
ウゴービ(一般名:セマグルチド)は、2023年3月に厚生労働省から製造販売承認を取得し、2024年2月に国内で発売された肥満症治療薬です。日本で肥満症を対象とする新薬が登場したのは約30年ぶりのことでした。
有効成分セマグルチドはGLP-1受容体作動薬に分類され、脳の満腹中枢に働きかけて食欲を穏やかに抑えます。日本人を含む大規模臨床試験では、68週間で13%以上の体重減少が報告されました。
この記事では、ウゴービが日本で承認されるまでの経緯や臨床試験の結果、処方対象の条件などを、肥満に悩む方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。
ウゴービはどのような経緯で日本の承認を勝ち取ったのか
ウゴービが日本で肥満症治療薬として承認されたのは2023年3月27日で、実際に患者の手に届いたのは2024年2月22日です。承認から発売まで約1年を要した背景には、薬価の設定や適正使用の枠組みづくりという慎重な作業がありました。
セマグルチドという有効成分が注目された背景
セマグルチドは、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬です。「オゼンピック」や「リベルサス」という名称で糖尿病治療に広く使われてきました。
糖尿病患者さんへの投与中に「食欲が落ちて体重が減る」という報告が相次いだことから、肥満症そのものへの応用が検討されるようになったのです。ノボ ノルディスク社は、肥満症治療に特化した高用量製剤としてウゴービを開発しました。
海外での先行承認と日本への影響
ウゴービは2021年6月に米国FDAから承認を受け、その後ヨーロッパやカナダでも使用が認められました。海外での承認実績と大規模臨床データの蓄積が、日本での審査を後押しする材料になったといえるでしょう。
アジアでは日本が初めてウゴービを導入した国であり、世界で6番目の発売国となりました。欧米とアジアでは肥満の定義やBMI基準が異なるため、東アジア人を対象とした独自の臨床試験(STEP 6)の実施が承認の鍵を握りました。
ウゴービの海外承認状況
| 国・地域 | 承認年 | 備考 |
|---|---|---|
| 米国(FDA) | 2021年 | 世界初の承認 |
| EU(EMA) | 2022年 | 欧州全域で使用可能に |
| 日本(厚労省) | 2023年 | アジア初の承認国 |
厚生労働省への承認申請から承認取得までの流れ
ノボ ノルディスク ファーマは、STEP臨床試験プログラムの結果をもとに日本での承認申請を行いました。特に日本人585人が参加したSTEP 6試験のデータが審査では重視されています。
厚生労働省は2023年3月27日に製造販売承認を出しましたが、薬価基準への収載は同年11月22日までずれ込みました。肥満症治療薬は約30年ぶりの新薬であったため、適正使用推進ガイドラインの整備にも時間がかかったのです。
GLP-1受容体作動薬ウゴービが食欲を抑える仕組みとは
ウゴービの有効成分セマグルチドは、体内で自然に分泌されるGLP-1というホルモンと似た構造を持ち、脳の満腹中枢に働きかけて「もう十分食べた」という信号を強めます。その結果、無理な我慢をしなくても食事量が自然に減っていきます。
GLP-1ホルモンが脳に働きかけて満腹感を生み出す
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食事をとると小腸のL細胞から分泌されるホルモンです。膵臓に作用してインスリン分泌を促すだけでなく、脳の視床下部にある食欲中枢にも信号を送り、満腹感を高めます。
ただし、天然のGLP-1は体内で数分のうちにDPP-4という酵素で分解されてしまいます。食後にわずかな時間しか効果が持続しないため、そのままでは薬として使うことが難しいという課題がありました。
セマグルチドが天然GLP-1より長く体内で効果を発揮する理由
セマグルチドはGLP-1の構造を改変し、血中のアルブミンというたんぱく質と結合しやすくした薬剤です。アルブミンと結びつくことでDPP-4による分解を免れ、体内での半減期が約1週間にまで延長されました。
そのため週に1回の皮下注射で十分な効果が続きます。毎日薬を飲む負担がなく、治療の継続がしやすい点は、多くの患者さんにとって大きなメリットでしょう。
糖尿病治療薬から肥満症治療薬へ用途が広がった経緯
オゼンピック(セマグルチド1.0mg)は糖尿病治療薬として先に承認されていましたが、ウゴービでは肥満症に特化して2.4mgという高用量を設定しています。用量を引き上げたことで、糖尿病のない肥満症患者にも顕著な体重減少効果が得られるようになりました。
