AGA治療と一言でいっても、その方法は多岐にわたります。

体の内側から作用する内服薬、気になる部分に直接塗る外用薬、専門の機器を使う治療、そして外科的な手法まで、進行度やライフスタイル、価値観に応じて選べる幅広い選択肢が存在します。

まずはどのような治療法があるのか全体像を把握し、それぞれのメリット・デメリットを理解することが、後悔のない治療への第一歩です。

ここでは、代表的な治療法を大きく5つのカテゴリーに分けて、詳しく見ていきましょう。

まずは手軽に始める外用薬(育毛剤)

AGA外用薬の4タイプ比較イラスト(育毛剤・遺伝子検査付き・市販発毛剤・医療用)

外用薬は、薄毛が気になる部分の頭皮に直接塗布するタイプの治療薬です。ドラッグストアなどで手軽に購入できるものから、クリニックで処方される医療用まで様々な種類があります。

特に治療の初期段階や、内服薬に抵抗がある方にとって始めやすい選択肢と言えるでしょう。成分や濃度によって期待できる働きが異なるため、自分の目的に合った製品を選ぶことが大切です。

ここでは代表的な外用薬を4つのタイプに分けて解説します。

市販の育毛剤

市販の育毛剤は「医薬部外品」に分類され、主に現在生えている髪の毛を健康に保ち、抜け毛を予防することを目的としています。

血行促進成分や抗炎症成分、保湿成分などが配合されており、頭皮環境を整えることで、髪が育ちやすい土台作りをサポートします。

新しい髪を生やす「発毛」効果を謳うことはできませんが、薄毛の予防や初期段階の対策として有効な場合があります。香料や使用感が製品によって大きく異なるため、好みに合わせて選べるのも特徴です。

継続して使用することで、頭皮の状態を健やかに保つ助けとなります。

遺伝子検査付きの育毛剤

近年、個人の体質に合わせたアプローチとして、遺伝子検査を伴う育毛剤が登場しています。

これは、AGAのリスクや頭皮のタイプに関連する遺伝子を検査し、その結果に基づいて、より自分に合った成分が配合された育毛剤を選ぶというものです。

遺伝子検査付き育毛剤の流れイメージ(DNA検査から最適処方)

例えば、男性ホルモンの影響を受けやすいタイプか、血行不良になりやすいタイプかなどを分析し、それに適した成分を提案します。

科学的な根拠に基づいて自分だけのケアを選びたいと考える方にとって、魅力的な選択肢の一つです。

ただし、検査結果が全てを決めるわけではなく、生活習慣など他の要因も髪の状態に影響を与えることを理解しておく必要があります。

▶ 遺伝子検査付き育毛剤Pesod

市販の発毛剤(ミノキシジル外用薬5%以下)

市販されている発毛剤の多くは、「第一類医薬品」に分類され、有効成分としてミノキシジルを配合しています。

ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発された成分ですが、血管を拡張して血流を改善し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促す働きが認められています。

日本の薬局やドラッグストアで購入できるのは、ミノキシジルの濃度が5%以下の製品です。薬剤師からの説明を受けた上で購入する必要があり、使用方法や副作用について正しく理解することが重要です。

発毛効果が公に認められている成分を含んでいるため、育毛剤よりも積極的な発毛を期待する方が選択します。

医療用の発毛剤(ミノキシジル外用薬6%以上)

AGAクリニックなどの医療機関では、市販品よりも高濃度のミノキシジル外用薬を処方することが可能です。一般的に6%から15%程度の濃度のものが多く、医師の診断のもとで使用します。

濃度が高いほど発毛効果への期待も高まりますが、同時にかゆみやかぶれといった副作用のリスクも上がる可能性があります。

そのため、医師が患者一人ひとりの頭皮の状態や体質を診察し、適切な濃度のものを処方します。

より高い効果を求める場合や、市販の発毛剤で十分な効果を感じられなかった場合に、医師と相談の上で検討する治療法です。

外用薬の主な種類と特徴

種類主な目的入手方法
市販育毛剤頭皮環境改善、抜け毛予防ドラッグストア、通販
市販発毛剤発毛促進(ミノキシジル5%以下)薬局(要薬剤師説明)
医療用発毛剤積極的な発毛促進(ミノキシジル6%以上)医療機関での処方

