AGA(男性型脱毛症)治療を検討する中で、「フィナステリド」という治療薬を知った方は多いでしょう。

このフィナステリドには0.2mgと1mgの用量が存在し、「どちらを選べばいいのか」「効果や副作用にどのような違いがあるのか」と疑問に思う方も少なくないようです。

この記事では、フィナステリド0.2mgと1mgの具体的な違いを、効果、副作用、費用など多角的な視点から詳しく解説します。

ご自身の状況に合った治療を選択するための、正確な知識を深めていきましょう。

目次

フィナステリドとは?AGA治療における基本的な役割

フィナステリドは、AGA治療において中心的な役割を担う内服薬です。その働きを理解することは、治療への第一歩です。

AGA(男性型脱毛症)の進行を止める働き

AGAは男性ホルモンの一種であるテストステロンが特定の酵素の働きによって、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されることで進行します。

このDHTが毛根の受容体と結びつくと髪の毛の成長期が短縮され、毛髪が細く弱々しくなり、最終的には抜け落ちてしまいます。

フィナステリドは、DHTの生成を抑制してAGAの進行を止め、抜け毛を防ぐ「守りの治療」として機能します。

5αリダクターゼとは何か

フィナステリドが作用する対象が、5αリダクターゼという還元酵素です。この酵素にはⅠ型とⅡ型の2種類が存在します。

特にAGAの進行に強く関与しているのは、頭頂部や前頭部の毛乳頭細胞に多く存在する「Ⅱ型5αリダクターゼ」です。

フィナステリドは、このⅡ型5αリダクターゼの働きを選択的に阻害します。

フィナステリドが阻害する酵素

酵素の種類主な分布場所AGAへの関与
Ⅰ型5αリダクターゼ全身の皮脂腺など低い
Ⅱ型5αリダクターゼ前頭部・頭頂部の毛乳頭高い

守りの治療薬としての位置づけ

AGA治療薬は、大きく「守りの治療薬」と「攻めの治療薬」に分けられます。フィナステリドは抜け毛の原因となるDHTを減らし、現状の毛髪を維持してヘアサイクルの乱れを正常化させる「守りの治療薬」です。

一方、発毛を直接促進するミノキシジルなどは「攻めの治療薬」と位置づけられます。

AGA治療では、まずフィナステリドで抜け毛を止め、必要に応じて攻めの治療を組み合わせるのが基本的な考え方です。

フィナステリド0.2mgと1mgの基本的な違い

同じフィナステリドでも、0.2mgと1mgには明確な違いがあります。これらの違いを正しく知ることが、治療選択の基礎となります。

有効成分の含有量の違い

最も基本的な違いは、1錠あたりに含まれる有効成分フィナステリドの量です。

1mg錠は0.2mg錠の5倍の有効成分を含んでいます。

この含有量の差が、効果や副作用の現れ方に影響を与える可能性があります。

用量ごとの基本情報

項目フィナステリド錠0.2mgフィナステリド錠1mg
有効成分量0.2mg1mg
国内承認ありあり

国内承認薬と海外の状況

日本では、AGA治療薬として「プロペシア」という名称で、0.2mgと1mgの両方の用量が厚生労働省から承認されています。

一方、海外では1mgが標準的な用量として広く用いられており、0.2mgという用量は日本独自の規格に近いものです。

この背景には、日本人における臨床試験の結果が関係しています。

処方される対象者の違い

医師は患者さんの薄毛の進行度や年齢、体質、そして副作用への懸念などを総合的に判断して用量を決定します。

一般的に、AGAの進行が軽度な場合や、副作用が心配な方には0.2mgから開始します。

一方で、より効果を期待する場合や、薄毛が進行している場合には1mgが選択される傾向にあります。

【効果の比較】0.2mgと1mgで発毛効果は本当に違うのか

患者さんが最も気になるのは、用量の違いによる効果の差でしょう。ここでは、科学的なデータに基づいてその違いを比較します。

国内臨床試験データから見る有効性

日本国内で行われた臨床試験では、フィナステリドを1年間投与した際の頭頂部の写真評価で、著明改善・中等度改善・軽度改善を合わせた改善率は、0.2mg投与群で54.2%、1mg投与群で58.3%という結果でした。

