「コーヒーを飲むと薄毛になる?」「コーヒーが髪に必要な亜鉛の吸収を妨げるって本当?」そんな疑問や不安を感じている方が多いようです。

多くの方が日常的に楽しむコーヒーですが、髪の健康との関連について様々な情報が飛び交っています。

この記事では、コーヒーに含まれるカフェインが髪の成長に与える影響、亜鉛吸収への懸念、適切な摂取量、そして薄毛対策として考えるべきことなどを、医学的な視点から詳しく解説します。

目次

コーヒーと薄毛の俗説 – 本当のところは?

コーヒーと薄毛を結びつける話を耳にした方もいるかもしれません。しかし、その多くは単純化された情報や誤解に基づいています。

コーヒーが直接的な薄毛の原因となるという明確な科学的根拠は現在のところ限定的です。

関係性を正しく理解するためには、カフェインの作用や他の要因を多角的に見る必要があります。

「コーヒーを飲むとハゲる」は本当か

結論から言うと、「コーヒーを飲む=ハゲる」と断定はできません。

コーヒーに含まれるカフェインには、覚醒作用や血管拡張作用など、体に対して様々な影響を与えます。

これらの作用が髪の健康に間接的に関わる可能性はありますが、コーヒー摂取そのものが薄毛の主因となるわけではありません。

薄毛は遺伝やホルモンバランス、生活習慣やストレスなど、多くの要因が複雑に絡み合って進行します。コーヒーはその一要素に過ぎないと考えます。

カフェインの覚醒作用と睡眠への影響

カフェインの代表的な作用の一つが覚醒作用です。一時的に集中力が高まったり、眠気が覚めたりします。

しかし、摂取するタイミングや量によっては、夜間の睡眠の質を低下させる可能性があります。睡眠不足は体の回復機能を妨げ、ストレスホルモンの分泌を促す場合があります。

髪の成長は睡眠中に活発に行われるため、質の高い睡眠の維持は、健やかな髪を保つ上で非常に重要です。コーヒーの摂取が睡眠に影響を与えている場合は、飲む時間や量を調整する必要があるでしょう。

睡眠の質低下が髪に与える影響

影響内容髪への関連
成長ホルモン分泌低下睡眠中に多く分泌される成長ホルモンが減少する。髪の成長促進作用が弱まる可能性がある。
ストレスホルモン増加コルチゾールなどのストレスホルモンが増加する。血管収縮や炎症を引き起こし、毛根への栄養供給を妨げる可能性がある。
自律神経の乱れ交感神経が優位になりやすく、リラックスしにくい。頭皮の血行不良につながる可能性がある。

ストレスと抜け毛の関係性

ストレスは髪の健康に大きな影響を与える要因の一つです。過度なストレスは、ホルモンバランスの乱れや血行不良を引き起こし、抜け毛を増加させやすいです。

カフェインには、一時的にストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促す作用があるという報告もあります。

そのため、日常的に多くのストレスを感じている人がさらにコーヒーを過剰に摂取すると、ストレス反応を増幅させてしまう可能性があります。

ただし、コーヒーを飲むこと自体がリラックスにつながる人もいるため、一概に悪影響があるとは言えません。自身のストレスレベルとコーヒーとの関係を客観的に見ると良いです。

