ある日突然、髪がごそっと抜けてしまう円形脱毛症。鏡を見て驚き、不安な日々を過ごしている方も多いのではないでしょうか。

この症状は、性別や年齢に関係なく誰にでも起こりうるものです。

しかし、なぜ起こるのか、どこで相談すれば良いのか分からず、一人で悩みを抱え込んでしまうケースが少なくないようです。

この記事では、円形脱毛症の基本的な知識から、病院で行う具体的な治療法、信頼できる専門医の選び方までを詳しく解説します。

円形脱毛症とは何か?その原因と種類

円形脱毛症は、単に髪が抜けるだけの症状ではありません。その背景には、体の内部で起きている特有の反応が関係しています。

突然髪が抜ける円形脱毛症の基本

円形脱毛症は、頭部やその他の体毛が生えている部分に、境界がはっきりした円形または楕円形の脱毛斑が突然生じる疾患です。

多くの場合、かゆみや痛みといった自覚症状はありません。

脱毛の範囲や数は人によって異なり、自然に治る場合もあれば、拡大・再発を繰り返すケースもあります。

多くの人が「ストレスが原因」と考えがちですが、実際にはより複雑な要因が関与しています。

自己免疫疾患としての側面

現在、円形脱毛症の最も有力な原因は「自己免疫疾患」と考えられています。

通常、免疫は体外から侵入したウイルスや細菌などを攻撃し、体を守る働きをします。

しかし、何らかの異常で免疫機能が自分の体の一部を異物と誤認し、攻撃してしまう場合があります。

円形脱毛症では成長期の毛包(毛根を包む組織)が攻撃対象となり、その結果として毛髪が抜けてしまうのです。

主な自己免疫疾患

  • 関節リウマチ
  • 1型糖尿病
  • 甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)

単発型から全頭型まで多様な症状

円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲によっていくつかのタイプに分類されます。

自分の症状がどのタイプに当てはまるかを知ることは、治療方針を考える上で重要です。

円形脱毛症のタイプ

タイプ特徴概要
単発型脱毛斑が1つだけ生じる最も多く見られるタイプで、自然治癒の可能性も高い。
多発型脱毛斑が2つ以上生じる脱毛斑が融合して大きくなることがある。
全頭型頭部全体の毛髪が抜ける治療が長期にわたる場合がある。

ストレスは直接的な原因ではない?

ストレスや精神的なショックが円形脱毛症の「引き金」になるケースはありますが、ストレス自体が「直接的な原因」ではありません。

あくまで、自己免疫機能の異常が発症の根本にあり、アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)なども関与していると考えられています。

ストレスを過度に気に病むよりも、まずは専門医に相談し、医学的な観点から原因を探りましょう。

円形脱毛症の治療法を徹底解説

円形脱毛症の治療は、症状の進行度や範囲、年齢などに応じて様々な選択肢があります。

ステロイド外用薬と内服薬の効果

ステロイドには免疫の過剰な働きを抑える作用があります。この作用を利用して、毛包への攻撃を鎮めるのがステロイド治療です。

軽症の場合は、ステロイドの塗り薬(外用薬)を脱毛斑に塗布します。

症状が広範囲に及ぶ場合や進行が速い場合には、短期間、飲み薬(内服薬)を用いるケースもあります。

ただし、内服薬は全身への影響も考慮する必要があるため、医師の慎重な判断のもとで処方します。

局所免疫療法とは

局所免疫療法は、かぶれを引き起こす特殊な化学物質(SADBEやDPCPなど)を脱毛斑に塗り、意図的に軽い皮膚炎を起こさせる治療法です。

この人工的なかぶれにより、毛包を攻撃していた免疫細胞の働きを別の方向へ向けさせ、発毛促進を狙います。

広範囲に症状が出ているときに有効な選択肢とされ、特に多発型や全頭型の治療でよく行われます。

冷却治療や紫外線療法の選択肢

液体窒素を脱毛斑に吹きかける冷却治療も選択肢の一つです。ステロイド外用薬と同様に、免疫細胞の働きを抑制する効果を期待します。

また、紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法)は、特定の波長の紫外線を照射して皮膚の免疫反応を調整する治療法です。

これらの治療は、他の治療法で効果が見られないときや、副作用の懸念から他の薬が使えない場合に検討します。

主な治療法の比較

治療法対象となる主な症状治療の概要
ステロイド外用軽症、単発型患部に直接薬剤を塗布する。
局所免疫療法多発型、全頭型薬剤で意図的にかぶれを起こし、免疫反応を変化させる。
紫外線療法広範囲の症状特殊な紫外線を照射し、免疫を調整する。