このデータを見ると、1mgの方がわずかに高い改善率を示していますが、0.2mgでも半数以上の方に改善が見られることが分かります。

国内臨床試験における改善率(1年間投与)

評価フィナステリド0.2mgフィナステリド1mg
改善(合計)54.2%58.3%
不変41.7%39.6%
悪化4.2%2.1%

DHT抑制率の差はどの程度か

フィナステリドの効果の根幹であるDHTの抑制率にも、用量による差が見られます。

データによると、0.2mgの服用で血中のDHT濃度が約55%抑制されるのに対し、1mgの服用では約70%抑制されると報告されています。

1mgの方が抑制率は高いですが、0.2mgでもAGAの進行を止めるには十分な抑制効果が期待できます。

効果を実感するまでの期間の違い

フィナステリドは、乱れたヘアサイクルを正常に戻すことで効果を発揮するため、実感を得るまでには時間がかかります。

一般的に、抜け毛の減少を実感するまでに約3ヶ月、明らかな改善効果を感じるまでには最低でも6ヶ月の継続服用が必要です。

用量による期間の明確な差は報告されていませんが、どちらの用量を選択するにしても、根気強く治療を続けることが重要です。

どちらの用量でも効果が見込めるケース

AGAの進行がまだ初期段階の方や、軽度の薄毛でお悩みの方の場合、0.2mgの服用でも十分に抜け毛の抑制効果を感じられるケースが多くあります。

まずは低用量から治療を開始し、効果の度合いを見ながら医師と相談して用量を調整していく、という方法も有効です。

【副作用の比較】用量によるリスクの違い

治療薬の効果とともに、副作用のリスクについても正しく理解しておく必要があります。用量の違いは、副作用の発現率にも影響します。

主な副作用の種類と発現率

フィナステリドの副作用として報告されているものには、性機能に関する症状や肝機能障害などがあります。

ただし、その頻度は決して高くはありません。

  • 性欲減退
  • 勃起機能不全(ED)
  • 射精障害
  • 肝機能障害

0.2mgと1mgの副作用発現率のデータ比較

国内の臨床試験データでは、副作用の発現率に用量による差が見られます。

1mg投与群での副作用発現率は4.0%であったのに対し、0.2mg投与群では1.1%と、より低い数値が報告されています。

そのため、用量が少ない方が副作用のリスクは低い傾向にあると言えます。

国内臨床試験における副作用発現率

項目フィナステリド0.2mgフィナステリド1mg
副作用発現率1.1% (91例中1例)4.0% (276例中11例)
主な症状リビドー減退リビドー減退、勃起機能不全など