日本では糖尿病のない方に対して肥満症治療の適応を持つGLP-1受容体作動薬はウゴービだけです。この点がオゼンピックやリベルサスと大きく異なります。
ウゴービとオゼンピックの比較
| 項目 | ウゴービ | オゼンピック |
|---|---|---|
| 適応症 | 肥満症 | 2型糖尿病 |
| 維持用量 | 2.4mg/週 | 0.5〜1.0mg/週 |
| 投与方法 | 週1回皮下注射 | 週1回皮下注射 |
STEP臨床試験プログラムが世界規模で実証した驚きの減量データ
ウゴービの承認を支えたのは、世界中で約5,000人が参加した「STEP臨床試験プログラム」という大規模な研究群です。複数の試験を通じて、セマグルチド2.4mgが生活習慣の改善だけでは得られない大幅な体重減少をもたらすことが証明されました。
STEP 1試験で確認された平均約15%の体重減少
STEP 1試験は、糖尿病のない肥満・過体重の成人1,961人を対象に68週間にわたって行われた試験です。セマグルチド2.4mg群では体重がベースラインから平均14.9%減少し、プラセボ群の2.4%を大きく上回りました。
参加者の86.4%が5%以上、69.1%が10%以上、50.5%が15%以上の体重減少を達成しています。従来の肥満症治療薬では5〜10%の減量が限界とされてきたことを考えると、この結果は画期的だといえます。
2型糖尿病を合併した肥満患者への効果(STEP 2試験)
STEP 2試験は、BMI 27以上で2型糖尿病を合併する成人1,210人を対象としました。セマグルチド2.4mg群では68週で平均9.6%の体重減少が認められ、プラセボ群の3.4%と比較して有意な差がありました。
糖尿病患者は一般に薬剤による体重減少が得にくいとされていますが、それでも約10%近い減量効果が確認されたことは臨床上大きな意味を持ちます。
STEP試験プログラムの主な結果まとめ
| 試験名 | 対象 | 体重減少率 |
|---|---|---|
| STEP 1 | 糖尿病なし | 平均14.9% |
| STEP 2 | 2型糖尿病あり | 平均9.6% |
| STEP 5 | 糖尿病なし(104週) | 平均15.2% |
| STEP 6 | 東アジア人 | 13%以上 |
治療を継続すれば体重はリバウンドしにくい(STEP 4・5試験)
STEP 4試験では、20週間セマグルチドを使用した後に薬をプラセボに切り替えたグループと、継続したグループを比較しました。継続グループはさらに体重が減少した一方、中止グループは体重が増加に転じたのです。
STEP 5試験では104週間(約2年間)の長期投与が検証され、平均15.2%の体重減少が維持されました。肥満症は慢性疾患であるため、治療を続けることが体重維持には大切だと裏付けられた結果です。
日本人585人が参加したSTEP 6試験で得られた確かな結果
日本でのウゴービ承認において決め手となったのが、日本と韓国で実施されたSTEP 6試験の結果です。東アジア人は欧米人と比べてBMIが低くても内臓脂肪が蓄積しやすいという体質の違いがあり、アジア人に適した用量と効果の検証が求められていました。
東アジア人特有の体格と肥満の定義に配慮した試験設計
STEP 6試験は、日本と韓国の28施設で計401人(うち日本人585人を含む広いプログラム全体から抽出)を対象に行われた第III相試験です。BMI 27以上で2つ以上の合併症がある方、またはBMI 35以上で1つ以上の合併症がある方が参加しました。
欧米の試験ではBMI 30以上を「肥満」と定義しますが、アジアではBMI 25以上で肥満とされます。この基準の違いを考慮した試験デザインが、日本での承認審査に説得力を持たせました。
68週で13%以上の体重減少を達成
STEP 6試験では、セマグルチド2.4mg群が68週時点でベースラインから13.2%の体重減少を示しました。1.7mg群でも9.6%の減少が確認されており、プラセボ群の約2〜3%と比較して際立った差があります。
参加者の83%が5%以上、61%が10%以上、41%が15%以上の体重減少を達成しました。欧米でのSTEP試験と同等かそれ以上の効果が、東アジア人においても再現されたのです。
血圧・血糖・脂質の改善も確認された
体重の減少にとどまらず、血圧や血糖値(HbA1c)、LDLコレステロールなどの代謝パラメータにも改善が見られました。腹部内臓脂肪面積の有意な減少も報告されており、単なる体重の数字だけでなく、体の中から健康状態が良くなることが示されています。
