薄毛や抜け毛に悩み、「はげを改善したい」と考えるとき、毎日の食事が髪の健康に深く関わっていることをご存知でしょうか。

この記事では、髪の成長に必要な栄養素や、はげ改善をサポートする食品、そして食事に関するよくある誤解について解説します。

バランスの取れた食事を心がけ、体の内側から健やかな髪を育むためのポイントを確認しましょう。

はげと食事の基本的な関係性

髪の毛も体の一部であり、日々の食事から摂取する栄養素によって作られます。

そのため、食生活の内容は髪の健康状態、ひいては薄毛の進行に影響を与える可能性があります。

栄養バランスの重要性

特定の栄養素だけを摂取するのではなく、多様な食品からバランス良く栄養を摂ることが重要です。

髪は主にタンパク質で構成されていますが、その合成にはビタミンやミネラルなど、さまざまな栄養素が関与しています。

これらの栄養素が一つでも不足すると、健康な髪の成長サイクルが乱れる原因となり得ます。

食生活の乱れが与える影響

偏った食事や過度なダイエット、不規則な食事時間などは、栄養不足や栄養バランスの偏りを招きます。

外食や加工食品に頼りがちな食生活は、脂質や糖質の過剰摂取、ビタミン・ミネラルの不足にとくにつながりやすく、頭皮環境の悪化や髪の成長阻害を招く可能性があります。

食生活の乱れによる影響

乱れた食習慣考えられる影響対策の方向性
脂質の過剰摂取皮脂の過剰分泌、頭皮環境の悪化揚げ物や脂身の多い肉を控える
糖質の過剰摂取血行不良、髪への栄養供給低下甘い物や精製された炭水化物を控える
過度なダイエットタンパク質、ビタミン、ミネラル不足必要な栄養素を確保する

体の内側からのケア

育毛剤やシャンプーといった外からのケアも大切ですが、根本的なはげ改善を目指すには食事による内側からの働きかけが必要です。

健康な土壌(=体)があってこそ、豊かな作物(=髪)が育つのと同じです。

毎日の食事が、未来の髪を作る基盤となります。

髪の成長に必要な主要栄養素

健康な髪を育むためには、特に重要な役割を果たす栄養素があります。これらを意識的に摂取することが、はげ改善に向けた食事の第一歩です。

タンパク質|髪の主成分

髪の毛の約90%は「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、良質なタンパク質の摂取は、強くしなやかな髪を作るために必要です。

肉や魚、卵や大豆製品、乳製品などから毎食適量を摂取するよう心がけましょう。

タンパク質を多く含む食品

食品カテゴリ主な食品例ポイント
肉類鶏むね肉、ささみ、赤身肉脂質の少ない部位を選ぶ
魚介類アジ、サバ、鮭、エビ青魚は良質な脂質も豊富
大豆製品豆腐、納豆、豆乳植物性タンパク質の良い供給源
卵・乳製品鶏卵、牛乳、ヨーグルトビタミンやミネラルも含む

ビタミン|各種ビタミンの役割

ビタミンはタンパク質の代謝を助けたり、頭皮の健康を維持したりするなど、髪の成長を間接的にサポートします。

なかでもビタミンB群やビタミンC、ビタミンEなどが重要です。

髪の健康に関わるビタミン

ビタミン主な働き多く含む食品例
ビタミンB2細胞の再生、皮脂分泌の調整レバー、うなぎ、卵、納豆
ビタミンB6タンパク質の代謝促進マグロ、カツオ、バナナ、鶏肉
ビタミンCコラーゲン生成、抗酸化作用パプリカ、ブロッコリー、キウイ
ビタミンE血行促進、抗酸化作用アーモンド、アボカド、植物油

ミネラル|特に亜鉛と鉄

ミネラルも髪の健康維持に欠かせません。

特に亜鉛は髪の主成分であるケラチンの合成に、鉄は髪へ栄養を運ぶ血液(ヘモグロビン)の生成に必要です。

髪の健康に関わるミネラル

  • 亜鉛
  • セレン

亜鉛がはげ改善に注目される理由

ミネラルの中でも、特に「亜鉛」ははげ改善との関連で注目されています。

はげと亜鉛にどのような関係があるのか気になっている方も多いように、その重要性が認識されつつあります。

亜鉛の育毛における機能

亜鉛は、髪の主成分であるケラチンを合成する際に重要な役割を果たします。

また、細胞分裂や新陳代謝を活発にする働きもあり、毛母細胞が分裂して髪が成長する過程をサポートします。

さらに、AGA(男性型脱毛症)の原因物質の一つとされるDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制する可能性も研究されています。

亜鉛不足のサイン

亜鉛が不足すると髪の成長が滞るだけでなく、抜け毛が増えたり、髪質が悪化したりする場合があります。

他にも味覚障害や皮膚炎、免疫力の低下なども亜鉛不足のサインとして現れることがあります。

亜鉛を多く含む食品

亜鉛は体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。

特に牡蠣(かき)に豊富に含まれるほか、レバーや牛肉(赤身)、チーズやナッツ類などにも含まれています。

食品特徴摂取のポイント
牡蠣亜鉛含有量が非常に多い加熱しても良い、食べ過ぎに注意
レバー(豚・鶏)鉄分も豊富ビタミンA過剰に注意
牛肉(赤身)タンパク質も豊富脂身の少ない部位を選ぶ
ナッツ類(カシューナッツ等)ビタミンEなども含む塩分・油分不使用のものを選ぶ

