薄毛や抜け毛に悩む方の中には、生え際が後退し額の両サイドがアルファベットのMのように見える「M字はげ」の症状を気にかけている方も多いのではないでしょうか。

M字の症状は男性型脱毛症(AGA)の一部として進行する場合が多く、早い段階から原因や治療法を理解しておくことが大切です。

ここでは、M字型の症状を特徴や進行度合いごとに解説し、具体的な治療方法や日常生活で気をつけたいポイントなどを詳しくまとめます。

M字はげとは?

M字型の生え際は、男性型脱毛症の典型的な初期症状のひとつです。

生え際が後退しやすい方に多くみられ、前頭部の両サイドがとくに目立つことで、「M字はげ」と呼ばれています。

M字はげの形状と特徴

M字状に生え際が後退する方の多くは、左右の額の角が斜め後方に向かって薄くなりやすい傾向があります。

全体的に髪が薄くなるのではなく、前頭部の両端から中心に向かってじわじわと広がるのが特徴です。とくに下記の点がよくみられます。

  • シャンプー時やドライヤーをかけたあと、生え際に産毛が目立ち、以前より細く弱々しくなる
  • 額が広くなったと感じるタイミングがある
  • おでこ周りの皮膚が見えやすくなり、髪をかき上げたときに形がM状に見える

M字はげの進行パターン

進行パターン特徴対応の目安
早期生え際のやや後退、産毛の弱体化生活習慣や頭皮ケアの見直しを始める
中期額の形が明確にM字状になり抜け毛が増加専門医療機関での相談や内服薬の検討が重要
進行期前頭部全体からさらに広範囲へ脱毛が広がる複数の治療法を組み合わせての積極的な対処

男性型脱毛症(AGA)との関連

M字はげは男性型脱毛症の代表的な型の一つといわれています。

男性ホルモンの代謝産物であるジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に影響し、成長期を短縮させることが主な原因です。とくに前頭部と頭頂部の毛根がこのホルモンの影響を受けやすいことがわかっています。

AGAの進行パターンの中でも、生え際の後退が先行するタイプは比較的若い年代から発症する場合があり、早めの対策を考える方が多いです。

年齢や性別との関係

M字はげは男性に多いものの、女性にも発生しないわけではありません。ただし女性の場合は、全体的に髪が薄くなりやすいタイプや頭頂部から拡がるタイプが多く、M字型になるケースは男性ほど多くありません。

男性は思春期以降に男性ホルモンの分泌が活発になり、20代後半から30代前半くらいで生え際が後退しはじめる方が目立ちます。年齢を重ねるにつれ、少しずつ進行するというケースが一般的です。

M字はげが進行する背景

M字はげが生じる背景には、男性ホルモンや遺伝など、さまざまな要因が関与します。

とくにDHTを筆頭とするホルモンの働きや遺伝的素因の強さが大きく影響すると考えられています。

DHT(ジヒドロテストステロン)の関与

男性ホルモンの一種であるテストステロンが還元酵素(5αリダクターゼ)の作用によってDHTへ変換されると、毛母細胞の活動を抑制してしまいます。

前頭部や頭頂部の毛根はDHTを受けやすい性質があり、その結果としてM字部分が中心となって後退が進みやすいです。

DHTの生成を抑えるための治療薬として、フィナステリドやデュタステリドなどが使用される場合があります。

M字はげと遺伝要素

家系に薄毛の症状がある場合、遺伝的にAGAを発症しやすい傾向があるともいわれています。

父方や母方の祖父が早めに髪が薄くなった方は、自分にもM字はげや前頭部の薄毛が起きやすい可能性があると考える人も多いです。

ただし、必ずしも遺伝だけで決定されるわけではなく、生活習慣やストレスなどの後天的な要因も大きく作用します。

M字はげと遺伝

要素内容影響度
家族に薄毛が多いAGA発症リスクが高まるケースがある中〜高
母方の祖父の遺伝X染色体を介して影響する可能性があるといわれている中程度
男性ホルモン強度男性ホルモンの分泌量や受容体の感受性が影響を与える

