帯状疱疹ワクチンには、2種類の選択肢があります。組換えサブユニットワクチン「シングリックス」と、国内で長く使われてきた乾燥弱毒生ワクチン(ビケン株)です。シングリックスは大規模臨床試験で50歳以上の成人における予防効果97.2%を実証しており、乾燥弱毒生ワクチンの約50%台と比べて大幅に高い水準にあります。

一方、費用面では違いも明確です。シングリックスは2回接種で合計4万~5万円台が目安となるのに対し、乾燥弱毒生ワクチンは1回接種で8,000円前後と初期費用が低く抑えられます。また、シングリックスは生ワクチンを使わない組換えワクチンのため、免疫が低下している方にも接種できる点が大きな特徴です。

この記事では、両ワクチンの予防効果・費用・副反応・接種対象の違いを詳しく解説します。「どちらを選べばよいか」を判断するための情報を、わかりやすくまとめました。

帯状疱疹ワクチンが2種類ある理由

国内で接種できる帯状疱疹ワクチンが2種類あることは、意外と知られていません。それぞれ仕組みも接種回数も異なり、予防効果にも大きな差があります。

帯状疱疹とは何か、なぜワクチンが必要なのか

帯状疱疹は、幼少期に水ぼうそうを起こした後も体内に潜伏し続ける水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢や免疫低下をきっかけに再活性化することで生じます。強い神経痛を伴う水ぶくれが体の片側に帯状に現れるのが特徴で、5人に1人が生涯に一度は発症するとされています。

発症後に最も問題となる合併症が帯状疱疹後神経痛(PHN)です。皮疹が治まった後も数か月から数年にわたって痛みが続くことがあり、日常生活や睡眠の質を著しく低下させます。年齢が上がるほど発症リスクも後遺症のリスクも高くなるため、50歳以上を対象にワクチンによる予防が推奨されています。

2種類のワクチンが生まれた経緯

最初に登場したのが生ワクチン系統のワクチンです。水痘ウイルスを弱毒化したビケン株(Oka株)をもとに作られており、国内では乾燥弱毒生ワクチン(ビケン)として2016年に帯状疱疹予防の適応を取得しました。1回の皮下注射で接種できる手軽さが利点ですが、弱毒化したとはいえ生きたウイルスを使うため、免疫が低下している方には使えません。

その後、免疫不全の方にも使え、かつ高い予防効果をめざして開発されたのが組換えサブユニットワクチンです。GSKが開発したシングリックスがこれに当たり、国内では2018年に承認されました。生ウイルスを使わず、ウイルスの糖タンパク質Eと免疫増強剤(AS01Bアジュバント)を組み合わせた製剤で、2回の筋肉注射が必要です。

項目シングリックス乾燥弱毒生ワクチン(ビケン)
ワクチンの種類組換えサブユニット(非生ワクチン)生ワクチン(弱毒化生ウイルス)
接種回数2回(2か月間隔)1回
接種方法筋肉注射皮下注射
対象年齢50歳以上50歳以上
免疫低下者への接種可能原則不可

シングリックスが97%の予防効果を出せた仕組み

臨床試験でシングリックスの予防効果が97%という数字を記録できた背景には、ワクチンの設計と免疫増強の仕組みがあります。

組換えサブユニットという設計の強み

シングリックスに含まれる抗原成分は、帯状疱疹ウイルスの表面タンパク質のひとつ「糖タンパク質E(gE)」です。gEはウイルスが皮膚細胞に感染する際に重要な役割を果たし、体内のウイルスが再活性化したときにも豊富に産生されます。抗gE抗体と細胞性免疫の両方を高めることで、ウイルスの拡散を効率よく抑えられると考えられています。

さらに重要な役割を担うのがアジュバントシステム「AS01B」です。このアジュバントは免疫系を力強く刺激し、少量の抗原から強力かつ持続的な免疫反応を引き出します。AS01Bを組み合わせることで、高齢者でも年齢によらず高い免疫応答が得られることが確認されています。

ZOE-50試験で実証された97.2%の効果

シングリックスの予防効果は、18か国・3万人以上の成人を対象とした大規模臨床試験「ZOE-50」で詳細に評価されました。50歳以上の参加者を対象に、2回接種後の帯状疱疹発症を追跡した結果、ワクチン接種群とプラセボ群の間で発症率に大きな差が確認されました。