コーヒー以外の薄毛要因も考慮する

薄毛の原因は多岐にわたります。コーヒーの影響を考えるのも一つですが、それ以外の要因を見落とさないようにしましょう。

遺伝的な素因、男性ホルモンの影響(AGA:男性型脱毛症)、加齢、食生活の乱れや喫煙、特定の病気や薬の副作用なども薄毛や抜け毛の引き金となります。

コーヒーとの関係だけに注目するのではなく、ご自身の生活習慣や健康状態全体を把握し、複合的な視点から原因を探りましょう。

カフェインが髪の成長に与える影響

カフェインは、髪の成長に対して直接的、間接的に影響を与える可能性が研究されています。

マイナスのイメージを持たれがちなカフェインですが、髪にとってはプラスに働く可能性も指摘されています。その影響を詳しく見ていきましょう。

カフェインの血管拡張作用と頭皮の血行

カフェインには血管を拡張させる作用があります。頭皮の毛細血管が拡張して血行が促進されれば、髪の毛根(毛母細胞)へ栄養や酸素が届きやすくなります。

毛母細胞の活動が活発になると、健康な髪の成長につながる可能性があります。

ただし、この効果は一時的であり、持続的な血行改善には他の生活習慣の改善も必要です。

髪の成長サイクルへの直接的な働きかけ

いくつかの研究では、カフェインが毛包に直接作用し、髪の成長期(アナゲン期)を延長する可能性が示唆されています。

実験室レベルの研究では、カフェインが毛包のエネルギー代謝を高め、毛母細胞の増殖を促す結果も報告されています。

しかし、これらの研究の多くは培養細胞や動物実験によるものであり、人間においてコーヒーを飲むと同様の効果が確実に得られるかは、まだ十分な検証が必要です。

髪の成長サイクル

期間状態特徴
成長期(アナゲン期)髪が活発に成長する期間通常2~6年続く。毛母細胞が分裂・増殖する。
退行期(カタゲン期)髪の成長が止まる期間約2~3週間。毛球部が縮小する。
休止期(テロゲン期)髪が抜け落ちる準備期間約3~4ヶ月。新しい髪の毛が作られ始めると、古い髪が押し出される。

男性ホルモンへの影響に関する研究

カフェインが男性ホルモン、特にAGAの原因となるDHTの生成や作用に影響を与える可能性についても研究が進められています。

一部の研究では、カフェインがDHTの生成に関わる酵素(5αリダクターゼ)の働きを阻害する可能性が示唆されています。

もしこれが事実であれば、コーヒーの摂取がAGAの進行を抑制する方向に働くかもしれません。

しかし、現在のところ、その効果の程度やメカニズムについてはまだ不明な点が多く、さらなる研究が求められます。

適量摂取の重要性

カフェインの髪への良い影響が期待される一方で、過剰摂取は逆効果になる可能性も考えられます。

前述の通り、睡眠の質の低下やストレス増加につながる恐れがあるためです。また、利尿作用による脱水や胃腸への負担なども考慮する必要があります。

どんな食品や成分も同様ですが、カフェインに関しても「適量」を守るのが、健康な体と髪を維持する上で重要です。

コーヒーによる亜鉛吸収阻害の懸念

コーヒーを飲むと、髪の健康に重要なミネラルである「亜鉛」の吸収が妨げられる、という話を聞いたことがあるかもしれません。これは、コーヒーに含まれる成分が関係しています。

亜鉛とは?髪の健康に果たす役割

亜鉛は、私たちの体に必要な必須ミネラルの一つです。特に、タンパク質の合成や細胞分裂に深く関わっています。

髪の主成分であるケラチン(タンパク質の一種)を作る際にも、亜鉛は重要な役割を担います。

亜鉛が不足すると、新しい髪の毛が作られにくくなったり、髪の成長が妨げられたりする可能性があります。

また、亜鉛は免疫機能の維持や皮膚の健康にも関与しており、頭皮環境を整える上でも大切なミネラルです。

亜鉛の主な働き

働き髪・頭皮への関連
タンパク質合成髪の主成分ケラチンの生成を助ける
細胞分裂促進毛母細胞の分裂・増殖をサポートする
抗酸化作用頭皮の老化を防ぎ、健康な状態を保つ
免疫機能維持頭皮の炎症を抑え、トラブルを防ぐ