ストレスや生活習慣の影響

過度なストレスはホルモンバランスを乱すだけでなく、自律神経や血行不良にも関係するため、頭皮環境にも悪影響を及ぼします。

睡眠不足や偏った食事などの生活習慣も抜け毛を増やす要因になりやすいです。遺伝的にM字はげの傾向がある方は、とくにストレスや生活習慣の改善に目を向けるとよいでしょう。

初期~中期のM字はげに多い症状と原因

生え際の変化が徐々に気になりはじめた段階は「初期」から「中期」にあたります。

具体的には、鏡を見たときに昔より少し額が広がっている、あるいは生え際の髪が細くなったように感じる状態が該当します。

生え際の変化と髪質の変化

初期段階では、M字部分の生え際に産毛が増えたり、髪の毛自体が細く柔らかくなることが多いです。

髪のハリやコシがなくなり、スタイリングしづらくなるなど、質感の変化を伴うことが特徴です。

また、髪の抜けるタイミングが早くなるため、成長が十分でないまま毛が抜け落ちるという現象も見られます。

初期~中期に現れやすい傾向

  • 朝起きたときに枕元に細い毛が落ちている
  • おでこの両サイドがわずかに後退して見える
  • 髪型が決まりにくくなり、ボリューム不足を感じる
  • おでこ周りにうねり毛や産毛の増加を感じる

ホルモンバランスの乱れ

生活習慣の乱れや不規則な食生活が続くと、ホルモンバランスが崩れやすくなります。血行不良や栄養不足も頭皮に影響を与えるため、成長期が充分に確保できず、髪が弱っていく原因となることがあります。

ホルモンバランスが乱れると、AGAの主因であるDHTの影響を受けやすい体質がより顕著になり、M字部分の進行を早める場合があります。

頭皮環境の乱れによる抜け毛

頭皮環境を悪化させる要因には、過度の皮脂分泌や頭皮の炎症などがあります。

頭皮のベタつきやフケ、かゆみなどがあるときは、皮脂腺が過剰に活発化している可能性が高いです。

そうした状態が続くと、毛穴が詰まりやすくなり、発毛や育毛に悪影響を及ぼし、M字はげの進行を助長する場合があります。

初期~中期での頭皮状態の変化

主な症状原因となる要素頭皮ケアの要点
ベタつき皮脂の過剰分泌余分な脂を取り除く洗髪習慣が重要
乾燥過度な洗浄や冷暖房など保湿力のあるシャンプーを選ぶ
かゆみ炎症や真菌の繁殖など清潔を保ち、頭皮を傷つけない工夫
フケ頭皮のターンオーバー乱れ低刺激シャンプーや頭皮用ローション

進行期のM字はげにみられる症状と原因

初期や中期に比べると、額全体の後退が顕著になり、生え際が深くえぐれるような形に近づくのが進行期のM字はげです。

前頭部から頭頂部へと脱毛範囲が拡大し、場合によっては頭頂部と合わせて大きく薄毛が広がることもあります。

額の拡大とM字の深刻化

進行期になると、M字部分の生え際が大きく交代し、額の広さがひと目でわかるほどになります。

鏡を見たときに、おでこが広いというよりも「前髪の生え際が極端に薄くなっている」と強く認識する方が増えます。

髪をかき上げると、頭皮がはっきりと見えるため、コンプレックスが増す原因にもなります。

前頭部から頭頂部への脱毛の拡大

M字の状態だけでとどまらず、前頭部全体の毛が徐々に細くなり、最終的には頭頂部と連動して薄毛の範囲がつながるケースがあります。

この段階になると、生え際のデザインをカバーするスタイリングも難しくなり、帽子を日常的に使うなど生活上の工夫をする方も少なくありません。

複合的要因による発毛力低下

進行期には、もともとのAGA要因に加えて、加齢による血行不良や頭皮環境の悪化、ストレスの蓄積など複数の要因が重なって発毛力が低下しやすくなります。

中期までは比較的細い髪があった場所からも、まったく髪が生えなくなることが増え、発毛力が極端に落ち込むのが特徴です。

進行期の傾向

  • 額がさらに広くなり、生え際付近に髪がほとんど残らない状態が多い
  • 頭頂部とM字部分がつながり始めて、髪全体のボリューム感が大きく減少
  • 内服薬や外用薬を使用しても改善が感じられない場合がある