副作用は主に吐き気や下痢といった消化器症状で、大半が軽度から中等度でした。治療開始初期に症状が出やすく、数週間で軽快する傾向があります。
STEP 6試験の主な結果
| 指標 | セマグルチド2.4mg群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 体重変化率 | −13.2% | −2.1% |
| 5%以上減量達成率 | 83% | 21% |
| 消化器系副作用 | 59% | 30% |
承認から発売まで約1年を要した背景と薬価収載の経緯
ウゴービは2023年3月に承認されながら、実際の発売は2024年2月まで待つ必要がありました。約30年ぶりに登場した肥満症新薬だからこそ、医療現場での適正使用を担保するための体制づくりに時間をかけたのです。
約30年ぶりの肥満症新薬が抱えた課題
日本で肥満症を適応とする医療用医薬品が新たに発売されるのは、実に約30年ぶりの出来事でした。長いブランクがあったため、処方できる施設の要件や投与期間の制限など、適正使用の枠組みをゼロから設計する必要がありました。
GLP-1受容体作動薬が美容目的で不適正に使用されている社会問題も背景にあり、ウゴービの乱用を防ぐための厳格なルールづくりが急務だったのです。
2023年11月の薬価収載と2024年2月の発売開始
薬価基準への収載は2023年11月22日に行われました。そして2024年2月22日、ノボ ノルディスク ファーマはウゴービ皮下注の発売を正式に開始しています。
- 2023年3月27日:厚生労働省が製造販売承認
- 2023年11月22日:薬価基準に収載
- 2024年2月22日:国内で発売開始
アジア初・世界6番目のウゴービ導入国に
日本はアジアで初めて、世界で6番目にウゴービを導入した国となりました。肥満症を「治療が必要な慢性疾患」として正面から取り組む姿勢が、国際的にも評価されています。
ただし、処方可能な施設は日本糖尿病学会や日本内科学会などの教育研修施設に限られるため、一般的なクリニックで気軽に手に入る薬ではありません。患者さんが受診前に施設の要件を確認しておくことが大切です。
ウゴービを使える人の条件|BMI基準と投与スケジュールを確認しよう
ウゴービは「誰でも使える痩せ薬」ではなく、医学的に肥満症と診断された方のうち、厳格な基準を満たす方だけが対象になります。食事療法・運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に、はじめて薬物治療の選択肢として検討されます。
BMI35以上またはBMI27以上で合併症がある方が対象
ウゴービの処方対象は、BMIが35以上の高度肥満症の方、またはBMIが27以上で高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを2つ以上合併している方です。美容目的の使用は認められていません。
18歳以上の成人が対象であり、妊娠中・授乳中の方や甲状腺髄様がんの既往がある方は使用できません。処方前には必ず医師の診察と検査を受ける必要があります。
0.25mgから段階的に増量し2.4mgまで引き上げる投与計画
ウゴービは最初から高用量を投与するのではなく、0.25mgの低用量から始めて4週間ごとに段階的に増量していきます。16週目に維持用量の2.4mgに到達する設計です。
この段階的な増量方式には、消化器系の副作用(吐き気や下痢など)を軽減する狙いがあります。体が薬に慣れるまでゆっくり用量を上げていくため、副作用が出ても比較的軽度で済むケースが多いでしょう。
投与期間は68週が上限とされている
現在の日本の適正使用推進ガイドラインでは、ウゴービの投与期間は68週間(約1年4か月)が上限です。治療期間中は2か月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けることも義務づけられています。
68週間の治療が終了した後は、生活習慣の改善で体重を維持していくことが基本方針です。肥満に関連する健康上の問題が改善されれば、早期に終了する判断もありえます。
ウゴービの増量スケジュール
| 投与期間 | 用量 | 目的 |
|---|---|---|
| 1〜4週目 | 0.25mg | 導入期 |
| 5〜8週目 | 0.5mg | 漸増期 |
| 9〜12週目 | 1.0mg | 漸増期 |
| 13〜16週目 | 1.7mg | 漸増期 |
| 17週目以降 | 2.4mg | 維持期 |
