薄毛、気になりますよね。
薄毛というと男性のイメージが強いですが、見た目が気になるのは女性も同じ。むしろ、女性のほうが見た目を気にする方が多い分、いざ抜け毛が目立つととてもショックですよね。
世の中にはウィッグなども売っていますが、根本的に治ったらいいなと思うのは男女同じ考え。
代表的な治療薬である、ミノキシジルについて説明します。
あなたの悩みが減って、自分らしく生きることができますように。
この記事のポイント
- ミノキシジルは血管に作用する
- 頭皮の血管に作用すると抜け毛解消につながる
- 全身の血管に作用すると副作用が問題に
- 塗り薬と飲み薬。それぞれのメリットデメリット
- 自分らしく生きることが大切。薄毛の精神的な問題も解決しよう
- 良い専門家に巡り合えますように
この記事を書いた医師
名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。
本文中の上付き数字1)2)3)は論文引用箇所で文末に論文名を記載しています
髪の毛を元気にする薬、ミノキシジル
ミノキシジルは男性型脱毛症(AGA)の治療薬として有名になりましたが、機能的には男性型脱毛症以外の脱毛症にも効果があります。
そして、病気のせいではない女性の薄毛を治療するには、むしろミノキシジルが一番効果的な手段です。
そもそもミノキシジルって何?~もともとは高血圧の薬でした~
ミノキシジルは、もともと高血圧の薬として開発されたものでした。
血管は筋肉で出来ているのですが、その筋肉が伸び縮みすることで血管が拡張や収縮をして、その中を流れている血液の流れの勢い(血圧)をコントロールしています。
それを薬の力で広げっぱなしにして、血圧を抑えようとしました。
ホースを摘まんで細くすると、水は勢いよく出ますよね?その逆をしようとしたわけです。
するとその薬を飲んだ人達に、全身の毛が濃くなる「多毛症」という副作用が出るようになりました。
そこで製薬会社(コロナワクチンで有名になったファイザー製薬です)はひらめきました。
これは薄毛の治療に使える…!?
こうしてミノキシジルという薄毛治療薬が開発されたのでした。
その後の研究で、血管を広げることで血液が毛根の毛母細胞(毛を作るお母さん)にたくさん届くようになり、毛を生やすために必要な栄養もたくさん流れるようになったのでは、ということがわかってきました。
飲み薬から塗り薬へ~副作用が問題に~
こうしてファイザー社はミノキシジルという成分を薄毛治療薬として研究開発しました。
しかし、いざ使おうという時に問題が。
飲み薬だと、大変な副作用がたくさん出てしまったのです。
ミノキシジルは血管を広げる薬。その結果、ほかの血管や心臓といった「循環器」に負担がかかってしまったのです。
肝心な頭皮にだけミノキシジルを届けたい…
そうしてファイザー社が生み出したものは「塗り薬としてのミノキシジル」です。
こちらなら安心ということで、日本では「リアップ」という名前で薬局でも売られるようになりました。
現在は特許が切れているため、通称「塗りミノ」としてたくさんの製薬会社がミノキシジルの塗り薬を出しています。
飲み薬は未認可~公式には医薬品ではありません~
輝かしいデビューを果たしたミノキシジル外用薬。一方、飲み薬のミノキシジルはどうなったのでしょうか。
副作用があまりにも問題となり、日本皮膚科学会は「危ないので飲まないように」と声明を出しました。そのような薬ですので、日本では厚労省の認可は受けていません。
ですから市町村にある皮膚科クリニックや病院では通常取り扱いがありません。
しかし、開発経緯を考えるに発毛効果が高いことは事実。脱毛専門クリニックではミノキシジルの飲み薬、通称ミノタブを処方している所がほとんどです。
未認可の薬を使う注意点~キーワードはインフォームド・コンセント~
厚労省が認可していない薬を使うことができるのでしょうか。医師法や医療法としては大丈夫なのでしょうか。
結論から言うと、できます。
例えばわたしも9価のHPVワクチン(ガーダシル9)が日本で認可されていなかった時代に、個人輸入をして接種したことが(その後日本もこのワクチンを認可し、現在はシルガード9という名前で商品化されています)。
また、世の中には出ていない新薬を開発・研究するためにも、認可されていない薬をみなさんに使うことになるのです。
もちろん法律が所持や使用を禁止している薬品(大麻など)は使うことができませんが、ミノキシジルにはそのような法的制限はありません。
ではそのような薬を使うには、何が大切でしょうか。キーワードは「インフォームド・コンセント」。
インフォームド・コンセントが肝心
医療行為というものは、どんな行為も医師や医療機関が患者さんに方法や効果、副作用などをしっかり説明して(インフォームド)、患者さんがそれに同意する(コンセント)ことで成立。
これをインフォームド・コンセントと言います。特に自由診療では万が一のときに国からの補償が受けられなかったり高額だったりするため、インフォームド・コンセントがより大切に。
そのクリニック、インフォームド・コンセントしてますか?
