海外在住者のゼップバウンド事情|現地での処方と日本への持ち込みルール

海外在住者のゼップバウンド事情|現地での処方と日本への持ち込みルール

海外に住んでいると「日本では手に入りにくい肥満症治療薬が、現地では処方してもらえるかもしれない」と期待する方は少なくないでしょう。チルゼパチドを有効成分とするゼップバウンドは、アメリカでは2023年にFDA承認を受け、肥満症治療の選択肢として広く処方されています。

一方で、海外で処方された薬を日本へ持ち込むには、厚生労働省の定める個人輸入ルールへの注意が必要です。この記事では、海外での処方の流れから日本への持ち込み手続き、帰国後の治療継続まで、肥満症専門医の視点でわかりやすくお伝えします。

目次 Outline

ゼップバウンド(チルゼパチド)は海外でどう処方されている?

ゼップバウンドは海外の多くの国で肥満症治療薬として医師の処方のもとで使用されており、とくにアメリカでは処方数が急増しています。日本では2024年12月に製造販売承認を取得し、2025年4月に発売されました。

アメリカでのゼップバウンド処方が急増した背景

アメリカでは2023年11月にFDA(米国食品医薬品局)がゼップバウンドを肥満症治療薬として承認しました。成人の約4割が肥満に該当するとされるアメリカでは、社会的な関心も高く、承認直後から処方件数が大幅に伸びています。

もともと2型糖尿病治療薬「マンジャロ」として使われていたチルゼパチドが、糖尿病のない肥満患者にも顕著な体重減少効果を示したことから、肥満症治療に特化した製剤として新たに承認されたという経緯があります。

GIPとGLP-1の「二重の作用」が注目される理由

ゼップバウンドの有効成分チルゼパチドは、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する「デュアルアゴニスト」です。従来のGLP-1受容体作動薬が1つのホルモン経路だけに働きかけるのに対し、2つの経路を同時に活性化させることで、食欲の抑制と脂肪代謝の両面からアプローチできます。

大規模臨床試験であるSURMOUNT-1試験では、72週間の投与で体重が平均15〜21%減少したと報告されており、従来の肥満症治療薬と比較しても際立った成績を示しています。

ゼップバウンドの主な海外承認状況

国・地域承認時期適応
アメリカ2023年11月肥満症・閉塞性睡眠時無呼吸
イギリス2023年11月体重管理
EU2022年9月(糖尿病)2型糖尿病(チルゼパチドとして)
日本2024年12月肥満症

週1回の皮下注射という手軽さが海外在住者にも支持される

ゼップバウンドは週に1回、自分で皮下注射するタイプの薬剤です。毎日の服薬が不要なため、生活リズムが不規則になりがちな海外在住者にとっても継続しやすい治療法といえるでしょう。専用のペン型注入器を使うため、注射に慣れていない方でも比較的扱いやすい仕組みになっています。

海外在住者がゼップバウンドを現地で入手するまでの流れ

海外でゼップバウンドの処方を受けるには、現地の医療機関を受診し、医師の診断を経たうえで処方箋を発行してもらう必要があります。オンライン診療の活用が広がっている国もあり、入手経路は国ごとに異なります。

現地の医師の診察と処方箋が必ず必要になる

ゼップバウンドは処方箋医薬品であるため、どの国でも医師の診察を経なければ入手できません。アメリカであれば内科やエンドクリノロジー(内分泌科)の専門医、肥満症クリニックなどを受診し、BMIや併存疾患の有無を確認したうえで処方が判断されます。

国によっては一般開業医(GP)の紹介状が必要な場合もあるため、受診先の医療制度を事前に確認しておくと安心でしょう。

オンライン診療(テレヘルス)で処方を受けるケースも増えている

アメリカでは、テレヘルスプラットフォームを通じてゼップバウンドの処方を受ける方が増えています。自宅からビデオ通話で医師の診察を受け、処方箋が電子的に薬局へ送信される仕組みです。

ただし、オンライン診療の対象範囲や合法性は州や国によって異なります。診察の質やフォローアップ体制も確認したうえで利用することが大切です。

処方後は薬局またはダイレクト配送で受け取る

処方箋が発行されたら、地元の薬局で受け取るか、メーカーのダイレクト配送サービスを利用する方法があります。アメリカではイーライリリー社が運営する「LillyDirect」を通じて自宅配送を受けることも可能です。

