ゼップバウンドと肝機能の関係|脂肪肝への影響と投与時の注意点

ゼップバウンドと肝機能の関係|脂肪肝への影響と投与時の注意点

ゼップバウンド(チルゼパチド)は、肥満症治療薬として注目を集めています。体重を大きく減らす効果が期待される一方で、「肝臓への影響はどうなのか」「脂肪肝があっても安全に使えるのか」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

実は、ゼップバウンドには肝臓に蓄積した脂肪を減らし、肝機能の数値を改善させる可能性が臨床試験で報告されています。ただし、投与中には定期的な血液検査や生活習慣の見直しが求められます。

この記事では、ゼップバウンドと肝機能の関係を医学的な根拠にもとづいてわかりやすく解説し、脂肪肝がある方が安心して治療に臨むための情報をお届けします。

目次 Outline

ゼップバウンドは肝臓にどう作用する?チルゼパチドが肝機能を改善させる仕組み

ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、GIPとGLP-1という2種類のホルモン受容体に同時に作用し、肝臓の脂肪蓄積を減少させる方向にはたらきます。食欲抑制と体重減少を通じて、肝臓への脂肪流入そのものが減るため、肝機能の数値改善につながると考えられています。

GIPとGLP-1のダブル作用が肝臓の代謝を変える

ゼップバウンドはGIP受容体とGLP-1受容体の両方を活性化する「デュアルアゴニスト」と呼ばれるタイプの薬です。GLP-1の作用で食欲が抑えられ、胃の動きがゆるやかになることで食事量が自然に減少します。一方、GIPの作用は脂肪組織のエネルギー代謝に関わっており、脂肪の燃焼を促す効果が期待されています。

2つのホルモン経路が同時にはたらくことで、内臓脂肪や肝臓に蓄積された脂肪がより効率的に減少するとされています。従来のGLP-1単独の薬剤と比較して、チルゼパチドがより大きな減量効果を発揮するのも、このダブル作用がもたらす相乗効果によるものです。

インスリン抵抗性が改善すると肝臓の負担が減る

肥満に伴うインスリン抵抗性は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する大きな原因の1つです。チルゼパチドはインスリンの効きをよくする作用をもっており、血糖値が安定することで肝臓が余分な糖を脂肪に変換する量も減少します。インスリン抵抗性が改善されると、肝臓への遊離脂肪酸の流入も抑えられるため、脂肪肝の進行を食い止める効果が期待できるのです。

肝機能への影響をまとめた比較

作用経路肝臓への影響期待される効果
GLP-1受容体食欲抑制・胃排出遅延食事量減少による肝脂肪の減少
GIP受容体脂肪代謝の改善脂肪燃焼の促進
インスリン感受性糖代謝の正常化肝臓での脂肪合成の抑制

体重が減れば肝機能の数値も変わる

臨床試験では、チルゼパチド投与群で平均15〜22%の体重減少が確認されており、体重が10%以上減った患者では肝臓の炎症や線維化が改善する傾向がみられました。つまり、ゼップバウンドの肝臓への効果は「薬の直接作用」と「減量による間接的な恩恵」の両面から生まれているといえます。

ゼップバウンドを始める前に確認しておきたい肝機能の検査項目

ゼップバウンドの投与を安全に進めるためには、事前にいくつかの肝機能検査で肝臓の状態を把握しておく必要があります。主治医はこれらの数値をもとに投与の適否を判断します。

AST・ALTの値が示す肝臓の炎症レベル

AST(GOT)とALT(GPT)は、肝細胞が傷つくと血中に漏れ出す酵素です。これらの数値が高いと肝臓に炎症が起きていることを意味します。ゼップバウンド投与前にAST・ALTが基準値を大きく超えている場合、肝臓の精密検査を受けてから治療を始めることになるでしょう。特にALTは肝細胞に特異性が高く、肝障害の程度をより正確に反映するため、主治医はこの値を重要視して治療方針を決定します。

γ-GTPでアルコール性か非アルコール性かを見分ける

γ-GTPはアルコールによる肝障害で上昇しやすい酵素ですが、脂肪肝でも数値が高くなることがあります。ゼップバウンドの適応である「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と、アルコールが原因の肝障害を区別するうえで、γ-GTPの測定は重要な手がかりとなります。

腹部超音波検査で脂肪肝の程度を確認する

血液検査だけでは肝臓にどの程度の脂肪が蓄積しているか正確にはわかりません。腹部超音波(エコー)検査では肝臓の明るさ(輝度)で脂肪の蓄積度合いを視覚的に評価できます。より正確な評価にはMRIによる肝脂肪含有率の測定が用いられることもあります。腹部超音波は体への負担がほとんどなく短時間で実施できるため、初回スクリーニングとしてよく行われる検査です。