全体の予防効果は97.2%で、帯状疱疹後神経痛(PHN)に対しても91.2%の高い予防効果が示されました。70歳以上の参加者に限った分析でも予防効果は維持されており、加齢による低下が少ないことが明らかになっています。接種後1年目の予防効果は97%台を記録し、その後も高い水準が続いています。

70歳以上を対象にしたZOE-70試験の結果

ZOE-50と同時進行で実施されたZOE-70試験は、70歳以上に特化した試験です。14,759人の参加者を追跡した結果、全体の予防効果は89.8%と示され、80歳以上の参加者においても89.1%の有効性が確認されました。高齢になるほど免疫機能が低下し、ワクチン効果も落ちやすいとされていますが、シングリックスはその傾向を大幅に抑えていることが示されました。

また、ZOE-50とZOE-70のデータを合わせた統合解析では、70歳以上における帯状疱疹後神経痛への予防効果が88.8%と計算されています。帯状疱疹そのものだけでなく、深刻な後遺症となりうるPHNもしっかり防ぐという点で、シングリックスは高齢者に特に大きな恩恵をもたらすワクチンといえます。

乾燥弱毒生ワクチンの予防効果と限界を正確に知る

乾燥弱毒生ワクチン(ビケン)の予防効果は、シングリックスと比較すると低く、長期的には低下する傾向があります。ただし1回接種・低コストという利点は見逃せません。

シングルス予防試験(SPS)から読み取れること

生ワクチン系統の有効性は、同成分のゾスタバックス(海外製品)を用いた「Shingles Prevention Study(SPS)」で広く評価されています。60歳以上の成人約38,500人を対象にしたこの大規模試験では、帯状疱疹の発症を51.3%、帯状疱疹後神経痛を66.5%減少させることが示されました。乾燥弱毒生ワクチンも同ウイルス株を用いており、これに準じる効果があると考えられています。

一方、国内で行われた乾燥弱毒生ワクチン(ビケン)に関するリアルワールド研究では、6年間の追跡調査で帯状疱疹診断に対する調整済み予防効果が41%という結果が示されました。シングリックスの97%台と比べると大きな差があり、予防効果の確実さという観点では限界があることが分かります。

生ワクチンの予防効果が年数とともに低下する問題

生ワクチン系統のもうひとつの課題が、時間の経過とともに予防効果が低下していくことです。接種後1年以内は比較的高い効果が維持されますが、5年を超えると統計的に有意な効果が保たれるかどうか不確実となり、10年後には効果が実質的になくなると報告されています。

これに対してシングリックスは、接種から10年後の中間解析でも全体的な予防効果が89%前後を維持していることが確認されています。長期にわたる予防効果の持続性という点でも、シングリックスは生ワクチンを大きく上回っています。

乾燥弱毒生ワクチンが選ばれる場面

  • 費用を抑えたい方(1回接種で済むため初期費用が低い)
  • 医療機関への通院が1回で完了することを優先したい方
  • 免疫機能に問題がなく、まず接種を始めたい方

費用や利便性を重視する場合、乾燥弱毒生ワクチンにも選択肢としての意義はあります。ただし、将来的にシングリックスへの切り替えを検討する余地も残しておくとよいでしょう。

費用の差はどこから生まれるか、両ワクチンの接種料金比較

費用面での差は顕著です。シングリックスは2回接種が必要なため総費用が高くなりますが、乾燥弱毒生ワクチンは1回で済む分、初期費用は抑えられます。

シングリックスの費用内訳

シングリックスは、1回あたりの薬剤費が20,000円前後で設定されている医療機関が多く、2回接種で薬剤費だけで40,000円程度になります。これに接種時の再診料・処置費が加わるため、2回の接種を合計すると45,000円~55,000円台が一般的な目安です。2回目は1回目から2か月後(最大6か月以内)に接種します。

費用が高い理由の一端は、アジュバント製剤の製造コストにあります。AS01Bアジュバントは免疫誘導力が高い一方、製造工程が複雑なため薬価が押し上げられています。自治体によっては費用助成を設けているところもあるため、お住まいの市区町村窓口で確認してみてください。

乾燥弱毒生ワクチンの費用

乾燥弱毒生ワクチンの接種費用は、医療機関によって多少の違いはありますが、おおむね8,000円前後が相場です。1回の接種で完結するため、総費用はシングリックスの5分の1以下となります。自治体助成が受けられる地域では、さらに低額で接種できる場合もあります。