約30年ぶりの新薬が変えた日本の肥満症治療の風景
ウゴービの登場は、日本の肥満症治療において転換点となりました。長年にわたり「生活習慣の改善」だけに頼ってきた治療体系に、科学的根拠に基づく薬物療法という新たな柱が加わったのです。
糖尿病がなくても使えるGLP-1受容体作動薬が登場した
それまで日本では、GLP-1受容体作動薬を肥満治療に使おうとしても、糖尿病の診断がなければ適応外でした。ウゴービは糖尿病のない肥満症患者にも正式に使用が認められた初のGLP-1受容体作動薬です。
- 糖尿病がなくても肥満症として処方を受けられるようになった
- 週1回の注射で高い減量効果が期待できる
- 約30年ぶりの新薬として日本の肥満症治療に選択肢が増えた
肥満は「治療すべき病気」という認識が広まり始めた
日本では約1,600万人が肥満症を抱えているとされますが、医師から肥満症と診断されている方はわずか2.1%(約33万人)にすぎません。「太っているのは自己責任」という偏見が根強く、医療機関を受診するハードルが高かったのです。
ウゴービという具体的な治療手段が登場したことで、「肥満症は慢性疾患であり、適切な医療を受けるべきもの」という認識が少しずつ社会に浸透し始めています。
ウゴービが切り拓いた肥満症の薬物療法という選択肢
ウゴービの成功を受けて、今後は別の作用を持つ肥満症治療薬の開発・承認も加速するとみられています。GIP/GLP-1受容体共作動薬など、次世代の薬剤も臨床試験が進行中です。
肥満症に悩む方にとって、「頑張っても痩せられない自分が悪い」と思い詰める時代は終わりに向かっています。医師と相談しながら、自分に合った治療を選べる時代がすでに始まっているのです。
よくある質問
ウゴービは日本でいつ承認され、いつ発売されましたか?
ウゴービは2023年3月27日に厚生労働省から製造販売承認を取得しました。その後、薬価基準への収載を経て、2024年2月22日に国内で正式に発売されています。
承認から発売まで約1年かかったのは、適正使用推進ガイドラインの策定や処方施設の基準整備に時間を要したためです。日本はアジアで初めて、世界で6番目のウゴービ導入国となりました。
ウゴービの有効成分セマグルチドはどのように体重を減らすのですか?
セマグルチドはGLP-1受容体作動薬に分類される薬剤で、脳の満腹中枢に働きかけて食欲を穏やかに抑えます。食事をとったときに「もう十分食べた」と感じる信号が強まるため、無理な食事制限をしなくても自然に食事量が減っていきます。
天然のGLP-1ホルモンは体内で数分で分解されてしまいますが、セマグルチドは構造を改変して半減期を約1週間に延長しています。そのため週1回の皮下注射で効果が持続するのです。
ウゴービの処方を受けるにはどのようなBMI基準を満たす必要がありますか?
ウゴービの処方対象は、BMIが35以上の高度肥満症の方、またはBMIが27以上で高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のうち2つ以上を合併している方です。食事療法・運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り、薬物治療の対象となります。
美容目的やダイエット目的の使用は認められていません。必ず専門医の診察と検査を受けたうえで、医学的に肥満症と診断された方だけが処方を受けられます。
ウゴービのSTEP 6試験で日本人参加者にはどの程度の体重減少が確認されましたか?
日本人と韓国人を対象としたSTEP 6試験では、セマグルチド2.4mg群が68週時点で13.2%の体重減少を達成しました。参加者の83%が5%以上、61%が10%以上の減量に成功しています。
体重だけでなく、血圧やHbA1c、脂質パラメータの改善も報告されており、東アジア人においても欧米と同等の有効性が確認された重要な試験です。
ウゴービの投与期間に上限はありますか?
現在の日本の適正使用推進ガイドラインでは、ウゴービの投与期間は68週間(約1年4か月)が上限と定められています。治療期間中は2か月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けることも求められます。
68週間の治療終了後は、身につけた食生活や運動習慣を維持しながら体重管理を続けていくことが基本です。肥満に関連する健康上の問題が十分に改善された場合は、68週を待たずに早期終了することもあります。
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