このページでは、遺伝が原因で起こる薄毛に悩む方へ向けて、治療の選択肢や予防策をわかりやすく解説します。

遺伝による脱毛をまったく改善できないと考える方もいるかもしれませんが、内服薬や外用薬、施術など多角的な方法で改善を目指すことが可能です。専門医のもとで相談し、原因を特定しながら自分に合った治療計を選択しましょう。

遺伝性の薄毛の基礎知識

遺伝が関わる薄毛は多くの方にとって身近な問題でありながら、正確なメカニズムや予防策が十分に知られていない場合があります。

まずは遺伝と髪の関係性、その特徴を確認すると、治療やケアについて考えやすくなります。

遺伝による薄毛の特徴

遺伝が要因となる薄毛は、頭頂部や生え際から進行しやすいと言われています。

男性の場合は額の生え際が後退していき、女性の場合は頭頂部のボリュームが少しずつ減っていくケースが多く見られます。

ただし、個人差が大きく、一概にすべて同じパターンで進行するわけではありません。

遺伝性薄毛と他の薄毛の違い

比較項目遺伝性が関わる薄毛その他の薄毛(例:円形脱毛など)
主な原因ホルモンバランスや遺伝自己免疫・ストレス・栄養不足など
進行パターン生え際や頭頂部から徐々に進行急激に一定範囲が脱毛する場合が多い
性差男性に多いが女性にも起こる円形脱毛などは男女問わず起こる
治療・改善の方法内服薬・外用薬が中心、施術を併用原因対策と局所治療が中心

遺伝が関わる薄毛は本当に治るのか

遺伝によって引き起こされる脱毛は、完全に元通りにすることが難しいと言われるときもあります。

しかし、適切な治療を行えば、髪の状態の維持やある程度の改善を期待できます。医師による正確な診断のもとで、自分に合った方法を選ぶと良いでしょう。

早期発見と対策の重要性

遺伝性による薄毛は、進行が緩やかなケースが多い反面、気づいたときにはかなり髪が細くなっているケースも少なくありません。

早い段階で手を打つと、毛髪の育成をサポートしやすくなります。

自己判断によるリスク

インターネット上には多種多様な情報があふれており、独断でケアを始める方もいます。

しかし、間違ったケアや治療法を選ぶと、逆に頭皮環境が悪化するリスクが高まります。専門の医療機関で相談しながら対策を始めることが大切です。

遺伝が原因の薄毛が進むメカニズム

ここでは、遺伝がどのように毛髪のサイクルに影響を与えて薄毛を進行させるのかを詳しく見ていきます。原因を理解すれば、治療や予防策を計画する際にも役立ちます。

毛周期とホルモンの関わり

髪の毛は「成長期」「退行期」「休止期」と呼ばれるサイクルを繰り返しながら伸びたり抜けたりします。このサイクルが乱れると、十分に育たないまま脱毛してしまうケースが増えます。

遺伝が関わる薄毛では、男性ホルモンの一部が毛根に影響を与え、髪が細く短くなるのが特徴です。

毛周期期間の目安主な特徴
成長期約2〜6年毛髪が活発に伸びる
退行期約2〜3週間毛根が徐々に縮小し、成長が鈍化
休止期約3〜4か月成長が止まり、抜け落ちる準備が整う

遺伝とDHTの関連

AGA(男性型脱毛症)の主たる原因とされるDHT(ジヒドロテストステロン)は、テストステロンが5αリダクターゼと結びついて変換されることで生成します。

遺伝によって5αリダクターゼの活性が高い体質を受け継いでいる場合、DHTの影響を受けやすくなり、薄毛の進行が早まりやすいと言われています。

女性の場合に起こる特徴的な変化

女性の場合も男性ホルモンは少量ながら存在し、ホルモンバランスの乱れや加齢によって毛周期が短縮すると考えられています。

また、女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって髪のツヤやコシが失われやすくなり、遺伝が要因の場合はより顕著な脱毛が生じるケースもあります。

男性と女性の薄毛の進行パターン

性別主な進行エリア進行速度ホルモンバランスとの関連
男性M字型(前頭部)、頭頂部比較的早い5αリダクターゼの活性が高まる場合が多い
女性頭頂部全体緩やか女性ホルモンの減少や加齢による影響

遺伝要因以外にもある複合的な要素

遺伝的に脱毛しやすい体質を持っていても、生活習慣やストレス、栄養状態などが関係する場合もあります。

遺伝要因だけに注目するのではなく、複数の視点から原因を探ることが改善への近道です。

  • 睡眠不足が慢性化している
  • 過度なダイエットで栄養が偏っている
  • ストレスや喫煙などで血行が悪くなっている
  • 紫外線ダメージや合わないヘアケア製品の使用

