肺炎球菌ワクチンには結合型(PCV)と多糖体型(PPSV23)の2種類があり、両方を順番に打つ「連続接種」によって幅広い血清型をカバーできます。片方だけでは防ぎきれない肺炎球菌感染症から体を守るために、2つのワクチンを組み合わせて使う方法が各国のガイドラインで推奨されてきました。
接種の順番は「まず結合型→次に多糖体型」が原則で、間隔は1年以上が基本です。ただし、基礎疾患や年齢によって6か月に短縮できるケースもあり、接種スケジュールは一人ひとり異なります。
この記事では、肺炎球菌ワクチンの併用接種(連続接種)における接種間隔やスケジュールの組み方、順番を守る理由、副反応の目安、そして近年登場した15価・20価ワクチンとの関係まで、医学的根拠にもとづいてわかりやすく解説します。
肺炎球菌ワクチンを「両方打つ」併用接種が必要な理由
結合型ワクチン(PCV)と多糖体ワクチン(PPSV23)はそれぞれ得意分野が異なり、両方打つことで守れる血清型の幅が大きく広がります。どちらか一方だけでは十分な防御が得られない場合があるため、リスクの高い方には連続接種が推奨されています。
結合型ワクチンと多糖体ワクチンではたらきが違う
結合型ワクチン(PCV13やPCV15など)は、肺炎球菌の莢膜多糖体をキャリアたんぱく質に結合させた製剤です。T細胞を介した免疫応答を引き起こすため、免疫の「記憶」が長く残りやすいという特長があります。一方、PPSV23は23種類の血清型をカバーする多糖体ワクチンで、結合型より対応範囲が広い反面、免疫記憶の持続性ではやや劣るとされています。
つまり、結合型は「深く長く効く」ワクチン、多糖体型は「広く効く」ワクチンと考えるとわかりやすいでしょう。両者を組み合わせることで、免疫の深さと幅の両方を確保できます。
連続接種で肺炎球菌感染症のリスクをより広く抑えられる
PCV13がカバーするのは13種類の血清型ですが、PPSV23には11種類の追加血清型が含まれています。連続接種によって合計で23種類以上の血清型に対応でき、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)や市中肺炎の予防効果を高められます。
臨床試験では、PCV13の先行接種がその後のPPSV23に対する免疫応答を増強することが報告されています。逆にPPSV23を先に打つと、後から打つPCVへの免疫応答が弱まる「免疫低応答」の懸念があり、順番には科学的な裏付けがあります。
併用接種が推奨される対象者とは
すべての方に連続接種が必要なわけではありません。一般的に推奨されるのは以下のような方です。
- 65歳以上の高齢者
- 慢性心疾患・慢性肺疾患・糖尿病などの基礎疾患がある19〜64歳の方
- 脾臓摘出後や免疫抑制状態にある方
- 髄液漏や人工内耳を装着している方
基礎疾患の数が多いほど肺炎球菌感染症のリスクは高くなるため、主治医と相談のうえでスケジュールを決めることが大切です。
肺炎球菌ワクチンの接種間隔はどのくらいが望ましいか
PCV接種後、PPSV23を打つまでの間隔は原則として1年(12か月)以上です。ただし、免疫不全のある方や高リスク群では6か月〜8か月に短縮することも認められています。
| 対象者 | 推奨間隔 | 備考 |
|---|---|---|
| 65歳以上の健常者 | 1年以上 | PCV→PPSV23の順 |
| 免疫不全のある方 | 8週間以上 | 医師の判断で短縮可 |
| 慢性疾患のある成人 | 1年以上 | 6か月への短縮も選択肢 |
| PPSV23先行済みの方 | 1年以上空けてPCV | 逆順の場合は間隔に注意 |
1年以上の間隔を推奨する背景にある免疫学的データ
60〜64歳のワクチン未接種者を対象とした臨床試験では、PCV13を先行接種してから1年後にPPSV23を接種した群で、12種類の共通血清型のうち11種類について高い殺菌活性が得られました。この結果は、1年の間隔がPCV13による免疫記憶をしっかり形成してからPPSV23で補強するのに十分な期間であることを裏付けています。
間隔が長すぎると、PPSV23のみでカバーできる血清型に対して無防備な期間が延びてしまうため、適切な間隔で速やかに追加接種を受けることが望ましいといえます。
6か月間隔が許容されるのはどのような場合か
18〜49歳の基礎疾患保有者を対象にした第3相試験(PNEU-DAY試験)では、PCVからPPSV23まで6か月間隔で接種しても忍容性が良好で、15種類の血清型に対する免疫原性が確認されています。免疫不全の方のように早期に広い防御を確立したいケースでは、6か月での追加接種が合理的な選択肢になります。