ゼップバウンドは冷蔵保存が必要な薬剤ですので、配送時の温度管理が確保されたルートを選ぶようにしてください。

海外でゼップバウンドを入手する一般的な流れ

手順内容注意点
受診現地の医師による診察・検査BMI基準は国により異なる
処方医師が処方箋を発行オンライン診療の可否を確認
入手薬局またはダイレクト配送冷蔵保管が必須

アメリカ・ヨーロッパ・アジアで異なるゼップバウンドの承認状況と価格帯

ゼップバウンドの入手しやすさは滞在国の承認状況や医療制度に大きく左右されます。とくに自己負担額は国によって大きな差があるため、海外在住者にとって費用面の確認は欠かせません。

アメリカでは高額だが割引プログラムも用意されている

アメリカでのゼップバウンドの薬価は、保険適用がない場合1回分(4本入りカートン)で1,000ドル(約15万円)を超えることもあります。ただし、イーライリリー社が提供する貯蓄プログラムやクーポンを利用できるケースもあり、民間保険の適用可否によって自己負担額は大きく変動します。

保険でカバーされない場合でも、メーカーの自己負担軽減プログラムを活用すれば月額の負担を数百ドル程度に抑えられる場合がありますので、処方前に確認してみてください。

ヨーロッパやオーストラリアでは承認状況にばらつきがある

主要国におけるチルゼパチドの承認状況(2025年時点)

国・地域糖尿病承認肥満症承認
アメリカ承認済み承認済み
イギリス承認済み承認済み
EU諸国承認済み一部で審査中
オーストラリア承認済み審査中

EU域内ではチルゼパチドが2型糖尿病治療薬として承認されていますが、肥満症を適応とした承認は国によって対応が分かれています。イギリスでは2023年にMHRA(英国医薬品・医療製品規制庁)が体重管理への適応を認めており、NHSでの取り扱いも進みつつあります。

オーストラリアではTGA(医薬品管理局)が糖尿病向けに承認している一方、PBS(薬剤給付制度)への収載は見送られており、プライベート処方での入手が基本となります。

アジア圏では日本に加え中国でも臨床試験データが蓄積されている

日本では2024年12月にゼップバウンドが肥満症治療薬として製造販売承認を取得しました。日本人を対象としたSURMOUNT-J試験では、72週間で17.8〜22.7%の体重減少が確認されており、欧米人と同等以上の有効性が示されています。

中国でもSURMOUNT-CN試験が実施され、52週間で14.4〜19.9%の体重減少が報告されました。アジア人における有効性データの蓄積が進んでいる点は、海外在住の日本人にとっても安心材料になるでしょう。

海外で処方されたゼップバウンドを日本へ持ち込むときのルール

海外で処方されたゼップバウンドを日本に持ち込むことは、厚生労働省の定める個人輸入のルールに従えば認められます。ただし数量制限や必要書類など、事前に把握しておくべき条件があります。

日本の医薬品個人輸入ルールを正しく把握しておこう

日本では、個人が自分で使用する目的であれば、海外から医薬品を持ち込む(個人輸入する)ことが認められています。医薬品医療機器等法に基づき、注射剤を含む処方薬は「用法・用量からみて1か月分以内」であれば、輸入確認証なしで税関を通過できます。

1か月分を超える量を持ち込みたい場合は、地方厚生局(関東信越厚生局または近畿厚生局)に輸入確認証の申請が必要です。申請には海外の医師が発行した処方箋や服用指示書を添付しなければなりません。

医師の処方箋と英文レターを必ず携帯する

空港の税関で医薬品について質問された場合に備え、海外の主治医が発行した処方箋のコピーを携帯しておきましょう。加えて、薬剤名・用量・治療の必要性を記載した英文のレター(医師の署名入り)があると手続きがスムーズに進みます。

日本語への翻訳を添えておくとさらに安心です。注射器や針を含む医療器具も税関で確認される可能性がありますので、処方箋と一緒に保管しておいてください。

個人輸入した医薬品を他人に譲渡・販売するのは違法

個人輸入はあくまで「自分自身が使う」ことが条件です。持ち込んだゼップバウンドを家族や知人に分けたり、転売したりする行為は医薬品医療機器等法違反となります。また、他人の分をまとめて輸入することも認められていません。

さらに、個人輸入した医薬品で健康被害が生じた場合、日本国内の医薬品副作用被害救済制度の対象外となる点にも注意が必要です。

  • 注射剤は1か月分以内なら輸入確認証が不要
  • 1か月分を超える場合は地方厚生局への申請が必要
  • 海外医師の処方箋・英文レターを必ず携帯
  • 他人への譲渡・転売は法律で禁止されている
  • 個人輸入による健康被害は救済制度の対象外