では、ミノキシジルの飲み薬を出している脱毛関連クリニックはどうでしょうか。
皆さんの中には、実際にそのようなクリニックを検討した方もいるかもしれません。また、最近はオンラインで簡単にミノキシジル内服薬が処方されるというケースも増えています。
肝心なところですが、そのクリニックでは、皆さんが不安のないような説明がされているでしょうか?
実は医者にも日雇いや時間給のアルバイトがたくさんあります。
医者専用のアルバイト募集サイトには、ミノキシジルを扱う脱毛関係のクリニックからの募集も多々。クリニックは立派でも、肝心の医者はアルバイトということもあるのです。
医薬品として扱えないほどの副作用の危険が高く、何かあっても国からの補償が得られない薬、ミノタブ。
そのリスクをしっかり説明して、何かあったときに対処をしてくれるクリニックはどれくらい存在するのでしょうか。
わたしが知っている脱毛症関連のアルバイトの中には「マニュアルに沿って誰でも簡単にできる流れ作業」として人気なものも少なくありません。
そういったものに集まる医者の多くは、脱毛症のことを皮膚科医ほど良く知らない方が多いのではないかと思います。
では、どんなリスクがあるのでしょうか。皮膚科医、そして内科専門医としてしっかり説明させてください。
ミノキシジルの副作用~キーワードは循環器~
残念ながら、どんな薬にも、漢方やサプリメントでさえ、副作用の可能性があります。
「身体に何らかの良い効果を及ぼす」ことを期待してそれらを使うわけですが、「身体に何らかの効果が出る」ということは、それだけ身体に変化が起こっているということ。
良い変化もあれば悪い変化もあるということですね。全く変化が起こらない薬やサプリというものは副作用もないかもしれませんが、効果もないかもしれません。
(もちろん、副作用が出ないことを期待して製薬開発されていますが、どうしても一定の人には悪い変化が明らかになってしまう、ということです。副作用がないからといって心配しないでください。)
そもそものミノキシジル自体、「血圧を下げる」という効果を期待していたのに「毛が濃くなる」という副作用が出現したことから誕生した脱毛改善薬でした。
ただ、ミノキシジルの場合は心臓や血管といった「循環器」に起こる副作用があまりにも問題となってしまい、厚労省の認可が下りませんでした。
毛が生えるのも、循環器に負担がかかるのも、血管が広がるから
開発経緯で話したように、ミノキシジルは「血管の壁を作っている筋肉を緩めて血管を広げる薬」です。血管が広がった結果毛に血液が届くようになり、毛が生えるようになったのでした。
一方の副作用も、やはり血管が広がることによるものです。
空気入れを想像してください。ホースが太いと、ポンプを動かすのがすごく大変そうですよね。心臓も同じです。血管が広がると、それだけ血液を流すことが難しくなってしまいます。
これを逆手にとって、血液の勢いを抑えて高血圧の治療をしようとしたことがミノキシジル本来の狙いでした。
しかし心臓に負担がかかったり、毛などほかの組織に血液が届く分心臓を動かす筋肉(心筋)への血液が足りなくなったりし、心不全(浮腫み、息切れ、動悸、不整脈など)や心筋虚血(狭心症、心筋梗塞など)が問題に。
また、脳の血管が広がることで、片頭痛持ちの人の発作が酷くなる、ということにも繋がってしまうのです。
片頭痛は脳の血管が広がりすぎて起こり、心臓のドクドクとした拍動に合わせてズキズキ痛むので、脳の血管を収縮させる薬で治療することができます。
外用薬の副作用
こうしてミノキシジルの飲み薬が問題になったため、製薬会社は「頭皮の血管にだけミノキシジルを届けたい」と思い、塗り薬(塗りミノ)を開発しました。
塗り薬にももちろん副作用はありす。それは、塗ることによって頭皮がかぶれてしまうことです。
塗り薬によるかぶれはどんな塗り薬でも起こり得ます。「何かに皮膚が触れる」だけでその「なにか」でかぶれてしまうということは仕方のないことです。
頭皮が炎症を起こしているだけで薄毛や抜け毛に繋がります
そもそもの話ですが、抜け毛の原因の一つに「頭皮が炎症を起こしている」というものがあります。
何かによるかぶれが原因だったり、体質的な問題だったりして頭皮が炎症を起こす(脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎など)と、それだけで毛を作る力が弱くなってしまい、脱毛に繋がるのです。