とはいえ、健常な高齢者では1年の間隔をとったほうが共通血清型への応答が安定するという報告もあり、短縮はリスクとメリットの両面をふまえて医師と相談して決めてください。
PPSV23をすでに接種した方がPCVを追加する場合の間隔
先にPPSV23を打ってしまった場合でも、後からPCVを追加すること自体は可能です。その際は、PPSV23接種から少なくとも1年以上の間隔を空けることが推奨されています。PPSV23を先に打つとPCVに対する免疫応答が低下する可能性があるため、1年の間隔で免疫状態が落ち着くのを待ったうえでPCVを接種するのが妥当です。
年齢・リスク別に見る肺炎球菌ワクチン連続接種のスケジュール
連続接種のスケジュールは年齢や基礎疾患の有無、ワクチン接種歴によって異なります。ここから3つの典型的なパターンを紹介しますので、ご自身に近い例を参考にしてください。
65歳以上で肺炎球菌ワクチンが初めての方
これまで一度も肺炎球菌ワクチンを受けたことがない65歳以上の方は、まずPCV(13価・15価・20価のいずれか)を1回接種し、1年以上空けてPPSV23を1回接種するのが標準的な流れです。20価ワクチン(PCV20)を選んだ場合は、PCV20単独で20種類の血清型をカバーできるため、PPSV23の追加が不要になる場合もあります。
どのPCVを選ぶかは、その時点で入手できるワクチンや主治医の判断によります。いずれの場合も、PCV接種後にPPSV23を追加するかどうかを含めて事前に計画を立てておくとスムーズです。
19〜64歳で基礎疾患をもつ方のスケジュール
慢性肺疾患・慢性心疾患・糖尿病・喫煙習慣などのリスク因子がある成人は、年齢にかかわらず肺炎球菌ワクチンの接種対象です。リスクの内容や数によってスケジュールが異なりますが、基本は「PCV→1年以上→PPSV23」の流れで、免疫不全の場合は間隔を8週間〜6か月に短縮できます。
| リスク区分 | PCV→PPSV23の間隔 |
|---|---|
| 慢性疾患(免疫正常) | 1年以上 |
| 免疫不全(脾摘・HIV等) | 8週間以上 |
| 髄液漏・人工内耳 | 8週間以上 |
リスク因子が複数重なる方は肺炎球菌感染症の発症率や重症化率が跳ね上がるため、早めの接種計画が重要です。
過去にPPSV23を接種済みの方が連続接種を完了する方法
PPSV23のみ接種済みの方は、前回のPPSV23から1年以上空けてPCVを接種し、さらにPCV接種から1年以上空けてPPSV23の2回目を検討するのが一般的な流れです。ただし、PPSV23の2回目が必要かどうかは年齢や免疫状態によって判断が分かれるため、主治医への相談をおすすめします。
接種の順番を間違えると肺炎球菌ワクチンの効果は下がるのか
結論からいえば、PPSV23を先に打ちPCVを後にする「逆順」では、共通血清型に対する免疫応答が弱まるという臨床データがあります。順番を正しく守ることが、連続接種の効果を十分に引き出すカギです。
PCV先行→PPSV23が推奨される医学的エビデンス
ワクチン未接種の60〜64歳成人720名を対象としたランダム化比較試験の結果、PCV13を先に打ち1年後にPPSV23を追加した群では、共通する12種類の血清型のうち11種類で殺菌活性が有意に高いことが示されました。PCV13がT細胞依存的な免疫応答を先に誘導することで、続くPPSV23に対する免疫応答がブースト(増強)される、という仕組みです。
一方、PPSV23→PCV13の順で接種した群では、PCV13に対する殺菌活性が相対的に低くなりました。この差は「免疫低応答」と呼ばれる現象に起因すると考えられています。
逆順で接種した場合に起こる免疫低応答の仕組み
多糖体ワクチンはT細胞を介さずにB細胞を直接刺激します。先にPPSV23を接種すると、多糖体に反応するB細胞が大量に消費され、その後にPCVを接種しても十分な応答が得られにくくなるのです。
この免疫低応答は永続的ではなく、時間の経過とともにある程度回復するとされますが、完全に追いつくかどうかは個人差があります。万が一逆順で接種してしまった場合は、最低でも1年以上の間隔を空けてからPCVを追加すると、免疫応答の回復が期待できます。
接種間隔を極端に短くすると副反応は増えるか
臨床試験の安全性データを見ると、PCVとPPSV23を6か月間隔で接種した場合と12か月間隔で接種した場合で、副反応の発現率に大きな差は認められていません。注射部位の痛みや疲労感などは間隔にかかわらず一定の割合で報告されており、間隔の短縮そのものが副反応を著しく増加させるわけではないようです。
ただし、免疫応答への影響と副反応の問題は別です。間隔を短くする場合は副反応よりも免疫効果の最大化を考慮し、主治医の判断を仰いでください。