検査項目基準値の目安確認する内容
AST(GOT)10〜40 U/L肝細胞の炎症の有無
ALT(GPT)5〜45 U/L肝障害の程度
γ-GTP男性80以下/女性30以下アルコール性障害の鑑別
腹部超音波脂肪蓄積の程度

ゼップバウンドは脂肪肝を改善できる|臨床試験が示した肝脂肪の減少効果

複数の臨床試験において、チルゼパチドは肝臓の脂肪含有率を大幅に低下させ、脂肪性肝炎(MASH/NASH)の改善にも有効であるという結果が報告されています。脂肪肝に悩む肥満症患者にとって、治療の選択肢として期待が高まっている薬剤です。

SURPASS-3 MRIサブスタディで肝脂肪が約半分に減少した

2型糖尿病患者を対象としたSURPASS-3試験のMRIサブスタディでは、チルゼパチド10mg・15mgの投与群でベースラインから約8%の肝脂肪含有率の低下が確認されました。インスリン デグルデクと比較しても、その差は統計的に有意でした。脂肪肝指数(FLI)が60以上の方を対象にしていたため、脂肪肝を抱える患者にとって特に参考になるデータです。加えて、内臓脂肪や腹部皮下脂肪の体積も大きく減少しており、肝臓だけでなく全身の脂肪分布が改善されたことも注目されています。

SYNERGY-NASH試験で脂肪性肝炎が解消した患者は62%

脂肪性肝炎(MASH)の改善率

投与群MASH解消率線維化改善率
プラセボ10%30%
チルゼパチド5mg44%55%
チルゼパチド10mg56%51%
チルゼパチド15mg62%51%

中等度から高度の肝線維化(F2〜F3)を伴うMASH患者190名を対象としたSYNERGY-NASH試験では、チルゼパチド15mgを52週間投与した群の62%でMASHが解消し、線維化が悪化しなかったという結果が出ています。プラセボ群の10%と比較すると、その差は際立っています。さらに体重も10〜15%減少しており、肝臓への効果が体重減少と連動していることが示されました。

線維化の改善についても、チルゼパチド投与群では約半数の患者で1段階以上の改善が確認されています。肝線維化は放置すると肝硬変へ進行するリスクがあるため、線維化の進行を食い止められる可能性がある点は大きな意義をもっています。

肝臓の炎症マーカーも用量に応じて低下する

AST・ALTの値はチルゼパチドの投与量に応じて低下する傾向がみられました。肝細胞の障害を示すケラチン-18や、線維化の指標であるプロコラーゲンIIIも用量依存的に減少しており、肝臓そのものの炎症や線維化が改善されていく可能性が示唆されています。

ゼップバウンド投与中に起こりうる肝機能値の変動と対処法

ゼップバウンドによる治療中は、肝機能の数値が一時的に変動することがあります。多くは軽度で自然に回復しますが、定期的なモニタリングを欠かさないことが大切です。

投与初期に肝酵素が一過性に上昇する場合がある

治療を始めてから数週間のあいだに、ASTやALTの値が軽度に上昇するケースが報告されています。急激な脂肪代謝の変化に肝臓が適応する過程で生じるものと考えられ、多くの場合は投与を継続するうちに正常範囲に戻ります。ただし、数値が基準値の3倍以上に上昇した場合は速やかに主治医に相談してください。黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)や強い倦怠感、吐き気が同時に出た場合は、肝機能に重大な問題が生じている可能性もあるため、すぐに医療機関を受診する必要があります。

消化器症状に伴う栄養不足が肝臓に影響するケースもある

ゼップバウンドの主な副作用として吐き気や食欲低下が知られています。こうした消化器症状が長期間続くと食事量が極端に減り、必要な栄養素が不足して肝臓の代謝機能が乱れるおそれがあります。特にたんぱく質やビタミンB群が不足すると、肝臓の再生能力が低下することもあるため注意が必要です。食べられない状態が続くときは我慢せず、早めに医療機関へ相談しましょう。少量ずつ頻回に食べる工夫や、消化のよいものを選ぶといった対策も有効です。

定期的な血液検査でリスクを早期に発見する

投与中は4〜12週間ごとに肝機能の血液検査を受けることが推奨されています。数値の変化を継続的に追うことで、異常があった場合にも速やかな対処が可能になります。医師との対話を密にし、体調の変化も含めてこまめに共有することが望ましいでしょう。

