東京で美容外科医をしている齋藤隆文(形成外科専門医)です。当サイトで、美容コラムを担当しています。この記事の一番最後に、現在の東京での診療案内を載せていますので、受診希望の方は私のホームページの問い合わせフォームからお問い合わせください。

シリコンインプラント・プロテーゼ、ゴアテックス、オステオポールなどの人工物によるお鼻の手術(俗にいう隆鼻りゅうび術)についてのお話です。

シリコンプロテーゼによる隆鼻術はアジア各国で鼻の整形手術の中心的な存在となり、現在に渡ってたくさんの合併症と共に手術方法の改善が進みました。

そして、上手に使う方法、絶対に避けなくてはならない使い方について多くの論文が報告し、世界的にも標準化が進んでいます。みんながその知識を共有しています。

シリコンには避けた方がいい使い方、よくある失敗例、があります。

こういった使い方を避けて安全性の高い手術を受けることが大事です。

今回はそれらの失敗例の中で、シリコンプロテーゼ術後の感染トラブルについて、実際のお写真を見ながら治療の流れをご紹介します。ここで解説しているシリコンプロテーゼ感染の重要なポイントは3つです。

  1. 感染したら、適切な抗生剤治療、洗浄処置を受ける
  2. それでも改善しない場合は抜去する
  3. 抜去したタイミングで再度シリコンプロテーゼを入れるのはハイリスク

なお、シリコンの曲がりや変形のトラブルについては、他の記事で詳しく解説していますが、まずこの記事をしっかりと読んでください。

L型プロテの典型的なやばいトラブルは4つ

外科医 風景 (1)

シリコンプロテーゼの基本的なことは上に載せているリンク記事が詳しいです。ここでは、注意点だけもう1度おさらいします。

まず、シリコンプロテーゼは鼻筋(医学的には鼻背びはいといいます)を高くするためだけに使うと覚えてください。鼻先を高くするのに使ってはいけません。昔は鼻先も高くするためにL字型のプロテーゼがよく使われていましたが、以下のような典型的なトラブルが起こりますので、使わないでください。

  • 鼻先が過剰に細くなる。L字の角が透けて目立つようになる。
    →鼻先の皮膚がL字の角に引き延ばされて薄くなり、鼻先が過剰に細くなってきます。
  • プロテーゼが徐々に鼻の付け根(鼻根部)側に移動し、鼻先が上がる。鼻の穴が見えやすくなり豚鼻になる。
  • 年齢と共に鼻先が下垂し、逆に鼻根部のシリコンが鼻骨から浮いてグラグラする。
  • 体の中から出てくる
    →たいていの場合、鼻先か、鼻孔の入り口近くの鼻中隔部(鼻の真ん中の壁)から露出することが多いです。

今回はこれらの中でもシリコンプロテーゼの露出(皮膚や粘膜を突き破って体の外に出てきます)と感染リスクについてです。

先ほども言いましたが、もう一度。ここで解説しているシリコンプロテーゼ感染の重要なポイントはこの3つです。

  1. 感染したら、適切な抗生剤治療、洗浄処置を受ける
  2. それでも改善しない場合は抜去する
  3. 抜去したタイミングで再度シリコンプロテーゼを入れるのはハイリスク

シリコンプロテーゼは一度感染すると体の外に出てきやすい

シリコンプロテーゼが感染するのはなぜでしょうか。私たちの体は全身に血が通っており、この血液の中に免疫めんえき(自分の体を細菌やウイルスから守る機能の一つ)に関わる、いわゆるバリア機能を持っています。

シリコンが体の中に入ると、シリコンには血が通っていませんので、シリコンについた細菌には血液の中のバリア機能がうまく作用しません。

また、抗生剤も同じです。抗生剤(こうせいざい)を飲むと、抗生剤は血液の中に吸収されて、血流に乗って細菌が悪さをしている部分まで送られます。これも同じく、シリコンには血液が流れていないのでうまく届き切らないことがあります。

ですので、シリコンに付着した細菌は好き放題に増殖することができるわけです。

ただし、ただ闇雲(やみくも)にシリコンプロテーゼを否定している訳ではありません。正しい使い方を守っている何人かの著名な先生方の報告によれば、感染率はせいぜい数パーセントです。決して高い数字ではありません。