精神的ストレスとの相互関係

M字はげが進行すると、見た目の悩みからくる心理的ストレスが強まります。

ストレスホルモンの増加は、さらにホルモンバランスを乱す一因ともなり、結果的に抜け毛を助長しかねません。

また、自己イメージの低下は社会生活にも影響を及ぼすため、治療と並行してメンタル面のケアを意識しておくことが大切です。

進行期の心理面の状態と影響

心理面の状態想定される影響治療面の着眼点
見た目へのコンプレックス自信喪失、対人関係の不安感医療機関での相談や適切なカウンセリングを重視
ストレスの蓄積ホルモンバランスの乱れや血行不良を誘発抜け毛予防の生活習慣を併行して見直す
治療法に対する半信半疑の気持ち治療開始の遅れや途中放棄につながる医師やスタッフとの情報共有を大切にする

M字はげの治療方法

M字はげの治療には、内服薬や外用薬を使った方法から、頭皮への注入治療、植毛や自毛移植といった外科的手法までさまざまな選択肢があります。

進行度合いや個々の体質、生活スタイルに応じて治療方法を組み合わせることが多いです。

内服薬や外用薬の特徴

M字はげの原因として大きいのはDHTの生成や頭皮環境の悪化です。内服薬としてフィナステリドやデュタステリド、外用薬としてミノキシジルなどがよく知られています。

内服薬はDHTの生成を抑え、外用薬は毛包への血流を促進させて発毛を促す働きを担います。

ただし、内服薬は一定期間続けないと効果が出にくく、外用薬も使い方を誤ると十分な効果を得られにくいとされています。

主な内服薬と外用薬の特徴

種類代表的な成分主な作用注意点
内服薬フィナステリドなどDHTの生成を抑えて抜け毛を予防副作用の有無について医師と相談が必要
外用薬ミノキシジルなど血管拡張作用で発毛を促す毎日継続して塗布しないと効果を維持しにくい

サプリメントの活用

ビタミンやミネラル、亜鉛など育毛に必要な栄養素を補うためのサプリメントを取り入れるケースがあります。

日常の食事だけでは不足しがちな栄養を補強し、髪の成長を下支えする狙いがあります。

ただし、サプリメントだけでM字はげの進行を止めたり、劇的に改善するのは難しいため、内服薬や外用薬との併用を前提として考えることが多いです。

メソセラピーや注入治療

頭皮に直接成長因子やビタミンを注入する治療も選択肢の1つです。発毛促進の成分をピンポイントで毛根周辺に届けるため、外用薬では届きにくい部位にもアプローチできる可能性があります。

月に数回の通院が必要になる場合が多く、費用面も考慮しながら治療を選ぶ人が多いです。

植毛や自毛移植の選択肢

生え際の後退がかなり進行している場合や、他の治療で十分な効果が得られない方は、植毛や自毛移植を検討することがあります。後頭部や側頭部から毛根を採取し、薄くなった部分に移植する方法が一般的です。

手術後は自分の毛髪として自然に伸びるため、より確実な改善が見込める可能性があります。

術後のケアやダウンタイムなどを考慮に入れて、医師とよく相談して決めることが大切です。

治療法ごとのメリット

治療法メリット
内服薬DHTを抑制して抜け毛予防をサポート
外用薬血流促進による発毛刺激
メソセラピー成分を直接頭皮に注入するため狙った効果を得やすい
自毛移植自然な生え方で比較的長期間にわたり効果が維持しやすい

M字はげの改善と生活習慣

M字はげの治療を行ううえで、普段の生活習慣を整えることが重要です。毛髪や頭皮は日々の食事や睡眠、ストレス管理などに密接に関わっています。

食事と栄養バランス

髪の毛はケラチンというタンパク質から構成されているため、タンパク質不足や栄養バランスの乱れは抜け毛や髪質の低下につながります。髪の健康維持には以下の栄養素が大切です。

  • タンパク質(豆類、肉、魚など)
  • 亜鉛(牡蠣、牛肉、ナッツ類など)
  • ビタミンB群(卵、レバー、豚肉など)
  • ビタミンC(果物、野菜類)