タイミング推奨される対応注意すべきサイン
投与開始前ベースラインの肝機能検査基準値超過の有無
投与4〜12週後定期的な血液検査AST/ALTの急上昇
消化器症状持続時栄養評価・医師への相談極端な体重減少や倦怠感

脂肪肝がある方がゼップバウンドを安全に使うためのポイント

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を合併している肥満症患者は、ゼップバウンドの治療対象に含まれています。ただし、安全に使うためにはいくつかの注意点を押さえておく必要があります。

軽度の脂肪肝ならゼップバウンドの投与対象になれる

日本で実施されたSURMOUNT-J試験では、組み入れられた被験者のうち98.2%が非アルコール性脂肪性肝疾患を有していました。つまり、脂肪肝はゼップバウンドの適応条件に含まれる「肥満に関連する健康障害」の1つとして位置づけられています。軽度から中等度の脂肪肝であれば、投与によるメリットがリスクを上回る場合が多いと考えられます。

肝硬変や重度の肝障害がある場合は慎重に判断が必要

ゼップバウンドの投与判断に影響する肝臓の状態

肝臓の状態投与の適否備考
軽度〜中等度の脂肪肝投与対象臨床試験で安全性を確認済み
MASH(脂肪性肝炎)慎重投与改善効果の報告あり
肝硬変(非代償性)原則禁忌安全性データが十分でない

進行した肝硬変や非代償性の肝疾患を有する方については、ゼップバウンドの臨床試験で十分なデータが得られていません。こうした方は投与の可否を肝臓専門医と相談しながら慎重に判断してください。肝硬変では薬物の代謝速度が大きく変わることがあり、副作用のリスクも高まる可能性があるためです。

ほかの肝臓に影響する薬との飲み合わせに注意する

肝臓で代謝される薬を複数服用している方は、ゼップバウンドとの相互作用に注意が求められます。たとえば、スタチン系薬剤や一部の鎮痛剤は肝機能に影響を及ぼす可能性があるため、服用中の薬をすべて主治医に伝えることが大切です。サプリメントや漢方薬も肝臓に負担をかけることがあるので、自己判断で併用せず、必ず医療従事者に確認をとりましょう。

ゼップバウンド治療中に肝臓を守る食事と運動の工夫

ゼップバウンドの効果を引き出しながら肝臓への負担を減らすには、食事療法と運動療法の併用が欠かせません。薬だけに頼るのではなく、毎日の生活のなかでできる工夫を続けることが、治療成功のカギとなります。

肝臓にやさしい食事は「低糖質・良質なたんぱく質・適度な脂質」

脂肪肝の改善には、過剰な糖質摂取を避けることが基本です。ご飯やパン、甘い飲み物を控えめにし、魚や大豆製品などの良質なたんぱく質を積極的に摂りましょう。脂質は完全にカットするのではなく、オリーブオイルや魚の油など、良質な脂肪を適量取り入れることが望ましいといえます。

野菜や海藻、きのこ類を毎食取り入れることで食物繊維を摂取でき、血糖値の急上昇を防ぐ効果も得られます。栄養バランスの偏りは肝臓に余計な負担をかけるため、無理な食事制限よりも「何をどれだけ食べるか」を意識した食生活を続けてください。

有酸素運動に筋トレを組み合わせると肝脂肪が減りやすい

ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、肝臓に蓄積した脂肪を燃焼するのに効果的です。さらにスクワットや軽いダンベル運動など、筋力トレーニングを週に2〜3回取り入れると、基礎代謝が上がり脂肪の燃焼効率が高まります。無理のない範囲で週150分以上の運動を目標にしてみてください。

運動は肝臓の血流を改善し、脂肪酸の代謝を促進する効果もあります。ゼップバウンドの投与中は食欲が抑えられるため、以前よりも体が軽く感じられ、運動を始めやすい状態になる方も少なくありません。この好循環を活かして、日常に運動を組み込むことが肝臓の健康を守る近道です。

アルコールは控えめに、できれば禁酒がベスト

ゼップバウンドで脂肪肝の改善を目指すのであれば、アルコールの摂取は可能な限り避けたほうがよいでしょう。アルコールは肝臓に直接的なダメージを与えるだけでなく、脂肪の分解を妨げてしまいます。せっかく薬と食事療法で減らした肝脂肪が、飲酒によって再び増えてしまっては本末転倒です。どうしても飲む場合は少量にとどめ、週に2日以上の休肝日をつくりましょう。

  • 糖質の多い清涼飲料水やお菓子を控える
  • 1日3食を規則正しく食べ、ドカ食いを防ぐ
  • ウォーキングなどの有酸素運動を週150分以上行う
  • アルコールはできるだけ避け、休肝日を週2日以上設ける