コーヒーに含まれるタンニンと亜鉛の関係

コーヒーには、「タンニン」というポリフェノールの一種が含まれています。タンニンは、鉄や亜鉛などのミネラルと結合しやすい性質を持っています。

食事と一緒にコーヒーを飲むと、食品に含まれる亜鉛がタンニンと結合し、体が吸収しにくい形に変わってしまう可能性があります。

これが、「コーヒーが亜鉛の吸収を阻害する」と言われる理由です。

どの程度の影響があるのか?研究データから見る

コーヒーが亜鉛の吸収を阻害する可能性はありますが、その影響の程度は、コーヒーの摂取量や食事の内容、個人の体質などによって異なります。

いくつかの研究では、食事中のコーヒー摂取が亜鉛の吸収率をある程度低下させることが示されています。

しかし、通常の食生活を送っている健康な人であれば、コーヒーを飲むことによって深刻な亜鉛不足に陥るリスクは低いと考えられています。

普段から亜鉛の摂取量が少ない人や、亜鉛の必要量が増加している人(成長期の子供、妊婦など)は、より注意が必要かもしれません。

食事タイミングの工夫で影響を軽減する

コーヒーによる亜鉛吸収への影響を少しでも減らしたい場合は、食事タイミングの工夫が有効です。

亜鉛を多く含む食事(例えば、牡蠣や赤身の肉、レバーなど)を摂る際は、食後すぐにコーヒーを飲むのではなく、少なくとも30分~1時間程度時間を空けると良いです。

これにより、タンニンと亜鉛が消化管内で接触する機会を減らし、亜鉛の吸収を妨げにくくできます。

亜鉛吸収とコーヒー摂取タイミング

タイミング亜鉛吸収への影響推奨度
食事と同時阻害される可能性が高い低い
食後すぐ阻害される可能性がある中程度
食後30分~1時間以上空ける影響を受けにくい高い
食事と関係ない時間影響はほとんどない高い

1日の適切なコーヒー摂取量とは?

コーヒーのメリット・デメリットを考えると、「どのくらいなら飲んでも大丈夫なのか?」という疑問が湧いてくるかと思います。

カフェインの感受性には個人差がありますが、一般的な目安を知っておくことが大切です。適切な摂取量を守り、コーヒーと上手に付き合いましょう。

カフェインの過剰摂取が招くリスク

カフェインを過剰に摂取すると、体に様々な不調が現れる可能性があります。

代表的なものとしては、めまいや心拍数の増加、興奮や不安、震えや不眠症などです。消化器系への影響として、吐き気や下痢を引き起こすケースもあります。

長期的な過剰摂取は、慢性的な睡眠不足や疲労感、精神的な不安定さにつながる可能性も指摘されています。

このような症状は、髪の健康にも間接的に悪影響を及ぼす可能性があります。

カフェイン過剰摂取による主な症状

  • めまい、心拍数の増加
  • 興奮、不安、神経過敏
  • 手の震え
  • 不眠、睡眠障害
  • 吐き気、下痢、胃痛

健康的なカフェイン摂取量の目安

カフェインの感受性は個人差が大きいため、一概に「ここまでなら安全」という量を定めるのは難しいです。

しかし、多くの国の保健機関が、健康な成人における1日あたりのカフェイン摂取量の目安を示しています。

例えば、欧州食品安全機関(EFSA)は、健康な成人で1日あたり400mgまで(1回の摂取量は200mgまで)であれば、健康リスクは増加しないとしています。

妊娠中や授乳中の女性、あるいは特定の健康問題を抱える人は、さらに少ない量に留めるか、医師に相談すると良いです。

カフェイン摂取量の目安(健康な成人)

機関1日の上限目安1回あたりの上限目安
欧州食品安全機関(EFSA)400mg200mg
カナダ保健省400mg
日本の食品安全委員会具体的な数値は設定せず、個人の感受性や状況に応じた注意喚起

これらの数値はあくまで目安であり、個人の健康状態や感受性によって異なります。

コーヒーの種類によるカフェイン含有量の違い

一口にコーヒーと言っても、抽出方法や豆の種類によってカフェイン含有量は異なります。

一般的なドリップコーヒー(マグカップ1杯約150ml)には、60mg~100mg程度のカフェインが含まれることが多いです。

エスプレッソは少量(約30ml)ですがカフェイン濃度が高く、一杯あたり50mg~75mg程度です。インスタントコーヒーは製品にもよりますが、一杯あたり50mg~80mg程度が目安となります。

自分が普段飲んでいるコーヒーのカフェイン量を知っておくと、摂取量を管理しやすくなります。

主なコーヒーのカフェイン含有量(目安)

種類1杯あたりの量カフェイン含有量
ドリップコーヒー約150ml60~100mg
エスプレッソ約30ml50~75mg
インスタントコーヒー約150ml50~80mg
缶コーヒー約190ml製品により大きく異なる(50~150mg程度)