遺伝が関連する薄毛の診断

遺伝性の脱毛が疑われる場合、クリニックでの診断を通じて原因を特定することが大切です。

ここでは、受診時に行う検査や問診など診断方法について解説します。

カウンセリングと問診

医師が患者さんの家族構成や親族の薄毛歴を把握しながら、生活習慣や現在の悩みを詳細に聞き取ります。薄毛の進行状況や気になり始めた時期を確認すると、遺伝的な要因かどうかを推測しやすくなります。

カウンセリングのポイント

チェック項目内容
家族構成両親や祖父母に薄毛があるか
食生活・睡眠習慣バランスの取れた食事や十分な睡眠がとれているか
ストレス状況職場や家庭環境など、精神的負担が大きいか
ヘアケアやスタイリング過度に頭皮を刺激するケアをしていないか

触診と視診

専門医が、頭皮の硬さや毛髪の太さなどを実際に目と手で確認します。生え際や頭頂部の状態を観察し、脱毛が進むパターンを調べて、遺伝性かどうかの見極めに活用します。

マイクロスコープ検査

マイクロスコープや拡大鏡で毛穴や毛根の状態を確認すると、毛髪の細さや地肌の血流状況などがわかりやすくなります。初期段階の変化を捉えやすいため、早期にケアを始める目安としても役立ちます。

血液検査とホルモンバランスのチェック

AGAを含む遺伝性が要因の薄毛では、ホルモンバランスが深く関わっています。血液検査によって男性ホルモンや女性ホルモンの量、甲状腺ホルモンなどを測定し、脱毛の原因を分析します。

  • ホルモン値の異常がないか
  • 栄養状態(貧血、タンパク質不足など)
  • 肝機能や腎機能などの全身状態

遺伝による脱毛に対する治療薬

遺伝が関係する薄毛では、内服薬がよく選ばれます。ここでは代表的な治療薬を詳しく見ていきましょう。

フィナステリド系薬剤

フィナステリド系の薬剤は、5αリダクターゼの働きを抑えてDHTの産生を減らす効果が期待されています。男性の薄毛治療で処方されるケースが多く、連続して服用することで発毛や抜け毛予防が見込まれます。

項目内容
作用機序5αリダクターゼの抑制
服用期間の目安半年〜1年程度継続
主な副作用性欲減退、肝機能への影響など
注意点女性は使用できない場合が多い

デュタステリド系薬剤

デュタステリドは5αリダクターゼのタイプ1とタイプ2の両方を抑える可能性があると報告されています。フィナステリドで効果が感じられない場合、医師が判断して処方するケースがあります。

女性向けのホルモン療法

女性の遺伝性薄毛の場合、ホルモンバランスを整える薬剤が使われることがあります。低用量ピルなどを処方する場合もあり、医師が個別の状況を見極めながら検討します。

内服療法を継続するメリットと注意点

内服療法は飲み続けることで一定の効果を得やすい反面、中止すると薄毛が再び進行する可能性があります。副作用について定期的に検査を受け、医師と相談しながら継続の有無を判断することが重要です。

  • 途中でやめると効果が失われやすい
  • 肝機能への負担をチェックする必要がある
  • 女性や未成年者の場合は対象外とされる薬がある

外用薬や施術による働きかけ

内服薬だけでは十分な効果を得られない場合や、より総合的な取り組みを望む方に向けて、外用薬や各種施術なども組み合わせることがあります。

ミノキシジル外用薬

外用薬の代表格としてミノキシジルが挙げられます。頭皮の血行を促進する作用が期待され、特に初期の段階で使用すると髪のコシやハリが改善しやすいと言われています。

ミノキシジル製品の比較

製品タイプ濃度の例使用回数主なメリット
ローションタイプ5%前後1日2回部分的に塗布しやすい
フォームタイプ5〜7%1日1回〜2回べたつきが少なく、使用感がさっぱり

低出力レーザー治療

クリニックやサロンで行うことが多く、レーザーの照射により頭皮の血流改善や毛母細胞の活性化を促す狙いがあります。痛みが少なく、比較的気軽に受けやすいとされていますが、複数回の施術が必要です。

メソセラピー

薬剤や栄養成分を注入し、毛根部へ直接働きかける方法です。遺伝性の薄毛でも、血流改善や栄養供給をサポートして毛髪の成長を促します。

ただし、注入時にわずかに痛みが生じる場合があるため、医師とよく相談しましょう。

その他の施術との組み合わせ

外用薬と内服薬に加え、頭皮マッサージや頭皮環境を整えるシャンプー、サプリメントの併用も行われます。複数の手法を組み合わせると、より効果を実感しやすいです。

  • 内服+外用+施術を組み合わせる
  • 栄養面を補うサプリの摂取
  • 刺激の少ないシャンプーや育毛剤を使用する

生活習慣とセルフケアの工夫

遺伝が大きく影響するとしても、生活習慣を整えると髪にとって良い環境を作りやすくなります。

バランスの取れた食事

髪はタンパク質から構成されるため、十分なタンパク質とビタミン・ミネラルを摂取することが欠かせません。魚や肉、大豆製品、卵などを積極的に取り入れると、髪や頭皮の健康を維持しやすくなります。