ゼップバウンドを中止したあと肝機能は悪化する?投与の継続と休薬の判断

ゼップバウンドの投与を中止した場合、体重のリバウンドとともに肝機能が再び悪化するリスクがあることが指摘されています。治療の終了や中断は、必ず主治医と相談のうえで行ってください。

急な中止で肝機能が悪化する可能性がある

  • 投与中止後に体重が戻ると、肝臓への脂肪蓄積も再発するおそれがある
  • 日本肥満学会は中止後の「急激な肝機能悪化」のリスクを警告している
  • 中止を決める際は血液検査の結果を踏まえて段階的に進める

72週間の投与期間終了後も生活習慣の維持が肝臓を守る

ゼップバウンドの投与期間は原則として72週間とされています。投与終了後に減量効果を維持するためには、治療中に身につけた食事や運動の習慣を続けることが何よりも大切です。薬が終わったあとも、バランスのよい食事と適度な運動を日常に組み込むことで、肝臓への脂肪蓄積を防ぐことができます。

臨床試験でも、投与を終了した患者の一部に体重のリバウンドがみられたことが報告されています。体重が増えれば肝臓の脂肪も増加する傾向にあるため、「薬をやめたら終わり」ではなく、長い目で見た生活改善が求められます。主治医や管理栄養士と連携しながら、自分に合った生活習慣を見つけていきましょう。

自己判断で投与をやめることは絶対にしない

副作用が気になるから、体重が十分に減ったからといって、自分の判断でゼップバウンドを中止するのは危険です。中止のタイミングと方法は医師が患者一人ひとりの状態を見ながら決定します。気になることがあれば、まずは主治医に率直に伝えてください。ゼップバウンドの効果は継続的な投与によって最大化されるため、途中で中断すると治療全体の計画が崩れてしまうことにもなりかねません。

よくある質問

ゼップバウンドを服用すると肝機能の数値はどのように変化しますか?

臨床試験のデータによると、ゼップバウンド(チルゼパチド)の投与により、肝機能の代表的な指標であるAST・ALTは用量に応じて低下する傾向がみられました。投与開始から52週間後には、肝臓の炎症を示すマーカーも改善しています。

ただし、投与初期に一過性の上昇がみられるケースもあるため、定期的な血液検査で数値の推移を確認することが大切です。異常を感じたら、速やかに主治医に相談してください。

ゼップバウンドは脂肪肝の治療薬として承認されていますか?

現時点では、ゼップバウンドは「肥満症」を適応症として承認された薬です。脂肪肝そのものの治療薬として承認されているわけではありません。

しかし、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は肥満に関連する健康障害の1つに該当するため、脂肪肝を合併する肥満症の方は投与対象となる可能性があります。脂肪肝に対する改善効果は複数の臨床試験で確認されており、今後の追加承認に向けた研究も進んでいます。

ゼップバウンドの投与中にお酒を飲んでも肝臓への影響はありませんか?

ゼップバウンドによる治療中のアルコール摂取は、肝臓への負担を増大させるためおすすめできません。アルコールは肝臓で分解される際に脂肪の蓄積を促進し、薬による脂肪肝改善の効果を打ち消してしまう可能性があります。

治療効果を引き出すためには、できる限り禁酒することが望ましいでしょう。どうしても飲む場合は少量にとどめ、必ず主治医にその旨を伝えてください。

ゼップバウンドの投与を途中でやめると肝臓に悪影響がありますか?

ゼップバウンドの投与を中止すると、体重のリバウンドが起こりやすくなり、それに伴って肝臓への脂肪蓄積が再び進行するリスクがあります。日本肥満学会も、投与中止後の「急激な肝機能の悪化」について注意を呼びかけています。

自己判断での中止は避け、必ず主治医と相談のうえで段階的に進めることが重要です。中止後も食事療法や運動療法を継続し、定期的な検査を受けることで肝臓の状態を見守りましょう。

ゼップバウンドと他の肝臓の薬を同時に服用しても大丈夫ですか?

ゼップバウンドと他の薬を併用する際は、薬の飲み合わせに注意が必要です。特に肝臓で代謝される薬剤(スタチン系の脂質異常症治療薬や一部の鎮痛剤など)を服用中の方は、ゼップバウンドとの相互作用の有無を主治医に確認してください。

自己判断で薬を追加したり中止したりせず、すべての服用薬を主治医や薬剤師に正確に伝えることが安全な治療の基本です。

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この記事を書いた人 Wrote this article

大木 沙織 大木皮ふ科クリニック 副院長

皮膚科医/内科専門医/公認心理師 略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。 所属:日本内科学会