副作用が心配な場合の対処法

副作用への懸念が強い方は、まず医師にその旨を正直に伝えることが大切です。

その上で、リスクの低い0.2mgから治療を開始したり、定期的な血液検査で肝機能などをチェックしたりすると、安心して治療を続けられます。

万が一、体調に異変を感じた場合は自己判断で服用を中止せず、速やかに処方を受けたクリニックに相談してください。

なぜ0.2mgという用量が存在するのか?処方の背景

海外では1mgが主流である中、なぜ日本では0.2mgという用量が承認され、処方されているのでしょうか。

その背景には、日本の医療が患者さんの心身の状態を細やかに考慮していることがあります。

日本人への有効性と安全性を考慮した結果

医薬品の開発では、人種による体格や代謝の違いを考慮する場合があります。

日本の臨床試験において、0.2mgでも日本人男性のAGAに対して十分な有効性が確認され、かつ1mgよりも安全性が高いという結果が得られました。

この科学的根拠に基づき、治療の選択肢として0.2mgという用量が設定されたのです。

副作用への懸念を最小限にしたいというニーズ

「薄毛は気になるけれど、薬を飲むのは怖い」「副作用が出たらどうしよう」といった不安は、多くの方が抱えるものです。

0.2mgという用量は、こうした患者さんの心理的なハードルを下げ、副作用のリスクをできるだけ抑えながら治療を始めたいというニーズに応えるための大切な選択肢です。

「まずは試してみたい」という患者さんの心理

AGA治療は初めてで、効果や副作用について半信半半疑という方もいらっしゃるでしょう。

そのような方にとって、いきなり標準的な用量で始めるよりも、「まずは負担の少ない低用量から試してみたい」と考えるのは自然なことです。

0.2mgは、治療への第一歩を踏み出しやすくするための入り口としての役割も担っています。

治療の継続しやすさを重視する考え方

AGA治療は、効果を維持するために長期的な継続が必要です。治療を続ける上で、経済的な負担や副作用への不安は大きな障壁になり得ます。

低用量の選択肢があると、これらの負担を軽減し、患者さんが無理なく安心して治療を継続していくことを可能にします。

この継続しやすさを重視する点も、0.2mgが存在する重要な理由です。

費用対効果で考えるフィナステリド治療の選択肢

長期的な治療となるAGA治療では、費用も重要な判断材料です。

用量の違いやジェネリック医薬品の選択が、コストにどう影響するかを見ていきましょう。

1ヶ月あたりの費用の目安

フィナステリドの費用は、先発医薬品(プロペシア)かジェネリック医薬品かによって大きく異なります。

自由診療のためクリニックによって価格は変動しますが、以下がおおよその目安です。

薬剤(28日分)ジェネリック医薬品先発医薬品(プロペシア)
フィナステリド 0.2mg約3,000円~5,000円約7,000円~9,000円
フィナステリド 1mg約3,000円~6,000円約8,000円~10,000円

長期的な治療で考えるトータルコスト

AGA治療は1年、2年と続く可能性があります。月々の費用の差は小さくても、長期間で見ると大きな金額の差になります。

ご自身の予算や治療計画に合わせて、無理なく続けられる費用帯の治療を選択することが、結果的に治療の成功につながります。

ジェネリック医薬品という選択

フィナステリドには、先発医薬品であるプロペシアの特許が切れた後に発売されたジェネリック医薬品(後発医薬品)が存在します。

ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同等の有効成分・効果でありながら開発費用が抑えられているため、より安価に処方を受けられます。

先発医薬品(プロペシア)ジェネリック医薬品
特徴最初に開発された薬先発品と同等の効果で安価
費用高い安い

費用を抑えたい場合は、ジェネリック医薬品を選択するのも賢明な方法です。

フィナステリドの服用で注意すべき点

フィナステリドを安全に、そして効果的に使用するためには、いくつかの注意点を守る必要があります。

服用を忘れた場合の対処

フィナステリドは1日1回の服用が基本です。

もし服用を忘れた場合でも、2回分を一度に飲むのは絶対に避けてください。飲み忘れに気づいた時間によって対処が異なります。

飲み忘れた際の対処法

気づいた時間対処法
飲み忘れから12時間以内気づいた時点ですぐに1回分を服用する
飲み忘れから12時間以上経過その日の分は服用せず、翌日の通常時間に1回分を服用する

女性や子供への注意喚起(特に妊婦)

フィナステリドは男性ホルモンに作用する薬のため、女性、特に妊娠中や授乳中、妊娠の可能性がある女性は服用してはいけません。男子胎児の生殖器に異常をきたす恐れがあります。

また、錠剤が割れて有効成分に触れるのも危険なため、女性や子供が薬剤に触れないよう、保管には厳重な注意が必要です。

  • 女性・小児は服用禁止
  • 薬剤をコーティングしているため、通常の扱いで有効成分に触れることはない
  • 割れた錠剤には触れない

献血に関する制限

フィナステリドを服用している期間中、および服用中止後1ヶ月間は、献血ができません。

フィナステリドの成分が含まれた血液が妊婦や女性に輸血されるのを防ぐためです。

治療を開始する際は、この点を念頭に置いておきましょう。

自分に合った用量の選び方と医師への相談

最終的にどの用量を選択するかは、医師との相談の上で決定することが最も重要です。自己判断はせず、専門家の診断を仰ぎましょう。

医師はどのように用量を判断するのか

医師は問診や視診、マイクロスコープでの頭皮チェックなどを通して、患者さんのAGAの進行度(ハミルトン・ノーウッド分類などを用いる)や頭皮の状態、既往歴や体質を総合的に評価します。

