犬や猫に噛まれたとき、多くの方がまず「狂犬病は大丈夫だろうか」と心配されます。しかし動物咬傷で注意すべき感染症は狂犬病だけではありません。傷口から侵入する細菌による化膿や蜂窩織炎、そして破傷風のリスクも見逃せない問題です。

動物の口腔内にはPasteurella属やCapnocytophaga属をはじめ、多種多様な細菌が常在しています。とくに猫の歯は細く鋭いため、噛まれると深い刺創になりやすく、犬に比べて感染率が高い傾向があります。噛まれた部位や傷の深さ、受傷者の免疫状態によっても感染のリスクは大きく変わります。

この記事では、動物咬傷で起こりうる感染症の種類と破傷風予防の考え方、応急処置から医療機関での治療まで、正しい知識を網羅的にお伝えします。噛まれた傷を軽く見ず、適切なタイミングで受診することが、感染の重症化を防ぐ一番の近道です。

目次
  1. 動物咬傷で注意すべき感染症は狂犬病だけではない
    1. 国内で狂犬病が稀な現在も咬傷後の細菌感染は多い
    2. 動物咬傷が引き起こす感染症の全体像
    3. 破傷風ワクチンの接種歴を確認する必要がある
  2. 犬に噛まれた傷と猫に噛まれた傷で感染リスクはどう異なるか
    1. 犬の咬傷は組織損傷が広いが洗浄しやすい
    2. 猫の咬傷は深い刺創となり化膿しやすい
    3. 咬傷部位によって異なるリスクの大きさ
  3. 動物咬傷に潜む細菌感染──PasteurellaやCapnocytophagaの危険性
    1. Pasteurella multocidaは猫の咬傷から最も多く検出される
    2. Capnocytophaga canimorsusによる致命的な敗血症
    3. 嫌気性菌と複数菌の混合感染にも目を向ける
    4. 黄色ブドウ球菌やレンサ球菌も見逃せない
  4. 破傷風は動物に噛まれた傷からも発症する──ワクチンと予防の基本
    1. 破傷風菌はどのように傷口で増殖するのか
    2. 破傷風トキソイドの追加接種が必要なタイミング
    3. 成人の破傷風ワクチン接種率が低い現状
  5. 犬猫に噛まれた直後にやるべき応急処置と受診の判断
    1. 流水と石鹸で15分以上洗い流す
    2. すぐに医療機関を受診すべきケース
    3. やってはいけない応急処置
  6. 動物咬傷の治療で医師が行う感染予防と抗菌薬の選び方
    1. 傷の洗浄とデブリードマンが治療の土台になる
    2. 第一選択の抗菌薬はアモキシシリン・クラブラン酸
    3. 縫合するかどうかの判断基準
    4. 狂犬病の曝露後予防を行うかどうか
  7. 噛まれた傷の化膿や腫れが続くときに疑うべき合併症
    1. 蜂窩織炎からリンパ管炎への進行
    2. 骨髄炎や化膿性関節炎は手指の咬傷で起きやすい
    3. 免疫の低下した方に起きやすい全身合併症
  8. よくある質問

動物咬傷で注意すべき感染症は狂犬病だけではない

犬や猫に噛まれた際の感染リスクは、狂犬病よりもむしろ細菌感染や破傷風のほうが身近な脅威です。日本国内では1957年以降、国内感染の狂犬病は報告されていませんが、咬傷後の細菌感染は日常的に発生しています。

動物の口腔内には数十種類もの細菌が存在し、噛まれた瞬間にそれらが皮下組織へ押し込まれます。放置すると局所の腫れや発赤だけでなく、全身に菌が広がる敗血症に至るケースもあるため、正しい知識と早期対応が大切です。