治療法の選択における注意点

どの治療法を選択するかは、医師が症状を正確に診断した上で決定します。

自己判断で市販薬を使用したり、民間療法に頼ったりするのは、症状を悪化させる可能性もあるため避けるべきです。

必ず専門医と相談し、自分にとって最も効果的で安全な治療計画を立てることが重要です。

専門医・病院選びの重要なポイント

円形脱毛症の治療を成功させるためには、信頼できる医師や医療機関を見つけることが非常に大切です。

皮膚科と専門クリニックの違い

円形脱毛症の相談先として、まず思い浮かぶのが皮膚科でしょう。一般的な皮膚科では、基本的な保険診療を中心とした治療を行います。

一方で、薄毛治療や円形脱毛症を専門に扱うクリニックでは、保険適用外の治療法も含め、より幅広い選択肢を提供している場合があります。

どちらが良いということではなく、自分の症状や求める治療レベルに合わせて選ぶと良いです。

皮膚科と専門クリニックの違い

項目一般的な皮膚科専門クリニック
治療の選択肢保険診療が中心保険診療に加え、自費診療も含む多様な選択肢
専門性幅広い皮膚疾患に対応円形脱毛症や薄毛治療に特化
費用保険適用分は比較的安価自費診療は高額になる場合がある

治療実績と専門性の確認方法

病院を選ぶ際には、その医療機関がどれだけ円形脱毛症の治療実績を持っているかを確認しましょう。

ウェブサイトに症例数や治療方針が詳しく記載されているか、所属する医師が皮膚科専門医や関連学会の認定医であるかなどが判断材料になります。

日本皮膚科学会のガイドラインに沿った標準的な治療を提供しているかも、信頼性を測る上での一つの基準です。

カウンセリングの質を見極める

初診時のカウンセリングは、医師との相性やクリニックの姿勢を知る絶好の機会です。

話をじっくりと聞き、症状や不安について丁寧に説明してくれるか、治療法のメリットだけでなくデメリットやリスクについてもきちんと伝えてくれるかを見極めましょう。

質問しやすい雰囲気かどうかも重要なポイントです。

通院のしやすさと費用も考慮

円形脱毛症の治療は、数ヶ月から時には数年にわたるケースもあります。

そのため、自宅や職場から無理なく通える場所にあるかどうかも、治療を継続する上で大切な要素です。

また、治療法によっては保険が適用されず、自費診療となる場合があります。事前に費用の概算を確認し、経済的に無理のない範囲で治療計画を立てましょう。

処方される薬の種類と効果・副作用

病院での治療では、様々な薬が用いられます。ここでは、円形脱毛症の治療で主に使用される薬の種類と、その効果、そして知っておくべき副作用について見ていきましょう。

主な円形脱毛症治療薬

治療の中心となるのは、やはりステロイド薬です。外用薬(塗り薬)のほか、症状に応じてステロイドを局所的に注射する方法もあります。

また、血行を促進し発毛をサポートする目的で、塩化カルプロニウムやミノキシジルの外用薬を併用するケースもあります。

重症では、免疫全体の働きを抑える免疫抑制薬(内服薬)を検討する場合もありますが、これは非常に慎重な判断が必要です。

主な治療薬とその働き

薬剤の種類主な働き使用方法
ステロイド外用薬免疫反応を抑える患部に塗布
ステロイド局所注射強い免疫抑制効果患部に直接注射
血行促進薬頭皮の血流を改善する患部に塗布

効果が現れるまでの期間

薬の効果の現れ方には個人差がありますが、一般的に治療を開始してから効果を実感するまでには、少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。

毛髪にはヘアサイクル(毛周期)があり、休止期に入った毛穴から新しい毛が生えてくるまでには時間がかかります。根気強く治療を続けましょう。

副作用のリスクと対処法

どのような薬であっても副作用のリスクが伴います。

例えば、ステロイド外用薬を長期間使用すると塗布した部分の皮膚が薄くなったり、血管が浮き出て見えたりする場合があります。

内服薬は、より全身的な副作用(感染症にかかりやすくなる、血糖値の上昇など)に注意が必要です。

治療を受ける際は医師から副作用について十分な説明を受け、何か異常を感じたらすぐに相談できる関係を築いておきましょう。

薬だけに頼らない治療の姿勢

薬による治療は非常に重要ですが、それだけで円形脱毛症が完治するわけではありません。

セルフケアや生活習慣の見直しも、治療効果を高め、再発を防ぐためには欠かせない要素です。

薬はあくまで治療の柱の一つと捉え、総合的な視点で回復を目指す姿勢が大切です。

治療効果を高めるセルフケア

専門的な治療と並行して、日々の生活の中で行えるセルフケアも回復を後押しします。

ここでは、治療効果を高めるために意識したい生活習慣について具体的に解説します。

バランスの取れた食事と栄養

健康な髪を育てるためには、バランスの取れた食事が基本です。

特定の食品だけを食べるのではなく、様々な食材から栄養を摂る工夫が重要です。

髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、頭皮の健康を保つビタミン類をとくに意識して摂取しましょう。

髪の健康に役立つ栄養素

栄養素主な働き多く含まれる食品
タンパク質髪の主成分(ケラチン)を作る肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉
ビタミンB群頭皮の新陳代謝を促す豚肉、うなぎ、玄米

