筋力をつけるために行うトレーニングには、健康的な身体づくりや体力向上など多くのメリットがあります。

一方で、筋トレを始めると薄毛が進行する、あるいは抜け毛が増えるのではないかと心配する方もいるようです。

本記事では、筋トレではげるとの噂や、筋トレによる脱毛・薄毛の要因と改善策を整理し、髪の健康を保ちながら体を鍛えるための注意点を紹介します。

目次

筋トレと薄毛の関係:概要

はじめに、筋トレをすると髪に悪影響があるというイメージの背景について見ていきます。運動とホルモンバランス、薄毛とのつながりを理解すると、筋トレと抜け毛や脱毛の関係性が見えてきます。

筋トレとホルモンバランス

筋トレによって身体を動かすと、男性ホルモンであるテストステロンの分泌が増えると考えられています。

テストステロンは体を筋肉質に導く働きがありますが、一部が変換してできるDHT(ジヒドロテストステロン)は頭髪の成長に悪影響を及ぼす場合があります。

こうしたホルモンの増減やバランスの乱れにより、「筋トレを行うとはげやすくなるのではないか」という不安を感じる方がいます。

ホルモンバランスに関連する要素

要素役割関連するポイント
テストステロン筋肉増強・男性らしさを促す適度な筋トレで上昇しやすい
DHT毛髪サイクルに影響を与えやすいテストステロンと5αリダクターゼの関与
エストロゲン女性らしさや骨密度維持にかかわる男性にも少量存在する

筋トレではげると噂される理由

「筋トレによる男性ホルモンの増加=薄毛リスクを高める」と単純に結びつけられる場合があります。

実際には、ホルモン分泌量のほかに遺伝的要因や生活習慣、頭皮環境なども密接に絡み合うため、筋トレを始めたから即座にはげるわけではありません。

あくまで筋肉を効率的につける過程でホルモンが変動し、抜け毛が増えたように感じられるケースがあるということです。

  • 遺伝によるAGA(男性型脱毛症)の素因
  • 偏った食事や栄養不足
  • 頭皮環境の悪化(皮脂分泌過多や不適切なヘアケア)
  • 過度なストレス

こうした複合要因が揃うと、筋トレを始めた時期に合わせて脱毛が進んだように見える可能性があります。

抜け毛に関連するテストステロンの役割

テストステロン自体が髪を直接的に弱くするわけではありません。DHTに変換されやすい体質や頭皮環境などが影響して、結果的に抜け毛が起こる場合があります。

筋トレによってテストステロンが増加したとしても、それだけで急激な薄毛を生むとは限りません。むしろ適度な運動は、血行改善やストレス軽減に役立つため、髪にも好影響を与える一面があります。

筋トレが髪に与える良い影響

筋トレには健康増進効果があり、うまく取り入れれば髪にもプラスに働く要素があります。血流の促進やストレス解消といったメリットに焦点を当て、運動で得られる良い面を見ていきましょう。

血行促進で得られる効果

身体を動かすと全身の血行が良くなります。頭皮にも血液が行き渡りやすくなり、毛根への栄養補給がスムーズになることが期待できます。

頭皮への血流量が増えると、髪の毛の成長が促進されやすくなり、抜け毛を抑える一助になる可能性があります。

筋トレによる血行促進を高めるポイント

効果原因具体例
代謝アップ筋肉量の増加ウォーキングと筋トレの併用
酸素供給増大有酸素運動の併用ジョギング、エアロバイクなど
毛根への栄養供給血管拡張ストレッチやクールダウンをきちんと行う

健康的な習慣と薄毛対策

筋トレを継続している人は、同時に食事管理や生活リズムの改善に取り組むケースが多いです。

栄養バランスの整った食事や適度な睡眠時間の確保は、髪の成長にも寄与します。さらに、適度な運動はストレスホルモンを抑制する効果が期待できるため、頭皮環境を良好に保ちやすくなります。