国内で狂犬病が稀な現在も咬傷後の細菌感染は多い

日本で動物に噛まれて医療機関を受診する方の多くは、狂犬病そのものよりも傷口の化膿や腫れに悩まされています。咬傷による感染率は犬で5〜25%、猫では30〜50%にも上るとされています。猫の歯は細く深く刺さるため、傷口が小さく見えても内部で細菌が増殖しやすいのです。

犬に噛まれた傷は裂けるように開くことが多く、洗浄しやすい反面、組織の損傷範囲が広くなりがちです。一方、猫の咬傷は表面上は目立たなくても、関節包や腱の近くまで達している場合があり、油断は禁物といえます。

動物咬傷が引き起こす感染症の全体像

動物に噛まれた傷からは、局所の蜂窩織炎(皮膚とその下の組織に広がる感染)や膿瘍(膿がたまった状態)が起こりやすくなります。さらに傷が深い場合は、骨髄炎や化膿性関節炎に発展する可能性もあります。

全身性の合併症としては、敗血症や髄膜炎が報告されています。とくに脾臓を摘出した方や肝硬変のある方、免疫抑制薬を使用中の方は重症化のリスクが高まります。

破傷風ワクチンの接種歴を確認する必要がある

動物に噛まれた傷は、破傷風菌が繁殖しやすい嫌気性の環境を作りやすいとされています。破傷風は筋肉のけいれんや呼吸困難を引き起こし、適切な治療を受けなければ致死率が10〜40%に達することもあります。

接種歴がはっきりしない場合や、最後の追加接種から5年以上経過している場合は、受診時にトキソイドの追加接種について医師と相談してください。ワクチンは「次のケガ」に備えるものですが、咬傷を機に免疫を確認しておく意味は十分にあります。

感染症の種類主な原因特徴
蜂窩織炎・膿瘍Pasteurella属、黄色ブドウ球菌など噛まれた部位の発赤・腫脹・疼痛
敗血症Capnocytophaga canimorsusなど発熱・血圧低下・意識障害
破傷風Clostridium tetani開口障害・全身のけいれん
猫ひっかき病Bartonella henselaeリンパ節腫脹・発熱

犬に噛まれた傷と猫に噛まれた傷で感染リスクはどう異なるか

犬の咬傷と猫の咬傷では、傷の形状も感染率も大きく違います。受傷後の対応を正しく判断するには、その違いを知っておくことが助けになります。

犬の咬傷は組織損傷が広いが洗浄しやすい

犬の顎は強い咬合力を持ち、皮膚を引き裂くように噛むため、裂傷や挫滅創になりやすいのが特徴です。傷口が開いている分、水道水や生理食塩水で内部まで洗い流しやすく、適切に洗浄すれば感染率を下げられます。

ただし、手や指を噛まれた場合は腱鞘や関節腔への到達リスクが上がります。小さな子どもでは頭部や顔面を噛まれるケースも多く、傷の場所によっては整形外科的な対応が求められるでしょう。

猫の咬傷は深い刺創となり化膿しやすい

猫の歯は針のように細く鋭いため、皮膚表面の傷は小さくても、皮下深くまで菌を押し込んでしまいます。見た目に反して感染のリスクが非常に高く、30〜50%の確率で化膿するとの報告があります。

傷口が自然に閉じてしまうと嫌気性菌が増殖しやすい環境になり、数時間〜24時間以内に急速に赤く腫れ上がることも珍しくありません。猫に噛まれた場合は、傷が小さくても早めに医療機関を受診するようにしてください。

咬傷部位によって異なるリスクの大きさ

手指は血流が比較的乏しく、腱や関節が浅い位置にあるため、咬傷後の感染率がとりわけ高い部位です。研究では手の咬傷で抗菌薬の予防投与が感染を有意に減らしたとする報告があり、医師の判断で処方されることがあります。

顔面は血流が豊富なため感染率は低い傾向にありますが、審美的な問題から縫合が必要になることが多い部位でもあります。足や下肢を噛まれた場合は糖尿病や末梢血管障害のある方で治りが遅くなる傾向があるため注意が必要です。