内側から作用する内服薬治療

AGA内服薬の作用比較(フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジル内服)

内服薬による治療は、現在のAGA治療において中心的な役割を担っています。薬を服用することで、薄毛の根本原因に体の中から働きかけ、抜け毛を抑制したり、発毛を促したりします。

外用薬と併用することで、より高い効果を期待できる場合も多くあります。ただし、効果がある一方で副作用のリスクも伴うため、必ず医師の診断と処方のもとで正しく服用することが絶対条件です。

ここでは、AGA治療で主に用いられる内服薬と、補助的に利用されるサプリメントについて解説します。

フィナステリド(プロペシアのジェネリック)

フィナステリドは、AGAの進行を抑える代表的な内服薬です。

AGAの主な原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)は、男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという酵素と結びつくことで生成されます。

フィナステリドは、この5αリダクターゼ(特にII型)の働きを阻害することでDHTの生成を抑制し、ヘアサイクルの乱れを正常化させ、抜け毛を防ぎます。これにより、薄毛の進行を食い止める効果を期待します。

もともと「プロペシア」という名前で販売されていましたが、現在ではジェネリック医薬品(後発医薬品)が多数登場しており、より安価に治療を始められるようになりました。

効果を実感するまでには、通常6ヶ月程度の継続的な服用が必要です。

  • 5αリダクターゼ(II型)の阻害
  • DHT(ジヒドロテストステロン)の生成抑制
  • ヘアサイクルの正常化と抜け毛の防止

デュタステリド(ザガーロのジェネリック)

デュタステリドもフィナステリドと同様に、5αリダクターゼを阻害してDHTの生成を抑える薬です。

大きな違いは、フィナステリドがII型の5αリダクターゼのみを阻害するのに対し、デュタステリドはI型とII型の両方を阻害する点です。

そのため、より強力にDHTの生成を抑制する働きがあり、フィナステリドで十分な効果が得られなかった場合などに選択肢となります。こちらも「ザガーロ」という先発医薬品のジェネリックが登場しています。

作用が強力な分、副作用にも注意が必要であり、医師と十分に相談した上で服用を決定することが大切です。

ミノキシジルタブレット(ミノタブ)

ミノキシジルタブレットは、その名の通りミノキシジルを有効成分とする内服薬で、「ミノタブ」という通称で知られています。

外用薬のミノキシジルと同様に血管拡張作用があり、体の中から血行を促進することで、毛根にある毛母細胞へ栄養を届けやすくし、その働きを活性化させます。

これにより、強力な発毛効果を期待します。ただし、ミノキシジルタブレットはもともと降圧剤として開発された経緯があり、全身の血圧に影響を与える可能性があります。

ミノキシジルタブレットの発毛メカニズム図(血管拡張と毛包活性)

動悸やむくみ、体毛の増加(多毛症)といった副作用が報告されており、国内ではAGA治療薬として正式な承認を得ていません。

そのため、処方するクリニックでは、医師がそのリスクとベネフィットを慎重に判断し、定期的な診察のもとで処方を行います。

内服薬の主な種類と働き

成分名期待できる働き注意点
フィナステリド抜け毛の抑制性機能関連の副作用の可能性
デュタステリドより強力な抜け毛の抑制フィナステリドより副作用に注意が必要
ミノキシジル強力な発毛促進動悸、むくみ、多毛症などの可能性

治療を補助するサプリメント

サプリメントは、医薬品とは異なり、治療そのものを目的とするものではありません。

しかし、髪の毛の主成分であるケラチン(タンパク質)や、その合成を助ける亜鉛、ビタミン、ミネラルといった栄養素を補給することで、髪が健康に育つための体内環境をサポートする役割を果たします。

特に、普段の食事だけでは栄養バランスが偏りがちな方にとって、治療の効果を補助する目的で有効な場合があります。

多くのAGAクリニックでは、治療薬と合わせて、髪の成長に特化した独自のサプリメントを処方しています。

ただし、サプリメントだけでAGAが改善することはないため、あくまで治療の補助的な位置づけとして理解しておくことが重要です。

自宅でできる光を使った治療

AGAの光治療(LED・低出力レーザー)自宅ケアのイメージ

LEDや低出力レーザーを頭皮に照射する治療法は、近年注目を集めているアプローチの一つです。

これは、特定の波長の光エネルギーを利用して頭皮の細胞を活性化させ、血行を促進し、発毛をサポートするというものです。痛みや熱さをほとんど感じることがなく、副作用のリスクが極めて低いのが大きな特徴です。