肺炎球菌ワクチン併用接種の副反応と安全性を知っておこう
連続接種で報告される副反応の多くは注射部位の痛みや倦怠感で、軽度かつ一過性です。重い有害事象の頻度は低く、安全性は大規模臨床試験で確認されています。
接種部位の痛み・腫れ・疲労感の持続期間
PCV接種後に最も多く報告されるのは接種部位の疼痛で、発現率は約70〜80%です。多くは3日以内に自然におさまり、日常生活への支障は小さいとされています。全身性の副反応としては倦怠感(約30〜35%)、筋肉痛(約25〜30%)、頭痛(約25%)が代表的です。
| 副反応の種類 | 発現頻度の目安 | 持続期間 |
|---|---|---|
| 注射部位の痛み | 70〜80% | おおむね3日以内 |
| 倦怠感 | 30〜35% | 1〜3日 |
| 筋肉痛 | 25〜30% | 1〜3日 |
| 頭痛 | 約25% | 1〜3日 |
| 注射部位の腫れ | 20〜25% | 1〜5日 |
PPSV23接種後の副反応もPCV接種後と類似しており、接種部位の痛みが約67〜69%、倦怠感が約30%と報告されています。2回目の接種だからといって副反応が極端に強くなるわけではありません。
重い副反応の報告はどの程度あるのか
1,500名以上が参加した第3相試験(PNEU-DAY試験)のデータでは、PCV接種後6か月間の重篤な有害事象発生率は約3〜4%で、ワクチンとの因果関係が認められた重篤事象は0%でした。PPSV23追加接種後30日間でも重篤事象の割合は1%未満です。
アナフィラキシーなどの強いアレルギー反応はきわめてまれですが、過去にワクチン成分に対してアレルギーを起こしたことがある方は事前に医師に申告してください。
高齢者や持病のある方でも安全に接種できるか
基礎疾患を抱える成人や65歳以上の高齢者を含む大規模試験でも、連続接種の安全性プロファイルは健常者と大きく変わらないと報告されています。糖尿病・慢性肺疾患・慢性心疾患などの持病がある方は感染リスクが高い分、ワクチンで得られる利益も大きいといえるでしょう。
PCV15やPCV20など新しい肺炎球菌ワクチンが連続接種に与える影響
15価ワクチン(PCV15)や20価ワクチン(PCV20)の承認により、連続接種のスケジュール選択肢は広がっています。とくにPCV20は単独で20種類の血清型をカバーするため、PPSV23の追加が不要になるケースもあります。
PCV15とPCV20はPCV13と何が違うのか
PCV15はPCV13に血清型22Fと33Fの2種類を加えた15価製剤で、PCV13と同等以上の免疫原性が確認されています。PCV20はさらに5種類(8・10A・11A・12F・15B)を追加した20価製剤です。PCV20を選ぶ場合、1回の注射で20種類の血清型に対する免疫を獲得できるため、スケジュールが簡略化できるメリットがあります。
| ワクチン名 | 対応血清型数 | PPSV23追加の要否 |
|---|---|---|
| PCV13 | 13種類 | 原則として追加を推奨 |
| PCV15 | 15種類 | 追加接種を推奨 |
| PCV20 | 20種類 | 多くの場合は不要 |
新ワクチンでもPPSV23を追加するケースとは
PCV20を単独で使用すれば幅広い血清型をカバーできますが、PPSV23にのみ含まれる血清型(2・9N・17F・20など)への免疫が必要な場合は、PCV20接種後にPPSV23の追加が検討されることがあります。こうした追加の判断は、地域の流行血清型や個人の免疫状態に左右されるため、一律には決められません。
PCV15を選んだ場合は、PPSV23の追加接種が引き続き推奨されます。PCV15→PPSV23の連続接種のスケジュールは従来のPCV13→PPSV23と同様で、1年以上(免疫不全者は8週間以上)の間隔を空けてPPSV23を打つ流れです。
今後の接種スケジュールはさらに変わる可能性がある
2024年には21価結合型ワクチン(PCV21)も米国で承認され、成人向け肺炎球菌ワクチンの選択肢は増え続けています。カバーする血清型が増えれば、将来的にはPPSV23との連続接種が不要になる場面がさらに増えるかもしれません。
ただし、各国の承認状況や推奨ガイドラインは随時更新されるため、接種時点の情報をかかりつけ医に確認してください。
肺炎球菌ワクチン連続接種の効果を支える臨床試験の知見
8万人以上が参加したCAPiTA試験をはじめ、複数の大規模臨床研究が連続接種の有効性を裏付けています。この知見を知っておくことで、併用接種への理解がより深まるでしょう。
CAPiTA試験が示したPCV13の市中肺炎予防効果