亜鉛摂取の注意点

亜鉛は重要ですが、過剰摂取は銅の吸収を妨げるなど、他の栄養素のバランスを崩す可能性があります。

サプリメントを利用する際は、推奨される摂取量を守ることが大切です。

また、亜鉛の吸収はビタミンCや動物性タンパク質と一緒に摂ると高まります。

はげ改善をサポートする食品群

特定の栄養素だけでなく、さまざまな食品を組み合わせることが大切です。

ここでは、はげ改善の観点から積極的に取り入れたい食品群を紹介します。

緑黄色野菜と果物

ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。

β-カロテン(ビタミンA)やビタミンC、ビタミンEなどは抗酸化作用を持ち、頭皮の老化を防いで健康な状態を保つのに役立ちます。

色の濃い野菜(ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、パプリカなど)や、季節の果物を積極的に摂りましょう。

大豆製品|イソフラボンの力

豆腐や納豆、豆乳などの大豆製品に含まれる「大豆イソフラボン」は、女性ホルモン(エストロゲン)に似た構造を持ち、AGAの原因とされるDHTの働きを抑制する効果が期待されています。

また、良質な植物性タンパク質の供給源でもあります。

積極的に摂りたい大豆製品

  • 豆腐(冷奴、湯豆腐、味噌汁の具など)
  • 納豆
  • 豆乳
  • きな粉

青魚|EPA・DHAの効果

サバやイワシ、サンマなどの青魚には、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれています。

これらは血液をサラサラにして血行を促進する効果が期待でき、頭皮への栄養供給をスムーズにする助けとなります。

青魚の簡単な取り入れ方

調理法ポイント
焼き魚シンプルな調理法サバの塩焼き、サンマの塩焼き
煮魚骨まで食べられることもイワシの生姜煮
缶詰手軽に利用可能サバ缶、イワシ缶

ナッツ類と種子類

アーモンド、くるみ、カシューナッツといったナッツ類や、かぼちゃの種やひまわりの種などには、亜鉛やビタミンE、良質な脂質が含まれています。

ただし、カロリーが高めなので、間食として少量(手のひらに軽く一杯程度)を目安に摂るのが良いでしょう。

無塩・素焼きのものを選ぶのがおすすめです。

食事だけでは不十分?生活習慣全体の見直し

はげ改善のためには食事だけでなく、生活習慣全体の見直しも重要です。髪の健康は、体全体の健康状態を反映しています。

ストレスと髪の関係

過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて血行不良を引き起こすことがあります。

これにより、頭皮への栄養供給が滞り、抜け毛や薄毛の原因となる可能性があります。

趣味の時間を持つ、リラックスできる環境を作るなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。

睡眠の質と量

髪の成長には成長ホルモンが関与しており、このホルモンは主に睡眠中に分泌されます。

質の高い睡眠を十分にとる工夫は、髪の成長サイクルを正常に保つために必要です。

寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を控えるなど、睡眠環境を整えましょう。

睡眠の質を高める工夫

  • 毎日同じ時間に寝起きする
  • 寝る前にリラックスする時間を作る(入浴、軽いストレッチなど)
  • 寝室の温度や湿度、明るさを調整する

運動習慣のメリット

適度な運動は血行を促進し、全身への栄養供給を高めます。また、ストレス解消や睡眠の質の向上にもつながります。

ウォーキングやジョギング、軽い筋力トレーニングなど、無理なく続けられる運動を習慣にすることをおすすめします。

喫煙・過度な飲酒のリスク

喫煙は血管を収縮させ、血行を悪化させます。これにより、髪に必要な栄養素が頭皮まで届きにくくなります。

また、過度な飲酒は肝臓に負担をかけ、髪の成長に必要なタンパク質の合成を妨げる可能性があります。

はげ改善を目指すなら、禁煙や節度ある飲酒を心がけるのが望ましいです。

はげ改善のための食事療法の誤解と真実

「これを食べれば髪が生える」といった情報に惑わされず、正しい知識を持つことが大切です。

特定の食品だけ食べれば治る?

