野外活動後に皮膚に食いつく小さな黒い虫を見つけたとき、無理に引き抜こうとするのは絶対にやめてください。
マダニの口器が皮膚内に残り、重篤な感染症リスクを高める原因となります。本記事では、なぜ自分で取るのが危険なのかを詳しく解説します。
皮膚科での確実な除去処置の内容、そして命に関わるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)などの感染症への対策についてもお伝えします。
正しい初期対応と知識が、あなたと大切な人の健康を守ります。
「足に小さなカサブタがあると思ったら、よく見ると動いている気がする」「山歩きの後に肌にダニのようなものが食いついている」。
こうした状況に直面したとき、多くの人は反射的に「早く取らなければ」と焦って爪やピンセットで引っ張ってしまいがちです。
しかしその行為こそが、後々まで続く皮膚トラブルや、最悪の場合は命を脅かす感染症への入り口になってしまうことをご存知でしょうか。
マダニは家の中にいるイエダニとは全く異なる生態を持ち、一度人間の皮膚に食いつくと、セメントのような物質を出して強固に固定します。
そして、そのままの状態で数日から1週間以上も吸血し続けるのです。
もし今、マダニに咬まれていることに気づいたとしても、絶対に自分で無理やり取ろうとしないでください。
この記事では、マダニ咬傷に対する正しい医学的な処置と、その背景にある感染症リスクについて、専門的な見地から分かりやすく紐解いていきます。
皮膚科での処置がなぜ必要なのか、咬まれた後にどのような体調変化に気をつけるべきなのか、そして日常生活でできる予防策まで網羅しています。
不安な気持ちを解消し、適切な行動が取れるようサポートしますので、正しい知識を持って冷静に対処していきましょう。
無理に引き抜くと口器が体内に残り炎症や感染症の原因になります
マダニを見つけた瞬間の驚きと恐怖から、手近にある毛抜きや指先でつまんで引っ張りたくなる衝動は十分に理解できます。
しかし、マダニの体構造と吸血メカニズムを知れば、それがどれほど危険な行為であるかが分かります。
自己除去が招く具体的なリスクについて、まずは理解を深めておきましょう。
吸血中のマダニをピンセットで掴むとなぜ危険なのか
マダニは吸血する際、鋭い口器(顎体部)を皮膚の奥深くまで突き刺します。
単に刺しているだけでなく、セメント物質と呼ばれる接着剤のような成分を分泌し、皮膚と口器をガッチリと固定してしまいます。
この固定力は非常に強く、簡単には外れません。
この状態で、私たちが通常使用するピンセットや毛抜きでマダニの胴体部分をつまんで引っ張るとどうなるでしょうか。
胴体は柔らかく、口器はしっかりと固定されているため、引っ張る力に耐えきれず、マダニの体は頭部と胴体の間でちぎれてしまいます。
その結果、細菌やウイルスを多く含んだ口器の部分だけが皮膚の中に残存してしまうのです。これを「口器遺残」と呼びます。
皮膚の中に異物が残ると、体はそれを排除しようとして激しい炎症反応を起こします。
赤く腫れ上がり、痛みを伴うしこり(肉芽腫)が形成され、場合によっては切開手術が必要になることもあります。
単に虫を取るだけのつもりが、数ヶ月も続く皮膚トラブルの原因を作り出してしまうのです。
体液が逆流して病原体が体内に侵入するリスクが高まります
自己除去のもう一つの、そしてより深刻なリスクは「体液の逆流」です。
吸血中のマダニのお腹には、摂取した血液が溜まっています。無理にマダニの胴体をつまんで圧迫すると、どうなるか想像してみてください。
スポイトを押すような原理で、マダニの体内の消化管内容物や体液が、口器を通じて人間の体内へと一気に押し戻されてしまいます。
マダニの体内には、SFTSウイルスや日本紅斑熱リケッチア、ボレリア菌(ライム病の原因)といった、人間にとって危険な病原体が潜んでいる可能性があります。