比較項目犬の咬傷猫の咬傷
傷の形状裂傷・挫滅創が多い深い刺創が多い
感染率約5〜25%約30〜50%
主な起因菌Pasteurella canis、黄色ブドウ球菌Pasteurella multocida

動物咬傷に潜む細菌感染──PasteurellaやCapnocytophagaの危険性

動物の口腔内には好気性菌と嫌気性菌が混在しており、咬傷の感染創からは1つの傷あたり平均5種類もの菌が検出されるという報告があります。なかでもPasteurella属とCapnocytophaga属は臨床上とくに注意が求められる菌です。

Pasteurella multocidaは猫の咬傷から最も多く検出される

Pasteurella multocida(パスツレラ・ムルトシダ)は猫の口腔内に高率で存在し、感染した猫咬傷の約75%から分離されるとの報告があります。噛まれてから12〜24時間以内に急速な発赤・腫脹・漿液性の排膿が現れるのが典型的な経過です。

この菌はペニシリン系の抗菌薬によく反応しますが、治療の開始が遅れると骨髄炎や化膿性関節炎に移行するリスクが高まります。指の関節付近を猫に噛まれた場合は、とくに早い段階で医療機関を受診してください。

Capnocytophaga canimorsusによる致命的な敗血症

Capnocytophaga canimorsus(カプノサイトファーガ・カニモルサス)は犬や猫の唾液中に常在するグラム陰性桿菌で、健康な方では通常は重篤な感染を起こしません。しかし、脾臓を摘出した方やアルコール依存症の方、免疫機能が低下している方が感染すると、致死率が約26%に達する劇症型の敗血症を引き起こすことがあります。

噛まれてから数日後に発熱・嘔吐・意識障害が現れ、急速に敗血性ショックへと進行するのが特徴です。わずかな傷やペットに舐められただけでも発症した事例が報告されており、免疫の弱い方は軽微な接触にも注意を払う必要があります。

嫌気性菌と複数菌の混合感染にも目を向ける

咬傷の感染創では、好気性菌だけが検出されるケースは約36%にとどまり、好気性菌と嫌気性菌の混合感染が56%を占めるとされています。嫌気性菌としてはFusobacterium属やBacteroides属、Prevotella属が代表的です。

混合感染が起きると膿瘍を形成しやすくなり、抗菌薬の選択も複雑になります。そのため、咬傷の治療では好気性菌だけでなく嫌気性菌もカバーできる広域の抗菌薬が選ばれる場合が多いのです。

黄色ブドウ球菌やレンサ球菌も見逃せない

動物咬傷の感染では動物の口腔内の菌だけでなく、患者自身の皮膚に常在する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やレンサ球菌が関与することもあります。とくに傷口の処置が不十分なまま放置した場合、これらの菌が二次感染を引き起こす恐れがあります。

受傷後の早い段階で十分な洗浄と消毒を行うことが、皮膚常在菌の侵入を防ぐうえでも重要です。

破傷風は動物に噛まれた傷からも発症する──ワクチンと予防の基本

「破傷風は錆びた釘を踏んだときの病気」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、動物の咬傷も破傷風の原因になり得ます。破傷風菌は土壌中に広く分布しており、動物の歯や爪を介して傷口に侵入することがあるためです。

破傷風菌はどのように傷口で増殖するのか

Clostridium tetani(破傷風菌)は酸素の少ない環境を好む嫌気性菌です。動物に噛まれた傷は組織が押しつぶされ、血流が遮断された壊死組織を含みやすいため、破傷風菌の増殖に適した条件が整います。

破傷風菌が産生するテタノスパスミンという神経毒素が神経系に作用し、全身の筋肉が硬直する「開口障害(牙関緊急)」や後弓反張(体が弓なりに反る姿勢)といった特徴的な症状が現れます。発症すると集中治療を要する重篤な状態になることが多いため、予防が何よりも大切です。