髪に良い栄養素と食品

栄養素含まれる主な食品髪への働き
タンパク質肉、魚、卵、大豆製品髪の主要成分を形成
ビタミンB群レバー、豚肉、納豆毛母細胞の代謝をサポート
亜鉛牡蠣、牛肉、ナッツ類髪の成長に必要な酵素を助ける
鉄分赤身肉、ほうれん草、貝類血液中の酸素運搬を改善

適度な運動とストレス解消

血行が悪化すると毛根への栄養供給が滞りやすくなります。ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は全身の血流を促進し、ストレスも緩和しやすいため、定期的に取り組むと良いでしょう。

  • 軽いジョギングやウォーキング
  • ヨガやストレッチでリラックス
  • 趣味やレジャーを設けてストレスを軽減する

良質な睡眠

髪の成長は夜間の成長ホルモンの分泌と関係があると言われています。十分な睡眠時間を確保すると、体の修復や回復が促され、頭皮や髪にも良い影響を与えます。

頭皮環境を整えるヘアケア

過度な洗浄力の強いシャンプーや、高温でのドライヤー使用は頭皮を傷める要因になります。適度な温度のぬるま湯で優しく洗い、頭皮の汚れを落としながら潤いを保つことを意識してください。

頭皮ケアのポイント

  • シャンプー前にブラッシングを行い、髪のもつれや汚れを落とす
  • 頭皮を爪ではなく指の腹でマッサージしながら洗う
  • ドライヤーは地肌から離して風を当てる
  • ワックスやスプレーなどの整髪料はしっかり洗い流す

専門クリニックで行う総合的な治療

遺伝が原因の薄毛でも、専門の医療機関で総合的なプランを立てると、より効果的な改善を狙えます。

医師とのカウンセリングとプラン作成

初診時にカウンセリングと問診を行い、遺伝的要因や生活習慣を踏まえてオーダーメイドの治療プランを作ります。

内服薬や外用薬の処方に加えて、必要に応じて施術を組み合わせる方針を立てるため、一括して相談できます。

定期的なフォローアップ

薄毛治療は長期戦となることが多いため、定期的にクリニックに通って頭皮と毛髪の状態をチェックします。医師と相談しながら治療薬の効果や副作用の有無を評価し、必要に応じて治療内容を微調整します。

治療スケジュール

通院時期主な内容
初診〜1か月カウンセリング、検査、治療方針の決定
2〜3か月内服薬・外用薬の効果判定、副作用の確認
4〜6か月毛髪や頭皮の状態チェック、追加施術の検討
6か月以降改善度合いを見ながら方針を調整

クリニック選びのポイント

医師がしっかりとカウンセリングを行い、不安や疑問に丁寧に答えてくれるかどうかが大切です。実際の治療実績や口コミなどを参考に、納得のいく医療機関を選んでください。

  • 医師の専門性(毛髪や頭皮に詳しいか)
  • 最新機器や多様な施術の有無
  • 通いやすさ(アクセスや費用面など)

よくある質問

最後に、遺伝が原因で起こる薄毛について患者さんからよく寄せられる疑問と、それに対する回答をまとめました。

遺伝による薄毛は何歳頃から進行しますか?

個人差がありますが、男性の場合は20〜30代から生え際や頭頂部の変化に気づく人が多いです。女性の場合も30〜40代で頭頂部のボリュームが減ってくるケースが見られます。

家系に薄毛の人がいる方は、若いうちから予防的なケアを始めておくと良いでしょう。

内服薬と外用薬は併用すべきでしょうか?

併用すると相乗効果を期待できるケースがあります。内服薬は体内からDHTの生成を抑える一方、外用薬は頭皮環境をダイレクトに整えます。

ただし、体質や副作用リスクを考慮して、医師の指示に従うようにしましょう。

一度抜け落ちてしまった髪は完全に元に戻せますか?

遺伝性による脱毛は毛根が弱ってしまうと、完全に元に戻すのが難しい場合もあります。

しかし、適切な治療で毛髪の太さや量を増やす可能性があります。早期に治療を始めるほど、改善の見込みは高まります。

女性が自力でできる対策はありますか?

女性はホルモンバランスの乱れも関係しやすいため、まずは食生活や睡眠習慣の見直しが大事です。

適度な運動や頭皮マッサージ、育毛シャンプーなどを継続すると、髪が抜けにくくなる可能性があります。進行が気になる場合は専門医への相談を検討するとよいでしょう。

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