通常であれば感染せずに済んだかもしれない状況でも、自らの手でマダニを圧迫することで、これらの病原体を自分の血管内へと「注射」してしまうことになりかねません。
感染のリスクを最小限に抑えるためにも、マダニの腹部を圧迫することは絶対に避ける必要があります。
子供が咬まれた場合に親が取るべき冷静な行動とは
特に小さなお子様がマダニに咬まれた場合、保護者の方がパニックになってしまい、慌てて引き抜いてしまうケースが後を絶ちません。
子供は痛みや違和感で泣き叫ぶかもしれませんが、親御さんが動揺して無理に処置をしようとすると、子供もさらに不安になります。
まずは深呼吸をして、「虫がついているけれど、お医者さんに取ってもらえば大丈夫だよ」と優しく声をかけて安心させてあげてください。
無理に取ろうとして失敗し、頭部が残ってしまうと、その後の処置がより複雑になり、子供にかかる負担も大きくなってしまいます。
「触らないで病院へ行く」ことが、お子様を守るための最善の選択であることを忘れないでください。
自己除去に伴う主なリスク要因
- マダニの胴体をつまむことで、病原体を含む体液が人体へ逆流(ポンピング)する。
- 頭部や口器が皮膚内にちぎれて残り、異物反応による肉芽腫(しこり)を形成する。
- 残存した口器から黄色ブドウ球菌などが入り込み、二次感染を引き起こす。
- 無理に引き剥がす際の刺激で、マダニが唾液をより多く分泌し、感染確率を上げる。
自分で取ってしまった後に皮膚科を受診すべき理由
「もう自分で取ってしまった」「ちぎれて頭が残っているかもしれない」という場合でも、諦めずにすぐに皮膚科を受診することが重要です。
自己除去後に放置すると、残った口器が原因で慢性的な炎症が続いたり、そこから二次的な細菌感染(化膿)を起こしたりすることがあります。
皮膚科では、拡大鏡(ダーモスコピー)を使って、皮膚の中にマダニの一部が残っていないか詳細に確認します。
もし残っていれば、局所麻酔をしてその部分を取り除く処置を行います。
また、いつ、どこで咬まれたかという情報は、その後の感染症リスクを評価する上で非常に重要な手がかりとなります。
自分で取ってしまったという事実も含めて医師に伝え、適切なアフターケアを受けることが、将来的な健康被害を防ぐ第一歩です。
皮膚科医が行う外科的な切除処置こそが最も確実な除去方法です
病院に行くとどのような処置をされるのか、痛いのではないかと不安に思う方もいるでしょう。
皮膚科でのマダニ除去は、医学的な根拠に基づいた安全で確実な方法で行われます。
民間療法に頼らず、プロの処置に任せるべき理由を詳しく見ていきます。
局所麻酔を使って皮膚ごと切除する処置の流れ
皮膚科における最も標準的で確実な治療法は、マダニが咬みついている皮膚ごと切除する方法(皮膚切除術)です。
「切除」と聞くと大掛かりに感じるかもしれませんが、実際には外来で短時間に行える小手術です。
まず、マダニの周囲に局所麻酔の注射をします。これにより、処置中の痛みは全く感じなくなります。
その後、メスや専用の器具(トレパンなど)を用いて、マダニの口器が刺さっている皮膚を、マダニごと一塊にしてくり抜くように切り取ります。
この方法の最大の利点は、マダニの口器を完全に、かつ確実に体から切り離せることです。
マダニを物理的に潰すことがないため、体液の逆流リスクも最小限に抑えられます。
切除した後の傷は、小さければ軟膏を塗って絆創膏を貼るだけで治ることもありますし、少し大きければ1〜2針縫合することもあります。
縫合した場合は1週間程度で抜糸を行いますが、傷跡は時間の経過とともに目立たなくなります。
何よりも「確実に病原体との接触を断つ」という点で、これに勝る方法はありません。
受診時の服装や持ち物で気をつけるべきポイント
皮膚科を受診する際は、患部を出しやすい服装で行くことをお勧めします。
足なら裾をまくりやすいズボン、腕なら半袖になれる服などがスムーズです。
また、もし咬まれていた場所の写真をスマートフォンなどで撮影してあれば、医師に見せることで診断の助けになることがあります。