  • タンパク質やビタミン、ミネラルを意識した食事
  • 早寝早起きによる体内リズムの安定
  • 運動の継続による疲労の軽減と睡眠の質向上

こうした健康的な習慣が、薄毛の進行を緩やかにする可能性があります。

ストレス軽減と抜け毛への影響

強度が高すぎる筋トレは疲労を増やしますが、適度な範囲での運動はリフレッシュ効果をもたらします。

ストレスが原因となる薄毛は少なくないため、精神面での安定を得ると髪の健康にも良い影響があります。

筋トレとあわせてリラクゼーションやヨガなどを取り入れると、気分転換になり頭皮環境の改善にも期待が持てます。

筋トレが髪に与えるネガティブな影響

一方で、過度な筋トレや体質によっては、髪の毛への影響がデメリットとして現れる場合もあります。

無理のある運動は、結果的に頭皮環境を悪化させる原因になる場合があるため注意が必要です。

過度なトレーニングと脱毛リスク

負荷の高い運動を過剰に行うと、体が回復しきれずに疲労が蓄積します。疲労が溜まるとストレスホルモンが分泌されやすくなり、頭皮の血行不良を招く恐れがあります。

その結果、抜け毛が増える、または髪が細くなるリスクにつながります。

抜け毛リスクとトレーニング負荷の関係

状況負荷の特徴抜け毛リスク
適度な筋トレ中程度の重量・回数
過度な筋トレ高重量・高頻度で休息不足中〜高
オーバートレーニング極端な負荷・長期にわたる疲労

筋トレで薄毛に拍車がかかると言われる要因

筋トレと薄毛の関連が取り沙汰される背景には、遺伝的要因やホルモンの影響だけでなく、サプリメントの過剰摂取や誤った食事制限も考えられます。

たとえば、筋肉づくりのために高タンパク食ばかりを摂取し、野菜やビタミン類が不足すると頭皮の健康が損なわれ、結果的に抜け毛が増える可能性があります。

  • ビタミンやミネラル不足
  • 過剰なタンパク質摂取による肝臓・腎臓への負担
  • プロテインの摂り過ぎによる消化器系の不調

個人の体調に合わない極端な筋トレや食事制限は、髪だけでなく健康全般に悪影響を与えるかもしれません。

激しい運動と栄養バランスの乱れ

激しいトレーニングをするには相応のエネルギーと栄養が必要です。それにもかかわらず、体重を減らす目的でカロリー制限を過度に行うケースがあります。

筋肉はつくかもしれませんが、頭髪や肌に必要な栄養が不足し、髪が細くなったり抜け毛が増えたりするリスクがあります。

栄養バランスを乱しやすいケース

ケース具体例髪への影響
タンパク質偏重プロテインや肉類ばかりを大量に摂取ミネラル・ビタミン不足で髪が弱る
極端な糖質制限炭水化物をほとんど摂らないエネルギー不足で頭皮ケアも滞る
短期間の過度な減量摂取カロリーを極端に抑える抜け毛や栄養不足による毛髪トラブル

筋トレと男性ホルモンの関係

男性ホルモンの増減は筋肉と髪に大きな影響を及ぼします。ここでは、DHTやアンドロゲンなど、筋肉形成と薄毛の両方に関わるホルモンの働きについて触れます。

DHTと薄毛の関係

DHTはテストステロンが5αリダクターゼという酵素の影響で変換されて生成します。頭皮にある毛母細胞を縮小させやすい性質があるため、AGAの主な要因として知られています。

筋トレによりテストステロンが増えても、DHTに変換されやすい体質でなければ薄毛が顕在化しないケースもあります。

逆に、もともとDHTの影響を受けやすい方は、筋トレを機に薄毛を意識し始める場合があります。

筋肉づくりに関わるアンドロゲン

男性らしい体格や筋肉を作るホルモンとして、アンドロゲン(テストステロン、DHTなど)が重要です。

筋トレをすると一時的にアンドロゲン値が上昇し、トレーニング後には正常値に戻るというサイクルが起こります。

アンドロゲンは髪に対してネガティブな影響を持つ面が注目されがちですが、必ずしも筋トレをする人すべてに脱毛が進行するわけではありません。

  • アンドロゲンは筋肥大を助ける
  • アンドロゲン過多や受容体感受性の高さが薄毛に影響する
  • 適度な運動量ならばストレス軽減効果も期待できる

筋肉量と抜け毛が減った事例の背景

一部の人は、筋トレを始めてから「抜け毛が減った」と感じます。これは、運動習慣の定着や血行促進、睡眠の質向上など、髪にプラスとなる生活改善が同時に行われたためと推測されます。