ただし「安いから」という理由だけで選択するのは慎重にすべきです。費用あたりの予防効果という観点では、予防効果が約2倍近く異なることを踏まえると、シングリックスのほうがコスト効果に優れるという研究結果も出ています。65歳を対象にした日本の費用対効果分析では、シングリックスによる帯状疱疹ワクチン接種はQALY(質調整生存年)あたり約420万円という結果が得られており、日本の費用対効果の閾値(500〜600万円/QALY)を下回る水準です。

項目シングリックス乾燥弱毒生ワクチン(ビケン)
薬剤費(1回)約20,000円約7,000〜8,000円
総費用の目安約45,000〜55,000円約8,000〜10,000円
接種回数2回1回
費用対効果(研究データ)優れる(日本65歳では閾値以内)データ少

助成制度の活用が費用負担を大きく左右する

2024年4月から帯状疱疹ワクチンは定期接種に加えられ、対象者(65歳以上の一定年齢)は自治体からの費用助成が受けられるようになりました。助成額は自治体によって異なりますが、接種費用の一部(数千円〜半額程度)をカバーするところもあります。接種を検討している方は、まずかかりつけ医や自治体の保健センターへ問い合わせることをお勧めします。

副反応の違いを知って接種後の生活に備える

2つのワクチンは副反応のパターンも異なります。特にシングリックスは接種部位の反応が強く出やすい傾向があり、あらかじめ把握しておくと安心です。

シングリックスで多い副反応

シングリックスの臨床試験では、接種部位の痛みが70%以上の参加者で報告されており、赤みや腫れも比較的多く見られます。全身症状としては疲労感、筋肉痛(筋肉痛は40〜50%以上の参加者で確認)、頭痛、悪寒、発熱なども報告されています。これらの反応は接種後1〜3日でおさまることがほとんどで、強い免疫反応が生じているサインとも言い換えられます。

アジュバント(AS01B)は免疫を強く刺激する設計になっているため、副反応の発現率は生ワクチン系統に比べて高くなります。接種前日や当日に予定を空けておくと、万が一体調が変化したときにも安静にしやすくなります。

乾燥弱毒生ワクチンの副反応

乾燥弱毒生ワクチンで報告される副反応の多くは、接種部位の発赤・腫れ・かゆみなど局所症状です。全身症状は少なく、接種後に大きく体調が崩れることは少ないとされています。シングリックスと比べると筋肉痛や倦怠感の頻度は低く、翌日も普段通りの生活を送れることが多いといえます。

ただし、まれに接種後に帯状疱疹類似の症状が出ることがあります。生きたウイルスを含むため、免疫低下の強い方には使えないという制限が設けられています。

副反応が出たときの対処法

どちらのワクチンでも、接種後に腕の痛みや発熱が見られた場合は、まず十分な休息をとることが大切です。痛みがつらい場合はアセトアミノフェン系の市販解熱鎮痛薬(医師に相談のうえ)を使う選択肢もあります。接種後数日で症状が改善しない場合や、高熱が続く場合、呼吸困難・じんましんなどのアレルギー症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診してください。

どちらを選ぶべきか、症状・生活・年齢で考える選択基準

どちらのワクチンを選ぶかは、予防効果の優先度、費用面の余裕、健康状態、接種回数の許容範囲などを合わせて考えることが大切です。一般論として「より高い予防効果を求めるならシングリックス、1回で済ませたい・費用を抑えたいなら乾燥弱毒生ワクチン」という整理ができます。

シングリックスが向いている方

シングリックスを積極的に検討してほしい方の筆頭は、免疫が低下している方や、免疫抑制薬を使用しているリウマチ・膠原病などの患者さんです。生ワクチンでは接種が難しいケースでも、シングリックスは接種できるため、これらの方にとって唯一の選択肢になります。また、長期にわたって確実な予防効果を維持したい50〜60代の方にも、シングリックスをお勧めします。

「帯状疱疹後神経痛になりたくない」という思いが強い方にとっても、PHNに対して91.2%という高い予防効果を示したシングリックスは心強い選択肢です。仕事や家族との生活を守るために、予防に投資する価値は十分にあります。