万が一マダニが取れてしまった場合でも、そのマダニを捨てずにテープに貼ったり、小さな容器に入れたりして持参してください。
マダニの種類を特定することで、媒介する感染症のリスクを絞り込むことができるため、非常に貴重な情報源となります。
皮膚科処置と民間療法の比較
| 比較項目 | 皮膚科での外科的切除 | 民間療法(ワセリン・火など) |
|---|---|---|
| 除去の確実性 | 口器を含めて100%確実に除去可能。 | 不確実。口器が残る可能性が高い。 |
| 感染リスク | マダニを刺激せず、逆流リスクが低い。 | 刺激により体液逆流の危険性が増大。 |
| 痛み・苦痛 | 局所麻酔を使用するため無痛。 | 取れない焦りや、熱による火傷のリスク。 |
| 所要時間 | 処置自体は5〜10分程度で完了。 | マダニが離れるまで数十分以上かかることも。 |
ワセリンやアルコールで窒息させる民間療法は効果がありません
インターネット上には「ワセリンをたっぷり塗って窒息させる」「アルコールや除光液をつけて弱らせる」「線香の火を近づける」といった除去方法が散見されます。
しかし、これらの方法は医学的には推奨されていません。
マダニの呼吸数は非常に少なく、ワセリンで覆ったとしても窒息して自ら離れるまでには長時間かかります。
その間に吸血が進むだけでなく、苦しがったマダニが唾液や体液を逆流させるリスクの方が高まります。
アルコールや熱刺激も同様で、マダニを刺激することは、感染症のリスクを高める行為に他なりません。
自己判断での民間療法は避け、何もせずにそのままの状態で受診することが、結果として最も安全な選択となります。
除去後の傷口のケアと抗生物質の使用について
マダニを除去した後も、治療は終わりではありません。咬まれた傷口から細菌が入るのを防ぐため、適切な処置が必要です。
医師は傷の状態を見て、化膿止めの塗り薬(抗生物質含有軟膏)を処方することが一般的です。
マダニが媒介する「ライム病」や「日本紅斑熱」などの細菌性感染症を予防・治療する目的で、特定の抗生物質を予防的に内服する場合もあります。
特にマダニの吸血時間が長かった場合や、流行地域での咬傷の場合は、感染のリスクを考慮して数日間の内服を指示されることがあるでしょう。
処方された薬は自己判断で中断せず、指示通りに飲みきることが大切です。
重篤な感染症SFTS(重症熱性血小板減少症候群)への警戒が必要です
マダニ咬傷で最も恐れられているのが、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)です。
近年、メディアでも取り上げられることが増えましたが、その危険性を正しく認識しておくことが命を守ることに繋がります。
ここではSFTSの特徴とリスクについて詳しく説明します。
SFTSウイルスが引き起こす発熱や消化器症状の特徴
SFTSは、SFTSウイルスを持ったマダニに咬まれることで感染します。
主な症状は、突然の発熱(38度以上)と、強い消化器症状です。
風邪のような咳や鼻水よりも、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛といったお腹の症状が目立つのが特徴の一つです。
さらに病状が進行すると、頭痛、筋肉痛、意識障害(ぼーっとする、反応が鈍くなる)、皮下出血(あざができやすくなる)、下血などの出血症状が現れることもあります。
血液検査では、血小板と白血球が著しく減少するのが診断の決め手となります。
高齢者や免疫力が低下している方は重症化しやすいため、特に注意が必要です。
潜伏期間中は体調変化に細心の注意を払ってください
マダニに咬まれてからすぐに症状が出るわけではありません。SFTSの潜伏期間は、6日から14日程度と言われています。
つまり、咬まれてから約2週間は「今は元気でも、まだ安心できない期間」ということです。