筋肉量の増加そのものが直接髪を守るわけではありませんが、健康的な身体づくりが総合的にプラスに働くのも事実です。

髪の健康を保つための筋トレの取り組み方

髪のことが気になる方でも、適度な筋トレを行いながら薄毛のリスクを抑える方法はあります。

ここでは、運動量や栄養、休息など、髪に配慮した取り組み方を紹介します。

適度な強度と頻度の選び方

筋トレを始めると、もっと早く結果を出したい気持ちから過剰な負荷をかけがちです。

しかし、激しすぎる筋トレは髪だけでなく、全身に大きなストレスを与えます。週に2〜3回程度の頻度を目安にし、筋肉に休養を与えながら継続する工夫が大切です。

筋トレ頻度と髪への影響

頻度トレーニング内容髪へのメリット/デメリット
週1回未満ほとんど運動なし血行改善効果が得にくい
週2〜3回適度な負荷と十分な休養血行促進やホルモンバランスに好影響
週4回以上頻度が高いオーバートレーニングに陥りやすい

十分な休養と睡眠の確保

筋トレで傷ついた筋繊維は休息中に修復され、成長していきます。睡眠時間が不足すると筋肉の回復が遅れるだけでなく、ホルモンバランスが乱れやすくなり、抜け毛につながるかもしれません。

眠りが浅い、夜更かしが多いという方は、まずは睡眠環境を整えるのを意識するとよいでしょう。

  • 寝る2時間前にはスマートフォンやPCの使用を控える
  • 就寝前に軽いストレッチや入浴でリラックスする
  • 睡眠時間を6〜7時間以上確保する

栄養バランスを意識した食事

髪の生成にはタンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルといった各種栄養素が必要です。

筋トレのためにタンパク質をしっかり摂るのは良いことですが、極端な偏りは頭皮や髪にもマイナス要因になります。バランスの良い食事を心がけて、野菜や果物、適度な炭水化物も取り入れましょう。

食事タイミング内容髪や身体への利点
朝食卵や納豆、果物などタンパク質、ビタミンCで1日の代謝をサポート
昼食魚や肉と野菜の組み合わせ良質なたんぱく質とビタミン、ミネラル
夕食バランスの良い主菜と副菜体の修復やホルモン分泌の安定に寄与
間食ナッツやヨーグルト栄養補給で筋トレ効果を高める

実践的な筋トレメニュー

筋トレのやり方によっては、髪への負担を軽減しながら効率よく筋肉をつけることが可能です。無理なく続けられるメニューを取り入れて、健康的な体と髪を目指しましょう。

有酸素運動と無酸素運動の組み合わせ

ランニングやエアロバイクなどの有酸素運動を取り入れると、心肺機能が高まり血行が良くなります。

筋トレ(無酸素運動)と組み合わせると、体脂肪を効率的に燃やしながら筋肉量を増やし、結果として全身の血流を改善しやすくなります。

  • ウォーキングやジョギングを20〜30分
  • 自重トレーニング(スクワット、プッシュアップなど)
  • ダンベルを使った部位別の筋トレ

運動を組み合わせる際の例

種類時間目的
ウォーキング20分ウォームアップと血行促進
スクワット10回×3セット大腿筋の強化と基礎代謝アップ
エアロバイク15分心肺機能向上と脂肪燃焼
プッシュアップ10回×3セット上半身の筋力強化

自宅でできる軽い筋トレ

自宅で行う筋トレならば、無理のない負荷で取り組みやすく、ストレスを抑えられます。

特に初期段階では負荷が軽いほうが長続きしやすく、頭皮や髪への悪影響を最小限にとどめることも期待できます。

  • 椅子や台を使ったスクワット
  • 膝をついたプッシュアップ
  • チューブトレーニングを活用して肩や腕を鍛える

これらのトレーニングは短時間でも効果を得やすく、オーバートレーニングになるリスクが少ない点がメリットです。

筋トレ後のケアと頭皮マッサージ

筋トレ後は体温が上昇し、汗をかいているため、頭皮も蒸れやすい状態です。そのまま放置すると毛穴の詰まりや雑菌の繁殖で頭皮環境が悪化し、抜け毛を引き起こすかもしれません。

