ゼップバウンドの禁忌事項|処方できない体質や基礎疾患の条件

ゼップバウンドの禁忌事項|処方できない体質や基礎疾患の条件

ゼップバウンド(チルゼパチド)は、肥満症治療において大きな注目を集めている週1回の皮下注射薬です。しかし、すべての方が安全に使えるわけではありません。

甲状腺髄様がんの既往や家族歴がある方、薬剤成分に対する重篤なアレルギーをお持ちの方など、医学的に処方が認められないケースがあります。妊娠中の方や特定の持病がある方も、慎重な判断が求められます。

この記事では、ゼップバウンドの禁忌事項と注意すべき体質・基礎疾患を、肥満症専門医の視点からわかりやすく解説していきます。ご自身が処方の対象になるかどうか、不安を感じている方はぜひ参考にしてください。

目次 Outline

ゼップバウンドの禁忌とは?処方を受けられないケースを医師が解説します

ゼップバウンドには、添付文書で明確に定められた「禁忌」があり、該当する方には処方できません。禁忌とは、その薬を使うことで重大な健康被害が生じるおそれがあるため、医師が処方を行ってはならないと定められた条件を指します。

「禁忌」と「慎重投与」の違いを知っておきましょう

禁忌と慎重投与は、似ているようで意味が大きく異なります。禁忌は「絶対に使ってはいけない」という医学的判断であり、どのような状況でも処方されることはありません。

一方の慎重投与は、リスクがあるものの医師の管理下で使用が検討される場合を意味します。「自分は禁忌に該当するのか、それとも慎重投与で対応できるのか」を正しく把握することが、安全な治療の第一歩でしょう。

ゼップバウンドで添付文書に記載されている禁忌事項の全体像

ゼップバウンドの添付文書には、大きく分けて2つの禁忌が記載されています。1つは甲状腺髄様がんや多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)に関するもの、もう1つはチルゼパチドまたは添加剤に対する重篤な過敏症です。

禁忌の種類対象となる方
甲状腺関連甲状腺髄様がんの既往歴・家族歴がある方、MEN2の方
アレルギー関連チルゼパチドや添加剤に対して重篤な過敏症の既往がある方

禁忌に該当するかどうかを事前に確認する方法

禁忌に該当するかどうかは、医療機関での問診や血液検査、既往歴の確認によって判断されます。とくに甲状腺に関しては、ご家族の病歴も確認されるため、事前にご家族に聞いておくとスムーズです。

過去に他のGLP-1受容体作動薬(セマグルチドやリラグルチドなど)を使用してアレルギー反応が出た経験がある方も、必ず医師に伝えてください。自己判断で「大丈夫だろう」と考えるのは危険かもしれません。

甲状腺髄様がんの既往歴・家族歴がある方にゼップバウンドは処方できない

ゼップバウンドの禁忌のなかで、とくに注意が必要なのが甲状腺髄様がん(MTC)に関連する条件です。ご本人にMTCの既往がある場合はもちろん、ご家族にMTCの方がいる場合も処方は行われません。

甲状腺髄様がん(MTC)とはどんな病気か

甲状腺髄様がんは、甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生するがんです。甲状腺がん全体のなかでは少数派ですが、遺伝的な要因で発症するケースがあります。

とくに多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)という遺伝性の疾患をお持ちの方は、MTCを発症するリスクが高いことが知られています。MEN2は複数の内分泌腺に腫瘍ができる症候群で、甲状腺髄様がんはその代表的な合併症の1つといえます。

動物実験で確認された甲状腺C細胞腫瘍のリスク

ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、ラットを用いた動物実験において、甲状腺C細胞腫瘍(腺腫やがん)の発生率を用量依存的・投与期間依存的に増加させました。この結果はヒトにそのまま当てはまるとは限りませんが、FDA(米国食品医薬品局)はこのデータに基づいて枠囲み警告(ボックスドウォーニング)を設けています。

ヒトとげっ歯類ではGLP-1受容体の発現量が異なるため、同じリスクがそのまま当てはまるかは現時点では不明です。ただし、万が一のリスクを避けるために、MTCやMEN2に該当する方への処方は禁じられています。

家族にMTCの患者がいる場合も対象になる

ご自身がMTCと診断されたことがなくても、血縁のご家族にMTCの方がいる場合はゼップバウンドの処方対象外となります。MTCには遺伝性のタイプがあり、RET遺伝子の変異が家族内で受け継がれている可能性があるためです。