この期間は、毎日の検温を習慣にすることをお勧めします。
「なんとなく体がだるい」「食欲がない」といった些細な変化も見逃さないようにしましょう。
もし発熱などの症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診し、「○月○日に山に行ってマダニに咬まれた」と明確に医師に伝えてください。
この情報があるかないかで、診断のスピードと正確さが大きく変わります。
致死率が高いSFTSに対して私たちができる唯一の対策
非常に残念なことですが、現在のところSFTSウイルスに直接効く特効薬やワクチンは存在しません。
治療は、現れた症状を和らげる「対症療法」が中心となります。
脱水に対する点滴や、出血傾向に対する輸血、全身状態の管理などが集中治療室で行われることもあります。
国立感染症研究所のデータによると、SFTSの致死率は20%〜30%にも達すると報告されています。これは非常に高い数字です。
だからこそ、「咬まれないこと」、そして「咬まれたら即座に適切な処置を受け、早期発見に努めること」が、私たちが取れる唯一にして最大の防御策なのです。
決して「たかが虫刺され」と侮ってはいけません。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の基本情報
| 項目 | 詳細情報 | 注意点 |
|---|---|---|
| 原因病原体 | SFTSウイルス(マダニが媒介) | すべてのマダニがウイルスを持っているわけではない。 |
| 潜伏期間 | 6日〜14日 | 忘れた頃に発症するため、咬傷日を記録しておく。 |
| 主な症状 | 発熱、嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感 | 消化器症状が強く出るのが風邪との違い。 |
| 致死率 | 約20〜30%(国内報告) | 高齢者は特に重症化しやすい傾向がある。 |
ライム病や日本紅斑熱などマダニが媒介するその他の感染症も知りましょう
マダニが運んでくる病気はSFTSだけではありません。
地域やマダニの種類によっては、細菌性の感染症であるライム病や日本紅斑熱にかかるリスクもあります。
これらは早期に抗生物質を使えば治癒が見込める病気ですので、特徴を知っておくことが大切です。
遊走性紅斑という特徴的な皮疹が出るライム病の症状
ライム病は、ボレリアという細菌を持つシュルツェマダニなどに咬まれることで感染します。
日本では北海道や長野県など、寒冷な地域や高地での報告が多い傾向にあります。
最も特徴的な初期症状は「遊走性紅斑(ゆうそうせいこうはん)」と呼ばれる皮膚の変化です。
マダニに咬まれた場所を中心に、数日から数週間後に赤い発疹が現れ、それがドーナツ状に外側へと広がっていきます。
中心部が薄くなり、周辺が赤い輪のように見えるのが典型的です。これに加えて、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱などが起こることがあります。
放置すると、数週間から数ヶ月後に神経症状(顔面麻痺など)や心臓の症状が出ることがあるため、皮膚の変化に気づいたらすぐに受診が必要です。
日本紅斑熱の高熱や発疹といった臨床的な特徴
日本紅斑熱は、リケッチアという細菌の一種を持つマダニに咬まれることで発症します。
こちらは関東以西、特に西日本の温暖な地域で多く報告されています。
咬まれてから2〜8日後に、突然の高熱、頭痛、倦怠感が現れます。そして、高熱に伴って全身に米粒大の赤い発疹が出現するのが特徴です。
この発疹は手足の先から始まり、体幹へと広がっていくことが多いと言われています。
また、マダニに刺された場所に「刺し口(痂皮)」と呼ばれる黒いカサブタが見つかることが診断の強力な手がかりになります。
適切な抗生物質(テトラサイクリン系など)の投与が遅れると重症化することがあるため、早期発見・早期治療が鍵となります。