クリニックでの施術のほか、家庭用のヘルメット型やキャップ型の機器も販売されており、自宅で手軽にケアを続けられる点も魅力です。

内服薬や外用薬との併用も可能で、治療の選択肢を広げるものとして期待されています。効果の現れ方には個人差がありますが、根気強く継続することが大切です。

米国食品医薬品局(FDA)がAGAへの有効性を承認している機器も存在します。

光治療の概要

種類特徴実施場所
LED照射特定の波長のLED光を使用。血行促進や細胞活性化を促す。クリニック、自宅
低出力レーザー低出力のレーザー光を使用。毛母細胞の活性化などを促す。クリニック、自宅

メソセラピー – 頭皮に直接届ける注入治療

メソセラピーによる頭皮注入治療のイラスト(成長因子・薬剤・ビタミン)

頭皮注射(メソセラピー)は、発毛を促進する有効成分を注射器や特殊な機器を用いて頭皮に直接注入する治療法です。

薄毛が気になる部分にダイレクトに成分を届けることができるため、高い効果を期待できます。

注入する成分はクリニックによって様々ですが、一般的にはミノキシジルやフィナステリドといった治療薬のほか、髪の成長に欠かせない成長因子(グロースファクター)、ビタミン、アミノ酸などを、患者の状態に合わせて独自に配合します。

内服薬や外用薬と並行して行うことで、相乗効果を狙うことも多いです。治療の際には痛みを伴うことがありますが、冷却や麻酔クリームを使用することで痛みを軽減する工夫をしています。

定期的に治療を続ける必要があります。

注入治療(メソセラピー)の概要

主な注入成分特徴治療頻度の目安
成長因子毛母細胞の活性化、ヘアサイクルの正常化を促す。月に1回程度
ミノキシジル等発毛促進、抜け毛抑制の薬液を直接注入する。月に1回程度
各種ビタミン等髪の成長に必要な栄養素を直接補給する。月に1回程度

見た目を根本から変える自毛植毛

自毛植毛の手法比較図(FUEとFUTの違い・傷跡の特徴)

自毛植毛は、AGAの影響を受けにくい後頭部や側頭部の自分の髪の毛を、毛根ごと薄毛の部分に移植する外科手術です。

移植した髪の毛は、元の場所の性質を引き継ぐため、生着すればその後も生え変わり続けます。

他の治療法と異なり、髪がなかった場所に新たに髪を生やすことができるため、見た目を根本的に改善したい場合に非常に有効な選択肢となります。

M字部分の後退や頭頂部の薄毛など、特定の範囲を確実にカバーしたい方に適しています。ただし、外科手術であるため費用が高額になり、ダウンタイム(回復期間)も必要です。

また、移植できる髪の毛の量には限りがあるため、どの範囲にどれだけ移植するか、医師との詳細な相談が重要になります。

FUE法

FUE(Follicular Unit Extraction)法は、専用のパンチという器具を使って、毛根を一つずつ株(グラフト)単位でくり抜いて採取する方法です。

FUE法の流れイラスト(採取→株管理→移植・点状瘢痕)

メスを使わないため、線状の傷跡が残らず、点状の小さな傷跡になるのが特徴です。そのため、術後の痛みが比較的少なく、回復も早い傾向にあります。

髪を短くする方でも傷跡が目立ちにくいため、ヘアスタイルを自由に楽しみたい方に人気があります。

ただし、一つひとつ手作業で採取するため、広範囲の移植には時間がかかり、医師の高い技術力が求められます。

FUT法(ドナーストリップ法)

FUT(Follicular Unit Transplantation)法は、後頭部の頭皮をメスで帯状に切除し、そこから移植する株を顕微鏡で一つひとつ丁寧に株分けしていく方法です。

FUT法の流れイラスト(帯状切除→株分け→移植・線状瘢痕)