これらの客観的な情報と、患者さんが治療に何を期待しているか、副作用にどの程度の懸念を持っているかといった主観的な情報を踏まえて用量を提案します。

自身の薄毛の進行度と期待する効果

カウンセリングを受ける前に、ご自身の状態を客観的に把握しておくことも役立ちます。

「いつから薄毛が気になり始めたか」「どの部分が特に気になるか」「どのくらいの改善を望むか」などを整理しておくと、医師との対話がスムーズに進みます。

治療開始前のカウンセリングの重要性

AGA治療は、薬を飲むだけで終わるものではありません。

治療の目標を医師と共有し、効果やリスク、費用について十分に納得した上で開始することが満足のいく結果につながります。

疑問や不安な点はどんな些細なことでもカウンセリングの場で質問し、解消しておきましょう。信頼できる医師と二人三脚で治療を進めていくことが大切です。

フィナステリドに関するよくある質問(Q&A)

さいごに、フィナステリドに関して患者さんから多く寄せられる質問にお答えします。

Q
効果がない場合、用量を増やせばよいですか?
A

単純に用量を増やせば良いという問題ではありませんので、自己判断で用量を増やすのはやめましょう。

フィナステリドの効果判定には最低でも6ヶ月かかります。

効果が見られない場合、フィナステリドが合わない体質である可能性や、他の原因による脱毛症の可能性も考えられます。

まずは処方を受けた医師に相談し、原因を特定した上で、治療方針を再検討する必要があります。

Q
飲酒や食事の影響はありますか?
A

フィナステリドの服用に関して、基本的に食事の影響はありませんので、食前・食後いつでも服用できます。毎日決まった時間に飲む習慣をつけると良いでしょう。

飲酒に関しては適量であれば問題ないとされていますが、フィナステリドは肝臓で代謝されるため、過度な飲酒は肝臓に負担をかける可能性があります。

肝機能の低下は副作用のリスクを高めることにもつながるため、休肝日を設けるなど、節度ある飲酒を心がけましょう。

Q
途中で服用をやめるとどうなりますか?
A

フィナステリドはAGAの進行を抑制する薬です。服用を中止すると抑制されていたDHTが再び生成され始め、AGAが再度進行してしまいます。

効果を維持するためには、継続的な服用が必要です。服用中止後、数ヶ月から1年ほどで治療前の状態に戻ってしまう可能性があります。

Q
初期脱毛は起こりますか?
A

フィナステリドの服用開始後1ヶ月前後で、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」が起こる場合があります。

これは、乱れていたヘアサイクルが正常化する過程で、休止期にあった古い髪が新しく成長してきた髪に押し出されるために起こる好転反応です。

通常は1〜3ヶ月程度で収まりますので、心配せずに服用を続けてください。

参考文献

ARCA, Ercan, et al. An open, randomized, comparative study of oral finasteride and 5% topical minoxidil in male androgenetic alopecia. Dermatology, 2004, 209.2: 117-125.

KHANDPUR, Sujay; SUMAN, Mansi; REDDY, Belum Sivanagi. Comparative efficacy of various treatment regimens for androgenetic alopecia in men. The Journal of dermatology, 2002, 29.8: 489-498.

ROSSI, Alfredo, et al. Comparitive effectiveness and finasteride vs serenoa repens in male androgenetic alopecia: a two-year study. International Journal of Immunopathology and Pharmacology, 2012, 25.4: 1167-1173.

GUPTA, Aditya K., et al. Relative efficacy of minoxidil and the 5-α reductase inhibitors in androgenetic alopecia treatment of male patients: a network meta-analysis. JAMA dermatology, 2022, 158.3: 266-274.

ROSSI, Alfredo, et al. Finasteride, 1 mg daily administration on male androgenetic alopecia in different age groups: 10‐year follow‐up. Dermatologic therapy, 2011, 24.4: 455-461.

GUPTA, Aditya K.; TALUKDER, Mesbah; WILLIAMS, Greg. Comparison of oral minoxidil, finasteride, and dutasteride for treating androgenetic alopecia. Journal of Dermatological Treatment, 2022, 33.7: 2946-2962.

GUPTA, Aditya K., et al. Efficacy of non‐surgical treatments for androgenetic alopecia: a systematic review and network meta‐analysis. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2018, 32.12: 2112-2125.

RAI, Priyam Bhaskar, et al. Comparing the therapeutic efficacy of topical minoxidil and finasteride with topical minoxidil and oral finasteride in androgenetic alopecia: a randomized trial. Int J Res Dermatol, 2018, 4.3: 386-390.