ご家族の甲状腺の病歴を確認しておくことが、安全な治療選択につながります。甲状腺がんの種類がわからない場合は、医療機関で相談してみましょう。

確認事項禁忌に該当するか
本人にMTCの既往がある該当する(処方不可)
家族にMTCの方がいる該当する(処方不可)
MEN2と診断されている該当する(処方不可)
甲状腺乳頭がんの既往がある必ずしも該当しない(医師に相談)

ゼップバウンドの成分にアレルギーがある方は絶対に使用してはいけない

チルゼパチド(ゼップバウンドの有効成分)または添加剤に対して、過去に重篤な過敏症を起こしたことがある方は、ゼップバウンドを使用できません。アナフィラキシーや血管性浮腫などの重い反応は、命に関わるおそれがあります。

重篤な過敏症(アナフィラキシー・血管性浮腫)とは

アナフィラキシーとは、薬やアレルゲンに対して全身が急激にアレルギー反応を起こす状態です。血圧の急低下、呼吸困難、意識障害などが短時間で進行し、適切な処置を行わなければ生命に危険が及びます。

血管性浮腫は、皮膚の深い層や粘膜が突然腫れる症状です。まぶたや唇、のどが腫れた場合は気道が塞がるリスクがあり、緊急対応が求められます。GLP-1受容体作動薬のグループでは、これらの反応がまれに報告されているため、過去に経験した方は必ず医師に申告しましょう。

他のGLP-1受容体作動薬でアレルギーが出た方も要注意

セマグルチドやリラグルチドなど、他のGLP-1受容体作動薬でアナフィラキシーや血管性浮腫を経験した方は、ゼップバウンドでも同様の反応が出る可能性が否定できません。同じ受容体に作用する薬剤群であるため、交差反応のリスクが考えられます。

過去の経験ゼップバウンドの使用
チルゼパチドで重篤な過敏症があった使用禁止(禁忌)
他のGLP-1薬で重篤な反応があった慎重に判断(医師と相談)
軽度の注射部位反応のみ多くの場合は使用可能

注射部位の軽い反応と重篤な過敏症は別のもの

注射した箇所がわずかに赤くなったり、軽いかゆみが出たりする反応は、重篤な過敏症には該当しません。臨床試験では、チルゼパチド投与を受けた患者のうち約3〜6%に過敏症反応が報告されていますが、その多くは皮膚の発疹やかゆみなどの軽度のものでした。

ただし、軽い反応だと思って自己判断で継続した結果、症状が悪化するケースもゼロではありません。いつもと違う反応を感じたら、速やかに医療機関に連絡してください。

妊娠中・授乳中の方がゼップバウンドを避けるべき理由

ゼップバウンドは、妊娠中の方への使用が推奨されていません。動物実験で胎児への悪影響が確認されており、妊娠の可能性がある方には慎重な対応が求められます。

動物実験で確認された胎児への影響

ラットやウサギを用いた動物実験では、チルゼパチドの投与により外表・内臓・骨格の奇形の発生率が増加したと報告されています。とくにウサギでは、消化管への薬理学的な影響により、母体の死亡や流産も認められました。

これらの結果がヒトにどの程度当てはまるかは十分に検証されていませんが、添付文書では妊娠中の使用について「胎児に害を及ぼす可能性がある」と明記されています。妊娠を計画している方も、投与の中止時期について事前に医師と相談しておくと安心でしょう。

妊娠がわかったらすぐにゼップバウンドの使用を中止してください

ゼップバウンドを使用中に妊娠が判明した場合は、ただちに医師に連絡し、投与を中止する判断を仰いでください。体重管理を目的とした薬剤の使用は、妊娠中の方にとって利益よりもリスクが上回ると考えられています。

経口避妊薬の効果が下がる可能性がある

ゼップバウンドには胃の内容物の排出を遅くする作用があるため、経口避妊薬(ピル)の吸収に影響を与えるおそれがあります。添付文書では、ゼップバウンドの開始時および増量のたびに、4週間は経口以外の避妊方法を併用するよう推奨されています。

ピルだけで避妊をしている方は、この点を必ず医師に確認しましょう。バリア法(コンドームなど)の併用や、ピル以外の避妊法への切り替えが検討されます。

状況ゼップバウンドの対応
妊娠中使用しない(胎児への影響あり)
妊娠を計画中事前に医師と投与中止時期を相談
授乳中安全性のデータが不足(医師と相談)
経口避妊薬を使用中非経口避妊法の併用を検討