これは手術の常ですが、”誰がその手術をしたのか”で、効果も結果も変わります。標準化は進んでいますが、それでもなお、”誰がやるのか”がとても大事です。

次に、なぜシリコンプロテーゼは露出するのでしょうか。基本的に、私たちの体は、自分以外の物質が体内に入ることを拒否しようとします。

また、L型プロテーゼのように無理やりに鼻の皮膚を引き伸ばそうとして入っていると、皮膚を中から押している部分の皮膚が薄くなることでインプラントが体から出てしまうような作用が起きます。たいていの場合、鼻先か、鼻孔の入り口近くの鼻中隔部びちゅうかくぶ(鼻の真ん中の壁)から露出することが多いです。

基本的には、感染しやすく、体から出てこようとしているようなものを、とっても薄い鼻筋の皮膚のすぐ下に入れようとしているわけです。どうしてもトラブルをゼロにすることができない理由がここにあります。

感染を疑ったら、3ステップで考える

鼻 感染
鼻 感染 イメージ

感染を疑うのは以下のようなことが起きた場合です。

シリコンの入っている部分を中心に、

  • 皮膚の色が赤くなってきた
  • 急に腫れてきた
  • 痛みが出てきた
  • 手術で切った場所や鼻の穴の中から膿のような液体が出てきた
  • 変な臭いがする

これらの症状が複数同時に出てきた場合は感染を疑って担当医師に相談する必要があります。

治療は、原因となる細菌に効果のある抗生剤(こうせいざい)治療と、場合によって洗浄処置が必要になります。膿(うみ)が出ている場合は原因となっている細菌を調べる検査を同時にしてもらいましょう。

抗生剤の効果が発揮された場合はだいたい数日で症状が改善してきますが、完全に症状が消失して医師が終了と判断するまでは自己判断で治療を中断しないよう注意が必要です。プロテーゼ感染は再発のリスクが極めて高いです!

効果がない場合は、抜去することになります。

繰り返しになりますが、大事なのは以下の3ステップで考えることです。

  1. 感染したら、適切な抗生剤治療、洗浄処置を受ける
  2. それでも改善しない場合は抜去する
  3. 抜去したタイミングで再度シリコンプロテーゼを入れるのはハイリスク

抜去しないと治りません、という状況まで来てしまった場合に、③を知っておく必要があります。

なお、感染したシリコンプロテーゼを抜去した後に新しいプロテーゼを再挿入するのはとても危険です。

感染したプロテーゼを抜いてすぐに新しいプロテーゼを入れるのは危険

感染したシリコンプロテーゼに対して抗生剤治療と洗浄治療をしても改善しない場合には、抜去する必要があります。

シリコンプロテーゼには血が通っていないため、自分のバリア機能や抗生剤が効きにくいことは説明した通りです。そして、感染したインプラントの細菌をやっつける方法は、現在の医療では他にはありません。

そして、これらのことが分かっていれば、もう一度シリコンを挿入するのがどれだけ危険かがわかると思います。

細菌が増殖して暴れ回っている部分には、細菌に汚染しきったシリコンプロテーゼと、細菌に攻撃されて弱りきったヘロヘロ状態の自分の組織がいます。ここに新しいシリコンプロテーゼを挿入したらどうなるでしょうか?

また細菌がシリコンプロテーゼに付着して新しいシリコンにより細菌が増殖できるスペースを与えることになります。周囲の弱り切った自分の組織は細菌の攻撃に簡単にやられてしまうことでしょう。

シリコンプロテーゼが感染した場合には、原則的に新しくシリコンを入れるのはやめましょう。

感染がきちんとおさまってから再挿入する場合であっても、その部分から細菌が完全にいなくなっているかどうかはわかりません。再度感染するリスクを十分に理解した上で慎重に判断してください。

L型シリコンプロテーゼが感染して口から出てきた実際の症例

鼻 シリコンプロテーゼ トラブル 術前

この方は韓国でL型のシリコンプロテーゼによる鼻の手術を受け、1年後に口の中に出来物ができたと歯医者さんを受診しました。

診察を受けると、なんと!