過度なダイエットや偏食は髪と頭皮の健康にマイナスとなるため、バランスの良い食事を心がける必要があります。

食事から摂りたい栄養素と主な食材

栄養素食材の例働き
タンパク質肉類、魚、卵、大豆製品など髪の元になるケラチンを合成する素材
亜鉛牡蠣、牛肉、ナッツ、かぼちゃの種など髪の成長に欠かせない酵素を活性化
ビタミンB群レバー、豚肉、緑黄色野菜など代謝を助けて頭皮環境を整える
ビタミンC柑橘類、いちご、ブロッコリーなどコラーゲン生成、抗酸化作用をサポート

生活リズムの整え方

髪の成長は睡眠時に活性化しやすいという特徴があります。夜更かしが続くと、頭皮への血流が不足し、結果的に抜け毛のリスクが高まります。

規則正しい生活リズムを保ち、睡眠時間をしっかり確保することがM字はげの進行を遅らせる一助となります。

また、適度な運動も血行を促進し、ストレス軽減にも役立つためおすすめです。

頭皮マッサージやセルフケア

シャンプー時に指の腹で頭皮をやさしく揉みほぐす頭皮マッサージは、血行促進に効果的です。ただし、力任せにゴシゴシと洗うとかえって頭皮を傷つける恐れがあるので注意が必要です。

育毛トニックや育毛剤を使う際も、頭皮をケアする意識をもってマッサージすると成分が行き渡りやすくなります。

毎日の頭皮マッサージの手順

  • こめかみ付近から円を描くように指で頭皮を押しほぐす
  • 耳上から頭頂部へ向かって徐々に指を移動させる
  • 後頭部や襟足までマッサージを広げて全体の血行を促す
  • 最後に頭頂部をやさしく押し込むように刺激する

禁煙・節酒など嗜好品への配慮

ニコチンやアルコールの過剰摂取は血管収縮を招き、頭皮への血行を悪化させる可能性があります。

過度の飲酒習慣がある方や、たばこを吸う方は、まず本数を減らすところから始め、可能であれば禁煙を目指すとよいでしょう。

血流を保つことは頭皮環境の改善と直結し、M字はげの治療効果をサポートする要素につながります。

治療前の注意点と受診のタイミング

M字はげが気になり始めたら、自己判断で過度なケアをするよりも、専門的なアドバイスを受けることが重要です。

しかし、忙しさや金銭面などの理由で受診を後回しにしてしまう方もいるでしょう。ここでは治療前に知っておきたい注意点や、医療機関を受診するタイミングについて解説します。

早期治療の重要性

脱毛が進行してしまうと、毛根自体が萎縮し、発毛が困難になるケースが多いです。早めに専門医の診察を受けることで、進行速度を抑えたり、回復を期待できる可能性が高まります。

M字はげが少し気になり始めた段階であれば、内服薬や外用薬だけで十分に効果を得る場合もあるため、早期治療のメリットは大きいです。

早期治療で期待できる効果

治療開始時期期待できる効果対応策
初期抜け毛の抑制と発毛効果が出やすい内服薬や外用薬の導入
中期抜け毛の進行を遅らせ、部分的に発毛を促す内服薬+外用薬+頭皮ケアを併用する
進行期さらなる進行を予防しつつ現状維持を目指す内服薬+外用薬+メソセラピーなど

医師の診断とカウンセリングの意義

M字はげの原因は、ホルモンバランスや生活習慣、遺伝など多岐にわたります。

専門の医師に相談すれば、現在の症状や進行度合いを客観的に把握でき、適切な治療方針を立てやすくなります。

カウンセリングを通じて、予算やスケジュールなど個別の事情に合わせたプランを相談できる点も利点です。

治療費や期間に関する考え方

内服薬や外用薬は毎月の費用がかかり、メソセラピーや植毛などはさらに高額になります。また、どの治療法を選んでも数か月から年単位で継続するケースが一般的です。

安易に費用を抑えようとして自己流のケアだけで済ませると、時間の経過とともに進行が止まらず結果的に高額な治療が必要になることもあります。

早めに医療機関で適切なプランを立て、治療期間と費用を見通せる状態にしておくことが大切です。

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