破傷風トキソイドの追加接種が必要なタイミング

日本では定期接種として幼児期に破傷風を含むワクチン(DPT-IPVなど)を4回接種しますが、免疫は年数とともに低下します。汚染された傷や咬傷を受けた際に、最終接種から5年以上が経過していれば追加接種を検討するのが一般的な考え方です。

接種歴が不明な方や、基礎免疫(3回以上の接種)が完了していない方の場合は、破傷風トキソイドに加えて破傷風免疫グロブリン(TIG)の投与が推奨されるケースもあります。動物に噛まれた際には、受診先で必ず予防接種の記録を確認してもらいましょう。

接種歴清潔な傷汚染された傷・咬傷
3回以上・最終接種から5年未満追加接種は不要追加接種は不要
3回以上・最終接種から5〜10年追加接種は不要トキソイド追加接種を検討
3回未満または不明トキソイド接種+経過観察トキソイド接種+TIG投与を検討

成人の破傷風ワクチン接種率が低い現状

幼児期にきちんと予防接種を受けていても、成人期に追加接種を受けていなければ免疫は十分ではないかもしれません。日本の成人における破傷風の抗体保有率は年齢が上がるほど低下する傾向が示されています。

「自分は子どものときに打っているから安心」と思い込まず、動物に噛まれた機会を一つのきっかけとして、かかりつけ医に接種歴を確認してみてください。

犬猫に噛まれた直後にやるべき応急処置と受診の判断

噛まれた直後の正しい処置が、その後の感染リスクを大きく左右します。傷口の洗浄を速やかに行い、受診の要否を冷静に判断することが重要です。

流水と石鹸で15分以上洗い流す

動物に噛まれたらまず水道水と石鹸を使い、傷口を15分以上かけてしっかり洗い流してください。物理的に細菌を減らすことが感染予防の基本であり、この初期洗浄だけでも感染率を有意に下げることが分かっています。

出血がひどい場合は清潔なガーゼやタオルで圧迫止血しながら、可能な範囲で洗浄を行います。消毒液がすぐに手に入らなくても、水道水による洗浄だけでも十分に意味があります。

すぐに医療機関を受診すべきケース

傷が深い場合、手や指・顔面を噛まれた場合、出血が止まらない場合は速やかに医療機関を受診してください。糖尿病や肝硬変など基礎疾患のある方、免疫抑制薬を使用中の方も、軽い傷に見えても受診が推奨されます。

猫に噛まれた場合は傷が浅く見えても感染率が高いため、原則として医療機関での評価を受けたほうが安心です。受傷から時間が経つほど感染のリスクは上がりますので、できれば数時間以内の受診を目指しましょう。

  • 傷が皮膚を貫通している(全層創)
  • 手・指・足・顔面・関節付近の咬傷
  • 出血が15分以上止まらない
  • 免疫機能が低下している方(糖尿病・肝疾患・脾摘後など)
  • 破傷風ワクチンの接種歴が不明

やってはいけない応急処置

傷口を口で吸い出す行為は、ヒトの口腔内の細菌をさらに傷に送り込むことになりかねません。市販の軟膏を厚く塗って傷口を密閉してしまうと嫌気性菌の増殖を助けることがあるため、応急段階では避けたほうが無難です。

傷口をきつく縛って血流を止める行為も、組織の壊死を招き感染リスクを高める原因になります。止血は圧迫で行い、駆血帯のような強い締め付けは行わないでください。

動物咬傷の治療で医師が行う感染予防と抗菌薬の選び方

医療機関での治療は、傷の評価・洗浄・デブリードマン(壊死組織の除去)・抗菌薬投与・破傷風や狂犬病の予防措置を組み合わせて行います。傷の状態に応じた抗菌薬の選択が感染の予後を左右するため、自己判断で市販薬だけに頼ることは避けましょう。