口の中に触れていた“できもの”はL型シリコンプロテーゼの一部だったのです。

鼻の入り口の付け根と口の中はとても近いため、シリコンプロテーゼがずれて口の中に出てきてしまったというトラブルでした。

ただ、この時に危険だと感じたことがもう一つあります。

この患者さんが相談に行ったいくつかのクリニックでは、リスクに関する説明が全くないまま、新しいシリコンプロテーゼの再挿入を勧められたそうです。

もしそのドクターがリスクを隠して新しいシリコンプロテーゼの再挿入を勧めてきたのだとしたら、倫理的な問題としての危険性を感じずにはいられません。修正手術後に再度感染してしまったら、患者さんのお鼻のダメージがどんどん深刻になることは明白だからです。患者さんは正しい知識をもとに判断ができていないことになります。

そして、そのドクターが再挿入におけるリスクを知らなかったとしたらさらに問題は深刻です。最初にも説明した通り、美容外科における様々な治療は世界的に進歩が進んでいます。正しいシリコンプロテーゼの使い方、絶対に避けるべき使い方の知識の共有は広がっています。

困った時は急いで治療に進むのではなく、

こういった治療知識、治療技術をアップデートしている先生としっかりと相談することが大事です。

話が逸れてしまいました。この患者さんの治療の経過に戻ります。

診察してみるとマイルドな発赤と熱感があり、感染を疑いました。口の中には確かに腫瘍のようなピンク色のできものがありましたが、これは腫瘍ではありません。

口の中や鼻の穴の中にプロテーゼが出てきた場合、出てきた部分が小さいと肉芽(にくげ)というお傷治しに関わるピンクのお肉で無理やり覆われてできもののように見えていることがあります。

このあたりの診察については、キズに関する正しい知識を持った形成外科か美容外科専門の先生に診察してもらうことをお勧めします。

この時点で、私は抜去を提案しました。しかしながら諸事情によりどうしてもすぐに抜去するのは難しいと言われてしまいました。ここが医療の難しいところです。

患者さんごとに、その方の背景や環境に応じて最適の治療プランを一緒に考えさせていただくしかありません。

抜去できない場合は、①膿が溜まっているかどうか、と、②原因となっている細菌はなにか、について適切な診察と検査を受けた後、③“適切な”抗生剤の治療が始まります。①と②と③の全てが重要です。

この方は抗生剤治療により感染兆候は全て消失しました。本当に、よかったです。

しかし、これで治療は終わりではありません。やはり、このおかしな形を修正したい。

感染の原因となった細菌は完全にいなくなったかどうかまではわかりません。説明した通り、感染が落ち着く前はもちろん、落ち着いたあともシリコンプロテーゼの入れ替えはハイリスクです。この方は、全て自分の組織を用いての修正手術を希望されました。

形の修正については次の記事に譲ります。次はもっとディープです。 最後に、この方の修正手術後のお写真をお出しします。

鼻 シリコン 術後 モニター

次の記事でのこの方の治療ポイントは、以下の3つです。

  1. 太い鼻筋、鼻先をすっきりさせたい
  2. シリコンプロテーゼが上がった眉間の高いアバター鼻、かつ豚鼻、短鼻になった鼻先を下げ、高くしたい
  3. 曲がりを直して真っ直ぐな鼻筋にしたい

これらを、人工物を使わずにどうやって治療していくか。次回の記事では形の修正について解説しています。

手術の前に大事にしていること

画像検査で中の構造を細かく確認します。

お顔の左右差、全体のバランスを一緒にお写真で見ながら、患者さんとその方の自覚している”曲がっている”を共有できるように努力しています。

曲がりを修正していく中で鼻の高さや長さについてももちろん変化が起きるので、ご自身が認識されているお顔の特徴・コンプレックスを確認して、手術による変化でそれらが悪い方向にいかないかを確認します。

こういったことを確認するツールとして強力な武器となるのが、写真を使ったシミュレーションです。

写真を手術に沿って修正していきながら、術後の形のイメージを事前に共有しておくことで、患者さんにも手術による変化に対する心の準備をしてもらうようにしています。

今回の治療内容について

施術内容:インプラント抜去、鼻中隔延長術、鼻尖形成術、隆鼻術、肋軟骨・耳介軟骨採取

費用: 約70〜100万円(上記の術式を組み合わせた場合)

*これ以外に、検査費用・麻酔費用・入院日数により入院費用がかかることがあります。

リスク: 術後出血、再感染、傷が開く、曲がりや変形の残存、後戻り、など

さいとう隆文 顔写真

齋藤 隆文(さいとう たかふみ)
日本形成外科学会認定専門医
神戸大学医学部医学科卒
現在は加藤クリニック麻布、聖路加国際病院に所属。専門はお顔の美容外科、特に鼻の治療。

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