CAPiTA試験はオランダで65歳以上の成人84,496名を対象に行われた二重盲検ランダム化プラセボ対照試験です。PCV13の単回接種により、ワクチン型市中肺炎の初回発症が約46%、ワクチン型侵襲性肺炎球菌感染症が約75%予防できることが確認されました。この試験結果は、ACIPがPCV13とPPSV23の連続接種を65歳以上の成人に推奨する根拠の一つとなっています。
連続接種の免疫原性を検証した複数の試験
50歳以上の健常成人を対象とした試験では、PCV13接種後にPPSV23を2か月または6か月間隔で追加した場合、PPSV23にのみ含まれる6〜7種の非PCV13血清型に対しても十分な免疫応答が誘導されたと報告されています。
別の試験では、PCV15を先行接種し12か月後にPPSV23を追加した群で、PCV13を先行した群と同等の抗体レベルが得られました。PCV15の2つの追加血清型(22F・33F)に対しても良好な免疫原性が確認されており、PCV15→PPSV23の連続接種が従来のPCV13ベースのスケジュールと同等以上の防御力を提供しうることを示しています。
日本の高齢者に向けた肺炎球菌ワクチン連続接種の意義
日本では65歳以上を対象にPPSV23の定期接種が行われていますが、結合型ワクチンの併用は任意接種扱いです。それでも、結合型と多糖体型の併用によって免疫応答が増強されるというデータは海外の大規模試験で繰り返し示されており、日本の高齢者にとっても意義のある選択肢といえるでしょう。
費用負担や助成制度は自治体によって異なるため、お住まいの地域の情報も合わせて確認してみてください。
よくある質問
- Q肺炎球菌ワクチンの結合型と多糖体型は同時に打てる?
- A
結合型ワクチン(PCV)と多糖体ワクチン(PPSV23)は同じ日に同時接種するものではなく、一定の間隔を空けて順番に打つ「連続接種」が推奨されています。同時接種では、PCVが誘導するT細胞依存的な免疫記憶をPPSV23が十分に活用できないためです。
まずPCVを接種し、免疫記憶が形成された後にPPSV23を追加する流れが基本です。間隔は1年以上が原則ですが、免疫不全のある方では8週間以上に短縮される場合もあります。
- Q肺炎球菌ワクチンの連続接種で2回目の副反応は1回目より強くなる?
- A
大規模臨床試験のデータでは、PPSV23(2回目の接種)後の副反応発現率はPCV(1回目)後と大きく変わらないと報告されています。注射部位の痛みや倦怠感など代表的な副反応の頻度は同程度で、多くは軽度かつ数日以内に解消します。
個人差はありますが、2回目だからといって副反応が大幅に増悪するという明確なエビデンスはありません。体調のよい日に接種し、接種後は無理をしないようにしましょう。
- Q肺炎球菌ワクチンを打つ順番を間違えてPPSV23を先に接種した場合はどうすればよい?
- A
PPSV23を先に接種してしまった場合でも、あとからPCVを追加することは可能です。PPSV23接種日から少なくとも1年以上の間隔を空けてからPCVを接種してください。逆順の場合はPCVへの免疫応答が一時的に低下する可能性がありますが、時間の経過とともに回復が見込めます。
接種歴がはっきりしない場合は、かかりつけ医に母子手帳や接種記録を確認してもらい、適切なスケジュールを組み直してもらうのがよいでしょう。
- Q肺炎球菌ワクチンのPCV20を打てばPPSV23との連続接種は不要になる?
- A
PCV20は20種類の血清型をカバーする結合型ワクチンで、単独接種で幅広い防御を得られるように設計されています。そのため、多くのガイドラインではPCV20を選択した場合にPPSV23の追加を必ずしも求めていません。
ただし、PPSV23にのみ含まれる血清型(2・9N・17Fなど)が地域で流行している場合や、免疫不全のある方でより広い血清型カバーが求められるケースでは、PPSV23の追加が検討されることもあります。主治医と相談のうえ判断してください。
- Q肺炎球菌ワクチンの連続接種はインフルエンザワクチンと同時に受けられる?
- A
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種は、多くのガイドラインで認められています。60歳以上を対象とした研究でも、インフルエンザワクチン(4価不活化)とPPSV23を同日に接種した場合の免疫原性は、それぞれ単独で接種した場合と比べて劣らないことが確認されています。
同時接種の場合は左右の腕に1本ずつ打つのが一般的です。ただし、体調や過去の副反応歴によっては別日に分けたほうがよい場合もあるため、接種前に医師へ相談してください。