乾燥弱毒生ワクチンが向いている方

費用や通院回数を重視する方には、乾燥弱毒生ワクチンも選択肢です。免疫機能が正常で、まず低コストで帯状疱疹リスクを下げたいという方、または通院が難しく1回で完結させたい方には、現実的な選択といえます。

また、「まず乾燥弱毒生ワクチンで始めて、将来的にシングリックスを追加で接種する」という考え方もあります。現時点では両ワクチンを順次接種した場合の効果について研究が進んでいますが、接種スケジュールについては必ず医師にご相談ください。

年齢別の選択ポイント

50〜60代は免疫機能がまだ比較的保たれているため、どちらのワクチンでも一定の効果が期待できますが、長期的な予防を考えるとシングリックスに優位性があります。70代以降は免疫機能の低下が顕著になるため、加齢による予防効果の低下が少ないシングリックスがより適しているといえます。80代以上の方も、ZOE-70試験では89%以上の予防効果が確認されており、接種の恩恵を受けられます。

よくある質問

Q
シングリックスの予防効果は何年くらい続きますか?
A

シングリックスの予防効果は、接種後10年を超えても高い水準が維持されることが確認されています。ZOE-50とZOE-70試験の長期追跡研究(ZOE-LTFU)の中間解析では、接種後10年前後の時点で帯状疱疹に対する全体的な予防効果が89%前後を保っているというデータが得られています。

一方、乾燥弱毒生ワクチンは接種から年数が経つにつれて効果が低下しやすく、10年後には効果がほぼなくなるとされています。長期的な予防という観点でも、シングリックスは乾燥弱毒生ワクチンを大きく上回っています。

Q
乾燥弱毒生ワクチンを接種済みでも、シングリックスを追加接種できますか?
A

乾燥弱毒生ワクチンをすでに接種している方がシングリックスを追加接種することは、現時点では可能です。ただし、どのくらいの間隔を空けるべきか、効果や安全性がどうなるかについては個人差があるため、必ずかかりつけ医にご相談ください。

海外では、乾燥弱毒生ワクチン接種後にシングリックスを接種することで免疫を補強するという考え方も広まりつつあります。ご自身の健康状態や接種歴を踏まえて、担当医と相談のうえ決断されることをお勧めします。

Q
シングリックスの副反応はどのくらい強く出ますか?
A

シングリックスは乾燥弱毒生ワクチンと比べて副反応が強く出やすい傾向があります。接種部位の痛みは7割以上の方で報告されており、腕の筋肉痛・赤み・腫れが生じることも珍しくありません。また、全身症状として倦怠感・筋肉痛・頭痛・発熱なども報告されており、接種翌日に体調の変化を感じる方も多くいます。

これらの症状は通常1〜3日以内に治まります。副反応が心配な場合は接種後に予定を空けておくと安心です。症状が数日たっても続く場合や、高熱・アレルギー症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診してください。

Q
シングリックスと乾燥弱毒生ワクチンはどちらが費用対効果に優れていますか?
A

費用面だけを見ると乾燥弱毒生ワクチン(1回8,000〜10,000円程度)がシングリックス(2回で45,000〜55,000円程度)より安くなります。しかし、予防効果(97%対約50%台)と保護持続期間(10年以上対5〜10年程度)を考慮すると、費用対効果ではシングリックスが優れているという研究結果が出ています。

日本の65歳以上を対象にした経済モデル分析では、シングリックスのICER(増分費用対効果比)が日本の費用対効果閾値(500〜600万円/QALY)を下回ることが示されています。つまり、費用は高くても予防できる病気と後遺症の重さを考えると、社会的に見合う投資といえる水準にあります。

Q
乾燥弱毒生ワクチンはなぜ免疫が低下している方に接種できないのですか?
A

乾燥弱毒生ワクチンは、弱毒化した生きた水痘・帯状疱疹ウイルスを含む製剤です。通常の免疫機能を持つ方では問題ありませんが、免疫が著しく低下している方に投与すると、弱毒化されたウイルスが体内で増殖して帯状疱疹を発症させてしまうリスクがあります。

そのため、ステロイド薬や免疫抑制薬を使用している方、悪性腫瘍の治療中の方、HIV感染症の方などには接種が原則禁忌とされています。一方のシングリックスは生ウイルスを一切含まない組換えワクチンのため、このようなリスクがなく、免疫が低下している方にも安全に接種できます。

参考文献