自分の体調と相談しながら調整する

カフェインの摂取目安量はありますが、最も重要なのは自分の体の声を聞くことです。

コーヒーを飲んだ後に動悸がする、寝つきが悪くなる、胃の調子が悪くなるなどの不調を感じる場合は、量が多すぎる可能性があります。

日によって体調も異なるため、その日のコンディションに合わせて飲む量や濃さ、時間を調整する柔軟性が大切です。

無理に目安量まで飲む必要はありませんし、調子が悪ければ控える判断も必要です。

亜鉛不足を防ぐ食生活のポイント

薄毛に悩む方は、コーヒーによる亜鉛吸収阻害の影響を心配する以前に、日々の食事から十分な亜鉛を摂取できているかを確認してみましょう。

亜鉛を多く含む食品を知る

亜鉛は様々な食品に含まれていますが、特に含有量が多い食品を知っておくと、効率的に摂取できます。

代表的なものには、牡蠣や赤身の肉、レバーや鶏肉、魚介類や卵、チーズなどの動物性食品があります。

また、植物性食品では、ナッツ類や種子類、豆類や全粒穀物などにも含まれています。

亜鉛を比較的多く含む食品

  • 牡蠣、牛肉の赤身、豚レバー、鶏肉、うなぎ
  • カシューナッツ、アーモンド、かぼちゃの種、ごま、大豆

バランスの取れた食事の重要性

特定の食品ばかりに偏るのではなく、多様な食品を組み合わせたバランスの良い食事を心がけましょう。

亜鉛だけでなく、髪の健康に必要な他の栄養素(タンパク質、ビタミン、鉄など)を確保するためにも重要です。

主食、主菜、副菜を揃えて様々な食材から栄養を摂るように意識すると良いです。

加工食品やインスタント食品に偏った食事は、栄養バランスが崩れやすく、亜鉛などのミネラルが不足しがちになるため注意が必要です。

吸収を高める栄養素

亜鉛の吸収率は、一緒に摂取する栄養素によっても影響を受けます。ビタミンCやクエン酸(柑橘類や梅干しに含まれる)は、亜鉛の吸収を助ける働きがあると言われています。

また、動物性タンパク質も亜鉛の吸収を高める効果があります。例えば、肉や魚と一緒に、ビタミンCが豊富な野菜や果物を組み合わせると、効率的に亜鉛を摂取できます。

亜鉛の吸収を助ける栄養素

  • ビタミンC(野菜、果物)
  • クエン酸(柑橘類、梅干し)
  • 動物性タンパク質(肉、魚)

サプリメント利用の考え方

通常の食事だけで十分な亜鉛を摂取するのが難しいときや、特定の理由で亜鉛の必要量が増えている方は、サプリメントの利用も選択肢の一つです。

ただし、自己判断での過剰摂取は、他のミネラル(特に銅)の吸収を妨げるなど、かえって健康を害する可能性もあります。

サプリメントを利用する際は、まず医師や管理栄養士などの専門家に相談し、適切な種類や量を指導してもらうと良いでしょう。

コーヒーをやめたら髪は生える?誤解と真実

「薄毛が気になるから、コーヒーをやめようか…」「コーヒーをやめたら、髪が増えるかもしれない」と考える人もいるかもしれません。

しかし、コーヒーをやめることが直接的な発毛につながるという単純な話ではありません。

コーヒー断ちと抜け毛改善の関連性

もし、コーヒーの過剰摂取が睡眠不足やストレス増大、あるいは亜鉛吸収の阻害に繋がっていた場合、コーヒーをやめるとこれらの問題が改善し、結果的に抜け毛が減る可能性があります。

例えば、夜眠れるようになったり、イライラする機会が減ったりすれば、頭皮環境や髪の成長サイクルにとって良い影響が期待できます。

しかし、これはコーヒーをやめたことによる「間接的な効果」であり、コーヒー自体が抜け毛の根本原因だったわけではありません。

期待できる変化と個人差

コーヒーをやめたことによる変化は、人それぞれです。カフェインへの依存度が高かった人ほど、離脱症状が現れるケースもありますが、それを乗り越えると睡眠の質の向上や気分の安定を感じる人もいます。

髪に関しては、すぐに目に見える変化が現れるケースは稀です。髪の成長サイクル(数ヶ月~数年)を考えると、もし良い影響があるとしても、実感できるまでには時間がかかります。

また、薄毛の原因がコーヒー以外にある場合は、コーヒーをやめても大きな変化は期待できません。

生活習慣全体の見直しが鍵

コーヒーをやめるかどうかを考える際には、それと同時に他の生活習慣の見直しが重要です。

バランスの取れた食事や質の高い睡眠、適度な運動やストレス管理、正しいヘアケアなど、髪の健康に関わる要因は多岐にわたります。

コーヒーをやめるという一つの行動だけに期待するのではなく、生活習慣全体を改善していく視点が、薄毛対策においてはるかに効果的です。

特定の食品を断つよりも、全体的な健康を向上させることを目指しましょう。

プラセボ効果の可能性も

「コーヒーをやめたから髪に良いはずだ」という思い込み(プラセボ効果)が、心理的な安心感につながり、ストレス軽減などを通じて間接的に良い影響を与える可能性も否定できません。

しかし、プラセボ効果は根本的な解決策ではありません。大切なのは、科学的な根拠に基づき、ご自身の状況に合った適切な対策を行うことです。

薄毛の悩み – コーヒーだけに目を向けていませんか?