複数の感染症リスクを考慮した検査と診断のアプローチ
マダニ咬傷後の発熱で受診した場合、医師はこれらの複数の感染症の可能性を同時に考えます。
SFTSなのか、日本紅斑熱なのか、あるいは他の疾患なのかを見極めるため、血液検査や問診を行います。
特に「どこで(都道府県や具体的な場所)」「いつ」「どのような状況で」咬まれたかという情報は、どの病原体を疑うべきかを判断する材料になります。
例えば、北海道の山林であればライム病を、西日本の草むらであればSFTSや日本紅斑熱をより強く疑うといった具合です。
患者さん自身の正確な情報提供が、正しい診断への近道となります。
受診後の経過観察期間は数週間続くため体調管理を徹底してください
皮膚科でマダニを無事に除去できたとしても、それで全てが終わったわけではありません。
体内に病原体が侵入していた場合、潜伏期間を経て発症する可能性があるからです。除去後の数週間をどう過ごすかが重要になります。
咬まれてから2週間から3週間は発熱や体調不良に敏感になる
前述の通り、SFTSやその他の感染症には潜伏期間があります。
マダニ除去後、医師からは「今後2〜3週間は体調に気をつけてください」と指示されるはずです。
この期間は、ご自身の体の声をいつも以上に丁寧に聞いてあげてください。
朝晩の検温を日課にするのが良いでしょう。平熱より高い日が続く、なんとなく体が重い、食事が美味しくない、関節が痛むといったサインを見逃さないでください。
「疲れのせいかな」と自己判断して無理をしてしまうと、発見が遅れる原因になります。
カレンダーに「マダニ除去日」と「観察終了予定日(約3週間後)」を書き込んでおくのも、意識を持続させる良い方法です。
主なマダニ媒介感染症の比較
| 感染症名 | 主な分布地域 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|
| ライム病 | 北海道、長野など寒冷地・高地 | 遊走性紅斑(ドーナツ状の皮疹)、関節痛。 |
| 日本紅斑熱 | 関東以西、特に西日本の太平洋側 | 高熱、全身の赤い発疹、黒い刺し口。 |
| マダニ媒介性脳炎 | 北海道の一部など | 発熱、頭痛、痙攣、麻痺などの脳炎症状。 |
入浴や運動など日常生活で制限を受けることはあるのか
除去処置で皮膚を切開・縫合した場合は、傷口が塞がるまで入浴(湯船に浸かること)を控えるよう指示されることがあります。
シャワーは翌日から可能な場合が多いですが、傷口を強くこすらないよう注意が必要です。
運動については、激しいスポーツや発汗を伴う活動は、傷の治りを遅くしたり、化膿のリスクを高めたりするため、抜糸までは控えた方が無難です。
また、体力が低下していると感染症に対する抵抗力も弱まるため、観察期間中は十分な睡眠と栄養を取り、規則正しい生活を心がけることが大切です。
それが、見えない病原体と戦うための基礎体力作りになります。
万が一発熱した場合の緊急連絡先と医療機関への伝え方
経過観察中に38度以上の発熱や激しい嘔吐などがあった場合、それは緊急事態の可能性があります。
除去処置を受けた皮膚科、あるいは内科をすぐに受診してください。夜間や休日の場合は、救急外来への相談も検討すべきです。
その際、受付や医師に対して必ず伝えるべきキーワードは「マダニ」です。
「○週間前にマダニに咬まれて除去しました」「SFTSなどの感染症を心配しています」とはっきり伝えてください。
これにより、医師は即座に感染防護策をとりつつ、適切な検査体制を整えることができます。
単なる「風邪」として扱われてしまうのを防ぐためにも、この一言は非常に重要です。
アウトドアや農作業ではマダニに咬まれないための服装と装備を整えます
マダニ被害に遭わないためには、何よりも「肌を露出しない」ことが鉄則です。
マダニは草の先端で待ち構え、通りかかった動物や人間に乗り移るチャンスを狙っています。