一時帰国で困らない!ゼップバウンドの温度管理と携帯のコツ

ゼップバウンドは温度に敏感な生物学的製剤のため、旅行中の温度管理がとても大切です。適切な保管方法を知っておけば、長時間のフライトや移動中でも品質を保つことができます。

未使用のゼップバウンドは2〜8℃の冷蔵保存が基本

使用前のゼップバウンドは2〜8℃で冷蔵保存する必要があります。飛行機での移動時には、保冷バッグや医療用トラベルケースを使い、適切な温度を維持しましょう。保冷剤を入れる場合は、薬剤が直接凍結しないよう緩衝材で包んでください。

一度凍結してしまったゼップバウンドは使用できなくなるため、冷やしすぎにも注意が必要です。

開封後は常温(30℃以下)で最大21日間保管できる

ゼップバウンドの保管条件まとめ

状態保管温度保管期限
未使用(冷蔵)2〜8℃使用期限まで
開封後(常温)30℃以下最大21日間
凍結した場合使用不可

使用を開始したペンは、冷蔵庫に戻す必要はなく、30℃以下の室温で最大21日間保管可能です。旅行中に冷蔵庫が確保できない場合でも、この期間内であれば安全に使えます。

ただし、直射日光や高温多湿の環境は避けてください。夏場の日本への一時帰国では、車内や屋外に放置しないよう気をつけましょう。

空港のセキュリティチェックでの注意点

TSA(アメリカの運輸保安局)をはじめ、各国の空港セキュリティでは医薬品の持ち込みが認められています。保安検査の際には、ゼップバウンドと注射器を他の荷物とは別のトレーに入れ、検査員に医薬品であることを伝えてください。

多くの国の空港ではX線検査を通しても薬剤の品質に影響はないとされていますが、不安な場合は検査員に代替検査を依頼することもできます。処方箋と英文レターをすぐに取り出せるよう準備しておきましょう。

帰国後に日本国内でゼップバウンドの治療を続ける方法

海外で始めたゼップバウンドの治療を、日本帰国後もスムーズに継続するには、国内の医療体制や処方条件を事前に確認しておくことが大切です。

2025年4月から日本でもゼップバウンドが発売されている

ゼップバウンド皮下注は2025年4月11日に日本で発売されました。日本イーライリリーと田辺三菱製薬の共同販促により、対応する医療機関で処方を受けられるようになっています。

海外で治療を受けていた方が帰国後に日本で継続する場合、改めて日本の医師の診察を受けたうえで処方を受ける流れとなります。海外での治療経過や使用量、副作用の有無などを記録しておくと、国内の医師への情報共有がスムーズになるでしょう。

処方にあたって厚生労働省の「使用推進ガイドライン」がある

日本国内でゼップバウンドの処方を受けるには、厚生労働省が定めた使用推進ガイドラインの条件を満たす必要があります。具体的には、6か月以上の食事・運動療法を実施しても十分な効果が得られないこと、関連学会の専門医が在籍する医療機関であること、などが求められます。

海外では比較的容易に処方を受けられた方でも、日本では厳格な処方要件が設けられている点を把握しておきましょう。

海外での治療記録を日本の主治医と共有しよう

帰国後にスムーズな治療移行を行うためには、海外の主治医から治療サマリーや検査結果を取り寄せておくことをおすすめします。使用していた用量、投与期間、体重の変化、副作用の有無などが記載された英文の診療情報提供書があれば理想的です。

日本の医師がこうした情報をもとに適切な治療計画を立てられるため、帰国前に準備しておくと心強いでしょう。

  • 海外の主治医から治療サマリーを入手しておく
  • 使用量・期間・副作用の記録を整理する
  • 日本の対応医療機関を事前に調べておく
  • 帰国後は改めて日本の医師の診察を受ける

海外在住中にゼップバウンドを自己判断で使うリスクに要注意

海外では日本より入手しやすいケースもありますが、医師の管理なしにゼップバウンドを使用することには深刻な健康リスクが伴います。必ず医療機関を受診し、専門家の指導のもとで治療を進めてください。

個人輸入代行サイトや非正規ルートでの購入は危険

インターネット上には、処方箋なしでゼップバウンドやチルゼパチドを販売するサイトが存在しますが、こうした非正規ルートで入手した薬剤には偽造品や品質不良品が混入している危険があります。