残念ながら、「これさえ食べればはげが治る」という魔法のような食品は存在しません。

わかめや昆布などの海藻類が髪に良いという話は有名ですが、それだけを大量に食べても効果は限定的です。

重要なのは、特定の食品に偏るのではなく、多様な食品からバランス良く栄養を摂取することです。

サプリメントへの過度な期待

亜鉛や各種ビタミンなど、髪に良いとされる栄養素のサプリメントは多く販売されています。

食事で不足しがちな栄養素を補う目的で利用するのは有効な場合がありますが、サプリメントだけで髪が生えるわけではありません。

あくまで食事の補助として考え、過剰摂取にならないよう注意が必要です。

サプリメント利用の考え方

メリット注意点
不足しがちな栄養素を手軽に補える過剰摂取のリスクがある
食事改善が難しい場合の補助になる根本的な食生活の見直しが優先
特定の栄養素を集中的に摂れる効果には個人差がある

食事改善は「補助」であるという認識

食事は髪の健康を支える重要な要素ですが、AGA(男性型脱毛症)のような特定の原因による薄毛の場合、食事改善だけで顕著な改善を得るのは難しいときがあります。

食事はあくまで健康な髪を育むための「土台作り」であり、必要に応じて専門的な治療との組み合わせが、はげ改善への近道となるケースが多いです。

自己判断せず専門家へ相談

はげの原因はさまざまであり、自己判断で食事療法だけを行っても期待する効果が得られないケースも多いです。

薄毛が気になる場合は、まず専門のクリニックで診察を受け、原因を特定することが重要です。

その上で、医師や管理栄養士のアドバイスに基づいた適切な食事指導を受けると良いでしょう。

バランスの取れた食事メニュー例

具体的にどのような食事を心がければ良いのか、一日の食事メニュー例を参考に考えてみましょう。

完璧を目指す必要はありませんが、日々の食事選択のヒントにしてください。

朝食のアイデア

一日の活動エネルギーを補給し、代謝をスタートさせる重要な食事です。

タンパク質やビタミン、ミネラルをバランス良く摂ることを意識しましょう。

朝食メニュー例

主食主菜副菜・その他
ごはん納豆、焼き鮭味噌汁(豆腐、わかめ)、ほうれん草のおひたし
全粒粉パンスクランブルエッグ(卵)ヨーグルト(無糖)、サラダ(レタス、トマト)、フルーツ(キウイなど)

昼食のポイント

外食やコンビニ食が多くなりがちな昼食ですが、選び方次第で栄養バランスを整えられます。

定食スタイルのものを選んだり、単品の場合はサラダやスープを追加したりする工夫をしましょう。

外食・中食での選択ポイント

  • 定食(主食・主菜・副菜が揃っているもの)を選ぶ
  • 丼ものや麺類の場合は、野菜やタンパク質を意識して追加する(例:野菜トッピング、卵)
  • 揚げ物中心のメニューは避ける

夕食で意識したいこと

一日の栄養バランスを調整する食事です。タンパク質や野菜をしっかり摂り、炭水化物は控えめにするのがおすすめです。

就寝直前の食事は避け、寝る3時間前までには済ませるようにしましょう。

夕食メニュー例

主菜副菜汁物
鶏むね肉の蒸し焼き温野菜サラダ(ブロッコリー、パプリカ)、ひじきの煮物きのこのスープ
豆腐ハンバーグ小松菜と油揚げの煮びたし、冷奴わかめと豆腐の味噌汁

よくある質問

さいごに、食事とはげ改善に関して、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
食事改善でどれくらいではげは改善しますか?
A

食事改善の効果が現れるまでの期間や程度には個人差があります。

髪の毛には成長サイクル(ヘアサイクル)があり、新しい髪が成長して目に見える変化として実感できるまでには、最低でも3ヶ月から半年程度の期間が必要です。

また、薄毛の原因や進行度によっても効果は異なります。

食事改善はあくまで髪が育ちやすい環境を整えるためのものであり、AGAなど医学的な治療が必要な場合は、食事だけで顕著な改善を得るのは難しいケースが多いです。

Q
好き嫌いが多いのですが、どうすれば良いですか?
A

無理に苦手なものを食べる必要はありませんが、栄養バランスが偏らないように工夫することが大切です。

例えば、特定の野菜が苦手なら、他の野菜や果物でビタミン・ミネラルを補う、肉が苦手なら魚や大豆製品、卵でタンパク質を摂るなど、代替できる食品を探してみましょう。

さまざまな食品を少しずつ試してみるのも良いかもしれません。どうしても栄養バランスが気になる場合は、管理栄養士に相談するのも一つの方法です。

Q
外食が多い場合の注意点は?
A

外食は一般的に塩分や脂質、糖質が多くなりがちです。メニューを選ぶ際は、野菜が多く使われているか、揚げ物や濃い味付けのものが多くないかなどを意識しましょう。

定食スタイルを選びご飯の量を調整する、丼ものや麺類の場合は単品で済ませずサラダや小鉢を追加するなどの工夫が有効です。

可能であれば、栄養成分表示を確認する習慣をつけると良いでしょう。

Q
プロテインを飲むのは髪に良いですか?
A

プロテインはタンパク質を手軽に補給できるため、食事からのタンパク質摂取が不足しがちな場合には有効な場合があります。

髪の主成分はタンパク質なので、その材料補給という意味では役立ちます。

ただし、プロテインを飲めば直接髪が生えるわけではありません。あくまでバランスの取れた食事の一部として考え、過剰摂取は避けましょう。

他の栄養素(ビタミン、ミネラルなど)もバランス良く摂取することが重要です。

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