塗り薬のミノキシジルは炎症を起こしている皮膚には使わないように、とされています。
そもそも炎症が起こっていることに気が付かずにミノキシジルを塗ると、かえって頭皮の炎症が酷くなり悪循環に陥ることになるかもしれません。
ですので、頭の薄毛はまず皮膚科医による診察が必要と考えます。そのうえでミノキシジルの塗り薬を勧められたら、是非検討してみてください。
副作用を防ぐためには
ミノキシジルの副作用は飲み薬だと循環器、塗り薬だと皮膚に起こることは説明いたしました。
副作用を完全に防ぐことは難しいですが、早めに対処すれば問題にならないことが多いです。そのためには専門家である循環器や皮膚科のバックアップがあると安心ですね。
また、副作用が起こる確率はミノキシジルを使う量に左右されます。
女性の場合は男性に比べて塗る濃度も飲む量も少なめにした方がいいでしょう。
女性へのミノキシジルは控えめに
市販の塗りミノキシジルには、女性用のものもあります。
代表的なものは大正製薬がファイザー社(ミノキシジルの製薬会社)から使用権を譲り受けて作った「リアップレディ」や後発品「リアップリジェンヌ」で、ミノキシジルの濃度は1%です。
男性の標準的なミノキシジル濃度が5%であることに比べると少ないのですが、研究の結果女性の場合は1%のほうが副作用と効果の兼ね合いがとれているということで販売されています。
もちろん1%で効果が出ない方もいますので、それ以上となると専門家と相談する必要が。
一方で飲み薬のミノキシジルもやはり男性よりは控えるべきです。多くても2.5mgが限度といったところでしょうか。少ないに越したことはありません。
女性の脱毛症を扱っているクリニックでしたら間違いなく女性用のミノキシジルを用意しているはずですので、相談していただければと思います。
使うリスク、使わないリスク
さて、ミノキシジルの副作用についてお話しいたしました。
こう見ると、怖くて使いたくなくなりますよね。
でもここまで見てくださっている皆さんは、程度はどうであれ薄毛に悩んでいる方が多いと思います。
薄毛、気になりますよね。
薄毛による精神的な問題も
ミノキシジルを使うことで薄毛治療の効果が期待できることは事実です。
このままの髪の毛で気を揉むことも、それはそれで心の健康のリスクに繋がります。
恥ずかしくて人前に出られなくなったり、自分らしく振舞えなくなったり…
公認心理師としてお話しすると、そのような心理的な問題は、ミノキシジルの副作用の問題と同等に扱うべきだと思います。
ましてや髪の毛については人に話しにくい内容と思う人が多いもの。
ストレスへの対処方法をストレスコーピングと呼びますが、その一つである「人に話して発散する」ということが、見た目の問題だとしにくいのです。
あなたには、悩みを話したり、精神的に寄り添える人(ゲートキーパー)はいますか?薄毛の悩みも話せる人はいますか?
もちろん、ミノキシジル以外の対処法もあります。
ウィッグを使ったり、植毛したり、不足している栄養を補ったり…
ただ、効果がない、あるいは少ないのに薄毛対策と名を打って商売をしている所も多いです。
前述したように薄毛の原因に病気が隠れていることもあるので、まずは皮膚科で相談してください。
それでも満足いただけない方は、検討の余地はあると思います。
大切なことはリスク管理
ミノキシジルの副作用はお話しした通りです。そのリスクを管理する方法をしっかり理解し協力していただけるなら、むしろ使わないリスクの方が高いかもしれません。
それぞれのリスクをしっかり理解して、管理できる。それが真の専門家です。
昨今の薄毛治療業界は「いかに安く、いかに多くの人にミノキシジルを売るか」という薄利多売の世界になっています。
心身ともに自分の健康を守るためには、真の専門家に巡り合うことが大切ですね。
まとめ
- ミノキシジルは血管を広げる薬
- 頭皮の血管に作用すると脱毛が改善する
- 全身の血管に作用すると循環器の副作用が問題に
- 塗り薬のほうが安全。でも飲み薬も検討の余地あり。
- 薄毛は精神的な問題が大きくなる。治療しないことのリスクも。
- 大切なことは良い専門家に出会うこと