薄毛や抜け毛の悩みを抱えていると、「何が原因なんだろう?」と特定の食品や習慣に目が行きがちです。コーヒーもその一つかもしれませんが、少し視野を広げてみましょう。

ここでは、コーヒー以外に見落としがちな、しかし髪の健康に深く関わる要因について、少し違った角度から考えてみます。

見落としがちな他の生活習慣

毎日何気なく行っている習慣が、実は髪に影響を与えているケースがあります。

例えば、シャンプーの仕方です。洗浄力の強すぎるシャンプーを使っていたり、爪を立ててゴシゴシ洗っていたりすると、頭皮に必要な皮脂まで奪い、乾燥や炎症を引き起こしやすいです。

また、整髪料の洗い残しや、髪が濡れたまま寝てしまうのも、頭皮環境の悪化につながります。喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を悪くします。

これらの日常的な習慣を見直すだけでも、変化を感じるかもしれません。

見直したい生活習慣チェック

  • シャンプーは適切か(洗浄力、洗い方)
  • 整髪料をしっかり洗い流しているか
  • 髪をしっかり乾かしてから寝ているか
  • 喫煙習慣はないか
  • 食生活は偏っていないか

遺伝的要因とホルモンバランス

特に男性型脱毛症(AGA)や女性の薄毛(FAGA)においては、遺伝的な素因とホルモンバランスが大きく関与しています。これは、本人の努力だけではコントロールが難しい部分です。

「家系的に薄毛が多いから仕方ない」と諦める必要はありませんが、遺伝的な影響を受けやすい点を理解しておくことは重要です。

ホルモンバランスは加齢やストレス、睡眠不足や過度なダイエットなどによっても乱れやすいため、生活習慣の改善が間接的に影響を緩和する場合もあります。

ただし、進行したAGAなどに対しては、医学的な治療が必要となるケースが多いです。

頭皮環境の重要性 – スキンケアとの共通点

頭皮も顔の皮膚と繋がった一枚の「肌」です。顔のスキンケアを気にするように、頭皮のケアも大切に考える視点を持ってみましょう。

顔の肌が乾燥したり、脂っぽくなったり、炎症を起こしたりするように、頭皮にも同じようなトラブルが起こります。フケやかゆみ、赤みやべたつきなどは、頭皮環境が悪化しているサインです。

健康な髪は、健康な頭皮という土壌があってこそ育ちます。自分の頭皮タイプを確認し、それに合ったケアが、健やかな髪への第一歩です。

これは、単に「コーヒーを飲む・飲まない」という議論よりも、本質的なケアと言えるかもしれません。

複合的な要因を理解する視点

薄毛の原因は、決して一つではありません。コーヒーや遺伝、ストレスや食生活といったものが独立して存在するのではなく、互いに影響し合いながら、薄毛という現象を引き起こしています。

例えば、ストレスを感じやすい人が気分転換のためにコーヒーをたくさん飲み、さらに睡眠不足になる、といった悪循環も考えられます。

大切なのは、一つの原因に固執するのではなく、ご自身の体質や生活環境を総合的に見つめ、複数の要因が絡み合っている可能性を理解することです。

そうすることで、より本質的で効果的な対策が見えてくるはずです。

薄毛治療とコーヒー摂取の付き合い方

すでに薄毛や抜け毛の治療を受けている方、あるいはこれから治療を検討している方にとって、コーヒーとの付き合い方は気になる点でしょう。

治療効果を最大限に引き出すためにも、コーヒー(カフェイン)摂取について知っておきたいポイントを解説します。

治療中のカフェイン摂取に関する注意点

薄毛治療で処方される薬とカフェインの間に、薬の効果を弱めたり、副作用を強めたりといった直接的な相互作用は、現在のところ特に報告されていません。

しかし、治療中は体調管理がより重要になります。カフェインの過剰摂取による睡眠不足や自律神経の乱れは、治療効果を妨げる可能性があります。

また、ミノキシジル外用薬を使用している場合、カフェインによる血管への影響(拡張作用)とミノキシジルの血管拡張作用が重なる可能性もゼロではありません。過剰摂取は避け、適量を守るのが基本です。