膵炎や胆のう疾患の既往がある方はゼップバウンドの使用に注意が必要

膵炎の既往がある方や胆のうに問題を抱えている方は、ゼップバウンドの使用にあたって注意が必要です。禁忌には該当しないものの、臨床試験で膵炎や胆のう関連の有害事象が報告されており、慎重投与の対象とされています。

急性膵炎の報告があるため膵炎既往のある方は使用が検討されていない

ゼップバウンドの臨床試験において、急性膵炎の発症が少数ですが報告されています。チルゼパチドは膵炎の既往がある患者を対象とした試験を実施しておらず、この集団での安全性データは存在しません。

そのため、過去に膵炎を経験した方がゼップバウンドの処方を希望される場合は、担当医が個別にリスクとベネフィットを評価したうえで、投与の可否を慎重に判断することになるでしょう。

胆石症・胆のう炎のリスクが高まる可能性

GLP-1受容体作動薬のグループでは、胆石症(たんせきしょう)や胆のう炎の発症率がわずかに高まる傾向が知られています。ゼップバウンドもGIPとGLP-1の二重受容体に作用する薬剤であり、同様のリスクが指摘されています。

疾患名リスクの程度
急性膵炎まれだが臨床試験で報告あり
胆石症GLP-1系薬剤で発症リスク上昇の報告あり
胆のう炎急激な体重減少に伴い発生しやすくなる

腹痛や吐き気が続く場合はすぐに受診してください

膵炎や胆のう疾患の初期症状は、ゼップバウンドの一般的な副作用(吐き気・嘔吐)と見分けがつきにくいことがあります。しかし、激しいみぞおちの痛みが背中まで広がる場合や、痛みが数時間以上続く場合は、膵炎や胆のう疾患のサインかもしれません。

自己判断で「副作用だろう」と放置せず、こうした症状が出たときは早めに受診してください。早期発見・早期対応が、重症化を防ぐうえで大切です。

他のGLP-1受容体作動薬との併用はなぜ禁止されているのか

ゼップバウンドは、他のGLP-1受容体作動薬やチルゼパチドを含む製品との併用が推奨されていません。作用が重複することで、低血糖や重度の消化器症状を引き起こすリスクが高まるためです。

GLP-1受容体作動薬が重複すると副作用が強まる

ゼップバウンドはGIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用するデュアルアゴニスト(二重作動薬)です。ここに別のGLP-1受容体作動薬を加えると、GLP-1受容体への刺激が過剰になり、吐き気・嘔吐・下痢といった消化器系の副作用が増強するおそれがあります。

とくに用量調整期(投与開始から数週間)は消化器症状が出やすい時期であり、このタイミングで複数の薬剤を併用すると、脱水や電解質異常を招きかねません。

インスリンやSU薬を併用している方は低血糖に気をつけましょう

ゼップバウンドは血糖値を下げる作用があるため、インスリンやスルホニルウレア(SU)薬と併用すると低血糖のリスクが上がります。臨床試験では、SU薬を併用していた患者群で低血糖の発生率が約10%に達し、併用していない群の約2%と比べて明らかに高い数値でした。

インスリンを使用中の方がゼップバウンドを開始する場合は、医師がインスリンの減量を検討したうえで処方を行います。自己判断でインスリンの量を変えることは絶対に避けてください。

他の減量目的の薬との併用も安全性が確認されていない

処方薬に限らず、市販のダイエットサプリメントやハーブ製剤との併用についても、安全性と有効性は確認されていません。「自然由来だから安全」と考えがちですが、胃腸への負担が重なることで予期せぬ症状が出る可能性があります。

現在使用中のサプリメントや健康食品がある場合は、些細なものであっても医師や薬剤師にお伝えください。

  • セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)など他のGLP-1受容体作動薬との併用は不可
  • チルゼパチドを含む他の製品(マンジャロなど)との重複使用は不可
  • インスリンやSU薬との併用時は低血糖への監視が必要
  • 市販のダイエット関連製品との併用も医師に相談が必要

ゼップバウンドを安全に使うために医師に伝えるべき持病と体質

禁忌に該当しない場合でも、特定の持病や体質を持つ方はゼップバウンドの使用にあたって医師と十分に相談する必要があります。事前に正確な情報を医師に伝えることが、安全な治療への近道です。

腎臓の機能が低下している方は脱水に注意が必要

ゼップバウンドによる消化器症状(嘔吐や下痢)が続くと、体内の水分が失われ、腎機能に影響を及ぼすことがあります。GLP-1受容体作動薬のグループでは、脱水を契機とした急性腎障害の報告があり、もともと腎機能が低下している方は注意が求められます。