質の良い睡眠の確保

髪の成長に欠かせない成長ホルモンは、睡眠中に最も多く分泌されます。なかでも眠り始めの深いノンレム睡眠時に分泌が活発になります。

そのため、毎日決まった時間に就寝・起床し、質の良い睡眠を確保することが大切です。

寝る前のスマートフォン操作は、脳を覚醒させて眠りの質を下げるため控えましょう。

頭皮への刺激を避ける生活習慣

治療中の頭皮は非常にデリケートです。洗髪の際は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗いましょう。

洗浄力の強すぎるシャンプーは避け、低刺激性のものを選ぶのがおすすめです。

また、パーマやカラーリングは頭皮に大きな負担をかけるため、症状が落ち着くまでは控えるほうが賢明です。

頭皮に優しい生活習慣

  • 低刺激シャンプーの使用
  • ゴシゴシこすらない洗髪
  • 紫外線対策(帽子や日傘)
  • パーマ・カラーリングを控える

心の健康を保つ工夫

脱毛という見た目の変化は、大きな精神的ストレスにつながります。

ストレスが直接の原因ではないとはいえ、心の健康状態が免疫バランスに影響を与える可能性は否定できません。

自分がリラックスできる時間(趣味、運動、入浴など)を意識的に作り、ストレスを溜め込まないように工夫すると、心と体の両面から回復をサポートできます。

円形脱毛症治療の期間と費用

治療を始めるにあたり、どれくらいの期間と費用がかかるのかは、誰もが気になるところではないでしょうか。

ここでは、治療期間の目安と、保険適用・自費診療における費用の考え方について解説します。

治療期間の目安

円形脱毛症の治療期間は、症状のタイプや重症度、治療法の効果などによって大きく異なります。

単発型で軽症の場合は、数ヶ月で改善が見られる方もいますが、多発型や全頭型では1年以上の長期的な治療が必要になるケースも珍しくありません。

一喜一憂せず、長期的な視点でじっくりと治療に取り組む心構えが重要です。

また、再発する可能性がありますので、症状が治ってからも生活習慣の改善やストレスケア、ヘアケアなどを続けていくと良いでしょう。

保険適用と自費診療の範囲

皮膚科で行われる多くの基本的な治療(ステロイド外用薬、液体窒素治療、一部の内服薬など)は、健康保険が適用されます。この場合、自己負担は医療費の1〜3割です。

一方で、局所免疫療法や一部の新しい治療薬、専門クリニックで行われる先進的な治療などは、保険適用外の自費診療となる場合があります。

治療開始前に、どの治療が保険適用で、どれが自費になるのかを明確に確認しておくことが大切です。

治療法ごとの費用比較

自費診療は全額自己負担となるため、高額になる傾向があります。

治療法を選択する際には、効果だけでなく費用面も十分に考慮し、継続可能な計画を立てることが必要です。

治療費用の目安(月額)

治療法保険の適用費用の目安(自己負担分)
ステロイド外用薬適用数百円~数千円
ステロイド局所注射適用数千円程度
局所免疫療法自費診療の場合が多い5,000円~15,000円程度

上記はあくまで一般的な目安であり、医療機関や治療範囲によって費用は異なります。

よくある質問(Q&A)

さいごに、円形脱毛症に関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
治療すれば必ず治りますか?
A

円形脱毛症は、多くのケースで治療により改善が期待できます。特に単発型の場合は、8割以上が1年以内に治癒するというデータもあります。

しかし、残念ながらすべての人が必ず治るとは断言できません。症状が広範囲に及ぶ場合や、アトピー素因が強い場合などは、治療が長期化したり、再発を繰り返したりすることもあります。

医師と相談しながら、根気強く治療を続けていきましょう。

Q
子供でも円形脱毛症になりますか?
A

お子さんでも発症します。小児の円形脱毛症も基本的な原因や治療法は大人と同じですが、治療法の選択にはより慎重な配慮が必要です。

例えば、痛みや刺激の強い治療は避けたり、副作用のリスクを十分に考慮したりします。

お子さんの将来のためにも、異変に気づいたら早めに皮膚科や小児科に相談してください。

Q
ウィッグや帽子を使っても大丈夫ですか?
A

問題ありません。むしろ、精神的な負担を軽減するために、ウィッグや帽子を上手に活用することは推奨されます。

ただし、長時間着用することで頭皮が蒸れてしまうと、かえって頭皮環境を悪化させる可能性があります。

通気性の良いものを選び、帰宅後や人のいない場所では外して頭皮を休ませるなど、清潔を保つ工夫をしましょう。

Q
治療中に髪を染めてもいいですか?
A

ヘアカラーやパーマの薬剤は頭皮への刺激が非常に強いため、治療中は避けるのが原則です。症状が改善し、医師から許可が出てから再開するようにしてください。

どうしても必要なときは、頭皮に薬剤がつかないように細心の注意を払ってくれる、経験豊富な美容師に相談するのがおすすめです。

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