一度に多くの株を採取できるため、広範囲の薄毛に対応する大量移植に向いています。また、毛根の切断率が低く、生着率が高い傾向にあるのもメリットです。

一方で、頭皮を切除・縫合するため、術後に一本の線状の傷跡が残ります。髪を長くしていれば隠すことは可能ですが、短髪にすると目立つ可能性があります。

術後の痛みや突っ張り感もFUE法よりは強く出ることがあります。

ロボットによる植毛

近年、FUE法による株の採取をロボットアームが補助する「ロボット植毛」も登場しています。ロボットが画像解析技術を用いて、正確かつスピーディーに株を採取することを目指すものです。

人の手による疲労やブレをなくし、安定した質の採取を期待する声もあります。しかし、現状ではまだ発展途上の技術であり、対応できるクリニックも限られています。

ロボットでは難しい細かな角度の調整や、個々の頭皮の状態に合わせた柔軟な対応は、依然として経験豊富な医師の技術に分があるという意見も多くあります。

そのため、現段階ではロボット植毛を選択する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解し、慎重に判断することが必要です。

自毛植毛の主な手法比較

手法傷跡の特徴適したケース
FUE法点状の小さな傷跡傷跡を目立たせたくない、比較的小範囲の移植
FUT法線状の傷跡広範囲への大量移植
ロボット植毛FUE法に準ずる対応クリニックが限られ、慎重な検討が必要

すぐに見た目を変えるウィッグと増毛

見た目をカバーする方法の比較(ウィッグ・帽子一体型・増毛)

AGA治療には時間がかかりますが、すぐにでも見た目の悩みを解消したいというニーズに応えるのが、ウィッグや増毛といった選択肢です。

これらはAGAを治療するものではありませんが、社会生活を送る上での精神的な負担を軽減し、自信を取り戻すための有効な手段となり得ます。

治療と並行して利用する方も多く、様々な製品やサービスが存在するため、自分のライフスタイルや目的に合わせて選ぶことができます。

ここでは、代表的な3つの方法について解説します。

ウィッグ(かつら)

ウィッグは、人工毛や人毛で作られた髪を頭に装着することで、薄毛部分をカバーする方法です。

フルウィッグ(全頭タイプ)から、頭頂部や生え際だけをカバーする部分ウィッグまで、様々な種類があります。着脱が簡単で、その日の気分やファッションに合わせてヘアスタイルを自由に変えられるのが大きな魅力です。

既製品から、自分の頭の形に合わせて作るオーダーメイドまであり、予算や求める品質に応じて選べます。

最近のウィッグは非常に精巧に作られており、見た目も自然で、通気性や固定方法も進化しています。

帽子一体型ウィッグ

より手軽に、そして自然に見た目をカバーしたいという方向けに、帽子とウィッグが一体になった製品もあります。

帽子の内側に髪の毛が付いており、被るだけでまるで自分の髪があるかのように見せることができます。急な来客やちょっとした外出の際に非常に便利で、ウィッグを装着する手間もかかりません。

夏場の蒸れが気になる方や、よりカジュアルなスタイルを好む方にも適しています。様々なデザインの帽子があり、ファッションアイテムの一つとして楽しむことも可能です。

増毛

増毛は、現在生えている自分の髪の毛1本1本に、数本の人工毛や人毛を結びつけてボリュームアップさせる技術です。

自分の髪を土台にするため、非常に自然な仕上がりになり、地肌から髪が生えているように見えます。シャンプーやドライヤーも普段通りに行え、日常生活での違和感が少ないのが特徴です。

ただし、土台となる自毛が伸びると結び目も上がってくるため、定期的にサロンに通ってメンテナンスをする必要があります。また、自毛が抜けると結びつけた毛も一緒に失われてしまいます。

見た目をカバーする方法の比較

種類メリットデメリット
ウィッグ着脱が容易、ヘアスタイルを自由に変えられるズレや蒸れの可能性、初期費用がかかる
帽子一体型ウィッグ非常に手軽、カジュアルに使える帽子を脱げない場面では使えない
増毛非常に自然な仕上がり、自分の髪のように扱える定期的なメンテナンスが必要、自毛が抜けると効果が減る

以上

参考文献