物理的に接触を防ぐための服装と装備のポイントを解説します。
肌の露出を極限まで減らすための長袖長ズボンの選び方
山林、草むら、畑などに入る際は、真夏であっても長袖・長ズボンを着用してください。
首元にはタオルを巻き、手袋(軍手)を着用し、足元は長靴やトレッキングシューズで完全に覆います。
服の選び方にもコツがあります。まず、素材はマダニが滑り落ちやすい化学繊維(ナイロンやポリエステルなど)の表面がツルツルしたものがお勧めです。
ウールや綿の起毛した素材は、マダニが足場にしやすく付着しやすいため避けましょう。
服の色は「白」や「淡い色」を選んでください。これはマダニが黒っぽい色をしており、明るい色の服の上だと付着しているのを発見しやすいからです。
ズボンの裾は靴下の中に入れ込み、袖口も隙間がないようにすることで、衣服内への侵入経路を塞ぎます。
ディートやイカリジンを含む忌避剤の効果的な使用方法
物理的な防御に加えて、化学的な防御として虫除け剤(忌避剤)を活用しましょう。
マダニに効果があると認められている成分には「ディート」と「イカリジン」の2種類があります。
購入の際は、成分濃度を確認してください。ディートであれば30%、イカリジンであれば15%といった高濃度の製品がお勧めです。
これらの高濃度タイプは、効果の持続時間が長く、マダニに対する忌避効果も高いとされています。
これらのスプレーを、肌が露出している部分(顔や首筋、手首など)だけでなく、服の上や靴、足元周辺にも念入りに吹き付けておくと効果的です。
ただし、ディートは12歳未満の小児には使用制限(使用回数など)があるため、お子様には年齢制限のないイカリジンを選ぶなど、注意書きをよく読んで使い分けましょう。
経過観察中のチェックリスト
- 毎日、朝と夜に体温を測定し記録する。
- 食欲の低下、吐き気、下痢などの消化器症状がないか確認する。
- 除去した傷口が赤く腫れ上がったり、膿が出たりしていないか見る。
- 全身に原因不明の発疹が出ていないかチェックする。
- 処方された抗生物質などの薬は、指示通り最後まで飲みきる。
帰宅後の服の処理とシャワーでの全身チェックを習慣にする
野外活動から帰ってきたら、家の中にマダニを持ち込まないことが大切です。
玄関に入る前に、上着を脱いでバサバサと払い、付着しているかもしれないマダニを落としてください。
粘着テープ(コロコロ)を使って服の表面を掃除するのも有効です。
その後、すぐにシャワーを浴びて着替えましょう。この時が、自分の体にマダニがついていないか確認するベストタイミングです。
マダニは柔らかい皮膚を好みます。脇の下、足の付け根(鼠径部)、膝の裏、お尻、胸の下、髪の生え際などを鏡を使ってくまなくチェックしてください。
もし咬まれる前に歩いているマダニを見つけられれば、洗い流すだけで被害を防ぐことができます。
マダニ生息地域に近づかないことこそが最大の防御策になります
どれほど装備を整えても、マダニの数が圧倒的に多い場所に踏み込めばリスクは高まります。
敵を知り、危険な場所に近づかない、あるいは滞在時間を短くするという意識を持つことが、根本的な解決策となります。
草むらや藪などマダニが多く潜んでいる危険な場所
マダニは乾燥に弱く、適度な湿気がある場所を好みます。
具体的には、森林の中だけでなく、河川敷の草むら、公園の植え込み、民家の裏山、畑のあぜ道など、私たちの身近な場所にも生息しています。
特に、膝の高さくらいの草が生い茂っている場所や、落ち葉が堆積している場所は要注意です。
マダニは植物の葉の先端に移動し、両手を広げて待ち構える「クエスト行動」をとります。
道なき道を藪漕ぎして進むような行為や、草むらに直接座り込んで休憩するといった行動は、マダニに「どうぞ乗ってください」と言っているようなものです。
休憩時は舗装された場所や岩の上を選び、レジャーシートを敷くなどの工夫をしましょう。
マダニ対策の服装ポイント
| 部位 | 推奨される装備 | ポイント |