運動後は頭皮を清潔に保ち、マッサージなどで血行を促すと髪に良い影響が期待できます。

ケア方法と意識したいポイント

ケア内容ポイント効果
シャワーで頭皮を洗浄指の腹で優しく洗う皮脂や汗をきちんと洗い流す
頭皮マッサージ頭頂部や側頭部を刺激血流を高め、リラックス効果も得る
トリートメントやコンディショナー頭皮ではなく髪の毛中心に塗布毛髪を保護してダメージを軽減

AGA治療・薄毛治療を検討するタイミング

筋トレと髪の関係に気をつけつつも、抜け毛の進行が明らかに増えたと感じる場合には、専門医への相談が有益です。

セルフケアでは補いきれない部分を医療の力でサポートすると、薄毛の進行を遅らせたり改善を期待できます。

薄毛のサインとセルフチェック法

鏡を見たときに生え際が後退している、頭頂部が薄くなってきたと感じたら、早めに薄毛の進行度を確認すると良いでしょう。

髪の量や頭皮の透け具合を記録に残しておくと、比較がしやすくなります。毛髪の専門家に相談すると、抜け毛の原因を客観的に把握できるケースがあります。

  • 生え際の後退具合
  • 頭頂部の透け感
  • 抜け毛の本数や太さ、毛根の状態

こうしたチェックポイントを自宅で継続的に観察し、早期発見を心がけてください。

筋トレとの両立を考えた治療法

筋トレを継続しながらAGA治療を行う場合、ホルモン療法(内服薬や外用薬)と運動のバランスに注意する必要があります。

テストステロンやDHTに対する抑制を目的とした薬と運動の両立が可能かどうか、主治医と相談すると安心です。

治療によっては、筋トレのパフォーマンスへの影響をほとんど受けない例も多いです。

AGA治療と筋トレの併用における注意点

治療の種類注意点筋トレへの影響
内服薬(フィナステリドなど)副作用の有無を医師と確認筋力に大きな影響は少ないと言われる
外用薬(ミノキシジルなど)頭皮の刺激感やかゆみに注意血行を良くする効果が筋トレと相乗効果になることも
サプリメント過剰摂取にならないように栄養バランス全体の偏りを招かないようにする

よくある質問

さいごに、筋トレと薄毛の関係について、実際によく寄せられる疑問とその回答をまとめます。

Q
筋トレをすると本当に脱毛するのか?
A

筋トレによって脱毛が必ず起こるわけではありません。

男性ホルモンの増加や生活習慣の変化など、個々の体質や遺伝的要素が影響し、結果的に薄毛リスクが高まるケースもありますが、適度な筋トレはむしろ血行促進やストレス解消につながるため、髪に好影響を与えやすいです。

Q
サプリメントと薄毛への影響は?
A

筋肥大を目指してサプリメントを利用する方は多いですが、過剰摂取は髪や健康全般に悪影響をもたらす可能性があります。

特に亜鉛やビタミンのサプリメントを大量に摂りすぎると、他の栄養素とのバランスが崩れるかもしれません。必ず用法用量を守り、必要に応じて医師や栄養士に相談するのが望ましいです。

Q
プロテインははげる原因になる?
A

プロテインを飲んだだけで直接はげるわけではありません。

ただし、タンパク質の摂りすぎが肝臓や腎臓に負担をかけたり、ビタミン・ミネラルが不足したりすると、結果的に頭皮環境が悪化して薄毛を促進する可能性は否定できません。

適量を守り、食事とのバランスに配慮すれば、プロテインが髪に与える悪影響は最小限に抑えられます。

Q
AGA治療と筋トレは同時に行える?
A

AGA治療は基本的に筋トレと同時に行って問題ありません。ただし、薬の内容によっては副作用やホルモンバランスの変化が懸念されるため、医師の指示を守りましょう。

適切なトレーニング頻度と治療の組み合わせによって、髪のケアと体づくりを両立することは十分に可能です。

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