持病・体質注意すべきポイント
腎機能低下脱水による急性腎障害のリスクあり
糖尿病性網膜症血糖値の急激な変動に注意
重度の消化器疾患胃排出遅延の悪化のおそれ
全身麻酔を予定胃内容物の残留リスクを術前に報告

糖尿病性網膜症がある方は急激な血糖改善に注意してください

糖尿病性網膜症(目の奥の血管にダメージが及ぶ合併症)がある方は、血糖値が急速に改善されると、一時的に網膜症が悪化する可能性が指摘されています。ゼップバウンドは血糖値を大きく下げる力を持つため、網膜症をお持ちの方は眼科との連携が大切でしょう。

手術を予定している方はゼップバウンドの使用を医師に伝えてください

ゼップバウンドには胃の内容物の排出を遅らせる作用があるため、全身麻酔をかける手術の前に、胃の中に食物が残っているリスクが通常よりも高くなる可能性があります。手術中に胃の内容物が気道に入る「誤嚥(ごえん)」は、重篤な肺炎を引き起こしかねません。

手術を控えている場合は、麻酔科医や外科医にゼップバウンドを使用していることを必ず伝えましょう。絶食時間の調整や、投与の一時中断が検討されます。

高齢の方は副作用が出やすい傾向がある

65歳以上の方でも用量の調整は原則不要とされていますが、高齢者は若い世代と比べて消化器症状が出やすい傾向があります。脱水も起こしやすいため、こまめな水分補給を心がけてください。

体調の変化に気づきにくい場合もありますので、ご家族やまわりの方にもゼップバウンドを使用していることを伝えておくと安心です。

よくある質問

ゼップバウンドは1型糖尿病の方にも処方されますか?

ゼップバウンドは1型糖尿病の治療薬としては承認されていません。1型糖尿病は膵臓からインスリンがほとんど分泌されない病態であり、ゼップバウンドの作用機序とは適合しないためです。

1型糖尿病の方が体重管理を希望される場合は、主治医と別の治療選択肢について相談されることをおすすめします。自己判断でゼップバウンドを使用することは避けてください。

ゼップバウンドの副作用で吐き気がひどい場合、禁忌に該当しますか?

吐き気の症状自体は禁忌には該当しません。吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状は、ゼップバウンドの代表的な副作用であり、多くの場合は投与開始から数週間で軽減していきます。

ただし、症状がひどく日常生活に支障をきたす場合や、脱水を起こしている場合は、用量の調整や一時的な中断が必要になることもあります。我慢し続けず、つらいと感じたら担当医にご相談ください。

ゼップバウンドを使用中に妊娠が判明した場合はどうすればよいですか?

ゼップバウンドを使用中に妊娠がわかった場合は、できるだけ早く担当医に連絡し、投与の中止について指示を受けてください。動物実験において、チルゼパチドの投与が胎児に悪影響を及ぼす可能性が示されています。

妊娠中の体重管理を目的とした薬物治療は推奨されておらず、胎児の安全を守ることが優先されます。妊娠を計画している方は、治療開始前に医師と投与中止のタイミングについて話し合っておくと安心です。

ゼップバウンドは甲状腺乳頭がんの既往がある方にも禁忌ですか?

ゼップバウンドの禁忌として明記されているのは、甲状腺髄様がん(MTC)の既往歴・家族歴がある方、およびMEN2の方です。甲状腺乳頭がん(甲状腺がんのなかで最も多いタイプ)は、添付文書上の禁忌には直接含まれていません。

ただし、甲状腺にがんの既往がある方は、治療歴やがんの種類を医師に正確に伝えたうえで、投与の可否を個別に判断してもらう必要があります。ご自身の甲状腺がんのタイプがわからない場合は、まず主治医に確認されることをおすすめします。

ゼップバウンドは小児や18歳未満の方にも処方できますか?

現時点では、18歳未満の方に対するゼップバウンドの安全性と有効性は確立されていません。臨床試験の対象は成人であり、小児・思春期の方を対象としたデータが不足しているためです。

肥満に悩む若い世代の方やその保護者の方が情報を集めていらっしゃることは十分に理解できます。しかし、未成年の方への処方は行われていないのが現状ですので、かかりつけの小児科医や内分泌専門医にご相談ください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

大木 沙織 大木皮ふ科クリニック 副院長

皮膚科医/内科専門医/公認心理師 略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て当院副院長へ就任。 所属:日本内科学会