傷の洗浄とデブリードマンが治療の土台になる

医療機関ではまず生理食塩水やポビドンヨード液で十分な量の洗浄を行い、損傷した壊死組織があれば外科的に除去します。20mL以上のシリンジに18〜20Gの注射針やカテーテルを装着し、高圧洗浄を行う方法が推奨されています。

この物理的な洗浄が感染予防の最も確実な手段であり、抗菌薬はあくまで洗浄を補助する位置づけです。傷口の状態によっては、感染リスクを下げるためにあえて縫合せず開放創のまま管理する場合もあります。

第一選択の抗菌薬はアモキシシリン・クラブラン酸

動物咬傷に対する予防的・治療的な抗菌薬として、国際的なガイドラインで推奨されているのがアモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチンなど)です。この薬はPasteurella属をはじめ嫌気性菌や黄色ブドウ球菌にも幅広い抗菌活性を持ちます。

ペニシリンアレルギーのある方には、ドキシサイクリンやフルオロキノロン系にメトロニダゾールを併用するレジメンが代替として用いられることがあります。自己判断で手元にある抗菌薬を服用するのではなく、必ず医師の処方に従ってください。

縫合するかどうかの判断基準

顔面の咬傷は審美的な理由から一次縫合されることが多いですが、手や四肢の傷では感染リスクが上がるため開放のまま管理し、感染が起きなければ後日縫合する「遅延一次閉鎖」が選ばれることもあります。

縫合の判断は傷の深さ・部位・受傷からの時間・汚染の程度などを総合的に考慮して行います。受傷から12時間以上経過した四肢の咬傷や、刺創タイプの猫咬傷は原則として縫合を避けるのが一般的です。

治療方針適用される状況
一次縫合(すぐに閉じる)顔面の裂傷、受傷から数時間以内、感染兆候なし
遅延一次閉鎖(3〜5日後に閉じる)四肢の傷、感染リスクが中程度
開放管理(閉じない)手指の深い傷、猫の刺創、受傷から12時間以上経過

狂犬病の曝露後予防を行うかどうか

日本国内で飼育されている犬や猫に噛まれた場合、狂犬病の曝露後予防(PEP)が必要になるケースはまれです。しかし、海外で動物に噛まれた場合や、野生動物による咬傷、動物の行動に異常が見られた場合は、直ちに狂犬病ワクチンの接種を開始する必要があります。

判断に迷ったときは、受診先の医師や保健所に相談してください。狂犬病は発症すればほぼ100%致死的な疾患ですが、噛まれた後すぐにPEPを開始すれば予防は十分に可能です。

噛まれた傷の化膿や腫れが続くときに疑うべき合併症

適切な初期処置を受けても、傷の状態が改善しない場合や悪化する場合があります。そうした兆候を見逃さず、速やかに再受診することで深刻な合併症への進行を食い止められます。

蜂窩織炎からリンパ管炎への進行

咬傷部位の周囲が赤く腫れ上がり、熱を持ち始めたら蜂窩織炎の疑いがあります。さらに赤い線が傷から体の中心に向かって走り始めた場合はリンパ管炎を起こしている可能性が高く、抗菌薬の変更や点滴治療が求められます。

発熱や悪寒、全身のだるさが加わった場合は菌血症(血液中に菌が入り込んだ状態)を示唆しているかもしれません。「たかが噛み傷」と思わず、異変を感じたら早めに医療機関に連絡してください。

骨髄炎や化膿性関節炎は手指の咬傷で起きやすい

手指を深く噛まれた場合、皮膚の下にある腱鞘や関節腔、さらには骨まで菌が到達することがあります。こうした深部感染が起きると、抗菌薬の内服だけでは不十分になり、入院のうえ静脈内投与や外科的なドレナージが必要になる場合があります。