非正規ルートで入手した薬剤に潜むリスク

リスク具体的な問題
偽造品有効成分を含まない、または異なる成分が混入
品質劣化温度管理が不十分で薬効が低下
健康被害不純物による予期せぬ副作用
法的問題国によっては違法輸入となる

厚生労働省や各国の規制当局も、非正規ルートでのGLP-1関連薬の購入について繰り返し警告を出しています。価格が安いからといって飛びつくと、取り返しのつかない健康被害につながるかもしれません。

消化器症状などの副作用を自分だけで管理しないでほしい

ゼップバウンドの副作用として多く報告されているのは、吐き気や下痢、便秘といった消化器症状です。多くの場合は軽度から中等度で、投与量を段階的に増やしていく時期に集中する傾向があります。

しかし、まれに膵炎や胆のう関連の症状が起こるリスクも指摘されています。医師による定期的な経過観察を受けることで、こうした副作用の早期発見・早期対応が可能になります。自己判断で使用量を変更したり、体調不良を放置したりすることは避けてください。

甲状腺疾患の家族歴がある方はとくに慎重な判断が求められる

ゼップバウンドの添付文書には、甲状腺髄様がんの個人歴または家族歴がある方への使用が禁忌と記載されています。動物実験では甲状腺腫瘍のリスクが示唆されているため、該当する方は使用前に必ず医師へ相談してください。

海外での処方時にも、こうした禁忌事項の確認が行われるのが通常ですが、問診が不十分な場合やオンライン診療で見落とされる場合もゼロではありません。自分自身の家族歴や既往歴を正確に把握し、医師に伝えることが自身の安全を守る第一歩です。

よくある質問

ゼップバウンドは海外で処方箋なしに購入できますか?

ゼップバウンドはアメリカ、イギリス、日本など、いずれの承認国でも処方箋医薬品に分類されています。そのため、医師の診察と処方箋なしに合法的に入手する方法はありません。

インターネット上で処方箋不要をうたう販売サイトが散見されますが、偽造品や品質不良品のリスクが極めて高いため、利用は避けてください。必ず現地の正規の医療機関を受診し、医師の判断のもとで処方を受けることをおすすめします。

ゼップバウンドを飛行機の機内に持ち込むことはできますか?

はい、ゼップバウンドは機内持ち込みが可能です。TSA(アメリカ運輸保安局)をはじめ、多くの国の空港セキュリティでは医薬品の機内携帯を認めています。保冷バッグや保冷剤と一緒に持ち込むことも問題ありません。

ただし、保安検査の際には他の手荷物とは別のトレーに出し、医薬品であることを係員に伝えてください。処方箋のコピーや医師の英文レターを携帯しておくと、スムーズに通過できるでしょう。

ゼップバウンドを日本に持ち込む際に申請は必要ですか?

注射剤であるゼップバウンドの場合、用法・用量からみて1か月分以内であれば、輸入確認証の取得は不要です。税関での確認のみで通関できます。

1か月分を超える量を持ち込む場合は、地方厚生局への輸入確認証の申請が必要になります。申請の際には、海外の医師が発行した処方箋や服用指示書の提出を求められますので、渡航前に準備しておくと安心です。

ゼップバウンドとマンジャロは同じ成分と聞きましたが、違いは何ですか?

ゼップバウンドとマンジャロは、どちらもチルゼパチドを有効成分とする注射薬です。大きな違いは承認されている適応症にあり、マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは肥満症を治療の対象としています。

用量ラインナップ(2.5mg〜15mg)や週1回の投与方法はほぼ共通ですが、薬価はゼップバウンドのほうが高めに設定されています。海外在住で肥満症治療を目的とする場合は、ゼップバウンドが正式な適応薬となります。

ゼップバウンドの治療を海外で開始して日本で継続することは可能ですか?

可能です。2025年4月から日本国内でもゼップバウンドが処方可能になったため、帰国後に改めて日本の医師の診察を受ければ治療を引き継ぐことができます。

ただし、日本では厚生労働省の使用推進ガイドラインに基づく処方要件があり、6か月以上の食事・運動療法の実施歴や、対応する医療機関での処方といった条件を満たす必要があります。帰国前に海外の主治医から治療サマリーを取得しておくと、日本の医師との連携がスムーズに進むでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

大木 沙織 大木皮ふ科クリニック 副院長

皮膚科医/内科専門医/公認心理師 略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。 所属:日本内科学会