています。
ロボットによる自毛植毛に関心のある方は、以下の記事でその詳細な情報と、従来のFUT法やFUE法との違いについて確認できます。