関節の動きが悪い、指がパンパンに腫れて曲げられない、といった症状が続くときは深部感染を疑い、整形外科や手の外科の専門医に診てもらうことを強くおすすめします。

免疫の低下した方に起きやすい全身合併症

前述のCapnocytophaga canimorsus感染による劇症型敗血症は、脾臓を摘出された方や肝硬変の方、ステロイドなどの免疫抑制薬を使用中の方に起こりやすいとされています。電撃性紫斑病(皮膚の広範な紫色のあざ)や播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴い、四肢の壊疽に至った報告もあります。

たとえ傷が小さくても、免疫に不安のある方は予防的に抗菌薬を投与されることがあります。普段からかかりつけ医にペットの有無を伝えておくと、万一のときの対応がスムーズになるでしょう。

  • 脾臓摘出後の方
  • 肝硬変やアルコール依存症の方
  • 糖尿病でコントロール不良の方
  • 免疫抑制薬・ステロイドを使用中の方
  • 悪性腫瘍の化学療法中の方
合併症主な症状
蜂窩織炎傷の周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛
膿瘍傷の内部に膿がたまり波動を触れる
骨髄炎深部の持続する痛み、発熱が続く
敗血症高熱・悪寒・血圧低下・意識障害

よくある質問

Q
動物咬傷の感染症状は噛まれてからどのくらいで現れますか?
A

Pasteurella属による感染では、噛まれてから12〜24時間以内に傷の周囲が赤く腫れ、強い痛みを伴う場合が多いです。ほかの細菌による感染では24〜72時間かけて症状が進行するケースもあります。

黄色ブドウ球菌やレンサ球菌による二次感染では、受傷から2〜3日後に化膿が目立ち始めることがあります。傷口の発赤や腫れが時間とともに広がっていると感じたら、早めに医療機関を再受診なさってください。

Q
犬や猫に噛まれた傷に破傷風ワクチンは何時間以内に接種すべきですか?
A

破傷風トキソイドは「今の傷を治す」のではなく、次回以降の外傷に備えて免疫を強化する位置づけです。そのため、受傷直後に慌てて接種しなければ手遅れになる、というものではありません。

ただし、基礎免疫が完了していない方や接種歴が不明な方に投与される破傷風免疫グロブリン(TIG)は早期の投与が望ましいとされます。目安としては受傷から48〜72時間以内の投与が推奨されていますので、できるだけ早く受診して医師に接種歴を伝えてください。

Q
動物咬傷で病院に行くと何科を受診すればよいですか?
A

まずは外科や救急科を受診するのが一般的です。傷の状態に応じて、手指の咬傷であれば整形外科や手の外科、顔面の咬傷であれば形成外科へ紹介されることがあります。

感染が疑われる場合や全身症状が出ている場合は皮膚科や感染症内科が関与することもあります。まずは最寄りの医療機関の外科系外来を受診し、適切な診療科につないでもらうのが確実です。

Q
動物咬傷の予防的な抗菌薬はどのような場合に処方されますか?
A

すべての咬傷に予防的な抗菌薬が必要というわけではありません。研究では犬や猫の咬傷全般に対する予防投与の有効性は限定的とされており、リスクの高い傷に対して選択的に使うのが現在の考え方です。

具体的には、手指や関節近くの深い咬傷、猫による刺創、免疫が低下している方、受傷から処置までに時間が経った場合などが、抗菌薬の予防投与が検討される状況です。第一選択としてはアモキシシリン・クラブラン酸が広く用いられています。

Q
飼い猫に軽く噛まれた程度でも動物咬傷として受診は必要ですか?
A

飼い猫であっても口腔内にはPasteurella multocidaをはじめ多数の細菌が生息しています。猫の歯は細いため「軽く噛まれた」と感じる傷でも皮下深くまで菌が押し込まれていることが少なくありません。

傷口が赤みを帯びてきた、腫れてきた、熱を持っている、などの兆候がひとつでもあれば受診をおすすめします。とくに手指を噛まれた場合は感染のリスクが高いため、症状がなくても念のため医師に相談してみてください。

参考文献