医師への相談の重要性

治療中のコーヒー摂取について不安がある場合は自己判断せず、担当の医師に相談してください。

患者さん一人ひとりの健康状態、処方されている薬の種類や量、生活スタイルなどを考慮した上で、適切なアドバイスをもらえます。

「こんなことを聞いてもいいのかな?」と思わずに、疑問点は積極的に質問しましょう。医師との良好な関係は、治療を継続して効果を高める上で非常に大切です。

治療効果を高める生活習慣

薄毛治療は薬だけに頼るのではなく、生活習慣全体の改善と組み合わせると、より効果が期待できます。

治療中のコーヒー摂取量を適切に管理するのも、その一環です。その他にも、以下のような点を意識しましょう。

治療効果を高める生活習慣

習慣ポイント理由
バランスの取れた食事タンパク質、ビタミン、ミネラル(特に亜鉛)を意識髪の成長に必要な栄養を供給する
質の高い睡眠規則正しい時間に十分な睡眠時間を確保成長ホルモンの分泌を促し、細胞修復を行う
適度な運動血行を促進し、ストレスを解消する頭皮への血流改善、リフレッシュ効果
ストレス管理自分なりのリラックス方法を見つける過度なストレスによるホルモンバランスの乱れや血行不良を防ぐ

ストレス管理とカフェイン

薄毛治療は効果が実感できるまで時間がかかるケースも多く、精神的な負担を感じやすい時期でもあります。

ストレスは髪に良くない影響を与えるため、上手に管理することが重要です。コーヒーがリラックスや気分転換に役立っていると感じる場合は、無理に完全に断つ必要はありません。

ただし、ストレス解消をコーヒーだけに頼るのは避けましょう。運動や趣味、人との交流など他の健全なストレス解消法を見つけると良いです。

カフェインの摂取がかえって不安感を強めたり、睡眠を妨げたりしていないか、注意深く観察しましょう。

コーヒーと薄毛に関するよくある質問

最後に、コーヒーと薄毛に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
デカフェ(カフェインレスコーヒー)なら問題ありませんか?
A

デカフェはカフェイン含有量が大幅に少ないため、カフェインの過剰摂取による睡眠への影響や興奮作用などの心配は軽減されます。

しかし、コーヒーにはカフェイン以外にもタンニンなどが含まれており、亜鉛の吸収を阻害する可能性はゼロではありません。また、製造工程で使われる薬品を気にする方もいます。

完全に影響がないとは言えませんが、通常のコーヒーよりは髪への影響を心配する要素は少ないと言えるでしょう。ただし、飲み過ぎには注意が必要です。

Q
コーヒー以外のカフェイン飲料はどうですか?
A

緑茶や紅茶にもカフェインは含まれていますが、一般的にコーヒーよりは含有量が少ない傾向があります。ただし、玉露のようにカフェインが多いお茶もあります。

これらの飲料にもタンニンが含まれるため、亜鉛吸収への影響は考慮する必要があります。

エナジードリンクはカフェイン含有量が非常に多い製品が多く、糖分も高い傾向があるため、過剰摂取には特に注意が必要です。

どの飲料であっても、カフェイン量やその他の成分を確認し、適量を心がけることが大切です。

Q
亜鉛サプリメントはコーヒーの影響を受けますか?
A

影響を受ける可能性があります。コーヒーに含まれるタンニンは、サプリメントから摂取した亜鉛とも結合し、吸収を妨げる可能性があります。

亜鉛サプリメントを摂取する場合は、コーヒーを飲む時間とサプリメントを摂取する時間をずらす(例:食間や就寝前にサプリメントを摂り、コーヒーは食事中や午前中にするなど)ことを推奨します。

製品の指示に従い、可能であれば医師や薬剤師に相談してください。

Q
薄毛が気になり始めたら、まず何をすべきですか?
A

まずは、ご自身の生活習慣の見直しから始めてみましょう。コーヒーの飲み方についても、量やタイミングが適切か考えてみてください。

しかし、セルフケアだけでは改善が難しい場合や、抜け毛が急に増えた場合、特定のパターン(M字、頭頂部など)で薄毛が進行している場合は、AGAなどの可能性も考えられます。

自己判断で悩まず、早めに薄毛治療を専門とするクリニックへの相談を推奨します。

専門医による正確な診断と、ご自身の状態に合った適切なアドバイスや治療を受けることが、改善への近道です。

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