|---|---|---|
| 上半身 | 明るい色の長袖シャツ(化学繊維) | 袖口が締まるもの。裾はズボンに入れる。 |
| 下半身 | 明るい色の長ズボン | 裾を靴下の中に入れるのが最重要。 |
| 足元 | 長靴、ハイカットの靴 | サンダルや肌の出る靴は厳禁。 |
| 頭部・首 | 帽子、首にタオル | 上から落ちてくるマダニや首元への侵入を防ぐ。 |
野生動物が出没する地域ではマダニとの遭遇率が上がります
マダニは成長のために動物の血液を必要とします。
そのため、シカ、イノシシ、野ウサギなどの野生動物が多く生息する地域は、必然的にマダニの密度も高くなります。
近年は里山だけでなく、住宅地の近くまで野生動物が出没することが増えており、それに伴いマダニのリスクエリアも拡大しています。
「獣道(けものみち)」には近づかないのが賢明です。
また、狩猟や山菜採りなどで山に入る際は、そこが野生動物の生活圏であることを認識し、最大限の防護対策を行ってください。
ペットに付着したマダニが人間に移動してくるケースへの対策
意外な盲点となるのが、犬や猫などのペットです。散歩中に草むらに入ったペットにマダニが付着し、そのまま家に持ち帰ってしまうケースが多発しています。
ペットの体に付いたマダニが、家の中で人間に移動して咬みつくこともあります。
ペットには定期的にマダニ予防薬(スポットタイプや内服薬)を使用しましょう。
これはペット自身の健康を守るだけでなく、飼い主である人間を守ることにも繋がります。
散歩から帰ったらブラッシングを行い、ペットの体にマダニがついていないか確認する習慣をつけることも大切です。
マダニのリスクが高い場所・状況
| 場所・状況 | リスクの詳細 |
|---|---|
| けもの道・藪の中 | 野生動物が通り、マダニが待ち伏せしている可能性が極めて高い。 |
| 春〜秋の草むら | マダニの活動が活発な時期。ハイキングやキャンプで被害が多い。 |
| 手入れされていない庭 | 雑草が生い茂ると都市部でもマダニが繁殖する温床になる。 |
| ペットの散歩コース | 背の低い草むらに顔を突っ込むペットに付着しやすい。 |
よくある質問
- Qマダニ咬傷で病院に行くのは何科ですか?
- A
皮膚科を受診してください。マダニの除去は皮膚の小手術に分類されるため、専用の器具と技術を持つ皮膚科医が専門となります。
夜間や休日で皮膚科が開いていない場合、緊急であれば救急外来に相談するか、翌朝一番で皮膚科に行くようにしてください。
外科でも対応可能な場合がありますが、事前に電話で「マダニ除去は可能か」を確認することをお勧めします。
- Qマダニ咬傷で受診する目安はいつですか?
- A
マダニに咬まれていることに気づいたら、「すぐに」受診するのが目安です。
時間が経つほどマダニは多くの血液を吸い、唾液と共に病原体を体内に送り込むリスクが高まります。
また、すでに自分で取ってしまった場合でも、口器が残っている可能性があるため、気づいた時点ですぐに受診することをお勧めします。
- Qマダニ咬傷の痛みやかゆみはありますか?
- A
咬まれた直後は、痛みやかゆみをほとんど感じないことが多いです。これはマダニの唾液に麻酔のような作用のある物質が含まれているためです。
そのため、入浴時などに目視で発見するまで気づかないケースが大半です。
ただし、時間が経って炎症が起きたり、無理に取ろうとして口器が残ったりすると、後から痛みやかゆみ、しこりが生じることがあります。
- Qマダニ咬傷の跡はずっと残りますか?
- A
皮膚科で切除した場合、小さな傷跡は残りますが、時間の経過とともに白く目立たなくなっていきます。
一方で、自分で無理に取って口器が残り、慢性的な炎症(肉芽腫)になってしまった場合、硬いしこりが数ヶ月から数年にわたって残ることがあります。
また、強いかゆみが続くことも少なくありません。きれいに治すためにも、初期の適切な処置が重要です。
